◎ Ernst Leitz GmbH Wetzlar (ライカ) Summaron 3.5cm/f3.5《前期型》(L39)
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今回の掲載はオーバーホール/修理ご依頼分のオールドレンズに関する、ご依頼者様へのご案内ですのでヤフオク! に出品している商品ではありません。写真付の解説のほうが分かり易いこともありますが、今回に関しては当方での扱いが初めてのモデルでしたので、当方の記録としての意味合いもあり無料で掲載しています (オーバーホール/修理の全工程の写真掲載/解説は有料です)。オールドレンズの製造番号部分は画像編集ソフトで加工し消しています。
LEICA/LEITZ製オールドレンズに関しては「お問い合わせフォーム」告知のとおり基本的に取り扱いを見合わせていますが「オーバーホール/修理承りの注意事項」をご納得頂ける場合のみお受けすることがあります・・今回は当方に対して一切を免責頂けるとの条件でオーバーホール/修理をお受けしました。その意味では隠れ整備をしている状況です(笑)
1949年に発売された『Summaron 3.5cm/f3.5』は1959年まで生産が続けられ8万台出荷されたロングセラーモデルだったようです。1956年からは「後期型」が発売されますが今回オーバーホール/修理を承った個体は1953年に生産された「前期型」モデルになります。光学系は典型的な4群6枚の対象型ダブルガウスになりますが焦点距離35mmの準広角域として捉えると少々ムリをした光学系構成でしょうか・・バラしてみると絞りユニット内の絞り羽根は開放「f3.5」の位置からさらに1段〜1.5段分は開くことが可能な面積を採っていますし、第1群〜第4群に至るまでの硝子レンズ径も、それに見合うサイズで設計されています。最短撮影距離を1mに採ってきたことに拠る広角域ギリギリでの設計として完璧な対象型のダブルガウス型で何とか収めたような印象を受けます。
描写性にもそれが現れているように見えますが、このモデルの特筆的な描写性能はモノクロ撮影で最大限に発揮されるようにも感じます・・モノクロに於ける階調幅と暗部の粘り強さは相当ではないでしょうか。
オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。
↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。シンプルな構造なのでパーツ点数も少なめです。
↑当初バラす前のチェックでは絞り環操作が相当に重めな印象でした・・バラしてみると真鍮製の鏡筒はスッカリ経年劣化が進行して酸化が進んでおり「焦茶色」になっていました。上の写真は絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒ですが当方による「磨き研磨」を終わらせた状態で撮っています (一部に焦茶色の部分が残っているので研磨部分との違いが分かると思います)。
↑肉厚のあるシッカリした造りの絞り羽根10枚を組み付けて絞りユニットを完成させます。絞り羽根は両サイドからネジ込まれたキー (突起ネジ) によって制御される構造なのですが、鏡筒の回りに環 (リング/輪っか) が被さっており、バラした直後は経年の腐食からグリースが塗られていました。そのグリースの経年劣化に拠り粘りが発生して絞り環操作を重くしていたようです。「磨き研磨」によって腐食が除去できたので組み立て工程では一切グリースを塗布することなく組み上げていきます (グリースを塗らずとも何ら抵抗無くスルスルと駆動してくれます)。
↑このモデルは鏡胴が「前部」と「後部」の二分割になっている構造なのですが、一般的な筐体外装 (絞り環やフィルター枠など) を伴う「前部」ではなく鏡筒だけで完結してしまっている少々変わった設計です。従って、上の写真は光学系前後群を組み付けて鏡胴「前部」が完成した状態で撮影しています。
↑ここからは鏡胴「後部」の組み立てに入ります。ツマミを附随する距離環がヘリコイド (オス側) に固定されている状態です。
↑ヘリコイド (オス側)をヘリコイド (メス側) が一体になっているマウント部に無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルは全部で2箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。上の写真はさらに工程を進めて鋼球ボール (2個) を組み付けてから絞り環をセットした状態で撮影していますが、この時点では、まだ鏡胴「前部」・・つまり鏡筒はセットされていません。
↑ここで鏡胴「前部」である鏡筒をヘリコイド (オス側) の中に差し込んでマウント部側から固定環で締め付け固定します。この時、絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) の調整をしつつ鏡胴「前部 (鏡筒)」を組み込みます。上の写真で絞り環にネジが刺さっていますが (両サイドに1本ずつ計2本をネジ込む)、このネジが鏡筒の回りに配置されている絞り羽根の開閉を制御している「絞り羽根開閉幅制御環」に刺さります。つまり「絞り羽根開閉幅制御環」も両サイドにネジが2本刺さりますから全部で4本のネジを使って絞り環による絞り羽根の開閉をコントロールしていることになります・・だいぶ凝った設計ですが、鏡筒に絞り環やフィルター枠などを組み付けない設計にしてしまったので、このような面倒な構造になってしまったようです。
つまり、この後にフィルター枠 (レンズ銘板を兼ねる) をネジ込んで完成になるのですが、そのフィルター枠さえも絞り環の内側にネジ込まれるので、結果的に筐体外装がフィルター枠からマウント部に至るまで一式組み上がっている状態に鏡筒 (鏡胴前部) がストンと中に入るようなイメージです・・まるでガンダムのモビルスーツ (筐体外装一式) に心臓部である鏡筒 (鏡胴前部) が入っているような感じでオモシロイ設計です。歳がバレますね・・(笑)
ここからはオーバーホールが完了したオールドレンズの写真になります。
↑上の写真は絞り環を開放位置にセットして撮影していますが光学系の外径が小さい分絞り羽根は2段分程閉じた状態で開放F値「f3.5」になっていますから、標準レンズとして「50mm/f3.5」にもなってしまうような錯覚さえ感じます(笑)
↑真正面から撮影できていないので左上部に絞り羽根が微かに写っていますが、絞り羽根は中玉 (第2群〜第3群) の外径ギリギリの処まで閉じた状態が開放F値「f3.5」なので、つまりは絞り羽根が完全に開ききっていない状態の設計です。光学系内の透明度は高い部類ですが第2群の貼り合わせレンズ (2枚の光学硝子レンズを接着剤を使って貼り合わせてひとつにしたレンズ群) にはコーティング層の経年劣化が進行しておりLED光照射では極薄いクモリが生じています (ほとんど視認できません)。第2群の貼り合わせレンズだけを取り出してLED光照射すると微かに視認できるレベルなので「透明です」と言っても気がつかないと思います・・写真には影響しません。前玉外周附近に除去できない点汚れ (おそらく気泡の出来損ない) 1点がありますが第2群と第3群にはそれぞれ極微細な「気泡」が1点ずつあります (上の写真に写っています)・・写真には一切影響しません。
↑上の写真で後玉の周囲にネジ4本で締め付けられている黒色の環 (リング/輪っか) がありますが、これが「直進キー」と言って距離環を回す「回転するチカラ」を鏡筒が前後動する「直進するチカラ」に変換する役目のパーツになります。こんな一番最後の距離計連動ヘリコイドの場所に刺さっている直進キーの構造は今までに見たことがありません・・ここでハマってしまい距離計連動ヘリコイドの調整と距離環を回す際のトルク感調整に5時間近くかかってしまいました。
↑10枚の絞り羽根には当初バラした直後は相当な赤サビが生じていたのでキレイに除去しています。
ここからは鏡胴の写真になります。筐体外装は大部分が「梨地仕上げ」になっていますから当方による「光沢研磨」を施したので落ち着いた美しい仕上がりになっています。
↑当初バラす前のチェックではご依頼者様からご指摘があった「距離環を回すトルクが軽すぎる」のを確認しました。今回の個体は過去にメンテナンスが施されていましたが、おそらくそれとは別に「潤滑油」を注入されていたように感じます・・少々液化した状態の古いグリース (白色系グリース) が塗られていたので潤滑油だと思います。それが影響して軽すぎるトルク感に陥っていたようなのですが、今回のオーバーホールでは新しいヘリコイド・グリースは「粘性:重め」を塗布しましたが、そもそもヘリコイドのネジ山の距離が大変短いのでたいして重くできていません。
また、前述のように距離計連動ヘリコイドと直進キーの調整 (つまり距離環を回す際のトルクムラの改善) に5時間近くかかってしまったので、申し訳御座いませんがこれ以上重くすることができませんでした。これ以上重くするとスリップ現象が発生してしまいピント合わせが非常にし辛くなってしまいます。
↑距離環を回す際のトルク感は、当初のスルスルの状態からは「僅かに重くなったかな?」程度の違いにしかなっていません・・申し訳御座いません。距離環を回していると (再現性がありませんが) 極僅かな抵抗 (つまりトルクムラ) が発生することがありますが回しているウチに改善してしまいます。おそらくライカの純正グリースを塗布すれば問題は解消されると思いますが、当方で用意しているヘリコイド・グリースでは限界です。スミマセン。
筐体外装 (特に距離環) を清掃していて指標値が褪色してしまったので当方にて着色しています。上の写真を撮った時に、まだ褪色している箇所があるのを見つけたので再度着色しました・・現状キレイに指標値が黒色でクッキリと褪色無く表示されています。
↑当レンズによる最短撮影距離1m附近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。遠景ではないのでボケがほとんど無くなっています。
↑最小絞り値「f22」での撮影です。今回のオーバーホール/修理ご依頼、誠にありがとう御座いました。