◎ MINOLTA (ミノルタ) MC ROKKOR-PG 58mm/f1.2 《後期型》(MD)
MINOLTAのオールドレンズを整備し始めたら、いずれ近いうちに「鷹の目」をやらなければと考えていました・・銘玉との評価がネット上でも圧倒的に多い「MC ROKKOR-PG 58mm/f1.2」です。最短撮影距離45cmの「KONICA HEXANON AR 57mm/f1.2」をマイベストと選ぶ方も居れば、開放時からのその情報量の多さ緻密さで「MINOLTA MC ROKKOR-PG 58mm/f1.2」を選ぶ方も居ます。しかしどちらのモデルにも共通して言えるのは「繊細感」でしょうか・・MINOLTAのほうが「ACコーティング (アクロマチックコーティング:2層)」の分、画の印象としては最も「優しさ」を感じる画造りです。緻密で情報量の多いピント面でありながらもマイルドな仕上がりに落ち着くところが相反する矛盾した結果で興味深いです。そもそもこの「ACコーティング」はライカレンズでも使われている考え方 (モノコーティングによる) なので、納得できる気もします。「緑のロッコール」なかなか素晴らしい描写性です。
今回初めてオーバーホールした「MC ROKKOR-PG 58mm/f1.2」は、残念ながら光学系第1群 (前玉) 裏面の「ACコーティング」がやはり経年劣化により弱くなっており、浮き始めています。一部にはカビの発生も見受けられ微細な点キズや少々目立つ点キズ、螺旋状のキズなども複数見受けられます (写真はこのページの下の方にまとめています)。「ACコーティング」の蒸着が弱いので清掃を施すと容易に剥がれてしまい、ヘアラインキズ状にキズが付いてしまいます。仕方なく、今回は前玉裏面のみ清掃を施さずにそのまま組み付けていますのでご留意下さいませ。
そもそもMINOLTAのオールドレンズでは、そろそろ経年劣化でこの「ACコーティング」が限界値に達している個体が多くなってきており、このコーティング面の清掃が当方にとっての最大の課題になっています。コーティング層にカビが発生している個体が非常に多く、ネット上では「カビキラー」を使うなど解説も多いのですが、そもそもコーティング面を「拭く」ことができません。シルボン紙を使ってもキズが付きます・・。光学系内の他の群はすべて清掃が可能なコーティングなのでカビの除去も含めて問題ないのですが、この「ACコーティング」だけがどうにもなりません。
何方か対処方法をご存知の方がいらっしゃいましたら、是非ご教授下さいませ・・。
オーバーホールのために解体した後、組み立てていく工程の写真を解説を交えて掲載しています。
すべて解体したパーツの全景写真です。
ここからは解体したパーツを実際に使って組み上げていく組立工程の写真になります。
構成パーツの中で「駆動系」や「連動系」のパーツ、或いはそれらのパーツが直接接する部分は、すでに当方にて「磨き研磨」を施しています (上の写真の一部構成パーツが光り輝いているのは「磨き研磨」を施したからです)。「磨き研磨」を施すことにより必用無い「グリスの塗布」を排除でき、同時に将来的な揮発油分による各処への「油染み」を防ぐことにもなります。また各部の連係は最低限の負荷で確実に駆動させることが実現でき、今後も含めて経年使用に於ける「摩耗」の進行も抑制できますね・・。
まずは絞りユニットや光学系前群を収納する鏡筒です。このモデルではヘリコイド (オス側) は独立しており、別に存在しています。
光学系前群が大玉なので大柄な鏡筒です。第2群に貼り合わせレンズが位置しているので、深さも相応にありますね。例によって絞り羽根を目隠しするメクラ蓋を固定している「固定環」は鏡筒の外側からイモネジ (頭の無いネジ部にマイナスの切り込みがあるネジ種) 3本で締め付けますが、これをキッチリ締め付けてしまうと絞り羽根が一切動かなくなる仕組みです。どうしてそのようにしているのかは、判りません・・。
上の写真で外周附近の「銀色の環」がメクラ蓋固定環なのですが、緩すぎても絞り羽根がバラけてしまいます。ビミョーな締め付け具合が必要です。
絞りユニットを組み付けた鏡筒をひっくり返すとこのようになっています。写真手前の「円筒状のピン (金属製の棒)」がながらかなカーブに沿って右側に進むと「絞り羽根」が開き、ピークのカーブの処で「開放」になります。もちろん「開放」になるように調整をしているからなのですが・・(笑)
ヘリコイド (メス側) をネジ込むためのベース環です。ミノルタのオールドレンズでは他社光学メーカーと異なり、容易に各部位にアクセスできるようメンテナンス性を考慮した構造化が成されており、本来は「基台」にいきなりヘリコイド (メス側) をネジ込んでしまう光学メーカーが多い中、拘りを以てワザワザ部品点数を多くしてでもこのようにメンテナンス性を向上させています。ヘリコイドから鏡筒までを単に「基台」にネジ止めするだけで良いので、どちらの部位にアクセスするかで手間がかかりません。
真鍮製のように見えますが (実際当方も真鍮材だとばかり思い込んでいました) 実際は「真鍮 (黄銅) 製 (ガンメタル)」のようです。このヘリコイド (メス側) を磨き研磨すると、真鍮材のように簡単にはキレイに磨けません。かと言って真鍮 (黄銅) 製ほどの手数もかかりません・・恐らく「鉛」を含有させて真鍮材の性格を持たせているのだと考えます・・ここも拘りが伺えます。何しろ摩耗度が激しい箇所ですから。
無限遠位置のアタリを付けた位置までネジ込みます。このモデルには「無限遠位置調整機能」が装備されているので大凡のアタリで構いません。
ヘリコイド (オス側) を無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルでは12箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると調整幅を超えてしまい最後にバラしての再組み直しに陥ります。
ようやく基台をセットしました。単にベース環にネジ止めするだけです。たった3ステップでベース環を外せるメンテナンス性の良さです。マウント部のネジを外して絞り環を外し、この基台のネジ (隠しネジ) を外せば、ヘリコイドがゴロッと外せます。理に適った構造化でミノルタのオールドレンズが一番好きなパーツ構成ですね・・。
鏡筒をセットしました。鏡筒もたった4本のネジで固定されているだけなので、位置調整の必要もなく非常に楽です。
ひっくり返して「絞り環」を組み付けます。先に鏡筒をセットしたのはここで絞り環を組み付ける必要があるからですね・・。「構造化」と「手順」は密接な関係にあるので、それぞれの構成パーツの「役目」が理解できていないと、このようなスマートな流れには進みません。
このモデルでは光学系後群が仕様上のギリギリまで最大径のサイズで設計されているので (凄い拘りです)、マウント部をセットしてからでは組み込めませんから、ここで先に光学系を組み付けてしまいます。上の写真で光学系後群のレンズ筒が下部から順番に後玉方向に外径が少しずつ小さくなっています。これが「ギリギリの設計」で最大限に入射光を掻き集めて制御している「証」です。他社光学メーカーでは、ワリと光学系後群のレンズ筒は「ストン」と真っ直ぐな仕様が主流です。
絞り環の固定環と共にマウント部を同時に組み付けます。「絞り連動ピン」のバネが絞り環の固定環に固定されているので、両方を同時に組み付けなければダメなのです。マウント面の「固定ネジ」は全部で8本ありますが、内容は「ネジ長4本」と「ネジ短4本」です。この長いほうのネジが基台のほうまで伸びており確実にマウント部を保持しています。短いほうは絞り環の固定環を止めていますね。それで2種類の長さのネジを使っています。
光学系前群も組み上げてセットしました。光学系は5群7枚の拡張ダブルガウス型でUltron型にあたりますが、第2群と第3群に大型の「貼り合わせレンズ」が位置しています。この個体では、その貼り合わせレンズが「非常にクリア」でした・・素晴らしいです。バルサム切れ (貼り合わせレンズの接着剤/バルサムが経年劣化で剥離し始めて白濁化し薄いクモリ、或いは反射が生じている状態) も一切進んでおらず、僅かな表層面のカビ除去痕が極微細に点キズとして残っているだけの状態です。光学系内は非常に状態の良い個体ですね・・。
距離環を仮止めして無限遠位置確認、光軸確認、絞り羽根開閉幅の確認を行えば完成間近です。
さて、ここからは問題の光学系の状態写真を何枚か続けて掲載していきます。まずは光学系前群です。オーバーホール中の写真撮影を忘れてしまったので、組み上げが完成した完成品 (出品商品) で撮影しています。
この位置からの撮影では極微細な点キズが複数写っているだけですし、ほぼ順光目視でもこのようにしか視認できません。この前玉が第1群にあたるワケですが、その「裏面」にミノルタが当時世界で初めてモノコーティングから複層コーティングに移行した「アクロマチックコーティング (AC):2層」を蒸着しています。その他の、例えば前玉の表側は通常のモノコーティングですし、他の群も同様なので清掃は通常の清掃作業のままで何も問題が起きません。
前玉にはカビ除去痕としての極微細な点キズと極微細な非常に薄いヘアラインキズが数本あるだけですが、裏面のACコーティング層に残念ながらカビが発生しており、且つコーティングの蒸着が元々弱いところに経年劣化で浮きが生じているため、このような状況に陥っています。
前玉裏面のACコーティング層のカビによる微細な点キズです。少々目立つ点キズの周辺に夜空の如く極微細な点状のキズや汚れが舞っています・・。コーティング層に生じたカビの影響と経年劣化によるコーティングそのモノの浮きです。
こちらも前玉裏面のACコーティング層に生じているカビです。コーティングスポット状になっています (外周寄りの数点)。コーティング層に生じているので点キズ状の周囲が「滲んだよう」に見えています。
上の写真3枚のうち、2枚は極微細な薄いヘアラインキズを最大倍率の拡大撮影で撮りました。目視では発見しにくいと思います。3枚目は埃のように見えますが、前玉裏面のACコーティング層にあるカビのキズです。ブロアーしても微動だにしませんでした。
光学系の状況:順光目視にて様々な角度から確認。カビ除去痕としての極微細な点キズ:前群内複数目立つ点キズ8点、後群内:複数、目立つキズ7点。コーティング経年劣化:前後群あり、カビ除去痕:複数、カビ:前玉裏面数点あり。その他:順光目視で前玉、後群内に極微細な薄いヘアラインキズ数本あり。カビ除去痕としてのコーティングスポットも数点あります。光学系内はLED光照射でようやく視認可能レベルの極微細な拭きキズや汚れもありますが、いずれもすべて写真への影響はありませんでした。
次は光学系後群です。
極微細な点キズやコーティングムラのように見えるカビ除去痕、或いは極微細な薄いヘアラインキズもあります。
次の写真は光学系内がどれだけ「クリア」なのかを撮影しました。非常に状態の良い個体です・・。
左右から光学系内の写真を撮りましたが、ピントは「後玉の固定環の縁」に合わせています。その箇所にピントを合わせていてこれだけの「透明度」ですから、相当にクリアなのがお分かり頂けると思います。貼り合わせレンズを2つも内包していながら、経年劣化が進んでいません。前玉裏面のACコーティングだけが誠に悔やまれますね・・。
ここまでの写真の中でキズの状態などを写した写真は、すべてその状態を分かり易くするためにワザと光に反射させて誇張的に撮影しています。実際に順光目視でご覧頂くともう少し大人しめに見えるハズです・・。
そして内部がこれだけクリアですから、最終的に写真撮影には影響が無いと判断し実際に問題はありませんでした。前玉裏面の状態の影響は、光源が含まれていたり逆光撮影時のシーンでも、せいぜいハロが多少多く付く程度ですので特に問題はない範疇と判断しています。
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ここからは組み上げが完成した出品商品の写真になります。銘玉「鷹の目」の異名を持つ「MC ROKKOR-PG 58mm/f1.2 (後期型)」・・可能な限り「ミノルタらしい優しさ」を残したかったので「緑のロッコール=アクロマチックコーティング」をいじりませんでした。それを「善し」とされる方に是非ともご愛用頂きたく、渾身の整備を施しました。
絞り羽根もキレイになり確実に駆動しています。絞り羽根の枚数は8枚ですが、元々光学系の設計上経口食があるので玉ボケは楕円状に歪みます。
ここからは鏡胴の写真になります。経年の使用感はそれ程感じませんでしたが、極僅かに距離環ローレットや絞り環、鏡胴などの「縁」の塗装が剥げています。その部分を当方にて着色しています。
距離環や絞り環の操作は大変滑らかになりました。距離環のトルク感は滑らかに感じ完璧に均一です。ピント合わせの際は極軽いチカラで微妙な操作ができるので操作性は非常に高いです。距離環や絞り環、鏡胴には経年使用に伴う擦れやキズ、剥がれ、凹みなどありますが、経年のワリにオールドレンズとしては「超美品」の当方判定になっています (一部当方で着色箇所あります)。清掃時に指標値が褪色したため着色しています。
久しぶりに、完璧な距離環 (ヘリコイド) のトルク感をキープしました。非常に滑らかなトルク感なのでピント合わせが嬉しいくらいです(笑) 真鍮 (黄銅) 製 (ガンメタル) のヘリコイド (メス側) の結果が・・こんな部分に出てきているんですね。
渾身のオーバーホールを施した逸品に仕上がりました。お探しの方、是非ご検討下さいませ!
当レンズによる最短撮影距離60cm附近での開放実写です。ミノルタの優しい感じが、やはり現れていますね・・素晴らしい。