◎ Canon (キャノン) SERENAR 50mm/f1.9 《沈胴》(L / M39)
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今回の掲載はオーバーホール/修理ご依頼分のオールドレンズに関する、ご依頼者様へのご案内ですので、ヤフオク! に出品している商品ではありません。写真付の解説のほうが分かり易いこともありますが、今回に関しては当方での扱いが初めてのモデルでしたので、当方の記録としての意味合いもあり掲載しています (オーバーホール/修理の全工程の写真掲載/解説は有料です)。
1949年に発売されたライカのスクリューマント (L) 沈胴式標準レンズです。いわゆるライカレンズの「Leitz Summitar 5cm/f2 (L)」コピーモデルになりますが、操作方法 (沈胴式含む) は同じでも、内部の構造化や構成パーツはもちろんキヤノン独自であり異なります。
今回のご依頼では、特に「絞り環の操作が重い/硬い」と言う症状の改善をご希望でした。また、無限遠位置は現状でピタリと一致しているので動かさないようにとのご指示です。
今回のモデルは初めての扱いでしたが、コピーモデルの沈胴式は当方でも幾つかの光学メーカー品を扱っていますので、構造検討はそれほど難しくもなくスムーズにオーバーホールが進みました。
しかし、改善項目の「絞り環」の操作性や、無限遠位置のご指示などを行っていくと、なかなかすんなりとは仕上がりませんでした。以下オーバーホールを進めて参ります。
まずは「絞り環の操作が重い/硬い」と言う症状ですが、確かに当初バラす前の時点で確認すると重くて実用面では操作し辛い状態でした。
原因のひとつは上の写真の部分です。このモデルは鏡胴が「前部」と「後部」の二分割になりますが、上の写真は鏡胴「前部」の鏡筒部分をバラして清掃した直後の撮影になります。
真鍮製の鏡筒の「絞り環」部分には、上の写真右側に立てかけている「絞り環用ベース環」が周囲に填ります。表層面は経年劣化で「メッキ部分の腐食」が進行していました。結果、表層面の摩擦が増大しスムーズに回転しにくい状態に陥っています。しかし、根本的な問題点は別の原因でした。後ほど解説していきます。
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オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。
すべて解体したパーツの全景写真です。
ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。
構成パーツの中で「駆動系」や「連動系」のパーツ、或いはそれらのパーツが直接接する部分は、すでに当方にて「磨き研磨」を施しています (上の写真の一部構成パーツが光り輝いているのは「磨き研磨」を施したからです)。「磨き研磨」を施すことにより必用無い「グリースの塗布」を排除でき、同時に将来的な揮発油分による各処への「油染み」を防ぐことにもなります。また各部の連係は最低限の負荷で確実に駆動させることが実現でき、今後も含めて経年使用に於ける「摩耗」の進行も抑制できますね・・。
絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒です。当初バラして清掃した直後に腐食していた部分も含め、すべて当方による「磨き研磨」が終わっています。冒頭の写真と比較して真鍮材の「輝き」が違うのがお分かり頂けるでしょうか・・。
まずは「磨き研磨」によって表層面の「平滑性」が担保され、余計な摩擦による負荷が架かることを抑えグリースに頼った整備を排除できます。
さて、まずは問題の「絞り環の操作性が重い/硬い」と言う現象の根本原因です。鏡筒の絞り環の位置 (内部) に、前述の「絞り環用ベース環」が既に填っており、その上から「絞り環」を被せてネジで締め付け固定します。その「ベース環」のネジ穴と絞り環のネジ穴の位置が僅かにズレているのです。
このような感じで「ブルーの矢印」の方向で「絞り環用の固定ネジ」が「貫通して」刺さります・・絞りユニット内の「絞り羽根制御環」「ベース環」「絞り環」の3つを束ねて固定するのが「固定ネジ」の役目になりますから、ベース環のネジ穴の位置がズレていることに拠って「負荷が増大して重く/硬くなっている」ワケです。
仮にズレているネジ穴の「穴の大きさ」を削って大きくしてしまったら、今度は「ガタつき」が発生してしまいます。従って、やるべき処置はひとつ「磨き研磨」するしか手がありません・・「鏡筒の内壁」「絞り羽根制御環」「ベース環」「絞り環」の4つの部位を、ただひたすらに磨き込みました(笑)
15枚もある絞り羽根を組み付けて絞りユニットを完成させた状態の写真です。既に絞り環の固定ネジ (両サイドに1本ずつ合計2本) が締め付け固定されています。構造上「貫通させる」固定方法のため、どうしても負荷が架かってしまいますが、可能な限り「軽く」仕上げました。なかなかのストレッチになりました(笑)
上の写真のネジが、絞り環用の固定ネジです (反対側にもう1本あります)。上の写真では、既に光学系前後群を組み付けてありますので、これで鏡胴「前部」は完成したことになります。
次は鏡胴「後部」の組み立てに入ります。上の写真のように、距離環の内側には「黒色の不織布」が内周に貼り付けられており「沈胴筒」をスライドさせる際に滑らかに引っ掛かりのない状態でスライドさせる目的になります。
実は、この「黒色の不織布」を剥がさなければ距離環をバラすことができないのです。これはオリジナルのライカレンズや、他の光学メーカーのやはりコピーモデル「沈胴式タイプ」でも同様です。
しかし、一度剥がしてしまうと次に貼り付けた時は不織布の繊維が膨らんでしまい、沈胴筒を入れ込むことができなくなってしまいます。従って、今回は距離環を解体することはできませんでした。オリジナルの滑らかなスライド操作を優先させます。
さらに問題になったのが、実はご依頼者様からの「無限遠位置をズラさないこと」と言うご指示です。解体できないまま距離環の位置調整を行うのはムリなので、他の方法で無限遠位置をキープしなければなりません・・なかなかのハードな問題です。
マウント部 (ライカのLマウントのスクリューネジ部分) をネジ込み、無限遠位置の確定を行います。バラしての調整ができないので、当初の位置のままマウント部をネジ込むしか手がありません。
当初のネジ込み位置ならば、無限遠の位置ズレは生じない (従来の無限遠位置のまま変わらない)・・と考えるのは間違いで、鏡胴「前部」をいじってしまいましたから、調整が必要になってしまうハズです。
「不織布」のところに沈胴筒を入れ込んで固定しました。この後は鏡胴「前部」をセットすれば完成間近です。
ここからはオーバーホールが完了したオールドレンズの写真になります。
すんなりと仕上がったように見えますが、実は前述の「無限遠位置の調整」が大変でした(笑) やはり距離環をバラせなかったのが影響し、当初の無限遠位置よりもオーバーインフになってしまったのです (距離環指標値で1目盛り分オーバーインフ)。
結果、どのような調整を施したかと言えば、オーバーインフを解消させる手立てしかありませんから、鏡胴「前部」の光学系の位置をズラして調整しています。なかなか整備のし甲斐がある内容でした(笑) ご指示通り、当初の無限遠位置をキープしたままで仕上がっています。
光学系内の透明度がとても高い状態を維持した個体です。光学硝子レンズには「気泡」が数点見受けられます。経年のヘアラインキズや拭きキズなども相応に残っていますが、清掃しても除去できなかった点キズの類はそのままあります。
光学系内は、一部に「コバ落ち」などが見受けられましたが、可能な限り「内面反射防止」を施してあります。
絞り羽根には、経年の「赤サビ」が生じていましたが、キレイに除去しています。また、当初の「重い/硬い操作性」は、可能な限り「軽く」改善させています。
ここからは鏡胴の写真になります。
使用したヘリコイド・グリースは、ご指示により「粘性:中程度」を塗布しています。鏡胴のクロームメッキ部分は一部に薄いヘアラインキズなどがありましたので、こちらも可能な限り「光沢研磨」を施しキレイにしています (元々キレイですが)。
今回のオーバーホールで清掃した際に、鏡胴や距離環、絞り環、レンズ銘板などの凡そ「指標値」の部分はすべて褪色してしまいましたので、当方にて「指標値のみ着色」しています。レンズ銘板の白文字刻印も着色していますのでご承知置き下さいませ。
また、上の写真をご覧頂くと分かるかと思いますが、距離環の無限遠位置をキープする必要から、光学系のネジ込み位置を変更しています (つまりオーバーインフを解消させました)。その結果、絞り環との間に「隙間」が生じていますので、これもご了承下さいませ。オーバーインフの仕上げるか、隙間があるかのどちらかになってしまいます。操作性から考えれば、無限遠位置をキープしたほうが良いでしょうから、このように仕上げた次第です。誠に申し訳御座いません。
なお、当初バラす前の確認では、沈胴筒を延ばして上の写真の状態にすると「●」マーカーの位置がちょうど沈胴筒の「上向き矢印」の辺りまでズレていました。沈胴筒を延ばした撮影状態で「●」マーカーが指標値環の「▲」マーカー位置と合致しているのが正しい組み付けになりますので、戻してあります。恐らく過去のメンテナンス時にズレたままだったのではないでしょうか・・。
と言うコトは、逆に申し上げると過去メンテナンスされる前の元々の状態ではオーバーインフだったことになりますね。今回距離環をバラせなかったので位置調整ができずに触っていませんから、そのような結論になるかと思います。それ故、なかなかのハードな整備になってしまったと言うことでしょうか・・(笑)
ご依頼者様にしてみれば、純粋に現状がピタリと無限遠位置が合っているからと言うお気持ちなだけなのですが、それを「整備」として捉えると、そう言う簡単なお話では済まないのがアナログな世界ですね(笑)
当レンズによる最短撮影距離1.07m附近での開放実写です。グルグルボケが僅かに出ていますね・・このモデルの特徴的な描写性です。
別件の「A.Schacht Ulm Travegon 35mm/f3.5R zebra」の中玉の写真を以下に掲載します。
「お団子レンズ」ですね(笑) 下の群と上の群が重なり合った一体型です。上の群は貼り合わせレンズになっています。
前玉の次にこの「お団子レンズ」が配置されています。また、光学系後群も貼り合わせレンズになっているので、単独の1枚の光学レンズは「前玉だけ」と言うことになります。
前玉は外周附近にカビ除去痕、またコーティング層は多くのハガレが既にあります。前玉裏面の薄いクモリが除去できました。また「お団子レンズ」の非常に薄いクモリもキレイになりましたので、透明度は上がったと思います。
後群のほうは、相応の拭きキズや点キズが多くありますので、清掃しても特に変わってはいません。
光学系のみ解体できたので、無限遠位置は触っていません。絞り環の「●」マーカー位置を指標値環の「Ι」マーカーに合わせました。