◎ Vivitar (ビビター) Series 1 AUTO WIDE ANGLE 28mm/f1.9 VMC(MD)

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vivitar-100%e2%91%a1今回の掲載はオーバーホール/修理ご依頼分のオールドレンズに関する、ご依頼者様へのご案内ですのでヤフオク! に出品している商品ではありません。写真付の解説のほうが分かり易いこともありますが、今回に関しては当方での扱いが初めてのモデルでしたので、当方の記録としての意味合いもあり今回は無料で掲載しています (オーバーホール/修理の全工程の写真掲載/解説は有料です)。オールドレンズの製造番号部分は画像編集ソフトで加工し消しています。

Vivitar (ビビター) は1938年にアメリカのカリフォルニア州サンタモニカで創業した「Ponder and Best」社の写真機材に附加されたブランド銘で、そのほとんどを日本の光学メーカーから供給されるOEM製品群で賄っていたようです (後に台湾製や韓国製も一部登場しています)。

今回オーバーホール/修理を承った「Series 1 AUTO WIDE ANGLE 28mm/f1.9 VMC」はVivitarブランド商品群の中で特に高性能な商品に冠された「Series 1」(1971年より策定) の中の一つで1978年に発売されたトキナー製になります。当時の広告を見ると「$989.99」と掲載されているので今の価格では10万円以上の高額商品です。

【製造番号】
VV2825製造番号②製造番号は、当初8桁で始まり後には9桁に拡張されています。

  • 製造メーカー:
    (1969年〜1990年まで使用)
    6:オリンパス光学
    9:コシナ
    13:Schneider Optik
    22:キノ精密工業
    25:Ozone Optical
    28:コミネ
    32:マキナ光学
    33:浅沼
    37:トキナー
    42:Bauer
    44:Perkin Elmar (US)
    47:チノン
    51:東京貿易
    56:共栄商事
    75:HOYA光学
    81:Polar
  • 製造年度:製造年の下1桁目
  • 製造週:年間52週の製造週
  • 製造シリアル値:製造時のシリアル値

vv2819%e6%a7%8b%e6%88%90光学系は8群9枚構成になり鏡胴全長が変化しないインナーフォーカス方式を採り入れフローティング機構を装備しています (左図は実際にバラした光学硝子レンズからスケッチしたもので正確ではありません)。あくまでも製品としての全長は変化しないインナーフォーカスなのですが前群〜中群までを内部で繰り出す方式を採っており厳密にはフローティング機構を装備しただけとも考えられます・・前群と後群の位置が全く変化しない (つまり中群だけが直進動をする) ならばインナーフォーカスと言えます。「Series 1」を冠するが如く、その描写性能は開放から鋭いピント面を構成しますが周辺部には糸巻き型の歪曲や色収差などもある「放射状のボケ味」が独特な異彩を放った画造りです。実写はネット上の写真を集めた「こちらのページ」で検索していますので興味がある方はご覧下さいませ。

今回のご依頼は「光学系のカビ除去」と「距離環トルクの改善」でしたが整備に丸2日間を要してしまう超ハードなオーバーホールでした・・当方が思い込みをしており「インナーフォーカス」だけに囚われていたために肝心な「フローティング機構」との兼ね合いを見出すことができなかったのが敗因です。「原理原則」に則り常に細心の観察と考察を同時進行で進めるべく臨んでいるハズなのに、この有様で全く以て恥ずかしい限りです。如何に技術スキルレベルが低いのかを改めて思い知らされた整備作業であり猛省中であります・・。

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オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

vv2819120411ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。筐体の全長はマウント部の爪部分まで含めて71mmなのですがインナーフォーカスやフローティング機構を採っているために部品点数が多くなっているのと同時にフローティング機構のために用意されたパーツも大ぶりになっています。

vv2819120412絞りユニットや光学系前群〜中群までを格納する鏡筒です。このモデルではヘリコイド (オス側) は独立しており別に存在しています。

vv28191204138枚の絞り羽根を組み付けて絞りユニットを完成させます。シンプルな構造ですが絞りユニット自体を鏡筒内にセットする位置調整で絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) を制御しています。

vv2819120414ここまでは至って普段の整備作業と何ら変わりなかったのですが、ひとつだけこの鏡筒には今までに見たことが無い部分がありました。

vv2819120415この状態で鏡筒を立てて撮影した写真です。鏡筒の裏側には光学系中群用のネジ切りが用意されており絞り羽根開閉アームが飛び出ています。また鏡筒の位置決め用ネジも備わっており簡単なメンテナンス性を考慮しています。しかし、上の写真で指し示している「フック」が始めて目にしたモノでした。鏡筒の4箇所に均等配置されたフックには鏡筒格納筒にも同じ位置に用意されたフックがありマイクロ・スプリングが引っ掛かるようになっています。

vv2819120428このような感じで鏡筒を格納する格納筒にもフックが用意されていて鏡筒自体を「常に引っ張っている状態」です (マイクロ・スプリングは収縮するチカラのスプリングです)。このような構造 (鏡筒をマイクロ・スプリングで引っ張っている) 自体を初めて目にしたのですが、フローティング機構と考えればすぐに理解できるので特に問題が無かったのです。しかし、ここに今回丸2日間にまで及んだ超ハードな整備に至った当方の思い込みがあったのです。

vv2819120416こちらはヘリコイド (メス側) になりますが距離環用のベース環の役目も兼ねており上下に2種類のネジ切りが用意されています。

vv2819120417距離環用のオスネジ環をネジ込みますがインナーフォーカスのモデルなのでネジ山の方向は上下で逆になっています・・上の写真では黒色の環が前玉側になります。

vv2819120418こちらはインナーフォーカスを実現している光学系前群〜中群までの直進動を実現するガイド環です。両サイドに直進キー (距離環を回す「回転するチカラ」を鏡筒が前後動する「直進するチカラ」に変換する役目のパーツ) がスライドするためのガイド (溝) が用意されています (上の写真では手前と奥)。

vv2819120419鏡筒格納筒 (ヘリコイド:オス側) をセットしたところです。単純に落とし込んだだけです。この鏡筒格納筒には光学系後群用のネジ切りが用意されており光学系後群も「動く」ことになるので厳密に考えるとインナーフォーカスではないですね。前群と後群の位置が変化しないのがインナーフォーカスだと思います。今回のモデルはあくまでも筐体の全長が大ぶりに作られているから「インナーフォーカス」と謳っているだけで光学系の3つの群はそれぞれが個別にちゃんと動いています (繰り出し操作が行われている)。しかし、フローティング機構との兼ね合いで、この現実を見誤ってしまった当方の思い込みが今後の工程でハマってしまった大きな要因でした。

vv2819120420ヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルには全部で9箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。

vv2819120421距離環やマウント部を組み付けるための基台です。

vv2819120422トキナー製オールドレンズでは基台側に絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) 制御機構部が用意されています。「開閉幅制御環」に用意された「なだらかなカーブ」部分を絞り連動ピン連係アームに用意された金属棒が沿って動くことで絞り羽根の角度が決まり開閉幅がコントロールされています。

vv2819120423ヘリコイド (オスメス) を基台にセットします。

vv2819120424距離環を仮止めして、まずは距離環を回す際のトルクの確認を行います。この時点ではとても軽いトルク感で全く問題が無い状態でした。

vv2819120425ひっくり返して指標値窓を備えた指標値環をイモネジ (ネジ頭が無くネジ部にいきなりマイナスの切り込みを入れたネジ種) 3本で締め付け固定してからベアリング+マイクロ・スプリングをセットした絞り環を組み込みます。

vv2819120426マウント部 (今回はMINOLTAのSRマウント) をセットします。

この後は光学系前群/中群/後群をそれぞれ組み付けて格納し無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認をそれぞれ執り行い、最後にフィルター枠とレンズ銘板をセットすれば完成です・・のハズでした。

しかし光学系を組み付けて無限遠位置の確認をした段階でアウトです・・ピントが合焦しません。明らかに光学系の繰り出し位置が間違っている描写です (あともう一歩で合焦するようなイメージの描写)。この写真を撮影したのが3日前でした・・その間の2日間悪戦苦闘していたワケです(笑) 再びバラして組み直しを行った回数・・20回以上(笑) アホなくらいに恥ずかしい・・オーバーホールして使えないオールドレンズにしているのではお話になりません。

 

DOHヘッダー

 

ここからはオーバーホールが完了したオールドレンズの写真になります。

vv281912041高品位なモデルにだけ冠されたVivitarの「Series 1」です。トキナー製ではありますが、その描写性能の素晴らしさは折紙付きです。前玉 (裏面) の「VMC」が大変美しく輝いています。このモデルの特筆に値する描写は、何と言っても開放時の「放射状に広がるボケ味」であり特異な世界を愉しめます。この当時としては開放F値「f1.9」は広角レンズとしては最も明るい部類です (他社モデルにはf1.8もあります)。広角レンズなので8群9枚の光学硝子レンズを装備していますが「f1.9」を成し遂げたトキナーの意地が垣間見えるモデルです。

vv281912042光学系内は各群に何かしらのカビが発生していましたが特に後群が酷い状態でした。順光ではカビ除去痕もよ〜く探さないと分からないレベルまで除去できましたが残念ながら後群のカビはコーティング層に浸食していたためにカビ除去痕が全て残っています・・LED光照射で確認すると第8群の後玉全面に渡ってカビ除去痕が点在しています。後玉は貼り合わせレンズ (2枚の光学硝子レンズを接着剤を使って貼り合わせてひとつにしたレンズ群) なのですが9枚目の後玉表面のコーティング層に浸食したカビです。

vv281912049一見すると後玉のカビ除去痕はコーティングスポットのように見えていますがカビ除去痕であり菌糸状に生じていた部分の「芯」のコーティング層が剥がれてしまったのでコーティングスポットのように見えているワケです。カビ除去をする以上どうしようもないことなのですが、もしもご納得頂けない場合にはご請求額より必要額を減額下さいませ。誠に申し訳御座いません。従って当初ご依頼内容の一つであった「カビの除去」に関しては後玉はコーティング層を一旦剥がしてコーティング層の再蒸着をしない限りはクリアになりません。当方は個人なので、そのような設備が無く対応できません。

vv2819120438枚の絞り羽根は当初油僅かに染みが生じていましたがキレイになり確実に駆動しています。当初の段階で絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) が、ほんの僅かに閉じすぎていたので適正値に戻しています (つまり最小絞り値状態で広げています)。

ここからは鏡胴の写真になります。僅かに経年の使用感が残る個体ですが当方による「磨き」をいれたので筐体の「光沢ブラック」の輝きがより一層際立ち大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。

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vv281912047塗布したヘリコイド・グリースは「粘性:中程度+軽め」を使い分けて塗っています。ご依頼内容の一つであった「距離環指標値1.25ft」辺りでカクッとなりスルスルのトルク感に変わってしまう現象は「インナーフォーカス」と「フローティング機構」を採用したこのモデル特有の現象なので改善ができません・・恐らく経年の摩耗で直進キーが僅かに擦り減った分が「カクッ」と感じるトルク感になっているのだと推測します・・鏡筒格納筒に用意されている鏡筒の位置決めネジが入る溝はハス状に広がっており、直進キーの摩耗分が影響していると思われます。削れてしまった部分は復元できないので改善のしようがありません・・この件についてもご納得頂けなければ必要額を減額下さいませ。申し訳御座いません。

vv281912048今回の整備が超ハードだったのは当方の思い込みがいけなかったのですが、そもそも「インナーフォーカス」と謳っていること自体に疑問を感じます。それこそ筐体の全長を長くしてしまえば、どんなモデルでもインナーフォーカスになってしまう発想です。インナーフォーカスは「前群と後群の位置が変わらない/固定」だと認識していたのですが、このモデルでは前群も後群も、そして中群ももちろん繰り出し動作をしていました。

今回ハマッてしまった敗因は全く以て当方の見当違いが拙かったのです。前群と中群が「鏡筒と鏡筒格納筒」とでマイクロ・スプリングにより連結していたことが先ずは落とし穴でした。常に前群が引っ張られているワケですが、10回以上組み直しを行った段階で初めて前群がある位置で固定されることを発見しました。つまり最短撮影距離の位置から考えると距離環指標値の「1.25ft」辺りまでは前群も一緒に直進動をしていました。しかし「1.25ft」以降は前群の位置は「固定」だったのです・・これに気がつかなかったのが最初の問題です。

次に問題だったのが距離環用のネジ山が前玉側に用意されてる特殊な設計です。インナーフォーカスを採り入れている場合には互いにネジ山の向きが逆なのは判っていたのですが (つまりヘリコイドのオスメスのネジ込みによる収納状態で光学系は実際には繰り出し状態)、その場所が前玉側に位置していたためにフツ〜のインナーフォーカスタイプとは逆の発想になっていたのです。それに気がつかなかったのも敗因の一つです。

そして光学系は前群〜中群〜後群の三分割なのですが前群と中群の光路長が距離環指標値の「1.25ft」辺りまでは「変わらない」と言う部分にもすぐには気がつけなかったのです。そのために鏡筒と鏡筒格納筒をマイクロ・スプリングで連結させる必要があったのですね・・逆に言うと距離環指標値「1.25ft」辺りから以降はマイクロ・スプリングのチカラで前群だけが置いてきぼりになっているワケです。

これは光路長が可変しているワケで、距離環指標値「1.25ft」辺りから以降は光学系前群の必要部分しか使っていないことになります。また後群の位置が可変していたのも惑わされるトラップになってしまいました。

今回の整備でイヤと言うほどに当方のスキルの低さを思い知らされたワケで、本当に恥ずかしいです。まだまだ修行が足りません。なってませんねぇ〜。

vv2819120410-1-9当レンズによる最短撮影距離30cm附近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトに合わせていますが本当にヘッドライトの「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーでヘッドライトが点灯します)。

如何ですか? 放射状に背景がボケているのがお分かり頂けるでしょうか? 素晴らしい描写性です。背景がそのようなボケ方をしているにも拘わらずピント面の鋭さも収差も極力控えられており、さすがです。感動してしまいました。

vv2819120410-2-8画角はそのままで絞り値は「f2.8」で撮影しています。

vv2819120410-4F値「f4」になりました。驚異的な立体感です。

vv2819120410-5-6「f5.6」に変えて撮っています。

vv2819120410-8F値「f8」になります。

vv2819120410-11F値は「f11」になりました。

vv2819120410-16最小絞り値「f16」で撮っています。今回のオーバーホール/修理ご依頼、誠にありがとう御座いました。