◎ VALDAI (ジュピター・バルダイ光学機械工場) HELIOS-44-2 58mm/f2(M42)
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今回完璧なオーバーホールが終わって出品するモデルは、当時のソ連
VALDAI工場製標準レンズ『HELIOS-44-2 58mm/f2 (M42)』です。
世間では「インスタ映え」オールドレンズの代名詞的な存在として扱われている標準レンズ『HELIOS-44-2 58mm/f2 (M42)』ですが、当方にはその「インスタ映え」と評価される「ライトト〜ンな写真」が良いのかどうかよく分かりません(笑) この「ライトト〜ン」と言うのは、明部をハイキ〜に設定して画全体が非常に明るく写っている (コントラストが低めの)
淡い印象を受ける写真を指してそう呼んでいます。
巷ではそのような写真が (ステキだと言われて) 流行っているようですが、年寄りの当方には
どうにも「???」です(笑)
さらにプロの写真家まで登場してしまい(笑)、ライトト〜ンがロシアンレンズの全てのような物言いまでされている始末で、何ともやるせない気持ちでいっぱいです。
オールドレンズの良さ = ライトト〜ン
と言う方程式は当方の中では成り立たないので(笑)、コントラストが高めな写真にも魅力を
感じるワケで、何でもかんでもハイキ〜に片付けてしまう撮影手法はどうなのでしょうかね。
当方にとってオールドレンズの魅力とは「解像度や収差が不完全な時代の光学系」である事が「オールドレンズの味」として捉えられるので、それは逆に言えば今ドキのデジタルなレンズに (例えマニュアルフォーカスレンズでも) なびきにくいとも言えます。情報量が非常に多くて緻密でリアルでパキッとした写りに・・それほど魅力を感じません (ジジイの独り言です)(笑)
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当方では「ロシアンレンズ」と呼んでいますが、第二次世界大戦前後の旧ソビエト連邦時代 (ソ連) から現在に至るまでに生産されていたオールドレンズ総称として使っています。
今回のモデル『VALDAI HELIOS-44-2 58mm/f2 (M42)』は、モスクワの北西約400km程離れた位置にある、ノブゴロド州VALDAI (バルダイ) 市で1967年に創設された「JUPITER VALDAI OPTICAL PLANT (Юпитер Валдайский оптический завод)」日本語にすると「ジュピター・バルダイ光学機械工場」製産による個体で、製造年度は「1985年」になっています。
旧ソ連 (現ロシア) は共産主義体制国家でしたから、戦後1949年のCOMECONを基に旧東ドイツを初めとする東欧圏の技術と市場を手に入れ、中央集権型の計画経済体制 (統制型経済体制) を推し進めていました。私企業の概念を廃した国営企業 (旧東ドイツでは人民所有企業/VEB) の体系として、5カ年計画に則り全ての産業工業を国家一元管理していたようです。
よくネット上で頻繁に「人民公社」が使われていますが、同じ共産主義体制でも国によって企業の呼称や概念が違うので「人民公社」はどちらかと言うと中国のほうが当てはまる呼称ではないかと考えます (専門に研究していらっしゃる方の論文を読んで勉強しました)。
従ってロシアンレンズに於いては、ひとつのモデルを複数工場で並行生産しており、どの工場で生産されたモデルなのかを表すためにレンズ銘板に「生産工場を表すロゴマーク」を刻印しています。実際には光学系の設計だけがほぼ同一で、それ以外は各工場の設計に任されていたようなので、同じモデル銘でも異なるカタチのタイプが混在していますし、マウント別に違う工場で生産している場合もあるようです。
つまり今回のモデルのレンズ銘板に刻印されているロゴマークは「JUPITER (ЮПИТЕР)」日本語で「ジュピター (キリル文字発音でユピテル)」の頭文字「Ю」をモチーフにしたロゴマークになっていますが、巷では (特に英語圏で)「シシカバブ」マークとも呼ばれています。この「シシカバブ」は中東やミクロネシア圏などアジア全域で食べられている、いわゆる「串料理」を指すようです (確かにそんなふうに見える)。
JUPITER VALDA光学機械工場は、主に同じ旧ソ連時代のKMZ (クラスノゴルスク機械工廠) からの指示により、当時の一眼レフ (フィルム) カメラ用オールドレンズ「Cyclops/Helios/
Mir/Jupiter (サイクロプス/ヘリオス/ミール/ジュピター)」など製産しており、1992年時点では2,700人の工員を従えた光学製品専業工場のポジショニングでした。
つまり旧ソ連時代には各工場は「工廠/専業工場」に分類され、工廠では軍用品や民生品を含む幅広い製品の開発/製産が行われていましたが、専業工場はそれぞれの分野に特化した開発/製産に絞られていたようです (前述の研究論文より)。例えば光学製品の専業工場だけではなく農業用トラクター専業工場や縫製専業工場もあったりするワケです。
今回扱う『HELIOS-44-2 58mm/f2 (M42)』は、巷では「ビオターコピー」と解説されていますが、Biotarはビオターでも戦前ドイツのCarl Zeiss Jena製シネレンズ「Biotar 4cm/f1.4」の光学系が模倣の基になっていますから、一般的にサイトなどで語られている「Biotar 5.8cm/f2のコピー」とは違います。
このシネレンズの開発年度が1927年なので、当時の旧ソ連 (ソビエト連邦) が狙っていたのは
こちらのほうであり、戦争直前の1939年に一眼レフ (フィルム) カメラ用として開発/登場した「Biotar 5.8cm/f2」のほうではありません (当初狙っていた理由がそもそも軍用ですから)。
【モデルバリエーション】
※オレンジ色文字部分は最初に変更になった諸元を示しています。
BTK:1951年 (KMZ製) ※プロトタイプ
光学系:4群6枚ダブルガウス型
最短撮影距離:55cm
絞り値:f2.0〜f22 / 絞り羽根枚数:13枚
絞り機構:プリセット絞り方式 (無段階手動絞り/実絞り)
フィルター径:⌀ 49mm
筐体:クロームメッキ仕上げ / 指標値:黒
HELIOS-44:1958年〜 (VALDAI製) ※量産型
光学系:4群6枚ダブルガウス型
最短撮影距離:50cm
絞り値:f2.0〜f16 / 絞り羽根枚数:13枚 / 8枚
絞り機構:プリセット絞り方式 (無段階手動絞り/実絞り)
フィルター径:⌀ 49mm
筐体:クロームメッキ仕上げ / 指標値:黒
HELIOS-44 zebra:1960年〜 (VALDAI製)
光学系:4群6枚ダブルガウス型
最短撮影距離:50cm
絞り値:f2.0〜f16 / 絞り羽根枚数:8枚
絞り機構:プリセット絞り方式 (無段階手動絞り/実絞り)
フィルター径:⌀ 49mm
筐体:ブラック & ゼブラ柄 / 指標値:白色
HELIOS-44-2:1960年代以降並行生産 (KMZ/VALDAI/MMZ製)
光学系:4群6枚ダブルガウス型
最短撮影距離:50cm
絞り値:f2.0〜f16 / 絞り羽根枚数:8枚
絞り機構:プリセット絞り方式 (無段階手動絞り/実絞り)
フィルター径:⌀ 49mm
筐体:ブラック / 指標値:カラー
HELIOS-44M:1970年代〜 (KMZ/VALDAI/MMZ製)
光学系:4群6枚ダブルガウス型
最短撮影距離:50cm
絞り値:f2.0〜f16 / 絞り羽根枚数:8枚
絞り機構:クリック式自動絞り装備
フィルター径:⌀ 49mm
筐体:ブラック / 指標値:カラー
HELIOS-44-3 / MC HELIOS-44-3:1970年代〜 (MMZ製)
光学系:4群6枚ダブルガウス型
最短撮影距離:50cm
絞り値:f2.0〜f16 / 絞り羽根枚数:8枚
絞り機構:プリセット絞り方式 (無段階手動絞り/実絞り)
フィルター径:⌀ 49mm
筐体:ブラック / 指標値:白色
MC HELIOS-44M-4:1980年代〜 (KMZ/VALDAI製)
光学系:4群6枚ダブルガウス型
最短撮影距離:50cm
絞り値:f2.0〜f16 / 絞り羽根枚数:8枚
絞り機構:クリック式自動絞り装備
フィルター径:⌀ 49mm
筐体:ブラック / 指標値:カラー
MC HELIOS-44M-5:1980年代〜 (VALDAI製)
光学系:4群6枚ダブルガウス型
最短撮影距離:50cm
絞り値:f2.0〜f16 / 絞り羽根枚数:8枚
絞り機構:クリック式自動絞り装備
フィルター径:⌀ 49mm
筐体:ブラック / 指標値:カラー
MC HELIOS-44M-6:1980年代〜 (VALDAI製)
光学系:4群6枚ダブルガウス型
最短撮影距離:50cm
絞り値:f2.0〜f16 / 絞り羽根枚数:8枚
絞り機構:クリック式自動絞り装備
フィルター径:⌀ 49mm
筐体:ブラック / 指標値:カラー
MC HELIOS-44M-7:1980年代〜 (VALDAI製)
光学系:4群6枚ダブルガウス型
最短撮影距離:50cm
絞り値:f2.0〜f16 / 絞り羽根枚数:8枚
絞り機構:クリック式自動絞り装備
フィルター径:⌀ 49mm
筐体:ブラック / 指標値:カラー
実際には、この他にもバリエーションがあるので生産工場やマウント種別まで含めると相当な種類が存在しています (とてもまとめる気持ちになりません)。
さらに、最近の変わり種として「創作レンズ」が出回っています・・。
←左の写真のモデルは、MC HELIOS-44M-4以降あたりのモデルを使った創作品のようです。
「Carl Zeiss Jena」銘を刻印し「Biotar」と銘打っています。
もちろん旧東ドイツのCarl Zeiss Jena製ではありませんしBiotarでもありません。
←こちらのモデルも、HELIOS-44-2を使った創作品でしょうか。
同様「Carl Zeiss Jena」銘の「Biotar」をあしらっています。
←KMZ製のレンズ銘板まで登場しています。しかも「zeissのT*」刻印付です(笑) もちろん「T*」コーティングではありませんが・・。
←ゼブラ柄になるようアルミ材を削ってしまい、さらにクロームメッキを掛けているので大変キレイです。もちろん創作品ですね・・。
←こうなると何でもアリなのでしょう・・(笑)
真っ赤な筐体のモデルもあったりしますから、ここまで徹底してくると、それはそれで楽しいです。
すべてレンズ銘板を新規に作成して筐体に新たな文字も刻印し、さらに焼付塗装までしている徹底的な創作品です。
↑上記は、当時の旧ソ連時代にあったGOI光学研究所の設計諸元書から「解像度」について
ピックアップした一覧です。
するとマルチコーティング化された「MCタイプ」で飛躍的に解像度が向上していますが、それ以前のモノコーティングモデルの中で「HELIOS-44-2」が意外と健闘していることが分かります。
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今回扱う『VALDAI HELIOS-44-2 58mm/f2 (M42)』は、巷ではインスタ映えするオールドレンズの代表格的な存在として認識されているようなので、少々数が多いですが実写をチェックしてみました。
上の写真はFlickriverで、このモデルの特徴的な実写をピックアップしてみました。
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)
※各写真の著作権/肖像権がそれぞれの投稿者に帰属しています。
◉ 一段目
左端から真円に近い大変キレイなシャボン玉ボケが破綻して円形ボケへと滲んでいく様をピックアップしています。本来光学系が典型的な4群6枚ダブルガウス型構成なので、収差の影響を受けてこのような真円に近い円形ボケの表出が苦手なハズなのですが、ちゃんと出せているのがオドロキです。
さすがに焦点距離が58mmの標準レンズ域ですから、シャボン玉ボケ自体はこぢんまりした大きさでしか出すことができません。
◉ 二段目
溶け始めた円形ボケはやがて収差の影響を受けて乱れ始めますが、素直に滑らかに滲んでいくかと思いきや、右の2枚のように特徴的なボケ方をします。右端2枚目は「リングボケ」が強調されていますし、一番右端は独特な「幻想的な世界」です。
しかし、この右端だけはオリジナルな状態で撮った写真ではなく、4群ある光学系のうち1枚〜2枚を反転させて入れ替えてしまった状態による撮影ですから、自ずとフツ〜の撮影に臨んでも収差だらけでまともな写真になることがありません。
◉ 三段目
さらに背景ボケには極端に収差の影響が出て乱れまくってきます。このモデルは決して二線ボケではないのですが、左端のような醜いボケ方になることもあり、それはそれで演出効果として使うこともできますね(笑) 最終的には右端のようにフツ〜な背景ボケにもちゃんと至ります。
◉ 四段目
さて、ここでピックアップした実写が当方が問題視している「このモデルの短所」です。明暗部の制御が中途半端で終わっているので、暗部だけがストンと堕ちてしまったり不安定です。逆に言えばダイナミックレンジが決して広くありません。
その結果、被写体の材質感や素材感を写し込む質感表現能力に到達しておらず「ノッペリした立体感のない平面的な写り」にしかなりません。つまり「空気感/距離感」を留めることができずにリアルな表現性が欠如してしまいます。
◉ 五段目
発色性は決してコッテリ系ではなく、むしろナチュラル的に偏らない安心感がありますが、やはり人物撮影でも人肌感の生々しさが表現しきれていません。
◉ 六段目
光源や逆光撮影時のゴーストを逆に演出効果として使うのも一つの手法ですね。
光学系は当初登場した1958年時点の設計諸元書からトレースした構成図が右図で、4群6枚の典型的なダブルガウス型構成です。
この光学系がどのタイミングで再設計されたのかは分かりませんが (バリエーション数が多すぎて調べる気持ちにならない)、今回扱う個体1985年時点では光学系が既に再設計されていました。
右図は今回バラして清掃時にデジタルノギスで計測しほぼ正確にトレースした構成図です。
モデルのタイミングとしては最短撮影距離が変わっているワケでもなく (何ら仕様に変更が加えられていない時期なのに) 各群の厚みはもちろん曲率まで設計変更しています。特に第4群 (後玉) は、従前の両凸レンズ
から凸平レンズに変更しています。
当方が計測したトレース図なので信憑性が低い為、ネット上で確認できる大多数の構成図のほうが「正」です (つまり右図は参考程度の価値もない)。
(各硝子レンズのサイズ/厚み/凹凸/曲率/間隔など計測)
オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。
↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。このモデルを納得できる状態まで拘って調整すると「どうしても一日仕事」になってしまいます(笑)
ところがこのモデルを毎週何本も整備済でヤフオク! 出品しているプロの写真家が居ます(笑) さすがにプロになるとこのモデルを一日で3〜4本仕上げてヤフオク! 出品しているワケで頭が上がりません (当方には一日1本仕上げる技術スキルしか無いから)(笑)
そこで今回のヤフオク! 出品も「身分相応/身の程をわきまえる」として即決価格もそのプロの方より低めで設定しています (同価格帯で当方が出品してもいつも残ってしまうから)(笑)
まさしく如何に当方に信用/信頼が皆無なのかを物語っている結末になりますねぇ〜(笑)
実際、今現在も数本の同型モデルがちゃんとヤフオク! に整備済で出品されていますから、プロがキッチリ整備した個体のほうが良い方はそちらを是非ともご検討下さいませ。
ちなみにそのプロの写真家が整備した個体のオーバーホール/修理については、つい先日このブログにアップしたばかりなので「解体新書の特集」記事で掲載しています。
↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒です。このモデルはヘリコイド (オス側) が独立しており別に存在します。鏡胴が「前部/後部」の二分割方式なので、ヘリコイド (オスメス) は鏡胴「後部」側に配置されています。
絞り羽根には表裏に「キー」と言う金属製突起棒が打ち込まれており (オールドレンズの中にはキーではなく穴が空いている場合や羽根の場合もある) その「キー」に役目が備わっています (必ず2種類の役目がある)。製産時点でこの「キー」は垂直状態で打ち込まれています。
◉ 位置決めキー
「位置決め環」に刺さり絞り羽根の格納位置 (軸として機能する位置) を決めている役目のキー
◉ 開閉キー
「開閉環」に刺さり絞り環操作に連動して絞り羽根の角度を変化させる役目のキー
◉ 位置決め環
絞り羽根の格納位置を確定させる「位置決めキー」が刺さる環 (リング/輪っか)
◉ 開閉環
絞り羽根の開閉角度を制御するために絞り環操作と連動して同時に回転する環
↑光学系前群用の硝子レンズ格納筒を組み込みますが、上の写真グリーンのライン箇所で「光学系前群格納筒と鏡筒」とに分かれます。
するとオレンジ色矢印の箇所でマーキングしていますが (当方がマーキング)、いったい何の為に (何をする為に) マーキングしたのか見る人が見れば分かります (位置合わせではない)。
逆に言うとこの写真を見てもピ〜ンと来ない人は、このモデルの整備は難しいかも知れませんね(笑)
↑上の写真は「プリセット絞り機構部」の構成パーツです。このモデルの「プリセット絞り環」を回した時にカチカチとクリック感があるのは、実は鋼球ボールではなく「シリンダーネジ」が板バネのチカラで溝に填っているだけと言う構造です (グリーンの矢印)。
↑実際に「プリセット絞り環用ベース環」を組み込んで「プリセット絞り値ベース環」までセットした状態です。
↑さらに「絞り環用ベース環」を組み込みました。既に板バネもセットしてあります。
↑こんな感じでそれぞれのベース環に対して「プリセット絞り環」と「絞り環」がイモネジを使って被さります。
当初バラす前のチェック時点で、実は「プリセット絞り環の操作がガチガチ」した印象でプリセット絞り値を変更する操作時に使い辛く感じていました (クリック感が硬すぎるから)。一方逆に「絞り環操作がスカスカ状態」と言うのも違和感を感じます。
今回のオーバーホールでは、それぞれを適切なトルク感になるよう微調整を施して組み上げました。具体的には「プリセット絞り環のクリック感を小気味良く軽め」に仕上げ、一方「絞り環を回す時はトルクを与えて僅かに重め」としています。
そうすることでそれぞれの操作性で違和感を少なく仕上げました。このような微調整に拘れるのもオーバーホールの良さですね(笑)
↑鏡胴「前部」が完成したので、ここからは鏡胴「後部」の組み立て工程に入ります。鏡胴「後部」はとてもシンプルなのでヘリコイド (オスメス) しかありません。
↑このモデルの距離環を回す時のトルクを決めている要素は「空転ヘリコイドの仕上げ方」になります。
当初バラす前のチェック時点で、鏡胴にはガチャガチャとガタつきが発生していました。距離環もマウント部も鏡胴「前部」にまで全てにガタつきが生じています。
バラしてみると、それら不具合はまさに「過去メンテナンス時の空転ヘリコイドの仕上げ方」が原因でした。「原理原則」を熟知している人でなければ、この「空転ヘリコイドの仕上げ方」が分かりませんから(笑)、結局はグリースや潤滑油でごまかして組み上げてしまうことになります。実際今回の個体も過去メンテナンス時には「潤滑油」を注してごまかしていました。
それでもトルクが重くて仕方ないので、イモネジなどの締め付けを最後まで故意に締め付けずにガチャガチャしたまま組み上げていたワケです(笑)
なお、マウント部の内側には「直進キーガイド」なる「溝」が1本用意されており、そこを「直進キー」と言うシリンダーネジが直進動する (スライドする) ことで鏡筒を繰り出したり/格納したりが行われる仕組みです (グリーンの矢印)。
つまり「この直進キーがスムーズに滑らかに直進動する」事も距離環を回す際のトルクに大きく影響してきますが、はたしてどのように処置すれば滑らかにできるのでしょうか(笑)
そのような事柄もオールドレンズの整備には知っている必要がありますね(笑)
左写真はその「直進キー」と言うシリンダーネジを拡大撮影しました。ご覧のように円柱 (シリンダー) 部分にネジ部が備わったネジ種です。
すると、この円柱部分が上の写真「直進キーガイドの溝」を行ったり来たりスライドする事で鏡筒の繰り出し/収納をしていますから、そこを滑らかにする必要があるワケです。
↑実際にヘリコイド (オスメス) をネジ込んで、前述のシリンダーネジたる「直進キー」もセットした状態を撮っています。
もう既にヘリコイドグリースも塗布してあるので、如何に当方が塗るヘリコイドグリースの量が少ないのかがお分かり頂けるのではないでしょうか。
上の写真ではヘリコイド (オス側) を最も繰り出した状態で撮影しています。つまり「最短撮影距離位置」までヘリコイド (オス側) が繰り出された状態を意味しますが、この時「直進キーはヘリコイド (メス側) の縁に接して停止している」点がポイントです (グリーンの矢印)。
従って、このモデルは設計上 (構造上) 最短撮影距離位置まで繰り出した時「距離環が詰まった感じで停止する」のがオリジナルの状態です。何故なら「面 vs 面が互いに接して停止するから詰まった手応えになる」と言えます。
当方がこのように言っても (説明しても) 自分の整備が上手くできなかった言い訳を言っているとSNSで批判されているらしいので、敢えて写真付で解説しました(笑)
ワザワザ「シリンダーネジ」の事を細かく解説している理由もそこにあります・・。
一方、反対側の無限遠位置「∞」ではカチンと音がして突き当て停止します (詰まった感じで停止しない)。従って無限遠位置と最短撮影距離位置の両端で距離環が停止する時、違う感覚で突き当て停止するのは「正常」だと言えるワケです。
・・とここまで解説しても信じてもらえないようですが(笑)
↑距離環用のベース環をヘリコイド部にセットします。赤色矢印で指し示しているように、今回の個体には「イモネジ用の下穴」が2つずつ空いていました。この2つの下穴のうち1個だけが製産時点で、もう1個は過去メンテナンス時に用意されたごまかしの為の下穴です。
↑どちらの下穴がオリジナルなのかまでキッチリ確認しつつ鏡胴「後部」を組み上げます。
↑完成している鏡胴「前部」をセットすると、ご覧のようにキレイに「プリセット絞り環」側の基準「●」マーカーと指標値環側基準「▽」マーカー (赤色矢印) が一直線上に並びます (グリーンのライン)。これが正しい組み上げであり、当然ながらこの状態で最も鋭いピント面になるよう光学系の光路長確保も仕上げている必要があります。
この後は光学系前後群を組み込んでから無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行えば完成です。
↑単純に光学系前後群をそのまま組み込んでしまうと、上の写真のように光学系内が真っ黒い状態にならず「白っぽい箇所」が出てきてしまいます (赤色矢印)。
↑上の写真は光学系前群側と後群側の貼り合わせレンズを2つそれぞれ並べて撮影していますが、これら貼り合わせレンズの「コバ端」が硝子材剥き出しのままなので白っぽくなってしまいます (赤色矢印)。
◉ 貼り合わせレンズ
2枚〜3枚の光学硝子レンズを接着剤を使って貼り合わせてひとつにしたレンズ群
ここからはオーバーホールが完了した出品商品の写真になります。
↑完璧なオーバーホールが完了しました。このモデルをちゃんと納得ずくで仕上げようと拘ると意外に神経質な微調整が必要になり面倒なので、あまり頻繁に扱う気持ちにはなれません (当方の技術スキルではそのレベル止まりと言う意味)(笑)
ましてや一日に3〜4本組み上げるなど、どうヒックリ返ってもできませんね(笑)
↑光学系内の透明度が非常に高い状態を維持した個体です。LED光照射でもコーティング層経年劣化に伴う極薄いクモリすら皆無です (皆無と明言しているので本当にLED光照射しても何もクモリがありません)。また「コバ端」も着色したので光学系内の白っぽいのが消えています。
↑上の写真 (3枚) は、光学系前群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。
↑光学系後群側も非常に高い透明度を維持しています。もちろんLED光照射で極薄いクモリが皆無です。
↑上の写真 (3枚) は、光学系後群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。
【光学系の状態】(LED光照射で様々な角度で確認)
・コーティング劣化/カビ除去痕等極微細な点キズ:
(経年のCO2溶解に拠るコーティング層点状腐食)
前群内:14点、目立つ点キズ:10点
後群内:20点以上、目立つ点キズ:19点
・コーティング層の経年劣化:前後群あり
・カビ除去痕:あり、カビ:なし
・ヘアラインキズ:あり(前後群内僅か)
・バルサム切れ:無し (貼り合わせレンズあり)
・深く目立つ当てキズ/擦りキズ:なし
・光源透過の汚れ/クモリ (カビ除去痕除く):なし
・その他:光学系内は微細な塵や埃が侵入しているように見えますが清掃しても除去できないCO2の溶解に拠る極微細な点キズやカビ除去痕、或いはコーティング層の経年劣化です。
・いずれも全て実写確認で写真への影響ありません。
↑8枚の絞り羽根もキレイになりプリセット絞り環/絞り環共々確実に駆動しています。絞り羽根が閉じる際は「キレイな円形絞り」を維持したまま閉じていきます。
なお「プリセット絞り環」の操作性はカチカチとクリック感を伴うものの小気味良く軽い操作性に仕上げていますし、逆に「絞り環」側の操作性はトルクを与えて極僅かに重くなるよう (スカスカにならないよう) 仕上げています。
ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感が僅かに感じられるものの当方にて筐体外装の「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。「エイジング処理済」なのですぐに酸化/腐食/錆びが生じたりしません。
↑【操作系の状態】(所有マウントアダプタにて確認)
・ヘリコイドグリースは「粘性:中程度と軽め」を使い分けて塗布し距離環や絞り環の操作性は非常にシットリした滑らかな操作感でトルクは「普通」人によって「軽め」に感じ「全域に渡って完璧に均一」です。
・距離環を回すとヘリコイドのネジ山が擦れる感触が伝わる箇所があります。
・ピント合わせの際は極軽いチカラで微妙な操作ができるので操作性は非常に高いです。
・無限遠位置「∞」側はカチンと音がして突き当て停止しますが最短撮影距離「50cm」は詰まった印象で停止します。これは内部設計の問題なので改善できません(全ての個体で同一の印象です)。
【外観の状態】(整備前後関わらず経年相応の中古)
・距離環や絞り環、鏡胴には経年使用に伴う擦れやキズ、剥がれ、凹みなどありますが、経年のワリにオールドレンズとしては「超美品」の当方判定になっています (一部当方で着色箇所がありますが使用しているうちに剥がれてきます)。
・当方出品は附属品に対価を設定しておらず出品価格に計上していません(附属品を除外しても値引等対応できません)。
↑距離環を回すトルク感も滑らかで軽すぎず重すぎず「普通」程度に仕上げていますが、ピント合わせ時の微動には極軽いチカラだけで微調整できるようなトルク感に拘って仕上げています (何故ならこのモデルはピントの山が掴みにくいから)。
無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。
もちろん光学系の光路長調整もキッチリ行ったので (簡易検査具によるチェックなので0.1mm単位や10倍の精度ではありません)、以下実写のとおり大変鋭いピント面を確保できました。電子検査機械を使ったチェックを期待される方は、是非ともプロのカメラ店様や修理専門会社様が手掛けたオールドレンズを手に入れて下さい。当方の技術スキルは低いのでご期待には応えられません。
↑余談ですが、ここからは「プリセット絞り機構の操作方法」を解説します。
最小絞り値「f16」が開放f値「f2」で逆の考え方になっている。希望f値に
セットするとその最大値が絞り値になる仕組み。
上の解説は、プロのフォトグラファーがこのモデルを自ら整備してヤフオク! 出品ページで案内している説明ですが、何を言っているのか全く分かりません(笑)
まず、絞り値が刻印されている環 (リング/輪っか) が「プリセット絞り環」になり、その直下のローレット (滑り止め) が刻まれている環 (リング/輪っか) が「絞り環」です。
鏡胴指標値環の「▽」マーカーに絞り環の基準「●」マーカーが合致している (グリーンの矢印) 状態が、絞り羽根が「完全開放」です。「絞り環」は常にブルーの矢印②方向に回すことで「絞り羽根が閉じる」仕組みです (ブルーの矢印②はこの次の写真で示しています)。
これをシッカリと覚えます。
上の写真では一番最初の状態として「開放f値:f2」にセットされている事を前提とします (赤色矢印)。ここで希望する設定絞り値まで「プリセット絞り環」をカチカチとクリック感を伴いながらブルーの矢印①方向に回します。
↑例として今回は「設定絞り値:f4」とします。鏡胴指標値環基準「▽」マーカーの位置でカチカチとハマッてセットしたところです (赤色矢印)。
するとこの時、直下の「絞り環」側にはまた手を付けていませんから、基準「●」マーカーも鏡胴指標値環基準「▽」マーカーに合致したままです (グリーンの矢印)。
つまり「絞り羽根は開放状態を維持したまま」と言えますね。実際チェックすればちゃんと絞り羽根が「完全開放」しています(笑)
そこで、距離環を回してピント合わせを行います。合焦したらカメラボディ側のシャッターボタン押し下げ前に「絞り環をブルーの矢印②方向に回して絞り羽根を閉じる」操作をします。
単純に「絞り環が突き当て停止する位置まで回せば良い」だけです。最後まで「絞り環」を回してカチンと突き当て停止すると、ちゃんと「設定絞り値:f4」まで絞り羽根が閉じています。
シャッターボタンを押し込んで撮影を終わらせます。
↑撮影が終わったらプリセット絞りの設定を元に戻します。前の操作で「絞り環が突き当て停止するまで回っている」ので (グリーンの矢印)、今度はその逆の方向ブルーの矢印③に向かって「やはり突き当て停止するまで回す」と、絞り羽根が「完全開放に戻る」ワケですね。
実際に操作すると当初撮影前に「プリセット絞り値をf5.6にセットした」ので (赤色矢印)、ブルーの矢印③方向に「絞り環を回すと基準「▽」マーカー位置でカチンと突き当て停止」します。
つまり指標値環の「▽」マーカーの位置に来ている「絞り値」が設定絞り値であり、その直下の「絞り環操作は単に絞り羽根を開閉させているだけ」と言う仕組みです (オレンジ色矢印)。
↑上の写真は「絞り環」を戻した状態です。ちゃんとグリーンの矢印のとおり当初の「設定絞り値:f4」位置に合致して「絞り環が停止」します。
そこで最後に「プリセット絞り環」をブルー矢印④方向にカチカチとクリック感を伴って回していけば、絞り羽根が「完全開放を維持したまま」プリセット絞り値だけが開放f値「f2」に戻せるワケです。
何も難しい説明になりませんし、ましてや「写真を撮る動作」と非常に自然にオールドレンズ側の仕組みが適合していますね?(笑)
↑一番最初の状態と同じですが、開放f値「f2」にプリセット絞り値をセットし (赤色矢印)、且つ絞り羽根も「完全開放したまま」の状態です (グリーンの矢印)。
要は撮影する時の動作とオールドレンズ側内部の機構部の動きとが「観察と考察」で合致していないから、プロのフォトグラファーのくせにワケの分からない説明になってしまいます(笑)
何ひとつ逆の考え方になっていません (撮影時の動きに見合う操作方法で決して逆の操作をしていないから)。
↑当レンズによる最短撮影距離50cm付近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。
この実写はミニスタジオで撮影していますが上方と右側方向からライティングしています。その関係でフードを装着していない為に絞り値の設定によりハレ切りが不完全なまま撮影しています。一応手を翳していますがハレの影響から一部にコントラスト低下が出てしまうことがあります (簡易検査具による光学系検査を実施済で偏心まで含め光軸確認は適正/正常)。
↑最小絞り値「f16」での撮影です。「回折現象」の影響が現れていますね。
◉ 回折現象
入射光は波動 (波長) なので光が直進する時に障害物 (ここでは絞り羽根) に遮られるとその背後に回り込む現象を指します。例えば、音が塀の向こう側に届くのも回折現象の影響です。
入射光が絞りユニットを通過する際、絞り羽根の背後 (裏面) に回り込んだ光が撮像素子まで届かなくなる為に解像度やコントラスト低下が発生し、眠い画質に堕ちてしまいます。この現象は、絞り径を小さくする(絞り値を大きくする)ほど顕著に表れる特性があります。