◎ LZOS (リトカリノ光学硝子工場) INDUSTAR−61 L/Z−MC 50mm/f2.8(M42)

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今回完璧なオーバーホールが終わって出品するモデルは、旧ソ連時代の
標準レンズ『INDUSTAR−61 L/Z−MC 50mm/f2.8 (M42)』です。


巷で「ダビデの星」が現れると言われているオールドレンズの代表的な存在が、今回扱う標準レンズ『INDUSTAR−61 L/Z−MC 50mm/f2.8 (M42)』です。「ダビデの星」とは「六角形のボケ」が表出する事からそのように呼ばれるようになったようですが、f値「f5.6f8」辺りで条件が揃うと表出する事が多いようです。もちろん一般的なオールドレンズと同様に「円形ボケ」もちゃんと表出できます。

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当方では「ロシアンレンズ」と呼んでいますが、第二次世界大戦前後の旧ソビエト連邦時代 (ソ連) から現在に至るまでに生産されていたオールドレンズ総称として使っています。

モスクワの南東30km圏に位置するモスクワ州Лыткарино (Lytkarino
:リトカリノ) 市で1935年(9月)に創設された「LYTKARINO OPTICAL GLASS FACTORY (Лыткаринский Завод Оптического Стекла)」日本語にすると「リトカリノ光学硝子工場」は、対空防衛用投影鏡ミラー (1.5m大:右写真) 製産からスタートした工場であり現在は「合資会社リトカリンスキー光学硝子工場」として現存しています。

旧ソ連 (現ロシア) は共産主義体制国家でしたから、戦後1949年のCOMECONを基に旧東ドイツを初めとする東欧圏の技術と市場を手に入れ、中央集権型の計画経済体制 (統制型経済体制) を推し進めていました。私企業の概念を廃した国営企業 (旧東ドイツでは人民所有企業/VEB) の体系として、5カ年計画に則り全ての産業工業を国家一元管理していたようです。

よくネット上で頻繁に「人民公社」が使われていますが、同じ共産主義体制でも国によって企業の呼称や概念が違うので「人民公社」はどちらかと言うと中国のほうが当てはまる呼称ではないかと考えます (専門に研究していらっしゃる方の論文を読んで勉強しました)。

従ってロシアンレンズに於いては、ひとつのモデルを複数工場で並行生産しており、どの工場で生産されたモデルなのかを表すためにレンズ銘板に「生産工場を表すロゴマーク」を刻印しています。実際には光学系の設計だけがほぼ同一で、それ以外は各工場の設計に任されていたようなので、同じモデル銘でも異なるカタチのタイプが混在していますし、マウント別に違う工場で生産している場合もあるようです。

つまり今回のモデルのレンズ銘板に刻印されているロゴマークは「◉やなどの光学硝子レンズ製産工場」をモチーフにしたロゴマークになっています。ちなみに「」はキリル文字で「Стекла:Factory」を意味し、この工場名の頭文字を採ると「ЛЗОС」になることから「LZOS」と英語表記されています (ロシア語のキリル文字が必ず介在するので複雑です)。

今回のモデル『INDUSTAR−61 L/Z−MC 50mm/f2.8 (M42)』は、当初GOI光学研究所で1958年からプロトタイプとして試作生産された「INDUSTAR−61 5.2cm/f2.8 (M39)」が原型モデルにあたります。

この原型モデルは後に量産タイプが発売されますが、最短撮影距離
1mからのスタートだったので、今回のモデルの最短撮影距離30cmとはかけ離れています。

従って、ネット上でよく掲載されている光学系構成図はこのプロトタイプからトレースした
構成図ばかりが使われているようなので違いますね(笑)

右図は今回バラした際の清掃時にデジタルノギスで計測しほぼ正確に
トレースした構成図です。最短撮影距離:30cmの短縮化により必然的に各群の曲率なども異なっている3群4枚のテッサー型構成です。
(前述のINDUSTAR−61 5.2cm/f2.8の構成図とは異なる)

ちなみに、ロシアンレンズの中には「M39マウント」と呼称されている「Zorki (ゾルキ) マウント」が存在しますが、マウントネジ規格は
内径:39mm x ピッチ:1mmなので「ライカ判スクリューマウント」の「L39マウント」と混同されがちです。

L39:Leicaスクリュー (内径:39mm x ピッチ:1mm) フランジバック:28.8mm
M39:Zorki スクリュー (内径:39mm x ピッチ:1mm) フランジバック:45.2mm
M42:PRKTICAスクリュー (内径:42mm x ピッチ:1mm) フランジバック:45.46mm

何を言いたいのか?

オークションなどで「L39/M39」を混同したまま掲載されている事が多いので、フランジバックが違う事を警戒しなければイケマセン。さらに悪質な出品の場合「M39にM42変換リングを装着してM42としても使える」と平気で案内している事が今でも時々見かけます。

違いますョね? フランジバックが異なるのでマウントのネジ径だけをM42に合わせる事ができても無限遠位置はズレますから要注意です (オーバーインフ量が多い)。


上の写真はFlickriverで、このモデルの特徴的な実写をピックアップしてみました。
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)
※各写真の著作権/肖像権がそれぞれの投稿者に帰属しています。

一段目
左端からシャボン玉ボケが破綻して背景ボケへと変わっていく様をピックアップしていますが、条件が揃うとf値「f5.6f8」辺りで「ダビデの星」型のボケが表出し易くなります。従って、ご覧のようにちゃんと円形ボケも出せますが、総じて背景ボケはエッジが角張り易いので注意が必要です。

二段目
ピント面の鋭さはさすが3群4枚のテッサー型だけあって相当なレベルですが、如何せん右側2枚の実写のとおりダイナミックレンジが相当狭いモデルなので、明暗部がストンと堕ちます (つまり暗部の黒潰れと明部の白飛びが極端になり易い傾向がある)。その意味で相応に撮影スキルが要求されるモデルとも考えられます。

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。内部構造が簡単で構成パーツ点数も少ないので整備レベルとして考えると「初心者向け」です。

↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒です。このモデルは鏡胴が「前部/後部」の二分割式なので、ヘリコイド (オス側) は鏡胴「後部」側に配置されています。

光学系前群の特に第1群 (前玉) がご覧のように鏡筒のだいぶ奥まった位置にセットされるので、ほとんどフード無しでも使えてしまうくらいですが、残念ながら冒頭の実写のとおりフレアに滅法弱いのでハレ切りを考えて撮影するシ〜ンもあったりします。

絞り羽根には表裏に「キー」と言う金属製突起棒が打ち込まれており (オールドレンズの中にはキーではなく穴が空いている場合や羽根の場合もある) その「キー」に役目が備わっています (必ず2種類の役目がある)。製産時点でこの「キー」は垂直状態で打ち込まれています。

位置決めキー
位置決め環」に刺さり絞り羽根の格納位置 (軸として機能する位置) を決めている役目のキー

開閉キー
開閉環」に刺さり絞り環操作に連動して絞り羽根の角度を変化させる役目のキー

位置決め環
絞り羽根の格納位置を確定させる「位置決めキー」が刺さる環 (リング/輪っか)

開閉環
絞り羽根の開閉角度を制御するために絞り環操作と連動して同時に回転する環

↑6枚の絞り羽根を組み付けて絞りユニットを完成させます。

↑完成した鏡筒を立てて撮影しましたが、光学系が3群4枚のテッサー型にも拘わらず、相当深い (長い) 鏡筒です。

↑プリセット絞り機構部を組み付けてから「プリセット絞り環/絞り環」も組み込んでしまいます。

このモデルは「プリセット絞り環が絞り環を兼務」している設計なのですが、その事をちゃんと丁寧に案内してくれているサイトが意外にも少なく(笑)、オールドレンズ沼初心者の方々にはプリセット絞り値の設定方法など知らないまま使っている人が結構居たりします(笑)

SNSなどのインスタ映え写真が流行っているからと、このモデルも取り扱うサイトが多いですが、ちゃんとそういう配慮までして掲載する事が最終的に見ている人の手助けに繋がっているのだと考えるのですがねぇ〜(笑)

プリセット絞り環/絞り環」の使い方は、このブログの最後のほうで解説します。

↑鏡胴「前部」はこれで完成したので、ここからは鏡胴「後部」の組み立て工程に入りますが、鏡胴「後部」側は単にヘリコイド (オスメス) がセットされるだけなので至ってシンプルです。

上の写真は距離環やマウント部が組み付けられる基台 (指標値環を兼ねる) です。

↑距離環 (ヘリコイド:メス側) を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。

↑さらにヘリコイド (オス側) を、やはり無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルは全部で10箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。

↑上の写真は距離環を回して無限遠位置でカチンと突き当て停止した状態を撮っていますが (グリーンの矢印)、この時ヘリコイド (オス側) は当然ながら最も収納された位置まで格納されています (赤色矢印)。

すると上の写真をご覧頂ければ明白ですが、一つ前の写真も含めヘリコイドグリースが全く
ハミ出ていたりしません
(笑)

これが一般的な整備と当方のオーバーホールとの違いです。当方ではヘリコイドグリースをビッチリ多量に塗ったりしません。どんだけ僅かな量だけしか塗っていないのか、お分かり頂けるように上の写真を撮影しました。ヘリコイド (オス側) が収納されている位置なので、ヘリコイドのネジ山に塗布されているヘリコイドグリースが「普通はハミ出てきて溜まっている状態になる」事が多いハズですね(笑)

これがまさに当方の「DOH」の特徴ですが、最終的にオールドレンズ内部に塗布するグリース量を徹底的に少なくする事で、今後将来的に生じるであろう「揮発油成分」が光学系内に廻ってしまい「光学系コーティング層の経年劣化を促してしまう」のを防ぐ事を命題としています。

つまり徹底的にグリース塗布量を少なくする事でオールドレンズの「延命処置」に繋がっていると言う考え方です。

必然的に、ヘリコイド (オスメス) のネジ山の状況によって塗布するヘリコイドグリースの性質を分けて使いますから、メインで使っている「黄褐色系グリース」も今では13種類まで増えてしまいました (他に白色系グリースも3種類ありますが)(笑) 今回はロシアンレンズだったので
グリース会社の方に選定頂いたロシアンレンズ専用グリースを使っています (だから塗布量が少なくても適正なトルクを維持できる)。

但し、そもそもロシアンレンズが製産時点で内部の至る箇所にベットリと純正の「黄褐色系
グリース
」が塗られている (鏡筒内部や光学系格納筒にまで塗布している) 理由は、国土に氷点下40度以下まで下がってしまう極寒地帯が存在するからであり、日本国内で一般流通している
ー20℃〜+120℃のグリースでは凍結してしまい「金属凍結を防げない」問題が発生します。

そのような使用環境下でも問題なく使えるよう油成分の非常に濃い純正グリースを使っているのがロシアンレンズです。従って、日本国内での使用に限定して考えるなら、金属凍結まで想定する必要は無く必要箇所だけに塗布する考え方で問題ないと当方では結論しています (但し山岳使用など特殊条件下では再整備が必要です)

なお、たまたま今回のモデルと同型品『INDUSTAR−61 L/Z 50mm/f2.8 (M42)』を7年前に当方がオーバーホール/修理した方が、落下させてしまい距離環が回らなくなってしまったオーバーホール/修理を先日承りました (再整備になるが落下により距離環が凹んでしまい固着していた)。

凹んだ箇所は元通りに戻せませんが、可能な限り変形を修復して距離環が回るように改善させ、且つトルクムラも最大限に低減させました。その作業をした際に、当然ながら自ら7年前にオーバーホールした個体ですから「7年前に塗布した黄褐色系グリースの経年劣化状況」を確認した次第です

ありがたい事にとても大事にお使い頂いたようで、塗布したヘリコイドグリースはたいして劣化が進行しておらず「相変わらずシットリ感漂うトルクを維持」していました。つまり当方が嫌う「白色系グリース」のように数年 (早ければ1年足らずで) 液化が進んでしまい、揮発油成分が内部に廻り始めるような状況に (7年経っていても) 至っていませんでした。

この場を借りて大事にお使い頂いていた事にお礼申し上げます。ありがとう御座います!
(今回の個体とは違います)

当方がオーバーホールを始めて8年が経過しているので、今までに1年〜6年までの過去整備個体を回収してチェック済ですから、これで7年目の個体も確認できました (ありがとう御座います!)。残るは8年目の個体をチェックできれば、当方が使っている「黄褐色系グリース」の素性を検証できると言うものです (機会があれば自ら整備した個体をチェックして確認しています)。

この後は完成している鏡胴「前部」をセットして、光学系前後群を組み付けてから無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行えば完成です。

修理広告     DOHヘッダー

ここからはオーバーホールが完了した出品商品の写真になります。

↑完璧なオーバーホールが終わっています。前回オーバーホールしたのが「解体新書:LZOS (Lytkarino) INDUSTAR−61 L/Z−MC 50mm/f2.8《後期型》(M42)」でしたので、1年半が経ってしまいました。

↑光学系内の透明度が非常に高い状態を維持した個体です。LED光照射でもコーティング層経年劣化に伴う極薄いクモリすら皆無です。残念ながら、コーティング層の細線キズ (ヘアラインキズ状に剥がれている箇所) が複数ありますが、光に反射させていろいろな角度で見ると見えるものの、LED光照射でチェックするとほとんど見えなくなってしまい「実際は2mm長程度のヘアラインキズが数箇所あるだけ」のレベルです。

このコーティング層のヘアラインキズはパッと見で「線キズ/ヘアラインキズ」に見えてしまいクレームになり易いのですが、LED光照射では視認できないので当方では「光学硝子レンズ面に付いているキズではない (硝子材が削れたキズなら視認できてしまうから)」と考えています。

従って「あくまでもヘアラインキズに見えてしまうコーティング層の細線状剥がれ」との認識です (LED光照射で視認不可能な場合)。クレーム判定などの基準になりますのでご留意下さいませ

↑上の写真 (3枚) は、光学系前群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。

1〜2枚目でヘアラインキズ状に見えていますが (写っていますが)、3枚目の透過撮影時にはヘアラインキズ状が視認できていませんからコーティング層のハガレだと言えるワケです。

↑光学系後群側も貼り合わせレンズですが透明度が高く、LED光照射で極薄いクモリが皆無です。

↑上の写真 (3枚) は、光学系後群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。

【光学系の状態】(LED光照射で様々な角度で確認)
・コーティング劣化/カビ除去痕等極微細な点キズ
(経年のCO2溶解に拠るコーティング層点状腐食)
前群内:10点、目立つ点キズ:6点
後群内:19点、目立つ点キズ:15点
・コーティング層の経年劣化:前後群あり
・カビ除去痕:あり、カビ:なし
・ヘアラインキズ:あり(前後群内多め)
・バルサム切れ:無し (貼り合わせレンズあり)
・深く目立つ当てキズ/擦りキズ:なし
・光源透過の汚れ/クモリ (カビ除去痕除く):なし
・光学系内には極微細な薄いヘアラインキズ状のの細線(コーティングハガレ)が複数あります。
実際にLED光照射するとヘアラインキズとして視認できるのは2mm長程度が数本レベルですが光に反射させていろいろな角度で眺めるとヘアラインキズのように見えてしまいます。
・その他:光学系内は微細な塵や埃が侵入しているように見えますが清掃しても除去できないCO2の溶解に拠る極微細な点キズやカビ除去痕、或いはコーティング層の経年劣化です。
・いずれも全て実写確認で写真への影響ありません。

↑6枚の絞り羽根もキレイになりプリセット絞り環/絞り環共々確実に駆動しています。絞り羽根が閉じる際は「完璧に正六角形を維持」したまま閉じていきます。

ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感が僅かに感じられるものの当方にて筐体外装の「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。「エイジング処理済」なのですぐに酸化/腐食/錆びが生じたりしません。

 

↑【操作系の状態】(所有マウントアダプタにて確認)
・ヘリコイドグリースは「粘性:中程度と軽め」を使い分けて塗布し距離環や絞り環の操作性は非常にシットリした滑らかな操作感でトルクは「普通」人によって「重め」に感じ「全域に渡って完璧に均一」です。
・距離環を回すとヘリコイドのネジ山が擦れる感触が伝わる箇所があります。
・ピント合わせの際は極軽いチカラで微妙な操作ができるので操作性は非常に高いです。
・設計上(構造上)プリセット絞り環のクッションは必ずしも水平状態になりません(スプリングが4本入っている為)。軽い操作でプリセット絞り値を変更できるよう調整してあります。
・絞り環操作も確実で軽い操作性で回せます。

【外観の状態】(整備前後関わらず経年相応の中古)
・距離環や絞り環、鏡胴には経年使用に伴う擦れやキズ、剥がれ、凹みなどありますが、経年のワリにオールドレンズとしては「超美品」の当方判定になっています (一部当方で着色箇所がありますが使用しているうちに剥がれてきます)。
当方出品は附属品に対価を設定しておらず出品価格に計上していません(附属品を除外しても値引等対応できません)。

なお、このモデルは距離環を回して最短撮影距離位置まで繰り出した時、左写真の赤色矢印のように距離環とプリセット絞り環/絞り環との間に一部「隙間」が現れます。

これはそのような設計なので改善ができません (全ての個体で必ず隙間が空きます)。告知済なのでクレーム対象としません。

↑当初バラす前のチェック時点で「プリセット絞り環の操作がガチャガチャしていて硬い」印象でした。さらにクッション性も悪く数回操作しなければ希望するプリセット絞り値にセットできない状況でした。

これらプリセット絞り環の操作性を今回のオーバーホールでは改善させており、小気味良い軽い操作でカチカチと希望するプリセット絞り値にセットできるように仕上げています。また絞り環側も当初スカスカ状態でしたので、逆に極僅かですがトルクを与えて相応な操作性に仕上げました。

一方、距離環を回すトルク感は軽すぎず重すぎずと言う、当方の特徴たる滑らかな (決して無機質ではない) トルク感に仕上がっているので、今までに当方が整備した個体をお使いの方にはよくご存知の仕上がり状態です(笑)

無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。

もちろん光学系の光路長調整もキッチリ行ったので (簡易検査具によるチェックなので0.1mm単位や10倍の精度ではありません)、以下実写のとおり大変鋭いピント面を確保できました。電子検査機械を使ったチェックを期待される方は、是非ともプロのカメラ店様や修理専門会社様が手掛けたオールドレンズを手に入れて下さい当方の技術スキルは低いのでご期待には応えられません

↑オリジナルな純正プラスティック製ケースが附属しています。

↑余談ですが、ここからは「プリセット絞り機構の操作方法」を解説します。

最小絞り値「f16」が開放f値「f2」で逆の考え方になっている。希望f値に
セットするとその最大値が絞り値になる仕組み。

上の解説は、プロのフォトグラファーがこのモデルを自ら整備してヤフオク! 出品ページで案内している説明ですが、何を言っているのか全く分かりません(笑)

まず、このモデルは「プリセット絞り環と絞り環が兼用」の設計ですから、プリセット絞り値をセットしたい時も絞り羽根の開閉動作をしたい時も、全て「一つの環だけで操作する」仕組みです。

上の写真では、当初開放f値「f2.8」にセットしてある状態を撮影しています。絞り環用 (プリセット絞り環用も兼ねる) 基準「」マーカー (赤色矢印) の位置に開放f値「f2.8」が合致している状態です (グリーンの矢印)。

ここで、例として今回はプリセット絞り値を「f5.6に設定する」操作を解説していきます。

すると、まず「プリセット絞り環/絞り環」を指で掴んだままマウント側方向に引き戻します (ブルーの矢印①)。内部にスプリングが入っているのでクッション性がこの「プリセット絞り環/絞り環」には備わっており、ブルーの矢印①の方向に引き戻す事ができます。

引き戻したままブルーの矢印の方向に回して設定するプリセット絞り値「f5.6」の場所でカチッとハメ込みます ()。基準「」マーカーの位置に「f5.6」が来るので、その時に指を離すとカチッと填ります ()。

↑するとプリセット絞り環/絞り環用の基準「」マーカー位置 (赤色矢印) に「f5.6」が来ている (グリーンの矢印) ので「絞り羽根がf5.6まで閉じている」状態ですから (実際に覗き込んで見れば絞り羽根が閉じているのが分かる)、ブルーの矢印④方向に回して一旦絞り羽根を開いて「開放状態」にします。

その状態で距離環を回してピント合わせを行い、シャッターボタンを押し下げて撮影する直前で「絞り羽根をプリセット絞り値まで閉じる」操作をします。

↑開放f値「f2.8」の状態でピント合わせを行ったので、再び回して「f5.6」を基準「」マーカーに合わせます (ブルーの矢印⑤つまり絞り羽根が閉じる)。

シャッターボタンを押し下げて撮影を行います。

↑撮影が終わったら元の開放f値「f2.8」の状態に戻すだけですから逆の操作をします。再びマウント側に引き戻して (ブルーの矢印⑥) 指で掴んだまま「f2.8」方向に回します ()。基準「」マーカー位置に「f2.8」が合致しますから、そこで指を離すとカチッと填ります ()。

これで開放f値「f2.8」から全く動かない状態に戻りました。つまり「f2.8設定したプリセット絞り値」の間でプリセット絞り環/絞り環が回せる仕組みであり、同時に基準「」マーカー位置に合致させた絞り値が絞り羽根の状態になっている設計です。

今回の例で言えば、基準「」マーカー位置に「f5.6」が来た時は絞り羽根がそこまで閉じていたワケですし、逆に回して「f2.8」の時は完全開放していましたね(笑)

ちなみに、鏡胴の「CCCP」マークはロシア語のキリル文字で示されている「旧ソ連時代の品質保証マーク」であり「CCCP」はキリル文字なので、ラテン語/英語にすると「SSSR (Sojúz Sovétskikh Sotsialistíčeskikh Respúblik)」つまりは「ソビエト社会主義共和国連邦」を意味します。

↑当レンズによる最短撮影距離30cm付近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。

この実写はミニスタジオで撮影していますが上方と右側方向からライティングしています。その関係でフードを装着していない為に絞り値の設定によりハレ切りが不完全なまま撮影しています。一応手を翳していますがハレの影響から一部にコントラスト低下が出てしまうことがあります (簡易検査具による光学系検査を実施済で偏心まで含め光軸確認は適正/正常)。

↑絞り環を回して設定絞り値「f4」で撮影しています。

↑さらに回してf値「f5.6」で撮りました。

↑f値は「f8」に変わっています。

↑f値「f11」です。極僅かですが「回折現象」の影響が現れ始めています。

 回折現象
入射光は波動 (波長) なので光が直進する時に障害物 (ここでは絞り羽根) に遮られるとその背後に回り込む現象を指します。例えば、音が塀の向こう側に届くのも回折現象の影響です。
入射光が絞りユニットを通過する際、絞り羽根の背後 (裏面) に回り込んだ光が撮像素子まで届かなくなる為に解像度やコントラスト低下が発生し、眠い画質に堕ちてしまいます。この現象は、絞り径を小さくする(絞り値を大きくする)ほど顕著に表れる特性があります。

↑最小絞り値「f16」での撮影です。