◎ Carl Zeiss (カールツァイス) CONTAREX Tessar 50mm/f2.8 (black)(CRX)

(以下掲載の写真はクリックすると拡大写真をご覧頂けます)
写真を閉じる際は、写真の外 (グレー部分) をクリックすれば閉じます
※解説とオーバーホール工程で使っている写真は現在ヤフオク! 出品中商品の写真ではありません

オーバーホール/修理ご依頼分ですが、当方の記録用として掲載しており
ヤフオク! 出品商品ではありません (当方の判断で無料掲載しています)。
(オーバーホール/修理ご依頼分の当ブログ掲載は有料です)


CONTAREX版のCarl Zeiss製オールドレンズは数多くオプション交換レンズ群を扱ってきた つもりでしたが、気が付いたら今回のテッサーはまだ初めてでした(笑)

今回テッサーを扱ったので、ほぼ広角レンズ〜ポートレート域までの主要モデルをバラして オーバーホールしてきた事になりますが、いろいろこのCONTAREX版モデルをイジっていて 一つ到達した/導き出された結論があります。

《CONTAREX版モデルのピントの合い方/印象》
CONTAREX版モデルのピントのピークは、むせるような煙霧の中からいきなり突然現れて
しかも息つく間もなく「アッと言う間」にピークを迎えそしてそのまますぐに消え去る
・・まるで不意に頬を心地良く撫でていく風のよう・・

・・と、こんな印象がほぼ全てのモデルで共通項になっていると断言できてしまうほどに似たような印象を覚えます。しかもそのピントのピークは「突然全てが明確に見えて一瞬のうちに状況把握」のような、それこそ脳をフル回転させているような感覚さえ残る一瞬の出来事としてその鋭さを表現できると思います。

この瞬間の時・・ピント合焦した瞬間・・普通ならちゃんと鋭くピントが合ったのかどうかが気になるところですが、このCONTAREX版オールドレンズの場合はそんな事を気にかけている余裕すらありません(笑) さらに言える事は、それを気にしていた事すら撮影後には一切覚えていないと言うほどに「鋭くピントが合焦しているのは必然であってその確認すら必要が無い」とも言い切れる結果しか残っていない事に対する絶大なる安心感です。

ちょっと大袈裟に、しかもイメージ的な表現手法で書き連ねてしまったかのように見えますが然し実際の撮影でピントが合う瞬間の「その一瞬のひととき」をコトバでツラツラと書き表すとこんな感じになると考えます(笑)

その意味で少しずつピントが合っていくオールドレンズとは全く対極に位置する当方にとってとても珍しい印象として結論したモデルとも言えます。そしてこれがある特定のモデルだけ/ 焦点域だけの話なら大きな感動に繋がらないワケですが、これがほぼ全てのモデルに共通的に抱く印象なのだとすると、これは明らかに「光学設計に一貫性のあるこだわり」と受け取らざるを得ません。それは (本当にそうなのか否かなど全く知りませんが) Zeiss Ikon設計陣のこのCONTAREXに賭ける並々ならぬ情熱と熱意がCarl Zeissに語られ/伝わって光学設計へと活かされ結実した特徴なのではないかと疑ってやみませんね(笑)

それこそ今でこそ「ピピッと瞬時にピント合焦する」デジタルなレンズの世界では特に新鮮さを伴う話ではありませんが(笑)、マニュアル操作しか存在しないオールドレンズの世界に於けるこの合焦の仕方は『オドロキ』を以て心に刻まれてしまいますね(笑) それは逆に言えばこの当時1950年代の「デジタルなピントの合い方をまだ知らない世界」に於いては驚異的な合焦として受け取られたのではないかと・・当方にとっては止め処なくロマンの広がりゆく話でしかあり得ませ(笑)

ネットを見ていても数多くCONTAREX版モデルの解説サイトがありながら、然しこのような ピントの合い方に感銘を受けた人の話が皆無な点に何とも寂しい想いが過ります・・どんなにデジタルが当たり前になったとしても「人としての感覚のDNA」だけはそのまま記録していきたいと願うばかりです(笑)

  ●               

1959年に旧西ドイツのZeiss Ikonから発売された一眼レフ (フィルム) カメラ「CONTAREX (コンタレックス)」は後に「CONTAREX I型」と呼ぶようになり、巷での俗称「Bullseye (ブルズアイ)」の愛称と 共に今もなお憧れの的であり続ける僅か約32,000台しか製産され
なかったカメラです。

大きな円形窓が軍艦部に備わりますが絞り羽根開閉動作とシャッタースピードの両方に連動する世界初のクィックリターン式ミラーを装備した一眼レフ (フィルム) カメラですね。この円形窓を指して「Bullseye」と呼ばれますがセレン光電池式連動露出計であり、この俗称の由来は「bulls (雄牛) のeye (目) を射貫く」から来ており「射る的」転じて最近では軍用語でもある「攻撃目標地点 (ブルズアイ)」に至っています (攻撃目標を無線などで傍受されても分からないようする暗号として使われた)。

1959年の発売と同時に用意されたオプション交換レンズ群は実に多彩で、焦点距離21mm から何と1,000mmまで揃っていたので、本気度が違いますね(笑) とは言いつつも、現実的な話しとして非常に高価なフィルムカメラだっので、はたしてこれらオプション交換レンズ群を揃えられた人が世界中でいったいどれだけ居るのかと考えてしまいます(笑)

今回扱った個体は「黒色鏡胴モデル」ですが、本来1960年発売された軍艦部からCDs露出計を取り外したモデル「CONTAREX special」と同時に追加発売されのがこの黒色鏡胴でもあります。

僅か1年足らずでせっかく装備していたCDs露出計を取り外してしまった理由はいったい何だったのでしょうか、或いは販路を拡大する為の拡張路線としてモデルを追加してきたと言う意味合いのほうが強かったのでしょうか、今となっては知る由もありません。

ネット上のサイトを見たりそれこそヤフオク! などを見ているとこの「Tessar 50mm/f2.8」に対して「鷹の目テッサー」を標榜している事が多いように感じますが、実は当方はどうしてもこの「」である点が納得できません!(笑)

逆に言うなら、世界中で「テッサー相手に鷹を持ってくる輩は唯一日本人だけ!」と言い切ってしまっても良いかも知れません(笑) これ、ハッキリ言って世界の中で本当に恥ずかしい話です(笑)

世界では「威厳/誉れ/栄光/権威」として対象に扱われるのは「hawk」ではなくて暗黙の了承として「eagle」のハズなのです(笑) 何故ならヨーロッパの名だたる名家の家紋や それこそ国旗に使われているのは「鷹ではなくて鷲」だからです(笑)

そしてこのオールドレンズの「Tessarシリーズ」にはそれにプラスして「鋭さ」をも含ませた意味合いが込められているので、実際に当時これは旧東ドイツ側Carl Zeiss Jenaで使われていた「Tessar広告」 ですが、ご覧のとおり「鷲のアイコン」まで作って用意している気の入れようです(笑)
(右上にeagleを表すアイコンが附随する)

そして広告には「ZEISS-TESSAR Das Adlerauge Ihrer Kamera」とドイツ語で表記され「あなたのカメラの鷲の目」と間違いなく「eagle」である事を示しています (ラテン語/英語翻訳の場合)。

もう一度言います! 島国ニッポンでは大きさが一回り小振りの「hawk」のほうが鷲よりも種類が多く知名度も高いワケですが、それは「島国ニッポンだけの話」なのでテッサー 相手に「鷹の目」はやめましょうョ!(笑) ちなみに当時に間違いなく「鷹の目」を標榜してメーカー自らその称号を与えていたのは「MINOLTA製MC ROKKOR-PG 58mm/f1.2」です (当時のカタログにも記載あり)。


上の写真はFlickriverで、このモデルの特徴的な実写をピックアップしてみました。
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)
※各写真の著作権/肖像権がそれぞれの投稿者に帰属しています/上記掲載写真はその引用で あり転載ではありません。

実は特にこのCONTAREX版Tessar 50mm/f2.8の実写として特徴的な写真を発見できなかったので、今回は解説を諦めました(笑) 光学系は当然ながら典型的な3群4枚のテッサー型構成なワケですが、第1群前玉の曲率や外径サイズはまさに当時の取扱説明書に印刷されていた構成図そのままでしたが、第2群以降は量産型では少々違っていました。特に第2群の両凹レンズの厚みが他に存在するテッサー型光学系と比べると独特のような気がします(笑)

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。特に特異な要素は存在せず、CONTAREX版オプション交換レンズ群の他のモデルと同じ内部構造 (概念) を採っています。他にモデルバリエーションとしてはシルバー鏡胴が存在しますが (まだ扱ったことがありせんが) おそらく同一だと考えられます (発売のタイミングが1年も開きがないので設計変更する要素が無い)。

↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒ですが、実際に絞り羽根が配置されるのはこの裏側にある「光学系後群側格納筒」のほうになります (上の写真は前玉側方向から撮影した鏡筒の写真)。

絞り羽根には表裏に「キー」と言う金属製突起棒が打ち込まれており (オールドレンズの中にはキーではなく穴が空いている場合や羽根の場合もある) その「キー」に役目が備わっています (必ず2種類の役目がある)。製産時点でこの「キー」は垂直状態で打ち込まれています。

位置決めキー
位置決め環」に刺さり絞り羽根の格納位置 (軸として機能する位置) を決めている役目のキー

開閉キー
開閉環」に刺さり絞り環操作に連動して絞り羽根の角度を変化させる役目のキー

位置決め環
絞り羽根の格納位置を確定させる「位置決めキー」が刺さる環 (リング/輪っか)

開閉環
絞り羽根の開閉角度を制御するために絞り環操作と連動して同時に回転する環

↑完成した鏡筒を立てて撮影しています (写真上側が前玉側方向)。鏡筒からは絞りユニットから飛び出てきている「開閉アーム」が1本あるだけの非常にシンプルな設計です (ブルー矢印のように開閉アームが駆動し絞り羽根が開閉します)。

↑鏡筒が完成してしまったらそれ以上やる作業が無いので (後は光学系前後群を組み付けるだけなので) ここからはヘリコイド (オスメス) の作業に移ります。

上の写真は距離環やマウント部が組み付けられる基台です。両サイドに「直進キー」と言う円弧を描いた板状パーツが削り出しで用意されており、この「直進キー」がヘリコイド (オス側) にある「」に刺さります (赤色矢印)。

↑この基台には内側にもう一つの環 (リング/輪っか) で「制御環」というのがセットされます (グリーンの矢印)。「制御環」には途中に1箇所「開閉アームガイド」と言う板状パーツが飛び出ていて、そこに用意されている「斜め状の溝」に前述の鏡筒から飛び出ている「開閉アーム」が刺さって上下にスライドするので絞り羽根の開閉角度が決まります (絞り羽根が完全開放したり最小絞り値まで閉じるのでその分の移動量をみて溝が斜めになっている)。

↑距離環を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。距離環の裏側はご覧のとおり「ヘリコイド (メス側)」のネジ山になっています。

↑やはり無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでヘリコイド (オス側) をネジ込みます。このモデルでは全部で15箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。

するとご覧のとおりヘリコイド (オス側) に用意されている「」に前述の「直進キー」が刺さるので、距離環を回すと (ブルーの矢印①) 回転するチカラが変換されて直進動に変わるので「ヘリコイドが直進動する (ブルーの矢印②)」動きになる原理ですね(笑)

なお、この時斜め状の溝になっている「開閉アームガイド」は独立して動くので、距離環のピント合わせとは別に絞り羽根の開閉ができる (つまりボケ味を変えられる) ワケです(笑)

↑無限遠位置や絞り羽根の開閉幅 (開口部の大きさ/カタチ/入射光量) などの微調整を全てキッチリ済ませたらマウント部を組み付けます。この後は管制している鏡筒に光学系前後群をセットして組み込んでから無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行い、最後にフィルター枠とレンズ銘板をセットすれば完成です。

DOHヘッダー

ここからはオーバーホールが完了したオールドレンズの写真になります。

↑完璧なオーバーホールが終わりました。過去メンテナンスが施されており、内部に「」とか「」などカタカナがマーキングされていたので日本の整備会社による作業と推測できます (マーキングの意味は当方には不明)。また等されていたグリースは「白色系グリース」であり、そこいら中にこれでもかと「固着剤」が付けられていましたが、その色が「緑色の固着剤」なのでつい最近の整備ではないかとみています (おそらく数年内で10年以上経過しているようには見えません)。

↑光学系内の透明度が非常に高い状態を維持した個体でLED光照射でもコーティング層経年劣化に伴う極薄いクモリが皆無です。しかし残念ながら一部にはカビ除去痕が相応に残っています。

↑そのカビ除去痕とは上のとおり光学系後群側に少々明確に残っています。一応ご指摘があった点状カビは除去しましたがほんのり薄くカビ除去痕が残っています (いずれも写真に影響なし)。

↑9枚の絞り羽根もキレイになり絞り環共々確実に駆動しています。絞り羽根の開閉幅 (開口部の大きさ/カタチ/入射光量) もキッチリ検査具でチェックして微調整済です。

ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感が僅かに感じられるものの当方にて筐体外装の「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。「エイジング処理済」なのですぐに酸化/腐食/錆びが生じたりしません。

当方ではヤフオク! で流行っている「抗菌剤/除菌剤による清掃」などは絶対に実施しません。これをやると薬剤に含まれている成分の一部が金属の表層面に対して酸化/腐食/錆びを促す結果に至るので、早ければ1年、遅くとも数年でポツポツと錆が表れ始めます。

詳細は厚労省の「新型コロナウイルスの消毒・除菌方法について」が詳しく解説しています。

↑塗布したヘリコイドグリースは「黄褐色系グリース」を使い「普通」人により「重め」のトルク感に感じるよう仕上げています。距離環を回す時は「全域に渡って完璧に均一なトルク感」でシットリ感を伴う軽い操作性で仕上がっています。

↑基準「」マーカーと∞刻印位置がピタリと合っていませんが、申し訳御座いません・・。距離環を外すことができなかったので位置を微調整できていません。

無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。

もちろん光学系の光路長調整もキッチリ行ったので (簡易検査具によるチェックなので0.1mm単位や10倍の精度ではありません)、以下実写のとおり大変鋭いピント面を確保できました。電子検査機械を使ったチェックを期待される方は、是非ともプロのカメラ店様や修理専門会社様が手掛けたオールドレンズを手に入れて下さい当方の技術スキルは低いのでご期待には応えられません

↑当レンズによる最短撮影距離35cm付近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。

各絞り値での「被写界深度の変化」をご確認頂く為に、ワザと故意にピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に電球部分に合わせています。決して「前ピン」で撮っているワケではありません。またフード未装着なので多少フレア気味だったりします。

↑絞り環を回して設定絞り値「f4」で撮影しています。

↑さらに回してf値「f5.6」で撮っています。

↑f値は「f8」に上がっています。

↑f値「f11」になりました。

↑f値「f16」です。

↑最小絞り値「f22」での撮影です。大変長い期間に渡りお待たせし続けてしまい本当に申し訳御座いませんでした。お詫び申し上げます。今回のオーバーホール/修理ご依頼、誠にありがとう御座いました。