◎ RICOH (リコー) RIKENON P 28mm/f2.8(PENTAX K)

ricoh-logo当方でもこのモデル「RIKENON P」シリーズはほとんど詳細を知らないのですが、ネット上の情報を探ってみてもたいしてヒットしません。製造していた光学メーカーは「コシナ」や「シグマ」との解説が主流を占めています・・。しかし、バラして見ると「見えてくる」モノがありますね。

この当時のリコーの焦点距離28mmの広角レンズには複数のモデルが存在します。「AUTO RIKENON」銘に「RIKENON」や「XR RIKENON」などですが、これらのシリーズはさらに細かな仕様変更や、そもそもの製造光学メーカーの変遷を経てビミョーに相違点が顕在するモデルが各シリーズに散りばめられています。外観からだけでの判断ではなかなか納得できる要素が少ないですね・・。

このモデル「RIKENON P 28mm/f2.8 (PK)」に関しては「前期型」と「後期型−Ⅰ」「後期型−Ⅱ」が存在しています。「和製ズミクロン」の異名を持つ有名な「XR RIKENON 50mm/f2 (PK)」では「前期型」とレンズ銘板に「L」刻印を含む「後期型」が「富岡光学製」になり、それ以外の「P」付や「S」付などは「日東光学製」になるようです。

今回取り扱うのはその「前期型」にあたります。そもそもモデル銘に「P」を含んでいる「ブログラム露出撮影」に対応したタイプですから、その要素だけでも「XR RIKENON 50mm/f2 (PK)」に倣い「富岡光学製」は除外されているようですね・・さて、真相はどうなのでしょうか?

  • 「前期型」:鏡筒カバー (フィルター枠) と距離環=金属製、指標値環と絞り環=樹脂製 (プラスティック製)、距離環回転方向=「左回り」、レンズ銘板「P」刻印、最短撮影距離=30cm。
  • 「後期型−Ⅰ」:総樹脂製 (プラスティック製)、距離環回転方向=「右回り」、レンズ銘板「P」刻印、最短撮影距離=25cm。
  • 「後期型−Ⅱ」:総樹脂製 (プラスティック製)、距離環回転方向=「右回り」、レンズ銘板「MACRO」と「P」刻印、最短撮影距離=25cm。

※「後期型」の2つに関しては当方の写真やデータがバソコンのクラッシュ時に消えてしまい確認はできていません。


オーバーホールのために解体した後、組み上げていく工程を解説を交えて掲載しています。

すべて解体したパーツの全景写真です。

RK2828(0717)11ここからは解体したパーツを実際に使って組み立てていく組立工程写真になります。

まずは絞りユニットや光学系前群を収納する鏡筒 (ヘリコイド:オス側) です。

RK2828(0717)12この鏡筒は、何処かで見たような記憶がありますが・・(笑) その似ている鏡筒を生産している光学メーカーを仮に「X光学」とします。それに比べるとアルミ材削り出しにメッキを被せているのは同じなのですが、材料は肉厚でアルミ合金材の成分を少しいじっているようで、アルミ材削り出しにしては少々固い素材のほうを使っています (磨き研磨を施すと判明します)。

6枚の絞り羽根を組み付けて絞りユニットを完成させます。

RK2828(0717)13絞りユニットの「メクラ蓋 (上の写真のネジ止めしている黒色の環状のモノ)」の仕様と、さらに絞り羽根をセットする台座の仕様も、近似した形状の「X光学」の鏡筒とは・・少々異なっています。しかし「絞り羽根」がひとつ目の決定打でした・・過去に出品したオールドレンズのオーバーホール写真をご覧頂ければ、同じ形状の絞り羽根があります。光学メーカーが異なれば、自ずと絞り羽根の「形状」や「キー」の打ち込み箇所、或いは「キー」自体のサイズは同一にならないのが道理です。

次の写真はこのままの状態で鏡筒の裏側を撮影してみました。

RK2828(0717)14出てきました・・2つ目の決定打です。この「仕組み」は何処の光学メーカー製になるのでしょうか? やはり同様に製造メーカーが異なるのに同一の「構造化」でわざわざコストを掛けて同じ部品を設計し生産はしないと思います。自社独自の設計思想でちゃんと作ればいいハズですから・・。しかもワッシャーまで同じです(笑)

次の写真は距離環やマウント部を組み付けるための基台です。

RK2828(0717)15相当に深さのある豪華な造りをした基台です。もっと簡易な基台でも良いと思うのですが・・。

RK2828(0717)16ヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリを付けてネジ込みます。このモデルには「無限遠位置調整機能」があるので大凡のアタリで構いません。

RK2828(0717)17先に完成していた鏡筒 (ヘリコイド:オス側) を、やはり無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルでは全部で12箇所のネジ込み位置がネジ山にありますから、さすがにここをミスると組み上げが終わって完成した後に、無限遠が出ずに (合焦せずに) 再度バラしての組み直しに陥ります。

次の写真はこの状態でひっくり返して撮影した写真です。

RK2828(0717)18上の写真の手前側に真鍮製の細長い円弧状のパーツがネジ止めされています。「絞り環」の各絞り値でクリック感がありますが、そのクリックの仕組みがこの部分になります。

鋼球ボールとマイクロバネを組み付けて絞り環をセットします。

RK2828(0717)19ここまではすべて金属製パーツばかりでしたが、この絞り環は「樹脂製 (プラスティック製)」になります。上の写真右端には「ブログラム露出モード」用のプッシュ式ロックボタンが用意されています。押し込むことで「P」位置にセットでき、解除時もボタンを押し込むことで通常の各絞り値でのセットができるように戻ります。ちなみにこの「前期型」のロックボタンは「ラバー製」ですが、この後の「後期型」では「金属製」に変わっています。

RK2828(0717)20マウント部を組み付けてしまいます。その際に基台とマウント部との間に「露出伝達基板」をネジ止めして、且つ「露出値伝達端子」を組み込みます。

この状態で基の向きに戻して指標値環を組み付けます。

RK2828(0717)21この指標値環の基準マーカー位置をミスるとすべての位置がズレてしまいますが、このモデルでは指標値環の固定位置はネジ止め位置で決まっているのでセットはとても楽です。

ここで光学系前後群を組み付けてしまいます。まずは光学系前群です。

RK2828(0717)22また出てきました・・3つ目の決定打です。このレンズ収納筒も何処かで見た記憶がありますね・・(笑) 前玉や第2群の極微細な点キズを写すために拡大撮影をしました。

RK2828(0717)23あまりにも極微細な点キズなので写真には写すことができませんでした。そもそもこのモデルの光学系は7群7枚のレトロフォーカス型ですから、光学系内に貼り合わせレンズを持っていません。とてもクリアな状態を維持した個体です。

光学系は順光目視にて前玉には極微細な点キズが4点に極微細なコーティングスポット3点、第2群は極微細な点キズが3点、後群は後玉に極微細な点キズ3点に後群にはコーティングの劣化に伴う極薄いコーティングムラが光に翳せば何とか視認できるレベルで生じています。光学系内はLED光照射でようやく視認可能レベルの極微細な拭きキズや汚れもありますが、いずれもすべて写真への影響はありませんでした。

次は後群です。

RK2828(0717)24 RK2828(0717)25後群の極微細な点キズも写真には写りませんでしたが、上の2枚目の写真には極薄いコーティングムラ部分が少しだけ写っています。ワザと光に翳してそのコーティングムラ部分を誇張的に写しましたが、それでもこの程度です。

さて、またまた出てきました・・最後の4つ目の決定打です。ド真ん中に、まるでコーティングスポットのように真円状の部分があります。これはコーティングスポットではなく、コーティングそのものなのですが、どうして中心部にこのような異なるコーティングを施さなければいけないのかは、分かりません。しかし、このようなコトをやっている光学メーカーは決まっています。

これら4つの要素から意外にもこの「P」付モデルは、ネット上では排除されていた「富岡光学製」であることが判明しました。「和製ズミクロン」の異名を持つ「XR RIKENON 50mm/f2 (PK)」の「P」付モデルは富岡光学製ではなくなっていました。そこから派生して当モデルも富岡光学製ではないと言う説が主流になってしまったのかも知れません・・。

実際には当モデルでは、この「前期型」のみが富岡光学製の可能性が高いです。「後期型」のほうの写真やデータを消失してしまったので確実なお話はできませんが、記憶ではそのように考えています。

RK2828(0717)26金属製の距離環を仮止めして、無限遠位置の確認や光軸確認、絞り羽根開閉幅のチェックを行えば完成間近です。

ここからは組み上げが完成した出品商品の写真になります。意外にも「富岡光学製」だった「P」付モデルは、市場ではそれほど頻繁には出回らないでしょうか・・。「XR RIKENON 50mm/f2 (PK)」のほうはワリとゴロゴロ出回っていますが、光学系内の「バルサム切れ (貼り合わせレンズの接着剤/バルサムが経年劣化で剥離し始めて白濁化し薄いクモリ、或いは反射が生じている状態) 」が非常に多くなってきているので注意が必要です。そもそも富岡光学製レンズの場合は「バルサム切れ」と「カビの発生」は非常に多いのでチェックは必ずしなければダメですね・・。当方でも最近はそのような問題のある個体を入手する確率が高いので、もう懲りてしまいあまり扱わなくなりました(笑) バルサム切れはどうにもできませんから・・。

RK2828(0717)1光学系内も極微細な点キズなどがありますが、とてもクリアな状態を維持した個体です。

RK2828(0717)2絞り羽根もキレイになり確実に駆動しています。

RK2828(0717)3ここからは鏡胴の写真になります。経年の使用感をあまり感じさせない状態の良い個体です。当方の判定では「超美品」としています。

距離環や絞り環の操作は大変滑らかになりました。距離環のトルク感は滑らかに感じほぼ均一です。ピント合わせの際は極軽いチカラで微妙な操作ができるので操作性は非常に高いです。距離環を回した際には極僅かにヘリコイドが擦れる感触を感じますが将来的に不具合を生じる心配は一切ありません。マウント部がガチャガチャと鳴るのは絞り連動ピンがぶら下がっている構造をしているためで、これはこのモデルの仕様ですので改善はできません。

RK2828(0717)4 RK2828(0717)5 RK2828(0717)6 RK2828(0717)7当然ながら、光学系の内部資料などは出回っていませんから(笑) 確認はできませんが、当方のオーバーホール経験からすると「XR RIKENON 28mm/f2.8 (PK)」と同一のように考えています。

RK2828(0717)8光学系後群も大変クリアな状態を維持しています。「富岡光学製」となると、特に光学系後群の状態が一番気になる箇所です。

RK2828(0717)9当レンズによる最短撮影距離30cm附近での開放実写です。如何ですか? この端正な写り・・。なかなか侮れませんね。

RK2828(0717)10このモデルの距離環指標値では最短撮影距離は30cmですが、実際に極僅かに先まで回ります。実測値ではほぼ27cmくらいでしょうか・・。

「後期型−Ⅰ」と「後期型−Ⅱ」に関しては富岡光学製ではないので、その描写性も違っています。特に「後期型−Ⅱ」のモデルに関しては、いくら最短撮影距離が25cm以下だからと言っても「MACRO」表示をしてしまうのは如何なものかと思いますが・・。「MACRO」を謳う以上、やはり光学系の設計でも近接撮影を考慮したものにして欲しいと思ってしまいます。

このモデル「RIKENON P 28mm/f2.8 (PK)」が投入されたのが1984年ですから、既に富岡光学は1968年にヤシカに吸収合併され子会社化されていましたし、当のヤシカ自体も経営破綻から1983年には京セラの傘下に入っています。その時代背景を考慮すると富岡光学が手掛けた最後の仕事のひとつだったのかも知れませんね・・この後富岡光学は民生用光学製品から撤退を余儀なくされたのでしょう。なかなかのロマンを感じてしまいます(笑)