◎ YASHICA (ヤシカ) YASHICA LENS ML 21mm/f3.5《富岡光学製》(C/Y)

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オーバーホール/修理ご依頼分ですが、当方の記録用として掲載しており
ヤフオク! 出品商品ではありません (当方の判断で無料掲載)。
(オーバーホール/修理ご依頼分の当ブログ掲載は有料です)


今回初めて扱うYASHICA製超広角レンズ『YASHICA LENS ML 21mm/f3.5《富岡光学製》(C/Y)』です。正直なところ、老眼が酷いので、オーバーホール工程で使っている簡易検査具による検査時に焦点距離28mm未満になると検査が大変になります。従って焦点距離20mm〜25mmまでの超広角レンズ域のオールドレンズは、最近オーバーホール/修理ご依頼をご辞退する事が多くなりました。

例えば今回のモデルで言えば、光学系内で最小径の光学硝子レンズは「僅か13.5mm」しかありませんから、光軸確認などはもぅ見える見えないの話ではありません(笑) 今回は初めての扱いでもあり、また毎月懇意にして頂いている方からのオーバーホール/修理ご依頼分なので頑張ってみました(笑)

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1977年にヤシカが発売したコンタックス・ヤシカマウント (C/Y) のフィルムカメラ「YASHICA FR」用交換レンズ群として登場した超広角レンズです。

もともと、当時は富岡光学が様々なオールドレンズをヤシカに供給していましたが、経営難からついに富岡光学は1968年ヤシカに吸収合併しています。

1971年にドイツのZeiss-Ikonがカメラ業界からの撤退を決定すると翌年1972年には旭光学工業との合弁でペンタックス・カールツァイスを設立し眼鏡事業をスタートしていますが、その際カメラ事業も打診があったようです。旭光学工業からの拒否により1974年にはヤシカとの提携に進み、1975年にフィルムカメラ「CONTAX RTS」を発売します。

この時に設計/採用されたマウント種別が「コンタックスヤシカマウント (C/Y)」であり、当時は俗に「ヤシコン」などと呼ばれていました。

右写真は当時のカタログ (英語圏) ですが、マウント名の案内は「CONTAX/Yashica bayonet」と印刷されています (赤色下線)。
つまり一般的によく呼ばれている「ヤシカ・コンタックスマウント」ではなく本家ドイツではあくまでも「CONTAX商標権」の問題から「CONTAX/Yashica bayonet」に拘っていた事が覗えます (つまりヤシコンは当時の日本人側から捉えたヤシカ版コンタックスマウントと言う認識)。

↑数多くの交換レンズ群が用意されますが、その中で超広角レンズは「Distagon T* 16mm (Fisheye)/15mm/18mm/25mm」でした。この焦点域の間隙を縫って1977年に発売してきたのが今回のモデル『YASHICA LENS ML 21mm/f3.5《富岡光学製》(C/Y)』です。
(MLシリーズはヤシカ製フィルムカメラYASHICA FR用交換レンズ群の一つ)

Distagonシリーズが近い焦点距離25mmでも7群8枚の光学系だったのに対し、今回のモデル「ML 21mm/f3.5」は何と8群12枚もの構成を採ってきました。その甲斐もあって当時本家Distagonよりもよく写るなどと揶揄されていたようです。

光学系は前述のとおり8群12枚のレトロフォーカス型構成ですが、非常に変わった光学設計が成されており、4箇所に配置されている貼り合わせレンズは、その2枚の光学硝子レンズが継ぎ目で明確に潜り込んでいる変わった設計を採っています。この「潜り込み」と言うのは、ちょうど地殻プレートの潜り込みのように、重なり合う一方の光学硝子レンズに向かって奥まった位置まで入る接着方法です (従って継ぎ目を見ると潜り込んでいるように見えてしまう)。

さらに光学硝子レンズを清掃していて興味深かったのは、メニスカスのコバ端が直線的な斜め状のカットではなく「緩やかに弧を描いている」事です。全てのコバ端が丸まっているワケで、前述の潜り込みによる接着方法も含め何かしら光学設計上の意味があるのかも知れません (一般的なオールドレンズの貼り合わせレンズは単に面 vs 面の接着でありコバ端も辺は直線)。

上の写真はFlickriverで、このモデルの特徴的な実写をピックアップしてみました。
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)
※各写真の著作権/肖像権がそれぞれの投稿者に帰属しています。

銘玉と揶揄されているワリには実写が大変少ないです(笑) 暗部に粘りがあり黒潰れせずにギリギリまで頑張っていて、ピント面の鋭さも然ることながらディストーション (歪) が素晴らしく改善されており違和感なく見ることができます。コントラストはそれほど高くなくナチュラル派的な好感が持てます。

 

左写真は当初バラし始めた時の光学系前群側 (第1群:前玉〜第5群) までの硝子レンズ格納筒を撮影しました。

赤色矢印のネジ山には「富岡光学の固着剤」がビッチリ残っています。その独特な「固着剤」を綿棒にとって並べています。

富岡光学の固着剤」は独特で必ず「赤茶色」です。固着剤と言っても嫌気性で硬化せず (空気に触れない状態で硬化しない性質の事) に粘性が残ったままの状態を維持した特殊な固着剤です (つまり指で触るといまだにドロッとしている)。

この事から光学硝子の性質を非常に良く捉えた高品質な固着剤ではないかと推測しています。と言うのも、光学硝子は熱伝導性が低いので高温下/低温下での硝子材膨張/収縮よりも「気圧差による破壊」が最も恐ろしい話になるからです。それぞれの光学硝子レンズは多くの場合「締付環」で締め付け固定されますが、高温下/低温下に伴う光学系内の気圧変化で圧壊を防ぐ意味から「締付環に適度な弾性を持たせている固着剤」ではないかと推測しています (だから指で触るとドロッとしている/硬化せず粘性が残ったまま)。

とは言っても、さすがに製産後半世紀近くを経ていると液性が出てきてヌルヌルした感じに劣化するか、或いは乾燥しきってしまいポロポロの状態になります (今回の個体は乾燥しきっている状態なので綿棒で拭ってもたいして附着しない)。すると必然的に「締付環の緩み」が発生して光路長のズレを生じ「甘いピント面」の写真に堕ちてしまいます。

実際、今回の個体をバラす前に実写チェックすると明らかにピント面の鋭さが足りない印象でした (今回初めての扱いですがそれを間引いても鋭さが納得できないピント面の状況)。

しかしその原因は別の問題でした・・。

こちらの写真 (左) も当初バラしている最中の撮影ですが、鏡筒をごっそり抜いた状態を撮っています。すると赤色矢印の領域 (ほぼ350度全周) に渡って経年の揮発油成分が液状になってヒタヒタと附着しています (鏡筒の縁部分/前玉側の位置)。

最初見た時に、セロテープでも貼ってあるのかと思ったほどテカテカ状態です。

さらに解体を進めて距離環を取り外してヘリコイド (オスメス) と基台部分を剥き出しにした状態です。

すると赤色矢印のネジ山にも全周に渡ってビッチリと「富岡光学の固着剤」が残っていますが、実はグリーンの矢印の箇所には別の固着剤が塗られていました。ここは距離環の固定箇所ですが「嫌気性の赤色固着剤」で近年の市場では「LOCKTITE (ロックタイト)」などと言う製品名で出回っていたりします。これは嫌気性なので空気に触れなくなると硬質化して接着する性質です。

従って、当初バラす際に距離環が何をやっても外れず、仕方なく「加熱処置」を施すこと数回試みてようやく外れました (通常イモネジによる締め付け固定の距離環ならイモネジを外すだけで簡単に抜ける)。

左写真は赤色矢印で「直進キー」の片側を指し示していますが、ご覧のようにグリースが塗られています。

製産時には「直進キー」にグリースを塗りませんから (ワンオーナー品数本で検証済)、というより「直進キー」が刺さる (スライドする) ガイド部分 (溝) はキッチリ鏡面仕上げで平坦に切削されていない為、そもそもグリースを塗る必要が無い事が見ただけで判ります。

こちらは基台側面にある真鍮製のストッパーを拡大撮影 (赤色矢印) しましたが「エポキシ系接着剤」でガッチガチに固められています(笑)

1977年の製産当時「エポキシ系接着剤」はまだ使われていなかったと推測します。

今度はマウント部を取り外した状態で、そのまま内部を撮影しました。すると赤色矢印の箇所にマウント部固定用の穴が4箇所均等配置で用意されているのですが、そこに「グリーンの固着剤」がやはりビッチリ塗られており、マウント部も締付ネジを全て外したにも拘わらず全く外れませんでした。
この「グリーンの固着剤」も近年市場で入手できます。

ここも仕方なく「加熱処置」をやはり数回試みてようやく外れています。またグリーンの矢印箇所には「白色系グリース」が塗られていて既に濃いグレー状に変質しています。

再びヘリコイド (オス側) に刺さっている「直進キー」を拡大撮影していますが、実は「直進キー」を締め付け固定している締付ネジ (2本) がチグハグです(笑)

通常2本1セットの締付ネジは「同一規格」なのが一般的ですが、今回の個体では片方が「皿頭ネジ (グリーンの矢印)」でもう一方は「丸頭ネジ (赤色矢印)」でした(笑) これは完璧に締付ミスをしています。

最後はヘリコイド (オスメス) の状況です。赤色矢印で指し示した箇所には一番古い時代に塗布した「黄褐色系グリース」が残り、グリーンの矢印にはその後に塗られた「白色系グリース」が混ざって使われています。

これは今で言う処の「グリースの補充」と言い、古いグリースを除去せずそのまま上から新しいグリースを塗り足してしまう処置です。

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オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。ず〜ッと長々と当初バラし始めた直後の各部位の状態を解説してきましたが、これらの事実から以下の事が見えてきました。

過去メンテナンスが最低でも3回 (下手すれば4回) 実施されている。
光学系の清掃とヘリコイド組み直しが別のタイミングでメンテナンス。
光学系締付環を手締めしているメンテナンスが1回ある。
プロの手によるが原理原則を気にしない単なる組み戻しの整備レベル。

順に解説していきます・・。はオールドレンズ内部に使われている (光学系も含めた) 固着剤の種類から判別しました。

黄褐色系固着剤 (製産時点) → 赤色固着剤 → 黒色固着剤 → エポキシ系 → グリーン色固着剤

上の順の中で左端の黄褐色系固着剤は製産時点の固着剤ですが、光学系のネジ山に使われているのは前述のとおり特殊な赤茶色です。その後にヘリコイドグリースを入れ替えた時点で「黄褐色系グリース」で一度メンテナンスしており、その時「赤色固着剤」を使っています。

次のメンテナンス時は光学系の清掃だけを行ったようで一部の光学硝子レンズ締付環に「純正固着剤を除去してから黒色固着剤を塗布」しています。その際に手締めで締め付けていたと推測します。

さらにその次のメンテナンス時には「エポキシ系接着剤」が一部に使われましたが、このタイミングでヘリコイドグリースに「白色系グリース」を塗り足していると推測します。最後はつい最近ですがマウント部を一度取り外して鏡筒裏側のスプリングなどをイジって「絞り羽根開閉調整」を行っていると思います (その時がグリーン色の固着剤)。

こんな感じでそれぞれのタイミングのメンテナンスが、まるで走馬燈のように浮かび上がりますが(笑)、実はたいていの整備時に使う固着剤は同一種別だったりします (せいぜい変えても光学系のみ別種別の程度)。ワザワザ3種類4種類の固着剤を用意して部位別に使い分けている整備はあまり聞きません (と言うか今回の個体に使われている固着剤はエポキシ系接着剤を除いて他はネジ締付ロック用の種別ばかり)(笑)

完全解体する事で、こんな感じで過去のメンテナンス履歴が100%バレますから(笑)、ごまかしも全て白日の下に曝されます。しかし、今回はおかげで「加熱処置」をこれでもかと言うくらい何度も繰り返すハメに陥り、正直ちょっと頭に来ましたね (火傷したし)(笑)

↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒です。光学系は第1群 (前玉) の外径が⌀56mm以上と言うチョ〜巨大な光学系前群なのですが(笑)、実は延長筒の中に前群側が格納されるので、鏡筒は至ってこぢんまりした普通の大きさです。このモデルはヘリコイド (オス側) が独立しており別に存在します。

絞り羽根には表裏に「キー」と言う金属製突起棒が打ち込まれており (オールドレンズの中にはキーではなく穴が空いている場合や羽根の場合もある) その「キー」に役目が備わっています (必ず2種類の役目がある)。製産時点でこの「キー」は垂直状態で打ち込まれています。
(このモデルは位置決めキーが単なる穴です)

位置決めキー
位置決め環」に刺さり絞り羽根の格納位置 (軸として機能する位置) を決めている役目のキー

開閉キー
開閉環」に刺さり絞り環操作に連動して絞り羽根の角度を変化させる役目のキー

位置決め環
絞り羽根の格納位置を確定させる「位置決めキー」が刺さる環 (リング/輪っか)

開閉環
絞り羽根の開閉角度を制御するために絞り環操作と連動して同時に回転する環

↑6枚の絞り羽根を組み付けて絞りユニットを完成させます。

↑この状態で完成した鏡筒をひっくり返して、今度は裏側 (後玉側方向) から撮影しました。ほぼ全ての制御系パーツがこの鏡筒裏側に密集している設計です。

開閉アーム
マウント面絞り連動ピン (レバー) が操作されると連動して動き勢いよく絞り羽根を開閉する

連係アーム
絞り環との連係する役目であり絞り環から飛び出ているアームを掴む

すると「なだらかなカーブ」が用意されてて、そこに「カム」が突き当たる事で具体的な設定絞り値である「絞り羽根の開閉角度」が決まる仕組みです。「なだらかなカーブ」の麓部分が開放側になり勾配 (坂) を登りつめた頂上部分が最小絞り値側です (グリーンの矢印)。

上の写真では「なだらかなカーブ」の頂上にカムが突き当たっているので最小絞り値まで絞り羽根が閉じているハズですが、閉じていません。

それは「開閉アーム」が操作されて初めて絞り羽根が閉じる設計を採っているからです (ブルーの矢印)。

しかしここでちょっとメンテナンス詳しい方ならすぐに疑問を感じます (もしも疑問がなければオールドレンズのメンテナンスはしないほうが良い技術スキルとも言える)(笑)

↑今度は完成している鏡筒を立てて横方向から撮影しました。取り敢えず鏡筒の縁に「開閉幅微調整キー」と言う真鍮製の円形板がネジ止めされている事をチェックして下さい (ポイントです)

すると前述の疑問の話ですが、このモデルは (他のMLシリーズほとんど含めて)「開閉環と位置決め環が共に回ってしまう」設計の絞りユニットです。上の写真で言えばそれぞれがブルーの矢印のように互いに別の動き方をするので (位置決め環の上に絞り羽根が挟まりさらにその上に開閉環が被さっている状態)、YASHICAのMLシリーズは「常に絞り羽根が開いている状態」で設計されている事が判ります。

当初バラしている最中にすぐにこの点に気がつかなければ絞りユニットを正しく組み上げる事ができません(笑)

絞りユニットでは絞り羽根は常時開放を維持
絞り環を回した時に絞り羽根が閉じてしまう
それを再びそのタイミングで同時に開放状態に戻している
シャッターボタン押し下げで設定絞り値まで絞り羽根を閉じている

何でこんな面倒な仕組みに設計したのか当方はカメラ音痴なので全くフィルムカメラ側の「原理原則」は理解できませんが(笑)、もっと簡単に駆動するよう設計すれば良かったようにも思います。なにゆえに閉じる絞り羽根をイチイチ開放に戻して再び閉じさせているのか当方には分かりません(笑)

従って「位置決め環も開閉環も両方とも一緒に動いてしまう」変わった仕組みを採っています (一般的なオールドレンズは位置決め環側が固定で動かない/開閉環だけで絞り羽根を開閉させている)。

↑上の写真はヘリコイド部のベース環です。

↑真鍮製のヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。

↑ヘリコイド (オス側) を、やはり無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルは全部で5箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。

↑この状態で完成したヘリコイド部 (オスメス) をひっくり返して後玉側方向から撮影しました。両サイドに1本ずつ「直進キー」が固定されています。もちろん固定に使う締付ネジはちゃんと同一規格同士で使っています (丸頭どうし/皿頭どうし)(笑)

直進キー
距離環を回す「回転するチカラ」を鏡筒が前後動する「直進するチカラ」に変換する役目

↑距離環やマウント部を組み付ける為の基台に絞り環用の「連係環」をセットします。グリーンの矢印で指し示した長めのアームを前述の鏡筒から飛び出ている「連係アーム (の爪)」が掴んだまま行ったり来たりスライドしていく事になります (つまり鏡筒の繰り出し量の分だけの長さになっている)。

↑基台をヘリコイド部に組み付けます。基台とヘリコイド部との境界はグリーンのライン部分で分かれている事になりますね。

当初バラす際に、この基台とヘリコイド部とが「エポキシ系接着剤」でガッチリ接着されており、とんでもなく大変でした(涙)「エポキシ系接着剤」は垂直方向の接着能力がもの凄いのですが、横方向のチカラには滅法弱いので「加熱処置」を何度も試みてようやく解体できた次第です (その時に火傷した)。

最近、頭で考えているとおりに手が動かないので(笑)、触ったら火傷するぞと思っている最中にシッカリ掴んでしまいました (まだ痛い・・)(笑)

↑ここが『富岡光学製の証』です。

富岡光学製』の構造的な要素 (特徴) として大きく3点あり、いずれか1点、或いは複数合致した時に『富岡光学製』と判定しています。

M42マウントの場合に特異なマウント面の設計をしている (外観だけで判断できる)。
内部構造の設計として特異な絞り環のクリック方式を採っている (外観だけでは不明)。
内部構造の設計として特異な絞り羽根開閉幅調整方式を採っている (外観だけでは不明)。

今回のモデルで言えば、上のが当てはまります (このモデルはC/Yマウントなのでは当てはまらない)。

すると、絞り環側に「ベアリングスプリング」がセットされるのに対し、そのカチカチとクリック感を実現する為に用意されている「絞り値キー (溝)」は上から被さる「指標値環」側に刻まれています。このようにワザワザ2つの構成パーツに分けてクリック感を実現する設計を採っていたのが富岡光学製オールドレンズの特徴です (上記証の/他社光学メーカー製オールドレンズには1つも存在しない)。

ちなみにこの根拠の基となるモデルがあり、レンズ銘板に発売メーカーの刻印以外に「TOMIOKA」銘を刻んだいわゆる「ダブルネーム」のオールドレンズが存在し「AUTO CHINON 55mm/f1.4 TOMIOKA (M42)」の特異的な構造要素から『富岡光学製』と判定しています (左写真は過去オーバーホールした際の写真)。

↑すると何が面倒なのかと言えば「指標値環がイモネジ固定」だからです。イモネジ (赤色矢印) なので締め付け位置を微調整できるのですが (ズラすことができる)、それは裏を返せば絞り環を回した時の絞り値とクリック感とが一致しなくなる (チグハグになる) 現象に陥りやすい話とも言えます。

実際、今回の個体をバラす前のチェック時点で、絞り環に遊びがあり最小絞り値側が先まで動いてしまうのに対し、逆に開放側は詰まった印象でした。つまり指標値環の締め付け固定位置がズレている (適正ではない) と言えます。

過去メンテナンス者は「原理原則」も考えずに単に組み上げただけだったのでしょう(笑)

↑さらに決定的な『富岡光学製の証』が上の解説です。鏡筒はヘリコイド (オス側) の内側にストンと落とし込むだけで一切固定されず、その上から「締付環」でワザワザ締め付けて固定する方式を採っており、前述の『証の』です (グリーンの矢印)。

このように「締付環」で鏡筒を締め付け固定する方式を採っていたオールドレンズは他社光学メーカーでも多数存在しますが「鏡筒の位置調整専用のキーを用意して絞り羽根の開閉幅を微調整」させていたのは富岡光学だけです (他社光学メーカーには無し)。

その専用のキーが前に出てきた「開閉幅微調整キー」であり、鏡筒の縁にある真鍮製の円形板を操作する事で、最終的な絞り羽根の開閉幅 (開口部の大きさ/カタチ/入射光量) を微調整する仕組みです。

しかし、この方式は最後まで組み上げて (つまり光学系前後群をセットして) 実際の絞り値との整合性をチェックしないかぎり適正なのかどうか分かりません。従って、組み上げてはチェックしてまたバラして鏡筒を取り出してからキーをイジり、再び組み上げてはチェックしてを繰り返すハメに陥ります(笑)

・・何とも面倒くさくて毎度ながら恨めしく思いますね(笑)

おそらく富岡光学の製産時点 (つまり組み立て工程の中) では、最後まで組み上げずともチェックできる専用治具がちゃんと用意されていたのだと考えます。今となっては最後まで組み上げてイチイチ確認するしか手がありません(涙)

↑鏡筒をセットし終わった状態を今度は後玉側方向から撮影しました。こんな感じで各部位が連係しています。

↑当初バラす際にこれでもかと完全固着していたマウント部です(笑)

↑非常にシンプルな構成パーツ「絞り連動レバー」だけですが、実は当初バラす前のチェック時点でこのレバーを操作すると時々引っ掛かりを感じていました。バラした際に「白色系グリース」が塗られていたのですが (冒頭写真)、極僅かに摩耗しているようにも思います。

↑マウント面の「絞り連動レバー」の動きを滑らかにしてからマウント部をセットしました。当初バラす際は、締付ネジを全て外しても何をしてもマウント部が外れなかったので、マウント部の固定ネジを締め付ける時の何とも恨めしい事か・・(笑)

オールドレンズは光学系/鏡筒/距離環/基台/マウント部と5つの部位にしか分かれないのに、そのうちの3つの部位で「加熱処置」をひたすらに試したのはさすがに疲れましたね(笑)

↑距離環を仮止めしてから光学系前群を組み付けて無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行い、最後にフィルター枠とレンズ銘板をセットすれば完成です。

DOHヘッダー

ここからはオーバーホールが完了したオールドレンズの写真になります。

↑納得できる完璧な状態まで仕上げる事ができました。今回初めての扱いでしたが、内部構造のほとんどは他のMLシリーズと同じなので難はなかったですね。その分「加熱処置」が多すぎて閉口でしたが(笑)

過去に最低3回もメンテナンスされていながら、一度も適切な調整が施されなかったという何とも不遇な個体でしたが(笑)、これで再び数十年快適に操作できるように戻りホッと一安心です。

↑オーバーホール/修理ご依頼内容には光学系は問題無しとなっていましたが、当初バラす前のチェック時点で光学系第4群〜第6群までに「極薄いクモリ」が全面に渡って広がっているのを視認しました (但しLED光照射時のみで目視可能)。その見える見えないは前述のとおり光学硝子レンズが小っちゃすぎて順光ではもぅ見えないのです(笑)

その「全面に渡る極薄いクモリ」の犯人は、過去メンテナンス時に塗られてしまった「黒色の固着剤」ですが、おそらくこれは固着剤と言うよりも「反射防止塗料」だったのではないかと推測しています。外した後に光学硝子レンズを清掃したら微かに黒っぽくシルボン紙が汚れたのですぐに気がつきました。

しかも手締めで締め付けているので、指で摘んで簡単に回せてしまうほどでした(笑) おそらくこれが当初バラす前の実写チェック時に「甘いピント面」だった原因ではないかと踏んでいます (もちろん現状は鋭いピント面に変わっています)。

なお、上の写真で波のように写っている部分は撮影で使っているミニスタジオの写り込みです。画角が91度もあるのでこんだけ入ってしまいますね (凄いと感心)(笑)

なお光学系内の透明度が非常に高い状態を維持した個体でLED光照射でもコーティング層経年劣化に伴う極薄いクモリすら皆無です。コーティング層の経年劣化自体が少なめでしょうか。

↑結構曇りまくっていた後群側も大変クリアな状態に戻りました(笑) 同様LED光照射で極薄いクモリが皆無です。

左写真は同型モデルのマウント面をネット上写真からピックアップしましたが、赤色矢印箇所に「」があります。

この「」はフィルムカメラボデイ側に最大絞り値を伝達する役目なのですが、おそらくこれがオリジナルの製品ではないかと思います。

一方今回の個体はグリーンの矢印のとおり「ピン状」です。これもオリジナルの製品なのか当方には分かりません。

と言うのも市場には「防犯カメラで使っていた個体」が数多く流通しており、この「爪やピン状が無い」個体 (つまり突起が無くネジだけの状態)、或いは下手すると特大なシリンダーネジが付いている場合もあり、それらは間違いなく防犯カメラ用と推測できます。

何故なら、ネジだけの場合はフィルムカメラボディ側に最大絞り値を伝達する手段が存在しないので、オリジナルとは言えないと考えます。はたして「ピン状」がその役目を担っているのかどうかフィルムカメラが無いので当方は分かりません (そもそもカメラ音痴ですし)(笑)

↑6枚の絞り羽根もキレイになり、絞り環共々確実に駆動しています。絞り羽根が閉じる際は「完璧に正六角形を維持」しています。

また前述のとおりチグハグだった絞り環刻印絞り値とクリック感の位置整合性は、キッチリ合わせてあります (遊び無し)。

ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感が僅かに感じられるものの当方にて筐体外装の「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。「エイジング処理済」なのですぐに酸化/腐食/錆びが生じたりしません。

↑塗布したヘリコイドグリースは「黄褐色系グリース」を使い「粘性中程度軽め」を使い分けて塗っています。距離環を回すトルクは「普通」人により「重め」に感じ「全域に渡り完璧に均一」に仕上がっています。距離環を回すと「ネジ山が擦れる感触」が伝わる箇所がありますが使っている「黄褐色系グリース」の性質なので改善できません。もちろん当方の特徴たる「シットリ感漂う操作性」も実現しており、ピント合わせの際は極軽いチカラだけで微動できます。

↑総じて納得できる仕上がり状態ですが、当初の距離環を回すトルク感 (重さ) から大きく軽くなったワケではありません。ヘリコイドのネジ山数の関係でどうしても軽くできません (白色系グリースを塗ればもっと軽くできます)。

またフィルターを硬締めしてしまうと、外す際にフィルター枠まで一緒に回って外れてしまいますからご留意下さいませ。一応固着剤を入れてフィルター枠をネジ込んでありますが、必要以上に硬締めすると「直進キーを変形させる原因」になる為これ以上硬締めできません。

なお、附属していたCONTAX製P-Filterもサービスでキレイに清掃しておきました(笑)

無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。

もちろん光学系の光路長調整もキッチリ行ったので (簡易検査具によるチェックなので0.1mm単位や10倍の精度ではありません)、以下実写のとおり大変鋭いピント面を確保できました。電子検査機械を使ったチェックを期待される方は、是非ともプロのカメラ店様や修理専門会社様が手掛けたオールドレンズを手に入れて下さい当方の技術スキルは低いのでご期待には応えられません

↑当レンズによる最短撮影距離30cm付近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。

この実写はミニスタジオで撮影していますが上方と右側方向からライティングしています。その関係でフードを装着していない為に絞り値の設定によりハレ切りが不完全なまま撮影しています。一応手を翳していますがハレの影響から一部にコントラスト低下が出てしまうことがあります (簡易検査具による光学系検査を実施済で偏心まで含め光軸確認は適正/正常)。

↑絞り環を回して設定絞り値「f4」で撮影しています。絞り環の刻印では「●」のドットですがフルクリック方式なので開放の次は「f4」になります (このモデルは半段クリックではない)。

↑さらに回してf値「f5.6」で撮っています。

↑f値は「f8」に変わっています。

↑f値「f11」になりました。ギリギリ何とか「回折現象」が目立たない感じです。

回折現象
入射光は波動 (波長) なので光が直進する時に障害物 (ここでは絞り羽根) に遮られるとその背後に回り込む現象を指します。例えば、音が塀の向こう側に届くのも回折現象の影響です。
入射光が絞りユニットを通過する際、絞り羽根の背後 (裏面) に回り込んだ光が撮像素子まで届かなくなる為に解像力やコントラストの低下が発生し、ねむい画質に堕ちてしまいます。この現象は、絞りの径を小さくする(絞り値を大きくする)ほど顕著に表れる特性があります。

↑最小絞り値「f16」での撮影です。大変長い期間に渡りお待たせし続けてしまい本当に申し訳御座いませんでした。今回のオーバーホール/修理ご依頼、誠にありがとう御座いました。