◎ RICOH RIKENON 21mm/f3.8《富岡光学製》(M42)

RICOHネット上でもほとんど解説らしきモノが存在しませんが、今回バラしてみたところ「富岡光学製」であることを確認しました (詳細は以下に記載しています)。この焦点距離で有名な銘玉はチノンから発売された「AUTO CHINON 21mm/f3.5 TOMIOKA」ですが、それよりも数年前に生産されていたモデルのようです。ちょうど「自動/手動スイッチ」を装備し始めて「M42」マウントのモデルを中心に捉える直前のモデルではないでしょうか・・。


オーバーホールのために解体した後、組み立てていく工程を解説を交えて掲載しています。

すべて解体したパーツの全景写真です。

RK2138(0623)11ここからは解体したパーツを実際に使って組み上げていく組立工程の写真になります。

まず驚かされたのは内部構成パーツの点数です。ハンパな数ではありませんでした。ここまで細分化し専用のパーツをいちいち用意していたのでは、コストがかかり工程数も増大して、富岡光学は確かにヤシカの傘下に入らざるを得なかったのだと思ってしまいます・・。上の写真には写っていない細かな真鍮製パーツがまだまだ沢山あります。さらに富岡光学では「ネジ」に至っても真鍮材やアルミ合金製を多く使っており、磁気を帯びさせてある精密ドライバーにも反応しません。誠に厄介極まる構造です。写真撮影のためにパーツとネジを離れさせたら分からなくなってしまうのではないか・・と最後までこのブログ用の撮影を迷いました(笑)

まずは絞りユニットと光学系前群を収納する鏡筒です。富岡光学製の例に倣って、やはりヘリコイド (オス側) は別に存在しており鏡筒が独立しています。

RK2138(0623)12絞り羽根を組み付けて絞りユニットを完成させますが、絞り連動パーツが附随しています。

RK2138(0623)13絞り連動アームや絞り環連動アーム、それに絞り羽根開閉制御機構部などです。

次の写真は距離環や鏡筒、マウント部を組み付けるための基台です。

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ヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリを付けてネジ込みます。当レンズには「無限遠位置調整機能」が装備されているのですが、その調整方法が特殊で「調整環」なるモノが設けられており、それをいちいちイモネジで固定して位置調整する方式でした。これはさすがに何度もやりたくはありません。きっちりアタリを付けてネジ込みます。

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ヘリコイド (オス側) をやはり無限遠位置のアタリを付けて正しいポジションでネジ込みます。ネジ込み位置は大口径にも拘わらず、意外と少なく6箇所しかありませんでした。

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すべてのヘリコイドが「ベース環」を先にネジ込んでから絞り環や距離環を別途組み付けると言う面倒な構成です。

ヘリコイド (オス側) の内部に鏡筒を組み付けます。

RK2138(0623)17真鍮製の絞り連動アームや絞り環連動アームが写っています。すでに無限遠位置のアタリを付けてあるので、距離環の「回転するチカラ」を鏡筒が前後動する「直進するチカラ」に変換する「直進キー」をセットしてあります。

この絞り連動関係のパーツは、例えば「XR RIKENON」シリーズの富岡光学製モデルにもそのまま採用されている方式です。そもそも富岡光学はOEM製品として様々なモデルを設計生産していましたので、いろいろな方式が顕在していますね。

次の写真はマウント部のペースです。相当に奧の深い長さを持ったベース環です。

RK2138(0623)18このベース環がどうしてこんなにも厚みを採っているのか・・それは次の写真で分かります。

RK2138(0623)19絞り連動関係のパーツ類を組み付けた後の写真です。上の写真で真鍮材でできているパーツ (円形状) が3つ写っています・・。何とこの部位の構造は「3階建て」構造をしていました(笑) 全部で三層に分かれておりそれぞれがイモネジで固定されていて、しかも「位置調整」が必要な仕様です。この部分の調整だけで相当な時間を要しました(笑)

先の基台をセットします。

RK2138(0623)20ヘリコイド部と同じくらいの厚みを持ったマウント部です(笑) 指標値環をセットして基準マーカー位置調整をします。ここが正しく合致していないと後で全てがズレていきます。

RK2138(0623)21鋼球ボールやマイクロバネを入れ込んで絞り環を組み付けます。

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自動/手動スイッチの「輪っか」をセットします。

RK2138(0623)23ここまでは簡単なように見えますが(笑) 絞り環や自動/手動スイッチはクリック式なので「鋼球ボールとマイクロバネ」が内部に仕込まれています。これらが別々のそれぞれの環にセットされる方式を採っているのが「富岡光学製」の「証」のひとつです。

指標値環に絞り値のクリック用「溝」が用意されており、それに絞り環の鋼球ボールが填ります。そして今度は自動/手動スイッチ環にも「溝」が用意されており、やはりマウント部の鋼球ボールが填り「自動 (A)」と「手動 (M)」の切替がクリック式でできる構造です。それぞれが別に独立してしまっているので、それらの「位置調整」が工程上どうしても発生します。そんな面倒な小細工をせずに、ベースに穴を開けて鋼球ボールを埋め込んでしまえば容易に完結するのですが・・(笑)

ここからは光学系を組み付けてしまいます。まずは光学系前群です。

RK2138(0623)24一見するとキズひとつ無いように見えますが、極微細な点キズなどが見受けられます。

RK2138(0623)25拡大撮影して極微細な点キズや極微細な拭きキズなどを写します。

RK2138(0623)26 RK2138(0623)27 RK2138(0623)28このモデルは8群9枚のレトロフォーカス型構成ですが、第7群に「貼り合わせレンズ」を装備していました。貼り合わせとなればレンズのバルサム (接着剤) の問題でクモリが生じているのが懸念されます。この個体はラッキーなことにバルサム切れ (貼り合わせレンズの接着剤/バルサムが経年劣化で剥離し始めて白濁化し薄いクモリ、或いは反射が生じている状態) は生じておらず、とてもキレイな状態を維持していました。

光学系は順光目視にて前玉は極微細な点キズ3点と極微細な拭きキズ5点、第2群は極微細な点キズ2点があります。後玉は極微細な点キズ3点が見受けられます。第7群の貼り合わせレンズ部にはコバ部分にバルサムのはみ出しが見受けられます。光学系内はLED光照射でようやく視認可能レベルの極微細な拭きキズや汚れもありますが、いずれもすべて写真への影響はありませんでした。

次の写真は後群です。

RK2138(0623)29極微細な点キズがあるので角度を変えて分かり易いように撮影しています。

RK2138(0623)31後群の第7群に位置している貼り合わせレンズのコバ (レンズを切削した際の断面部分) には、経年に於ける接着剤のはみ出しが生じていました。

RK2138(0623)32第7群レンズの外周部に黄色っぽいものがビッシリ附着していますが、これがバルサム (接着剤) のはみ出したモノです。写真への影響は外周端なのでありません。下手にイジッて接着面の「剥離」が生じてしまい浮いてしまったら怖いので、このまま組み付けています。

ここからは組み上げが完成した出品商品の写真になります。あまり市場には出回らない (海外でも半年に1本レベル) ワリと珍しいモデルでしょうか・・。このモデルの後に富岡光学ではバックフォーカスを改善させて開放F値「f3.5」に光学系の仕様変更をしたモデルを投入してきます。3階建て構造のマウント部も大幅にパーツ点数を減らして合理化を進めたモデルになり、有名な銘玉になりますね・・「AUTO CHINON 21mm/f3.5 TOMIOKA」

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光学系内はクモリやカビ除去痕も無く、大変クリアな良い状態を維持しています。

RK2138(0623)2絞り羽根もキレイになり確実に駆動しています。

RK2138(0623)3次の写真は鏡胴の写真になります。経年の使用感が相応にある個体なので、当方にてキズやハガレなどを相当箇所着色しています。当方の判定では「実用品」としています。

内部パーツの「磨き研磨」を施してあるので、各部の駆動や連係はとても滑らかになり確実です。距離環や絞り環の操作も大変滑らかになりました。距離環のトルク感は滑らかに感じ均一で、ピント合わせの際も軽いチカラで微妙な操作が楽に行えます。

RK2138(0623)4 RK2138(0623)5 RK2138(0623)6 RK2138(0623)7経年の使用感のある個体でしたので「実用品」扱いですが、これが「超美品」になると価格は跳ね上がります(笑)

RK2138(0623)8光学系後群も中心部の当てキズなどもなくキレイな状態を維持しています。レンズ面に白いクモリ状の部分が写っていますが、これは撮影スタジオの写り込みなので「クモリ」ではありません。

RK2138(0623)9当レンズによる最短撮影距離30cm附近での開放実写です。質感表現能力は意外と優れています。金属質やガラス質、或いは植物などの繊維質など、およそ被写体の材質感の雰囲気を写し込めるのは富岡光学製の良い部分ですね。

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