◎ MINOLTA (ミノルタ) MC W.ROKKOR-SG 28mm/f3.5《初代型》(SR/MD)
(以下掲載の写真はクリックすると拡大写真をご覧頂けます)
写真を閉じる際は、写真の外 (グレー部分) をクリックすれば閉じます
オーバーホール/修理ご依頼分ですが、当方の記録用として掲載しており
ヤフオク! 出品商品ではありません (当方の判断で無料掲載)。
(オーバーホール/修理ご依頼分の当ブログ掲載は有料です)
前回MINOLTAの広角レンズ28mmをオーバーホール/修理したのが2016年なので、3年経ってしまいました。今回の扱いが7本目に当たりますが、それはあくまでも焦点距離28mmの範疇で捉えた場合で、実はこの「初代型」モデルは初めての扱いです。
どうせMINOLTAのオールドレンズなら内部構造に大きな相違は無いだろうと、高を括っていたらとんでもない作業になってしまい、自らの技術スキルの低さを思い知らされる丸一日がかりのオーバーホール/修理でした(笑)
とは言え、このような貴重なモデルのオーバーホール/修理をご依頼頂きました事、この場を借りてお礼申し上げます。ありがとう御座います!
と言うのも、実は市場に多く出回っているMINOLTAの28mm/f3.5モデルは圧倒的にこの後のモデルばかりで「AUTO-ROKKOR」とこの「初代型」は希少だからです。
さらに当方は「隠れKONICAファン」ですが、実は「堂々MINOLTAファン」だったりするので、個人的にMINOLTA製オールドレンズはどのモデルも大好きです。然し残念ながらオーバーホール作業対価分を回収できないので、旭光学工業製やOLYMPUS製、或いはKONICA製と同様オーバーホール済でヤフオク! 出品する事はまずありません (つまり敬遠している)。
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1958年にMINOLTA初の一眼レフ (フィルム) カメラ「SR2」が発売されますが、この時に採用されたマウント規格を巷では「SRマウント」と呼んでいます。
この時用意された交換レンズ群はモノコーティングの光学系を実装していた時代で「AUTO–ROKKOR」の銘を冠しています。
1962年〜1963年辺りで発売される一眼レフ (フィルム) カメラは「SR1〜SR7シリーズ」ですが (モデル型番がシリアル値ではない)、この時用意されていた交換レンズ群もやはりモノコーティングの「AUTO–ROKKOR」のままでした。
そして1966年になってようやくマルチコーティング化へと交換レンズ群の大幅なモデルチェンジを順次行って、そのタイミングで発売した一眼レフ (フィルム) カメラが有名な「SR-T101」です。
従ってこの時にマウント面に向かって新しく「開放測光用の爪」が用意されています (俗にMC爪などと呼ばれている)。
1973年には一眼レフ (フィルム) カメラ「X-1シリーズ」が登場し、以降毎年のように新型の一眼レフ (フィルム) カメラを順次発売していきます。
この中で交換レンズ群も従前の絞り優先AE撮影モードしか使えなかった「MC ROKKORシリーズ」を更新し、新たにシャッター速度優先AE撮影モードにも対応した「MD ROKKORシリーズ」へとシフトアップしていきます (同様俗にMD爪と呼ばれている)。
2000年まで一眼レフ (フィルム) カメラの発売が続きますが「MINOLTA X-370S」の発売を最後に、マニュアルフォーカス方式のフィルムカメラを終了します。1985年からオートフォーカスに対応した「αマウント」へと規格変更しますが、2005年にSONYとの共同開発に臨むものの2006年にはカメラ事業から撤退してしまいます。
【モデルバリエーション】
※オレンジ色文字部分は最初に変更になった諸元を示しています。
先代:AUTO W.ROKKOR-SG (1963年発売)
光学系:7群7枚レトロフォーカス型構成
コーティング層:モノコーティング (アクロマチック有)
最小絞り値:f16
最短撮影距離:60cm
ローレット (滑り止め):金属製 (水平)
フィルター径:⌀67mm
初代:MC W.ROKKOR-SG (1966年発売)
光学系:7群7枚レトロフォーカス型構成
コーティング層:マルチコーティング (アクロマチック有)
最小絞り値:f16
最短撮影距離:60cm
ローレット (滑り止め):金属製 (水平)
フィルター径:⌀67mm
前期型-I:MC W.ROKKOR-SG (1968年発売)
光学系:7群7枚レトロフォーカス型構成
コーティング層:マルチコーティング (アクロマチック有)
最小絞り値:f16
最短撮影距離:60cm
ローレット (滑り止め):金属製 (水平)
フィルター径:⌀55mm
前期型-II:MC W.ROKKOR-SG (1969年発売)
光学系:7群7枚レトロフォーカス型構成
コーティング層:マルチコーティング (アクロマチック有)
最小絞り値:f16
最短撮影距離:60cm
ローレット (滑り止め):金属製 (アーチ型)
フィルター径:⌀55mm
前期型-III:MC W.ROKKOR-SG (1970年発売)
光学系:7群7枚レトロフォーカス型構成
コーティング層:マルチコーティング (アクロマチック有)
最小絞り値:f16
最短撮影距離:60cm
ローレット (滑り止め):ラバー製
フィルター径:⌀55mm
前期型-IV:MC W.ROKKOR-X SG (1973年発売)
光学系:7群7枚レトロフォーカス型構成
コーティング層:マルチコーティング (アクロマチック有)
最小絞り値:f16
最短撮影距離:60cm
ローレット (滑り止め):ラバー製
フィルター径:⌀55mm
前期型-V:MC MINOLTA CELTIC (1974年発売)
光学系:7群7枚レトロフォーカス型構成
コーティング層:マルチコーティング (アクロマチック有)
最小絞り値:f16
最短撮影距離:60cm
ローレット (滑り止め):ラバー製
フィルター径:⌀55mm
中期型-I:MC W.ROKKOR (1975年発売)
光学系:5群5枚レトロフォーカス型構成
コーティング層:マルチコーティング (アクロマチック無)
最小絞り値:f16
最短撮影距離:30cm
ローレット (滑り止め):ラバー製
フィルター径:⌀55mm
中期型-II:MD W.ROKKOR (1977年発売)
光学系:5群5枚レトロフォーカス型構成
コーティング層:マルチコーティング (アクロマチック無)
最小絞り値:f22 (AE機能:22刻印)
最短撮影距離:30cm
ローレット (滑り止め):ラバー製
フィルター径:⌀55mm
後期型-I:MD W.ROKKOR (1978年発売)
光学系:5群5枚レトロフォーカス型構成
コーティング層:マルチコーティング (アクロマチック無)
最小絞り値:f22 (AE機能:22刻印)
最短撮影距離:30cm
ローレット (滑り止め):ラバー製
フィルター径:⌀49mm
後期型-II:MD (1981年発売)
光学系:5群5枚レトロフォーカス型構成
コーティング層:マルチコーティング (アクロマチック無)
最小絞り値:f22 (AE機能:22刻印)
最短撮影距離:30cm
ローレット (滑り止め):ラバー製
フィルター径:⌀49mm
上の写真はFlickriverで、このモデルの特徴的な実写をピックアップしてみました。
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)
※各写真の著作権/肖像権がそれぞれの投稿者に帰属しています。
◉ 一段目
左端は広角レンズでレトロフォーカス型構成ながらもちゃんとエッジを伴うシャボン玉ボケを表出できてしまうところがさすがです。収差の影響を受けてシャボン玉ボケが円形ボケへと溶けていく様も違和感なく滑らかに滲んでいきます。
パースペクティブは画角76度なのですがミョ〜にリアル感を伴う広がり方に見えます。決してコントラストが高く偏ってしまうワケではないのですが、かと言ってナチュラルまで大人しくない絶妙な印象を受けますし、ディストーション (歪率) もよく制御できています。
◉ 二段目
発色性は赤色と青色に反応するのですが、その分が緑色まで及びません。つまり原色全てに反応してしまわないところがさすがでこの傾向は好みですね (何でもかんでも元気の良い鮮やかな発色性に偏らない)。ダイナミックレンジが相当広く、黒潰れはもちろん明部の白飛びまで充分に解像していて、ピント面の鋭さと相まり絶妙なリアル感を表現できる重要な要素だと思います。
光学系は先代の「AUTO W.ROKKOR-SG」は7群7枚のレトロフォーカス型構成ですが、モノコーティングでした。右図はその先代モノコーティング時代の光学系構成図です。
「MC W.ROKKOR-SG」からマルチコーティング化がなされ、解像度の向上や収差改善などから光学系が再設計されますが、7群7枚のレトロフォーカス型構成はそのまま引き継ぎます。
右図は今回扱ったモデルの構成図です。
さらに「前期型」に入ると同時にフィルター枠の小径化に伴い、7群7枚のレトロフォーカス型構成を踏襲しつつも再び再設計されています。
右図は「前期型-I〜前期型-V」までの光学系構成図です。
そして最後「中期型〜後期型」にかけて最短撮影距離30cmへの短縮化と共に最後の光学系再設計が行われ、ついに5群5枚レトロフォーカス型構成へと簡素化していきます。
実際はさらに細かく各モデルバリエーション時点で光学系の設計変更が施されていた可能性も捨てきれませんが、何しろバリエーションが多いのですべてチェックできていません。
右図はバラして清掃時にデジタルノギスで計測しほぼ正確にトレースした構成図です。
当方が計測したトレース図なので信憑性が低い為、ネット上で確認できる大多数の構成図のほうが「正」です (つまり右図は参考程度の価値もない)。
(各硝子レンズのサイズ/厚み/凹凸/曲率/間隔など計測)
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MINOLTAのオールドレンズは、先代「AUTO-ROKKORシリーズ」の光学系は蒸着されているコーティング層がモノコーティングですが、光学系を光に反射させると「濃いグリーン色の光彩を放つ」ことから、巷で「緑のロッコール」と呼ばれていました。
このコーティング層の蒸着について様々な解説が成されています。例えば戦前のオールドレンズは「ノンコーティング (コーティング層蒸着が無い無色透明な光学硝子)」だと案内されている事が非常に多いですが、実はそのような戦前モデルをオーバーホール/修理すると、光学系を清掃した時に現実的な話としてコーティング層のハガレ (或いはカビ除去痕) が浮き上がったりしますから、はたして光学硝子レンズの表層面が非常に薄く剥がれているワケではないのでその場合はノンコーティングではないと言えます(笑)
また旧東ドイツのCarl Zeiss Jena製オールドレンズなどでも「zeissのT」などと揶揄されながらも、解説サイトでは「シングルコーティング (単層膜コーティング)」と案内されています。ところが、やはり光学硝子レンズを清掃していると「薄い青紫とアンバー色」の2色にコーティング層のハガレ (或いはカビ除去痕) が光に反射させて浮かび上がります。すると2色に浮かび上がる以上「シングルコーティング (単層膜コーティング)」とは言えないのではないかと、当方は考えています。
もっと言えば、前述の戦前モデルなどがまさしく「シングルコーティング (単層膜コーティング)」であり、コーティング層のハガレなども浮かび上がるのは「薄いブル〜」だけだったりしますから納得できます。
するとこの2色に浮かび上がるコーティング層蒸着をして「モノコーティング (複層膜コーティング)」と当方では呼称しており、前述の「zeissのT」も「モノコーティング (複層膜コーティング)」と考察しています。
ここで今回のMINOLTA製オールドレンズに話が及びますが、光学系を光に反射させると角度によって「パープルアンバーグリーン」の3色に光彩を放ちます。すると今度はネット上を見た時に、3色の光彩を放つのは「マルチコーティング (多層膜コーティング)」だと案内されています(笑) 至極尤もなように見えるのですが、実はモデルバリエーションで案内したとおり「AUTO-ROKKOR」はモノコーティングながらも「緑のロッコール」でした。
すると、辻褄が合わないように思うのですが・・???(笑)
当方がこの疑念を抱いた理由があり、MINOLTA製オールドレンズをオーバーホールしていると、光学硝子レンズの清掃で「グリーン色コーティング層が剥がれてしまう」事があります (実際に過去数本経験している)。すると当初バラす前の時点で光学系を光に反射させた時「美しい緑色の輝き」を放っていたのが、オーバーホールが終わると「薄い緑色の光彩」に変わってしまい、グリーンの光彩の量が低減してしまいます。
もっと言えば、清掃していて剥がれてしまった「グリーン色のコーティング層」の下から現れるのは「パープルアンバー」のコーティング層だったりします。つまり「パープルアンバーの上にグリーン色のコーティング層が蒸着されていた」ことになります。
さらにその現象は、モノコーティングのみならずマルチコーティングのモデルでも発生するので (実際にレンズ銘板にMCと刻印されている)、先代の「AUTO-ROKKOR」シリーズから「緑のロッコール」だとすれば自ずと次のような結論に到達しました。
「緑のロッコール」たる由縁はモノコーティング/マルチコーティングの別なく、その上からさらに蒸着した薄膜コーティング層たる「グリーン色のコーティング層蒸着」による光学系の光彩を指す
そして、実際に当時のミノルタのカタログを見ると「アクロマチックコーティング (AC) 層」として明記されており、それは「人の目で見た自然な色再現性の追求」とも案内されていました (左赤色ライン)。
実はこのコーティング層技術は、当時世界で初めて実現した薄膜層蒸着技術の一つだったようです。
後に旧西ドイツのライカが実際にミノルタと技術提携しており、一部のライカレンズモデルにアクロマチックコーティング (AC) 層を蒸着していたようです。
ノンコーティング > シングルコーティング > モノコーティング > マルチコーティング
(無色透明) > (単層膜) > (複層膜) > (多層膜)
このようなコーティング層蒸着技術の発展になるのでしょうが「アクロマチックコーティング (AC) 層」はモノコーティング/マルチコーティング両方にプラスαで追加蒸着されていた事になる為、まさに「味付けの薬味」的な目的として使われていた事が覗えます。
実際にMINOLTA製の様々なオールドレンズをバラしていると、あるモデルは前後玉や中玉の表裏に「グリーン色のコーティング層」が蒸着され、またあるモデルは前玉裏面だけ、或いは後玉裏面だけに減じられていたりします。それは上のモデルバリエーションの各モデルをオーバーホールした際に確認した事実として先代→後期型に向かうにつれて「グリーン色のコーティング層」蒸着面数が減じられ、ついに最後は「MDシリーズ」で「アクロマチックコーティング (AC) 層」蒸着をやめてしまったと言えます (光学系内のどの群の光学硝子レンズにも一切蒸着を確認できない/過去に検証済)。
なお、最後のモデル銘が「MD」だけに変わっているモデルは「New MD」と俗に呼ばれています。
左写真は当初バラしている最中の撮影ですが、光学系前群の硝子レンズ格納筒 (第1群〜第2群の格納筒) を撮りました。
赤色矢印のネジ山に過去メンテナンス時に全周に渡ってビッチリ塗られてしまった固着剤が入っており、数回の「加熱処置」でようやく外れました。
同様当初バラしている最中の写真です。鏡筒内部はご覧のようにカビの発生が酷く、また一部にはアルミ合金材の酸化/腐食/錆びが相当生じています。
これはおそらく過去の保管状態に於いて「結露」が生じていたと推測できます。それは実際に今回の個体の前玉を見れば一目瞭然で、残念ながら前玉表面側のコーティング層は相当ハガレがあります。
こちらもバラしている最中です。解体したヘリコイド (オスメス) には古い時代の「黄褐色系グリース (赤色矢印)」が残ったまま、除去せずに上から次のメンテナンス時に「白色系グリース (グリーンの矢印)」を塗り足しています。
いわゆる今でも実施されている「グリースの補充」と言う処置です。
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オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。
↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。
今回のオーバーホール/修理は以下のような内容で承りました。
【当初バラす前のチェック内容】
① 鏡筒も含めた鏡胴前部側とマウント部からの後部側とでガタつきが酷い。
② 無限遠位置が相当なオーバーインフ状態 (3目盛分手前位置)。
③ ガタつきから鏡筒が直進方向でブレる為ピント面がぼやけたりしてしまう。
④ ピント面を鋭い状態に鏡胴を保持しても甘いピント面のまま変化しない。
⑤ 絞り羽根が閉じすぎている (最小絞り値側が小さすぎる)。
【バラした後に確認できた内容】
⑥ 過去メンテナンス時に2種類のグリース種別を混在している。
⑦ 既に一部が乾燥してしまい粘性を帯びている為トルクが重い。
⑧ 白色系グリースとネジ山摩耗粉によりシャリシャリ感がある。
⑨ そもそも組み上げが適正に成されておらずテキト〜整備。
こんな感じです。特に鏡胴のガタつきが酷く、そのガタつきで鏡胴が「約1mm弱」前後している状態です。それは必然的に合焦したピント面が鏡胴のガタつきと同時にボケてしまうワケで (鏡筒の位置が前後するから)「とてもオールドレンズの体裁を成していない」と言えます。
例えば上向きに撮影していればピント面が多少は明確になりますが、そのまま下向きになるとまるでピンボケになりますから(笑)、これで正常とは言わないと思いますが、ご依頼者様が入手されたヤフオク! の出品ページでは「正常」と謳っていましたから、当方と同じ穴の狢たる『転売屋/転売ヤー』ながら恥ずかしい気持ちになりました(涙)
↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒です。モデルバリエーション中最も大柄な筐体サイズですが、意外にも光学系前群は「延長筒」無しで設計してきているのでたいしたものです。このモデルはヘリコイド (オス側) が独立しており別に存在します。
可能な限りアルミ合金材の酸化/腐食/錆びを取り除きましたが、完璧には除去しきれていません (カビは完全除去済)。申し訳御座いません・・。
絞り羽根には表裏に「キー」と言う金属製突起棒が打ち込まれており (オールドレンズの中にはキーではなく穴が空いている場合や羽根の場合もある) その「キー」に役目が備わっています (必ず2種類の役目がある)。製産時点でこの「キー」は垂直状態で打ち込まれています。
◉ 位置決めキー
「位置決め環」に刺さり絞り羽根の格納位置 (軸として機能する位置) を決めている役目のキー
◉ 開閉キー
「開閉環」に刺さり絞り環操作に連動して絞り羽根の角度を変化させる役目のキー
◉ 位置決め環
絞り羽根の格納位置を確定させる「位置決めキー」が刺さる環 (リング/輪っか)
◉ 開閉環
絞り羽根の開閉角度を制御するために絞り環操作と連動して同時に回転する環
↑完成した鏡筒を立てて撮影しました (下が前玉側方向)。鏡筒の後にはシンプルに「開閉アーム」が1本飛び出しているだけで、制御系パーツのほとんど全てがマウント部内部にセットされるのが、この当時のMINOLTA製オールドレンズの特徴です (特にAUTO-ROKKOR〜MC ROKKORシリーズまで)。
↑さて、ここでイキナシ難関です(笑) 上の写真は解体後洗浄して当方による「磨き研磨」処置後に並べた写真ですが、解体したヘリコイド (オスメス) の他に「??? (グリーンの矢印)」があります(笑)
ハッキリ言って、この当時のMINOLTA製オールドレンズは「直進キーが1本だけ」のハズなのに、なにゆえにもう1本居るのか (左側)?
さらにさらに、ヘリコイド (オスメス) 以外にもう1つヘリコイドが居るではありませんか (左端) ちょうどヘリコイド (オス側) の上部にネジ山が切られており、それが左端の真鍮製環にネジ込まれます。
するとどう言う事が言えるのか???
ヘリコイド (オスメス) が回転する時、左端の真鍮製環まで回ろうとするのですが、何と「直進キーもどき (左端の???)」が刺さってしまうのでヘリコイド (オスメス) が固まります。
ウ〜ン「???・・???」
こんな構造はMINOLTA製オールドレンズで初めてです。
↑距離環が分解できてローレット (滑り止め) 部分と距離指標値の環 (リング/輪っか) だけに分かれます。
ところがこの指標値環 (リング/輪っか) はヘリコイド (オス側) には直接セットされません。
↑さらに厄介な点に気がついてしまったのが上の写真で、ローレット (滑り止め) がヘリコイド (メス側) にセットされるのですが、何と「締付ネジで完全固定」です (グリーンの矢印)。
これで予測できる問題点は「このモデルって無限遠位置を微調整できないの? (締付ネジの穴しか空いていないから位置を微調整できない)」
実際にローレット (滑り止め) と距離指標値環 (リング/輪っか) をヘリコイド (メス側) に組み付けてみた写真です (左)。
するとグリーンの矢印のとおり締付ネジで完全固定なので距離環に刻まれている「∞」刻印の位置を動かす事ができない設計です (つまり無限遠位置微調整機能が装備されていない)。
正直、MINOLTA製オールドレンズで「無限遠位置が微調整できないモデルは初めて」です。
ローレット (滑り止め) も左写真のとおり指標値環 (リング/輪っか) がネジ止め固定で位置をズラせないのでどうにもなりません (∞位置が固定位置)。
↑実際にヘリコイドをセットしてみたところを撮影しました。ヘリコイド (オス側) が回るとご覧のように真鍮製の環 (リング/輪っか) まで回るのですが (ブルーの矢印)、「???」の「直進キーもどき」が刺さっているので固まるワケです。
するとこの「直進キーもどき」はいったい何の為に必要なの???・・???
逆に言えば、何で真鍮製の環 (リング/輪っか) は回るようになっているのか???
ちなみにMINOLTA製オールドレンズで採用されている「直進キー」は上記のとおり「1本 (1箇所)」であり、その「直進キーが刺さるガイドも1箇所」だけですね。さらにそのガイド部分は位置調整機能が無いので、MINOLTA製オールドレンズは距離環を回すトルク調整ができません (上の写真のとおりネジ穴にマチが用意されていないから単に締め付け固定するだけ)。
↑取り敢えず工程を進めます。ヘリコイド (メス側) 用のベース環です。
↑真鍮製のヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。
↑後からセットできないので先に距離環用指標値環を組み込んでおきます。
↑こちらも後から入らないので距離環のローレット (滑り止め) 部分をネジ止めします。前述のとおり、これら距離環部分は「∞」刻印が刻んであるにも拘わらず「位置調整できない」ので無限遠位置の微調整機能がありません。
↑こんな感じで鏡筒 (ヘリコイド:オス側) を、やはり無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルは全部で5箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。
↑こちらはマウント部内部の写真ですが、当方による「磨き研磨」を終わらせた状態で撮っています。当初バラした直後は、過去メンテナンス時に塗られた「白色系グリース」の揮発油成分が液状化していましたが、一部は既に乾燥しており酸化/腐食/錆びになっています。
この当時のMINOLTA製オールドレンズの多くのモデルで、マウント部の爪はご覧のように後からセットできない「隠しネジ」方式なので、ここで先に組み付けます。
この後マウント部内部の外していた個別のパーツも「磨き研磨」してセットしていきます。
↑こちらも後からセットできないので (入らないので) 先に「鋼球ボール+スプリング」を組み付けて絞り環をセットします。MINOLTA製オールドレンズに使っている鋼球ボールは「僅か⌀1mm径」なので紛失したら市場に出回っていません。
↑外していた各構成パーツをセットした状態です。全ての制御系パーツがビッシリと詰まっています。グリーンの矢印で指し示したように「直進キーは締め付け固定するだけ (ネジ穴に微調整用のマチが無い)」なのでヘリコイド (オスメス) のトルク調整ができません (しかも珍しい事にMINOLTAは締付ネジ3本と言う念の入れよう)。
まず、当初バラした直後のチェックで「連動レバー」に微かな引っ掛かりを感じ、且つ「プレビューレバー」の戻り具合も、絞り環の設定絞り値によって戻らない事がありました。
さらに一番問題の「開閉アーム (爪)」が鏡筒から飛び出ている「開閉アーム」を掴むワケですが、この動きもぎこちない感じです。
これらの問題点は、すべて今までオーバーホール/修理してきたMINOLTA製オールドレンズで慣れているので「完璧に改善済」です(笑) 今ドキのデジカメ一眼/ミラーレス一眼にマウントアダプタ経由装着しても良いですし、もちろん昔のようにフィルムカメラでお使い頂いても正常駆動します。
↑こんな感じで美しい「梨地仕上げのマウントカバー」がセットされます。
↑この後は光学系前後群を組み付けてから無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行い、最後にフィルター枠とレンズ銘板をセットすれば完成です。
・・と、いつもならそれでオシマイなのですが、今回はそんな簡単ではありません(笑)
取り敢えず当初バラした手順とネジ込み位置のまま組み上げてみましたが全くダメです(笑)
おそらく過去メンテナンス者は「原理原則」を理解できていない「単にバラして同じ手順で組み上げただけ」の人だと思います。
MINOLTA製のオールドレンズで「無限遠位置が微調整できない」などと言うハズがありません!(笑)
そこで再びすべてバラして洗浄した後、今度は「原理原則」に則り組み上げる事にしました。さらにその際ヒントとして配慮したのは「当時のミノルタの方針」です。ミノルタのオールドレンズは「サービスレベルまで考慮した設計」を採っており、後々メンテナンスの際に必要になるであろう微調整を設計段階でちゃんと考慮しています。
当時の光学メーカーが必ずしもサービスレベルを考慮していたのかと言うと、実際はそうではなくほとんどの光学メーカーは設計とサービスレベルを切り離して考えており、第三者がメンテナンスする事を一切配慮していません (つまり製産工程時点での調整しか想定していない設計の為サービスレベルで捉えると非効率的な構造になっている)。
それは当方が数多くのMINOLTA製オールドレンズをオーバーホール/修理して「観察と考察」で知り得た話であり、ネット上に載っている話ではありませんね(笑)
結局、6時間がかりで組み上げた作業がぜ〜んぶムダになり、ゼロから仕切り直しスタートになりました(笑)
ここからはオーバーホールが完了したオールドレンズの写真になります。
↑完璧なオーバーホールが完了しました。作業が終わって納得できない事柄は以下の2点だけです。
① 距離環を回すトルクが繰り出し/収納で異なる (繰り出し時のみ重め)。
ヘリコイド (オス側) ネジ山の一部に「削れ」があり「磨き研磨」しましたがそれが影響していると推測します。これ以上改善できませんでした。申し訳御座いません・・。
② 光学系の第1群 (前玉) 表面側カビ除去痕が酷い (カビ除去痕は除去できない為)。
当初バラす前の状態で、第1群 (前玉) 表面以外に生じていた「薄いクモリ」は全て除去できたので光学系内の透明度が非常に高い状態を維持しています。LED光照射でもコーティング層経年劣化に伴う極薄いクモリすら皆無です。
この2点以外は完璧な状態に組み上がっています。もしもご納得頂けない場合は「減額申請」にてご納得頂ける必要額分減額をご申告頂きますよう、お手数ですがお願い申し上げます (ご請求金額から減額してお支払い頂けます)。
↑前玉表面側はご覧のとおりカビ除去痕やコーティング層の経年劣化が多いですが、逆光撮影ではない限りハロの出現率が上がる事も無いと推測します。ピーカンの日中撮影でもハロの影響や解像度不足/コントラスト低下は発生していません。
第2群〜第7群までスカッとクリアなのでこのページ一番最後の実写確認のとおり鋭いピント面で写真撮影できます。
↑後群側はLED光照射でも極薄いクモリが皆無な状態になっています (当初生じていた薄いクモリは完全除去済)。
↑当初バラす前の簡易検査具チェックで最小絞り値「f16」側が閉じすぎていましたが、適正な状態に調整できています。絞り羽根が閉じる際は「完璧に正六角形を維持」します。絞り環操作も小気味良いクリック感を伴い確実に動きます。
ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感が相当感じられるものの当方にて筐体外装の「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。「エイジング処理済」なのですぐに酸化/腐食/錆びが生じたりしません。
↑塗布したヘリコイドグリースは「黄褐色系グリース」の「粘性:中程度+軽め」を使い分けて塗っています。距離環を回すトルクは「繰り出し時が重め」で「収納時は軽め」です。ピント合わせの際は極軽いチカラだけで微動できるので操作性は良くなっています。
↑結局6時間ムダにしてしまいましたが、自らの技術スキルの低さ故とひたすらに反省するしかありません(笑)
過去メンテナンス者は、おそらく単にバラしてそのまま組み戻すだけの作業をしたのだと推測します。各構成パーツには目印のマーキングなどが施されていましたが、それが当方が考えた「原理原則」には合いませんでした(笑)
一旦パラして再度ゼロスタートした事で「原理原則」に則り、且つMINOLTAの設計なら「こうなるハズ」と考えつつ調整を進めていけば、自ずと適正な状態で組み上がりました。
「???」だった「直進キーもどき」の役目は「絞り羽根の開閉幅 (開口部の大きさ/カタチ/入射光量) 微調整」であり、これを「直進キーなのか?」と受け取ると正しく組み上がりません (当方は最初そう受け取って組み上げてしまったから6時間をムダにした)(笑)
また同じく「???」だった「もう一つの真鍮製環」の役目は、何と「無限遠位置微調整機能」を附加していました。それはそうですョね? MINOLTA製オールドレンズで無限遠位置が微調整できないハズがありません(笑)
つまり過去メンテナンス者はそれらの事柄に気がつかずに、単にバラした時の手順で組み上げただけだったのですが、このモデルは「手順さえも再考しないと適正な組み上げが見えてこない難易度の高いモデル」だったと言えます。つまり単にバラして戻そうとしても上手く仕上がりません(笑)
無限遠位置は当初バラす前の時点が3目盛分オーバーインフだったので適正に戻しています (現状僅かなオーバーインフ程度)。
また当初の実写チェックでピント面が非常に甘い印象でしたが、光路長をバッチリ適正化させたので以下実写のとおり鋭いピント面に戻りました。このモデルのピント面はこれが本当ですね(笑)
もちろん当初発生していたガタつきも一切ありません。ガタつきの原因は、過去メンテナンス時の組み上げで、各部位の調整が分からずに何とか使える状態まで戻したと言うレベルだと考えます。キッチリ締め付けるとヘリコイドが固まってしまったので、締め付けずにオシマイにしたのでガタガタしていたワケです(笑)
しかし、それではピント面がピンボケになったりするのでオールドレンズの体裁を成していませんョね?(笑)
そうは言っても、このモデルをバラして組み上げられるスキルを持っている整備者なので、シロウト整備ではなくプロの仕業だと考えます。グリースを塗り足す「グリースの補充」をやっていますし、過去のメンテナンスはいわゆる整備会社での処置だと思います。
光学系の解体ができないほど固着剤をビッチリ塗られていたので「加熱処置」の追加料金が加算されます。また大変申し訳御座いませんが、初めての扱いでしたので「構造検討」さらに「難易度加算」も追加になります。申し訳御座いません・・。
無限遠位置 (当初バラす前の位置から適正に調整済/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。
もちろん光学系の光路長調整もキッチリ行ったので (簡易検査具によるチェックなので0.1mm単位や10倍の精度ではありません)、以下実写のとおり大変鋭いピント面を確保できました。電子検査機械を使ったチェックを期待される方は、是非ともプロのカメラ店様や修理専門会社様が手掛けたオールドレンズを手に入れて下さい。当方の技術スキルは低いのでご期待には応えられません。
↑附属の純正金属製フードを装着した状態です。一部ハゲている箇所が油性マジックで塗られていたので遮光塗料で塗っておきました。附属のフィルターも念の為清掃しています。
↑当レンズによる最短撮影距離30cm付近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。
附属のフードを装着して撮影しています・・。
↑最小絞り値「f16」での撮影です。僅かに「回折現象」の影響が出ています。
◉ 回折現象
入射光は波動 (波長) なので光が直進する時に障害物 (ここでは絞り羽根) に遮られるとその背後に回り込む現象を指します。例えば、音が塀の向こう側に届くのも回折現象の影響です。
入射光が絞りユニットを通過する際、絞り羽根の背後 (裏面) に回り込んだ光が撮像素子まで届かなくなる為に解像力やコントラストの低下が発生し、ねむい画質に堕ちてしまいます。この現象は、絞りの径を小さくする(絞り値を大きくする)ほど顕著に表れる特性があります。
大変長い期間に渡りお待たせし続けてしまい、本当に申し訳御座いませんでした。今回のオーバーホール/修理ご依頼、誠にありがとう御座いました。