◎ Carl Zeiss (カールツァイス) Tele-Tessar 135mm/f4 HFT《後期型》(QBM)

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※解説とオーバーホール工程で掲載の写真はヤフオク! 出品商品とは異なる場合があります。

今回完璧なオーバーホール/修理が終わりご案内するモデルは、旧西ドイツは
Rollei製中望遠レンズ・・・・、
Tele-Tessar 135mm/f4 HFT《後期型》(QBM)』です。


  ЯПОНІЯ З УКРАЇНОЮ!    Слава Україні!  Героям слава!  

上の文は「日本はウクライナと共に! ウクライナに栄光あれ! 英雄に栄光を!」の一文をウクライナ語で国旗色を配って表現した一文です。現地ウクライナでは民衆が「ウクライナに栄光あれ!」と自らの鼓舞を叫ぶとそれに応えて民衆が「英雄に栄光を!」と返すようです。

Slava UkrainieieGeroyam Slava

今回オーバーホール/修理ご依頼を賜ったモデルは、当方がオーバーホール作業を始めた12年前からの累計で当時の「QBMマウント規格」の中望遠レンズ「135mm/f4」の括りで捉えても初めての扱いです。

特に敬遠していたワケでもなく、たまたま今まで扱いが無かっただけでしたが、ハッキリ言ってこんなに「超高難度」なモデルとは全く予測しておらず、完全解体してバラしたものの、仕上げるのに丸ッと3日掛かりと言う始末で、甚だ自らの技術スキルの低さをイヤと言うほどに思い知った次第です・・恥ずかしい(恥)

どうしてこのモデルが難しい構造だったのか、或いはどうしてその微調整が大変だったのかについては、以下のオーバーホール工程の中で解説していきますが、一つ大きな発見があり、当時のRolleiの製産体制と言うか、どのような心積もりで臨んでいたのかを垣間見る良い機会であった事も事実であり、この場を借りて今回オーバーホール/修理を賜ったご依頼者様に感謝を申し上げます。

・・大変貴重な経験に至り、このような機会を得た事を素直にお礼申し上げます!

なお、如何にこのモデルが登場した当時の背景と共に関わっていた光学メーカーの変遷について少し解説致します。

後で出てくるオーバーホール工程の中で辻褄が合わない問題について疑問を問いかけますが、その点の理解を深める前提としてこの当時の背景が必要になるからです。

  ●               

1970年に旧西ドイツの光学メーカーRollei (ローライ) から発売された一眼レフ (フィルム) カメラ「Rolleiflex SL35」が採用したマウント規格が「QBMマウント」です。

このフィルムカメラは本来旧西ドイツのZeiss Ikonが扱っていた「ICAREX (イカレックス) シリーズ」の最終モデル「SL706」などの製産を旧西ドイツのバーデン=ヴェルテンベルク州Oberkochen (オーバーコッヘン) の工場で行っていた事から複雑な背景になります。

そもそも旧西ドイツの光学メーカーZeiss Ikonが1971年にフィルムカメラ事業から撤退して しまったので、その時の背景がこの当時のフィルムカメラやオールドレンズとの関わりを難しくしています。

【旧西ドイツZeiss Ikonを取り巻く背景】
1756年:オーストリアのウィーンでVOIGTLÄNDERが創業
1849年:戦前ドイツのブラウンシュヴァイクに本社/工場を移転
1889年:戦前ドイツでCarl Zeissを傘下にしたカールツァイス財団発足
1926年:戦前ドイツのDresdenでZeiss Ikonが発足
1932年:Zeiss Ikonがレンジファインダーカメラ「CONTAX I型」発売

 ・・ ドイツ敗戦時に旧東西ドイツに分断される ・・

1945年:旧西ドイツのシュトゥットガルトを本拠地としてZeiss Ikonが活動開始
1945年:旧東ドイツのドレスデンを本拠地のままZeiss IkonがCarl Zeiss Jenaに吸収
1956年:旧西ドイツでVOIGTLÄNDERとZeiss Ikonがカルテル提携
1969年:旧西ドイツでZeiss IkonがVOIGTLÄNDERを完全合弁化 (吸収合併)
1971年:旧西ドイツのZeiss Ikonがフィルムカメラ市場から撤退
1972年:旧西ドイツでZeiss Ikonがカメラ事業とVOIGTLÄNDERをRolleiに譲渡
1974年:旧西ドイツのCarl Zeissが日本のヤシカと提携し「CONTAX RTS」発売
1974年:旧西ドイツのRolleiが工場をブラウンシュヴァイクからシンガポール工場に移管
1981年:旧西ドイツのRolleiが倒産
1989年:「ベルリンの壁崩壊」事件勃発
1990年:東西ドイツ再統一によりCarl Zeiss JenaがZeissに吸収される

・・このような感じの年表で捉えると分かり易いかも知れません。

すると上の年表で赤色表記の年代部分が工場との関わりになります。当初は旧西ドイツの
oberkochenにあった製産工場は1969年VOIGTLÄNDERブラウンシュヴァイク工場に 移管されます。その後今度は1974年Rolleiに譲渡された為、後にはシンガポール工場へと 引き継がれていきました。

従って最終的にこれらの光学メーカーから登場していたフィルムカメラ製品やオールドレンズなどはシンガポール工場へと移管されていった話になりますね。

↑今回扱ったモデルのモデルバリエーションとしてピックアップしましたが「前期型 (左)」に
今回扱った「後期型 (中央)」さらに別モデルにあたるICAREX向け製品です (右)。

どうしてICAREX向け製品を合わせて載せたのかについては後のオーバーホール工程の中で解説します。

  ●               



↑上の写真はFlickriverで、このオールドレンズの特徴的な実写をピックアップしてみました。
ピックアップした理由は撮影者/投稿者の撮影スキルの高さをリスペクトしているからです
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)
※各写真の著作権/肖像権がそれぞれの投稿者に帰属しています/上記掲載写真はその引用で
転載ではありません。

一段目
左端から円形ボケが破綻して滲んで溶けていく様をピックアップしていますが、中望遠レンズ域の焦点距離ながら正直なところ円形ボケの表出は苦手なようです。相応に大きめで真円の円形ボケを期待していたのですが、実写を観る限りたいして多くの写真が載っていません。またそれら円形ボケの表現性も特に誇張的に出現せず、どちらかと言うと下手すれば背景ボケとして神経を遣わざるを得ない乱れ方をするようにも見えます。

二段目
何しろ参考になる実写が少ないのですが、この段を観るとモデル銘にも含まれる「Tessar銘」を表すかのように、大変鋭いピント面を残す傾向が掴めます。さらにそのピント面のエッジは決して太目に表出せず、むしろ細目の印象さえ帯びている為に誇張感に繋がらず違和感を感じません。

モデル銘に「Tessar銘」を含むものの、ここまでの鋭いピント面を吐き出す点を全く想像しておらず少々驚いたほどです(笑)

三段目
動物毛と人物撮影を混ぜましたが実写が無く特徴が掴めません(泣) また光源や逆光耐性についても多くを知る機会にまでは及ばない印象です。

光学系は典型的な4群4枚のエルノスター型構成です。wikiをチェックすると3枚玉トリプレットの前群側に1枚追加して前群側で球面収差とコマ収差の改善を狙っているとの事ですが、3枚玉トリプレット型光学系構成に比してもさらに強力なピント面の鋭さに繋がる解説をネット上で調べる事ができません。

逆に言うと、それ程までこのモデルが吐き出すピント面は非常に鋭いのですが、そのピントの合焦の仕方も独特で「スパッと瞬時にピントのピークを迎え、アッと言う間に山を越えてしまう」もの凄い鋭さを示します。

従ってこのモデルで距離環のトルクがスカスカだったり (今回のオーバーホール/修理ご依頼内容がまさにその状況) 或いは重いトルクだったりすると、とてもピント合わせできないと、そのまま使い辛さに直結するが如く感じるピントのピークを迎えます。

それが却ってこのような中望遠レンズ域のモデルの光学設計として与えた趣旨と言うか目的をそれこそ光学設計者に問い正したいほどに極端な合焦を示します。間違いなく気持ちの良い合焦をするモデルなのですが、それだけにその使用感には相当神経質にならざるを得ない難しさが伴います。

正直なところ、このような合焦の傾向は中望遠レンズ域のモデルではなく、むしろ標準レンズ域のモデルに持たせたほうが良さげなほどにもったいないと言うか、使い出を感じると言うかそういう感想です。

右構成図は今回のオーバーホールで完全解体した際に光学系の清掃時、当方の手によりデジタルノギスを使い逐一全ての群の光学硝子レンズを計測したトレース図です。

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。当初バラしていく時は特に難しさを感じず、内部構造はこれら「QBMマウント規格」のオールドレンズ達に共通する認識で充分と捉えたほどに理解できる、納得できる構造でした。

ところが完全解体してDOHの工程を経た後に組立工程に入り「???」です(笑) 当初バラした時の逆手順では全く歯が立たず、しかもちょっと考えただけでは全く対応できない高度なレベルの微調整を強いられるハメに陥り、正直なところ「もう二度とこのモデルを触りたくない!」と懲りてしまったほどです(涙)

・・そのくらいとんでもない内部構造と微調整機能が付加されていたモデルでした!(泣)

↑上の写真は完全解体後に溶剤による戦場が終わった時に撮影した光学系前群の格納筒です。上の写真では下側が前玉側方向として傾けて撮影しています。するとご覧のように光学系第2群の先に「絞りユニットに向かって巨大な遮光環 (延長筒) が接着されている」のが分かります。目一杯接着剤がハミ出ているワケですが、実はこれは過去メンテナンス時の仕業ではなく「製産時点からの接着」なのがいろいろな溶剤で一切溶けないので分かります。またこの遮光環 (延長筒) の内側は、まさにマットで微細な凹凸を伴う梨地メッキ加工仕上げで当然ながら「漆黒状態」です (もちろん溶剤で一切溶けない)。

↑さらに上の写真は格納筒から撮りだした光学系第1群の前玉をひっくり返して裏面を撮影しています (写真下方向が前の向き)。大きな光学硝子の塊です。

↑さらにそのコバ端を拡大撮影しました。ご覧頂くと微かに分かりますが (写真撮影がド下手でスミマセン!) コバ端をワザワザ平坦に仕上げて、且つそこから再び曲率を帯びているのが分かります。

これは前出の光学系前群格納筒の中にピタリと格納されるように光学硝子レンズのコバ端を切削加工し、プラスしてちゃんと焼き付け塗装していたのが分かります (溶剤で一切溶けない)。非常に手の込んだ光学硝子レンズへの処置です。

それに反して光学系第2群以降のコバ端処置は一般的なオールドレンズ達と同じレベルのままなので(笑)、このモデルに於ける「第1群前玉の重要性」がこれだけでも理解できそうな印象です(泣)

・・おそらくほんの僅かに格納位置がズレただけでどうしようもない写りに墜ちてしまう(怖)

↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒です。4群4枚のエルノスター型光学系構成なので、ご覧のようなとても長い鏡筒です。

↑鏡筒なので当然ながら最深部には絞りユニットが備わるのですが、ご覧のとおり相変わらずですが、Rollei製モデルは「接着やプレスを多用する設計概念」を踏襲しているのが分かります(笑) 絞りユニットを構成する「位置決め環」がセットされていますがハメ込み式の接着です (赤色矢印)。

さらにいつも不思議に思うのですが、この位置決め環の表層面は「溶剤を弾く」まるで撥水加工の如く玉状に溶剤がまとまりますから、相当な平滑性の処置が施されていると考えられます。実際DOHをやろうにも「異様な感触のツルツルに仕上がっている」のが分かり、とても触れません(怖) 印象としてはまるで塩ビ版のように滑らかな表層面に仕上げてあり、その目的が「絞り羽根の平滑性を担保する」とすぐに分かるので/納得できるので触れないのです(怖)

さらに驚異的なのが鏡筒の外壁で「一面に長い距離のヘリコイドのオス側ネジ山」がビッシリです!(怖) これだけの長い距離を繰り出し/収納させるワケですから、このモデルの距離環を回すトルク調整がどんだけ大変なのかが、この写真を観ただけでも分かると思います (赤色矢印)(怖)

・・しかも冒頭解説の通りとんでもないピントのピークを迎える!(怖)

となれば、このモデルのオーバーホール作業でどのようにトルクを仕上げるのか、相当難度が高いとご理解頂けると思います。

絞り羽根には表裏に「キー」と言う金属製突起棒が打ち込まれており (オールドレンズの中にはキーではなく穴が空いている場合や羽根の場合もある) その「キー」に役目が備わっています (必ず2種類の役目がある)。製産時点でこの「キー」は垂直状態で打ち込まれています。

位置決めキー
位置決め環」に刺さり絞り羽根の格納位置 (軸として機能する位置) を決めている役目のキー

開閉キー
開閉環」に刺さり絞り環操作に連動して絞り羽根の角度を変化させる役目のキー

位置決め環
絞り羽根の格納位置を確定させる「位置決めキー」が刺さる環 (リング/輪っか)

開閉環
絞り羽根の開閉角度を制御するために絞り環操作と連動して同時に回転する環

絞り羽根開閉幅
絞り羽根が閉じていく時の開口部の大きさ/広さ/面積を指し、光学系後群側への入射光量を決定づけている

↑こんな感じで絞りユニットが鏡筒最深部にセットされます。あまりにも鏡筒が長すぎて絞り羽根がハッキリ写らないほどです(笑)

↑完成した鏡筒をひっくり返して後玉側方向から撮影しています。他の「QBMマウント規格」製品同様、鏡筒裏側には制御系パーツがセットされます。制御環の途中に備わる「なだらかなカーブ」の坂/勾配を登りつめて頂上部分が「開放側」にあたり、その反対側麓部分が「最小絞り値側」になります (ブルーの矢印)。そのなだらかなカーブの坂/勾配に「カム」が突き当たるので、具体的な絞り羽根の傾き角度が決定して、絞り羽根が設定絞り値まで閉じる原理ですね (上の写真では最小絞り値まで絞り羽根が閉じている)(笑)

↑さらに向きを変えて反対側を撮影しました。すると「直進キー」が光学系後群側格納筒の外壁にくっついています (赤色矢印)(笑) さらにその反対側には「開閉アーム」と共に操作爪が用意されています (赤色矢印)。

この2つの要素がこのモデルの整備レベルを「高難度に挙げている言われ」になります(泣)

↑鏡筒を立てて撮影しました。同様写真下方向が前玉側にあたります。「直進キー」が1本しか用意されていないのが大きな問題になります (赤色矢印)。しかもグリーンの矢印で指し示したように長大な距離を繰り出し/収納させる必要がありますから、どんだけトルクの仕上げ方が重要になるのか誰でも分かると思います(泣)

↑距離環やマウント部を組み付ける為の基台です。一つ前の鏡筒の長さ・・つまりはヘリコイドオス側のネジ山の長さ・・に比して。どんだけこちらの基台側が薄いのか/厚みが無いのか異常なほどです(泣)

これか厚みのある基台であれば距離環を回すトルクはそれほど神経質になりませんが、この薄さでは相当神経質にトルク調整しない限りピント合わせが大変になってしまいます(怖)

↑ここからがこのモデルの、ひいては当時のRolleiの設計概念と言うか、製品設計に対する企業姿勢があからさまに判明してしまった一因の箇所です。距離環と共に「ヘリコイド筒」が並べてあります (赤色文字)。

↑ヘリコイド筒のほうが外径が小さいので、こんな感じで距離環の内側にスッポリ入ります。

↑ヘリコイド筒の内側の奥まった位置に「ヘリコイドメス側」が切削されているのが判ります (赤色矢印)。ここでも前述の解説と全く同じ内容になりますが、どうしてこのように短い距離のネジ山を設計してしまったのかと問い正したくなるほどです(泣)

つまりこの短いネジ山 (メス側) が回る事で「長大な鏡筒のヘリコイドオス側を繰り出し/収納させる」ワケですから、当然ながらそのトルク管理が如何に大変なのかがこれだけでも理に適うと思います。

↑そろそろ気づかれたでしょうか? どうしてこのヘリコイド筒には「敢えて合皮の貼り革が貼り付けられている」のでしょうか?(笑) もっと言うなら、どうしてその合皮の貼り革が貼り付いた状態のままで「赤色矢印の箇所を切削して短く切り取っている」のでしょうか???(笑)

・・そうですね、このヘリコイド筒は前期型の距離環を再利用しているのです!(驚)

さすがに今まで12年間オーバーホール作業を続けてきて、これほどまでにあからさまに「パーツの再利用」をしていたオールドレンズをみた記憶がありません(笑)

冒頭に写真をピックアップした「前期型」の距離環「そのモノ」をスパッと切り取ってヘリコイド筒として再利用しているのです(笑)

↑その切削箇所を拡大撮影していますが、撮影スキルがド下手なのでちゃんと写せていません (スミマセン)(汗) 切削箇所の赤色矢印に対して、ちゃんと内側は面取り加工までこなしています (外側は合皮の貼り革が貼り付けてあるので最低限の面取り加工に留めているのも分かる)。

従って「前期型の距離環を転用してしまった」事は、これら面取り加工の手法からしても間違いありません!(驚)

・・逆に言うなら「Rolleiよ、そこまで切迫していたのか?!」と言いたくなる話です。

如何でしょうか? 少なくとも当方はこの現実を目の当たりにしオドロキを隠せませんでした。合皮の貼り革を貼る前のヘリコイド筒が転用されるならまだ理解できます。ところが一度製品に使う為に工程を経て仕上げた「前期型の距離環」をワザワザ切り取ってまで転用しなければならなかったその背景とは・・???

まさにそこがポイントで「期待に反して前期型は売れなかった!」事が伺えます(涙) ワザワザ切削してまで転用するくらいですから、相当数の在庫が残っていたのだと考えられます。

しかも後でちゃんと写真が出てきますが、今回扱ったこの個体は「旧西ドイツはブラウンシュバイク工場で生産されていたモノ」です!(驚)

するとここまでの解説で「Rolleiよ」と述べていたのは実のところその真実として「互いの契約で可能な限りコストを掛けたくなかった」Carl Zeiss側とRolleiとの思惑が薄く見えてきそうです・・(驚)

Carl Zeissにしてみれば維持する事が適わずRolleiに売り渡してしまうブラウンシュバイク工場 (後に閉鎖される) であり、合わせて買い取る側のRolleiも仕方なく買っているような印象をこれらの事実を掴んで感じ取ってしまいました(泣)

そのくらいに「パーツの再利用」はいくら当時の話でも、3千本以上手掛けてきた当方にとっては初めての現実でした!(驚) それが旧西ドイツ側のCarl Zeissのパーツだった点に於いて、旧東ドイツどころではなかったのが何となく感じられてしまい・・まるでロマンです!(涙)

↑再利用された合皮革の貼り革が貼り付けられたままのヘリコイド筒を内包して距離環が組み付けられました(笑)

↑上の写真はマウント部内部の写真ですが、既に構成パーツを取り外して当方による「磨き研磨」を終わらせた状態で撮影しています。

↑「絞り連動ピン」を取り付けて (赤色矢印) 撮影していますが、グリーンの矢印で指し示しているとおり「確定孔」まで他のモデルと同じ位置に備わります。

そうなのです! このマウント部さえも「共通パーツ化」しており、他の焦点距離のモデルと同一パーツとして使い回しする設計を採っているのです。それ故に「あの薄い基台だったのが納得」と言うお話しです(笑)

詰まる処、可能な限り同じパーツを使い回すようにする事でコスト削減を狙っていた事の証であり、それほどまでに逼迫している状況だったのが見え見えなワケです。

・・何故なら、その結果とんでもない構造を採用せざるを得なかったから!(怖)

↑マウント面から飛び出る「絞り連動ピン」が押し込まれた時の「その押し込み量のチカラをそのまま伝達する役目の操作爪」が上の写真のパーツです。附随するスプリングによって絞り連動ピンが押し込まれた時のチカラを増幅しているワケではありません・・実のところそのように受け取る整備者が居たりしますが(笑)、そういう設計ではありません (このスプリングは必要以上に及んだチカラを逃がす役目で備わっているから)。

つまり「絞り羽根を常に開くチカラ」と「常時絞り羽根を閉じるチカラ」の相反するチカラバランスの中で絞り羽根開閉制御を執る目的として附随するスプリングなのです。

↑マウント部内部の絞り連動ピンに連係して操作爪の機構部がセットされました。

↑さらにマウント部内部に今度は長〜い板状アームの「操作アーム」が組み込まれます (赤色矢印)。グリーンの矢印の指し示している箇所は上手く撮影できていませんが「極僅かにへの字型に曲げられているアーム」を指し示しています。

↑マウント部内部で絞り連動ピンと連係する操作爪機構部とこの開閉アームが連係しました。マウント面から飛び出ている「絞り連動ピン」が押し込まれると (ブルーの矢印❶) その押し込み量の分だけチカラが伝達されて長〜い「開閉アーム」画左右に動きます (ブルーの矢印❷)。マウント部にはグリーンの矢印で指し示したように「確定孔」も備わっています。

↑さらに今度は「直進キー筒」が組み付けられます (赤色矢印)。ブルーの矢印で指し示した位置に1本だけ「直進キーガイド」と言う溝が切削されています (グリーンの矢印確定孔もあります)。

↑するとこのマウント部を基台側にセットする際、赤色矢印で指し示した操作爪の動き方とブルーの矢印で指し示した直進キーガイド、或いはグリーンの矢印の確定孔、これら3つの要素について最低限位置がピタリと適合しない限り「このマウント部をセットできない」話に至ります(怖)

・・これがこのモデルでの整備作業を相当難しくしている要素です!(泣)

どうしてなのか? 何故なら、冒頭のほうで写真をお目にかけたように「鏡筒の裏側にはスプリングが介在していなかった」ワケですから、他の「QBMマウント規格」たるオールドレンズ達と異なり「絞り羽根の開閉を司るバネ類はこのモデルだけが1つしか存在しない」話しに至ります。

つまり前述した「絞り羽根を開くチカラと閉じるチカラのバランスの中で絞り羽根開閉制御する」ではなく「絞り連動ピンの押し込みだけで絞り羽根を開閉させるチカラだけしか存在しない」設計を採っている、非常に珍しいタイプなのです。

従って、ここの絞り連動ピンとの連係機構部の微調整如何で「絞り羽根の開閉異常が発生する懸念がとても高い構造」と言わざるを得ません。

さらにプラスして「直進キーが1本しか存在しないのでトルク制御すら異常に大変な話に至る」のは歴然です(怖)

・・なのに確定孔だけはキッチリ存在するからどうやって微調整すれば良いのか?!(怒)

と言うお話しです(涙)

↑工程を進めます。絞り環をセットしてマウント部を組み付けました (赤色矢印)。もちろん各部位の微調整をちゃんと済ませているからマウント部の「確定孔」が入る次第です。

↑上の写真はこの状態で後玉側方向から撮影しています。するとマウント部が赤色矢印で指し示した3本の締付ネジで締め付け固定されるのが分かります。さらにグリーンの矢印で指し示している「確定孔」にもちゃんと「確定キー」が刺さっているから3本の締付ネジで締め付け固定できるワケです。

ところが当初バラした直後は「これら3本の締付ネジはユルユル状態」であり、しかもヘリコイドに塗られていた「白色系グリース」はビチョビチョで相当に大量のグリースが塗られていました。確かにオーバーホール/修理ご依頼内容たる「スカスカのトルク感」ではあったものの、それはおそらく潤滑油まで注されていたが故にスカスカだったのではないかとみています。

つまり「トルク調整を適切にできず潤滑油を注入し締付ネジを硬締めせずに仕上げた」と言うごまかしの整備が過去メンテナンス時に施されていた事が判明します。

↑上の写真はオーバーホール工程の途中を撮っているのではなく、一度最後まで組み上げたのに再びバラして取り出しているマウント部です(泣)

要は全部で「18回」の組み直しを行っている途中での撮影で、その因果関係は上の写真で赤色矢印で指し示している「操作アームのカタチ」が問題だったのです。

↑どうして「操作アームのカタチが問題になるのか?」を上の写真で解説しています。鏡筒内部を今度は前玉側方向から撮影しており、光学系前群格納筒を取り外して撮っています。

すると絞りユニットが丸見え状態なワケですが、ご覧のとおり「操作アームが操作爪に刺さっているものの僅かに斜め状に変形している」が為に、マウント部締付ネジ3本を硬締めすると「絞り羽根がf8で停止して詰まってしまう」或いは距離環を回すトルクが異常に重すぎる状況だったのです。

上の写真ではマウント面から飛び出ている「絞り連動ピン」が押し込まれると (ブルーの矢印❶) その押し込み量の分だけ「操作アームが左右に動く (ブルーの矢印❷)」のを説明しています (赤色矢印)。

つまり過去メンテナンス時に整備者の手により「操作アームの板状のカタチを曲げられてしまった」為に絞り羽根開閉異常を招き、それをごまかす為に締付ネジ3本を硬締めせずにユルユルに仕上げ、結果トルクが重くなってしまったので潤滑油を注入して軽く仕上げたのが判明した次第です。

当方が今回のオーバーホール作業で「18回」も組み直ししていたのは「板状の操作アームのカタチを整えていた」為であり、極僅かにカタチを変えてから最後まで組み上げて距離環を回しトルクをチェックし、同時に絞り環操作で絞り羽根の閉じ具合を確認する作業を延々と「18回」もやっていたのです!(怒)

・・冗談じゃありません!!!(怒)

過去メンテナンス時の整備者は、本当にロクな事をしません(泣) 何で当方が過去メンテナンス時の「ごまかしの整備」の尻拭いをしなければならないのか、マジッで毎回頭に来ます!(怒)

↑「18回」の組み直しでようやく適切な状態に戻ったので、最後「絞り値伝達環」を組み込んでマウント部を仕上げます (赤色矢印)。この後は光学系前後群を組み込んで無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行い、最後にフィルター枠とレンズ銘板をセットすれば完成です。

DOHヘッダー

ここからはオーバーホールが完了したオールドレンズの写真になります。

↑19回目の組み直しでやっとのことで「3日掛かり」で漕ぎ着けた完成品の撮影です(涙)・・相当恨めしく当方には映っています(怒)

確かに過去メンテナンス時の整備者の「ごまかしの整備」の仕業により本当に酷い目に遭いましたが、そもそもこのモデルの絞り羽根制御の設計がダメで「開くチカラと閉じるチカラのバランスになっていない」時点で既にアウトです!(怒)

従って「今回の整備がこのモデルでの最初で最後」にさせて頂きます。もう二度とこのモデルを触りたくありません!(涙) とんでもない内部構造の設計です・・マジッで懲りまくりです!(泣)

↑光学系内の透明度が非常に高い状態を維持した個体です。LED光照射でもコーティング層経年劣化に伴う極薄いクモリが皆無です。

↑光学系後群側もスカッとクリア極薄いクモリが皆無です。赤色矢印で指し示しているとおり「Lens made in West Germany」ですから、間違いなく旧西ドイツはブラウンシュバイク工場での生産品です。

なのに、どうしてこう言う粗雑な設計にまとめてしまったのでしょうか?(泣)・・しかも「前期型パーツの再利用」まで及んでいる始末で、正直なところCarl Zeiss (oberkochen) の品格を相当損ねてしまったとしか言いようがありません(泣)

↑さすがに18回も組み直しただけあって(笑)、6枚の絞り羽根キレイになり、絞り環共々確実に駆動しています。絞り羽根が閉じる際は「完璧に正六角形を維持」したまま閉じていきます。もちろん各絞り値の開閉幅もキッチリ簡易検査具でチェック済でバッチリです!(笑)

ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感が僅かに感じられるものの当方にて筐体外装の「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。「エイジング処理済」なのですぐに酸化/腐食/錆びが生じたりしません。

当方ではヤフオク! で流行っている「抗菌剤/除菌剤による清掃」などは絶対に実施しません。これをやると薬剤に含まれている成分の一部が金属の表層面に対して酸化/腐食/錆びを促す結果に至るので、早ければ1年、遅くとも数年でポツポツと錆が表れ始めます。

詳細は厚労省の「新型コロナウイルスの消毒・除菌方法について」が詳しく解説しています。

↑塗布したヘリコイドグリースはいつもどおり「黄褐色系グリース」を使い、当然ながら当方独特なヌメヌメッとしたシットリ感漂うトルク感に仕上がっています。もちろん冒頭解説の通り「スパッといきなしピントのピークを迎える」が故に「とても軽いトルク感」に仕上げてあり、掴んでいる指の腹にチカラを伝えるだけでピントの山の前後動が適います。

↑結局「板状の操作アームの長さ」が長い分、過去メンテナンス時に曲げられてしまったのを適切なカタチに正すにしても「中に刺さっている状態が全く見えない」ので (当たり前の話ですが)、極僅かにカタチを整えては完全解体して、再びまたカタチを変えてから最後まで組み上げて距離環を回してトルク感を調べ、且つ当然ながらちゃんと最小絞り値「f32」まで正しく絞り羽根が閉じているかチェックする作業を延々と「18回」ヤッていたと言う本当にアホな話です(笑)

・・どんだけ技術スキルが低いんだョ!・・と言われても反論できない有様です(泣)

マジッで3日間情けないったらありゃしません・・恥ずかしい!(涙)

大変申し訳御座いませんが、ご請求金額は目の玉飛び出る金額です!(怖) もちろん他の2本含め以下のポリシ〜は適用ですから、3本共に最大値MAXで「無償扱い」までご納得頂ける金額まで減額が可能です (いちいち当方宛メール確認せずズバッと弦隠して頂いて構いません)。

また大変申し訳御座いませんが、この135mmに関しては再修理など一切致しません・・マジッで懲りました!(涙) 気に入らない分は減額して下さいませ。

オーバーホール/修理ご依頼者様皆様に告知しているとおり、もしもお届けしたオールドレンズの仕上がり状況にご満足頂けない場合は、そのご納得頂けない要素に対して「ご納得頂ける分の金額をご請求金額より減額」下さいませ。
減額頂ける最大値/MAX額は「ご請求金額まで (つまり無償扱い)」とし、大変申し訳御座いませんが当方による弁償などは対応できません・・申し訳御座いません。

無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。

もちろん光学系の光路長調整もキッチリ行ったので (簡易検査具によるチェックなので0.1mm単位や10倍の精度ではありません)、以下実写のとおり大変鋭いピント面を確保できました。電子検査機械を使ったチェックを期待される方は、是非ともプロのカメラ店様や修理専門会社様が手掛けたオールドレンズを手に入れて下さい当方の技術スキルは低いのでご期待には応えられません

↑当レンズによる最短撮影距離1.6m附近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。

各絞り値での「被写界深度の変化」をご確認頂く為に、ワザと故意にピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に電球部分に合わせています。決して「前ピン」で撮っているワケではありませんし、光学系光学硝子レンズの格納位置や向きを間違えたりしている結果の描写でもありません (そんな事は組み立て工程の中で当然ながら判明します/簡易検査具で確認もして います)。またフード未装着なので場合によってはフレア気味だったりします。

↑絞り環を回して設定絞り値「f5.6」で撮影しています。

↑さらに回してf値「f8」で撮りました。

↑f値は「f11」に上がっています。

↑f値「f16」での撮影です。

↑f値「f22」です。そろそろ絞り羽根が閉じきっている状況なので「回折現象」の影響が現れ始めています。

 回折現象
入射光は波動 (波長) なので光が直進する時に障害物 (ここでは絞り羽根) に遮られるとその背後に回り込む現象を指します。例えば、音が塀の向こう側に届くのも回折現象の影響です。
入射光が絞りユニットを通過する際、絞り羽根の背後 (裏面) に回り込んだ光が撮像素子まで届かなくなる為に解像度やコントラスト低下が発生し、眠い画質に堕ちてしまいます。この現象は、絞り径を小さくする(絞り値を大きくする)ほど顕著に表れる特性があります。

被写界深度
被写体にピントを合わせた部分の前後 (奥行き/手前方向) でギリギリ合焦しているように見える範囲 (ピントが鋭く感じる範囲) を指し、レンズの焦点距離と被写体との実距離、及び設定絞り値との関係で変化する。設定絞り値が小さい (少ない) ほど被写界深度は浅い (狭い) 範囲になり、大きくなるほど被写界深度は深く (広く) なる。

焦点移動
光学硝子レンズの設計や硝子材に於ける収差、特に球面収差の影響によりピント面の合焦位置から絞り値の変動 (絞り値の増大) に従い位置がズレていく事を指す。

↑最小絞り値「f32」での撮影です。今回のオーバーホール/修理ご依頼 (合計3本) 誠にありがとう御座いました。本日の便で発送させて頂きます。