◎ Nikon Ai NIKKOR 50mm/f1.4(Nikon F)
今回初めてNikonのレンズをバラしましたが、さすがよく考えられた構成になっており、シッカリした構造化には歴史を感じましたね・・。他社光学メーカーとの違いを感じたのは、一番は構成パーツの「材質」です。構成パーツの中にはアルミ材削り出し部品もあるのですが、アルミ材以外の基材が混じっているパーツもあるようです。もちろん真鍮材も砲金 (ガンメタル) もありました・・。しかし、もっと軽量化されていて且つ強度のある材質に興味を感じました。その材料が何なのかは分かりません・・。
次はムダを省いた、それでいて可能な限りの他モデルとの共通化が成されている要素を垣間見た気がします。特に感心したのは、距離環の「回転するチカラ」を鏡筒を前後動させる「直進するチカラ」に変換する役目の「直進キー」と言うパーツが、他社光学メーカーでは両サイドに1本ずつ配しているのに対し、片側に大型の「直進キー」を1個だけ用意していた部分です。しかもこの部材は「砲金 (ガンメタル)」を採用していて非常に耐久性を考慮した形状にさせていました。さすがだと感じましたね・・。ネジ山数に頼らずにシッカリと構築されたヘリコイドの構造化にはオドロキを感じました。
しかし、いずれも外観からは全く分からない事柄ばかりですので、皆様にはピンと来ないかも知れませんね・・(笑)
《 訂 正 》
材質について「砲金」と述べていますがその後専門の方からご指摘頂き考え方を改めました。「砲金」ではなく真鍮 (黄銅) 製です。ここに訂正してお詫び 申し上げます。大変申し訳御座いませんでした。
オーバーホールのために解体した後、組み立てていく工程を解説を交えて掲載しています。
すべて解体したパーツの全景写真です。
ここからは解体したパーツを実際に使って組み上げていく組立工程写真になります。
まずは絞りユニットや光学系前群を収納する鏡筒です。このモデルではヘリコイド (オス側) は独立しており別に用意されています。
上の写真では既に絞り連動関係のパーツも組み付けられています。他社光学メーカーでは「マイクロバネ」だけを使うか、或いは「板バネ」だけを使っているか・・なのですがNikonは「適材適所」なのか「マイクロバネ (コイルバネ)」も「棒バネ (反りバネ)」も共に使われていますね。
次の写真は距離環やマウント部を組み付けるための基台です。
なかなか深さのある基台なのですが、その理由は後ほど判ります。ヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。
このモデルでは「無限遠位置調整機能」を装備しているので大凡のアタリで構いません。
共にアルミ材削り出しにメッキを施した構成パーツになっています。ここで指標値環を組み付けてしまいます。
「●印」の基準マーカー位置をキッチリ合わせます。この位置がズレるとすべての位置がズレていきます。
この次に絞り環を組み付けていくのですが、絞り環操作は「クリック感」を伴う操作性の仕様です。他社光学メーカーでは「鋼球ボール+マイクロバネ」を使うことが多いのですが、Nikonのこのモデルでは「鋼 (はがね)」を採用していました。
上の写真では2本のネジで締め付けて固定されている「鋼 (はがね) 製の板バネ」の部分を撮影しました。ほんの僅かに「ビミョーな角度」をつけていたので、当方にてマーキングをしています。恐らくこの「ビミョーな角度」と言うのは「クリック感の強さ」に影響しているハズです・・。鋼製の板バネには波形の形状が付けられていますが、よく観察すると中央に「円錐状の突起」がちゃんと用意されていました。この部分が鋼球ボールの役目を担っているのですね・・よく考えられています。「鋼製の板バネ」に「円錐形」のプレスを施してあるので結果として絞り環操作時の「クリック感」はカチカチとシッカリしたものになるハズですから・・。バラしてみると、このような意外な部分での「拘り」が見えてきます。
当方でマーキングをしているのも理由があります。すべてのパーツはバラバラに細分化して解体してしまい、主要なパーツはすべて「磨き研磨」を施しています。主要パーツにはちゃんと「メッキ」が被せられていますから、そうすることで経年で表層面に生じた「腐食」が除去されて「ピカピカ」に「ツルツル」に戻ります。結果として組付けは確実になり、連係部分のパーツも確実に連係動作をしてくれると言うワケですね・・。上の写真の「鋼製の板バネ」も実際にはバラしてしまい基材だけの状態にして「磨き研磨」を施しています。
絞り環です。「カニ爪」を外して「磨き研磨」や「清掃」を施しましたので「カニ爪」を取り付けます。
こんな感じです・・ちゃんと「カニ爪」までくすんでいたので、キレイに「磨き研磨」しています。ピカピカですよ・・(笑) この「カニ爪」がある意味トレードマークですからねぇ。
ここで絞り環をセットせずに「先に」ヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込んでおきます。理由は次の工程で判明します。
無限遠位置のアタリを付けた、正しいポジションでネジ込んだ状態です。上の写真の指標値環「●印」の基準マーカー直ぐ下にプラスネジが2本見えています。実はこの裏側に冒頭で説明した幅広で大型の「直進キー」が締め付けられて固定されています。ワザワザ「真鍮 (黄銅) 製 (ガンメタル)」で造られている「直進キー」です。「砲金」と言うのはそのコトバ通り「銃」や「大砲」などの「銃身や砲身」にも使われている耐摩耗性と強度に優れた材質ですね・・それ故「ガンメタル」とも呼びます。
この後に絞り環を組み付けます。「直進キー」をセットする「固定ネジ」が絞り環の内部に隠されている構造ですね・・。それで先にヘリコイド (メス側) をネジ込まなければならない組立手順だったのです。
実はこのヘリコイド (メス側) の材質がアルミ材削り出し部品ではないように感じています。非常に「肉厚が薄い」のですが強度が高いのです。アルミ材削り出し部品でこの程度の肉厚にしてしまうと「変形」の可能性が高くなってきます。ましてやヘリコイドですから頻繁に稼働する「ネジ山」を有するワケで、そのような部品の肉厚を薄くして強度を低下させてしまうのは理に適いません。肉厚が薄く、且つとても「軽量」なヘリコイド (メス側) です。
カニ爪が付いている絞り環を組み付けて、さらに鏡筒もヘリコイド (メス側) の中にスライドさせて入れ込みました。鏡筒はこの段階ではまだ固定されていません。しかし富岡光学製のレンズとは異なり、前玉側から「鏡筒固定環」で締め付けて固定するのではなく「鏡筒カバー (フィルター枠装備)」で締め付けて固定する方法を採っています。こうすることで「工程数」を減らすことが可能になっていますね。
次の写真は距離環をバラした状態の写真です。
この距離環もNikonの「拘り」を感じた部位です。距離環と鏡筒との「間のスキマ」を可能な限り減らして、実使用時の「砂」や「埃・塵」などの侵入を可能な限り防御する役目と「見た目の高級感」とを合わせ持たせた「拘り」がこの「飾り環」になります。
最終的にレンズ内部への「砂」や「埃・塵」の侵入を防ぐことでヘリコイドへの附着を防御しているワケです。単なる「お飾り」ではないのですね・・。上の写真では奥にボケて写っているのがラバー製のローレットです。よくよく拘りを以て考えられた構造化ですねぇ・・感心してしまいました。
距離環をセットした状態です。現段階ではまだ光学系を組み付けていませんから、距離環は「仮止め」の状態です。ここから光学系の前後群を組み付けて無限遠位置や光軸確認、絞り羽根開閉幅の確認などを実施して完成間近と言うことになります。
まずは光学系前群です。
この個体は残念ながらほぼ全ての群にカビが発生していました。それらカビを除去した痕跡として「点キズ」や「汚れ」が残ってしまっています。上の写真ではそれらのカビ除去痕を分かり易くするために「ワザと目立つよう」に誇張的に撮影しています。目視ではこのように明確には見えませんし、とてもクリアな感じに見えています。
光学系は順光目視にて前玉はカビ除去痕に起因の極微細な点キズ複数あり極微細なヘアラインキズも見受けられます。また中玉や後群もカビ除去痕に起因の極微細な点キズが複数あります。後玉にはやはりカビのコーティング面浸食による極薄いコーティング劣化が見受けられます。光学系内はLED光照射でようやく視認可能レベルの極微細な拭きキズや汚れもありますが、いずれもすべて写真への影響はありませんでした。
但し、後群 (第6群) のコーティング層劣化に伴い目視では全く見えない極薄いクモリが全域で生じているので、光源を含むシーンや逆光撮影で影響を来す可能性はあります。次は後群です。
後群内も同様にカビ除去痕に起因する極微細な点キズやコーティングの汚れ状に見えるカビ除去痕も複数ありますが、目視ではあまり明確には見えていません。
マウント部を組み付けます。
こんな感じです。これから各種確認を行い問題なければ距離環をネジで固定した上で、距離環の「飾り環」を組み付けてラバー製ローレットを取り付ければ完成です。
ここからは組み上げが完成した出品商品の写真になります。今回初めてバラしてオーバーホールを実施しましたが、なかなか良くできている構造化に感心させられ、とても勉強になりました。さすがニコンですね・・。
光学系のほぼ全群に対して残念ながら、経年相応のカビ除去痕が複数ありますが、極微細すぎて目視では見えにくく、光学系内はとてもクリアです。
ここからは鏡胴の写真になります。経年の使用感があまり感じられないキレイな個体です。残念ながら距離環に2箇所の「引っ掻きキズ」がありますが、それ以外にはキズも無く、当方の判定では「美品」としています。
距離環のトルク感は滑らかに感じほぼ均一です。距離環を回転させている際に負荷を感じる箇所がありますが「グリス溜まり」なので操作しているうちに改善されます (グリス溜まりの位置は多少移動します)。ピント合わせの際も軽いチカラで微妙な操作が楽に行えます。
このモデルが登場してから既に40年近くが経過しています。その間に僅かな内部構造や構成パーツの見直しが行われましたが、光学系の構成は変化していません。現在も生産と販売が続けられている非常に息の長いモデルで、世界規模で考えてもこのように息の長いモデルは存在していないのではないでしょうか?
光学系後群の第6群は、残念ながらコーティングの劣化が進んでおり、光に翳すと「薄いクモリ」が視認できます。従って光源や逆光撮影には留意する必要があります。
当レンズによる最短撮影距離45cm附近での開放実写です。当方のマウントアダプタが旧型のカメラボディ用しか無かったので、少々マゼンタ寄りに偏った写り方になっています。
そもそも当方は、このニコンの描写性にあまり興味がありません・・。今も昔もニコンのレンズは「赤色」に反応する描写性にセットされているようで、写っている写真を見ると、フィルムカメラだろうが今ドキのデジカメ一眼だろうが、写真の中の「赤色」の表現性に当方は「違和感」を感じてしまうので、根本的に好みが合っていないようです(笑) 街中のスナップ撮影写真を見ても、妙に「赤色の看板」や「標識」などが目についてしまい目障りに感じてしまいます。
これにはちゃんと理由があって、結果としては「人肌」の色合いを美しく表現させるために「赤色」に拘った設定をしているのかも知れませんが、実際には「赤色」ではなく「赤色の成分」に拘っているのであって、確かに「肌色」の表現性では非常に美しく適確に被写体色に近似した色合いを表現できていると思います。
またそもそも「人間」は血液が赤いので、例えば食料品コーナーでも「赤色」に反応するのはそのような因果関係があるようですし、ひいては小売店の値札や告知札 (いわゆるPOP関係) に赤色の要素を持たせているのも、人間には目を惹くからであり、さんざん当方もかつての仕事で勉強させられました(笑)
その意味では正しいことでもあり、且つひとつの「差別化」の要素にも成り得ていると考えますが、何しろ当方が「人物撮影」に興味関心が無いので・・ダメですね(笑)
以前からニコンのレンズも是非・・とのリクエストがありましたので、今回トライしてみました。今後Nikon製レンズも扱いを増やしていくつもりです。内部構造は非常に理に適ったノウハウの歴史を感じる構造化が成されていましたので、組み立てはとても分かり易いです。その意味では富岡光学製レンズのような「意味不明の構造化」は一切見受けられませんでした・・(笑)