◎ mamiya (マミヤ光機) AUTO mamiya/sekor 55mm/f1.8 black《富岡光学製》(M42)

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今回完璧なオーバーホールが終わって出品するモデルは、マミヤ光機製
標準レンズ・・・・
AUTO mamiya/sekor 55mm/f1.8 black《後期型》(M42)』です。


先日「AUTO mamiya/sekor 55mm/f1.8 silver (M42)」をオーバーホール済でヤフオク! に出品しましたが、このモデル自体それほど頻繁に市場に出現しない稀少品であるものの「前期型/後期型」の別が存在することを知りませんでした。先日出品したタイプが「前期型」にあたり今回は「後期型」です (その根拠なども解説していきたいと思います)。

今回のヤフオク! 出品は、残念ながら光学系の状態が良くない為 (コントラスト低下が若干生じている)「ジャンク扱い」で出品します。完璧なオーバーホールまで完了しているので、その作業対価まで含めると「大赤字」ですが明らかに写真に影響が表れるのを隠して (ごまかして) 出品することをヨシとしない方針なのでタダ働きですが(笑)、お好きな価格でご検討下さいませ。

いつもオーバーホール/修理をご依頼頂く方から当方宛メールを頂きましたが今流行りのハイキ〜で撮影するインスタ映えを勘案すれば、むしろ今回の個体のハレを伴う写り方は苦にならないのではないかとのご指摘 (つまり普通に出品しても良かったのではないかとのお話)。確かに写真家の中にはハイキ〜で故意に撮影している人も居ますが(笑)、それは写真センスの問題なので、必ずしもオールドレンズの「」として考えると本来の状態ではない点が問題になると当方は考えます。

その意味で「ジャンク扱い」にしているので、後は手に入れられた方がどのようにご活用頂くかはもちろん自由です。そもそも当方はハイキ〜の写りになびかないので (人の瞳で見たがままの表現ではない)(笑)、あまりそれには拘りを持ちません。ご指摘大変参考になりました。ありがとう御座います!

マミヤ光機と言えば、戦前から中判フォーマットの二眼レフや一眼レフ (フィルム) カメラなどを発売していた有名な老舗で、現在もフェーズ・ワンに吸収されたもののプロ向け光学機器を供給している (現存している) 数少ないの光学メーカーの一つです。

1960年 (昭和35年) 辺りから一般向け一眼レフ (フィルム) カメラも発売しますが、驚異的な頻度でマウント規格を変更した為に数多くのマウント種別でフィルムカメラとオールドレンズが存在します。さらに当方はカメラ音痴なので余計に分からず今まで敬遠していましたが(笑)、今回初めて扱うM42マウントのモデルです。

↑とにかくマミヤ光機のことがよく分からないのですが、さらに当方にとって都合が悪いことにネット上で「M42マウント」のマミヤ光機製オールドレンズ情報を検索すると、マミヤ光機以外に「世田谷光機 (現:昭和オプトロニクス)」製との案内が多くヒットします。

ネット上の情報に従えば、今回のモデル『AUTO mamiya/sekor 55mm/f1.8 (M42)』は「世田谷光機」製のオールドレンズになりますが、当方の考察ではどう考えても『富岡光学』製にしか見えません。

そこで先ずマミヤ光機と「世田谷光機 (限:昭和オプトロニクス)」の沿革を重ね合わせ、且つ一般的な一眼レフ (フィルム) カメラの発売のタイミングに合わせて登場した数多くのマウント種別を一覧にまとめてみました (上図)。

いろいろ調べてみると確かに「世田谷光機」は存在し、且つマミヤ光機の傘下で当時のレンズ群を開発/製産していたようですが、ネット上で案内されている現存「昭和オプトロニクス」とは異なる沿革のように見えます (一覧の沿革はサイトから引用)。すると設立時の会社名は「昭和光機」であって「世田谷光機」ではありませんし、マミヤ光機で一般向け一眼レフ (フィルム) カメラが発売されていたタイミングでは「日本電気グループ傘下」に入っている時期に当たる為「世田谷光機」とは一致しないように見え、どうしてネット上で「世田谷光機 (現:昭和オプトロニクス)」と案内されているのかがよく分かりません。

上の一覧でまとめると、 部分のオールドレンズに関し「世田谷光機」製である可能性が非常に高いですが、 部分「M42マウント」オールドレンズはどう考えても「富岡光学」製です。
(但しAUTO mamiya/sekor SXシリーズに関してはまだ考察途中です)

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今回扱うモデルも『富岡光学製』と当方は捉えているのですが、そのように謳いヤフオク! に出品すると「何でもかんでも富岡光学製にしてしまう」とSNS等で批判対象になるようです(笑)

その根拠の基となるモデルがあり、モデルのレンズ銘板に発売メーカーの刻印以外に「TOMIOKA」銘を刻んだいわゆる「ダブルネーム」のオールドレンズが存在します。

AUTO CHINON 55mm/f1.4 TOMIOKA (M42)」の特異的な構造要素から判定しています (右写真は過去オーバーホールした際の写真)。

具体的には『富岡光学製』の構造的な要素として大きく3点あり、いずれか1点、或いは複数合致した時に判定しています。

M42マウントの場合に特異なマウント面の設計をしている (外観だけで判断できる)。
内部構造の設計として特異な絞り環のクリック方式を採っている (外観だけでは不明)。
内部構造の設計として特異な絞り羽根開閉幅調整方式を採っている (外観だけでは不明)。

上記3点は今までに2,000本以上のオールドレンズを扱ってきて、富岡光学以外の光学メーカーで採っていない設計なので判定の基準としています。それは、そもそもオールドレンズを設計する時、他社の設計をそっくりそのまま真似て (模倣して) 設計図面を起こす必要性が薄いからです。推測の域を出ませんが、たいていの光学メーカーでは自社工場の機械設備などを勘案して、最も都合の良い設計で図面を起こすハズだと考えられるからです (ワザワザ費用を掛けてまで同じ設計を採る必要性が見出せないから)。具体的な特異点の解説はコシナ製標準レンズ「COSINON AUTO 55mm/f1.4《富岡光学製》(M42)」でご案内しています。

今回扱うモデル『AUTO mamiya/sekor 55mm/f1.8 black《後期型》(M42)』は、上記の判定が該当した結果「富岡光学製」と判定しました。

【モデルバリエーション】
オレンジ色文字部分は最初に変更になった諸元を示しています。 

前期型
製造元:富岡光学
光学系:4群6枚ダブルガウス型
絞り羽根枚数:6枚
最短撮影距離:0.5m
f値:f1.8〜f16
A/Mスイッチ:装備 (左右対称型ツマミ)

後期型
製造元:富岡光学
光学系:5群6枚ウルトロン型
絞り羽根枚数:6枚 (形状変更)
最短撮影距離:0.5m
f値:f1.8〜f16
A/Mスイッチ:装備 (左右非対称型ツマミ)

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上の写真はFlickriverで、このモデルの特徴的な実写をピックアップしてみました。
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)
※各写真の著作権/肖像権がそれぞれの投稿者に帰属しています。

一段目
左端からシャボン玉ボケが破綻して円形ボケを経て背景ボケへと変わっていく様をピックアップしています。光学系が4群6枚の典型的なダブルガウス型構成なので、真円できれいなエッジを伴うシャボン玉ボケの表出は苦手です。「元気出しなよ」と声をかけたくなりますが(笑)、男の子の写真のように口径食や収差の影響を受けて歪なカタチの円形ボケへと変わりますが、背景がワサワサとざわついた印象のボケ方にもなります。ところが右端のようなトロトロボケにも至る (クローズアップ装着) のでなかなかポテンシャルの高いモデルではないでしょうか。

二段目
この段は全てダイナミックレンジの広さを示す写真をピックアップしました。たかが開放f値「f1.8」のモデルとバカにするととんでもない写真を吐き出します(笑) まさか開放f値「f1.8」モデルとは想像もできないほどに暗部はギリギリまで粘ります (左端)。そのダイナミックレンジの広さを示すかのようにピーカンでのライトト〜ンもしっかり階調の変化を写し込んでくれます。さらに3枚目では手前の鉄柱の質感表現までキッチリ収め、被写体の素材感や材質感を写し込む質感表現能力の高さに頷かされます。

三段目
質感表現能力の高さを示す写真を2舞ピックアップしました (左端)。右2舞はピント面の鋭さとエッジの細さの特徴を表します。

四段目
独特な鮮やかな赤色を発色しますが、決して色飽和せずキッチリ質感表現を写し込んでくれます (傘の風合い)。そしてこれらダイナミックレンジの広さと質感表現能力の高さが相まり、右端の人物撮影へと繋がります。このポートレート撮影が開放f値「f1.8」のオールドレンズから吐き出されたとは、パッと見で分かりません (相当なポテンシャルと評価しています)。

実は右の光学系構成図は先日の「前期型」タイプにあたり典型的な4群6枚のダブルガウス型構成です。そもそもこのモデルに「前期型/後期型」の別があることを知りませんでしたが、それは外観で判別できます。

A/M切替スイッチ」のツマミの形状が違うので判別できるのですが、まさか光学系の設計まで変更しているとは全く見当つきませんでした。

右構成図が今回出品する「後期型」で5群6枚のウルトロン型構成に設計変更しています。

光学系第2群の貼り合わせレンズ (2枚の光学硝子レンズを接着剤を使って貼り合わせてひとつにしたレンズ群) を個別に分割させて、且つ第2群〜第3群の外径サイズまで大型化しています (最終的に全ての群でサイズや曲率が異なる)。

右図は今回バラして清掃時にデジタルノギスで計測しほぼ正確にトレースした構成図です。
当方が計測したトレース図なので信憑性が低い為、ネット上で確認できる大多数の構成図のほうが「」です (つまり参考程度の価値もない)。
(各硝子レンズのサイズ/厚み/凹凸/曲率/間隔など計測)

なお、第5群 (後玉) の は光学硝子材に「ランタン材」を含有しているため極僅かに「黄変化」して見えます。「ランタン材」を含有する事で屈折率を最大10%台まで向上できますがUV光の照射で無色透明に戻す事ができません。この点も「前期型」の光学設計とは異なります (ランタン材を含有していない)。

ヤフオク! で自ら整備して毎週20本以上出品しているプロの写真家が居ますが、現在Carl Zeiss Jena製Pancolar 50mm/f1.8 zebra《初期型》を出品しています。

その掲載文を読むと「光学硝子材に酸化トリウムを含有したアトムレンズ (放射線レンズ) 」であることを明示し「黄変化している」事をちゃんと案内しています (掲載写真を見れば真っ黄色なので分かる)。しかしカメラボディ側の「AWB (オート・ホワイト・バランス)」設定で適正化できるので問題ないと謳っています。

この案内は正しくありません・・。

黄変化」の程度にも拠りますが、光学系の硝子レンズに「酸化トリウム」を含有していた場合、光学硝子レンズは黄色っぽい「茶褐色」に変質する「ブラウニング現象」が生じます。すると光学系内に入ってきた入射光は総天然色を記録する「色の三原色」たる「」に対して、その割り振り段階で一部の色再現性に大きく影響が出ます。

厳密に言えば、光学硝子レンズの設計は当時フィルムカメラ全盛時代だった事を考慮すると「総天然色の割り振り」は「色の三原色」を「」として光学設計時に考えていたハズです。しかし現在はデジタルな時代ですからカメラボディ側撮像素子は「RGB」が三原色に変わっています (最新の技術ではRGBYにより輝度を確保している)。

例えばオールドレンズのコーティング層を順光目視した時、光に反射させると「パープルアンバー」に光彩を放つのは「色の三原色」たる「」の「光学硝子面の表面反射防止」による透過率アップを狙っている原理です (入射光が光学硝子面を透過する際表面反射で1面あたり必ず4%損失する/硝子レンズは表裏があるので1枚の硝子レンズを透過すると8%低減する)。つまり可能な限り入射光の光量を低減させずに撮像面まで (フィルムカメラならフィルム面/デジカメなら撮像素子面まで) 到達するよう光学硝子の表面反射を防ぐ技術がコーティング層の役目です。

その「色の三原色の割り振り」とデジタルな「RGB」への割り振り、これらの違いを全く蔑ろにした案内だと言えます。

結果的に、入射光は「黄変化」した光学系を透過する際「階調」表現に影響が出るために特にシャドウ部に対して強調される傾向があります。最も分かりやすい例は、撮影時に白黒写真として記録しながら「黄変化有無」の相違をチェックしてみると良いです (黄変化の有無で2本のオールドレンズを使って試す)。すると「黄変化レンズ」の場合、明らかに明暗のコントラスト差が顕著に表れるので当然ながら中間調やハイライト/シャドウ部への割り振りに影響が出ます (白黒写真だとチェックし易い)。

つまり階調表現に違いが出てくるのではないでしょうか?

すると、仮に今ドキのデジカメ一眼/ミラーレス一眼のカメラボディ側「AWB (オート・ホワイト・バランス)」設定を適正化しても、階調表現は変わらないので (そのまま記録されるので) 写真は「黄変化の有無」の相違により違う結果として残ります。それを問題ないと謳ってヤフオク! 出品する事に違和感を覚えますね

プロの写真家と自称していながら、実は「階調/色彩/色相/彩度/明度/コントラスト/トーン」の原理やそれぞれがどのように影響し合っているかなど、その基本的事項について全く理解できていないように見えます。もっと言えば、この人はPhotoshopなどをガンガン使っていると明言していますが (DTM等の仕事を請け負っている)、はたしてこれら基本的事項の案内ができない事実をド素人の当方などはどのように受け取れば良いのか考えてしまいますね。それとも当方のようなド素人も含め落札者にそこまで配慮した説明は必要ないのでしょうか?(笑)

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。今回の個体を「後期型」と判定した根拠を以下に解説します。

【内部で使っている締付ネジの相違】

初期 (ダブルネーム時代):マイナスの真鍮製締め付けネジ
中期 (TOMIOKA銘を省いた時期):マイナスの磁性締め付けネジ
後期 (ヤシカに吸収合併後の時期):プラスの磁性締め付けネジ

こんな感じで当初はマグネットに一切反応しない真鍮製のマイナス締め付けネジだけが内部に使われていましたが、レンズ銘板から「TOMIOKA銘」が省かれたタイミングで登場する個体は、すべて磁性に反応するマイナス締め付けネジに変わっています。さらに各種マウント規格のOEMモデルの製産を始めた時期 (海外輸出メインの時代) にまで至ると、内部に使う締め付けネジはほぼ全てが磁性反応するプラスネジにチェンジしています (マイナスネジは理由が無い限り使っていない)。

すると今回の個体はバラしたところ、内部に使われているネジは全て「プラスネジ (磁性反応)」だった為に上記に当てはまり「後期型」と判定しました。

但し、絞りユニット内部に使われている締付ネジだけは磁性反応しない「真鍮製皿頭ネジ」を使っていたので、前回の考察で絞りユニット内部だけは絞り羽根に影響を来すのを防ぐ意味から磁性反応しないネジ種を使うと言う当方の考察が的中しました。

左写真は前回のタイプを完全解体した時の全景写真で「前期型」です。するとこのタイプでは上記に当てはまるワケですが、今回の個体は内部構造の一部が大きく変わっており、当時のオールドレンズでRICOH製XR RIKENONシリーズ (やはり富岡光学製の前期型モデル) と同じ概念に設計変更していました (つまり後期型)。

↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒です。このモデルではヘリコイド (オス側) が独立しており別に存在します。

左写真は今回の個体から取り出した絞り羽根を撮影しました。

絞り羽根には表裏に「キー」と言う金属製突起棒が打ち込まれており (オールドレンズの中にはキーではなく穴が空いている場合や羽根の場合もある) その「キー」に役目が備わっています (必ず2種類の役目がある)。製産時点でこの「キー」は垂直状態で打ち込まれています。

位置決めキー
位置決め環」に刺さり絞り羽根の格納位置 (軸として機能する位置) を決めている役目のキー

開閉キー
開閉環」に刺さり絞り環操作に連動して絞り羽根の角度を変化させる役目のキー

位置決め環
絞り羽根の格納位置を確定させる「位置決めキー」が刺さる環 (リング/輪っか)

開閉環
絞り羽根の開閉角度を制御するために絞り環操作と連動して同時に回転する環

一方、左写真は前回のタイプ「前期型」の絞り羽根です。

よ〜く観察すると絞り羽根の辺部分が「」ですが、今回の「後期型」は「緩やかに弧を描いている」カタチに設計変更しています (上の左写真参照)。光学系内に入ってくる入射光に対する遮蔽レベルの変更なので光学系を再設計した事から絞り羽根もカタチを変えたと推察できます。

↑6枚の絞り羽根を組み付けて絞りユニットを完成させます。

↑この状態で鏡筒の裏側 (後玉側方向) を撮影しました。「前期型」と同一で「開閉アーム」が1本あるだけで、スプリングによって「常に絞り羽根を開くチカラ」が及んでいます。

↑完成した鏡筒を立てて撮影しました。するとここで大きく「設計概念」自体を変更している事が判明しました。

後期型」では「前期型」まで装備していた「絞り羽根開閉幅微調整キー」が廃止になっています。

左写真は「前期型」の鏡筒ですが該当の「キー」が備わっています。「後期型」ではRICOH製XR RIKENONシリーズと同一の「絞り羽根開閉幅微調整機能」に変わりました。

↑距離環やマウント部を組み付ける為の基台です。この基台も「後期型」で設計変更しており距離環の駆動範囲を決める「設計概念」をガラッと変更しています。

前期型」では基台の外側に距離環用ネジ山を切削していましたが「後期型」は内側に用意しています (左写真)。

ところが筐体の外径サイズ自体に変化が無いので、どうしてこの基台まで設計変更してきたのかがよく分かりません (例えばコンパクトにしたかったのなら変更した理由も納得できる)。

↑真鍮製のヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。

ご覧のように「前期型」では大振りの真鍮製ヘリコイド (メス側) を使っていたので、コンパクト化したかったのなら理解できるのですが「後期型」の筐体外寸には変化がありません。

単に大振りなサイズのヘリコイド (メス側) に変わったのみならず、実は構造的に複雑化した為に組み立て工程数はむしろ増えています (前期/後期の別で簡素化する流れとは逆の結果になっている)。

↑ヘリコイド (オス側) を、やはり無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルは全部で9箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。

大きく設計概念が変化した部分がこの解説です。鏡筒の固定方法が「締付ネジ (3本) による固定」にチェンジした為に絞り羽根の開閉幅微調整が容易にできるようになりました。この同じ方式を採ったのが前述のとおりRICOH製XR RIKENONシリーズ「前期型」であり、富岡光学製OEM製品だった当時の設計概念と同一です。

前期型」ではヘリコイド (オス側) の内側にストンと鏡筒を落とし込んでから、前玉側方向から「鏡筒締付環」と言う環 (リング/輪っか) で締め付け固定する方式を採っていたので絞り羽根の開閉幅を検査するたびにバラす必要がありました。

メンテナンス性として考えればより改善されサービスレベルは向上したと言えます。

↑この状態で基台をひっくり返して後玉側方向から撮影しました。解説のとおり「直進キー」と言うパーツが両サイドに1本ずつ締め付け固定されています。

直進キー
距離環を回す「回転するチカラ」を鏡筒が前後動する「直進するチカラ」に変換する役目

今回の個体も (前回同様) 当初バラす前のチェック時点で、距離環を回すと非常に重くとてもピント合わせできる状態ではありませんでした (下手するとマウント部が回って外れてしまうくらい)。バラしてみると過去メンテナンス時に「白色系グリース」を塗っていますが、古い「黄褐色系グリース」を除去しないままその上から塗り足す「グリースの補充」と整備会社が呼ぶ処置を執っていました。

グリースの経年劣化状況からメンテナンス時期は相当古いように見えます。しかし距離環をムリに回してしまったようで「直進キー」が極僅かに変形していました (その結果トルクムラが発生)。今回のオーバーホールで適切なカタチに戻しています。

↑こちらはマウント部内部の写真ですが、既に各構成パーツを取り外して当方による「磨き研磨」を終わらせた状態で撮っています。当初バラした直後は過去のメンテナンスからだいぶ時間経過していた為に一部構成パーツに酸化/腐食/錆びが生じていました。つまりこのマウント部内部にまでグリースを塗っていた事になります。

↑取り外していた各構成パーツも個別に「磨き研磨」を施し組み付けます。マウント面から飛び出ている「絞り連動ピン」が押し込まれると (ブルー矢印①)、その押し込まれた量の分だけ「開閉爪」が移動します ()。この「開閉爪」のパーツは、その軸部分 (締付ネジ部) に「捻りバネ」が附随しており「常に絞り羽根を閉じようとするチカラ」が及んでいます。

すると、前述の工程で鏡筒裏側にスプリングが1本附随していました。そのスプリングのチカラは「絞り羽根を常時開くチカラ」です。つまり絞り羽根はスプリングと捻りバネの2つのチカラで、そのバランスの中で正常に開閉していることになります

パッと見で考えてもスプリング側のほうがチカラの強さは弱いハズなので (実際捻りバネよりもだいぶ弱い)、このマウント部内部にグリースを塗りたくってしまうと「捻りバネ」が経年劣化で弱ってしまう点を、過去メンテナンスの整備者は全く理解していません。メンテナンスすることで却ってオールドレンズの「製品寿命を短くしてしまう」結果に繋がっていたことを気がついていませんね(笑)

↑さて、ここでようやく「富岡光学製の証」が出てきました。絞り環の裏側には「絞り値キー」と言う「」が刻まれており、そこに鋼球ボールがカチカチと填ることでクリック感を実現しています。

ところが、その「鋼球ボール」は反対側の「黒色のメクラ環 (リング/輪っか)」に用意されています (上の写真右側)。このように「絞り値キー」と「鋼球ボール」を2つの環 (リング/輪っか) で制御する方式を好んで採っていたのが「富岡光学」であり、冒頭の「富岡光学製の証」にあたります。

この当時の他社光学メーカーでは、既にマウント部側に鋼球ボールを埋め込んでいた事が多く、鋼球ボールを組み込んでから絞り環をセットするだけでクリック感が実現できています (つまりここの工程で1工程分増えてしまう話)。

なお「板バネ」はA/M切替スイッチ用のクッションを与えている役目です。

↑そしてこの工程が冒頭の「富岡光学製の証」にあたり、この当時のM42マウントのオールドレンズで唯一外見から判定できる要素です。前述の「黒色のメクラ環 (リング/輪っか)」は、均等配置のイモネジ (ネジ頭が無くネジ部にいきなりマイナスの切り込みを入れたネジ種) 3本を使って締め付け固定されます。

するとここでも「イモネジ」を使った理由がちゃんと存在します。この「黒色のメクラ環 (リング/輪っか)」の固定位置を微調整することで絞り環を回した時のクリック感の位置を微調整できます。逆に言えば、ここの調整をミスると途端に「絞り環の刻印絞り値とチグハグな位置でクリック感を感じる」ことになり、それは下手すれば適切な絞り羽根の開閉幅 (開口部の大きさ/カタチ/入射光量) になっていないことも多いのが現実です。

この当時の他社光学メーカーでは、こんな面倒な微調整機能をマウント部に附加せず、単にマウント面の方向から「プラスネジ」で締め付け固定する方式を採っていることが多いです。

つまり富岡光学ではここでもまた余計な行程が1つ増えていたことになり、全く以て人件費と時間のムダとしか言いようがありません (それが積もり積もって最終的に経営難へと追い込まれていく)。

↑完成したマウント部を基台にセットしてから距離環を仮止めして、光学系前後群を組み込んだ鏡筒を入れて無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行い、最後にフィルター枠とレンズ銘板をセットすれば完成です。

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ここからはオーバーホールが完了した出品商品の写真になります。

↑今回はフツ〜に完璧なオーバーホールを施し終わっていますが、残念ながら光学系の状態が良くありません。実写すると僅かにコントラスト低下を招き、画全体的にハレを伴う描写になるので「ジャンク扱い」として出品します。

↑光学系内の透明度は非常に高い状態を維持していますが、前後玉 (いずれも表面) と後群側にコーティング層まで浸食したカビ除去痕が残り、且つコーティング層経年劣化進行から「極薄いクモリ」が全面に渡り生じています。

↑上の写真 (3枚) は、光学系前群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。LED光照射すると特に前玉 (表面) の全面に渡って極薄いクモリが浮かび上がります。

↑光学系後群側も後玉 (表面) にやはりLED光照射で視認できる全面に渡る薄いクモリが生じており、当方で「硝子研磨」しましたがほんの僅かしか改善できていません。なお後玉の「ランタン材含有」に伴う極僅かな黄変化は、それこそ今ドキのデジカメ一眼/ミラーレス一眼カメラボディ側「AWB (オート・ホワイト・バランス)」設定で充分カバーできますし (完全解消してしまう) 同時に階調表現に影響するレベルではありません (このページ最後の実写を見れば分かります)。

↑上の写真 (3枚) は、光学系後群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。

↑6枚の絞り羽根はキレイになり絞り環共々確実に駆動しています。絞り羽根が閉じる際は「ほぼ正六角形を維持」していますが、多少歪なカタチです。

ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感が僅かに感じられるものの当方にて筐体外装の「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。「エイジング処理済」なのですぐに酸化/腐食/錆びが生じたりしません。

↑塗布したヘリコイドグリースは「黄褐色系グリース」の「粘性中程度軽め」を使い分けて塗布し、距離環を回すトルク感は「普通」人により「重め」に感じるトルクに仕上がっています。

ピント合わせ時は極軽いチカラだけで微動するので操作性は向上しています。当方の特徴たる「シットリ感」も実現しています。

↑全くフツ〜に使う事ができて距離感を増すトルクも改善され、A/M切替スイッチの操作も確実で絞り環のクリック感も適切です。全く以て光学系の問題だけが惜しい限りです。

無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。

もちろん光学系の光路長調整もキッチリ行ったので (簡易検査具によるチェックなので0.1mm単位や10倍の精度ではありません)、以下実写のとおり大変鋭いピント面を確保できました。電子検査機械を使ったチェックを期待される方は、是非ともプロのカメラ店様や修理専門会社様が手掛けたオールドレンズを手に入れて下さい当方の技術スキルは低いのでご期待には応えられません

↑フィルター枠には1箇所打痕 (凹み) があったので専用工具を使って修復しました。修復後は実際にフィルターを着脱して問題なくネジ込める事を確認済です。

↑フィルター枠の打痕箇所はご覧のように凹んでいます。

↑マウント面のメッキ塗膜が一部浮き始めています。将来的に雑に扱うとこの浮き部分が剥がれていくと思います。

↑マウント面から飛び出ている「絞り連動ピン」の突出が「4mm」なので少々長めです。「絞り連動ピン」が必要以上に押し込まれた場合、マウント部内部でそのチカラを逃がす設計が成されていますが、最後まで押し込み続けられる事を一切想定していないので、特に今ドキのデジカメ一眼/ミラーレス一眼なマウントアダプタ (ピン押し底面タイプ) 経由装着する際に「マウントアダプタの相性問題」が発生します。

マウントアダプタの規格によっては「ピン押し底面の深さが浅い場合」最後までネジ込めなくなる懸念もあります。

↑当レンズによる最短撮影距離50cm付近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。

この実写はミニスタジオで撮影していますが上方と右側方向からライティングしています。その関係でフードを装着していない為に絞り値の設定によりハレ切りが不完全なまま撮影しています。一応手を翳していますがハレの影響から一部にコントラスト低下が出てしまうことがあります (簡易検査具による光学系検査を実施済で偏心まで含め光軸確認は適正/正常)。

ご覧のように画全体的に薄く「ベールがかったように見える」のがコントラスト低下を招いている「」で、まるで逆光撮影でフレアが出ているように写ってしまいます。

↑絞り環を回して設定絞り値「f2.0」で撮影しています。

↑さらに回してf値「f2.8」で撮影しました。だいぶコントラスト低下が改善していますが、それでも本来のこのモデルのf値「f2.8」の描写と比較すればコントラスト低下は免れません。

↑f値は「f4」に変わっています。

↑f値「f5.6」になりました。

↑f値「f8」です。

↑f値「f11」になっています。

↑最小絞り値「f16」での撮影です。