◎ VOIGTLÄNDER (フォクトレンダー) COLOR-ULTRON 50mm/f1.8《前期型》(M42)
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今回完璧なオーバーホールが終わって出品するモデルは、旧西ドイツVOIGTLÄNDER製標準レンズ・・・・
『COLOR-ULTRON 50mm/f1.8《前期型》(M42)』です。
当方ではこのモデルのデザインを「SLタイプ」と呼んでおり、個人的に距離環や絞り環に配された「銀枠飾り環」の意匠がとても美しく感じ好きなので、状態の良さそうな個体を見つけるとつい調達してしまいます(笑) 当方での扱いは今回の個体が29本目にあたります。
今までに扱った個体数28本 (累計) の中で凡そ半数がオーバーホール/修理ご依頼分ですが、何かしら不具合が顕在していた個体です。同様、市場で流通している個体にも不具合が顕在したまま流れている場合も相応に多く要注意モデルの一つです。
【このモデルに於ける問題点】
① 絞り連動ピンの突出が短い
② 絞り羽根開閉異常
③ 距離環を回すトルクが重すぎる
当モデルに多く見られる問題点をまとめると上記3点に集中します。
①はマウント面から飛び出ている「絞り連動ピン」の突出量 (長さ) ですが「約2.8mm」と
一般的なM42マウントのオールドレンズに装備している「絞り連動ピン」の突出量:3.2〜3.6mmよりだいぶ短い点を指しています。
これはフィルムカメラに装着して使うなら何ら問題になりませんが、今ドキのデジカメ一眼/ミラーレス一眼にマウントアダプタ経由装着する際に問題が発生します。この問題についてはこのページの一番最後のほうで解説します。
また②は①との関係が大きい話ですが、特にマウントアダプタ経由装着した時に発生する「絞り羽根が閉じる時途中で止まる」症状から、ムリなチカラで絞り環を回しているウチにさらに悪化させてしまう問題です。逆に言えば、フィルムカメラでの使用やオールドレンズ単体の状態に於ける「絞り羽根開閉異常」の発生率は意外と低いです。
つまり近年マウントアダプタに装着使用する機会が増大したことによる不具合の発生と言える現象です。
③はこのモデルの設計上ヘリコイド (オスメス) のネジ山が微細な仕様なので、特に過去メンテナンス時に塗布された「白色系グリース」の経年劣化進行により粘性を帯びてくると非常に重くなる現象です。それは過去メンテナンス時に「黄褐色系グリース」ではなく「白色系グリース」が塗られている事が多いのが因果関係にもなっています。
しかし、これら①〜③の問題点が顕在したまま流通している現実は、実はこのモデルのメンテナンスに於いて相当ハイレベルな技術スキルを要求される事から、適切な整備が施されないまま市場に流されている事が背景にあります。
意外にも、当方宛オーバーホール/修理を承る個体は、ご依頼者様のお話しを伺うと「何処の会社でも整備を断られた」と言う経緯で当方に流れてくる事が多いようにも感じます。当方の低い技術スキルながらも、整備してくれる当てが無く仕方なく当方にご依頼頂くのだと常日頃肝に銘じ、誠心誠意作業に勤しんでいる次第です。
今回扱った個体も調達時には、距離環はスムーズで絞り羽根の開閉も正常との事で入手しましたが、届いた現物をチェックすると明らかに過去メンテナンス時に「白色系グリース」が塗布されている感触で、トルクは「重め」で絞り羽根の開閉が適正ながらも、実は絞り環を操作した時に引っ掛かりを感じ、明らかに「内部パーツの変形」を予見できました。
つまりは「売りたいが為に細かく明示せずに出品していた個体」だった事が判明しています。
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旧西ドイツRollei社から1970年発売のフィルムカメラ「Rolleiflex SL35」用セットレンズとして用意された標準レンズ「Carl Zeiss Planar 50mm/f1.8 SL (QBM)」の派生型になりVOIGTLÄNDER向けのOEM製品と考えられます。
どうしてRollei製フィルムカメラのセットレンズに当時のZeiss IkonからCarl Zeiss銘のPlanarが供給され、且つVOIGTLÄNDERにもOEM供給されたのか? この3つの会社の繋がりを知るには当時の背景が分からなければ掴めません。
【当時の背景について】
◉ Voigtländer (フォクトレンダー)
1756年にオーストリアのウィーンで創業したVoigtländer社は、その後1849年ドイツのニーダーザクセン州Braunschweig (ブラウンシュヴァイク) に移転し工場を拡張しています。戦後イギリス統治領となった旧西ドイツのブラウンシュヴァイク市でフィルムカメラなど光学製品の生産を始めますが、日本製光学製品の台頭により業績は振るわずついに1969年Zeiss Ikon (ツァイスイコン) に吸収されます。しかし1971年にはZeiss Ikonもフィルムカメラから撤退したため1972年にはブラウンシュヴァイク工場の操業が停止しました。その後、商標権はRolleiに譲渡されています。
◉ Rollei (ローライ)
1920年にドイツのハンブルクで創業したRollei社はフィルムカメラの生産を主として、旧西 ドイツのCarl ZeissやSchneider Kreuznach (シュナイダー・クロイツナッハ) 社からレンズの供給を受けていました。1970年にフィルムカメラ「Rolleiflex SL35」を発売しCarl Zeiss製の標準レンズ「Planar 50mm/f1.8 (QBM)」などをセット用レンズとしていましたが、1972年に生産工場が操業停止したため、Voigtländer社の商標権譲渡も含め自社のシンガポール工場へと生産を移管しています。
その結果1974年に発売されたのがVoigtländer製フィルムカメラ「VSL1」から始まるシリーズ (〜VSL3) でセット用標準レンズとして今回のモデル『COLOR-ULTRON 50mm/f1.8 (M42)』が発売されました。
従ってマウント種別は従前の「QBM (Quick Bayonet Mount)」の他「M42」マウントのタイプも存在しているワケですね。
時代背景と共に各光学メーカーのポジショニングを踏まえるとこのような流れになります。
【モデルバリエーション】
※オレンジ色文字部分は最初に変更になった要素を示しています。
※Rolleiflex SL35用Carl Zeiss製「Planar 50mm/f1.8」からの展開として掲載しています。
レンズ銘板刻印:Carl Zeiss銘
生産工場:旧西ドイツCarl Zeissブラウンシュヴァイク工場
コーティング:アンバーパーブル
レンズ銘板刻印:Made by Rollei
生産工場:Rolleiシンガポール工場
コーティング:アンバー
レンズ銘板刻印:Made by Rollei
生産工場:Rolleiシンガポール工場
コーティング:アンバーパープル
レンズ銘板刻印:VOIGTLÄNDER
生産工場:Rolleiシンガポール工場
コーティング:パープルアンバー
COLOR-ULTRONはシンガポール工場での製産が スタート地点のように見えますが実際は旧西ドイツのブラウンシュヴァイク工場で製産された個体が存在しておりVOIGTLÄNDERへのOEM供給は1970年の時点から既にスタートしていたと考えられます。
つまり製産工場を軸として捉えると製産時期が見えてくるワケですね。
(右写真は1962年当時のブラウンシュヴァイク工場)
なお派生型としてIFBAFLEX用セットレンズである「IFBAGON 50mm
/f1.8 (M42)」も存在しますが生産数が非常に少なく稀少品です。
単にレンズ銘板をすげ替えただけのようなので内部構造も構成パーツも全く同一だと推測しています (今まで扱い無し)。
さらに上位格モデルとして開放f値「f1.4」の以下2種類が存在します。
左側のモデルは「Carl Zeiss Planar 50mm/f1.4 (QBM)」で旧西ドイツ製ですが、右側モデルは「VOIGTLÄNDER COLOR-ULTRON 55mm/f1.4 (QBM)」になり日本製です。取り扱いがまだ無いので日本製モデルの製産メーカーは不明ですが、当時「Rolleinarシリーズ」を富岡光学がOEM生産していたので富岡光学製ではないかと踏んでいます。
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光学系は6群7枚のウルトロン型です。本来の4群6枚ダブルガウス型構成の前群成分で貼り合わせレンズ (2枚の光学硝子レンズを接着剤を使って貼り合わせてひとつにしたレンズ群) 部分を分割してしまった拡張ダブルガウス型構成に、バックフォーカスを稼ぐ意味から1枚第1群 (前玉) として追加した設計です。
この光学系構成図を見てすぐに思い浮かぶのが彼の有名な銘玉として巷で俗に「凹Ultron」と呼ばれている同じく旧西ドイツのCarl Zeissから1966年に発売された「Ultron 50mm/f1.8」です。
まさに操業を停止してしまう直前のブラウンシュヴァイク工場で製産されていたであろうモデルですが、その名のとおり本当に第1群 (前玉) が中心部に向かって凹んでいます。
単にバックフォーカスを稼ぐ目的で追加された第1群 (前玉) なのでこのような独創的な発想に至ったのかも知れませんが、凹メニスカスにした為に前玉で一旦入射光を拡散させて第2群へと進めています。
特に第2群と後群側成分の第5群貼り合わせレンズを見ると性格の違いが分かります。
今回のモデルではその概念をやめてしまったが為に描写性には大きな相違が表れてしまい、時代背景とも相まり (シンガポール工場に移管される/Rolleiへの売却という背景も加味して) 何かしら戦略的な要素が含まれていたのかも知れませんが、当のRolleiにしてみれば凹Ultron同様にメインの格付として用意したつもりの標準レンズだったのではないかと考えます。
それは今でこそ凹Ultronが銘玉と揶揄されていますが、発売された1966年当時から既にそのような評価だったのでしょうか (当方は当時のことは全く知りません)?
つまりある一部の描写特性は凹Ultronから受け継いでいるものの、当時の潮流に倣いコントラストと解像度を向上させることに主眼が置かれ、ビミョ〜な表現性を犠牲にして (見切って) しまった為に今現在になって凹Ultronとの描写性の相違を指摘されているようにも受け取れます
・・ロマンが広がりますね。
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上の写真はFlickriverで、このモデルの特徴的な実写をピックアップしてみました。
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)
※各写真の著作権/肖像権がそれぞれの投稿者に帰属しています。
◉ 一段目
左端からシャボン玉ボケが破綻して円形ボケへと変わっていく様を集めていますが、そもそもウルトロン型光学系なので真円で明確なエッジを伴うキレイなシャボン玉ボケの表出が苦手だったりします。
◉ 二段目
凹Ultronとの明確な相違点として当方は感じますが、ピント面のエッジが凹Ultronと同じように明確に出てくるにも拘わらずアウトフォーカス部の滲み方に違いが出てしまったことから凹Ultronのような繊細感を漂わすピント面を構成できなくなっています。
逆に言えばCOLOR-ULTRON (或いはPlanar/SLタイプ) は骨太な誇張感ギリギリのピント面という性格にまで変わってしまいました。また発色性はコーティング層が変わっている関係から違いが生じ高めのコントラストに至っています。
ところが凹Ultronと相通ずる特徴を受け継いでおり、ダイナミックレンジの狭さをそのまま継承してしまい明暗部の黒潰れ/白飛びの特徴が凹Ultronと近似しています (暗部がストンと急に堕ちてしまう)。然し、実写を見ていると凹Ultronよりも暗部の粘りが多少増しており、ダイナミックレンジは僅かに広く改善されているように見えますから、むしろ褒めてあげたい気持ちですね(笑)
◉ 三段目
凹Ultron同様にこの大変リアルな空気感/距離感を表現し得る立体感を備え、且つピント面が非常に鋭く出てくる特徴と相まり現場の臨場感や緊迫環など漂わすリアル感が堪りません。
ビミョ〜な階調で非常にシンプルに素直に滲んでいく様を表現し繊細感を漂わす凹Ultronに対して、カチッとした明確なインパクトをピント面に残しながらも誇張的な味わいとしての発色性とコントラスト、或いはリアル感を残すCOLOR-ULTRON (Planar SLタイプ) と言う、ある意味互いに対極に位置するような印象の描写性でしょうか。
その意味で、凹Ultronばかりが銘玉と揶揄されますが、このモデルも相応に再評価してあげるべきではないかと考えます (決して同格の扱いにはならないが個性はちゃんと表れている)。
オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。
↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。今回の個体は当初バラす前のチェック段階で以下の不具合が確認できました。
【当初バラす前のチェック内容】
① 距離環を回すとピント合わせできないほどトルクが重い。
② ピント合わせ時に「スリップ現象」が生じている。
③ 絞り環を回す時引っ掛かりを感じ動きにくい事がある。
バラしてみれば一目瞭然で過去メンテナンスされており、且つヘリコイドグリースは「白色系グリース」が使われていましたが、まだ塗布してそれほど時間経過していません (つまり最近メンテナンスを施している)。
すると①と②について、メンテナンス時に塗布された「白色系グリース」が、このモデルの微細なヘリコイド (オスメス) ネジ山に適していない為に、まだ新しい状態でグリースの劣化が進行していないにも拘わらず影響していた事が判ります。
さらに③についてはメンテナンス時に手を加えた処置が不適切だった影響から絞り環操作に問題が出ていました。
左写真は旧西ドイツのブラウンシュヴァイク工場で生産された「QBM (Quick Bayonet Mount)」タイプのマウント部写真です。
(前期型ですが別のモデルバリエーション)
するとバヨネットマウントなので「マウントの爪」がありますが「絞り連動ピン」まで存在します。また、鏡胴には「A/M切替スイッチ」を装備しているのが特徴です。
従ってフィルムカメラ装着時に「絞り羽根開閉異常」が起きないのは今回のモデルと同じですが、今ドキのデジカメ一眼/ミラーレス一眼にマウントアダプタ経由装着した時、マウント面にやはり「絞り連動ピン」が存在するので「マウントアダプタとの相性問題」が顕在します。
ところが「A/M切替スイッチ」を装備しているので「M (手動)」に設定して使えば「絞り羽根開閉異常」は解消してしまいます (つまりA自動設定の時だけ絞り羽根開閉異常が発生する)。
左写真はM42マウントのモデルですが、マウント面に「絞り連動ピン」が存在するものの鏡胴に「A/M切替スイッチ」はありません。
同様「マウントアダプタとの相性問題」が起きてしまい「絞り羽根開閉異常」の懸念が高くなるのですが「A/M切替スイッチ」が存在しない以上、使用者が不具合を回避する手立てがありません (メンテナンスする以外改善する方策が無い)。
従ってこのモデルに関して言えば、今ドキのデジカメ一眼/ミラーレス一眼にマウントアダプタ経由装着するなら「QBMマウント」のほうが扱い易い (不具合を回避できる) 事になりますが、市場で人気があるのは逆で「M42マウント」です(笑) 当然ながら過去メンテナンス時の処置レベルが重要になってくるワケですね。
↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒 (ヘリコイド:オス側) です。
絞り羽根には表裏に「キー」と言う金属製突起棒が打ち込まれており (オールドレンズの中にはキーではなく穴が空いている場合や羽根の場合もある) その「キー」に役目が備わっています (必ず2種類の役目がある)。製産時点でこの「キー」は垂直状態で打ち込まれています。
◉ 位置決めキー
「位置決め環」に刺さり絞り羽根の格納位置 (軸として機能する位置) を決めている役目のキー
◉ 開閉キー
「開閉環」に刺さり絞り環操作に連動して絞り羽根の角度を変化させる役目のキー
◉ 位置決め環
絞り羽根の格納位置を確定させる「位置決めキー」が刺さる環 (リング/輪っか)
◉ 開閉環
絞り羽根の開閉角度を制御するために絞り環操作と連動して同時に回転する環
↑上の写真は絞りユニット内の構成パーツ「開閉環」を撮影しました。絞り羽根枚数6枚なので、絞り羽根に打ち込まれている「開閉キー」がささる為の切り欠きも6箇所用意されています。また「開閉アーム/制御アーム」の2本の薄い板状アームが垂直状態で飛び出ています。
↑「開閉環」をひっくり返して裏面を撮影しましたが、2本の薄い板状アーム「開閉アーム/制御アーム」はこの「開閉環」製産時にプレッシングだけで (単に折り曲げて) 用意した設計です。これがこのモデルで (QBM/M42共に)「絞り羽根開閉異常」を来す根本原因に至っています。単にプレスして曲げただけのアームなので、根元部分が弱ると途端に絞り羽根が正しく駆動しなくなります。
左写真は今回の個体から取り出した「開閉環」を撮っています。すると「開閉アーム」側が完全な垂直状態を維持しておらず、極僅かに「くの字型」に曲がっています。
また「制御アーム」も根元部分からほんの少しだけ斜めっているように見えます。
さらに今回の個体から取り出した同じ「開閉環」を別の角度から撮影しました。グリーンのラインで示したように、実は「開閉アーム/制御アーム」両方共極僅かに「斜め状に曲がっている」ことが判ります。
QBM/M42の別なく、このモデルで「絞り羽根開閉異常」が発生すると、ほぼ間違いなくこのように「開閉アーム/制御アームの変形」に至ります。
今回の個体に関して言えば、つい最近メンテナンスが施され新しい「白色系グリース」が塗布されている事が判明しているので、この「開閉アーム/制御アームの変形」は経年使用で起きたのではなくメンテナンス者が自ら (故意に) 曲げたことになります。
どうしてそう言えるのか???
このモデルのヘリコイドグリースを入れ替えられる技術スキルを有する整備者なので「プロ」である事は間違いありません (シロウト整備ではムリ)。だとするとメンテナンス後に「絞り羽根開閉異常」が残ったままである事は考えにくいので (実際今回の個体は正常機能していた)、正しく絞り羽根が開閉するよう処置しているハズです。
すると2本のアームを根元から曲げて角度をイジったのは最近メンテナンスした整備者自身と推察できるワケです。
もっと言えば、この2本のアームを左右どちらの方向に曲げればどのような改善結果に繋がるのかを熟知している人の手による処置なので「プロの仕業」だと断言できるワケです。
本来あるべき正しい構成パーツの使い方をせず、このように「ごまかした処置」を施してあたかも正常品のように仕上げていますが、操作してみれば違和感が残っていた (絞り環操作時に引っ掛かりを感じる) ワケです。
組み上げてしまえば内部が見えない事をいいことに、このようないい加減な処置を講じて取り敢えず正常に駆動するよう仕上げれば良いと言う考え方自体に甚だ憤りを感じます。
なお、上の写真で2本のアームが垂直状態になっているのは、既に当方が正しい状態に戻したからです。
↑「開閉アーム/制御アーム」の変形を正しい、本来あるべきカタチに戻してから6枚の絞り羽根を組み付けて絞りユニットを完成させます。
↑この状態で鏡筒 (ヘリコイド:オス側) をひっくり返して撮影しました。「開閉アーム/制御アーム」が鏡筒裏側から飛び出ています。
そしてこのモデルで距離環を回した時に「重い」トルク感に陥ってしまう個体が多い根本的な理由が上の写真で分かります。ヘリコイド (オス側) のネジ山がご覧のとおり「微細なネジ切り」だからです。
つまり塗布するグリース種別をミスると途端に重い印象のトルク感に仕上がってしまいます。
↑距離環やマウント部を組み付ける為の基台です。グリーンの矢印で指し示した箇所には、やはり距離環用のネジ山が切削されていますが「さらに微細なネジ切り」なので、塗布するヘリコイドグリース種別も距離環を回す時のトルク感を決める重要な要素の一つになります。
↑ヘリコイド (メス側) を、無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。
左写真は、この状態でひっくり返して裏側 (後玉側方向) から撮影していますが、ご覧のようにヘリコイド (メス側) をネジ込んでいくと、最後は基台を貫通して抜けてしまいます。
つまり停止する箇所が用意されていないので (そういう設計なので) 何処でヘリコイド (メス側) のネジ込みを止めれば良いのか、つまり「無限遠位置の確定」が重要な話になってきます。
↑完成している鏡筒 (ヘリコイド:オス側) を、やはり無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルは全部で13箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。
この鏡筒 (ヘリコイド:オス側) は、どんどんネジ込んでいくと最後はネジ込めなくなり止まってしまうので貫通しません。
するとどんな事が言えるのか?
前述で無限遠位置のアタリを付けてネジ込んだヘリコイド (メス側) が適正なのかどうかが問われる話であり、光学系前後群をセットして最後まで組み上げて無限遠位置を実写確認したら大幅にズレが生じていた場合、再びここまでバラして戻らなければイケマセン(笑)
整備業者がこのモデルを嫌う一つの理由が、この無限遠位置アタリ付けの難しさです。当方は数多く手掛けているので、凡そどの辺でヘリコイド (メス側) のネジ込みを停止すれば無限遠位置に近い位置なのかが分かっています(笑)
同様、この状態で再びひっくり返して撮影しました。ちゃんと鏡筒裏側に「開閉アーム/制御アーム」が飛び出てきています。
もっと言えば、ヘリコイド (オスメス) のネジ込み位置をミスった場合、この2本のアームの長さが足りなくなるので最短撮影距離の位置で「絞り羽根開閉異常」が発生します。
↑鏡筒裏側に各制御系パーツを組み込みました。ほとんど全ての制御系パーツがこの鏡筒 (ヘリコイド:オス側) 裏側に一極集中します。「直進キーガイド」の環に「カム」が備わり「制御環」の途中に「なだらかなカーブ」が用意されていて、そこに「カム」が突き当たることで具体的な絞り羽根の開閉角度が決まる仕組みです。
「なだらかなカーブ」の麓部分が最小絞り値側で坂 (勾配) を登りつめた頂上部分が開放側です (グリーンの矢印)。この「制御環」にはコの字型の部分が用意されており、ここに絞り環からの連係アームが刺さって絞り環操作がダイレクトに伝達される原理です (つまり絞り環を回すとなだらかなカーブが移動する)。
↑絞り環をセットします。このモデルの絞り環操作時はクリック感を伴いますが、まだこの段階では鋼球ボールがセットされていません。
左写真はこの「M42マウント」モデルだけに備わるエンジニアリング・プラスティック製パーツで「絞り値伝達制御環」です。
このプラスティック製の環 (リング/輪っか) が経年で削れてしまったり変形するとフィルムカメラ側への伝達絞り値が正しくなくなるばかりか、実は絞り環操作にまで影響してきます。
↑こちらはマウント部内部の写真ですが、既に各構成パーツを取り外して当方による「磨き研磨」が終わった状態で撮影しています。このマウント部はアルミ合金材削り出しパーツですが、当初バラした直後は経年の酸化/腐食/錆びから黄褐色に変質しています (つまりたいていの場合錆びたまま使われ続けている)。
↑上の写真はこのマウント部内部に組み付けられる「絞り連動ピン機構部」の主要パーツを撮影しました。右側の「絞り連動ピン」が押し込まれると (ブルーの矢印①) その押し込まれた量の分だけ左側の「操作爪」が動きます (②)。
この「操作爪」は鏡筒 (ヘリコイド:オス側) から飛び出てきている「開閉アーム」を爪部分で掴んでいます。従って「開閉アームは横方向から爪によって常時チカラが及んでいる」ことがこの解説で明確になりますね。
するとどのような懸念が出てくるでしょうか?
絞り環操作が重いから/引っ掛かりを感じるからとムリなチカラを加えて操作し続けると、そのムリなチカラがそのまま伝わり「開閉アームの根元部分」に集中します。これが経年使用で「絞り羽根開閉異常」へと繋がる因果関係です。
またその時、マウント面から飛び出た「絞り連動ピン」が押し込まれると「操作爪」が動いて絞り羽根を開閉している仕組み (絞り連動ピンはオレンジ色矢印のように操作爪に刺さる) ですが、ここで「チカラの伝達経路」がより具体的に明確化したのではないでしょうか?
グリーンのラインで明示してありますがマウント面から飛び出る「絞り連動ピン」の長さは「約2.8mm」です。どうしてグリーンのライン部分から飛び出るのかと言えば、それは「絞り連動ピンが飛び出ないようアームが附随しているから」と言えます。つまり附随する左右のアームから先の部分しかマウント面から飛び出ないことが自明の理です。
何を言いたいのか?
よくこのモデルのオーバーホール/修理ご依頼で「絞り連動ピンの飛び出ている長さが足りない (或いはオーバーホール/修理完了後も改善されていない)」とご指摘を受けるのですが、ご覧のとおり絞り連動ピンの突出量を調整できる設計になっていません。左右に飛び出ているアームでどうしても引っ掛かるので、これ以上絞り連動ピンを突出させることができません (当方の技術スキルの問題ではない/何故ならマウント面には絞り連動ピン用の穴が単に用意されているだけだから)。
・・と言っても聞く耳を持たない人が時々居ますが、当方に信用/信頼が無いのだと諦めるしかありませんね (悲しい現実です)(笑)
↑実際に各構成パーツを個別に「磨き研磨」してから組み込みました。
◉ 直進キー
距離環を回す「回転するチカラ」を鏡筒が前後動する「直進するチカラ」に変換する役目
◉ 鋼球ボール用の穴
絞り環にクリック感を実現させる鋼球ボール+スプリングが入る穴
↑さらに「絞り連動ピン機構部」を拡大撮影しました。マウント面から飛び出ている「絞り連動ピン」が押し込まれれると (ブルー矢印①)、その押し込まれた量の分だけ左隣の「操作爪」が左右に首振り運動します (②)。
この時、グリーンの矢印で指し示したように絞り連動ピンが必要以上に飛び出ないよう「ストッパー」の役目としてご覧のようにアームがマウント部内部に突き当たる (停止する) 設計になっています。つまりこのモデルの「絞り連動ピン」は最大値で「約2.8mm」しか突出しないのが正常と言えます (設計上の問題なので当方には改善のしようがない)。
↑完成したマウント部を基台にセットします。この時「鋼球ボール+コイルばね (スプリング)」を組み込んで絞り環にクリック感を与えます。
上の写真では簡単にセットしたように見えてしまいますが、このモデルの最大のポイントがここの工程です。マウント部を組み付ける際に以下の要素について全てキッチリと微調整しない限り適正な仕上がりに至りません。
(1) 直進キーと直進キーガイドの噛み合わせ位置 (マチの調整)
(2) 操作爪と開閉アームの噛み合わせ位置とチカラの伝達レベル
(3) なだらかなカーブとカムの位置合わせ (絞り羽根開閉幅との関係)
(4) マウント部組み付け箇所の位置合わせ (1箇所のみ)
(5) もちろん無限遠位置合わせ (ヘリコイドオスメスの位置合わせ)
「直進キー」と「開閉アーム」に「鋼球ボール」そして「ヘリコイドの位置」にもちろん「カムによる絞り羽根の開閉具合」すべてがピタリと合致していない限り適切な動きになりません。何故ならマウント部を被せるのは一発であり (カチッとハマるので位置をズラしたりできません)、且つ締め付けネジが3本用意されているので組み込みの際の微調整ができません (締め付けるしかないから)。
このモデルがどんだけ「高難易度」なのかがご理解頂けたでしょうか?
↑全ての調整が終わったのでマウントをセットします。ご覧のように「開閉アーム」が飛び出てきています。
↑距離環を仮止めしてから光学系前後群を組み付けて無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行い、最後にフィルター枠とレンズ銘板をセットすれば完成です。
ここからはオーバーホールが完了した出品商品の写真になります。
↑大変鋭くカッチリしたピント面の表出と「ヨーロピアンテイスト」な発色性のモデルが凹ウルトロンとは異なる描写性で、ある意味元気の良い鮮やかな画造りがステキです。
シンガポール製 (マウント面にLens made in Singaporeと刻まれている) であるが故にCarl ZeissのPlanarに比して市場価格は安値でしたが、ここ数年で一気に高騰し状態の良い個体は2万円〜3万円台を推移しています。
今回のオーバーホールではこのモデルにしては「これ以上の滑らかさと軽さはない」と言えるほどに完成の域に到達した距離環のトルク感に仕上げています。ピントの山が結構明確に出てくるモデルなので、ピント合わせしているとこのトルク感が有難く感じられるハズです (少なくとも当方は実写していてそう感じます)。その意味でこのモデルは、距離環のトルクが「重い」と相当使い辛く感じると思います。
もちろん当方オーバーホールの特徴たる「シットリ感漂うトルク感」も実現しているので、ピント合わせ時のヌルッとした微動が心地良く感じると思います。
↑さらに光学系内の透明度が非常に高い状態を維持した個体です。LED光照射でもコーティング層経年劣化に伴う極薄いクモリすら皆無です。過去メンテナンス時の極微細な薄い拭きキズが数本残っていますが、写真には一切影響しません。
↑上の写真 (3枚) は、光学系前群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。
↑光学系後群側も非常にクリアです。もちろんLED光照射で極薄いクモリも皆無です。
↑上の写真 (3枚) は、光学系後群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。
【光学系の状態】(順光目視で様々な角度から確認)
・コーティング劣化/カビ除去痕等極微細な点キズ:
(経年のCO2溶解に拠るコーティング層点状腐食)
前群内:11点、目立つ点キズ:7点
後群内:12点、目立つ点キズ:9点
・コーティング層の経年劣化:前後群あり
・カビ除去痕:あり、カビ:なし
・ヘアラインキズ:あり(前後群内)
・バルサム切れ:無し (貼り合わせレンズあり)
・深く目立つ当てキズ/擦りキズ:なし
・光源透過の汚れ/クモリ (カビ除去痕除く):なし
・その他:光学系内は微細な塵や埃が侵入しているように見えますが清掃しても除去できないCO2の溶解に拠る極微細な点キズやカビ除去痕、或いはコーティング層の経年劣化です。
・光学系内の透明度が非常に高い個体です。
(LED光照射でも極薄いクモリすら皆無です)
・光学系内に極微細なヘアラインキズが数本あるように見えますがコーティング層の極微細な薄い線状ハガレなのでキズではありません(クレーム対称としません)。
・いずれも全て実写確認で写真への影響ありません。
↑6枚の絞り羽根もキレイになり絞り環操作共々確実に駆動しています。絞り羽根が閉じる際は「完璧に正六角形を維持」しています。
ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感が僅かに感じられるものの当方にて筐体外装の「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。もちろん距離環/絞り環の「銀枠飾り環」も「光沢研磨」を施したので、当時のような艶めかしい眩い光彩を放っています。「エイジング処理済」なのですぐに酸化/腐食/錆びが生じたりしません。
↑【操作系の状態】(所有マウントアダプタにて確認)
・ヘリコイドグリースは「粘性:中程度と軽め」を使い分けて塗布し距離環や絞り環の操作性は非常にシットリした滑らかな操作感でトルクは「普通」人によって「軽め」に感じ「全域に渡って完璧に均一」です。
・距離環を回すとヘリコイドのネジ山が擦れる感触が伝わる箇所があります。
・ピント合わせの際は極軽いチカラで微妙な操作ができるので操作性は非常に高いです。
【外観の状態】(整備前後関わらず経年相応の中古)
・距離環や絞り環、鏡胴には経年使用に伴う擦れやキズ、剥がれ、凹みなどありますが、経年のワリにオールドレンズとしては「超美品」の当方判定になっています (一部当方で着色箇所がありますが使用しているうちに剥がれてきます)。
↑このモデルの内部構成パーツを「本来あるべき姿/カタチ」に調整して最後までキッチリ組み上げられる人はそれほど多く居ませんが、筐体外装まで美しく (中性洗剤で洗浄してあるので径年の手垢も除去され大変清潔です) 且つ光学系内の透明度が高い (本当にクリアです) 状態を維持した個体となれば、それほど頻繁に市場には出回りませんからお探しの方は是非ご検討下さいませ。
特にこのインパクトのある立体的でリアル感凄い描写性と、その「ヨーロピアンテイスト」を感じる発色性はお勧めです。
無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。
もちろん光学系の光路長調整もキッチリ行ったので (簡易検査具によるチェックなので0.1mm単位や10倍の精度ではありません)、以下実写のとおり大変鋭いピント面を確保できました。電子検査機械を使ったチェックを期待される方は、是非ともプロのカメラ店様や修理専門会社様が手掛けたオールドレンズを手に入れて下さい。当方の技術スキルは低いのでご期待には応えられません。
↑上の写真はこのモデルのマウント面を横方向から撮影しています。するとマウント面のネジ山部分が「約5.4mm」なので「絞り連動ピン」を正しく最後まで押し込もうと考えると、今ドキのマウントアダプタ (ピン押し底面タイプ) に装着する場合、その「ピン押し底面の深さが問題になる」と言えます。
何故なら、一般的なM42マウントのオールドレンズで「絞り連動ピン」を有するモデルの場合、その突出量は「約3.2〜3.6mm」くらいが多いので、このモデルの「最大約2.8mm」は明らかに突出量が少ないと言えます (グリーンの数値)。
一方、オレンジ色矢印部分のサイズは「絞り連動ピン」が最後まで押し込まれた状態の時のマウント面からの寸法です。ほぼ「5.7〜5.8mm」なので、ピン押し底面タイプのマウントアダプタに装着した時、その「ピン押し底面の深さ」が深すぎると絞り連動ピンが最後まで押し込まれていない事になるので、それが原因で「絞り羽根開閉異常」に陥ります。
この話はフィルムカメラに装着して使うなら関係なくなります。何故ならフィルムカメラの場合は「絞り連動ピン押し込み板に適度なクッション性が用意されている」からであり、且つシャッターボタン押し込み時にしか「絞り連動ピンを押し込まない (つまり常時押し込まない)」からです。
この点が今ドキのデジカメ一眼/ミラーレス一眼とフィルムカメラとでは根本的に「絞り連動ピン押し込みの概念が異なる」のですが、頑なに「同じM42マウント規格なら同じハズ」と言い切る方がいらっしゃいます(笑)
そもそも今ドキのデジカメ一眼/ミラーレス一眼用に用意されているマウントアダプタは、単に異なるマウント種別の規格を簡易的に適合させているだけにすぎず、且つマウントアダプタの製産メーカーがオールドレンズ側マウント規格の何を重視して設計したのかが不明確なままです (つまり業界で仕様が統一されているワケではない)。
その辺の相違点の実情として以下解説していきます・・。
↑まずは日本製で非常に精度の高い「Rayqual製M42マウントアダプタ」です。「日本製マウントアダプタ信者」からの絶大なる信用/信頼を受け、ある意味崇拝的にさえ感じるほどで怖いです(笑)
このマウントアダプタのせいでいまだに (毎年)「アンタの整備が悪い!」とクレームが来る始末で、あまり関わりたくないマウントアダプタです(笑)
マウントアダプタの内側の深い位置に「ピン押し底面」と言う、自動絞り方式のM42マウントのオールドレンズに備わっている「絞り連動ピン」を強制的に最後まで押し込んでしまう棚ような部分 (赤色矢印) が迫り出したタイプです。
するとその「ピン押し底面の深さ:約59.5mm」でグリーンのラインで示した箇所の深さを意味します。
↑今回出品個体をこのマウントアダプタに装着した写真が上です。マウント面に「約1mm」の隙間が空きます (赤色矢印)。但しこの隙間は最後までちゃんとネジ込まれている状態で空いているに過ぎず、要はFUJICA製M42マウントの「開放測光用爪」を避けているにすぎません (実際に開放測光用爪を切削せずに最後までネジ込める)。
ところが問題はグリーンの矢印部分の「製品全高」のほうで「約27.51mm」になります。
フランジバックの引き算から本来あるべき製品全高を計算すると・・、
M42フランジバック:45.46mm ー SONY Eフランジバック:18mm
= 製品全高:27.46mm
・・に対して「約0.05mm」製品全高が高く (長く) 作られています。
つまりこのままではフランジバックが超過してしまい極僅かなアンダーインフ状態に陥りますから、これを考慮するとオールドレンズ側のオーバーホール時に僅かなオーバーインフ状態にセットする必要が出てきます。
(アンダーインフなので無限遠位置で僅かに甘い印象の合焦になる/無限遠に未到達の意味)
もちろん前述の「ピン押し底面の深さ」の問題はM42マウントのオールドレンズ個体別に「絞り連動ピンの突出量が違う」のが現実ですから、その問題にも大きく影響してきます。
実際に今回の個体をネジ込んで最小絞り値「f16」まで絞り環を回した時の状態が左写真です。
絞り羽根は「f8」で閉じるのをやめてしまうので「f11〜f16」まで閉じてくれません。これは「ピン押し底面の深さ」が今回のモデルには適合しないことを意味します (前出マウント面の解説/突出量参照)。
前述のオーバーインフ/アンダーインフの問題は、実はメンテナンス時に調整を施していればまた変化する内容なので具体的に確定できませんが (つまりオールドレンズ個体別に千差万別)絞り羽根の開閉だけはどうにも調整できません。
何故なら、このモデルの「絞り連動ピン」がマウント面からの「最大突出量:約2.8mm」だからです (設計上縮めることができるようにはなっている)。「絞り連動ピンを押し込んでも5.8mm」ですから最後まで押し込まれていない事に起因する「絞り羽根開閉異常」と推察できます。
↑一方、上の写真は当方で基準マウントアダプタに設定している「K&F CONCEPT製M42→SONY Eマウントアダプタ」です (中国製)。
同様、M42ネジ部内側に「ピン押し底面 (棚状に迫り出ている部分)」が用意されており、M42マウントのオールドレンズをネジ込むと強制的にマウント面「絞り連動ピンを最後まで押し込んでいく」タイプです。
その「深さ:約5.8mm」でありグリーンのラインで示した箇所の深さを意味します。
↑実際に今回の個体をネジ込んでみるとご覧のようにマウント面がピタリと最後までネジ込めます (赤色矢印の箇所に隙間無し)。
この時グリーンの矢印部分の「製品全高」は「約27.42mm」になりますから、規格上のフランジバック計算からの余裕は「約0.04mm」でありフランジバックに対してまだ猶予があります (つまりアンダーインフ状態に陥りにくい)。
この時、今回の個体の絞り環を回して最小絞り値まで絞り羽根を閉じていくとちゃんと閉じます。
これは距離環刻印距離指標値「∞」位置でも最短撮影距離「0.45m」も正常に絞り羽根が開閉しますから全く以て正常です。ちゃんと簡易検査具でチェックしているので間違いないのですが日本製よりも中国製のほうが絞り羽根が正しく閉じるなどと言うと批判の嵐です(笑)
当方が掲載している絞り羽根が閉じていく時の開口部の大きさ (カタチ/入射光量) が信用ならないと言う人がいらっしゃるようなので(笑)、このモデルの各絞り値を実写しました。
↑実は、この「K&F CONCEPT製M42マウントアダプタ」は「ピン押し底面」が「両面使い分け対応」なのです。メーカーサイトでもそのような話を謳っていないので、当方のウソだと言っている人が居るらしいので敢えて解説します(笑)
マウントアダプタの側面には3箇所に均等配置で「ヘックスネジ」がネジ込まれているので、それを緩めると「マウントネジ部」だけが取り外せます。その下に「ピン押し底面の環 (リング/輪っか)」が入っているので、その表裏を入れ替える考え方です (上の写真2枚はそれぞれピン押し底面を取り出した状態の写真)。
「ピン押し底面」は両面加工して商品化されており、片面が「平坦 (平面状態)」でその裏面は「凹凸」です。左写真はその裏面側を撮影していますが、グリーンの矢印の凹み部分で「約0.5mm」分ピン押し底面の深さをさらに深く仕様変更できる仕組みになっています。
つまり「絞り連動ピン」のサイズと「絞り羽根開閉異常」の状況を勘案して表裏を入れ替えて対処できるので大変有難いワケです。
逆に言うと、日本製マウントアダプタのほうはマウントネジ部自体を取り外す設計概念ではないので (ピン押し底面が一体で切削されている為) 固定ネジを緩めても意味がありません。
またこのように言うと日本製マウントアダプタを貶していると信者の方々からメールが来ます(笑) マジッでメール来ますから、それ故「崇拝者が居る」と怖がっている次第です(笑) しかし現物をチェックしていろいろなオールドレンズを使っていて明らかになってきた点を指摘しているので、同一種別の規格で複数個のマウントアダプタを所有すること自体が少ない点を考慮すれば、有難い情報になるのではないかとの配慮からだけです。決して日本製マウントアダプタを貶しているワケでも中国製を勧めているワケでもありません (当方歴とした日本人ですから)(笑)
なお、現在流通している「K&F CONCEPT製M42マウントアダプタ」は日本製と同じようにマウント面が「1mm突出」した仕様に変更されFUJICAマウントなどの「開放測光用の爪」を回避していますが、商品全高などはそのままなので前述のサイズに当てはまります。
このような話は日本総代理店でも一切案内されていないので、まぁ〜当方のウソだと思われるのも人情なのでしょう(笑) 最近世界的に捏造が氾濫しているので困ったものです(笑)
このモデルの使用上の注意点として、マウントアダプタに装着したまま長期間の保管をしないで下さい。
理由は、マウント部内部の「操作爪」機構部に附随する小さなスプリングが、常時マウント面から飛び出ている絞り連動ピンが押し込まれ続ける事を一切想定していないからです。
そのような環境下で長期間保管する事を想定していないのでスプリングが劣化し弱ってしまいます (最大限伸びきった状態のままになるから)。すると絞り羽根の開閉に影響が出て正しく絞り羽根が駆動しません。このモデルはマウント部内部の「絞り連動ピン機構部」に附随するスプリング (2本) のチカラだけで、絞り羽根が常時開こうとするチカラと常時閉じるチカラのバランスの中で適正な絞り羽根開閉を執っています。従ってそのスプリングの一方/両方が弱った時点で「絞り羽根開閉異常」に陥ります。
また絞り羽根が正しく開閉しない時に、絞り環操作してムリなチカラを加えるのもおやめ下さいませ。絞りユニット内「開閉アーム」の根元が曲がってしまい弱ってしまいます (絞り羽根開閉異常をさらに悪化させる一因になります)。
↑上の写真 (2枚) は、今回の個体の光学系 (前後玉) を角度を変えて撮影しました。見る角度によっては (光の反射で) グリーン色の光彩を放つ少々珍しい個体です (数が少ない)。また後玉裏面側はご覧のようなヘアラインキズが写っていますが、これはコーティング層の極微細な薄い線状ハガレなので、見る角度を変えると視認できなくなります。逆に言えばLED光照射してもこれらヘアラインキズ状の部分は視認できません (つまり硝子面のキズではない)。
↑当モデルによる最短撮影距離45cm付近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。
この実写はミニスタジオで撮影していますが上方と右側方向からライティングしています。その関係でフードを装着していない為に絞り値の設定によりハレ切りが不完全なまま撮影しています。一応手を翳していますがハレの影響から一部にコントラスト低下が出てしまうことがあります (簡易検査具による光学系検査を実施済で偏心まで含め光軸確認は適正/正常)。
↑最小絞り値「f16」での撮影です。極僅かですが「回折現象」の影響が出始めています。
◉ 回折現象
入射光は波動 (波長) なので光が直進する時に障害物 (ここでは絞り羽根) に遮られるとその背後に回り込む現象を指します。例えば、音が塀の向こう側に届くのも回折現象の影響です。
入射光が絞りユニットを通過する際、絞り羽根の背後 (裏面) に回り込んだ光が撮像素子まで届かなくなる為に解像力やコントラストの低下が発生し、ねむい画質に堕ちてしまいます。この現象は、絞りの径を小さくする(絞り値を大きくする)ほど顕著に表れる特性があります。