◎ COSINA (コシナ) COSINON AUTO 55mm/f1.4《富岡光学製》(M42)

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今回完璧なオーバーホールが終わって出品するモデルは、コシナ製の
標準レンズ『COSINON AUTO 55mm/f1.4《富岡光学製》(M42)』です。


実は4月3日の夜に10年間使い続けていたパソコンが壊れてしまい、この4日間新たなパソコンを調達して悪戦苦闘していました。ハードディスク内データも一部がクラッシュした為にまた消失してしまいました(涙) 前職が家電量販店のパソコンコーナーだったのである程度は詳しいつもりなのですが、すっかり忘却の彼方になっていた記憶を辿り、何とか復旧しましたがまだ不安定です(iMacを使っています)。10年間も使い続けたバソコンでYouTubeをガンガン見まくっていたのがそもそも間違いでした(笑)

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当方ではコシナ製オールドレンズの取り扱いを一切やめましたが、今回のコシナ製モデルは『富岡光学製』と判定しているので扱った次第です (内部構造がコシナ製モデルはやはり扱いませんしオーバーホール/修理も受け付けません)。

このモデルのレンズ銘板刻印は「COSINA (コシナ)」ですからコシナ製モデルなのですが (富岡光学銘は一切表記されていない)、当方の判定として『富岡光学製』としている「」を以下に解説していきます。

それはSNSなどで当方が「富岡狂」と揶揄されている始末で(笑)、最近はオーバーホール/修理受け付けフォームで冷やかしや嫌がらせが送られてくる為に『富岡光学製』の根拠を明示する必要があるからです。中にはバレないからと誹謗中傷に抵触する内容を平気で送ってくる人も居り、或いは何回もオーバーホール/修理の依頼をしてきてはその後連絡が取れずに梨の礫という嫌がらせをする人も居るので、世の中なかなかですね(泣)

オールドレンズを扱う時『富岡光学製』の判定をする根拠は以下の3点です (いずれか1点或いは複数合致した場合)。

M42マウントの場合に特異なマウント面の設計をしている (外観だけで判断できる)。
内部構造の設計として特異な絞り環のクリック方式を採っている (外観だけでは不明)。
内部構造の設計として特異な絞り羽根開閉幅調整方式を採っている (外観だけでは不明)。

上記3点は今までに2,000本以上のオールドレンズを扱ってきて、富岡光学以外の光学メーカーで採っていない設計なので判定の基準としています。それは、そもそもオールドレンズを設計する時、他社の設計をそっくりそのまま真似て (模倣して) 設計図面を起こす必要性が薄いからです。推測の域を出ませんが、たいていの光学メーカーでは自社工場の機械設備などを勘案して、最も都合の良い設計で図面を起こすハズだと考えられるからです (ワザワザ費用を掛けてまで同じ設計を採る必要性が見出せないから)。

 特異なマウント面の設計

cn5514091128先ずは『富岡光学製』と明言できる根拠となるモデルが必要です。それはレンズ銘板に「TOMIOKA」銘がモデル発売会社名とは別に刻印されている、いわゆる「ダブルネーム」のモデルです。

右写真は過去にオーバーホールしたチノン製標準レンズ「AUTO CHINON 55mm/f1.4 TOMIOKA (M42)」からの転載写真です。

cn5514091123M42 (内径:42mm x ピッチ:1mm) ネジ込み式マウントの場合に、マウント面に薄枠の「スイッチ環」を有し、その環 (リング/輪っか) をイモネジ (ネジ頭が無くネジ部にいきなりマイナスの切り込みを入れたネジ種) 3本を使い、横方向から均等配置で締め付け固定している点を指して『富岡光学製』の判定が可能な外観上の特異点と捉えています。

これは、例えば他社光学メーカーでも (海外モデルでも) マウント面に薄枠環が存在している事がありますが、その薄枠環固定をイモネジ (3本) による締め付けでワザワザ設計している会社が存在しません。たいていは薄枠環自体がネジ込み式か、或いはマウント面方向から具体的な皿頭ネジなどを使って締め付け固定していることが多いです (横方向からイモネジで締め付け固定していない)。

左写真は前述モデルのオーバーホール工程でマウント面の解説を示していますが (絞り環固定環が薄枠環/スイッチ環)、梨地仕上げのシルバーな薄枠環を横方向からイモネジ (3本) で締め付け固定する方式を採っています (赤色矢印)。この時「イモネジ (3本)」を使う理由があります。純粋に薄枠環を固定するだけの目的 (設計意図) なら一般的な微細皿頭ネジ (プラスなど) を使えば良いワケですが、位置調整が必要な箇所なので「イモネジ (3本)」を用意した必然性があります。つまりこの方式の設計の場合、必ず固定位置の微調整が必須になり、その仕上がり如何で絞り環を回した時のクリック感や刻印されている絞り値との整合性 (絞り値の位置や具体的な絞り羽根の開閉度合いなど) が変化してしまうと言えます (実際にオーバーホール工程の中でその微調整を実施しているから知っている)。

単に外観上の近似点だけを指して『富岡光学製』と判定しているワケではなく (そんな単純な話ではない)、あくまでも設計上の意図/工程手順として微調整が必要だから「イモネジ固定なのだ」と納得している次第です (逆に言えばイモネジを使った理由が理解できる事になる)。

設計上のクリック方式の特異点

cn5514091122これは外観からは一切判定できる要素ではありません (バラさなければ分からない)。同様前述モデルのオーバーホール工程から転載した写真 (右) ですが、絞り環を回した時にカチカチとクリック感を伴う設計です。

この時、そのクリック感を実現するには「ベアリング」が必要になりますが、そのベアリングを組み込んでいる箇所が問題になってきます。絞り環には「絞り値キー」と言う「」が用意され、そこにベアリングがカチカチと填ることでクリック感に至ります。

その「ベアリング」は絞り環の次に上から被さる「前述のスイッチ環/絞り環固定環/薄枠環 (リング/輪っか)」なのです。従って、その薄枠環の固定位置をミスると絞り環を回した時のクリック感が刻印絞り値とはチグハグになってしまいますし、絞り環に刻印されている絞り値の前後どちらの絞り値で絞り羽根が開閉しているのかも非常に不明瞭になります。

だから「イモネジ (3本)」による位置調整機能が設計上必要になってきます。

これは例えば他社光学メーカーなら、こんな面倒な設計にせず絞り環の裏側 (接触している面) にクリック感を実現する「ベアリング」を組み込んでいます。するとこの絞り環の上から薄枠環を被せて微調整する必要性が無く、そもそも絞り環操作と絞り羽根開閉との整合性が絞り環のセットと同時に整う設計であり、そのような設計を採っているオールドレンズ (他社光学メーカー) は数多く存在します。

従って、このような面倒な微調整を伴う設計をしてきたのは『富岡光学製』オールドレンズだけだと判定しているワケです。

設計上の絞り羽根開閉幅微調整機能の特異点

cn5514091115こちらも外観からは一切判定できません (バラす必要あり)。前述のモデルの鏡筒には「絞り羽根開閉幅微調整キー」が用意されており (左写真でここと示している箇所)、鏡筒の位置調整で絞り羽根が閉じる際の開閉幅 (開口部の大きさ/カタチ/入射光量) を微調整する概念 (設計) です。

これは例えば他社光学メーカーなら組み立て工程の途中で鏡筒に光学系前後群をセットし終わった時点で、専用治具で検査して絞り羽根の開閉幅 (開口部の大きさ/カタチ/入射光量) をチェックすれば良いだけで、たいていは「絞りユニットそのものの位置調整だけで微調整」を済ませています。何故なら、絞り羽根を包括する絞りユニットは光学系の前後でサンドイッチ状態だからです。

ところが富岡光学製オールドレンズの場合は、光学系前後群をセットし終わってからヘリコイド (オス側) の内側にストンと落とし込んで鏡筒を固定しない限り検査できません。何故なら、鏡筒自体の位置調整で絞り羽根の開閉幅が変化するので全て組み込んでからでなければ検査する意味が無いからです。これもの絞り環のクリック感を実現している方式 (設計) 同様、富岡光学製オールドレンズだけが採っていた設計概念だと言えます。

以上、特に様々なオールドレンズと異なる設計 (概念) 部分で『富岡光学製』と判定している根拠を解説しましたが、これらの話は全て当方だけが案内している内容ばかりであり、信用/信頼性が非常に低いことをこのブログをご覧頂いている皆様はご承知置き下さいませ。表現の自由ですからSNSなどで当方を揶揄するのは致し方ありませんが、少なくとも誹謗中傷の類を送りつけてくるのはおやめ頂きたいと願うばかりです。

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上記解説で使ったチノン製標準レンズ「AUTO CHINON 55mm/f1.4 TOMIOKA (M42)」は1973年にチノンから発売されたフィルムカメラ「CE MEMOTRON」のセットレンズとして用意されていたことが当時の取扱説明書で確認できます (レンズ銘板にTOMIOKA銘が刻印されている)。

しかしチノンの一眼レフ (フィルム) カメラは1972年発売「M-1」シリーズで既にM42マウントの標準レンズをセットレンズとしていたので、実際はダブルネームではない焦点距離55mmのオールドレンズが開放f値「f1.4/f1.7」で用意されていたようなので、右の当時広告を見ると「TOMIOKA」銘の無いセット用標準レンズが同じタイミングでも存在していますから、ダブルネームだったのは極初期の出荷品だけだったのかも知れません。何故ならマウント面の薄枠環が梨地仕上げのシルバーから黒色に仕様変更しているから、その時点でレンズ銘板から「TOMIOKA」銘の刻印が省かれたとも推測できます (右広告一番下 マーキング部分)。

一方、今回のモデル『COSINON AUTO 55mm/f1.4《富岡光学製》(M42)』は、左写真のとおり旧西ドイツの写真機材専門の通販商社「PORST」から発売されていた「PORST COLOR REFLEX AUTO 55mm/f1.4 (M42)」と筐体意匠が異なるだけでほぼ同一です。

コシナで当時発売されていたフィルムカメラ「Hi-Lite」シリーズのセットレンズとして供給されていたようで、後の1975年に登場する「Hi-Lite 402」などにも標準レンズとしてセットされ、その後も供給が続いたようです。

左の当時広告を見ると1980年時点でもまだセットレンズとして輸出が続いていたことが分かります。

そこで今回少し疑問に考え調べたところ、当時のコシナで光学硝子の熔解工場設備が整ったのが1968年であることを知りました。しかし富岡光学が光学硝子の熔解設備を整えて一眼レフ (フィルム) カメラ用のオールドレンズ製産をスタートしたのは1950年からのようです (1945年の爆撃で工場が全焼した為に1949年青梅市で株式会社富岡光学器械製造所を開設)。この時間的な開きの中でコシナが1970年代初頭に輸出用フィルムカメラのセットレンズを既に供給できた (量産できた) とは考えられないと思います。

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上の写真はFlickriverで、このモデルの特徴的な実写をピックアップしてみました。
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)
※各写真の著作権/肖像権がそれぞれの投稿者に帰属しています。

一段目
左端からシャボン玉ボケが崩壊して背景ボケへと変わっていく様を集めていますが、ピント面のエッジが非常に繊細で細い為に、すぐにアウトフォーカス部が滲んでしまいます。ところが滑らかな階調でトロトロにボケていくので表出しているシャボン玉ボケは微細なエッジが微かに残っているだけの不明瞭な、然し真円に近いシャボン玉ボケであり、これはこれで円形ボケの質として考えた時にMeyer-Optik Görlitz製オールドレンズなどにみる明確なシャボン玉ボケとは対極的で美しいと感じました。

二段目
背景ボケがトロトロにボケていくのでピント面の被写界深度の狭さも相まり、いわゆるカリカリの切れるようなピント面ではないにしても何処か惹かれる要素があると思います。この背景ボケの滲み方は最後の右端写真の如く、まるで飛び出るかのような違和感さえも感じるくらいのレイヤー (境界面/階層面) の差となって現れます。

三段目
何しろ人物撮影が美しく、リアルで、生々しいです。確かに開放f値「f1.4」で明るめですが、それでもこのダイナミックレンジの広さがモノを言っていると感じます。それがメリットとしてシッカリ人物撮影にも活かされるのでリアルな人肌再現性を保つのではないでしょうか。

光学系は5群7枚の拡張ダブルガウス型構成で、後群側を1枚拡張しています。従ってポイントは第3群〜第4群で入射光を料理して被写界深度の非常に狭い、且つ鋭いピント面、然し画全体に漂う繊細感と柔らかさを併せ持つ独特な描写性に仕上げて最後の第5群 (後玉) でまとめているようにも見えます。
右図は今回バラして清掃時にデジタルノギスで計測しほぼ正確にトレースした構成図です。
(各硝子レンズのサイズ/厚み/凹凸/曲率/間隔など計測)

ネット上の解説などで使われている光学系構成図を見ると、第5群 (後玉) が両凸レンズになっていたりしますが、現物を見れば一目瞭然後玉は平坦です (起伏が無い)。

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。この当時の富岡光学製オールドレンズ (OEMモデル) に共通する点として、スプリングや捻りバネの線径/チカラが非常に弱いので経年劣化で適切なチカラの伝達に至らないことが多いです。その意味では好きこのんであまり扱いたくないモデルの一つとも言えます(笑)

何だかんだ言ってオールドレンズを整備する時、光学系内の状態はともかく「内部のチカラの伝達が命」の一言に尽きます。マウント面に飛び出ている「絞り連動ピン」にしろ絞り羽根の開閉にしろ、或いは距離環を回す時のトルク感も含め、全ては指から伝わった「チカラの伝達」がどのように具体的な操作として結実するのか、或いはその時指に返ってくる「感触や重い/軽いの印象」を決める要素は「チカラの伝達経路のレベル」が問題になるとしか言いようがありません。

この点にどれだけ拘って整備するのか、それは使うグリース種別一つとっても千差万別の結果に繋がるワケで、さらに内部の構成パーツに生じてしまった経年の酸化/腐食/錆びなどは、いったいどうするのか? そこをごまかして (見て見ないフリして)「グリースに頼った整備」だけで済ませるのか(笑)、確かに組み上がってしまえばそれら要素の数々は想像すらできないワケで、単に当方の整備レベルの低さだけが目立つばかりの話だったりしますね(笑)

↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒です。このモデルはヘリコイド (オス側) が独立しており別に存在します。

↑6枚の絞り羽根を組み付けて絞りユニットを完成させます。

↑完成した鏡筒をひっくり返して裏側を撮影しました。簡素な設計で「開閉アーム」が飛び出ているだけです。その「開閉アーム」にはご覧のように微細なスプリングが1個だけ附随しています。このスプリングが非常に弱いチカラなので、経年で絞り羽根に油じみが生じ「粘りを帯びている状態」の期間が長くなると途端に適切な絞り羽根の開閉に支障を来します。

一方マウント部内部にも「捻りバネ」が附随しており、互いに「絞り羽根を常時開こうとするチカラ/常時閉じようとするチカラ」のバランスの中で適切な絞り羽根開閉を採る設計です。

従って「スプリングと捻りバネ」という2種類のチカラ制御である点が調整の難しさに至っています。経年劣化などで一方だけのチカラが弱った時点で「絞り羽根開閉異常」の現象が発生するからです。

↑完成した鏡筒を立てて撮影しました。解説のとおり (赤色矢印) 富岡光学製オールドレンズの設計上の特徴たる「絞り羽根開閉幅調整キー」が備わっており、この点が富岡光学製と判定できる要素の一つになります。鏡筒の位置調整機能を装備することで絞り羽根が閉じていく時の「開閉幅 (開口部の大きさ/カタチ/入射光量)」微調整を実現しています。

今回の個体をみるとフィルター枠を締め付け固定していた「イモネジの締め付け痕」が4箇所残っています (グリーンの矢印)。1箇所だけが製産時点の締め付け痕なので、過去メンテナンス時に最低でも3回ズレた位置でフィルター枠が固定されていたことが判明します。

オールドレンズはバラすことで過去メンテナンスの具体的な不適切な所為が白日の下に曝されることになりますね。上の写真グリーンの矢印の中で左側の3点 (イモネジ締め付け痕) は純粋にフィルター枠固定時の極僅かなズレだけですから「適正」ですが、右端の1点だけはフィルター枠の固定位置が全く適切ではなかったことを意味します。するとフィルター枠が最後までセットできなかった理由は「光学系前群の格納位置がズレていたからフィルター枠が最後まで入らなかった」ことに繋がるので、この「イモネジの締め付け痕」をチェックするだけで過去メンテナンス時の不適切な所為が明確になります (フィルター枠はネジ込んで最後にイモネジ3本で締め付け固定する方式なので光学系前群の格納位置が適切でないとイモネジの締め付け位置も必然的にズレる/つまり光路長のズレに繋がり甘いピント面に至る原因になる)。

↑距離環やマウント部を組み付ける為の基台です。

↑真鍮製のヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。

↑ヘリコイド (オス側) を、やはり無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルは全部で13箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。

↑こちらはマウント部内部を撮影していますが、既に各構成パーツを取り外して当方による「磨き研磨」を終わらせた状態で撮っています。

↑外していた各構成パーツも個別に「磨き研磨」を施してからセットします。マウント部は狭い空間の中に「スイッチ環/絞り環連係環/絞り連動ピン連係機構」などがギッシリと詰まっています。

マウント面から飛び出ている「絞り連動ピン」が押し込まれることで (ブルーの矢印①) その押し込まれた量の分だけ「絞り連動ピン連係アーム」が移動して先端部の「開閉爪」が動きます ()。この時、内部に「捻りバネ」が1本介在するので、そのチカラにより「絞り羽根を常時閉じようとするチカラ」を及ぼしますが、前述のとおり経年劣化で弱ってしまうと正しく最小絞り値まで絞り羽根を閉じることができなくなります。

絞り連動ピン連係アーム」の途中に配置されている「制御キー」が「なだらかなカーブ」に突き当たることで、具体的な絞り羽根の開閉角度が決まります。「なだらかなカーブ」の麓が最小絞り値側になり、勾配を登りつめた頂上が開放側です。

↑完成したマウント部を基台にセットします。このマウント部が基台に固定される際に使っているネジが上の写真のとおり「皿頭ネジ」である点がポイントです。セットする位置 (固定位置) が決まっているのでイモネジではなく皿頭ネジを使う設計思想です。

↑イモネジ (3本) を使って指標値環を締め付け固定します。ここでも「イモネジ」を使っているので、必然的にこの指標値環の固定位置調整が必須であることが分かります。何故なら、固定位置が決まってしまうならイモネジではなく皿頭ネジ (プラスなど) を使ってしまえば決まった位置で必ず固定できますね (逆に言えばイモネジを使っていることで設計段階で位置調整を考慮していたことが明確になる)。

↑上の写真解説も『富岡光学製』の根拠の一つです。絞り環を基台にセットしていますが、その裏側に「絞り値キー」と言う「」が刻まれており、そこをベアリングがカチカチと填ることでクリック感が実現される設計です。

ところがそのベアリングが入る先が右側の「スイッチ環」に用意されている「」であり、ここにスプリング+ベアリングがセットされ絞り環に被さることでクリック感が実現できる設計です。

従って、この「スイッチ環」の固定位置をミスると絞り環操作時のクリック感と実際に選択しようとしてる絞り値との位置がチグハグになってしまうワケで、それは「スイッチ環の位置調整が必須」であると言えます。結果「イモネジ (3本)」による締め付け固定を採っている次第です (皿頭ネジを使っていない理由)。

↑この工程も『富岡光学製』を示す根拠の一つですね。前述の「スイッチ環」をイモネジ (3本) を使って横方向から締め付け固定します (グリーンの矢印)。

前にもご案内しましたが、絞り環の裏側にベアリングを用意してしまえば、こんな面倒な作業が発生せず簡単にクリック感を実現できます。それは当時他社光学メーカーで既に多く採用されていた設計概念ですが、富岡光学では長らくこのような「意味不明な設計」に拘り続けていました。

↑距離環を仮止めしてから光学系前後群を組み付けて無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行い、最後にフィルター枠とレンズ銘板をセットすれば完成です。

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ここからはオーバーホールが完了した出品商品の写真になります。

↑当方でこの当時の大口径標準レンズである富岡光学製OEMモデルを取り扱うのは、実は2年ぶりで2017年以来です。2年も時間が空いてしまった理由があり、一つは「後玉の状態が問題になる」ことともう一つは「絞り羽根開閉異常の懸念」です。

この当時の富岡光学製OEMモデルは光学系の状態が良くない個体が多く、特にカビ発生率が高い点と一番問題になる「後玉にキズが多い」点を見逃せません (そのため必ず後玉の状況をチェックしないと調達できない)。また絞り羽根に油じみが残っている個体だったりすると、バラした時点で既に「スプリング/捻りバネが経年劣化で弱っている」個体だったりするので、それはそのままオーバーホール工程の中で調整の難しさに繋がってしまいます。

具体的な言うなら、装備している「自動/手動切替スイッチ (A/Mスイッチ)」の切り替え動作で絞り羽根の開閉が適切に動いてくれない、或いはマウントアダプタ装着時に絞り羽根開閉異常が発生するなど、たかがスプリングや捻りバネの話ですが具体的な絞り羽根の開閉に関わる問題に直面します。その意味で富岡光学製オールドレンズは「絞り羽根開閉異常の発生率が高い」モデルとも言えます。

↑光学系内の透明度が非常に高い個体です。LED光照射でもコーティング層経年劣化に伴う極薄いクモリがほぼ見られませんが、唯一光学系第2群の外周附近に一部汚れ状に残っているコーティング層の経年劣化が視認できます (LED光照射しないと見えないレベル)。外周附近なので写真に一切関係ないですが、むしろカビの発生状況が良かった (少なかった) ので、特に光学系中心部のコーティング層レベルを考えると、逆に良い状態を維持していた個体とも言えます。

それほど富岡光学製オールドレンズのチョイスには神経を遣います(笑)

↑上の写真 (3枚) は、光学系前群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。

↑問題の後玉の状態です。この後玉がこれだけ突出しているので、どうしてもキズやコーティング層の経年劣化など具体的に写真に影響を来す要素が多く、調達時にはチェックが必要です。

この当時の富岡光学製オールドレンズに多く言えることは、どう言うワケか光学系前群側のカビ発生率が高く、逆に後群側はコーティング層経年劣化に伴う薄いクモリが多かったりするので、おそらく光学硝子材精製の成分/配合に起因しているのではないかと推測しています。

例えば「二酸化ケイ素」が少なくて「酸化バリウム」分が多い硝子材だとカビの発生率が極端に上がってきます。同じ富岡光学製OEMモデルとして有名なRICOH製標準レンズ「XR RIKENON 50mm/f2 (PK)」なども光学系内のカビ発生率が高く、且つ貼り合わせレンズ (2枚の光学硝子レンズを接着剤を使って貼り合わせてひとつにしたレンズ群) のバルサム切れ (貼り合わせレンズの接着剤/バルサムが経年劣化で剥離し始めて白濁化し薄いクモリ、或いは反射が生じている状態) の懸念も高いのが現状です。

↑上の写真 (3枚) は、光学系後群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。後群内を組み込む際にちゃんとブロアーして塵/埃を除去しているのですが、絞り羽根に附着していたのか暫くしたら「微細な塵」が1点外周附近に居ます。

非常に微細なので写真には影響しませんが「神経質な人」は気にするでしょうか。後玉を完全固着させてしまったので除去は諦めました (塵部分を拡大撮影しようとしても写りませんでした/LED光照射で内部を凝視すると視認できます)。

【光学系の状態】(順光目視で様々な角度から確認)
・コーティング劣化/カビ除去痕等極微細な点キズ
(経年のCO2溶解に拠るコーティング層点状腐食)
前群内:11点、目立つ点キズ:7点
後群内:17点、目立つ点キズ:14点
・コーティング層の経年劣化:前後群あり
・カビ除去痕:あり、カビ:なし
・ヘアラインキズ:あり(前後群内)
・バルサム切れ:無し (貼り合わせレンズあり)
・深く目立つ当てキズ/擦りキズ:なし
・光源透過の汚れ/クモリ (カビ除去痕除く):あり
光学系前群の第2群外周附近にコーティング層の経年劣化に伴う汚れ状部分がありますが写真には影響しません。
・その他:光学系内は微細な塵や埃が侵入しているように見えますが清掃しても除去できないCO2の溶解に拠る極微細な点キズやカビ除去痕、或いはコーティング層の経年劣化です。
・後群内に微細な塵が1点残ってしまいましたが後玉を硬締め固着化してしまったのでそのままです。
光学系内の透明度が非常に高い個体です
(LED光照射でも極薄いクモリすら皆無です)
・いずれも全て実写確認で写真への影響ありません。

↑6枚の絞り羽根もキレイになり絞り環操作共々確実に駆動しています。

ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感が相応に感じられるものの当方による筐体外装「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。

↑【操作系の状態】(所有マウントアダプタにて確認)
・ヘリコイドグリースは「粘性:中程度と軽め」を使い分けて塗布し距離環や絞り環の操作性は非常にシットリした滑らかな操作感でトルクは「普通」人によって「重め」に感じ「全域に渡って完璧に均一」です。
・距離環を回すとヘリコイドのネジ山が擦れる感触が伝わる箇所があります。
・ピント合わせの際は極軽いチカラで微妙な操作ができるので操作性は非常に高いです。
・絞り環操作も確実で軽い操作性で回せます。

【外観の状態】(整備前後関わらず経年相応の中古)
・距離環や絞り環、鏡胴には経年使用に伴う擦れやキズ、剥がれ、凹みなどありますが、経年のワリにオールドレンズとしては「超美品」の当方判定になっています (一部当方で着色箇所がありますが使用しているうちに剥がれてきます)。

↑『富岡光学製』オールドレンズとして捉えた時、焦点距離55mの開放f値「f1.4」或いは「f1.2」辺りになると、特に後玉の状態がネックになりなかなか調達できませんが、久しぶりにまともな個体をゲットできました (筐体外装はキズやハガレが多めですが)。

また真鍮製のヘリコイド (メス側) の独特な設計 (上下2段でメス側ネジを切削している) から距離環を回す時のトルクが重めに至ることが多いので、現実的に市場で整備されている個体のほとんどが「白色系グリース」に頼った整備ばかりです (結果軽いトルク感には仕上がっていますが)。

当方は基本的に「黄褐色系グリース」がメインなので (製産時に使われていたであろうグリース種別だから/設計時点での想定グリース種別だから)、ヘリコイドのネジ山の状況に神経質です。その意味で「均質なトルク感に仕上がる白色系グリースと比較されると弱い」のが黄褐色系グリースのサガでもありますね(笑)

無機質なトルク感がお好きな方は「白色系グリース」のほうが向いているでしょうし、当方の「黄褐色系グリース」によるシットリ感漂う操作性もクセになる方が最近は多いのも事実です。特にピント合わせ時の微動でビミョ〜にヌメヌメッと動く感触が (それだけを愉しんでしまうと言われるほどに) 特徴的らしいです。そのような表現で感想を頂くことが多いのですがまぁ〜当方自身もそのヌメヌメ感 (シットリ感) をニマニマしながらイジってるワケで、ちょっと人に見せられるシ〜ンではなかったりしますね (病的です)(笑)

当方が『富岡光学製』を謳ってヤフオク! 出品すると貶す人が多いワケで(笑)、また1〜2年後にほとぼりが冷めたら扱ってみようかというスタンスです。

無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。

↑後玉の突出量があるのでデジタルノギスで計測しました。グリーンのライン部分突出量は「約3.6mm」ですから、カメラボディ側のミラー干渉 (フィルムカメラなどの場合) にご留意下さいませ。逆に言えば、使える領域を目一杯使い切ってまで拘りを以て光学設計したオールドレンズとも言えるのではないでしょうか。その拘りが描写性にも現れているように感じますが、ハッキリ言って『富岡光学製』オールドレンズの内部構造 (設計) は褒められるものではありません (スマートさが皆無)。

↑当レンズによる最短撮影距離50cm付近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。

この実写はミニスタジオで撮影していますが上方と右側方向からライティングしています。その関係でフードを装着していない為に絞り値の設定によりハレ切りが不完全なまま撮影しています。一応手を翳していますがハレの影響から一部にコントラスト低下が出てしまうことがあります。しかし簡易検査具による光学系の検査を実施しており光軸確認はもちろん偏心まで含め適正/正常です。

↑絞り環を回して設定絞り値「f2」で撮影しています。

↑さらに回してf値「f2.8」で撮りました。

↑f値は「f4」に変わっています。

↑f値「f5.6」になります。

↑f値「f8」です。

↑f値「f11」での撮影です。

↑最小絞り値「f16」になります。