◎ Kowa Optical Works (興和光機) Prominar 35mm/f2.8 zebra(L39)
(以下掲載の写真はクリックすると拡大写真をご覧頂けます)
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※解説とオーバーホール工程で使っている写真は現在ヤフオク! 出品中商品の写真ではありません
オーバーホール/修理ご依頼分ですが、当方の記録用として掲載しており
ヤフオク! 出品商品ではありません (当方の判断で無料掲載しています)。
(オーバーホール/修理ご依頼分の当ブログ掲載は有料です)
今回初めて扱うモデルですが、オーバーホール/修理ご依頼分の興和光機製準広角レンズ『Prominar 35mm/f2.8 zebra (L39)』です。巷では僅か数百本しか製産されなかったと 語り継がれている幻の銘玉の一つ・・と言っても通の方々の間で騒がれている逸品です。
太平洋戦争中に日本国内の光学メーカーはそのほとんどが軍需品/軍用品、とりわけ光学兵器の開発/製産に充てられていた為、戦後GHQに対する民需転換申請は相当な数に上っていたようです。しかしGHQの反応は早く、終戦日の年1945年10月から翌年に掛けて大半の会社に許可が降りたようです (興和株式会社ホームページの歴史から)。
興和光機は戦後の1946年 (昭和46年) に日本海軍の光学技術者を大量雇用することで愛知県は宝飯郡蒲郡町に新設された「興和光機製作所」がスタート地点になりますが、その時の社名は「興服産業株式会社」であり、これはホームページの解説によると興亜紡績産業の「興」と 服部商店の「服」をとりまだ戦時中だった1943年 (昭和18年) に社名変更したようです。さらに敗戦後、1945年 (昭和20年) には興亜紡績産業の社名を「平和を興す」という「興和」の名に託した真摯な期待と決意を込めたものとして商号変更し、後の1960年 (昭和35年) には現在に繋がる『興和株式会社』に屋号を変更しています。
そうですね,皆さんもよ〜くご存知な (きっと一度はお世話になったことがあるハズの) 胃腸薬「キャベジンコーワ」でおなじみの製薬会社「興和新薬株式会社」をグループ企業に持つ、今現在も拡大を続ける日本有数の老舗大企業/商社です。
しかし医薬品のみならず不動産から光学製品や繊維、機械設備、セキュリティ、船舶、化成品に鉱物資源、建材などなど、それこそ挙げていくときりがないくらい多岐に渡り、今現在も なお取り扱いを拡大しています (現在は宇宙産業分野にも進出中)。
きっと気が付いたら火星にケロちゃんが日本の国旗を支えて立っているかも知れませんョ(笑)
子どもの頃から胃薬と言えば「キャベジンコーワ」と森繁久彌さんの白黒TVコマーシャルを思い浮かべます(笑)
“胃の薬、そりゃ人によっていろんなことを言う人がいますが、でもね、キャベジンは効くね!”
森繁久彌さんのあの心に響く優しい声が耳に残るから不思議です(涙)
そもそも興和(株)の創業は、1894年 (明治27年) まで遡り、創業者「服部兼三郎」氏が興した「綿布問屋服部兼三郎商店」が起点なので、相当な老舗専門商社ですね。
1946年に創設された興和光機製作所は、後に2013年の「興和光学(株)」を経て本年2021年に「興和オプトロニクス」に社名変更しています。
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1952年 (昭和27年) には、日本で初めて当時の興服産業からスポッティングスコープが発売され、後の1964年には東京オリンピックで射撃競技に於いて標的観察スコープとして採用されています。
もともとは戦前戦中ともに日本のみならず海外各国の軍用でも着弾観測スコープとして使われていたモノを民生品として活用した発想です。
そして1954年には二眼レフカメラ「Kalloflex (カロフレックス)」を発売し,後にレンズシャッター式の6×6判一眼レフなどへと繋げています。
またレンジファインダーフィルムカメラでは1955年 (昭和30年) にリーフシャッター方式の「Kallo Wide (カロワイド)」を発売し,今回 扱うモデルの原型とも推定できる、4群6枚のダブルガウス型光学構成で「Prominar F.C. 35mm/f2.8」固定式レンズを実装しています。
従って今回扱うライカ判準広角レンズ『Prominar 35mm/f2.8 zebra (L39)』はまさにこの頃 (1957年発売) に登場した「L39マウント規格」採用モデルで、他に100mm/f2,及び「M42マウント規格」の200mm/f28が同時発売されています (下記写真Wikiより)。
光学系は典型的な4群6枚のダブルガウス型構成ですが、おそらく1955年に発売されていたレンジファインダーカメラ「Kallo Wide」に実装されている固定式レンズをベースにしていると考えられるので、レンジファインダーカメラの場合リーフシャッターがビハインドなので、バックフォーカスを稼ぐ必要がないことからご覧のような第2群と第3群貼り合わせレンズ設計になっています。
但し今回のモデルはライカ判向け「L39マウント規格」なので、逆にバックフォーカスが必要でありその分屈折率を高めた光学設計ではないかと考えています。
右図は今回オーバーホールの為に完全解体した際、光学系清掃時に当方の手でデジタルノギスを使って逐一計測しトレースした構成図です。するとまたSNSでウソを掲載していると言われるので(笑)、例によって証拠写真を撮りました。
ご覧頂くと分かりますが第1群 (前玉) と第4群 (後玉) は互いに⌀ 20.58mmと⌀ 19.18mm なのでとても近似した外径です。また第2群と第3群貼り合わせレンズ裏面側もご覧のとおり貼り合わせている凹メニスカスの縁が平坦で幅広です (普通は幅が狭くて尖った印象の形状が多い)。
↑今回オーバーホール/修理のご依頼は「鏡胴のガタつき/ブレがある」との事で、当初バラす前のチェック時点で、特にフィルター枠部分を保持したまま確認すると確かにフィルター枠部分から鏡胴「前部」が僅かにブラつきます。また絞り環も遊びが多いような気がしました。
上の写真は既に完全解体が終わって洗浄した後の写真ですが、絞り環と鏡筒から飛び出てくる「開閉キーを掴む連結アーム」なので、ご覧のように先端部にシリンダーネジの「開閉キー」をガシッと掴むべくコの字型の爪が備わっています (赤色矢印)。
さらにこのパーツの反対側「固定用ネジ穴」部分を見ると分かりますが、本来絞り環の裏面に固定用ネジで締め付け固定されるので、ネジ穴が用意されている板状部分は「水平で平坦なのが正しいカタチ」です (赤色矢印)。
設計時点でワザと浮き上がらせている形状なのではないかと言われそうですが、そうではありません。サービスマニュアルをチェックしたワケでもないのに、どうして断言できるのかと言えば、それは鏡筒の絞りユニットから飛び出てくる「開閉キー」を掴むコの字型の爪部分がキッチリL字型のカタチを維持しているのが最も強度面で確実だからです。
従ってカクカクと直角にそれぞれの位置で曲げられているカタチが正しいのは容易に推察できます。そしてネジ穴の板状部分が、もしも仮に浮き上がったままだと「開閉キーが上方向に強制的に押し上げられたままの状態になってしまう」のを、そもそも今回完全解体している最中に「目撃してしまったから」なのです(笑)
つまりバラした直後は絞りユニットから飛び出ていた「開閉キー」はほんの微かに上方向に持ち上がったまま掴まれていました。
実はこの「目撃」が後々飛んでもない事実に繋がり気が付けば3日掛かりの作業に陥ってしまい、甚だ焦ってしまった次第です(笑)
オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。
↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。このモデルはバラしてみると典型的な鏡胴「前部/後部」の二分割方式を採っていますが「L39マウント規格」なので、必然的に距離計連動機構部を内部に持ち、結果的に内部構造は内筒と外筒の2つを備える「ダブルヘリコイド方式」と推測できます。
実際バラしてみれば推測どおり2つのヘリコイド (オスメス) セットが備わっていました。
↑絞りユニットや光学系前後群を格納する真鍮 (黄銅) 製の鏡筒です。当初バラした直後はこんなに黄金色ではない黒ずんだ茶褐色に変質していました。当方が手で「磨き研磨」しましたがそれはピッカピカにするのが目的ではなく「適切な平滑性を担保する」事で余計な酸化/腐食/錆びによる抵抗/負荷/摩擦を排除したいが為です。
そして今回のオーバーホールで悲惨な目に遭遇してしまった根本的な原因がこの黒ずんだ茶褐色だったのです(涙)
絞り羽根には表裏に「キー」と言う金属製突起棒が打ち込まれており (オールドレンズの中にはキーではなく穴が空いている場合や羽根の場合もある) その「キー」に役目が備わっています (必ず2種類の役目がある)。製産時点でこの「キー」は垂直状態で打ち込まれています。
◉ 位置決めキー
「位置決め環」に刺さり絞り羽根の格納位置 (軸として機能する位置) を決めている役目のキー
◉ 開閉キー
「開閉環」に刺さり絞り環操作に連動して絞り羽根の角度を変化させる役目のキー
◉ 位置決め環
絞り羽根の格納位置を確定させる「位置決めキー」が刺さる環 (リング/輪っか)
◉ 開閉環
絞り羽根の開閉角度を制御するために絞り環操作と連動して同時に回転する環
↑上の写真は鏡筒を前玉が入る位置を写真の上方向に向けて立て,且つその周りに「絞りユニットを構成するパーツ」を並べて撮影しました。前述で説明した絞り羽根にプレッシングされている「キー」が刺さる相手の「位置決め環/開閉環」及び、開閉環が外れないように (絞り 羽根のキーが外れないように) する目的の「C型留具」があります (赤色矢印)。
ここでのポイントはブルーの矢印で指し示している2箇所にある「切り欠き部分 (スリット)」です。
今回の個体はだいぶ昔に一度オーバーホールしていますが,その時の整備者がこのスリットを正しく微調整していません。
それも後ででてくる悲惨な問題の大きな要因のひとつです。
↑8枚あるカーボン仕上げの絞り羽根をセットして、絞りユニットを組み上げたところを撮っています。グリーンの矢印のように鏡筒の中にストンと落とし込んで、鏡筒の外壁に固定用の 締付イモネジを3本ネジ込めばOKです。
すると左写真のようなイモネジをネジ込むことで、先の尖った部分が絞りユニットの外壁に当たるので,その位置で締め付け固定できる 原理です。従ってイモネジが使われていた場合に、そのネジ込み対象パーツを「締め付け固定する目的」でイモネジを使った設計に意図したのか,或いは「単にねじ頭のためのスペースが確保できないから」仕方なくイモネジを使ったのかの判定が必ず必須になります。
今回のこのモデルでの、この部位に於けるイモネジの使用は前者で「絞りユニットの固定位置を微調整する目的」です。
↑完成した絞りユニットが鏡筒最深部に「イモネジ (3本)」で鏡筒の外側から締め付け固定されました・・と言いたいところですが、締め付け用のイモネジは「2本」しか使われておらず、残念ながら1本が欠品です。
上の写真を見ると最小絞り値まで閉じている絞り羽根のすぐ直上に「開閉環」が入り、それを外れないようにする目的で「C型留具」を使っているのが分かりますね。
ところが当初バラした直後はこの「C型留具」が半分だけ開閉環に刺さっている状態でした。「C型留具」は薄い銅版で設計上「開閉環の内径より僅かに大きめ」に切削されており、パチンと内側にハメ込む溝が開閉環の内壁に用意されている設計です。
従って故意にワザワザ半分だけ残さなければイケナイ理由がありません。
↑完成した鏡筒を今度は前回同様前玉が入る位置を写真上方向に向けて,立てて撮影しました。するとご覧のように絞りユニットは鏡筒最深部に組み込まれ (イモネジで既に締め付け固定されているから動かない)、且つ絞りユニット内にセットされている「位置決め環のスリット」も僅かに見えています (ブルーの矢印)。
↑鏡筒にレンズ銘板も兼ねるフィルター枠をセットしたところです。さらに鏡筒の側面に「ストッパー」の板状パーツをネジ止めしました (グリーンの矢印)。
↑ここの解説が今回のオーバーホール/修理ご依頼で「ガタつき/緩み」が生じていた原因箇所になります。このレンズ銘板も兼ねるフィルター枠には上の写真で赤色矢印で指し示すように「締め付け固定ネジ用の穴」がやはり3箇所備わりますが、当初バラした直後の状態は「過去メンテナンス時に故意にワザと締付ネジ3本が締め付けされていない状態でユルユル」だったのです。
だからフィルター枠がグラグラと僅かに揺れ動いていたワケですが、これは締付ネジの締め付け作業を忘れてしまったのではなく「ワザと締め付けていない」のがその緩み方から判明します。もちろん今回のオーバーホールではキッチリ硬締めしています。
鏡筒のスリット (切り欠き部分) には「開閉環」が見えておりブルーの矢印のように左右に回るので「絞り羽根が開いたり閉じたりする」動きです。
すると上の写真で開閉環の右端が「開放時の位置」になり,ストッパーがある左端が「最小絞り値の停止位置」になります。
つまりこの「ストッパー」の役目は「最小絞り値の時の絞り羽根の閉じ具合微調整機能」と言えますね (グリーンの矢印)。
ところが過去メンテナンス時の整備者はその本質を全く理解しておらず、このモデルの難しい内部構造を難なくバラして組み戻せるスキルを持つ整備者なので「シロウト整備ではなくプロの仕業」ですが、前述の「スリットが2つに分かれて用意されている理由とその目的」そしてこの「ストッパー」と開放時と最小絞り値の両側で「絞り羽根の開閉幅 (開口部の大きさ/カタチ/入射光量)」を微調整する必要がある点を見落としていたのです。
或いはもしも理解していたとするなら「その微調整自体が適切ではない」のが当初バラした時の状況で判明してしまいます。
では、いったいどんな悲惨な目に遭ったのか・・???
残念ながらこの個体の絞り羽根は8枚中「開閉キー3個」が過去メンテナンス時に脱落しており、再度叩き込んで固定してあった為、今回の完全解体時に「2枚の絞り羽根の開閉キーが外れて飛んでしまった」のです。
(現状1枚だけ外れる寸前で残っている)
こんな状態では当然ながら絞り羽根の開閉時に「2枚の絞り羽根が飛び出てきて塞いでいく」動き方をするので「正常ではない」ですね(涙)
今回のオーバーホールで3日掛かりでで作業していたその中の2日間のううち1日目は「何とその外れて飛んだキーを床を這いずり回って捜索し」且つ2日目は丸一日がかりで「再び外れた開閉キーを接着していた」次第です(涙)
もぉ〜イヤです!!!
もぉ〜この個体は触りたくないです・・(涙)
僅か⌀ 1mm程度の真鍮 (黄銅) 製円柱で,その長さ僅か1.2mm長程度の「開閉キー」を捜索して、そして接着すると言うその作業は「まるで拷問部屋」です(笑)
過去メンテナンス時と同じようにまた叩き込んでしまえばいいじゃないかと思われるでしょうが、過去メンテナンス時にそんな事実が発生していたことを知らない当方は「フツ〜にバラしていった」ので、もしも知っていれば「C型留具が半分しか刺さっていない理由」も察しが付き、さらに「フィルター枠の締付ネジが全てユルユルなのも納得」だったのです。
(別にムリなチカラで開閉環を持ち上げたワケではなく普通にピンセットで抜き取っただけ)
従って普通なら (正常なら) 仮にキーが垂直状態を維持しておらず (過去の一時期に絞り羽根が油染みで粘性を帯びて膨らんだりした為) 開閉環のスリットに残るとしても、それは絞り羽根全体が開閉環にくっついて一緒に外れるだけの話です (キーだけが脱落しない/3,000本以上も扱った経験値から明言できる)。
つまりバラす際に留具を注意深くゆっくり外して、開閉環も垂直状に少しずつ少しずつ息を 止めながら作業したハズです。何故なら「開閉環に用意されている弧を描いたスリットに開閉キーが接触しているから」です。過去のメンテナンス時のその事実を全く予測していなかったので「フツ〜に開閉環を外してしまった」ワケで、すると開閉環のスリットに「あッ!キーが残ってる!!!」と言う次第です。
念の為残りの6枚全ての絞り羽根をチェックしましたが、もう1枚何となく穴から極僅かに傾いて外れそうになっている開閉キーが見つかりました。その開閉キーも補強の意味で今回の オーバーホールでは接着してあります。
↑ゼブラ柄の絞り環をセットしました。当初バラす前の時点では絞り環に刻印されている絞り値の目安として備わる基準「●」マーカーに対して「絞り環側絞り値のクリック位置が僅かに (2ミリほど) ズレていた」ワケですが、その理由も次の写真で判明します。
↑今度は完成した絞り環を鏡筒丸ごとひっくり返して後玉側方向から撮影しています。
すると絞り環の内側には内部にご覧のようなパーツがセットされていて、グリーンの矢印で指し示した「銅の板バネパーツ」で鋼球ボールが保持されて適度なクッション性を与え絞り環に用意されている溝にカチカチとハマる事でクリック感が実現されます。
当初バラす前のチェック時点では、そもそも絞り環もグラグラしていましたがクリック感自体は少々強めでした。
さらに鏡筒内部の絞りユニットから飛び出てきたシリンダーネジの「開閉キー」をガシッと爪で掴んで離さない真鍮 (黄銅) 製の「開閉キーガイド」が赤色矢印で指し示してあります。
上の写真ではちょうどこの鏡筒/絞り環の底部分が前玉側方向にあたりますから「開閉キー ガイドは逆さ向きで絞り環内側に固定されている」のが分かりますね。
冒頭で解説のとおり「開閉キーガイドが変形していたのでシリンダーネジを僅かに押し上げていた」まま絞り環操作時に絞り羽根を開閉していた事になります。
つまり「開閉環を位置決め環側に押しつけているようなイメージで絞り羽根が開閉していた」ワケで、それは逆に言うなら「開閉環に備わる弧を描いた切り欠きに斜め状に接触していた」のが容易に推測できます (何故なら押し上げていたから垂直ではない)。
だからこそ開閉環を何も知らずに外した時に「2個の開閉キーがスリットに残ってしまった」のが納得できるワケです。
当方が壊してしまったのだと言われれば、そうではないと言い張る「証拠」がありません(涙)
本当の真犯人が居るのに,冤罪で捕まる思いです・・(涙)
ちなみに、当初バラす前の時点でフィルター枠と絞り環部分がガタついていた/揺らいでいた 理由は、前述のとおりフィルター枠を締め付け固定せずに絞り環の押さえ込みに対する圧迫を可能な限り低減しようと配慮していた事が伺えます。
逆に言うと、過去メンテナンス時の整備者は前述の「開閉キーガイドの変形」を故意にワザと自分で処置したが為に、フィルター枠を締め付けない事で (ガタつきを与える事で) 外れてしまい叩き込んだ「開閉キー」に負担を掛けまいと狙っていた事が推測できます。
そうでなければ撮影で使うたびにグラグラしているのがすぐに誰でも分かるので、整備者が 気づかないワケがありません。つまりは絞り羽根のキー脱落に纏わる「ごまかしの整備」と 言えますが、残念ながら解決策は既に穴が広がっている為に接着以外ありません (今回のオーバーホールで再び叩き込む事はもう適いません)。これが金属相手の話なので残念です。
申し訳御座いません・・・・(涙)
なおオレンジ色矢印で絞り羽根が顔出ししているのを指し示しています。
↑一方こちらは今度はまたひっくり返して前玉側方向から鏡筒内部の絞りユニットを撮影しました。完全開放状態にセットしてありますが、オレンジ色矢印で指し示したように「ちゃんと絞り羽根が完全開放している」のが明白です。
つまりこのモデルは後玉方向から光学系内を覗き込むと「開放時に絞り羽根が顔出ししている」ように見えますが、実はそれが仕様なのだと分かります (ちゃんと完全開放している)。
↑3日掛かりで取り組んだ絞り羽根の開閉キー脱落事件は、結局真犯人不詳のまま当方が逮捕されて取り調べで拷問を受けつつ「ちゃんと更生しろ」と罵られつつ絞り羽根が正常に開閉するよう修復しました。残りのもう1本の開閉キーの状況は何しろ微細な部分なのでもう見えず分かりません。
従って一応鏡胴「前部」が完成と判定し,今度は鏡胴「後部」組み立て工程に移ります。
上の写真はダブルヘリコイド方式の鏡胴「後部」構成パーツを全て並べた写真です。すると「外筒 (オスメス)」はちやんと左側に在りますが「内筒 (オスメス)」の解説がありません。
実はこのモデルの内筒は「空転ヘリコイド」なのです。上の写真ではグリーンの矢印で指し 示しています。
ちなみに真鍮 (黄銅) 製パーツは全てが当初バラした直後、洗浄した後で黒っぽい茶褐色に経年劣化で酸化/腐食/錆びが生じていましたら、やはり「平滑性の担保」を目的として「本来の 製産時点に近しいであろうピッカピカ状態」に戻し表層面を滑らかにしています。
この中で内筒が「空転ヘリコイド (オスメス)」としても、空転なので実際はネジ山が存在せず「互いに鏡面仕上げ」です。従ってオスメスと記載していますが実際には両方ともネジ山がありません(笑)
このように「空転ヘリコイド」で設計するメリットは「筐体の全高を抑えられる」メリットがあり、且つその上で「距離計連動ヘリコイドだけを繰り出し/収納できる」のがポイントです。
つまりここの組み上げ工程で「外筒のセットポジションをミスると距離計連動が狂う」話に 至るのでライカ判モデルは厄介なのです。
当方にはライカカメラが手元に無いので、当初バラす前の位置でセットしています (無限遠 位置の状態は当初バラす前と同一)。
↑空転ヘリコイドの「鏡面仕上げ部分」をグリーンの矢印で指し示しています。過去メンテナンス時には当然ながら鏡面仕上げに戻していなかったので、ここは「黄褐色系グリース」に頼って注入していました (結果経年劣化で酸化/腐食/錆びが進行)。一部に「緑青」が生じてしまい、その部分だけ少し強めに磨き込んでいます (抵抗の要因になるから)。
もちろん今回のオーバーホールでは本来のあるべき姿として「鏡面仕上げ」に戻したのでグリースではなく「潤滑油」を極微量で注入し封入環で締め付けます。
↑こんな感じで「空転ヘリコイド」がセットされます。空転ヘリコイドには1箇所垂直状に「直進キー」と言うパーツが飛び出ます。
◉ 直進キー
距離環を回す「回転するチカラ」を鏡筒が前後動する「直進するチカラ」に変換する役目
↑またこちらもポイントの一つですが「空転ヘリコイド」が内側にセットされる「距離環を前玉側方向の正面から撮影」した写真です (赤色矢印)。
するとご覧のとおり距離環に刻印されている「距離指標値環 (feet表記)」はツマミがある箇所だけで繋がっているのが分かります。
つまりこのモデルは内筒の「空転ヘリコイド」を解体する際、或いは組み立てで封入する際、そのいずれでも「チカラを入れたらアウト/容易に変形してしまう」ので相当恐怖感が募ります!(怖)
何故なら最後のほうでここで距離環用の「ジャギーが刻まれている飾り環」をこの指標値環にネジ込む設計だからです。
もしも変形させてしまったら飾り環が最後までネジ込めなくなり「トルクが重くなってほぼ使いモノにならなくなる」ので、単に塗布するヘリコイドグリースの粘性の問題だけではなかなか解決できない要素があったりするのです(怖)
なお、上の解説ではツマミが位置する箇所の一方でカチンと突き当て停止して「無限遠位置」になるのをグリーンの矢印で指し示し、他方「最短撮影距離位置」の突き当て停止位置がオレンジ色矢印で示しています。
従ってほとんど全周に近い部分で距離環の指標値環はフニャフニャですから (何故なら真鍮 (黄銅) 材だから) 少しでも変形すると堪りません(泣)
↑実際に距離環にセットした状態で解説していますが「直進キーと直進キーガイド (グリーンの矢印)」の関係性が分かります。距離環を回すことで (ブルーの矢印①) その回転するチカラに連動して「直進キーが上下動する (ブルーの矢印②)」原理なので、前述の説明のとおり回転するチカラをここで直進動に変換するから鏡筒が繰り出されたり/収納したりする仕組みです。
↑マウント部がセットされて (正しく全てが適正な位置で組み込まれるとマウント部の固定用ネジ穴がピタリと合致する設計) 鏡胴「後部」が組み上がりました。
逆に言うとたった一つでも適正な位置で固定されないパーツが居ると「マウント部の固定用ネジ4個は1本もネジ込めない」状況に陥ります(笑)
当方はもう既に「原理原則」を熟知しているので(笑)、3日掛かりで絞り羽根の脱落キーと格闘して拷問部屋に囚われていたワリには、組み上げは僅か1時間くらいで仕上がってしまいます (組み直しせずに一発で完成)(笑)
この後は既に完成している鏡胴「前部」に光学系前後群をセットして上の鏡胴「後部」に組み込めば,無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行うだけで完成です。
ここからはオーバーホールが完了したオールドレンズの写真になります。
↑さすがに3日掛かりでマジッモードで集中力を絶やせない状況というのは,本当にまさに拷問部屋です(笑)
どうしてそんなに真剣になるのかと言えば,このモデルの希少価値が高すぎるので,海外オークションebayでもまず以て10万円〜30万円は当たり前で、且つもちろん当然ながら弁償するからと探しても見つかるまで何年かかるかと言う部類です!(怖)
こんなモデルなので真剣にならざるを得ません・・(笑)
しかしさすがに過去メンテナンス時に「開閉キーが脱落していた」とは予想すらしなかったので (全く頭に無し)、さすがに脱落した「開閉キーが開閉環のスリットに残ったまま外れてピ〜ンと飛び跳ねて頬に当たった」瞬間は「ウッ!」と声を上げていましたいましたね!(泣)
その後に訪れる恐怖の日々を、その瞬間に頭の中で悟った次第です・・(涙)
またさすがに1㍉径程度の「開閉キー」は床を這いずり回っても,ライトを照らしても,既に経年劣化で真鍮 (黄銅) 材が茶褐色化しているので「床材の色と同化」していて、マジッで手の平で床を掃除しましたね!(笑)
おかげで手の平は真っ黒です・・(笑)
↑光学系内の透明度が非常に高い状態を維持した個体です。LED光照射でもコーティング層経年劣化に伴う極薄いクモリが皆無です。
↑もちろん光学系後群側も極薄いクモリが皆無で,バルサム切れの心配などもまだまだプラス50年くらいは心配なしでしょうか?!(笑) まぁ〜最低でも10年〜20年は保つと思います。
↑問題の (もう見たくない) 8枚の絞り羽根もキレイになり絞り環共々確実に駆動しています。絞り羽根が閉じる際は「完璧に円形絞りを維持したまま」閉じていきます。
但し、それはあくまでも「脱落した開閉キー2個の接着」で叶っている話なので、できれば絞り環操作時に無理なチカラは与えないで頂ければと思います。キーが脱落するたびに穴が広がるので次回はもう接着しても無理だと思います。
ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感が僅かに感じられるものの当方にて筐体外装の「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。「エイジング処理済」なのですぐに酸化/腐食/錆びが生じたりしません。
↑塗布したヘリコイドグリースはもちろん「黄褐色系グリース」を使い距離環を回すトルク感はご指示どおり「当初の重さに近しい状態に設定」しています (敢えて軽くしていませんが重くもありません)。
↑従って赤色矢印で指し示したように絞り環の刻印絞り値に対する基準「●」マーカーは「開放時のみワザと故意にズラしている」設定にしてあります。これはまさに脱落した「開閉キー 2個に負荷をかけたくない」からであり、また最小絞り値側もギリギリの位置でストッパーを固定しており、オーバーホール後の状態で簡易検査具で調べると「最小絞り値f22に僅かに達しているかどうか?」的な位置で、これもワザと故意にそのように微調整しています。
理由は完全開放時と最小絞り値で互いに絞り羽根に対してチカラが及ぶので、その及ぶチカラを事前にワザと緩く抑えている次第です。但し絞り環の操作では「f4〜f22」までクリック感と刻印位置が一致しています。これはそもそもバラした直後に冒頭の「開閉キーガイドの変形」が過去メンテナンス時にワザと処置されていたから正しています。
従ってオーバーホール後はフィルター枠の揺らぎというかガタつきは完全解消し (キッチリ硬締めで固定したから)、絞り環のガタつきは「絞り環側もC型環で止めているだけ」と言う設計上の仕様で、これは僅かなガタつきは残ります。
しかし当初の揺らぎ/ガタつきに比較すれば格段にピタッとしていると思うので撮影時の違和感には至らないと思います。
意外とそういう「撮影時の違和感」は撮影に没頭できないと言うストレスに繋がるので、どんなレベルの話だとしても真摯な思いで個別に人それぞれお聞きして対処しなければイケマセン (と言うのが当方のポリシーです)(笑)
もちろんそうは言っても今回のようにできる事とできない事があるケースにも陥るので,当方本人的には「私は無罪です!」と主張したいところですが、もしもご納得頂けないならご請求金額からご納得頂く分を減額下さいませ。最大MAXは「無償扱いのゼロ円」とします (ご判断お任せします/一切反論しません)。
この個体をお受け取り後、ひと言メールで「無償!」と3文字ご返信頂ければ、それだけで 無償扱いに変更しお取引完了です。
・・申し訳御座いません(涙)
無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。
もちろん光学系の光路長調整もキッチリ行ったので (簡易検査具によるチェックなので0.1mm単位や10倍の精度ではありません)、以下実写のとおり大変鋭いピント面を確保できました。電子検査機械を使ったチェックを期待される方は、是非ともプロのカメラ店様や修理専門会社様が手掛けたオールドレンズを手に入れて下さい。当方の技術スキルは低いのでご期待には応えられません。
↑党による最短撮影距離3.5feet (約1m) 附近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。
各絞り値での「被写界深度の変化」をご確認頂く為に、ワザと故意にピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に電球部分に合わせています。決して「前ピン」で撮っているワケではありませんし、光学系光学硝子レンズの格納位置や向きを間違えたりしている結果の描写でもありません (そんな事は組み立て工程の中で当然ながら判明します/簡易検査具で確認もして います)。またフード未装着なので場合によってはフレア気味だったりします。
↑f値は「f8」まで上がっています。おそらくこのモデルでの解像度ピーク値はこの「f8」が限界かも知れません。
↑f値「f11」です。もうだいぶ絞り羽根が閉じてきているので「回折現象」の影響が現れ始めました。
◉ 回折現象
入射光は波動 (波長) なので光が直進する時に障害物 (ここでは絞り羽根) に遮られるとその背後に回り込む現象を指します。例えば、音が塀の向こう側に届くのも回折現象の影響です。
入射光が絞りユニットを通過する際、絞り羽根の背後 (裏面) に回り込んだ光が撮像素子まで届かなくなる為に解像度やコントラスト低下が発生し、眠い画質に堕ちてしまいます。この現象は、絞り径を小さくする(絞り値を大きくする)ほど顕著に表れる特性があります。
◉ 被写界深度
被写体にピントを合わせた部分の前後 (奥行き/手前方向) でギリギリ合焦しているように見える範囲 (ピントが鋭く感じる範囲) を指し、レンズの焦点距離と被写体との実距離、及び設定絞り値との関係で変化する。設定絞り値が小さい (少ない) ほど被写界深度は浅い (狭い) 範囲になり、大きくなるほど被写界深度は深く (広く) なる。
↑f値は「f16」になりました。極僅かですが「焦点移動」も起きているのではないかと思います (この当時のオールドレンズには結構そう言うモデルがありそうです)。
↑最小絞り値「f22」での撮影です。見比べて頂ければちゃんと絞り羽根が閉じてきているのが分かります。大変長い期間に渡りお待たせし続けてしまい、本当に申し訳御座いませんでした。今回のオーバーホール/修理ご依頼誠にありがとう御座いました。
引き続き次のモデルAngenieuxの作業に入ります・・。