実例:日本製マウントアダプタによる不具合
今回たまたま日本製マウントアダプタとの相性に纏わる不具合の修復を行ったので、実例として掲載します。今回の修理依頼者には特段断りをしていないので個体を識別できる部分にはモザイクを掛けています。
当初CARL ZEISS JENA DDR製のオールドレンズ「TESSAR 50mm/f2.8」のオーバーホール依頼を承り、完全解体によるオーバーホールが完了しご返送しました。しばらくしてマウントアダプタ経由にて絞り羽根がF値「f8」以上に絞れない不具合が発生し返送されました。
以下、その原因とマウントアダプタに係る相性などの解説です。
ご使用のマウントアダプタは有名な日本製マウントアダプタで、現在も販売されている現行品でした。とても精度の高い拘りを持った素晴らしい商品です。
当方ではEOSのカメラボディは所有していないので、最終的にはこのマウントアダプタを装着した状態での「絞り羽根開閉」確認になります。
カメラボディ側のマウント部です。
オールドレンズはCARL ZEISS JENA DDR製の最終型モデル「TESSAR 50mm/f2.8 (M42)」です。過去に一度メンテナンスが施されており、絞り連動ピンの内部パーツをラジオペンチなどで曲げた痕跡が残っていました (パーツの縁がギザギザにキズが付いている)。
次の写真は修復個体の「マウント部」を外した状態の写真です。
上の写真で1枚目はマウント部のマウント面を、2枚目の写真はマウント部をひっくり返して内部を写した写真です。
まずこのモデル「TESSAR 50mm/f2.8」で最も不具合の多い箇所が次の写真の「絞り羽根制御アーム」とその附随するパーツです。
上の写真中央のバネが巻いてあるコの字型金具と、その先の真鍮製「絞り羽根制御アーム」です。直接絞り羽根を動かしているパーツです。次の写真は角度を変えて撮影しました。
真鍮製のアームが鏡筒内に入っていますね。このアームが左右に動き、絞り羽根を直接駆動しています。
今回マウントアダプタに装着すると絞り環を回しても絞り値「f8」以上に絞れないとの不具合でした。
上の写真は、距離環を無限遠位置に回した時の絞り値「f22」に閉じた状態です。次の写真は距離環を最短撮影距離「35cm」の位置に回した時の絞り値「f22」に閉じた絞り羽根の状態です。最短撮影距離の位置ですから、鏡筒が繰り出されていくので、内部に引っ込んでいますね・・。
共に正しく絞り羽根は絞り値「f22」に閉じています。前回のオーバーホールご依頼で当方が整備したままの状態ですね・・。特に問題ありません。全く正常です。
ところがマウント部内部の絞り連動ピンに関係するパーツには問題が生じていました。
上の写真でネジがあたっている先に「絞り連動ピン」があります。「斜め上方向」へ伸びている真鍮製の板状パーツは、絞り連動ピンが押し込まれることで絞り羽根の開閉を制御します。写真のように「縁」部分がギザギザにキズが付いています・・通常はキレイな状態なのでラジオペンチなどでムリにいじった可能性があります。過去にメンテナンスされた痕跡の箇所ですね・・。
上の写真は既に当方で正しいカタチ (状態) に修復した後の写真です。この状態で「M42」マウントのフィルムカメラ「ペンタックス製SPOTMATIC」に装着して動きを確認します。
確認に使用するフィルムカメラです。レリーズを装着してシャッターボタンを押す前後を確認します。
既にこの個体のマウント部だけをネジ込んであります。角度を変えて撮影しました。
こんな感じです。マウント部だけですが、普通にレンズが装着されている状態と同じですね・・。
この状態でマウント面の「絞り連動ピン」がどうなっているか写したのが次の写真です。
シャッターボタンを「押す前」なので絞り連動ピンはまだ押し込まれていません。フィルムカメラの「絞り連動ピン押し込み板」が当たっている状態です。
次の写真はシャッターボタンを「押した状態」の写真です。
シャッターボタンを押すと同時に、フィルムカメラの「絞り連動ピン押し込み板」が動いて「絞り連動ピン」を押し込んでいるのがお分かり頂けると思います。絞り連動ピンは最後までキッチリ押し込まれていますね・・ここがポイントです。
シャッターボタンから指を離します。元に戻るので最初の写真と同じ状態になります。一応撮影しました(笑)
ちゃんと絞り連動ピンが出っ張っていますね・・。これがフィルムカメラでの絞り連動ピンの動き方であり、正常な状態であることを確認しました。
では、有名な日本製マウントアダプタにこのマウント部をネジ込んでみましょう・・。
こまマウントアダプタは「ピン押しタイプ」と言って、絞り連動ピンを強制的に押し込んだ状態にする「底面」を有するタイプです。上の写真を見ると絞り連動ピンが押し込まれているのがお分かり頂けると思います。
そのままさらに拡大撮影します。
上の写真をよ〜くご覧になって下さい。絞り連動ピンがほんの僅かですが、マウント面からまだ飛び出しているのが見えるでしょうか?
さらに拡大します・・。
マウント面から僅かに飛び出している「絞り連動ピンの頭」を拡大撮影しました。凡そ「1mm弱」程度の出っ張りであり、ちゃんと観察すると「スキマ」が空いているのがお分かり頂けると思います。
これが問題の根本原因です。この状態で距離環を回して同時に絞り環も回すと、先のマウント部内部の板状のパーツが変形しました。
フィルムカメラでは問題なく絞り連動ピンは確実に押し込まれていたのに、日本製マウントアダプタに装着すると最後まで絞り連動ピンが正しく最後まで押し込まれていませんでした。今回はこの日本製マウントアダプタを装着した状態に合わせて再整備を施しました。絞り連動ピンが僅かに突出した位置で「絞り羽根開閉」が正しく駆動するようにワザと調整しています。レンズだけを手に取り「自動/手動スイッチ」を「自動 (A)」位置にすると、絞り環を回して絞り値を変更した際に、絞り羽根が戻っても「開放」にならないことがあります。本来はこれは「異常」になりますが、今回の再調整では「正常」になります。
このような状況の中で整備を行っています・・。
「日本製マウントアダプタなのだから精度は高い」・・まさしく仰る通りです。
「製造元に問い合わせても規格に則り設計し国内で生産しているので、レンズ側の整備の問題だと言う話だ」・・皆さん、よくそのように仰います。
「マウントの種類はすべて規格で決まっているのだから、規格通りに生産されていれば相性があるわけが無い」・・ごもっともです。
このような流れになると、もうどうにもなりません。当方の整備レベルの問題として「無料」で再整備を施すか、或いは落札品ならばキャンセルになり返金になるか・・。最悪「弁償しろ」などと言うこともありました(笑)
「日本製マウントアダプタ」・・本当に頭が痛いシロモノです(泣) 毎月のように泣かされています・・。この日本製マウントアダプタはお高い価格の商品なので (もちろんキッチリ高精度で作られています) 確認のためだけに所有するのももったいないのですが、当方では幾つか確認用に所有しています。
しかし、今回のEOS用のアダプタはさすがに持っていませんでした・・(笑) 今回は実例として掲載しましたが、上記の内容はご依頼者の方がお話された事柄ではなく、いままでに当方が言われた (或いはメールでご指摘頂いた) 内容にて掲載していますことを申し添えておきます。
再調整の場合は数千円の作業料金をご請求していますが、さすがにTessar相手ですともう1本入手できてしまう金額です・・なかなかそのような金額はご請求できません(笑) 今回も当方の整備レベルの問題・・と真摯に受け止め本日も「無料」にて再整備が滞りなく完了しました。めでたしめでたし・・(泣)