◎ PORST WW MC AUTO H 35mm/f1.8(M42)

「PORST (ポルスト)」はレンズやフィルムカメラなどの光学製品に対するブランド銘で、会社は1919年にHanns Porst (ハンス・ポルスト) 氏によって旧ドイツのバイエルン州ニュルンベルク市で創業した「PHOTO PORST」と言う、主に光学製品を専門に扱う通信販売会社です。よく間違われているのが、この「PORST」が旧東ドイツの会社だという認識ですが、東西ドイツ分断時期に於いて特に会社所在地のバイエルン州自体が複雑に東西ドイツに跨がっていたために誤解され易いようです。当時の会社所在地ニュルンベルク市は「西ドイツ」地域に位置していたので「PORST」は正しくは旧西ドイツの会社と言うことになります。同じPORSTでも「Porst市」とは全く関係がありません。

ブランド銘としては当初1930年〜1950年代にかけては、自身の名前の頭文字を採って「HAPO」ブランドを展開していました。その後「PORST」になりますが、自社での開発や製造を一切せずにすべての商品を光学メーカーのOEM供給に頼っていた通販専門会社 (商社) になります。1996年にはベルギーの投資会社に買収されますが2002年に倒産しPixelnetを経てRingfotoに商標権が移譲されました。

当レンズは今回バラして内部パーツや構造を確認したところ「富岡光学製」であることが判明しました。このモデルの原型は東京都練馬区に存在していた「三竹光学」と言う輸出専門の光学メーカー「SPIRATONE PLURA-COAT by Mitake 35mm/f1.8」が原型のようですが、そもそもこのレンズ自体が「富岡光学」によるOEM生産品で、主にヨーロッパ向けに輸出していたようです。ちなみに三竹光学の当時の自社ブランド「MITAKON」は、現在中国の瀋陽で活動している「中一光学」により商標権が買い取られたため、最近また復活して市場に出回っていますが、当時のオールドレンズ「MITAKON」自体は中一光学とは一切関わりがありません。。三竹光学の製品は主に欧米向けに輸出されており、PORSTの他にVivitarやSEARS、BEROFLEX などのブランド銘でも存在していたようです。


オーバーホールのために解体した後、組み立てていく工程を解説を交えて掲載しています。

すべて解体したパーツの全景写真です。

POH3518MC(1229)11ここからは解体したパーツを実際に組み上げていく組立工程写真になります。

まずは絞りユニットと光学系前群が収納される鏡筒です。このモデルではヘリコイド (オス側) は独立しており別に存在しています。

POH3518MC(1229)12実際に絞り羽根を組み付けて絞りユニットを完成させます。

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鏡筒はヘリコイド (オス側) 内にストンと入れ込むだけで、他社光学メーカーのようにネジで締め付けての固定方式ではありません。前玉側より締め付けのための固定環で止めます。

POH3518MC(1229)14距離環や絞り環、マウント部などを組み付ける基台です。ずいぶんと高さを持たせた重厚な造りです。

POH3518MC(1229)15ヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリを付けてネジ込み、さらにヘリコイド (オス側) も同様にネジ込みます。

POH3518MC(1229)16マウント部に絞り連動ピンやアーム、カムなどを組み付けて各操作の調整をしておきます。

POH3518MC(1229)17マウント部を基台にセットし距離環を仮止めした状態で光学系を組み込んでいきます。

ここで一旦無限遠の確認を行い、問題なければ光軸確認や絞り羽根開閉域の確認も済ませてしまいます。完成間近ですね・・。

POH3518MC(1229)18光学系前群です。レンズ銘板には「MC」の刻印があるのでマルチコーティングなのですが、極端な色付けがされていない前群です。見る角度によって薄いグリーンとアンバー系の輝きを交互に放ちます。

POH3518MC(1229)19こちらは光学系後群です。後群も極端に色付けされておらず薄いパーブルです。

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ここからは組み上げが完成した出品商品の写真になります。

レンズ銘板の「WW」は「Weitwinkel (ヴァイトヴィンケル)」の略語で「広角」の意味です。しかし「AUTO H」の「H」は何を意味しているのでしょうか?

POH3518MC(1229)1光学系は順光目視にて前玉には極微細な点キズ3点と外周部にはコーティングスポットのようなカビ除去痕が13点あり極微細なヘアラインキズも数本あります。第2群には極微細な点キズ3点あります。後玉には極微細な点キズ2点と、後群にはやはり極微細な点キズ2点に極微細な拭きキズ1本があります。光学系内はLED光照射でようやく視認可能レベルの極微細な拭きキズや汚れもありますが、いずれもすべて写真への影響はありませんでした。

POH3518MC(1229)2絞り羽根もキレイになり確実に駆動しています。

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ここからは鏡胴の写真です。経年の使用感を感じさせない大変良い状態を維持した個体です。距離環や絞り環の操作は大変滑らかになりました。距離環のトルク感は滑らかに感じ均一で、ピント合わせの際も軽いチカラで微妙な操作が楽に行えます。

POH3518MC(1229)4 POH3518MC(1229)5 POH3518MC(1229)6 POH3518MC(1229)7総じて光学系内はクリアで外観も大変キレイです。大柄な筐体の大玉の大変明るい広角レンズです。

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光学系後群もキレイになりました。光学系前群と後群に各1セットずつの貼り合わせレンズが使われていますが、バルサム切れ (貼り合わせレンズの接着剤/バルサムが経年劣化で剥離し始めて白濁化し薄いクモリ、或いは反射が生じている状態) も無くクリアです。

POH3518MC(1229)9当レンズによる最短撮影距離50cm附近での開放により実写です。広角レンズでこれだけの鋭いピントと柔らかなボケ味を出せるのは大したものです。意外だったのは発色性が被写体色に非常に近いです。ミニカーの赤色はこの色合いが一番近いですね。これはこのレンズの特徴のひとつでしょう。もう少し寄れる仕様だと撮影には重宝なのですが・・。

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