◎ FUJI PHOTO FILM CO. (富士フイルム) EBC FUJINON・W 35mm/f2.8《後期型》(M42)

(以下掲載の写真はクリックすると拡大写真をご覧頂けます)
写真を閉じる際は、写真の外 (グレー部分) をクリックすれば閉じます

今回完璧なオーバーホールが終わって出品するモデルは、フジカ製の
準広角レンズ『EBC FUJINON・W 35mm/f2.8《後期型》(M42)』です。


このモデルも当方では毎月市場をチェックしていますが、光学系の状態が良くない為に敬遠しているモデルの一つです。そもそもなかなか市場に出回らない稀少品ですが (むしろ上位格の開放f値f1.9モデルのほうが出回っている) 光学系内のクモリが生じている固体が多く、それはバラしてみると大抵コーティング層経年劣化に伴うクモリなので清掃で除去できません (そのままクモリが残る)。

特に第1群 (前玉) と第3群 (中玉) それに第4群〜第5群と、凡そ半数に及ぶ光学系硝子レンズのコーティング層に経年劣化によるクモリが生じてしまいます。プラスαで前後玉にカビが発生している固体も多いので、そのカビ除去痕も残りなかなか調達時の写真だけでは判断がつかない難しさがあります。

今回オーバーホール済でヤフオク! 出品するのも同様、光学系内にクモリが生じているものの、ラッキ〜なことにコントラスト低下/解像度不足に至る手前の状態を維持した個体でした。また当初バラす前の実写チェックではカメラのピーキングに全く反応しないレベルのピント面 (甘いピント面) で、且つコントラスト低下と解像度不足を感じましたが、光路長を適正化させて鋭いピント面に改善させています。絞り羽根が閉じていく際の開口部 (カタチ) は正五角形を維持していません (1枚だけ角度が違う為)。なお商品写真で光学系内が曇っているように写っているのは、コーティング層の光彩 (グリーン色のコーティング層蒸着群) なのでクモリではありません (極薄いクモリはLED光照射しないと視認できません)。今回の扱いが累計で6本目にあたります。

しかし、年を追う毎に皆様の要求が重箱の隅を突くようなレベルになってくるので(笑)、アレもコレも告知しないとクレームレベルが下がりません(涙) 当方の技術スキルは低いので、信用/信頼が高いヤフオク! 出品者様からご落札頂くほうが本当に良いと思います (当方が出品する個体は経年のオールドレンズ並レベルに留まります)!

  ●                 

フジカ (現在の富士フイルム) から1970年に発売のフィルムカメラ「ST701」用に用意された交換レンズ群の中で、準広角レンズとして登場したのが最初になり「初期型」にあたりますがモノコーティングの光学系を実装していました。その後1972年発売のフィルムカメラ「ST801」登場時点で大幅なモデルチェンジが行われ11層にも及ぶ「EBC (Electron Beam Coating)」のマルチコーティング化がされたのが「前期型」です。

今回出品するモデルはさらにその後1974年発売のフィルムカメラ「ST901」用交換レンズ群として登場した「後期型」にあたります。例えば、当時の旭光学工業製オールドレンズに採用されていたマルチコーティング「SMC (Super-Multi-Coated)」が7層でしたから当時としても驚異的なコーティング技術だったのではないでしょうか。

特に当時の雑誌掲載記事では「EBC」による入射光透過率を99.8%と謳い「ついにフレアを撲滅した」とまで明言していますから、その自信の表れが伺えます。当時の富士フイルムに於けるラボでの光学硝子レンズ面 (硝子レンズは表裏で2面になる) 透過率テストでは10面で「EBC」は98.0%の透過率を誇っていますからオドロキです。

今回扱うモデルは当時のフィルムカメラ「ST901」用交換レンズ群の中の準広角レンズですから、その「ST901」の取扱説明書を確認するとこのモデルの光学系構成図が載っていました。

しかしこの図では大変小さい構成図なのでなかなか各群の詳細が掴めません。特に最近当方が掲載する構成図に因縁付ける人がいらっしゃるので(笑) 当方は光学系はド素人ですからご勘弁願いたいです・・。

そこで仕方ないので、バラした際の清掃時に各群の光学硝子レンズをデジタルノギスで計測して作成したトレース図が右の光学系構成図です。
(厚み/凹み/曲率/硝子レンズ間の距離を計測)

6群7枚のレトロフォーカス型光学系を実装しており、特に第1群 (前玉) の曲率を高く採って第2群に凹メニスカスを配置したのが特徴的でしょうか。また光学系後群側の要素の中に第4群〜第5群で「空気レンズ」を含有させて収差改善を狙っているのが分かります (第4群〜第5群は硝子レンズ端で僅かに接触している) し、第6群 (後玉) は裏面側の曲率が低くて平坦に近い両凸レンズでした (ちゃんと計測したので許してください)。

   
   

上の写真はFlickriverで、このモデルの特徴的な実写をピックアップしてみました。
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)
※各写真の著作権/肖像権がそれぞれの投稿者に帰属しています。

一段目
左端からシャボン玉ボケがトロトロにボケていく様を集めてみました。本当はもっと綺麗なシャボン玉ボケが表出するのですが、どう言うワケかモノコーティングの「初期型」モデルの実写ばかりで「EBC」のほうが少ないです。「初期型」の実写は「こちらのページ (flickriver)」になりますので興味がある方はご覧下さいませ。まるでMeyer-Optik Görlitz製オールドレンズのような大変美しいシャボン玉ボケが表出しているからビックリでした・・。

二段目
発色性はコントラストが高めに出てきますが、あくまでもナチュラルで違和感を感じません。パキッとした解像度の高さも素晴らしいですが、これはまさに入射光の透過率を上げてきた「EBC」の恩恵ではないかと思います。歪みもよく改善されており決して大ぶりの光学系ではないにも拘わらず、よくぞここまで端正な描写性に仕上げてきたものだと感心させられます。

【モデルバリエーション】
オレンジ色文字部分は最初に変更になった要素を示しています。

初期型:1970年発売「ST701」用

コーティング:モノコーティング
開放測光用の爪:無
距離環ローレット (滑り止め):金属製
レンズ銘板:金属製

前期型:1972年発売「ST801」用

コーティング:マルチコーティングEBC
開放測光用の爪:
距離環ローレット (滑り止め):ラバー製
レンズ銘板:金属製

後期型:1974年発売「ST901」用

コーティング:マルチコーティング「EBC
開放測光用の爪:有
距離環ローレット (滑り止め):ラバー製
レンズ銘板:プラスティック製

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。内部構造はそれほど難しくなく構成パーツ点数も少なめですが、その調整となると話は別で特に絞り羽根の開閉に関する調整 (つまり絞りユニットの調整) には相当な神経を遣いますし、それは必然的にマウント面の「絞り連動ピン」押し込み動作との関係 (つまりチカラの伝達経路) との鬩ぎ合いになり、むしろ調整まで含めると難度は高めになります。

↑絞りユニットと光学系前後群を格納する鏡筒 (ヘリコイド:オス側) です。

↑5枚の絞り羽根を組み付けて絞りユニットを完成させます。まず上の写真の絞り羽根を最後まで閉じた時の開口部のカタチを覚えておいてください。この時の絞り羽根には一切チカラが及んでいない状態で閉じているのを撮影しています。

↑完成した鏡筒 (ヘリコイド:オス側) をひっくり返して裏側を撮影しました。ご覧のようにほぼ全ての絞り羽根開閉に関わる制御系パーツが密集しているワケですが、それが何と「鏡筒の外ではなく内部に実装している」変わった設計です。その最大の理由は「光学系後群側を最大限大きく設計する必要があったから」と言えます。

第1階層:絞り羽根の開閉角度を決めている「制御環」を内包
第2階層:絞り羽根開閉角度を絞りユニットに伝達する役目
第3階層:絞り羽根を含む絞りユニット
第4階層:絞り羽根の開閉を行う開閉環

つまりこの制御系の設計思想を見れば、このモデルの光学系が準広角レンズながら決して大玉ではない設計で採ってきたことが納得できます。逆に言えば、筐体サイズを大きくしたくなかったことがそもそも設計のスタート地点だったのではないかと考えられます (筐体サイズが命題だった)。そしてそれはおそらく営業サイドから出てきた販売戦略の一つだったのではないでしょうか。ほぼ標準レンズと近似したデザインと大きさでこの準広角レンズをやってしまいました。

その考察に至ったのは光学系前群側の曲率を高く採ってきていたことに起因しています。何故大口径で設計せずにこぢんまりと作り、ワザワザ曲率を高めて (コストを掛けて) まで拘ったのか・・と言う要素です。歪みや収差の改善を考えれば小さく作ることでハードルがその分高くなると思うのですが、敢えて果敢に挑戦しています。

確かに準広角レンズ域にはもう一つ上位格モデル「EBC FUJINON・W 35mm/f1.9 (M42)」が存在しますが、開放f値を明るく採ってきた分コストも販売価格も上がっています。下位格の当モデルが普及価格帯モデルとしてそれなりな設計に相殺してくるのではないかと考えたくなるのですが、バラしてみると光学系はもとより内部構造に至っても決して手を抜いていません。

これが広角レンズとしての光学系設計 (レトロフォーカス型) がフランスのP.Angenieux Paris社から登場した1950年代当時の話なら、旧東西ドイツの光学メーカーが挙って対抗意識丸出しで開発してきたのも納得できますが、時はマルチコーティング化された1974年ですから、何故にその時点で準広角レンズにここまで拘りたかったのかと言う疑問が湧いてきます。

逆に言うと標準レンズ域のモデルで冒頭のフィルムカメラ「ST901」のカタログを見ると、交換レンズ群一覧に「EBC FUJINON 50mm/f1.2」と言うモデルが存在しません。しかしここがポイントで、ワザワザ「to be announced (発売予定)」と掲載しています。

つまり1974年の「後期型」モデルとして一斉にフルモデルチェンジしてきた時、既に「バヨネットマウント化 (AXマウント)」が決まっていたと言うことが伺えます。逆に言えば「発売予定」としたことが証になっていますが、バヨネットマウント化への移行時期/発売タイミングを見計らっていたとも考えられます。

一方超広角レンズ域たる「EBC FUJINON・SW 24mm/f2.8 (M42)」のほうは「発売予定」だったにも拘わらず発売してしまいました。これらのことから当時のフジカ (富士フイルム) では標準レンズの開放f値「f1.2」よりも広角域側の拡充のほうが優先課題だったことが見えてきます。そして実際に1980年にはバヨネットマウント化され「M42マウント」は終息を迎えます。

なかなかロマンが広がるばかりですが(笑)、開放f値「f1.2」の標準レンズよりも広角レンズ域を優先してきたのは、裏返せばコーティング層蒸着技術と光学系の設計技術に相当な自信があったことの証左ではないかとも考えられます。それはそのハズで、富士フイルムともなれば当時も今も世界有数のフィルムメーカーであり、同時に引き伸ばしレンズや現像システムまで含めた写真に関わる全てに渡り包括的に総合技術を有していた希有な光学メーカーとも言えます。ここに当時の他社光学メーカーとの差別化戦略が何か隠されていたのかも知れませんね。それはキャノニコの大口径化には追従せず、かと言ってOLYMPUSの小さく小さくには偏らず、あくまでも「写真」と言う側面から突き詰めていった独自の思想が当時からあったことが伺えます。

そして、その思想は厳然たる写真への飽くなき追求として今もなお続いているワケで、富士フイルムは素晴らしい会社ですね (基本当方は富士フイルムのX-E1からの大ファンでありライカも含め今ドキの富士フイルム製デジタルレンズ群に一目置いています)。

↑距離環やマウント部を組み付ける為の基台です。

↑ヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。

↑鏡筒 (ヘリコイド:オス側) を、やはり無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルでは全部で9箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。

↑こちらはマウント部内部の写真ですが内部の構成パーツを取り外し、当方による「磨き研磨」を終わらせた状態で撮影しています。当初バラした際はこの内部にまで過去メンテナンス時に塗られた「白色系グリース」が経年劣化進行により「濃いグレー状」に至っており、経年の揮発油成分でヒタヒタ状態の箇所もあり一部構成パーツに酸化/腐食/サビが生じていました。

↑マウント面の「絞り連動ピン」が押し込まれると (ブルーの矢印①) その押し込まれた量の分だけ附随するアームが移動して、先っぽの「開閉用爪」が動きます ()。するとこの「開閉用爪」は鏡筒から飛び出ている「開閉アーム」を掴んでいるので、絞り羽根が絞り環で設定した絞り値まで瞬時に閉じる仕組みです。

この時、絞り連動ピン機構部には「捻りバネ (2種類)」が附随しており、互いに「絞り羽根を常に開くチカラ」と「絞り羽根を常に閉じるチカラ」の相反する2つのチカラが及んでおり、絞り羽根はそのバランスの中で開閉しています。詳細は「解説絞り羽根の開閉幅について」で説明しています。

従ってこの「捻りバネ」2本のうち1本でも経年劣化で弱ってしまうと途端に「絞り羽根の開閉異常」に陥ります。今回の個体は残念ながら捻りバネ1本が既に錆びついており弱っています。このマウント部内部の構成パーツにまでグリースを塗ってしまうと言う「間違った所為」が結果的にオールドレンズの製品寿命を短くしている原因に至っています。そしてその「間違った所為」は今もなお様々な整備会社で平然と施され続けているワケで、何の為にメンテナンスしているのか全く理解できません。

要は「整備完了時点さえ問題無ければそれでOK」と言う考え方そのモノの表れであり、それはそのまま店頭販売や通信販売などの販売戦略として続いているワケで、それらメンテナンスされたオールドレンズはやがて数十年後には製品寿命を迎え消えていく運命になります。おそらく50年後にはオールドレンズの絶対数が激減しており、モデル別の人気不人気など関係なくなり、そもそもオールドレンズとして残っていること自体だけがピックアップされる時代が到来しているでしょう。もちろんその時当方はもう居ないので関係ありませんが(笑)、当方がオーバーホールしたオールドレンズは、その時もしかしたらお孫さんが使っていてくれるかも知れませんね(笑)

例えば、古い時代のクラシックカーは極一部のマニアにしか受け入れられませんが、オールドレンズは今ドキのデジカメ一眼/ミラーレス一眼にマウントアダプタ経由で幾らでも装着して愉しめますから、その裾の広さは比較になりません。残念ながら検証する術を持ちませんが(笑)、当方のオーバーホール (DOH) の究極的な狙いは、まさに50年後に使えていればと言う願い/想いです。その意味でオールドレンズは「絶滅危惧種」であると同時に、いつの日にか誰かがそれに気がついて何かの運動を起こしてくれればと願うばかりです。

おかげさまで、当方のオーバーホール/修理受付は極一部の (少数の) 方々によって今月もアッと言う間に受付本数15本の予約が入りましたが、ほとんどの方々が当方がオーバーホールしたオールドレンズの操作性の良さ (シットリしたトルク感と確実な操作性) に感動され、手持ちのお気にのオールドレンズを片っ端にご依頼されるので(笑)、なかなかお待たせしてばかりで本当に申し訳なく思っています (いつもスミマセン)。

↑完成したマウント部を基台にセットします。この時鏡筒から飛び出ている「開閉アーム/制御アーム」をマウント部内部の「それぞれの爪」でガッチリ掴ませます。

一つだけ申し上げたいのは「解説絞り羽根の開閉幅について」でも解説していますが、この当時のオールドレンズは「あくまでもフィルムカメラ装着が大前提の設計」である点です。従って残念ながらマウントアダプタ経由装着時は「マウントアダプタとの相性問題」が顕在し、例えば今回のモデルもマウントアダプタに装着した状態で距離環操作する (ピント合わせする) とマウント部内部の「」がアームを掴んで擦れている「カリカリ音」が聞こえてきたりしますし、今回の個体に限っては絞り環操作で「開放f2.8のセットがキツメ」です。それはすべてマウント部内部の「捻りバネ」が経年劣化で弱ってしまったのが原因なので、調整を施しましたがこれ以上改善できません。

↑距離環を仮止めして光学系前後群を格納し無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行い、最後にフィルター枠とレンズ銘板をセットすれば完成です。

DOHヘッダー

ここからはオーバーホールが完了した出品商品の写真になります。

↑今回の個体はこの当時の同型モデルの中で珍しく「グリーン色の光彩」を放つコーティング層蒸着モデルです。

↑残念ながら第1群 (前玉) 裏面側の中心付近を除いたほぼ全面に渡って「コーティング層経年劣化に伴う極薄いクモリ」が生じています。ラッキ〜だったのは前玉の中心部だけはまだ透明度を維持していたので光源を含む撮影や逆光でなければハロの出現率は上がらないと推測します (あくまでも推測止まりです)。

またこれもラッキ〜でしたが第3群の貼り合わせレンズ (2枚の光学硝子レンズを接着剤を使って貼り合わせてひとつにしたレンズ群) にはバルサム切れ (貼り合わせレンズの接着剤/バルサムが経年劣化で剥離し始めて白濁化し薄いクモリ、或いは反射が生じている状態) が生じておらず驚異的な透明度を維持しています。

一方光学系後群側の第5群に全面に渡るやはりコーティング層経年劣化に伴う極薄いクモリがLED光照射で視認できたので、同様光源を含む撮影や逆光でなければハロの出現率は上がらないと推測します (あくまでも推測止まりです)。

↑上の写真 (3枚) は、光学系前群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。LED光照射で前玉裏面側を執拗にチェックしない限り順光目視レベルでは極薄いクモリを視認できません。

↑光学系後群側も後玉に経年相応なカビが発生していましたがほぼ除去できておりカビ除去痕もありません (皆無です)。但し経年のコーティング層を浸食してしまったCO2溶解に拠る点キズは複数残っています。

↑上の写真 (3枚) は、光学系後群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。

【光学系の状態】(順光目視で様々な角度から確認)
・コーティング劣化/カビ除去痕等極微細な点キズ
(経年のCO2溶解に拠るコーティング層点状腐食)
前群内:14点、目立つ点キズ:9点
後群内:20点以上、目立つ点キズ:16点
・コーティング層の経年劣化:前後群あり
・カビ除去痕:あり、カビ:なし
・ヘアラインキズ:あり(前後群内)
・バルサム切れ:無し (貼り合わせレンズあり)
・深く目立つ当てキズ/擦りキズ:なし
・光源透過の汚れ/クモリ (カビ除去痕除く):あり
・その他:光学系内は微細な塵や埃が侵入しているように見えますが清掃しても除去できないCO2の溶解に拠る極微細な点キズやカビ除去痕、或いはコーティング層の経年劣化です。
光学系内の透明度が非常に高い個体です
但し一部の群でコーティング層経年劣化に伴う極薄いクモリがLED光照射で視認できます。光源を含む撮影や逆光撮影時にはハロの出現率が上がる懸念があります(事前告知しているのでクレーム対象としません)。
・いずれも全て実写確認で写真への影響ありません。

↑5枚の絞り羽根は確実に駆動していますが絞り羽根1枚の「キー」が変形している為に絞り羽根を閉じていくと僅かに歪なカタチになります (正五角形を維持していない)。

これは前述で解説した (鏡筒をひっくり返して撮影した工程) で、絞りユニット直下の制御系パーツ (第1階層〜第3階層) に過去メンテナンス時に塗られてしまった「白色系グリース」のせいで経年の酸化/腐食/サビが生じていた為で、もちろん絞りユニット内部にまで液化した揮発油成分が侵入しており、既に絞り羽根には油染みが生じていました

そもそも「絞りユニット」の直下であるにも拘わらず (制御系パーツに) グリースを塗っていること自体が意味不明です。まさしく「グリースに頼った整備」そのものであり、過去メンテナンス時の整備者はヘリコイド (オスメス) のネジ込み位置や各部位の調整を知っている人なので、必要外まで含めて至る箇所に「固着剤」を塗布している点も踏まえると、相当な技術スキルを持つ人であることが分かります。

これは「整備会社による過去メンテナンス」であると推察できますが、いまだにこのような整備をしているワケですね(笑) 結局必要以上に塗られてしまった白色系グリースは (そもそも白色系グリースは特性上液化進行が早い) 揮発油成分を増大させ、コーティング層の経年劣化を促し極薄いクモリを生じさせる因果関係に至りますから、メンテナンスと言いながら実は製品寿命を短命化させていることに他なりません。何でそんなことをするのか毎度ながら腹が立ちます!

絞り羽根の開閉角度を決めている「なだらかなカーブ」を含む「制御環」が鏡筒の裏側内部で介在しているので、ご覧のような最小絞り値の閉じ具合になっています。前出写真の時は絞り羽根の開閉角度が関わっていない状態だったので異なりますし、チカラの伝達経路 (なだらかなカーブ) が一つ介在するので1枚ずつの絞り羽根の傾きにも影響が出てきます。

従って、絞り羽根の油染みが生じ、且つその後放置していた為に粘性を帯びてしまい、5枚の絞り羽根のうち最も伝達されたチカラが掛かる1枚に集中して絞り羽根に打ち込まれている「開閉キー」の傾きが垂直を微妙に維持できなくなり、結果として絞り羽根が閉じていく際に1枚だけ違う傾きに至っていると言うのが「歪なカタチ」の原理です。

おそらく過去メンテナンス時に鏡筒裏側の制御系にまで「白色系グリース」を塗ってしまったのは、マウントアダプタ装着時に内部から聞こえてくる音や開放位置で絞り環が渋くなる操作性を改善させる目的だったと推察できるので、この個体は既に過去メンテナンス時に同じ現象が発生していたことが判ります。

ところがそれら現象の根本原因は鏡筒内部の制御系パーツではなく、実はマウント部内部の「絞り連動ピン機構部」だったので (必要以上に掛かったチカラを逃がす設計ではないから) 過去メンテナンス時に既に原因を見誤っています。何故なら、フィルムカメラに装着して使ってみると今回の個体は何ら問題無く絞り環操作できるので (開放側で僅かに渋くならない)、マウント面の「絞り連動ピン」押し込み状況に起因して絞り環操作に影響が出ていると判断できます。つまりマウントアダプタ装着時に限定した問題だと確定できるので、それはそもそも当時のフィルムカメラ装着しか考慮していない設計だからこその話であり、それはそのままマウント面の「絞り連動ピンを最後まで押し込みきってしまうと生じる現象」とも言えます。

観察と考察」をせずに安直にグリースに頼った整備を行い、間違った箇所にグリースを塗ったことで却って絞り羽根の油染みを誘発してしまい、結果的に絞り羽根が閉じていく際に歪なカタチに至りました。

このブログをご覧頂いている皆様もどうかご留意頂きたいですが、マウント規格が同一 (M42マウント規格) だとしてもフィルムカメラ装着時とマウントアダプタ経由とでは、マウント面の「絞り連動ピン押し込みのチカラの大きさ (つまりは押し込み量)」に相違があることをくれぐれもご理解下さいませ。この話を当方の「逃げ口上」だと受け取られる方は、どうか当方にオーバーホール/修理を依頼されないか、或いは当方のヤフオク! 出品商品をご落札頂かぬよう切に切にお願い申し上げます。当方の技術スキルが低いが故に言い訳していると受け取って頂いて全く以て構いません。

絞り羽根の開閉に関する話は「解説絞り羽根の開閉幅について」で詳説しています。

ここからは鏡胴の写真になりますが経年の使用感が僅かに感じられるものの良い状態を維持した個体です。当方による「磨きいれ」を筐体外装に施し大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。もちろん「エイジング処理済」なのですぐに酸化してくることもありません。

↑【操作系の状態】(所有マウントアダプタにて確認)
・ヘリコイドグリースは「粘性:中程度」を塗布し距離環や絞り環の操作性はとてもシットリした滑らかな操作感でトルクは「普通」人によって「重め」に感じ「全域に渡って完璧に均一」です。
・距離環を回すとヘリコイドのネジ山が擦れる感触が伝わる箇所があります。
・絞り環操作も確実で軽い操作性で回せます。
・ピント合わせの際は極軽いチカラで微妙な操作ができるので操作性は非常に高いです。
・マウントアダプタに装着した場合はマウント面の絞り連動ピンが常時最後まで押し込まれたままになる為、距離環を回していくと時々内部パーツが擦れる金属音が微かに聞こえてくることがありますが内部のパーツが鳴っているだけですので将来的に問題発生原因にはなりません。どこがどのような状況時で鳴るのか内部が見えないので確認のしようがなく改善できません(クレーム対象としません)。
・絞り羽根の開閉幅(開口部/入射光量/カタチ)は、絞り羽根を閉じていくと正五角形に至らない場合がありますが複合的な原因による現象なので改善できません(クレーム対象としません)。

【外観の状態】(整備前後関わらず経年相応の中古)
・距離環や絞り環、鏡胴には経年使用に伴う擦れやキズ、剥がれ、凹みなどありますが、経年のワリにオールドレンズとしては「超美品」の当方判定になっています (一部当方で着色箇所がありますが使用しているうちに剥がれてきます)。

↑当初バラした時は、至る箇所に固着剤 (現在市場流通しているタイプ) がほぼ全ての箇所に塗布されており何でも塗れば良いと考えているとしか考えられませんし「白色系グリース」もまだ数年レベルの経年なのにも拘わらず既に液化が進んでおり内部には揮発油成分が相当量廻っていました。そもそも10年も経過していないのに絞り羽根に「油染み」が生じていること自体が意味が分かりません。何の為のメンテナンスなのかと思いますね。

絞り羽根が閉じていく際に極僅かに歪なカタチである事や光学系内に極薄いクモリが生じている点を考慮しても、それらの影響は限られたシ〜ンでの撮影なので、例えばシャボン玉ボケに拘る人や逆光撮影が好きな方 (ゴーストなどを楽しむ) には若干コントラスト低下やハレの出現率が上がる懸念があるのであまりお勧めしません。

然し、ことこのモデルに関して言えば、今までに扱った個体数 (累計6本目) の中では最も光学系の状態が良くクモリも少ないレベルに留まっているので以下実写の如く端正な描写性を愉しめます。さらに言えば、過去メンテナンス時に適切な光路長確保の調整が施されていなかったので当初バラす前の実写チェックでは甘い印象のピント面でしたが鋭く改善できています

このモデルのピントの山は本当に一瞬でアッと言う間ですから (開放時の被写界深度も非常に狭い) 距離環を回すトルク感が軽すぎると指を離すだけで微動してしまいピンポケット写真を乱発しかねません。そこでワザと故意に多少重めのトルクに至るようグリースの粘性調整をしているので決して軽めのスルスルなトルク感ではありません (軽めがお好きな方にはお勧めしません)。

海外オークション「ebay」での出現回数が少ない点や市場価格2万円台 (現在の価格) であることも考慮すると様々な改善処置を施して (もちろん過去メンテナンス時の尻ぬぐいまでして)(笑) オーバーホールした分対価を乗せてのヤフオク! 出品です。それを汲んで頂ける方だけにご落札頂ければと思います。逆に言えば、当方のオーバーホール趣旨を汲んで頂けない方にはあまりお譲りしたくはありません

無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。

↑マウント面にこの当時のフジカ製フィルムカメラに装着して機能する「開放測光用の爪」をワザと残したまま仕上げていますから、フィルムカメラでご使用の方にはお勧めですね。

もしもマウントアダプタ (ピン押し底面タイプ) 経由デジカメ一眼/ミラーレス一眼に装着される場合は、マウント面の「開放測光用の爪」を当方にて切削しキレイに着色処理しますので、必ずご落札後の一番最初の取引ナビメッセージにてその旨ご案内下さいませ

再び一旦バラして絞り環だけを取り出し「爪」のみ切削するのでとてもキレイに削れますし、もちろんちゃんと目立たないよう着色します (装着するマウントアダプタ側に擦りキズが付いたりしません)。作業料として別途「2,000円」を申し受けます (発送が数日遅延します/作業料はヤフオク! の送料欄に加算してお支払い下さいませ)

↑当レンズによる最短撮影距離40cm付近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。

なお、この実写はミニスタジオで撮影していますが上方と右側方向からライティングしています。その関係でフードを装着していない為に絞り値の設定によりハレ切りが不完全なまま撮影しています。一応手を翳していますがハレの影響から一部にコントラスト低下が出てしまうことがあります。しかし簡易検査具による光学系の検査を実施しており光軸確認はもちろん偏心まで含め適正/正常です。

↑絞り環を回して設定絞り値「f4」で撮影しています。

↑さらに回してf値「f5.6」で撮りました。

↑f値は「f8」に変わっています。

↑f値「f11」です。

↑最小絞り値「f16」での撮影です。

↑ピントをミニカーの手前側ヘッドライトに合わせたまま円形ボケが出る様子をバックに用意して撮影しました。小さなミニスタジオではこの程度しか試すことができません (円形ボケに滲む対象はもっと奥で遠くにならないと大きな円形ボケに至りません)。最短撮影距離40cm付近での開放実写です。