◎ Schneider – Kreuznach (シュナイダー・クロイツナッハ) Retina – Xenon 50mm/f1.9(deckel)

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今回の掲載はオーバーホール/修理ご依頼分のオールドレンズに関する、ご依頼者様へのご案内ですのでヤフオク! に出品している商品ではありません。写真付の解説のほうが分かり易いこともありますが、今回に関しては当方での扱いが初めてのモデルでしたので、当方の記録としての意味合いもあり無料で掲載しています (オーバーホール/修理の全工程の写真掲載/解説は有料です)。オールドレンズの製造番号部分は画像編集ソフトで加工し消しています。

久しぶりに昨日4月1日は「休日」にしたのでのんびり過ごしました・・が、しかし、どう言うワケかオーバーホールは完了しているのでブログ掲載です(笑) 過去に光学系の清掃だけはしたことがあったのですが、今回初めて完全解体してdeckelマウントのモデルをオーバーホールしました (従って、とても楽しみにしていたモデルです)。

光学系は4群6枚のダブルガウス型で繊細なエッジと共に非常に鋭いピント面を構成するインパクトのある描写性が魅力のモデルです。

今回のご依頼は以下のような内容でした・・。

  1. 光学系前玉裏面に菌糸状のカビ。
  2. ピントが0.5m〜2m辺りでしか合焦しない。
  3. 絞り羽根が開放〜f5.6までしか閉じない。
  4. ヘリコイド (距離環) のトルクが重い。

・・このようなご依頼でしたが、なかなか今回の整備はハードな不具合でした。

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。deckelマウントのモデルはコンパクトな筐体サイズが多いのですが内部の構成パーツは意外にも多めでした。特に「被写界深度インジケーター」部分の機構部に関してはマウント部を外した途端にバラけてしまい、どのように各パーツがセットされていたのかを確認する間もありませんでした・・今回初めて整備する当方にとっては悲劇でしかありません(笑) バラけてしまった原因は「被写界深度インジケーター」の環 (リング/輪っか) がコイルばねで引っ張られていたためにマウント部を外した途端にスッ飛んでしまったからです・・はぁ〜 (溜息)。

↑絞りユニットや光学系前後群を格納する真鍮製の鏡筒 (ヘリコイド:オス側) です。

↑上の写真は絞りユニット内部に絞り羽根を組み付けている途中の写真ですが、絞りユニットの絞り羽根を開閉させている (絞り羽根の角度を制御している)「絞り羽根開閉幅制御環」には細いコイルばねが2本組み付けられており、上の写真グリーンの矢印のように「絞り羽根開閉幅制御環」が動いて絞り羽根が常に閉じるようチカラが及ぶような構造になっていました。

↑メクラ蓋を被せて絞りユニットが完成した状態の写真です。

↑この状態で鏡筒をひっくり返して撮影しました。絞り羽根は複雑に互いが重なり合っています。

↑再び解体パーツの全景写真なのですが赤色矢印のとおり絞り羽根は「大小2枚で1セット」になります。大きい絞り羽根が塞ぎきれない領域を小さい絞り羽根が補うカタチで塞いでいます・・従って2枚で1セットの組み付け方法と言うことになります。Schneider-Kreuznach製オールドレンズには多く採用されている方式ですが、完全子会社だったISCO-GÖTTINGENのオールドレンズも同じ方式を採っています。大小2枚の絞り羽根は組み付ける際に絞り羽根の重なり方を確実に組み付けないと仕上がった後に絞り環を回した途端に絞り羽根が咬んでしまい破損しますから注意が必要です。

↑鏡筒の外周にはヘリコイド (オス側) のネジ山が切られており、ヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。上の写真では既に無限遠位置 (当初バラす前の無限遠位置) までヘリコイド (メス側) を回しており、グリーンの矢印のとおり残されているネジ山は半周弱の分しかありません (上の写真で鏡筒の上まで進めば進むほど鏡筒が収納されて無限遠位置と言う仕組みです)。

ご依頼内容のひとつ「0.5m〜2mしか合焦しない」と言うのを考慮すると、当初バラした時の位置にして、この半周分しか余裕が無いのは・・どうも少なすぎるのでおかしいです (原理原則にそぐわない)。普通、オールドレンズは1周分は余裕をもたせていることが多いのですが。

↑取り敢えず工程を進めます。上の写真は距離環やマウント部を組み付けるための基台です。

↑基台の裏側をひっくり返して撮影しました・・裏側には「被写界深度インジケーター」用の歯車が用意されています。この歯車は上下2段の位置で1個ずつの歯車が噛み合って回るようになっています。

↑こちらは前述の「被写界深度インジケーター」そのものであり、2つの「環 (リング/輪っか)」になっており、その環の一部分にラック (歯の部分) が用意されています。このインジケーターは互いに広がったり閉じたりして被写界深度を示す構造なので一方が開けば他方も開き、逆に閉じてくればもう一方も閉じると言う動き方になります・・従って、2個の歯車は互いに逆方向に回るようになっているワケですね。

今回バラす前のチェック時に「被写界深度インジケーター」の動きが重く感じました・・何となくぎこちないガチガチした印象です。バラしてみると、このインジケーターの2つの環 (リング/輪っか) は表裏が「梨地仕上げ」されていました。梨地仕上げは・・ツルツルの平滑面ではなく微細な凹凸のある面に仕上げた状態を言います。

ところが、バラした時点では過去のメンテナンス時に塗られてしまったグリースが粘着化していました。おそらく過去のメンテナンスで滑らかな動きにしたいが為にグリースを塗ってしまったのだと推測します。しかし「梨地仕上げ」されていることに気がついていません・・。

「梨地仕上げ」はワザとそのように処置されているワケですから、その「理由/目的」に考えが及ばなければイケマセン・・何でもかんでも滑らかにしたければグリースや潤滑油を塗ってしまうと言う安直な整備はヨロシクありませんね(笑) 「梨地仕上げ」にしている理由 (目的) は、経年の揮発油成分が附着したとしても滑らかに駆動するよう配慮した処置なのです。従って、ここにグリースや潤滑油を塗布してしまうのは逆効果であることに気がつかなければイケマセン。

当初インジケーターの動きがガチガチしていた理由は過去に塗布してしまったグリースの経年劣化に拠る粘着化でしたが「磨き研磨」を施し本来の梨地仕上げの状態に戻してあげるだけで (グリースや潤滑油を塗布せずとも) 大変滑らかにインジケーターが開閉するようになりました。

↑こんな感じでインジケーターの2つの環 (リング/輪っか) が上下の歯車それぞれに組み込まれます (下の歯車に1個と上の歯車に1個)。上の写真は撮影のためにワザとコイルばね (2本) をまだセットしていません。コイルばねは太さの異なる径であり、左右のインジケーターに及ぼすチカラを考慮して設計されていることが判りますが、コイルばねをセットすると、すぐにマウント部を被せない限り簡単にスッ飛びます(笑) 遊ぶほどの心の余裕は全く無いので、撮影用にコイルばね無しで一旦組み込んだ次第です・・この後はちゃんとコイルばねを組み付けてマウント部を瞬時にセットするワケですが、マウント部をセットするためには被写界深度インジケーターを押さえて飛ばないようにしていた指を外さなければならず、まるで反射神経のテストをされているような心持ちでした・・3回目のトライで無事にマウント部を被せることができました(笑)

↑こちらはマウント部になりますが「空転ヘリコイド」が入るように溝が用意されています。この溝部分にも過去のメンテナンスではグリースが塗られており経年劣化で粘着化していたのでご依頼内容のひとつ「距離環のトルクが重い」現象に至っていました。

↑「磨き研磨」を施した「空転ヘリコイド」をセットします。

↑マウント部をインジケーターを組み込んだ基台にセットします・・ちゃんとオレンジ色のインジケーター (の爪) が飛び出ています。

↑この状態で距離環をセットするワケですが、距離環に用意されている「連結アーム」が前述の「空転ヘリコイド」に刺さって、同時に「距離環押さえ板」2本を使って4箇所 (グリーンの矢印) で距離環を押さえ込みます・・つまり距離環自体はネジ込まれるワケでもなく押さえ板で締め付けられている状態の固定方法でした。「磨き研磨」のおかげでキッチリ「押さえ板」を締め付けても距離環は滑らかに回ってくれます。

ちなみに「直進キー」は距離環を回す「回転するチカラ」を鏡筒が前後動する「直進するチカラ」に変換する役目のパーツですが1本だけ装備していました。

↑鏡筒 (ヘリコイド:オス側) を直進キーが刺さっている状態で差し込んで固定金具で距離環を固定します。結果、ヘリコイド (メス側) が距離環と一緒に回ることで鏡筒が繰り出されたり収納されたりする仕組みですね・・。

↑距離環に印刷された「指標値板」をネジ止め固定します。この後は光学系前後群を組み付けてから無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認をそれぞれ執り行い、最後にフィルター枠とレンズ銘板をセットすれば完成です。

↑・・完成のハズでしたが問題発生です。ご依頼内容のひとつ「絞り羽根が開放〜f5.6」までしか閉じないと言う不具合に関する問題です。上の写真は光学系後群 (つまり第3群と第4群) の光学硝子レンズ格納筒を含めて撮影していますが、第3群はご覧のように「ネジ込む方式」で格納筒にセットされます (第4群の後玉は上の写真の真鍮製光学硝子レンズ格納筒の中に入っています) 。今回バラしたところ、この光学系後群 (第3群をネジ込んだ後のモノ) を絞りユニットの後側にセットすると (ネジ込むと) 何と最後までネジ込む途中で絞りユニットに当たってしまいます。

つまり光学系後群の第3群の縁部分が絞りユニットに干渉しているのです・・それで絞り羽根が閉じていく途中で光学系第3群の縁に当たってしまい止まるので「f8〜f22」まで閉じないことが判明しました。

↑そこでバラした後の「磨き研磨」では念入りに磨き研磨を施しましたが、上の写真のとおり第3群をネジ込んでいくと最後までネジ込まれないうちに第4群 (後玉) に当たってしまい、ご覧のような「隙間 (凡そ0.5mmほど)」が空いてしまいます。何度やっても同じ結果です・・試しに、少しずつ第3群をネジ込んでいくと途中までは第4群 (後玉) が当たっていないので振るとカタコト音が聞こえるのですが上の写真の状態では一切カタコト音は鳴りません。つまり第4群に当たってしまっていると判った次第です。

そもそも「隙間」が空いてしまうことが変です・・さらに、この0.5mmの隙間分が第3群の出っ張りになっているので、結果的に絞りユニットに当たってしまいます。

そして・・何と、この光学系後群を絞りユニットに当たったまま組み付けたとしても無限遠位置まで到達していません。つまり光路長が足りないのです。

このことに気がついたのは、前述のヘリコイド (オスメス) ネジ込み工程で無限遠位置のアタリ付けをしたにも拘わらず「約半周分しか余裕が無い」ことを思い出したからです。ヘリコイドのネジ山の端限界ギリギリまでヘリコイドを回したとしても、同時に光学系後群を絞りユニットに当たるまでネジ込んでも無限遠位置まで全く届いていません (合焦していない)・・ちょうどオーバーインフの逆です (∞まで距離環を回しても全く合焦しないまま)。

それは逆の言い方をすればヘリコイド (オス側)・・つまり鏡筒が距離環 (とヘリコイド:メス側) を回していくとマウント部の底面に突き当たってしまい、それ以上鏡筒が収納できない位置まで「僅か半周分しか余裕が無い」と言う表現になります。仮にマウント部の底面に鏡筒が突き当たらないとしても約半周分しかネジ山に余裕が無いのであれば、半周以上ヘリコイドを回した時点でヘリコイドが外れてしまい「ヘリコイド脱落」と言う結果に陥ります。

そこでネット上で同型モデルの写真を探してみました・・このモデルの光学系後群は格納筒が黄金色ではなく「黒色」の写真しか見つかりません。そこで出した結論は・・ニコイチではないかと言うことです。別の個体から転用した第3群〜第4群を入れているので最後までネジ込めずに出っ張ってしまい、且つ光路長が異なっている (曲率も異なる) と考えられます。

ヘリコイドの無限遠位置はネジ山が無くなってしまうので仕方なくネジ山端ギリギリの状態でセットし直しました。その上で、今度は逆の方法・・光学系後群のネジ込みを浅くしていったのです。つまり最後までネジ込まずに、むしろ逆に緩めていきました。緩めつつピント確認をしたところ、光学系後群をネジ込み始めて約半周ほどの位置と言う非常に浅い位置でようやくギリギリの無限遠合焦をしました。

従って、光学系後群はネジ込んですぐの位置ですからガタガタしてしまうので (ネジ込み始めたばかりの位置なので) 固着剤を塗布して固定しました。現状、この処置しかできません・・申し訳御座いません。普通、オールドレンズの光学系は最後までキッチリとネジ込むのが当たり前ですから、今回の個体の光学系後群に関しては「異常」としか考えられません。最初は絞りユニットの後 (裏) に何かもう一つ環 (リング/輪っか) が本当は存在しており、強制的に光学系後群との間に「空間」を用意しており、且つそのパーツが欠品しているのかと考えたのですが、無限遠が合焦しないことで逆にニコイチではないかと推察した次第です (辻褄が合わないので)。

ちなみに、ネット上の写真を見てみると光学系後群の格納筒外周・・後玉直近にある「筋」の位置は、後玉端から少々離れた位置 (つまり筋までの距離がある) なのですが今回の個体はすぐに筋が刻まれているので、やはり違うモデルの後群ではないかと考えます。

 

DOHヘッダー

 

ここからはオーバーホールが完了したオールドレンズの写真になります。

↑当初ばらす前のチェック時でフィルター枠の1箇所に変形がありました・・フィルターは着脱できるものの少々キツイ印象です。変形を修復したので現状、問題なくフィルターが着脱できるように改善させています (フィルター枠変形修復のご指示は無かったのでご請求せず無料で執り行いました)。

レンズ銘板は黒地にモデル銘などの文字が刻印されているように見えるのですが、実際は「濃いグリーン」にモデル銘が刻まれてシルバー色の刻印と言う配色なので、なかなかドイツ的な美しいレンズ銘板です・・このレンズ銘板も、せっかくなので「磨きいれ」をしました。

↑ご依頼内容のひとつ「前玉裏面の菌糸状のカビ」はキレイに除去しましたが裏面だったのでコーティング層に浸食しておりカビ除去痕としてのコーティング剥がれがあります・・光に反射させると菌糸状にカビが生えていた痕が視認できます。

↑問題の光学系後群です。残念ながら、バルサム切れ (貼り合わせレンズの接着剤/バルサムが経年劣化で剥離し始めて白濁化し薄いクモリ、或いは反射が生じている状態) も発生していました。

↑上の写真は後玉ですから第4群でありガラスレンズは1枚なのですが、その手前の第3群が貼り合わせレンズ (2枚の光学硝子レンズを接着剤を使って貼り合わせてひとつにしたレンズ群) になっており、ご覧のようにバルサム切れが生じています。当方には機械設備が無くバルサム切れの改善処置が施せませんし、この第3群に関しては成形されているので外すこともできません。申し訳御座いません。

↑当初、光学系後群の第3群が当たっていたために最小絞り値「f22」まで閉じなかった絞り羽根は正常駆動するように改善できました。特に「被写界深度インジケーター」の動きが大変ギミック感タップリなので、しかも小気味良く適確な位置まで言ったり来たりするのが楽しくて、暫し遊んでしまいました(笑)

ここからは鏡胴の写真になります。当方による「磨き」を筐体外装にいれたので落ち着いた美しい仕上がりになっています。

↑塗布したヘリコイド・グリースは「粘性:中程度と軽め」を使い分けて塗布しており距離環を回すトルク感は全域に渡って「完璧に均一」です。ヘリコイドをネジ山端ギリギリの位置まで回して組み付けているので「∞」位置は極僅かに詰まった感触になっています (つまりマウント部底面に突き当たる寸前なので)。

↑「被写界深度インジケーター」も左右の爪が均等に開閉するよう調整済です。

↑当レンズによる最短撮影距離90cm附近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでベッドライトが点灯します)。

光学系の確認では残念ながら「光軸ズレ」が生じているので、やはり光学系第3群が適合していないと考えられます。また、第3群の貼り合わせレンズはバルサム切れの影響も出ているようです。

↑絞り環を回して設定絞り値「f2.8」で撮っています。ピントが「後ピン」のような気がしますが・・。

↑さらに絞り環を回して「f4」で撮りました。いきなしボケが消失し始めています・・。

↑F値「f5.6」になりります。

↑F値「f8」での撮影です。

↑F値「f11」になります。

↑F値「f16」で撮りましたが、最小絞り値「f22」でもほぼ変化無しです。同じモデルの実写をしたことが無いので描写性能が分かりませんが、光学系後群の問題が影響しているように感じます。オーバーホールでご依頼内容の4点は改善できましたが、描写性能に関しては改善ができていない (実用面で疑問) と考えられますし無限遠位置もヘリコイドのネジ山がギリギリなので足りていない可能性もあります。これ以上、改善させることができませんでした・・誠に申し訳御座いません。当方の技術スキルでは限界ですので、もしもご納得頂けない場合はご請求額より必要額を減額下さいませ (減額の限度額は「無償扱い」までとさせて頂き、最低限「送料のみご負担」頂くようお願い申し上げます)・・ご期待に添えず誠に申し訳御座いません。