◎ Orion Camera Co. (オリオン精機産業) Supreme 10.5cm/f2.8(M44)

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オーバーホール/修理ご依頼分ですが、当方の記録用として掲載しており
ヤフオク! 出品商品ではありません (当方の判断で無料掲載)。
(オーバーホール/修理ご依頼分の当ブログ掲載は有料です)


今回扱うのは、MIRANDA CAMERA CO. (ミランダカメラ) の前身にあたる、1948年創業の「オリオン精機産業有限会社」から発売された中望遠レンズ『Supreme 10.5cm/f2.8 (M44)』です。

オリオン精機産業のロゴマークはネット上を探しても見つからなかったので、当時の革ケースからトレースしました。1957年には会社を「ミランダカメラ(株)」に変更しています。

今回扱いモデルのモデル銘は、そのまま英語でネイティブ発音すると「サプリーム」ですが、当時のカタログなどを見ると「スープリーム」と表記されている事が多いようです (一部のカタログはシュープリームとかスープリムなど混在して印刷されていますが誤植でしょうか)。

1955年発売の一眼レフ (フィルム) カメラ「Miranda T」は、1952年に旭光学工業から自社初として登場の「Asahiflex」に次ぐ国産モデルとの事なので恐れ入ってしまいます。それもそのハズで、創業者2名は東京帝国大学工学部航空工学科の技術者ですから、その造りの素晴らしさにも納得です。

このフィルムカメラの取扱説明書のオプション交換レンズ群の中に
今回の中望遠レンズが案内されています。

このミランダマウントは外爪があるバヨネットマウント方式ですが、その内側にネジ込みスクリューが用意されている複合マウントです。後の時代に登場する多くのミランダ製オールドレンズがバヨネット化されていたので、主体マウント種別は「Miranda Bayonet (MB)」ですが内側のネジ式マウントは「M44 (内径⌀44mm x ピッチ1mm)」であり、天体望遠鏡や6×6判一眼レフ (フィルム) カメラ (藤田光学工業のフジタ66など) でよく使われている「T/T2マウント (内径⌀44mm x ピッチ0.75mm)」とは違います。

上の写真はFlickriverで、このモデルの特徴的な実写をピックアップしてみました。
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)
※各写真の著作権/肖像権がそれぞれの投稿者に帰属しています。

光学系は4群4枚なので、ネット上を調べるとエルノスター型構成と案内されている場合があります。確かに中望遠レンズによく使われている光学系構成でもあります。

右図は一般的なエルノスター型構成図をトレースしてみました。

ところが、今回バラしてみると確かに4群4枚なのですが第3群の「両凹レンズ」の配置が全く違います。エルノスター型の場合は絞りユニットの直前に位置し「光学系前群」に入りますが、今回のモデルは絞りユニット直後に位置し「光学系後群」側です。光学系の前後で配置が違ってしまうと前後のパワー配分まで変わってしまうで、当方は光学系の知識が皆無ですが、絞りユニットに対する前後の配置相違は同一光学系とは見なせていません。

この光学系構成を何型と呼ぶのか分かりませんが、パッと見で3群3枚トリプレット型構成の直前にさらに1枚凸平レンズ (つまり今回のモデルの前玉にあたる) を配置した構成のようにも見えますが、仮にトリプレット型構成を基本としているなら、やはり問題となる「両凹レンズ」が絞りユニットの直前に居なければダメです。

ちょっと何型なのか不明なままです・・。

今回バラして清掃時にデジタルノギスで計測しほぼ正確にトレースした構成図です。
当方が計測したトレース図なので信憑性が低い為、ネット上で確認できる大多数の構成図のほうが「」です (つまり右図は参考程度の価値もない)。
(各硝子レンズのサイズ/厚み/凹凸/曲率/間隔など計測)

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。このモデルは鏡胴が「前部」と「後部」の二分割方式を採っていますが、実は鏡胴「前部」も同じ「M44マウント」で用意されており、ベローズユニットに装着して撮影できるよう設計されています。

左写真は、当時MIRANDAから発売されていたベローズユニットで「FOCABELL」の写真になります。

このユニットの写真右端にフィルムカメラが装着され、左端のベローズ先端部のマウント部 (ネジ込みを伴うバヨネット型) に今回のモデルの鏡胴「前部」を装着して使えるワケです (近接撮影が可能になる)。

↑真鍮製でズッシリと重みがある鏡筒です。このモデルは鏡胴が前後に分割式なので、ヘリコイド (オスメス) は鏡胴「後部」に配置されています。

絞り羽根には表裏に「キー」と言う金属製突起棒が打ち込まれており (オールドレンズの中にはキーではなく穴が空いている場合や羽根の場合もある) その「キー」に役目が備わっています (必ず2種類の役目がある)。製産時点でこの「キー」は垂直状態で打ち込まれています。

位置決めキー
位置決め環」に刺さり絞り羽根の格納位置 (軸として機能する位置) を決めている役目のキー

開閉キー
開閉環」に刺さり絞り環操作に連動して絞り羽根の角度を変化させる役目のキー

位置決め環
絞り羽根の格納位置を確定させる「位置決めキー」が刺さる環 (リング/輪っか)

開閉環
絞り羽根の開閉角度を制御するために絞り環操作と連動して同時に回転する環

↑12枚のカーボン仕上げの絞り羽根が組み付けられて絞りユニットが完成します。

今回の個体は過去に絞り羽根の油染みが進行してしまい、一時期その油染みが粘性を帯びてしまい最小絞り値まで絞り羽根を閉じた時「絞り羽根が膨れあがっていた時期」があります。

つまり絞り羽根の表裏に打ち込まれている「キー」の一部 (数枚) が垂直を維持していません。今回のオーバーホールで可能な限り絞り羽根を水平に戻しましたが「キー」だけを垂直に戻す事はできません (下手に処置してキーが外れたらイキナシ製品寿命になるから必要以上に触れない)。一度でも外れた「キー」はもう二度と刺す事も打ち込む事もできません (キーが打ち込まれていた穴が広がってしまったら戻せないから)。

従って、経年で絞り羽根に油じみが生じたまま放置しているのは、実は恐ろしい話なのですが意外と無視している人が多いのが現実です(笑)

この「キーが垂直を維持しなくなる」原理は、油染みが生じて粘性を帯びてきた時「界面原理」が働き、最小絞り値方向に閉じれば閉じるほど互いの絞り羽根が重なる箇所が「中心部に集中する」ことになります。

すると、その油染みで粘性を帯びてしまった影響から、絞り環を回した時のチカラの伝達は「開閉キー」を伝わり「位置決めキー」方向に逃げようとしますが (位置決めキー側は軸になる立場なので回っているだけで位置は動かない)、この時その途中で絞り羽根が閉じて重なった箇所に「チカラが集中」してしまいます。

その結果「絞り羽根が中心部に向かって膨れあがる」現象に至ります。この操作 (絞り羽根を閉じる操作) をムリに続けていると、やがて「キー」が垂直を維持できなくなり膨らんでいる方向に向きが変わってしまいます (特に開閉キー側が垂直を維持しなくなる)。

だから絞り羽根を最小絞り値まで閉じていく際に「真円を維持しなくなって歪なカタチになる (円形絞りの場合)」ワケですね(笑) そのような個体で撮影した写真は、必然的に円形ボケのカタチまで歪なまま残ってしまうワケです。

皆さん光学系内のクモリやカビの発生はとても気にされるのに、ボケのエッジのカタチが変わってしまう一因たる「絞り羽根の油染み」は放置プレイだったりします(笑) もちろんそれだけ絞り羽根に油じみが出ていれば、その分の揮発油成分が経年の分量だけ光学系内にも廻っていますから、それはそのまま「コーティング層の経年劣化」或いは「カビの発生」を促す要因にも結びつきます。

何だか気にされている事柄と無視している内容が一致していないようにも思うのですが・・(笑)

なお、ヤフオク! の整備などを見ていても時々絞りユニットを解体せずにそのままの状態で綿棒などを使い溶剤で拭いたり、酷い場合は絞りユニットそのモノを溶剤漬けしていたりします(笑)

これは「界面原理」が働くので露出する絞り羽根の一部が仮にキレイになったとしても、露出していない重なっている部分には「揮発油成分の一部がまだ残ったまま」になります。

するとその残っている揮発油成分に再び将来的に揮発油成分が引き寄せられるので、絞りユニットから先に油染みが発生することになりますね (つまり絞りユニット前後の光学系がまた劣化進行していく話になる)(笑)

そのような「単に見えている箇所だけキレイにする」整備が罷り通っていますが、見えない部分にこそ配慮している当方は技術スキルが低いのでなかなか認めてもらえないのが現実だったりします(笑)

↑完成した鏡筒を立てて撮影しました。たかが4群4枚の光学系ですが焦点距離が105mm (10.5cm) と長いので鏡筒も深い (長い) です。

↑ハッキリ言って、この「プリセット絞り機構」だけがこのモデルのポイント (最大の難関) ではないかと思ってしまうくらい面倒で厄介な構造でした(笑)

真鍮製の「プリセット絞り環用ベース環」には「プリセット絞り値キー」なる「」が刻まれていて、そこに金属製の棒状ピンがカチカチとハマる事でプリセット絞りが決まる仕組みです。

ところが、この「棒状ピン」が既に擦り減っていて、且つ刻まれている溝側も一部が擦り減っているので下にある特大の円形ばねのチカラで戻る際 (ブルーの矢印)、カチカチと小気味良く填らない事があります。

今回の個体は、おそらくこの問題を過去メンテナンス時に改善しようとして処置を講じたと推測できるのですが、フィルター枠の固定位置を変更しています。

↑絞り環/プリセット絞り環のそれぞれのベース環を適正な位置で微調整しつつ固定してから、それぞれのカバー環 (つまり絞り環/プリセット絞り環) を固定ネジで締め付け固定します。

左写真は、光学系第1群〜第2群をセットする硝子レンズ格納筒ですが、この縁にフィルター枠を締め付け固定する「ネジ穴」が3箇所用意されています。

グリーンの矢印が過去メンテナンス時にドリルで穴開けされた穴で、赤色矢印が製産時点の穴です (つまり全部で3個しか穴が必要ないのに6個用意されている話)。

するとそれぞれの穴の位置を見れば一目瞭然ですが、フィルター枠の固定箇所をズラしているのが分かります。

実は、当初バラす前のチェック時点で「プリセット絞り環操作が硬い/引っ掛かりが多い」とガチガチした印象を感じていたワケですが、その原因がこのグリーンの矢印のせいでした。

結果、残念ながら一部の「プリセット絞り値キーの溝」が擦り減ってしまい、且つ棒状ピンまで擦り減っているので、今回のオーバーホールではプリセット絞り環の操作性を改善しましたが、全ての絞り値セット時で必ずしもカチカチと小気味良くセットできません (一部の絞り値でやはり引っ掛かりが生ずる)。

申し訳御座いません・・。

今回のオーバーホールでは、本来の正しい位置でフィルター枠を締め付け固定しました (赤色矢印)。

↑ここで先に光学系前群を組み付けてしまいます。第1群〜第2群の2枚だけの話ですが、特に第1群 (前玉) に「微細な気泡」が相当数含まれています。当時のに日本製ですから珍しいと言えば珍しいのですが、除去できませんからそのまま残っています。

気泡
光学硝子材精製時に適正な高温度帯に一定時間維持し続けたことを示す「」と捉えていたので、当時光学メーカーは正常品として出荷していました。

↑光学系後群側もここでセットしてしまいます。後群側にも僅かに「気泡」が含まれていますが、今回の個体は残念ながら第4群 (後玉) 表面のカビ除去痕が相当量残っており、LED光照射ではほぼ全面に渡って極薄いクモリを伴っています (清掃では一切除去できません)。

おそらく過去メンテナンス時に一度カビ除去作業を処置済だと考えます (既にカビ自体は除去されているから)。他の群の透明度が高い分 (LED光照射で極薄いクモリすら皆無) 残念極まりない話です・・。

↑これで鏡胴「前部」が完成したのでこれから鏡胴「後部」の組み立て工程に入りますが、実は全て組み上がってからがこのモデルは大変で「光路長確保」の微調整をしなければイケマセン。

と言うのも、当初バラす前の実写チェックでピント面が相当甘い印象でした。確かに1950年代の製産品ですから「甘い写り」と言ってしまえばそれで終わりです(笑)

しかし、焦点距離105mmとして考えると (もちろん開放f値がこの当時としては明るいf2.8だとしても) それはピント面の甘さには繋がりません。もっと鋭いシッカリしたピント面を構成するハズだと考え (今回初めての扱いですが) 光路長確保をトライしてみました。

具体的には光学系後群側の「第3群固定位置が可変」の設計になっていたので、そこで光路長確保させていたと (そういう意図の設計だと) 考えられますが、実は過去メンテナンス者は光路長確保をしていませんでした(笑)

これはとても面倒な話で、一旦全て組み上げてから実写確認でピント面の鋭さをチェックすれば良いのですが、再びバラして第3群の締め付け固定位置を1mmずつ (右回し/左回し) ズラしながらその都度また組み上げて実写チェックするワケです。

もちろん実写チェックは簡易検査具を使っているのですが、右回しで1mmでチェックして、さらにまた1mm右回しでズラしてチェックしてと3回続けるとピント面の鋭さに変化が出始めます。今度は元の位置まで戻してから逆の左回しで1mmずつズラしてアタリ付けを繰り返していきます。

最終的にどちらの方向に当初位置からズラせば鋭くなるのかの当たりを付けて、それからが本番になり今度は0.5mmずつズラしながらチェックしていく作業です。

気の遠くなる作業なのであまり関わりたくないのですが(笑)、当初バラす前の実写でピント面の甘さを気にしてしまったからどうにもなりません (ウソがつけない性格なので)(笑)

↑こちらは距離環やマウント部が組み付けられる為の基台 (黄鋼製) です。

↑同じく黄鋼製のヘリコイド (メス側) を、無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。

↑黄鋼製ヘリコイド (オス側) を、やはり無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルは全部で9箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。

↑ご依頼内容に「当初位置のままで無限遠位置を設定」とのご指示がありましたので、そのとおり処置しました。

これで鏡胴「後部」が完成したので、できあがっている鏡胴「前部」をネジ込んでから、前述の「光路長確保」の作業に入ったワケですね(笑) 全て完了したら無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行えば完成です。

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ここからはオーバーホールが完了したオールドレンズの写真になります。

↑完璧なオーバーホールが完了しました。

このモデルは一部鏡胴に「真鍮製」が使われていてズッシリとした重みに至っていますが、他のアルミ合金材の鏡胴構成パーツも、実は当時のロシアンレンズなどとは比較にならないほど「硬質のアルミ合金材精製技術」で作られていました。

逆に言うと、アルミ合金製のロシアンレンズなら当方の「磨きいれ」でピッカピカに筐体外装が光り輝く状態まで光彩を放つよう仕上げられるのですが、今回の個体は磨いてもほとんど変化無しでした(笑)

つまり材が硬いので磨きようがなかったと言うのが正直なところです。従って、当初のまま微細な経年キズや擦れはもちろん光沢研磨すらできていません (実際は光沢研磨しましたがほとんど変化無し/おそらくアルマイト仕上げなのだと思います)。

申し訳御座いません・・。

↑光学系内の透明度が非常に高い状態を維持した個体です (LED光照射でもコーティング層経年劣化に伴う極薄いクモリ皆無)。

ご覧のように「気泡」が複数含まれています (特に前玉がとても多い)。

↑前述のとおり後玉表面にカビ除去痕が全面に渡って残っている為に「コントラスト低下/解像度低下/ハロの増大」が生じています。

↑12枚のカーボン仕上げの絞り羽根はキレイになりましたが、前述のとおり一部絞り羽根の「キー」が垂直を維持していいので、絞り羽根が閉じる際は「ほぼ円形絞りを維持」に留まります。

申し訳御座いません・・。

また前述のとおり「プリセット絞り環操作」時に当初バラす前の操作性から比べると格段カチカチと小気味良く改善できていますが、一部のプリセット絞り値の設定時に引っ掛かりが残っています。

以上2点について、ご請求額よりご納得頂ける分の金額を「減額申請」にて減額下さいませ。申し訳御座いません・・。

↑距離環を回すトルクについても「現状と同程度」とのご指示でしたので、そのとおり処置しました。

塗布したヘリコイドグリースは「黄褐色系グリース」を使い「粘性中程度重め」を塗りました。当初のトルク感と同程度との事なので少々トルクムラが残っていますが (擦れ感も多めですが) 当初のトルクに近い状態に仕上がったと思います。

無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。

もちろん光学系の光路長調整もキッチリ行ったので (簡易検査具によるチェックなので0.1mm単位や10倍の精度ではありません)、以下実写のとおり大変鋭いピント面を確保できました。電子検査機械を使ったチェックを期待される方は、是非ともプロのカメラ店様や修理専門会社様が手掛けたオールドレンズを手に入れて下さい当方の技術スキルは低いのでご期待には応えられません

↑「光路長確保作業」でバラし直す事「10回」(笑)、ちょっともうイヤだなぁ〜と感じ始めたところで運良くピタリと鋭いピント面に到達しました。

鏡胴刻印指標値が全て洗浄で褪色してしまったので当方にて「着色」していますが、一部赤色は鏡胴の「梨地仕上げ部分」で極僅かに滲んでいます。これ以上除去できなかったので申し訳御座いません。

この分もご納得頂けない場合は減額下さいませ・・スミマセン。

↑当レンズによる最短撮影距離1m付近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。

↑絞り環を回して設定絞り値「f4」で撮影していますが、ご覧のとおり後玉のカビ除去痕が影響してコントラストの低下を招いています。

↑さらに回してf値「f5.6」で撮っています。画像加工ソフトなどでコントラストを多少持ち上げて頂ければ分からないレベルだと思います。

↑f値は「f8」に変わっています。

↑f値「f11」です。今度は後玉の状態に起因するコントラスト低下ではなく「回折現象」の影響からさらにコントラスト低下が増大し始めています。

 回折現象
入射光は波動 (波長) なので光が直進する時に障害物 (ここでは絞り羽根) に遮られるとその背後に回り込む現象を指します。例えば、音が塀の向こう側に届くのも回折現象の影響です。
入射光が絞りユニットを通過する際、絞り羽根の背後 (裏面) に回り込んだ光が撮像素子まで届かなくなる為に解像度やコントラスト低下が発生し、眠い画質に堕ちてしまいます。この現象は、絞り径を小さくする(絞り値を大きくする)ほど顕著に表れる特性があります。

↑f値「f16」になっています。

↑最小絞り値「f22」での撮影です。

ピント面の鋭さはご覧のように当初バラす前の状態から比べると納得できる状況まで鋭く改善できていると思います。

  

↑上の写真は今回のご依頼で同梱頂いたマウントアダプタ (M44 → L39マウントアダプタ) ですが、今回オーバーホールの大変不本意なる結果のお詫びの気持ちとして、フランジを適正化させました。

具体的にはM44マウント側をバラしてフランジ調整したのですが、全く以て足りないので、今度は「シム環」を探して用意しました。

右端の写真のようにライカ判スクリューマウントの「L39」の周りに単に挟み込んで使うだけの「シム環」です。両面テープで固定しても良いのですが、後から使っていて両面テープの粘着材がハミ出てくるとベタベタで汚れて酷くなるので、敢えて今回はそのままにしています。径が少々大振りですが厚みが適していたので申し訳御座いません・・。

M44マウント側のフランジ調整も間に挟み込んだだけなので、いつでもオリジナルの状態に戻せます。戻す必要が生じた際は大変お手数ですがその旨メモ同梱の上、当方宛送料着払い (クロネコヤマト宅急便をご利用下さいませ) でご発送下さい。

取り敢えずこれらにより、フィルムカメラで使った時とほぼ同じフランジ長になるよう改善させています (少なくとも当方のSONY Eでのチェックでは近い状態まで改善できていました)。

大変長い期間に渡りお待たせし続けてしまい、本当に申し訳御座いませんでした。またこのような不本意なる仕上がりに至りました事 (プリセット絞り一部プリセット絞り値の引っ掛かり未解消/円形絞りが歪/距離環のトルクムラ/擦れ感/コントラスト低下)、重ねてお詫び申し上げます。申し訳御座いませんでした。

このブログをご覧の皆様も、どうか当方の技術スキルはこの程度ですので重々ご承知置き下さいませ