◎ CARL ZEISS JENA DDR (カールツァイス・イエナ) electric MC FLEKTOGON 35mm/f2.4(M42)

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今回の掲載はオーバーホール/修理ご依頼分のオールドレンズに関する、ご依頼者様や一般の方々へのご案内ですのでヤフオク! に出品している商品ではありません。
写真付解説のほうが分かり易いので無料で掲載しています (オーバーホール/修理全行程の写真掲載/解説は有料です)。オールドレンズの製造番号は画像編集ソフトで加工し消しています。


毎月必ずオーバーホール/修理を承っていますが、久しぶりに重症なFLEKTOGON 35mm/f2.4を扱いました。

今回の個体は製造番号がMAX値に到達してしまいリセットされた直後に出荷された貴重な逸本です。

1972年発売の「初期型」からリセットのタイミングを迎える「前期型-I」を経て、マウント面に電気接点端子を備えた今回のタイプ『electric MC FLEKTOGON 35mm/f2.4 (M42)』が登場する「前期型-II」に至りますが、このelectricタイプはその後のモデルバリエーションの変化の中にあってリセット後の製造番号「15,000番台」迄の間で時々出荷されており、市場の需要を見ながら都度製産されていたとみています。

モデルバリエーションなど詳細は「こちらのページ」で解説しているので興味がある方はご覧下さいませ。

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今回のオーバーホール/修理ご依頼の不具合はたった一点、距離環距離指標値の0.35mから 無限遠位置に向かって回す時のトルクが重くなり「∞」附近ではマウント部が回ってしまう程になります。しかし届いた個体をチェックすると他にも問題点を抱え、さらにバラすと如何に重症なのかが判明しました。

【当初バラす前のチェック内容】
距離指標値0.35mから無限遠位置に向かって徐々にトルクが重くなり、特に∞ではピント
合わせできないほど。
フィルター枠に1箇所打痕がありレンズ銘板が外せない。
絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) が閉じすぎており、且つ「A/Mスイッチ」の設定で
開閉が異なる。
無限遠が出ていない (合焦していない)。

【バラした後に確認できた内容】
プラスティック製パーツ経年摩耗による影響あり。
絞りユニット内パーツ (制御環) との干渉あり。
絞り環連係アームの変形。
ヘリコイド (オス側) ネジ山の一部に削れ (微細なササクレ) あり。
距離環用ネジ山が不適合。
ヘリコイド (メス側) が不適合。
光学系第6群 (後玉) の向きが逆。

・・とまぁ〜、さすがにまで問題点が出ることは非常に希だと思います。

↑この写真は既に一度完全解体した後、清掃後に必要箇所の「磨き研磨」を施し組み立て始めている途中の写真です。

問題点①の∞近くで非常にトルク感が重くなる根本的な原因は、実は最後の最後まで判らないままでした。その理由は幾つも重なって発生していた症状だったからです。

↑こちらはヘリコイド (オス側) の写真ですが、過去メンテナンス時に赤色矢印箇所にキズを 付けてしまったようで一部が削れて極僅かに膨れています。まずこれが原因してトルクムラが発生していました。当方にて「磨き研磨」し改善させています (問題点の⑧)。

↑また同様にトルクムラを発生させていた要因のひとつに大きな問題がありました。

このモデルは距離環の裏側に「ヘリコイド (メス側)」が切削されていますから、過去に落下やぶつけていると距離環が真円ではなくなりトルクムラの原因になります

また距離環の最下部には距離環用ネジ山が備わっており、基台裏側のネジ山と噛み合うことで距離環が回ります。従って基台側にも落下や打痕があるとそれだけでトルクムラに至ります。

今回の個体は基台側には一切打痕が見つからないので上の写真の状態の時、距離環を回すとスムーズに動き全域に渡って均一なトルク感を維持していることをまず先に確認します。

ところが、ここで今までの経験値から違和感を抱く要素が判明しました・・。

通常、基台に距離環をネジ込む際は無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。そのアタリ付け場所を超過して最後までネジ込むとこれ以上ネジ込めない位置で詰まって停止します。その停止位置は普通∞刻印を越えて次の「0.2〜0.3m」刻印辺りまでが殆どなのですが、今回の個体に限って「1m」辺りまでネジ込めてしまいました (0.3mからほぼ半周分程さらに深くネジ込める意味)。

こんな個体は珍しいです・・そもそも当初バラす前の実写チェックで (ご依頼時にはご案内がありませんでしたが) 無限遠が出ていない (合焦していない) ことを確認しました。無限遠の 描写が今一歩と言うところで「甘い」のです (つまり合焦していない)。問題点の④ですね

つまり過去メンテナンス時の「無限遠位置アタリ付け」が不適正かも知れないと考えチェックした次第です。さらにこの後「ヘリコイド (オス側)」をやはり無限遠位置のアタリを付けた 正しいポジションでネジ込んで組み上げていきます。最後まで組み上げて光学系も実装した上で無限遠の実写確認をすると、当初バラす前と同じピントが合いません (僅かに甘いまま)。

実はこのモデルは「無限遠位置調整機能」を装備していないので無限遠位置の調整をする場合ヘリコイドのネジ込み位置を替えることで調整するしか手がありません。それを実施しても 極端なオーバーインフになるかピント合焦しないかのいずれかで、最も適正と判断する位置にセットするとどうしても「甘いピント面」にしかなりません。こんなことは初めてです。

仕方ないのでヘリコイドのネジ込み位置をひとつずつ替えながら最後まで組み上げ、実写確認する作業を5回繰り返した後で導き出した答えが「距離環 (ヘリコイド:メス側)」をニコイチしていると言う結論です。つまり過去メンテナンス時なのか、さらにその前なのか不明ですが別個体から距離環を転用していると考えます。

そう考えることで実は前述の基台が半周もさらに深く回ってしまう問題とヘリコイド (オス側) をネジ込んだ時に適正な位置で停止しない2つの問題点の説明ができます。つまり基台のネジ山とヘリコイド (オス側) のネジ山に適合しない切削が施されているヘリコイド (メス側)=距離環と言う結論に達します。

一見すると全てのモデルバリエーションで共通に使えそうなパーツとして距離環が見えますが実はバリエーションの新旧で僅かにネジ山変更が成されたのか、切削に相違があることを当方は既に掴んでいます (つまりニコイチしても適正にはならない)。残念ながら今回の個体がそれに当てはまるようです。ここが問題点の⑨と⑩になります

そして無限遠がピタリとキレイな合焦をしない理由も、この「距離環転用」から生じており、ヘリコイド (オス側) のネジ込み位置で適正な無限遠位置に到達しません。仕方ないので相当なオーバーインフになる位置でヘリコイド (オス側) をネジ込んだ後に基台側で改善させました。

現状、オーバーインフが多めですがちゃんと無限遠合焦するよう改善させました

↑しかしそれでも距離環を回して「∞」刻印位置に近づくと急にトルクが重くなる現象が改善できていません (当初の0.35m辺りから重くなるのは改善できている)。その原因を調べるのに再びバラしては組み上げる作業を延々と続け、何とさらに9回も組み直しました・・(笑)

組み直しては「∞」刻印位置で重くなる原因要素を一つずつチェックしていったのです。原因は上の写真でした。ちなみにこの部位は鏡筒です。

↑上の写真グリーンの矢印の箇所 (ネジの出っ張り) が当たることで「圧が掛かっている為に」ヘリコイド (オス側) が最もネジ込まれた時だけ急にトルクが重くなるのを発見しました。こんな僅かな出っ張りですが、しかし鏡筒をネジ止めした際にはこの出っ張り分が影響して鏡筒が浮き上がっている (その箇所だけ極僅かな隙間が空いている) のを自分の目で確認したから間違いありません

そこで実施した処置は出っ張っているネジの頭部分をヤスリ掛けして削り平坦に戻しました。しかし冷静になって考えると生産時からこの状態ならば全数検品時に引っ掛かって出荷されていないハズです。つまり生産時にはこのネジが出っ張っていなかったことになります。

そこで判明したのが別の問題点でした。今回の個体は当初バラす前のチェックで絞り羽根が 閉じすぎている調整で過去メンテナンス時にセットされていました。今回のオーバーホールで本来の適正な絞り羽根開閉幅 (開口部/入射光量) に戻したワケですが (簡易検査具で検査済)、すると絞り羽根が正しく開閉してくれません。マウント面の絞り連動ピン押し込み解除後の 開放に戻る際に途中で止まってしまいます (つまり完全開放に戻らない)。もちろん自動/手動切替スイッチ (A/Mスイッチ) を「手動 (M)」に設定していれば問題無く適正に開閉幅 (開口部/入射光量) で動いてくれます。これが問題点の③ですね

そこで判明したのが過去メンテナンス時に故意に絞り羽根の開閉をズラして調整していたワケです (結果開放時に極僅かな絞り羽根の顔出しに至っていた)。その絞り羽根の開閉動作をコントロールしているのが上の写真の「開閉制御カム」であり上下2つのカム両方ともプラスティック製パーツです。

この2つのカムは上下で互いに頻繁に動いて連係し合っているので経年使用で削れてしまい、上のカムは「水平状態」を維持できなくなり不具合の原因になり、一方下カムは連係部が擦り減って上カムとの伝達が不適正になりますしネジ止め箇所も削れて擦り減っていきます (問題点の⑤)。

つまり絞り羽根開閉の根本原因であった下カムが擦り減ったためにネジ込みが深く入るようになってしまったことで、結果距離環の「∞」位置で急にトルクが重くなる結末に至っていたと結論しました。根気よくひたすらに組み直しつつ原因となる要素を一つずつ潰していけば自ずと因果関係が明確になります。

これで問題点の③の原因が判明し改善処置を施し適正な絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) になるよう検査具を使って確認し調整しました。

↑その際に処置したのが上の写真で絞りユニット内のパーツ (開閉幅制御環) ですが、赤色矢印部分をヤスリ掛けして削りました (上カムが水平状態を維持していないため干渉している部分を切削したのです)。問題点⑥になります

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ここからはオーバーホールが完了したオールドレンズの写真になります。

↑フィルター枠の1箇所が打痕により大きく内側に凹んでいましたが、そのままではレンズ銘板を外せませんから何ら作業が進められません (完全解体できない)。仕方ないのでフィルター枠修復を実施しています (問題点の②)。現状もちろんフィルターも着脱可能に戻っています。

↑光学系内の透明度が非常に高い個体です。一部にカビが発生していたので極微細な菌糸状のカビ除去痕が残っています (第2群外周附近)。

↑また少々オーバーインフ量が多いながらもちゃんと無限遠合焦するよう改善させたものの、実はピント面の鋭さがどうも気に入りません(笑) 毎月扱っている当モデルの鋭いピント面とはちょっと違う気がしてなりません・・それもそのハズで第6群 (つまり後玉) が逆向きに入っていました。おそらく過去メンテナンス時のうっかりミスでしょう(笑) 問題点の⑪ですね

↑これが本来のこのモデルの適正な最小絞り値「f22」での絞り羽根閉じ具合です。当初はもっと小さく閉じていましたから必然的に開放時は絞り羽根が極僅かに顔出ししていた次第です。もちろん絞り環操作での整合性も調整済ですし「A/Mスイッチ」との連係動作もバッチリです (つまりフィルムカメラでもご使用頂けます)。

なお、絞りユニットから飛び出ている絞り環との連係アームも曲がっていたので距離環を回す際のトルクムラ原因の一つになっていました。変形を正し改善させています (問題点の⑦)。

↑塗布したヘリコイドグリースは黄褐色系グリース粘性:中程度+軽め」を使い分けて塗りました。ピント合わせ時に楽に操作できるよう改善できていますが、そうは言っても人によって「普通」或いは「重め」に感じるトルク感です。これ以上軽くできません。また全域に渡って「ほぼ均一」なトルクですが僅かにトルクムラが残っています。距離環の「叩き込み処置」を実施しましたが、当方には真円度を検査する機械設備が無いのでこれ以上改善できません。申し訳御座いません・・。

↑久しぶりになかなかハードな内容でしたが、無事に充分な操作性を発揮できる状態まで改善できました。

無限遠位置 (当初バラす前の位置からさらにオーバーインフ量を増大させて調整しています)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環の絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。オーバーインフ量が多い点は無限遠合焦させる目的であり、且つ今回の個体特有の処置ですのでご了承下さいませ。申し訳御座いませんが、ご納得頂けない要素があっても会員登録が「本会員」様ではないので「減額申請」できません

なお、その分最短撮影距離の位置がズレてますから仕様の20cmから短縮されて18cmくらいになっていると思います (実測なのでアバウトです)。

↑当レンズによる最短撮影距離20cm附近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。

このモデル本来の鋭いピント面が戻っていると感じます・・。

↑絞り環を回して設定絞り値「f4」で撮影しています。

↑さらに回してf値「f5.6」で撮りました。

↑f値は「f8」になっています。

↑f値「f11」になりました。

↑f値「f16」です。

↑最小絞り値「f22」での撮影です。当初バラす前の実写チェックでは、この時点で回折現象の影響を受けて大幅にコントラスト低下を招いていましたので、絞り羽根が閉じすぎていた影響ですね(笑)

このモデルは最小絞り値「f22」でも相応に背景がビミョ〜にボケるのが「」です。結局、過去メンテナンス時の「観察と考察」が不十分であり (そもそも改善させる気持ちが無い?)、具体的に様々な問題点 (一部は故意) を招いたまま平気で仕上げていました。「原理原則」に 則り考えればオールドレンズの各部調整は自ずと決まってきます。

しかしそうは言っても当方の技術スキルではこのような不本意なる整備に終わりましたこと、お詫び申し上げます。今回のオーバーホール/修理ご依頼、誠にありがとう御座いました。