◎ CORFIELD (コーフィールド) LUMAR 95mm/f2.8 zebra《ENNA製》(L39)

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今回の掲載はオーバーホール/修理ご依頼分のオールドレンズに関する、ご依頼者様や一般の方々へのご案内ですのでヤフオク! に出品している商品ではありません。
写真付の解説のほうが分かり易いこともありますが、今回に関しては当方での扱いが初めてのモデルでしたので、当方の記録としての意味合いもあり無料で掲載しています。
(オーバーホール/修理の全行程の写真掲載/解説は有料です)
オールドレンズの製造番号部分は画像編集ソフトで加工し消しています。


CORFIELDと言う会社のオールドレンズは市場ではほとんど見かけず、どちらかと言うと珍品の部類に入るでしょうか。マウントがライカ判スクリューマウント「L39」(フランジバック:28.8mm)フォーマットですが、距離計連動の構造を採っていないのでそのままライカ判カメラに装着しても目測でしか使えません。
そもそもCORFIELD社が発売していたフィルムカメラは「periscope (潜望鏡)」方式のレンジファインダーカメラでしたから、左の写真のようにシャッターを巻き上げるとマウント内部に本当に潜望鏡が降りてきます (シャッターボタン押し込みで瞬時に収納される)(笑)

CORFIELD (コーフィールド) 社は、イギリスのグレートブリテン島中部に位置するバーミンガム近郊のスタッフォードシャー (現ウェスト・ミッドランズ州) Wolverhampton (ウォルバーハンプトン) と言う街で、創業者ケネス・ジョージ・コーフィールド卿 (1980年ナイト称号拝受) によって1948年に創設されたフィルムカメラメーカーです。

創業期には露出計「Lumimeter/Telemeter」やビューファインダー、アクセサリなどを開発して生産していましたが、1950年に英国のE Elliott Ltd and The British Optical Company (エリオット&英国光学会社) による資金提供を受けて、1954年には念願のレンジファインダーカメラ「Perifelx 1」や光学レンズの発売に漕ぎ着けています。

光学レンズ設計も、やはりロンドンにあるWray Optical Works (レイ光学製造) 社のパテントに拠りますが、その後生産を旧西ドイツの光学メーカーENNA社に委託しWrayパテントに基づき生産し、最後には光学設計を完全にENNA社に切り替えたようです。

【CORFILED社製オールドレンズ】

  • CORFILED内製 (Wray PAT.):RETRO-LUMAR 28mm/f3.5 (silver)
  • CORFILED内製 (Wray PAT.):RETRO-LUMAX 35mm/f3.5 (silver)
  • CORFILED内製 (Wray PAT.):RETRO-LUMAX 35mm/f2.8 (silver)
  • CORFILED内製 (Wray PAT.):LUMAX 45mm/f3.5 (silver)
  • CORFILED内製 (Wray PAT.):LUMAX 45mm/f2.8 (silver)
  • CORFILED内製 (Wray PAT.):LUMAX 45mm/f1.9 (silver)
  • CORFILED内製 (Wray PAT.):LUMAR 50mm/f3.5 (silver)
  • CORFILED内製 (Wray PAT.):LUMAR 50mm/f2.8 (zebra)
  • ENNA製 (Wray PAT.):LUMAX 50mm/f1.9 (zebra)
  • ENNA製:RETRO-LUMAX 28mm/f3.5 (zebra)
  • ENNA製:RETRO-LUMAX 35mm/f2.8 (zebra)
  • ENNA製:LUMAX 50mm/f2.8 (zebra)
  • ENNA製:LUMAX 50mm/f2.4 (zebra)
  • ENNA製:LUMAR 95mm/f2.8 (zebra)

・・他にも中望遠〜望遠レンズまで発売していましたが、オールドレンズに関する詳しいことはネットを検索してもあまり出てきません。

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今回オーバーホール/修理を承ったモデルは、1959年にCORFIELD社から発売されたフィルムカメラ「Periflex 3」用交換レンズ群として用意された、旧西ドイツのENNA社によるOEM生産品で中望遠レンズの『LUMAR 95mm/f2.8 (L39)』です (オールドレンズの発売は1961年)。

このモデルもCORFILED社の他のオールドレンズ同様、距離環を回すと距離指標値の最短撮影距離「1m」を越えて、さらに回り何と一周回ってしまいます。上の写真は左側が無限遠位置「∞/Inf」で、右側が最短撮影距離位置まで鏡筒を繰り出して突き当て停止した位置ですが、やはり「∞/Inf」の位置に重なっています(笑)
オーバーホール後に実写してみると、被写体からフィルター枠端までの距離は「僅か75cm」しかありませんでした。
そもそもフツ〜の一般的なオールドレンズでは、距離環が一周回ってしまうモデルが非常に希ですから (数本しか覚えが無い)、そもそもCORFIELD社の製品に対する思想が反映されているのではないかと考えます。と言うのも、当時のライカ判フィルムカメラ向けオールドレンズは最短撮影距離が短いオールドレンズが存在しなかったので、CORFIELDには何かしらの拘りがあったのではないかと考えています。

  

上の写真はFlickriverにてこのモデルでの実写を検索した中からピックアップしましたが、そもそもマイナーなオールドレンズなので実写がたったの3枚しかアップされていません(笑)
左端から「円形ボケ・リアル感・質感表現能力」の印象を感じます。
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)

当方がこのCORFILED社製オールドレンズに非常に惹かれている最大の理由は「リアル感」です。現場の雰囲気はもちろんのこと、天候や気温、或いは周囲の音までも聞こえてきそうな臨場感溢れる写りに感嘆してしまいます。

ところが実際の写真には、非常に緻密な解像度の高さや階調幅の広さなど、およそ優れていると言われそうな要素が必ずしも伴っていません。今回のモデルも多少黒潰れの傾向が見てとれますが、だからと言って駄目玉にはならないと言うのが当方の考え方です。

今回のモデルで特に感じたのは、被写体の素材感や材質感を写し込む質感表現能力の高さです。収差や周辺部の流れなども手伝い、よりリアルな表現性になっているのかも知れませんが、金属質の感じや冷たさ、或いは距離感や空気感と言った立体感などが感じられる (写真に写し込める) オールドレンズと言うのは、それほど多くもないですし、必ずしも価格や周囲の評価に連動していないと考えます (但しライカ製オールドレンズは別ですが)。

特に上の写真で右端の白黒写真は、Flickriverで見てオドロキを感じたほどです。白黒でこの馬の材質感や横の支柱の金属質、或いは縞模様のペンキ塗りの質感まで感じられるのがビックリです。

ネット上を検索すると、一部には4群4枚のエルノスター型光学を案内しているサイトがありますが、今回バラしてみると光学系は3群3枚の典型的なトリプレット型でした。

 

と言うのも、このモデルは旧西ドイツのENNA製中望遠レンズ「ENNALYT 95mm/f2.8 zebra」のOEMモデルだからです。当方では2015年に一度ENNALYTをオーバーホール/修理した経験があるのですが、ハードディスクのクラッシュですべてのデータが消失してしまい記憶もありません (最近忘れ易いので)。

 

当時のENNAでは別シリーズとしてレンズヘッド (レンズの鏡筒部分) をゴッソリ取り外して別の焦点距離のモデルと着脱交換できる「sockel (ゾッケル)」システムの製品群がありましたから、そちらのほうでも用意されています。但し、最短撮影距離は1.6mと伸びているので光学系の設計が異なる可能性もあります。

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。バラしてみると随所にENNA製オールドレンズの設計思想が見え隠れしています。鏡胴が「前部」と「後部」の二分割方式なのですが、そもそも距離計連動の構造を採っていないので構成パーツ点数は少なめです。

↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒です。ヘリコイド (オスメス) はこのモデルでは鏡胴「後部」側に配置されています。

↑フッ素加工が施された14枚の絞り羽根を組み付けて絞りユニットを完成させます。絞り羽根を開閉制御している「開閉環」と言う円形パーツが絞りユニットの構成パーツとして存在しますが、このモデルでは「開閉環」だけが唯一プラスティック製でした。ENNA製オールドレンズでも時々見かける方式です。

↑絞りユニットを固定する構成パーツが存在せず、光学系第2群にその役目を肩代わりさせていますから早々に第2群をセットしてしまいます (そうしないと絞り羽根がバラけてしまう)。

↑だいぶ奥まった位置にセットされるので、ここで先に光学系後群も組み付けてしまいます。ご依頼内容の「カビ除去」は完了していますが、コーティング層を進捗したカビだったのでカビ除去痕が残っています。

↑上の写真「絞り値キー環」は単なる環 (リング/輪っか) ですが、下側に「溝」が用意されており絞り環のクリック感を実現する役目です。当然ながら、この環の固定位置がズレると絞り環操作で絞り値とクリック感がチグハグになってしまいます。
当初バラす前のチェックで絞り環指標値とクリック位置がズレていたので調整しています。

また「ベース環」は絞り環用のベースで、この上に絞り環が被さります。なお、このモデルはフィルター枠が光学系第1群 (つまり前玉) の固定環の役目を担っているので、上の写真のとおりまだ前玉をセットできないままなのです。

↑ここでようやく前玉を組み付けてフィルター枠で締め付け固定します。このフィルター枠には1箇所イモネジ (ネジ頭が無くネジ部にいきなりマイナスの切り込みを入れたネジ種) 用の穴が用意されていますが、内部のイモネジが詰まっているようで全く外せません。

従って、当初バラした時も単に回して外しただけでしたが、同様組み付け時も回して締め付けただけですから、フィルターを強く装着したりすると外す際に一緒にフィルター枠が回って外れる (つまれ前玉が落下する) 危険があるのでご留意下さいませ。本来ならばイモネジで締め付けてフィルター枠が外れないようにするべきですが、ドリルで切削後にイモネジのネジ山が削れてしまう経年もあるので (つまりネジ穴が深すぎるから) 今回は処置できませんでした。申し訳御座いません。

鏡胴「前部」はこれで完成なので、この後は鏡胴「後部」の組立工程に移ります。

↑鏡胴後部はヘリコイド (オスメス) とマウント部だけですから非常に簡単です。上の写真は指標値環ですが裏側にヘリコイド (オス側) が切削されています。

↑繰り出し量がとても長いのでヘリコイド (メス側) も長めのサイズです。鏡胴「前部」にセットしたところです。

↑このモデルは鏡筒が回転して繰り出されていく「回転ヘリコイド方式」を採っていますから指標値の「Ι」マーカーに対して鏡筒側は絞り環共々クルクルと回って繰り出されていきます。

必然的に絞り環操作のトルクが重すぎると、距離環を回してピント合わせした後のボケ量調整時にピント位置がズレてしまいます。それでは使い辛くて仕方ないので、今回のオーバーホールでは絞り環の操作性 (クリック感) を軽めにセットしています。同時に距離環側のトルクは「気持ち重め」にしたかったのですが、当初バラす前の時点で非常に重いトルク感でした (ピント合わせに支障がある重さ)。

バラしたところヘリコイドのネジ山には白色系グリースが過去メンテナンス時に塗布されていました。経年劣化から粘着化しておりネジ山の摩耗粉が濃いグレー状になってビッチリ附着していました。

オーバーホール工程で組み上げていく際に、今回の個体で最も時間が掛かってしまったのが、この距離環のトルク調整です。洗浄後に黄褐色系グリース「粘性:中程度」を塗って組み上げても、トルクムラが酷くてバラす前とさほど変わりません。

グリース種別を変更しながら組み直すこと6回。トルクが全く改善しません。距離環を無限遠位置から回して最短撮影距離位置までの間で2箇所ほどどうしても抵抗/負荷/摩擦が急激に増大して硬くなります。

さらにバラしてヘリコイドのネジ山を注意深く観察しながら、トルクが増大していると思しきネジ山をチェックしますが、なかなか裸眼で分かるモノではありません。仕方なく「磨き研磨」を再度少し施しながら、グリースを塗って組み上げトルクを確認し、再びバラして「磨き研磨」しては組み上げてを4回繰り返しました。

都合10回ほどの組み直しで最もトルクムラが少ないと感じられる状態まで改善できましたが、それでもトルクムラは解消されません。当方で用意しているグリース種別と粘性ではこれ以上の改善ができません。申し訳御座いません。

塗布したグリースは「粘性:軽め」を使いましたので、これ以上トルクを軽くすることもできません。もしも、ご納得頂けないようであればご請求額より必要額分減額下さいませ。スミマセン。

この後は距離環と絞り環を組み付けて無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (それぞれ解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行えば完成です。

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DOHヘッダー

ここからはオーバーホールが完了したオールドレンズの写真になります。

↑ENNA製の「ENNALYT 95mm/f2.8 zebra」のオーバーホール経験が無いので (2015年実施は光学系清掃のみ) 内部構造が全く同一なのか否か不明ですが、当初の状態「光学系内のカビと距離環の非常に重いトルク感」からはだいぶ改善できていると思います。が、しかしトルクムラが残っており完璧ではありません。申し訳御座いません。

↑後玉表面のコーティング層にカビ除去痕が残っていますが、写真には影響しないレベルです。当初バラして際には各群の全ての硝子レンズ面に「油膜」が相当附着していたのでキレイになり、光学系内の透明度が上がっています。

また、そもそもバラす前の実写チェック時点で「ピント面が甘い」描写だったのですが、バラしたところ第2群と第3群の締め付けが緩んでおり、特に第3群側が半周近く回っていたのが原因のようです。オーバーホール後の現在は納得できる鋭さに戻っていると考えます。

↑光学系後群はオーバーホール工程の途中で硝子面を撮影しています。

↑フッ素加工が施された14枚の絞り羽根もキレイになり (一部赤サビ除去しました)、絞り環のクリック感共々確実に駆動しています。絞り環のクリック感のほうを僅かに軽めに調整しました (前述の距離環との関係のため)。

ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感がほとんど感じられない大変キレイな個体です。当方による「磨きいれ」を筐体外装に施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。また、距離環や絞り環などのゼブラ柄ローレット (滑り止め) 部分も「光沢研磨」を施したので、当時のような艶めかしい眩い光彩を放っています。

↑塗布したヘリコイド・グリースは黄褐色系グリース「粘性:軽め」ですが、これ維持用軽くできません。またトルクムラが最低2箇所で生じていますが、ネジ山の問題のようなのでこれ以上改善できません。

↑このモデルは、マウント部は上の写真ゼブラ柄ローレット (滑り止め) 部分で、同じ「L39」ですが、その先にプラスして「延長筒 (スリーブ筒)」が組み付けられて適正な光路長を確保しています。つまり「L39→L39延長筒」です。

今回オーバーホールでは当方所有LMマウントアダプタに装着して「Ι」マーカー位置がピタリと真上に来るよう位置調整しました。また、絞り環指標値とクリック感との整合性も採らせています。もちろん実際の絞り値との整合性もチェックで済ですし光軸確認も済んでいますから以下実写のとおり色ズレも光路長不足 (つまり甘いピント面) も生じていません。

↑当レンズによる最短撮影距離1m附近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。

↑絞り環を回して設定絞り値「f4」で撮っています。

↑さらに絞り環を回してf値「f5.6」で撮りました。

↑f値「f8」になっています。

↑f値「f11」になりましたが、回折現象 (お城中央のコントラスト低下) が出始めています。

↑f値「f16」です。

↑最小絞り値「f22」での撮影です。

このたびは3カ月間もの長きに渡りお待たせし続けてしまい、本当に申し訳御座いませんでした。お詫び申し上げます。オーバーホール/修理のご依頼、誠にありがとう御座いました。