◎ Carl Zeiss Sonnar 85mm/f2.8 (SL)(QBM)
オーバーホールのために解体した後、組み立てていく工程を掲載しています。
一部を解体したパーツの全景写真です。一部と言ってもほぼすべてに近い状態です。
この「一部解体できていない」ことが、どんな影響を及ぼすのかを以下に解説していきます。
マウント部を写していますが「絞り環」を固定するリング状の「固定環」があります (矢印部分)。
薄い厚みのリングなのですが、固定しているネジはむろんカニ目穴すら存在せず、ただ回して外すのみです。
しかし固着していて外せませんでした。当方でも固着した「環」を外す工具は幾つか持っていますが、そのすべてが効果なしでダメでした。
何か専用の工具をメーカーでは使っているのでしょうか?
この「固定環」を外さないと一般的な手順での解体/組立が一切できないのは、実はこの前修理してオーバーホールを実施した依頼品で同じく「Carl Zeiss Planar 50mm/f1.4 HFT (QBM)」の時に知らなくてしばらく考えて分かりました。
依頼品のPlanarは難なく外せたので良かったのですが、この個体は完全に固着しています。
こうなると鏡筒やヘリコイドなどを外すには「裏の手」を使わないとダメですが、外して清掃した後の組み立てが相当に面倒で時間を要します。
今回は2本のCarl Zeiss製レンズをバラしましたが、2本共にこの固定環が固着しており外せませんでした。
今後はCarl Zeiss製レンズは避けようと心に決めた次第です・・。
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ここからは解体したパーツを実際に組み上げていく組立工程写真になります。
まずは絞りユニットや光学系前群を収納する鏡筒です。
実際に絞り羽根を1枚ずつ組み付けて絞りユニットを完成させます。この個体は絞り羽根が粘っていたのでキレイになりました。
次の写真は完成させた絞りユニットの裏側 (マウント側) ですね。このような感じになっています。
写真手前右側の真鍮製パーツが「絞り連動カム」で絞り羽根の開閉幅を決めているパーツです。
写真手前の左側黒色のコの字型は「直進キー」と言って距離環の回転するチカラを前後動の直進するチカラに変換する役目です。
写真奥に垂直に立っている棒状が「絞り連動アーム」でマウント部に突出している「絞り連動ピン」の動作に連係して絞り環の絞り値に従って、絞り羽根を実際に開閉させる役目ですね。
上の写真の3つのパーツ部 (絞り連動カム・直進キー・絞り連動アーム) は説明のために組み上げた状態で写真を撮っていますが、実はこの状態ではレンズの鏡胴の中に入りません。
それは前述の通りマウント側の絞り環用「固定環」が固着していて外れていないからです。ヘリコイドをネジ込んで3つのパーツを組み付けて最後にマウント部を被せて固定環で締め付け完成・・これが本来の手順です。
今回はとにかくヘリコイドをネジ込む際には「ハダカ状態 (ヘリコイドだけの状態)」でないとこれらパーツが出っ張っていてはネジ込める空間がありませんから、ヘリコイドだけでネジ込みます。
これら3つのパーツは個別に事前にマウント内部にバラバラと入れておいて(笑)・・ヘリコイドをネジ込んだ後に、何とマウントの「穴 (光学系後群を外しているので大きな穴が空いている状態)」からピンセットやドライバーやらを使って組み付けて、上の写真のように復元します。
多少なりともレンズをパラした経験をお持ちの方ならば、この作業が如何に大変なのかはお分かり頂けるかと思います。
何しろマウント部との間のスキマ (作業空間) は微々たるもので限られており、しかもヘリコイドは「回転させて」ネジ込むワケですから、これら3つのパーツもヘリコイドと一緒に回っていかないと途中で引っ掛かってヘリコイドが入りません。
それを実際にやったワケです・・(笑) もう二度とイヤですねぇ〜。懲りました。
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次の写真はマウント部と絞り環です。前述の通り絞り環用の「固定環」がバラせていないのでほぼ組み上がってしまっている状態です。
この中に先ほどの3つのパーツをバラバラと入れ込んでヘリコイドをネジ込んでいきますが、ヘリコイドには「オス」と「メス」がありますから、それらを組み付けた状態でないとダメです。
上の写真で見えているネジ部はヘリコイド(メス側)をネジ込むための距離環用のネジ部です。
実際は下の写真のようになります (これも説明のために一旦組み上げています)。一番大きな外径のネジ山がある環が上の写真のネジ部にネジ込まれます。
その中にヘリコイド(オス側)の鏡筒が入っていますね。そして例の3つのパーツが組み付けられています。
この状態がマウント部の内部での完成状態になるのです。
この作業を実際に行って、完成したのが下の写真です。
ちゃんと距離環だけを組み付ければ良い状態になっていますね。鏡筒(ヘリコイド:オス側)も正しくネジ込まれています。
解説すると非常に簡単なお話ですが・・もう二度とやりたくはないです(笑)
この個体は残念ながら光学系の状態が外観ほどは良くはありませんでした。
光学系前群です。写真左斜め上部にカビ除去痕があり、中央付近は極微細なコーティング劣化があり薄く写真にも写りました。しかし拭きキズは微細過ぎて写りませんでした。
前玉外周部にメラメラした感じの微細な反射が見えますが、これは前玉の切削時のコバ塗膜が経年劣化で剥離し始めている部分です。剥がしての再塗装は光軸ズレを生じる危険性があるので行いません。
やはり写真左斜め上方にカビ除去痕があります。コーティング劣化も相応にありますね。ポツポツ写っているのもカビ除去痕です。白色の円形の点がコーティングスポットで5点ほど目視できるでしょうか。
いずれも写真への影響は実写してもありませんでした。全面のカビ除去痕ではないので、逆光時でも影響はないと思います。
85mmですから焦点距離で言えば中望遠なのですが、大変コンパクトな筐体です。標準レンズの50mmとあまり変わらない大きさですね。
但し、LED光照射では第2群にやはりカビ除去痕が浮かび上がります。
ここからは鏡胴の写真です。経年の使用感をあまり感じさせない状態の良い外観を維持しています。
距離環や絞り環の駆動も滑らかになりました、距離環の「無限遠」位置にて指先に「クッ」と感じる程度の極微細なトルクムラがあるだけで操作上の支障には一切なりませんね。
距離環と絞り環の「銀飾り環」が印象的です。
光学系が申し分なければ良かったのですが,最大限にカビ除去と清掃を施しました。
当レンズによる最短撮影距離1m附近での開放による実写です。ピントの山が大変掴み安く、その写りは「さすが」です!