◎ OLYMPUS (オリンパス光学工業) OM-SYSTEM ZUIKO MC AUTO-W 35mm/f2《前期型》(OM)
(以下掲載の写真はクリックすると拡大写真をご覧頂けます)
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※解説とオーバーホール工程で使っている写真は現在ヤフオク! 出品中商品の写真ではありません
今回完璧なオーバーホールが終わって出品するモデルは、OLYMPUS製
広角レンズ・・・・、
『OM-SYSTEM ZUIKO MC AUTO-W 35mm/f2《前期型》(OM)』です。
オーバーホール/修理ご依頼分として承る中には数多くのOLYMPUS製オールドレンズがあり ますが、オーバーホール済でヤフオク! に出品するとなると、OLYMPUS製オールドレンズは 実に3年ぶりになります。
この当時のOLYMPUS製オールドレンズのほとんどのモデルが複雑な内部設計なので、完全に解体した上で微調整を完璧に仕上げたオーバーホール済でヤフオク! 出品しても「作業対価分の回収ができない」ことから「普段敬遠しているオールドレンズ」の一つです。
従って今回オーバーホール済でヤフオク! に出品する「即決価格」で落札されなかった場合は再びまた数年ほど次の出品を見送る「普段敬遠しているオールドレンズ」に戻ります(笑)
今回扱うモデルは初めてになりますが、当初バラす前の実写チェックではそれほど鋭いピント面ではない、開放f値「f2」と明るいながら少々期待ハズレ的な印象を受けました。
しかし完全解体してバラしたところすぐにその原因を掴みました。
【甘いピントに落ちてしまった原因】
過去メンテナンス時に於ける光学系清掃後の格納ミス
(光学系格納に関する考察と処置をせずにそのまま単に組み上げただけだから)
・・と言う原因でした(笑)
今回の個体内部に塗られているグリースは「白色系グリース」ですが、グリースがまだ新しく「おそらく数年内の過去メンテナンス」と推測できます。しかし内部は至る箇所に「液化した経年の揮発油成分」がヒタヒタと溜まっており、特に一部は光学系内にも侵入している状況でした。
↑上の写真 (2枚) は、左側がロシアンレンズ「INDUSTAR-61 L/Z MC 50mm/f2.8」と言う「星ボケ」表出で有名な標準レンズから取り出した光学系で、3群4枚のテッサー型構成です (説明用に掲載しています)。一方右側が今回の個体から取り出した一部の光学系です。
するとロシアンレンズは「アルミ合金材による一体成形」で今回の個体は「真鍮 (黄銅) 材に よる一体成形」なのが分かります。普通一般的なオールドレンズの光学系は、光学硝子レンズを格納した後に都度「締付環」で締め付け固定していく格納方法が多いです。
ところが上の写真のオールドレンズは両方とも「光学硝子レンズを格納筒の中にストンと落とし込んだまま各硝子レンズが固定されない」方式であり、各硝子レンズを積み重ねた最後に「締付環」でまとめて締め付ける方式を採っています。
従って単純に清掃した光学硝子レンズを格納筒に落とし込んで「締付環」で締め付け固定すると適切ではない場合があります。
このブログをご覧の皆さんは何が違うのか推測できるでしょうか?
ロシアンレンズのほうでこの「光学硝子レンズ一体成形による落とし込み方式」を採っているモデルは実は意外と多いのですが、その目的を過去メンテナンス者は全く考察していません。
【ロシアンレンズの光学硝子レンズ落とし込み設計】
光学硝子レンズ格納筒の中にバラバラと落とし込んだ後、最後に「締付環」で締め付け固定する方式は「製産工程の簡素化」と「製産数量の増大」を狙った処置/設計。
・・と言えます。
要は当時のソ連では複数工場による並行生産で、且つこのような設計を積極的に採用する事で「増産体制」を敷いていたと考えられますが、この「落とし込み方式」による光学系の精度は「結果オ〜ライ」的な概念で、最後の製品検査だけにかかっていたと推測できます (要は製品の歩留まりの良さを望めない方式)(笑)
では今回のOLYMPUS製モデルの光学系はどうして「落とし込み方式」を一部に採用したのでしょうか?
ロシアンレンズと同じように「製産時工程の簡素化による増産体制」を狙ったのでしょうか?
違いますね・・(笑)
答えは以下のように推測できます。
① 筐体外装のコンパクト化を最大限に実現したまま「光学硝子レンズの専有面積を確保する
一つの手段」として積極的に「落とし込み方式」を併用した。
② さらに光学系の構成枚数を減らさずに「可能な限りの格納スペースを確保」した。
・・この2点が大きな理由ではないでしょうか。
つまりオールドレンズの筐体外装に対して「縦方向と横方法の両面で光学系のスペース確保を狙った設計」として、光学系内の一部に「落とし込み方式」を併用したのだと考えられます。
それは「締付環」の場合はそのネジ山が必要ですから、設計面で考えれば「締付スペース」が各光学硝子レンズ別に必要になってきます (縦方向/製品全高面でサイズが増大)。また同時に「締付環」の存在により鏡筒の格納筒外径サイズも大型化してくると言えます (横方向/鏡筒の外径サイズ増大)。
すると「他のオプション交換レンズ群同様にコンパクトな製品にこだわりたかった」しかし「光学性能も徹底的にこだわりたかった」と言う相反するこだわりの結果としてこの「光学 硝子レンズの一部落とし込み」を採用に踏み切った大きな理由ではないでしょうか。
これらの考察から何が導き出されるかと言えば、ロシアンレンズのほうは「光学精度の許容値が広め」であると考えられ (多少のピント精度誤差を許容)、一方OLYMPUS製モデルのほうは「他の通常設計品と同等レベルのピント精度確保が前提」ではなかったかと推測できます。
ここにロシアンレンズとの大きな違いが顕在しており、それはピント面の精度が結果として 如実に表れるのはむしろ今回の個体のほう (OLYMPUS製オールドレンズのほう) だと言えるのではないでしょうか?
実際今回の個体をバラした直後は上の写真で「真鍮 (黄銅) 材に酸化/腐食/錆び」が生じていました。つまり光学硝子レンズ格納筒の中に格納する際、その抵抗/負荷/摩擦の分だけ「光路長ズレが発生」していたと推測できます。従って今回のオーバーホールではその点を考慮して「丹念に磨き研磨」を施し、組み込み作業を行ったところ「本来の鋭いピント面を確保」できました(笑)
もっと簡単に言ってしまえば「落とし込み格納箇所の格納筒側内壁は梨地仕上げ」ですから、それは裏を返せば必然的に「一体成形の真鍮 (黄銅) 材は鏡面仕上げ」なのが一目瞭然です。
これが「原理原則」であり (鏡面仕上げと梨地仕上げ) 且つ「観察と考察」の結果 (落とし込みの理由) による、組み上げ工程の処置変化に繋がるべき話だと言えます。過去メンテナンス者はそれを蔑ろにしていた為に、結果的に「甘いピント面に堕ちた」と言えますね(笑)
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1972年7月に発売された当時のOLYMPUS初の一眼レフ (フィルム) カメラ「OM-1」発売に際し、用意されたオプション交換レンズ群 の中の広角レンズが今回のモデルです (1973年5月にOM-1と改名)。
念の為に当時の取扱説明書をチェックし、そのオプション交換レンズ群一覧の中に今回のモデルが既に掲載されているのを確認しました。
ところがその一覧表に載っているモデル銘は「H.ZUIKO」になっています。一方今回の個体は「ただのZUIKO」刻印です。
そこで念の為にネット上で確認できるサンプルを70本ほどチェックしました。
すると意外な結果が出てきました。
① 製造番号をもとに昇順で並べると「製造番号:1000xx」からスタートに見える。
② マルチコーティングを示す「MC」刻印有無が製造番号で逆転している。
(後期の製産品に刻印が無い)
③ 当初より「ZUIKO」刻印しかヒットせず「H.ZUIKO」個体が見つからない。
④ 極早い時期に (少量生産で) コーティングが「グリーンからパープルへ」切り替わり。
これら4点の特徴が掴めました。特にコーティング層については同じマルチコーティングでも「極初期生産ロット品のみに限定してグリーン色の光彩を放つ」個体である事が分かります。
従って当初1972年の一眼レフ (フィルム) カメラ「OM-1」登場の タイミングで今回のモデルが用意されたように見えますが、実際は1975年に発売された「OM-2」登場時点で初めて「ZUIKO MC」銘としてこのモデルが発売されたのではないかと踏んでいます (実際に取扱説明書を確認済)。
つまり「H.ZUIKO」銘の「MC無しモデル」は存在していないと考えています。
ちなみに「銀枠」はフィルター枠と絞り環直前に配された「シルバーな飾り環」を意味し、他のオプション交換レンズ群も同様「初期のモデルバリエーションでは銀枠飾り環を有していた (後に省かれる/完全な黒色鏡胴)」と言えます。
【モデルバリエーション】
※オレンジ色文字部分は最初に変更になった諸元を示しています。
前期型:1975年発売
コーティング層:グリーン色の光彩
レンズ銘板:ZUIKO MC
銀枠飾り環:あり (フィルター枠/絞り環直前)
コーティング層:パープル色の光彩
レンズ銘板:ZUIKO MC (後にMCが省かれる)
銀枠飾り環:無し (完全黒色鏡胴)
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上の写真はFlickriverで、このモデルの特徴的な実写をピックアップしてみました。
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)
※各写真の著作権/肖像権がそれぞれの投稿者に帰属しています。
◉ 一段目
左端から円形ボケが滲み破綻して単なる背景ボケへと変わっていく様をピックアップしていますが、コマ収差の影響や口径食などによりそもそもキレイな真円の円形ボケ表出自体がおそらく難しいモデルではないでしょうか。しかし逆に言えばむしろ背景の収差ボケの乱れよう/汚さが整っている (目立ちにくい) とも言え、その意味では円形ボケにこだわらない人にはむしろメリットがあります。
◉ 二段目
円形ボケがさらに滲んで背景ボケへと変わっていく様をピックアップしていますが柔らかく優しく滲んでいくので前述のように汚い印象の背景ボケにはなりにくいように感じます。
◉ 三段目
左側2枚の海の写真ではダイナミックレンジの広さがモノを言ってコントラストが高めながらもとても美しい青空の表現に至っています。単に真っ青なブル〜で仕上がってしまうと少々違和感なのですが、上手くビミョ〜な海の色合いとマッチングしていると思います。パースペクティブも均整が摂れており、ネット上で悪評を得るほどの歪みではないように見えますが如何でしょうか?
◉ 四段目
左側2枚でダイナミックレンジの広さをピックアップしていますが明暗部の潰れをギリギリまで耐え凌いでいます。また開放f値「f2.0」ながらもご覧のように非常に狭い (浅い) 被写界深度なので、まるで標準レンズのように見えてしまいます(笑)
今回明るいこのモデル、焦点距離:35mmを扱う気持ちになったのは理由があります。
カメラボディ側がフルサイズのデジカメ一眼/ミラーレス一眼でも良いのですが、敢えて「APS-C撮像素子」モデルにお使い頂く事で「35 ミリ判換算 (1.5倍) 約52mm」と言う「標準レンズ的な画角で使えるオールドレンズ」としてチョイスした次第です。
と言うのも本来の標準レンズはその画角が「47度」程度ですから、焦点距離:35mmの画角「63度」と広めながらも「APS-Cモデル」なら標準レンズ域の画角としてそのまま使えるのが魅力と考えた次第です。逆に言えばだからこそ開放f値の明るさにこだわり被写界深度の浅いモデルをチョイスしました (標準レンズ的に使うから)。
フィルムカメラで使うなら広角レンズのままですが (画角63度) デジカメ一眼/ミラーレス一眼にマウントアダプタ経由装着するとして、特に「APS-C撮像素子モデル」のカメラボディで使うなら「画角は63度と広めのまま焦点距離52mm相当にシ〜ンを切り取った写真を撮れる」ので、今回は敢えて広角レンズの標準レンズ的な使い方としてカメラボディ側も含めて提案している次第です。
このように考えると、はたして最短撮影距離:30cmまで近接撮影ができる標準レンズがどのくらい存在するのかと言う話になり (フルサイズで使うなら)、本当に拡大して撮影するなら デジカメ一眼/ミラーレス一眼で「クロップ撮影」すれば良いワケで、それゆえ「画角63度」のちょっと広めサイズが意外とクセになると当方は受け取っています。
光学系は7群8枚のレトロフォーカス型構成ですが、前述のとおり第2群と第5群〜第6群に一体成形の「落とし込み方式」を採っています。
従って光学系前群側は第2群〜第3群がまとめて締め付け固定になりますし、光学系後群側も第5群〜第7群まで全てまとめての一括締め付け固定ですから、必然的に「光路長確保にシビア (神経質)」な光学設計とも言えます。
一方右構成図は、各群のコーティング層が放つ光彩をカラーリングで 着色してみました。これは今回の個体に実装している光学硝子レンズを
1枚ずつ清掃する際に記録しておいた内容です。
すると第1群 (前玉) だけが少々濃いめの「濃いグリーン」で第2群がどちらかと言うと「黄緑色」的な光彩を放ち、他はほぼ「エメラルドグリーン」のような色合いを放ちます。
するとここで一つ疑問になるのが「後期型でのコーティング層光彩」であり、どの角度から 覗いても「パープルアンバーな光彩」しか視認できませんから、おそらく各群のコーティング層にはグリーン色の蒸着がされていないとみています (まだ扱いが無いので不明)。
オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。
↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。内部構造はこの当時の他のOLYMPUS製オールドレンズとほぼ同じ設計概念で作られていますが、各モデル別に異なるのは「設定絞り値の伝達構造」とさらにマウント面の「絞り連動レバー」からの絞り羽根開閉に係る「チカラの伝達経路」設計がバラバラなので、メンテナンスする際は特にこの「チカラの伝達経路の確保」が最大の重要事項になります。
↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒 (ヘリコイド:オス側) です。
絞り羽根には表裏に「キー」と言う金属製突起棒が打ち込まれており (オールドレンズの中にはキーではなく穴が空いている場合や羽根の場合もある) その「キー」に役目が備わっています (必ず2種類の役目がある)。製産時点でこの「キー」は垂直状態で打ち込まれています。
◉ 位置決めキー
「位置決め環」に刺さり絞り羽根の格納位置 (軸として機能する位置) を決めている役目のキー
◉ 開閉キー
「開閉環」に刺さり絞り環操作に連動して絞り羽根の角度を変化させる役目のキー
◉ 位置決め環
絞り羽根の格納位置を確定させる「位置決めキー」が刺さる環 (リング/輪っか)
◉ 開閉環
絞り羽根の開閉角度を制御するために絞り環操作と連動して同時に回転する環
↑上の写真は「絞りユニットのベース部分」を撮影しています。この当時のOLYMPUS製オールドレンズのほとんど全てのモデルで絞りユニットにはご覧のようなベース環が附随します。
↑実際に絞り羽根を組み付けた状態を撮影しましたが、単に絞り羽根を刺しただけの状態なので、このまま反対にひっくり返せばもちろんバラバラと絞り羽根が脱落します。従って右横奥に写っている「メクラ」を被せる事で絞り羽根の脱落を「単に防いでいるだけ」と言う簡素な概念で設計されているのがOLYMPUS製オールドレンズに実装されている「絞りユニット」の大きな設計上の特徴です。
ちなみにベース環右隣にガチャガチャと飛び出ている円弧を描いたアーム類は「制御系パーツ」です。まるで知恵の輪のように絡まっています (外し方があるので本当に知恵の輪のよう)(笑)
↑絞り羽根を組み付けてベース環を完成させたところです。ご覧のように「制御系パーツ」がビッシリと組み付けられていますが、既に各パーツの微調整が終わっています。
たいていの過去メンテナンスではこの「ベース環まで解体しない」整備者が非常に多いですね(笑)
同時に実は今回の個体もそうでしたが、これら「制御系パーツの一部に白色系グリースを塗ったくる」整備者が居て(笑)、おかげで揮発油成分でグチャグチャ状態に陥っている事があります (一部に酸化/腐食/錆びが発生してしまう)。
滑らかに駆動するよう「白色系グリース」を塗るのでしょうが、はたして早ければ1年、長くても数年で液化した揮発油成分でヒタヒタになり、赤サビなどが生じてしまいます。
↑完成した絞りユニットを鏡筒最深部にセットしたところです。するとその直前に右隣に写っている「絞り羽根開閉幅制御環」なる少々厚みのある環 (リング/輪っか) が入ります。
この時この環 (リング/輪っか) がセットされる箇所は、上の写真グリーンの矢印で指し示した場所になりますが、実は「鏡筒内壁のその箇所だけ鏡面仕上げ」になっています。
一方右隣の「絞り羽根開閉幅制御環」は表裏共に「マットな梨地仕上げ」のメッキ加工です。
つまり過去メンテナンス者はこの鏡筒内壁部分に「白色系グリース」を塗ったくってくれましたが、何も見ていませんね(笑)
いったい何の為にワザワザ「鏡面仕上げと梨地仕上げ」に分けて設計したのでしょうか?(笑)
今回のオーバーホールでは「鏡筒内壁の鏡面仕上げ部分は専用の磨き研磨」を施し、且つマットな梨地仕上げメッキ加工のパーツには「やはり梨地仕上げようの専用の磨き研磨」を施し、互いに「経年劣化に拠る酸化/腐食/錆びを完全除去」しています。
こうする事で、当方でのオーバーホールでは一切グリースを塗らずに、然しちゃんと滑らかで適切なトルクを伴いつつも軽い操作性を実現できています。これはちゃんとOLYMPUSが設計時点で配慮しているからであり、鏡面仕上げどうし、或いは梨地仕上げどうしの場合とはその操作性のトルク感が全く違います。
過去メンテナンス者はこのような「観察と考察」すら全くできていません(笑)
↑上の写真をご覧頂ければ明白ですが、何処にもグリースがありません (当方にとっては当たり前の話)(笑)
何故なら、この鏡筒には「光学系前後群が格納される」ワケで、もちろん絞り羽根もあるのでそれらへの「経年の揮発油成分附着を嫌っている」考え方なのであり至極当然な話ですね(笑)
上の解説のように第1階層〜第4階層まで一極集中的に密集しているのがこの当時のOLYMPUS製オールドレンズの設計概念です。
① 第1階層:絞り羽根
② 第2階層:絞り羽根の制御系
③ 第3階層:絞り羽根の開閉角度制御系 (絞り環と連結)
④ 第4階層:光学系前群がセットされる場所
こんな感じです。当初バラした直後はもぅこの時点で鏡筒内外がグリースでベトベト状態ですから(笑)、どうしようもありませんね。
↑ヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。
↑鏡筒 (ヘリコイド:オス側) を、やはり無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みますこのモデルは全部で9箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。
もちろん既にこの時点で当方のオーバーホール工程では「黄褐色系グリース」塗布済ですからオールドレンズ内部でグリースを塗る場所と言えば当方の「DOH」では非常に少ないです(笑)
ヘリコイド (オスメス) だけと言っても良いでしょうか。たいていの過去メンテナンス時にはその他に「絞り値制御系」とさらに「マウント部内部」にまでグリースをドップリ塗りつけますから、経年による揮発油成分てヒタヒタになっているのは当然と言えば当然です。
その意味で当方のオーバーホールはグリースを本当に微量しか使いません。
特にこのモデルのネット上での整備サイトを見ると「何処ぞの有名な#10白色系グリース」を愛用している整備者が居ます(笑)
相当「軽めの粘性」を塗っているワケですが、はたしてその個体の5年後を自分でバラしてチェックした事があるのでしょうかね?(笑) いえ、5年後と言わずに翌年でもいいですね(笑)
是非ともどんだけ液化した揮発油成分が生じているのか、そして同時に構成パーツに生じてしまった酸化/腐食/錆びの状況なども、ちゃんとチェックすると良いかも知れません(笑)
↑完成した鏡筒をひっくり返して裏側 (つまり後玉側方向) から撮影しました。両サイドに「直進キー」と言うパーツが刺さっています。この「直進キー」とそのガイド (溝部分) にも過去メンテナンス時に「白色系グリース」を塗ったくってくれるのですが、実はそのほとんどが意味を成さずに「そのまま残っている」のが現実です。
要は「直進キーの役目」を全く理解していないからそんなふうにグリースを塗ったくって「滑らかな駆動になったつもり」で自己満足しているのです(笑)
ちなみに当方のオーバーホールでは、まずほとんどの個体でこの「直進キーとガイド部分」には一切グリースを塗りません。塗らずともちゃんと滑らかに適切なトルク感で駆動できています。
従って整備車の自己満足大会でグリースを塗っているだけの話ですね(笑)
◉ 直進キー
距離環を回す「回転するチカラ」を鏡筒が前後動する「直進するチカラ」に変換する役目
これをもっと細かく説明すれば「直進キー」はチカラの伝達経路が変化する「きっかけを与えているだけ」とも言い替えられます。従ってここのグリースを塗ったくっても「掛かったチカラは全てそのまま伝達されてしまう」ので、結局グリースがそのまま残っているワケです。
どうしてグリースがそのまま残っているのかさえも、おそらく何も考えないのでしょう(笑)
いわゆる「単にバラしてグリースを入れ替えるだけの整備」ですね(笑)
↑こちらはマウント部内部の写真ですが、既に各構成パーツを取り外して当方による「磨き研磨」を終わらせた状態で撮影しています。一部に酸化/腐食/錆びが生じていますね。
↑取り外していた各構成パーツも個別に「磨き研磨」を施し組み付けます。右側の「プレビューボタン」を押し込むと (ブルーの矢印①)、連係アームがその分だけ動いて「操作環 (リング/輪っか)」を押し込みます (②)。すると「操作環」に附随する「操作アーム」がやはり同じ量の分だけ移動するので (③) 絞り羽根が設定絞り値まで閉じる仕組みです。
この「操作環」やその他の箇所にもビッチリと「白色系グリース」が塗られていましたが、既に経年劣化進行から「濃いグレー状」に変質していました。
もちろん当方のオーバーホールではこんなマウント部内部には一切グリースを塗りません(笑)
↑この当時のOLYMPUS製オールドレンズの多くのモデルで、ご覧のように前玉側に「絞り環」が配置されている設計を踏襲し続けました (当時の他社光学メーカーは既にマウント側に絞り環が移動した設計を採っていた)。
例によってこの「絞り環」周りにも過去メンテナンス時にビッチリと「白色系グリース」を塗ったくってくれます(笑)
まずグリースが塗られていない事が100%ありませんと断言してしまっても良いほどに、必ず過去メンテナンス時にはここにグリースを塗ってくれます。
しかし当方のオーバーホールではご覧のようにな〜んにもグリースを塗りません(笑)
↑結局グリースをチビッと付けたのは「鋼球ボール+スプリング」だけで、それ以外の絞り環関係には一切グリースを塗りません。それでもちゃんと操作すればすぐに分かりますが「大変小気味良く確実に駆動している」と言えます。
いったい何の為にグリースを塗ったくるのでしょうかね?(笑)
この後は光学系前後群を組み付けて無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行えば完成です。
ここからはオーバーホールが完了した出品商品の写真になります。
↑完璧なオーバーホールが終わりました。前玉に薄い影となって写っている縞模様は、撮影で使っているミニスタジオのスクリーンが写り込んでしまいました (現物にはありません)。
ハッキリ言って、現在市場に流通しているOLYMPUS製オールドレンズの多くの個体に「カビが発生」或いは「絞り羽根の動きが緩慢」などの異常が発生している根本原因は「鏡筒内部に過去メンテナンス時に塗ったグリースのせい」同時に「マウント部内部のグリースのせい」とも言えます。
これは今までに数多くの個体をオーバーホール/修理などでバラした経験値から申し上げています。それほど「必要ない箇所にグリースを塗ったくっている」或いは「塗布してはイケナイ場所に平気で塗っている」のが現実と言えますね。
ホント、ロクなことをしませんョ・・(笑)
ましてや「何処ぞの有名な#10白色系グリース」など相当に軽めの粘性なので、必然的に1年もすれば内部の揮発油成分が見たくない状況になっていますね(笑)
本当に「白色系グリース」で経年劣化しないグリースは、その成分が実は「黄褐色系グリース」とほぼ互角なので一部のプロの修理専門会社様でお使いです。当方が認めている「白色系グリース」は、そのグリースだけですね。「何処ぞの有名な#10白色系グリース」などは何番のグリースを使っても全く以てダメです (ハッキリ言って光学レンズ用ではありません)(笑)
もしもウソだと言うなら、試しに何番でも良いので購入してみて、届いた商品を開けた時に「液化成分がゼロかどうかチェック」してみて下さいませ。それですぐに分かります。商品が保管されている期間だけでもそのように「揮発油成分」が液化して偏っているワケですから、はたして1年後〜数年後の状況が容易に推測できると思います(笑)
前述のプロの修理専門会社様が使っている「白色系グリース」だけは経年で液化した揮発油成分が滲み出ません。それが本当の光学硝子レンズ用グリースの「証」です。
ちなみに当方がオーバーホールした個体の経年劣化状況は「1年目〜6年目」までは把握できていますが (液化していない状態を確認済) それ以降「7年目〜8年目」はまだです (おそらく液化が始まっていると推測)。
そう言うレベルですね・・(笑)
↑光学系内の透明度が非常に高い状態を維持した個体です。LED光照射でもコーティング層経年劣化に伴う極薄いクモリすら皆無です。多少極微細な点キズが多めなので、パッと見で「微細な塵/埃」に見えますが、3回清掃しても除去できない微細な点キズです。
残念ながら後玉外周に1点目立つ当てキズが残っています (写真には一切関係なし)。
↑上の写真 (3枚) は、光学系前群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。
↑光学系後群側も冒頭解説のとおり「2つの群が一体成形」で入っているだけなのですがLED光照射でも極薄いクモリがありません。1点外周に目立つ当てキズがあります (1mm長)。
↑上の写真 (3枚) は、光学系後群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。
【光学系の状態】(LED光照射で様々な角度から確認)
・コーティング劣化/カビ除去痕等極微細な点キズ:
(経年のCO2溶解に拠るコーティング層点状腐食)
前群内:16点、目立つ点キズ:11点
後群内:20点以上、目立つ点キズ:17点
・コーティング層の経年劣化:前後群あり
・カビ除去痕:あり、カビ:なし
・ヘアラインキズ:あり(前後群内僅か)
(極微細で薄い4ミリ長が数本あり)
・バルサム切れ:なし (貼り合わせレンズあり)
・深く目立つ当てキズ/擦りキズ:あり
(目立つ微細キズが後玉外周に1箇所あり)
・光源透過の汚れ/クモリ (カビ除去痕除く):なし
・その他:光学系内は微細な塵や埃が侵入しているように見えますが清掃しても除去できないCO2の溶解に拠る極微細な点キズやカビ除去痕、或いはコーティング層の経年劣化です。
・光学系内の透明度が非常に高いレベルです。
(LED光照射でも極薄いクモリすら皆無です)
・いずれも全て実写確認で写真への影響ありません。
↑6枚の絞り羽根もキレイになり絞り環共々確実に駆動しています。絞り羽根が閉じる際は「完璧に正六角形を維持」したまま閉じていきます。
ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感が僅かに感じられるものの当方にて筐体外装の「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。「エイジング処理済」なのですぐに酸化/腐食/錆びが生じたりしません。
↑【操作系の状態】(所有マウントアダプタにて確認)
・ヘリコイドグリースは「粘性:中程度+軽め」を使い分けて塗布し距離環や絞り環の操作性は非常にシットリした滑らかな操作感でトルクは「普通」人により「軽め」に感じ「全域に渡って完璧に均一」です。
・距離環を回すとヘリコイドのネジ山が擦れる感触が伝わる箇所があります。
・ピント合わせの際は極軽いチカラで微妙な操作ができるので操作性は非常に高いです。
・絞り環操作も確実で軽い操作性で回せます。
【外観の状態】(整備前後関わらず経年相応の中古)
・距離環や絞り環、鏡胴には経年使用に伴う擦れやキズ、剥がれ、凹みなどありますが、経年のワリにオールドレンズとしては「超美品」の当方判定になっています (一部当方で着色箇所がありますが使用しているうちに剥がれてきます)。
・当方出品は附属品に対価を設定しておらず出品価格に計上していません(附属品を除外しても値引等対応できません)。
↑このモデルのピントの山はアッと言う間で、しかも少々掴み辛いので、距離環を回すトルク感はワザと (故意に)「軽め」に仕上げました。もちろん絞り羽根の開閉動作もプレビューレバーによる操作との連係も100%確実で小気味良い状態なので、今ドキのデジカメ一眼/ミラーレス一眼にマウントアダプタ経由ではなく、フィルムカメラでご使用頂いても快適な操作性の保証つきなのは一切変わりありません(笑)
それが当方の「DOH」を前提としたオーバーホールですね。
↑純正の樹脂製スナップ式前キャップと汎用樹脂製後キャップが附属します。
上の写真は今回出品する個体を角度を変えてコーティング層の光彩の違いが分かるよう撮影しました。「後期型」と同じように「パープルアンバー」に光彩を放つ角度があると同時に「濃いグリーン色の光彩」も放ちますから、これがまさに「前期型」の「証」ですね。また見る角度を変えると先の写真のような「明るいグリーン色」にも色を変えます。
製造番号で捉えれば「僅か30%未満」しか市場流通していない「前期型」とも言え、ある意味希少性が高い個体とも言えます。さらに今回出品する個体は「それでいてカビ除去痕/コーティング層経年劣化が少ない」と言う、OLYMPUS製オールドレンズの中ではありがたい価値が伴います。
無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。
もちろん光学系の光路長調整もキッチリ行ったので (簡易検査具によるチェックなので0.1mm単位や10倍の精度ではありません)、以下実写のとおり大変鋭いピント面を確保できました。電子検査機械を使ったチェックを期待される方は、是非ともプロのカメラ店様や修理専門会社様が手掛けたオールドレンズを手に入れて下さい。当方の技術スキルは低いのでご期待には応えられません。
↑当レンズによる最短撮影距離30cm付近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。
この実写はミニスタジオで撮影していますが上方と右側方向からライティングしています。その関係でフードを装着していない為に絞り値の設定によりハレ切りが不完全なまま撮影しています。一応手を翳していますがハレの影響から一部にコントラスト低下が出てしまうことがあります (簡易検査具による光学系検査を実施済で偏心まで含め光軸確認は適正/正常)。
↑最小絞り値「f16」での撮影です。極僅かに「回折現象」の影響が現れ始めていますが、相当なポテンシャルではないでしょうか。
◉ 回折現象
入射光は波動 (波長) なので光が直進する時に障害物 (ここでは絞り羽根) に遮られるとその背後に回り込む現象を指します。例えば、音が塀の向こう側に届くのも回折現象の影響です。
入射光が絞りユニットを通過する際、絞り羽根の背後 (裏面) に回り込んだ光が撮像素子まで届かなくなる為に解像度やコントラスト低下が発生し、眠い画質に堕ちてしまいます。この現象は、絞り径を小さくする(絞り値を大きくする)ほど顕著に表れる特性があります。