◎ Schneider – Kreuznach (シュナイダー・クロイツナッハ) Xenon 50mm/f1.9(ROBOT)
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今回の掲載はオーバーホール/修理ご依頼分のオールドレンズに関する、ご依頼者様へのご案内ですのでヤフオク! に出品している商品ではありません。写真付の解説のほうが分かり易いこともありますが、今回に関しては当方での扱いが初めてのモデルでしたので、当方の記録としての意味合いもあり無料で掲載しています (オーバーホール/修理の全工程の写真掲載/解説は有料です)。オールドレンズの製造番号部分は画像編集ソフトで加工し消しています。
以前より一度はバラしてみたいと考えていたのですがマウントアダプタが割高なので見送っていたモデルです。この場を借りてご依頼者様にこのような貴重なモデルのオーバーホール/修理ご依頼を賜り、お礼申し上げます。ありがとう御座います!
ご依頼の内容は
- 無限遠が出ない (合焦しない)
- カビ除去
- 絞り羽根開閉幅の確認
以上の3点になります。当方にはrobot用のマウントアダプタが無いのでご依頼者様にお借りしました (ありがとう御座います)。
まず ① からご案内していきます。当初バラす前の実写確認時点で、確かに無限遠が出ない (合焦しない) 状態でした。この時距離環は無限遠位置「∞」まで回っているのですがその手前で停止してしまいます (位置がズレている)。
単純に考えれば距離環の (つまりはヘリコイドの) ネジ込み位置を正しい位置にしてあげれば適正な状態になるハズなのですが、簡易解体してみるとヘリコイドのネジ込み位置はギリギリのところまで引っ張っていました・・となると、ヘリコイドのネジ込み位置では改善できない可能性が高くなります。
しかし全くのピンボケ状態なので「???」となってしまいました・・理屈が通りません。そこで初心に返って基本的な事柄から確認していきました。
- robotのフランジバック:31mm
- SONY Eマウントのフランジバック:18mm
- その差:13mm → マウントアダプタの厚み
と言う計算になるのですが、お借りしたマウントアダプタの厚みを測ってみると「14mm」あります・・再び「???」です。何故に「1mm」厚みを持たせて設計されているのか・・見当が付きません。
「1mm」厚みがあると言うことはフランジバックが適合していませんからレンズの光学系の位置が「プラス1mm」さらに深く入らなければピントが合いません (つまり後玉が1mm余計に突出する必要がある)。どうもこれが無限遠が出ない (合焦しない) 根本的な原因のように考えますが・・これは当方にとっては最悪のバターンになります。
何が最悪なのかと言うと、まず間違いなくマウントアダプタの販売店 (或いは製作会社) は当方の整備が悪い (整備の問題) と言うハズです・・少なくとも今まで6年間で当方の責任にならなかったことが一度もありません。そうなると当然ながら今回の作業料は一切頂けない可能性が非常に高いので「最悪のパターン」と言うワケです。そのへんのお話も交えオーバーホールを進めていきます。
オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。
ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。全てが「真鍮製 (真鍮 (黄銅) 製/ガンメタル)」で作られているズシリと重みを感じる構成パーツばかりです。
まずは15枚の絞り羽根を組み付けて絞りユニットを完成させていきます。
ご覧のように15枚の絞り羽根は「絞り羽根開閉幅制御環」と言う15箇所の溝が用意されている「環 (リング/輪っか)」に1枚ずつ填っている状態で固定されます。この環が絞り環を回す時に一緒に動くので絞り羽根の角度が変わって開閉する仕組みです。
ご依頼内容のひとつ「絞り羽根の開閉幅の確認 (開口部のカタチの確認)」なのですが、見たところ特に歪になっているようには見えません。仮にこれが「真円」ではないとしても、それを改善させる方法がありません。ご覧のように溝部分が用意されているので、その溝の位置が極ビミョ〜にズレているのだとすればカタチが歪になる可能性は高いですが、でははたして何処の「溝」がズレているのか・・確認などできません。
また絞り羽根に打ち込まれている「キー (金属製の小さな円柱)」が垂直ではない場合にも開口部のカタチが歪になります。これも同様に「垂直なのかどうか」を計測するような設備が無ければ確認のしようがありませんし、改善の手段もありません・・何故ならば下手にキーの向きを強制的にチカラを加えて変えようとすると「脱落」の危険を伴うからです。一度外れてしまった「キー」を元に戻すことは、まず不可能です。
実際のところ、この開口部のカタチ (開閉幅) が真円ではないとしてもイコール (=) 円形ボケが歪になる原因に直結するとは限りません。それはむしろ光学系の設計が影響してくるので絞り羽根の開閉幅の問題だけではありません。その意味ではよく「円形絞り」或いは「真円」に拘る方が多いのも事実ですが、あくまでも「心の問題」のような気がします・・少なくとも今回の個体はほぼ真円状態と判断します。
ここで先に光学系前後群を組み付けてしまいます。このモデルは鏡胴が「前部」と「後部」に二分割するタイプなので、ここで先に鏡胴「前部」の主要部分を完成させてしまうワケです。
上の写真は「シム」と言うスペーサーのような環 (リング/輪っか) を指し示していますが、これが1本鏡胴「前部」と「後部」の間に挟まりスペースの調整をしているようなイメージになっています。このシムが後に大きな問題になってきます。
こちらはマウント部の写真になります。
先に「直進キー」と言う距離環を回す「回転するチカラ」を鏡筒が前後動する「直進するチカラ」に変換する役目のパーツ (環状) をネジ止めします。
ヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。この「ヘリコイド:メス側」には距離環を固定するためのネジ穴が用意されているのですが、ご覧のように「穴だらけ」です(笑)
距離環は3本のネジで締め付け固定されるのですが、そのためのネジ穴は全部で「30個」用意されています・・つまり「10箇所 x 3セット」と言うことになりますね。これは距離環の固定位置を調整できるように考えた仕組みです・・結果的に「無限遠位置調整機能」を装備していることになります。
逆に言うと、無限遠位置のアタリ付けを確認するのに「10箇所」の調整をひとつひとつ確認していかなければならないと言うワケで、少々厄介です。
距離環をセットした状態で写真を撮ってみました。こんな感じで3本のネジで固定します。実際はこの後に距離環用の指標値環を組み付けて距離環が完成するワケです (今は距離環のベース部分だけの状態です)。
さて、こちらが今回のメインイベントでした・・文章が過去形なのは、この写真を撮るまでに5時間が経過しているからです。前述のヘリコイド (メス側) を再び外してヘリコイド (オス側) をネジ込んだ状態の写真です。
これは何をしているのか・・??? ヘリコイドのネジ込み位置を確定させるのに5時間かかってしまったのです。このモデルでは全部で9箇所のネジ込み位置が用意されていました。ネジ込み位置が9箇所 x 「距離環のネジ穴位置:10箇所」と言う気が遠くなるような無限遠位置の確認作業に陥ってしまったワケです。
さらに今回の個体に難儀したのは、そもそも当初の状態ではネジ込み位置が狂っていたことです。過去のメンテナンスが最低でも1回は施されているのですが (手書きのマーキングがありました)、その際に (おそらく) ネジ込みをミスってしまいヘリコイドのネジ山が咬んでしまったのだと思います・・つまりネジ込んでいくと途中で急に硬くなる (重くなる) 箇所がありました。
ネジ込み位置は9箇所あるのですが、そのうちの「5箇所」で半分ほどネジ込むと急に固くなり止まってしまいます。この症状はネジ山が咬んでしまった時に発生する現象です。従って過去のメンテナンスに於いてはワザと無限遠位置がズレているのを承知でトルクが重くならない箇所でヘリコイドをネジ込んだのが「無限遠位置がズレている」原因と推測します。
正しい位置でヘリコイドがネジ込めたので距離環を (やっと) 固定でき鏡胴「前部」をセットしたところの写真です。ここまで来るのにだいぶ長い道のりでした・・しかし、これで解決ではありませんでした。
実は先に光学系前後群を組み付けてしまったのはヘリコイドのネジ込み位置を調べるのにいちいち組み上げては実写確認していたからなのです。もちろん距離環や絞り環などは一切組み付けていない状態ですが最低限実写確認するのに必要なモノだけを組み上げていたワケです。
上の写真は指標値環 (基準マーカーがあるモノ) をセットした状態で無限遠位置まで距離環 (のベース環) を回した状態なのですが、指標値環が距離環のベース環に当たってしまい停止してしまいます・・グリーン色の文字で指し示している場所です。
こちらの写真は逆に最短撮影距離の位置まで距離環 (のベース環) を回した状態で撮影しています。ご覧のように指標値環は鏡胴が繰り出されるので上方に一緒に繰り出されています。距離環を無限遠位置まで回すと指標値環も一緒に下がってくるので、結果突き当たってしまい最後まで無限遠位置に到達してくれません。
上の写真は組み上げて状態を撮っていますが、ご覧のように距離環が「無限遠位置の停止位置」まで到達していません。グリーン色の矢印の分だけ足りていないのです・・それは前述のように指標値環が距離環 (のベース環) に内部で当たっているからです。
では、どうしてそのような現象が発生するのか・・先にアップしていた写真を再び載せていますが、この「シム」が原因なのです。このシムの厚みが多すぎるので無限遠が出ない (合焦しない) ワケで、冒頭の説明のとおり「1mm」分を何処かで相殺しなければ無限遠が出ません (合焦しません)。
しかし、このシムを外してしまえば無限遠が出るのですが、今度は絞り環が固まってしまい一切回らなくなります。つまりこのシムは絞り環を回す際の「隙間」を作っている役目だったのです。
結局、今度はこの「シム」を自作するハメに陥りました。オリジナルのシムは残しておきたいので自作するしかないワケです。結果、半分ほどの厚みのシムを造り (さらに2時間経過) 組み上げた状態が前述の「指標値環が当たって無限遠位置まで回らない」状態なのです。
ここからはオーバーホールが完了したオールドレンズの写真になります。
結局、残念ながら無限遠は出ないままです。大変申し訳御座いません。実写確認では凡そ20m当たりまではピントが合うようには改善できました。また最短撮影距離は75cmまで合焦しています・・つまり75cm〜20mまでが撮影距離と言うことになります。
指標値環が当たってしまう問題が起きなければ無限遠が出る状態にはなっていたのですが (シムを自作したため)、指標値環が当たって止まってしまうのでどうにもなりません・・申し訳御座いません。
光学系内のカビはすべて除去しました。透明度がアップしています。
光学系後群に「カビがある」と仰っていたのはカビではなく「バルサム切れ (貼り合わせレンズの接着剤/バルサムが経年劣化で剥離し始めて白濁化し薄いクモリ、或いは反射が生じている状態) 」です。
このような「雪の結晶」のようなカタチのモノが大小5点ほど残っていますが、これはバルサム切れなので当方ではどうにも処置できません。一度バルサムを剥がして再接着できる整備を有するプロのカメラ店様か修理専門会社様にご依頼頂かない限り改善できません。一応写真への影響には至らないレベルなので、このままでもご使用頂けますが・・。
なお、光学系の中玉に外周部分が黒色着色されていた箇所がありましたが過去のメンテナンス時に着色したようです・・今回除去しているのでキレイになっています。
絞り羽根も油染みが相応にありましたので綺麗に清掃し確実に駆動するようになっています。カタチに関しては当方の判定では問題無しです。
ここからは鏡胴の写真になります。当方による「磨き」をいれたので元々キレイな個体でしたがさらに光沢が増して美しい仕上がりになっています。
塗布したヘリコイド・グリースは「粘性:重め」に塗り替えました。「粘性:中程度」を塗布したところスリップ現象が僅かに生じていたので「重め」に替えています。それでも滑らかなトルク感で操作性は問題なくご使用頂けますが、前述のようにネジ山が咬んでいた箇所が存在するので「僅かなトルクムラ」が残っています。一応、50回ほどネジ込んで馴染ませる作業を行ったので硬くなる現象は改善できています。
このような結果になり、誠に申し訳御座いません。お詫び申し上げます。マウントアダプタの厚みが「1mm」薄ければ、また違った結果になったと思いますが当方ではどうにもできませんし、当方の責任にされると思いますのでこのような結果です。ご納得頂けない分はご請求額より必要額 (最大で無償扱い) を減額下さいませ。スミマセン。
当レンズによる最短撮影距離75cm附近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでベッドライトが点灯します)。
最小絞り値「f22」になります。今回の不本意な整備をお詫び申し上げます。申し訳御座いません。