◎ Tomioka Opt. Co. (富岡光学) Tominon C. 5cm/f2(M42)

(以下掲載の写真はクリックすると拡大写真をご覧頂けます)
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今回完璧なオーバーホールが終わって出品するモデルは、富岡光学製標準レンズ『Tominon C. 5cm/f2 (M42)』です。


さすがにこの暑さで体調が芳しくなくオーバーホール/修理ご依頼分の作業がなかなか進んでいませんが、先日ヤフオク! に出品したところすぐにご落札頂いたので (ありがとう御座いました!) 再び出品作業をさせて頂きます。

今回の出品ではこのモデルの以下問題点から結果的にフィルムカメラでしか使えないと言う デメリットを考慮し、オーバーホールの際にマウントアダプタ装着使用を前提とした調整を 施すことで使い易いオールドレンズに仕上げました (以下オーバーホール工程の中で詳しく 解説しています)。市場価値としてこのモデルや他のOEMモデルなども含め商品価値を低下 させている問題点でもあるので、その意味で今回のオーバーホールは有意義な処置ではないかと考えます (ただ単にバラして組み戻しただけでは芸がありませんからね)(笑)

(a) フィルムカメラでしか使えない
マウント面「絞り連動ピン」機構部の問題からピン押しタイプのマウントアダプタに装着しても使えない。
(この問題はマウントアダプタ側との関わりも影響するので改善を諦めました)

(b) 非ピン押しタイプのマウントアダプタで無限遠が出ない (合焦しない)
現在市場で入手可能な唯一の「非ピン押しタイプ」であるFOTGA製マウントアダプタに装着時無限遠が出ません (合焦しません)。
(この問題を今回オーバーホールの調整で改善させています)

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今回の出品モデル富岡光学製標準レンズ『Tominon C. 5cm/f2 (M42)』を語る時、当方にはどうしても避けて通れない要素があります。それは当時、富岡光学が旭光学工業に一時期OEM供給していたことがあると言う当方の考察です。このように話すと先ず間違いなく「それは おかしいでしょ?」と反論が集中します(笑) それもそのハズで当時企業の格付も会社規模ももちろん生産工場設備も全てに於いて富岡光学よりも旭光学工業のほうが格段に上です。どうして旭光学工業が富岡光学などからOEM供給を受けなければイケナイのか? そもそも旭光学工業は当時既に自社で光学レンズの開発から設計生産まで全て完結していた時代であり、その妥当性が一切見えないと言う反論なのでしょう。

ところが実際にバラして内部構造や構成パーツをチェックしてしまうと、どう考えてもその ような結論に達してしまいます (誰かそうではない反証をご教授下さいませ)。
問題となる標準レンズは以下になります・・。

Auto-Takumar 55mm/f2 (旭光学工業製)
Auto-Takumar 55mm/f2.2 (旭光学工業製)
Auto-Takumar 55mm/f1.8 zebra (旭光学工業製)
Tominon C. 5cm/f2 (富岡光学製)
AUTO YASHINON 5cm/f2 (ヤシカ製)

発売元は上に列記した通りですが、まで全て製産メーカーは「富岡光学」です。実際にバラしてオーバーホールしているページをリンクしたので興味がある方はご覧下さいませ。個別に内部構造や構成パーツがどんだけ近似しているのか、或いは同一なのか設計思想も含め「富岡光学製ではない」と結論できないのが現状の当方考察です(のみ創作レンズとして過去オーバーホールしています/逆に言うとパーツ仕様が同じなので転用できてしまう)。

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今回はその検証の一つとしてフィルムカメラ側から考察してみました。先ずは旭光学工業の 当時のフィルムカメラから見ていきます。当時世界規模で主流だったのはレンジファインダーカメラでしたが、そこに以下のモデルが登場します。

ASAHIFLEX I型 (1952年発売)

旭光学工業初であり同時に日本初でもある35mm判一眼レフカメラとして登場しますが交換レンズのマウントは「⌀37mm径」を採ってきました。もちろんフィルムカメラボディはもとより交換レンズ群まで全てが旭光学工業の自社製産品です。その後モデルはIA型/IIB型そして1955年発売のASAHIFLEX IIA型まで続きます。

ASAHI PENTAX (1957年発売)

旧東ドイツのPENTACON社が策定したプラクチカスクリューマウント (M42) を採用しペンタプリズムを実装した一眼レフカメラとして発売されますが、この時にセットレンズとして用意されたのが右写真のとおりのAuto-Takumar 55mm/f2です。

ここがポイントになります。当初のM37からM42に変更すると同時に半自動絞り機構を装備 した交換レンズ群を用意し、後のASAHI PENTAX K (1958年発売) へと繋ぎます。

ASAHI PENTAX S2 (1959年発売)

低価格普及品の位置付けで発売されますが、この時セットレンズとして用意されている自動絞りのSuper-Takumar 55mm/f2が次のポイントになります。当方でも何本もオーバーホールしていますが内部構造から構成パーツに至るまで従前のAuto-Takumarシリーズとは180度変わり、この段階で旭光学工業の100%内製化が完了しています。

つまり当方の考察では、Auto-Takumarシリーズが半自動絞り方式を採り入れたM42マウントとして登場したのは、開発設計/製産機械設備体制など凡そ時間的な猶予から仕方なく旭光学工業が富岡光学にOEM供給を依頼したとみています。1956年〜1958年までの3年間を凌ぐために用意されたのが富岡光学製OEMモデルたるAuto-Takumarシリーズではないかと考えて おり、1958年までに旭光学工業の製産体制が整った為にOEM供給は打ち切られ完全な内製化へ移行したとみることができます。逆に考えれば、当時旭光学工業はM42マウントに於ける 自動絞り機構を自社で開発設計するための工場機械設備などの体制がまだ整っていなかったのではないかと推測できますし、それは後に登場する「TAKUMARシリーズ」に一貫した内部の設計思想として捉えるとこの3年間で直近的な製品戦略も含め思考錯誤していたのではないかと考えます。

別の言い方をすれば、世界規模で当時のオールドレンズのマウント規格がどのような方向性に流れが変わるのかを見極める時間が必要だったのかも知れません・・それは取りも直さず富岡光学にとっては (ひいてはヤシカ自体も) 栄枯盛衰の憂き目を味わう経営判断となり後の運命を決定づけることに至ったのかも知れません・・ロマンは広がっていきます(笑)

YASHICA PENTA J (1961年発売)

富岡光学は1958年時点で次年度の旭光学工業への供給を絶たれヤシカへの供給に変更せざるを得なくなり、改めてモデルの開発設計の必要性に迫られたと考えられます。

1961年にヤシカ初の一眼レフカメラとして発売されたPENTA Jには セットレンズとしてAUTO YASHINON 5cm/f2が用意されます (左写真は1962年発売のJ-3)。

この時、当初ヤシカ製AUTO YASHINONシリーズ以外に富岡光学は自社ブランドの展開にも 挑戦したのではないかと考えています。それが今回の『Tominon C. 5cm/f2 (M42)』の製造番号から推測できます。製造番号先頭2桁がモデル番号を表しており「39」を付番しています (AUTO YASHINONは「13〜14/30〜34」を付番) が「39xxx〜39xxxx」と桁数が1桁増えています。一方AUTO YASHINONシリーズは先頭番号を変更しますがシリアル値側の桁数は最初から4桁です。つまり当初出荷していたのはTominonのほうではないかとみています (ヤシカからの要求でヤシカブランドに変更したのか?)。ちなみにネット上でサンプルを調べてもTominonのほうは「394xxx」が1本もありません (4,000本未満の出荷で終了している)。

様々なモデルをバラしているとレンズ銘板に「TOMIOKA」銘が刻印されているのは初期の頃の絞り連動ピン機構部 (必要以上に絞り連動ピンが押し込まれると故障するタイプ) を実装しており、後の時代は設計を変更してきていますがレンズ銘板からはTOMIOKA銘も消えます。1968年には経営難からついに富岡光学はヤシカに買収されますが、その前哨戦は既に1960年前後から始まっていたのかも知れません。TOMIOKAブランドを世界規模で流行らせたい希望を抱きながらも、現実はそのような猶予は一切無くOEM供給へと舵を大きく切らざるを得なかったのがその後の展開で明白です。

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あたかも何でもかんでも「富岡光学製」と言い切っている『富岡狂』のように見られがちなのですが(笑)、残念ながら当方は富岡光学製オールドレンズの内部構造や構成パーツには妥当性を感じ得ません (部位別の整合性が皆無で設計面から捉えればダメな部類)。もちろん1970年代からのOEMモデルでは合理化がようやく進み始めますが(笑)、時既に遅く1983年には母体の ヤシカさえも経営破綻し京セラに吸収され消滅します。

また内部構造や構成パーツを見ていく時に富岡光学にしろ旭光学工業にしろネジやコイルばねなどはもとより構成パーツの一部は下請けから供給を受けていたと考えられます。重要なのは「設計面を何処が握っていたのか」であり、それは設計思想ひいては製品戦略や企業ポリシーなどによっても大きく変わるワケで、他社光学メーカーのパーツをソックリ似せて設計する 必要性は100%あり得ません。それは自社の工場設備や組み立て工程 (コスト) に見合う設計で開発するのが常道であり、内部構造や構成パーツが近似しているならその基のメーカーによるOEM供給だったと考えるのが自然ではないでしょうか・・と当方は考えますね。

もちろん逆の仮説「旭光学工業が富岡光学にOEM供給した」と言うのも考えましたが、すると1959年以降に登場したTOMIOKA銘がレンズ銘板に刻印されているモデルで「自動絞り機構部に必要以上のチカラが架かった時に壊れる設計」を採ってきた理由が説明できません。何故なら既にその時点で旭光学工業が製産するオールドレンズには必要以上のチカラが架かった時にそのチカラを逃がす設計思想が反映していたからです (Super-Takumarシリーズで既に完結していた)。富岡光学が旭光学工業からOEM供給を受けていたならその設計思想を容易に参考にできていたハズでありTOMIOKA銘のモデルにも実装できていたハズです。そのままチカラを逃がせない設計で製産してきた以上、逆の仮説は成り立たないと言う結論です。別の言い方をすれば富岡光学製のOEM供給モデルはその後の1960年代後半では絞り連動ピンに必要以上に架かったチカラを逃がす設計を採ってきているので、そのタイムラグの説明もできませんね。

今回出品する『Tominon C. 5cm/f2 (M42)』に関しては前述 AUTO YASHINON 5cm/f2のオーバーホール工程と照らし合わせてご覧頂ければ同一であることが明白です (筐体の色とレンズ銘板周りの意匠が僅かに違うだけ)。

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上の写真はFlickriverで、このモデルの実写を検索した中から特徴的なものをピックアップしてみました。
上段左端から「円形ボケ・玉ボケ・背景ボケ①・背景ボケ②」で、中段左端に移って「玉ボケ②・二線ボケ①・二線ボケ②・ノイズボケ」下段左端「トロトロボケ・富岡光学の赤色・質感表現・被写界深度」です。
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)

たかが半自動絞り方式の5cm/f2モデルですが、ボケ方を上段左端1枚目から順に見ていくと 如何に様々なボケ味を表現できるのか、その奥行きの深さを感じます。ピント面の意外に太目に出てくるエッジとは裏腹に鋭く強調された合焦面の表現性には相当なインパクトがあるのですが、どう言うワケか画全体として捉えると繊細感まで感じると言う富岡光学製のオールド レンズの中でも上位に入るレベルの素晴らしい描写性です。今回オーバーホールが終わって 実写した時にふと気づいたのですが「色ズレ」が無く、ちょっと見直してしまいましたね(笑)

光学系は典型的な4群6枚のダブルガウス型です。それほど大きめな径の 前玉でもありませんし後玉もさらに小振りです。それでよくぞここまで 描写性能を上げてきたと感心してしまいます。

そんなTominon C.ですが半自動絞りの使い難さと、最大のネックは絞り連動ピン/絞り連動ピン機構部の問題です。今回はそれら問題点を改善すべく非ピン押しタイプのマウントアダプタで愉しく使えるよういろいろ調整を施しました (マウントアダプタ経由の装着なのでどんなオールドレンズでも結局は手動絞り/実絞りですから環境としては同じに なるワケです)。

余談ですが、冒頭の富岡光学ロゴマークは右のようにTOMIOKA銘の文字組み合わせロゴですね(笑)

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。内部構造から構成パーツに至るまで、もっと言えばネジやスプリングまで100%ヤシカ製AUTO YASHINON 5cm/f2と同一です。但し光学系の設計やコーティング層の相違は現物の光学硝子を比較して確認できていないので何とも言えません。

↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒です。このモデルは鏡胴が「前部」と「後部」の二分割方式なのでヘリコイド (オス側) は鏡胴「後部」に配置されています。

↑6枚のシッカリした分厚い絞り羽根を組み付けて絞りユニットを完成させます。

AUTO YASHINONも同じですが鏡筒がアルミ合金材なのに対し絞りユニット内「開閉環 (上の写真で見えている環/リング/輪っか)」が真鍮製です。これには理由があり後で出てくる「開閉アーム」ごとそのままダイレクトに駆動する方式を採っているからです (耐性面でアルミ合金材では対応できないから/金属種を変えることで平滑性と耐性を確保している)。

上の解説のとおり「C型留具」で絞りユニットが固定されますが「開閉環」の真鍮材と同じ材の「C型留具」とが完全接触しますから、ここの「磨き研磨」次第で絞り羽根の開閉動作が 大きく変わってきます。当然ながら磨きすぎても逆効果ですし足りなくても絞り羽根の開閉に影響が出ますが、意外と蔑ろにされている要素です (一般的なメンテナンスではスプリングの強さを加減する常套手段で解決してしまうことが多いので困りモノです)。

↑完成した鏡筒を立てて撮影しました。「」が数箇所あるのは鋼球ボールがカチカチとハマる為に (絞り環絞り値に見合う場所に) 用意されている「絞り値キー (溝)」です。

↑鋼球ボールとスプリングを組み込んでから絞り環をセットします。

↑「開閉アーム」を取り付けてグルッと鏡筒の周りを一周している長いスプリングをセットします。このスプリングのチカラでフィルムカメラのシャッターボタン押し下げと同時に瞬時に「開閉アーム」が戻り絞り羽根が設定絞り値まで勢いよく閉じるワケですね。

↑後から組み付けられないので先に光学系前後群をセットしてしまいます。鏡胴「前部」は これでほぼ完成です。

↑ここからは鏡胴「後部」の組み立てに入ります。マウント部内部を撮っていますが既に制御系パーツを取り外して当方による「磨き研磨」を終わらせた状態で撮りました。

↑先ずは「絞り連動ピン機構部」をセットして完成させます。

ここの構造がこのモデルやAUTO YASHINON (オートタクマー含む) でのネックでもあるポイント箇所です。この構造を理解しないままムリヤリ使うと壊すことになります。

マウント面から突出している「絞り連動ピン」は何と「板バネ」のチカラだけで飛び出ているワケで、一般的なオールドレンズのようにスプリングや捻りバネなどを使っていません。どうして「板バネ」なのかはこの後に出てきます。
なお「ロックカム」はマウント部直前にあるチャージレバーをスライドさせると絞り羽根が 閉じないよう「開閉アーム」をロックする目的のパーツですが、附随する「捻りバネ」が過去メンテナンス時に故意に曲げられていました

理由は経年劣化で弱ってきている為に「開閉アーム」をロックしてくれないからなのですが 強制的に曲げることで改善させると言う「常套手段」です。結果、今回のオーバーホールでも捻りバネはさらに弱まっています。このような強制的に曲げてしまう処置を施すのはその時点の改善度としては最も簡単な所為ですが、長い目で見るとひたすらに捻りバネの耐用年数を 短くしている処置と言わざるを得ません (同じことがスプリングなどにも当てはまる)。

然し、よ〜く観察してみれば真鍮製の「ロックカム」も両面が経年劣化に拠り酸化しており パーツそのものとしての平滑性が既に失われています。もっと言えば「絞り連動ピン」さえも酸化しており滑らかさが犠牲になっています。今回のオーバーホールではこれらロックカムや絞り連動ピンまでも「磨き研磨」をすることで本来の平滑性を取り戻した為「捻りバネ」の カタチを正しました (元に戻しました)。

そうは言っても既に曲げられてさらに弱ってしまったバネの反発力を今さら諸元値まで戻す ことはできません (金属ですから)。従って、残念ながらこのような処置を施されてしまった 個体は将来的に限りなく「製品寿命へと近づいている」と言うのが現実です。「開閉アーム」がロックしてくれないと言うことは絞り羽根が開放状態を維持してくれないことになります。
つまりフィルムカメラでの使用時に開放状態でピント合わせができなくなることを意味します。従ってマウントアダプタ経由での装着で手動絞り (実絞り) で使うならば関係の無いお話ですがフィルムカメラでの使用となると少々辛い環境なのが正直な感想ですから是非ともご留意下さいませ。近い将来的に「開閉アームがロックしなくなる」ことをご承知の上でご検討下さいませ (但しマウントアダプタ経由装着なら手動絞り/実絞りなので一切関係無し)。

↑こちらはマウント直前にある「チャージレバー」がセットされる内部の環です。

↑この環の中にご覧のようにスプリングが仕込まれます。このスプリングのチカラでマウント直前の「チャージレバー」が戻ります。

↑こんな感じでスプリングが取り付けられて環が回るようになります。

↑フィルムカメラに装着している時の「半自動絞り」の仕組みを解説しています。

まず最初に「チャージレバー」をスライドして (ブルーの矢印) ロックカムをセットします ()。この時絞り連動ピンは自動的に最も飛び出ている状態にセットされます ()。距離環を回してピント合わせした後に設定絞り値まで絞り環を操作してから (絞り羽根は閉じずに開放のまま維持)、フィルムカメラのシャッターボタン押し下げにより「絞り連動ピン」が押し込まれます (グリーンの矢印④)。するとロックカムのロックが解除されるので ()、開放状態で 開いていた「開閉アーム」はスプリングのチカラで勢いよく動いて瞬時に設定絞り値まで絞り羽根を閉じる仕組み・・「半自動絞り」と言うワケです。

↑真鍮製のヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。

この工程でのポイントはマウント部もヘリコイド (メス側) も共に「真鍮材」であることです。つまり塗布するヘリコイドグリースの種別や粘性を考慮しないと同質の材による接触駆動なので経年劣化を見越してグリース種別/粘性を決める必要があります。

↑アルミ合金製のヘリコイド (オス側) を無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルでは全部で7箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。

↑このモデルで結構多い経年劣化に伴う現象が「距離環を回す時のトルクムラ」ですが、その根本原因は上の写真「直進キー (両サイドに1本ずつ/計2本)」です。ご覧のとおりヘリコイド (オス側) を貫通しているので距離環を回すチカラはそのままこの垂直に飛び出ている直進キーを経てヘリコイド (オス側) を昇降させるチカラへと伝達していきます (結果繰り出し/収納動作になる)。つまり直進キーの「磨き研磨」が適正でなければトルクムラは解消しませんし、簡単に処置するなら白色系グリースを塗ってしまえば良いでしょう(笑) なお距離環はヘリコイド (メス側) に固定されます。

↑ヘリコイドにトルクムラが発生しないことを確認した上でマウントカバーをセットします。マウント面には「絞り連動ピン」が飛び出ています。一方マウント部内部はギリギリの処までヘリコイド (オス側) の裏面が収納されています (つまり無限遠位置の状態)。この時「絞り連動ピン」を押し込むとどうなるでしょうか? つまりブルーの矢印のチカラが及びます。

なお「絞り連動ピン」の突出量が他のオールドレンズよりも出っ張っているワケですが (それが冒頭の(a)の問題点になっている)、絞り連動ピン自体の突出は「3.8mm」です。しかしマウント面から計測した時は「7.8mm」になるので「ピン押しタイプ」マウントアダプタに装着した時、最もピン押し底面の深さが深いマウントアダプタだとしても「1mm以上」もレンズマウント面とマウントアダプタ面との間に「隙間」が空くことになります。

結果、その「1mm以上の隙間=アンダーインフ量」と言う計算式になる為、無限遠位置がズレてピント合焦しないことになるワケです。もちろんそれ以外に絞り連動ピンが「1mm以上も 最後まで押し込まれるチカラ」が発生しているので間違いなく内部の絞り連動ピン機構部は 壊れます (最低でも板バネの受け部が破断/変形する)。距離環を回してもおそらく無限遠位置の手前で停止してしまうでしょう (ヘリコイドが絞り連動ピンに接触する為)。

過去にオーバーホール/修理ご依頼分として何本かAUTO YASHINONのモデルを修理していますが、変形/破断してしまった「板バネ」は元に戻せません。単なる板ではなく凹凸を備えた特殊形状 (絞り連動ピンの頭受けが用意されている) の板バネなので代用品を用意することもできません。つまりこの「板バネの破損=製品寿命」に至ります。

その意味では市場に出回っているAUTO YASHINONモデルなどは無限遠位置まで距離環が回らない固体の場合、既に内部に問題が発生している (何も知らずにピン押しタイプのマウント アダプタに装着してしまった) 個体だったりするので手に入れる際は要注意です。
同様にチャージレバーの戻りが緩慢だったり絞り羽根の開閉異常が起きている個体も修復不可能な場合が多いですから、オールドレンズと言うのは内部構造が理解できていないと致命的な問題を与えてしまうことがあるワケですね(怖)

オールドレンズの「マウント規格」を過信してしまいマウントアダプタのマウント規格に頼って装着するとトラブルに巻き込まれ「このマウントアダプタの設計が拙い」或いは「このオールドレンズの整備が拙い」などと他人のせいにする人が後を絶ちませんが(笑)、それらは全て思い込みであり根本的なミスは本人の認識の疎さです。

特に日本人の場合この「規格」と言うコトバに惑わされる人が多い傾向であり(笑)、同じ規格なのにアンタが整備したオールドレンズはちゃんと動かないとクレームしてきます。当方は プロに師事して修行していないので決してプロにはなり得ませんし、そもそも技術スキルが 低いので「はい、申し訳御座いません」と謝るしかありません。当方の技術レベルはその程度であることをくれぐれもご承知置き下さいませ

↑ワザとマウント部内部側から撮影しました。マウント面から飛び出ている「絞り連動ピン」が押し込まれるとヘリコイド (オス側) の裏面に突き当たってしまうことがお分かり頂けるで しょうか?

これがこのモデルのネックでありAUTO YASHINON (オートタクマー含む) の問題点でもあります。「絞り連動ピン」が必要以上に押し込まれるとヘリコイド (オス側) の裏側にそのまま 突き当たってしまいヘリコイドが停止してしまうワケです (下手すれば壊れる)。この原理を ご理解頂けるでしょうか (冒頭の問題点(a)の内容になります)?

つまりフィルムカメラ装着時はシャッターボタン押し下げでカメラ側の「絞り連動ピン押し 込み板」が動いて絞り連動ピンを押し込みますが、クッション性を備えているので「適度な チカラでしか絞り連動ピンを押し込まない」のがポイントなのです。ところが「ピン押し底面タイプ」のマウントアダプタに装着すると絞り連動ピンが最後まで押し込まれる為ヘリコイドが止まってしまうのも当たり前なのです。運良く距離環が回っていてヘリコイドが繰り出されていれば絞り連動ピンが突き当たりませんが、そのまま無限遠位置まで距離環を回すとガリ ガリと言う音が聞こえてきて内部で擦ってしまいます (下手すればアルミ合金製の絞り連動 ピンが曲がってしまう/結果機能しなくなり壊れたことになる)。

なお「板バネ」を採用した理由 (スプリングや捻りバネではない理由) は、このマウント内部にある絞り連動ピンのヘッド部分とヘリコイド (オス側) 底面との「間の隙間が少ない (僅か1.5mm)」からでありスプリングや捻りバネを組み付けるスペース自体が存在しません。

↑距離環を本締めで固定します (仮止めではありません)。

↑その理由が上の写真です。このモデルの距離環にはご覧のように固定ネジ3本の穴がありますが「マチ (隙間)」が約8mmも用意されています。ところがイモネジ (ネジ頭が無くネジ部に いきなりマイナスの切り込みを入れたネジ種) が1本用意されていて距離環を固定する箇所が 決まっています。

何の為に「マチ」を用意しているのか「意味不明の設計」としか言いようがありません。つまりこのモデルは無限遠位置調整機能を装備していないのです。従ってヘリコイドのネジ込み 位置をズラすことで調整するしか考えられませんが肝心なヘリコイド (オス側) に刺さる「直進キー」が貫通しますからヘリコイドのネジ込み位置でも調整できないことになります。

結局このモデルは鏡胴「前部」の格納位置を調整することでしか無限遠位置調整ができないので厄介な部類に入るモデルと言えます。この後は鏡胴「前部」を組み込んで無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行い、最後にレンズ銘板をセットすれば完成です。

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ここからは出品商品の写真になります。

↑海外オークションebayでも年間で数本しか出回らない市場で極度の品薄状態が続く銘玉『Tominon C. 5cm/f2 (M42)』です。ご覧のとおり製造番号先頭2桁が「39」です。
レンズ銘板の「C.」はモノコーティングを表しています。海外オークションebayの流通価格を調べると「1万円前後〜4万円前後」が主流ですが、現在の価格帯を見ると「4万円前後〜8万円前後」と割高です。しかし過去落札品を調べると個体に問題が無い場合の落札価格は圧倒的に「4万円前後」のほうでした。

なお、ヤシカ製AUTO YASHINONと具体的に比較できていませんが光学系の仕様を見ると前玉と第2群の仕様 (曲率) がちょっと違うようにも感じますが定かではありません。光学系の仕様は光学硝子面に直接ノギスを当てて測るのは気が引けるので当方はできません(笑) 後群側は同一のように見えるので第2群で屈折率を適合化させているようにも感じます。

↑光学系内の透明度が恐ろしく高い個体です。経年のCO2溶解に拠る点状キズが複数ありますがカビ除去痕が1点しか無いので、カビの発生率が高い富岡光学製オールドレンズとしては 珍しいでしょうか。

↑上の写真 (3枚) は、光学系前群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。

↑光学系後群も非常に高い透明度を維持しています。もちろんLED光照射でも光学系内は極薄いクモリすら皆無なので本当に驚異的な透明度です (後玉にもカビ除去痕が1点だけ残っています
/写真への影響一切無し)。

↑上の写真 (3枚) は、光学系後群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。

【光学系の状態】(順光目視で様々な角度から確認)
・コーティング劣化/カビ除去痕等極微細な点キズ
(経年のCO2溶解に拠るコーティング層点状腐食)
前群内:17点、目立つ点キズ:13点
後群内:15点、目立つ点キズ:12点
・コーティング層の経年劣化:前後群あり
・カビ除去痕:あり、カビ:なし
・ヘアラインキズ:あり
・バルサム切れ:無し (貼り合わせレンズあり)
・深く目立つ当てキズ/擦りキズ:無し
・光源透過の汚れ/クモリ (カビ除去痕除く):皆無
・その他:光学系内は微細な塵や埃が侵入しているように見えますが清掃しても除去できないCO2の溶解に拠る極微細な点キズやカビ除去痕、或いはコーティング層の経年劣化です。
光学系内の透明度が非常に高い個体です
(LED光照射でも極薄いクモリすら皆無です)
・いずれも全て実写確認で写真への影響ありません。
・非ピン押しタイプのマウントアダプタでの使用を前提として調整している為フィルムカメラ装着時はオーバーインフ量が増えて距離環距離指標値で1目盛前後無限遠位置がズレます。マウントアダプタ装着時も僅かにオーバーインフ設定です。
(FOTGA製マウントアダプタ使用をお進めします)

↑6枚の絞り羽根もキレイになり絞り環共々確実に駆動しています。もちろんチャージレバーとの連係動作も正しく機能しており絞り羽根の開閉も瞬時に行われます。なおマウントアダプタ経由装着時は絞り羽根は「クリック感を伴う手動絞り (実絞り)」のみになります。

ここからは鏡胴の写真になりますが経年の使用感がほとんど感じられない大変キレイな状態を維持した個体です。当方による「磨きいれ」を筐体外装に施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。もちろん梨地仕上げ部分やメッキ部分も「光沢研磨」済なので当時のような大変艶めかしい眩い光彩を放っています。

↑【操作系の状態】(所有マウントアダプタにて確認)
・ヘリコイドグリースは「粘性:中程度と軽め」を使い分けて塗布しました。距離環や絞り環の操作性はとてもシットリした滑らかな操作感でトルクは「普通」人によっては「軽め」に感じ「全域に渡って完璧に均一」です。
・絞り環操作も確実で軽い操作性で回せます。
・ピント合わせの際は極軽いチカラで微妙な操作ができるので操作性は非常に高いです。
・今回オーバーホールではワザと黄褐色系グリースを塗布したので距離環を回すとヘリコイドのネジ山が擦れる感触が伝わる場合がありますが事前に告知しているのでクレーム対象としません。
(その代わりシットリした操作性を実現しました)
・フィルムカメラで使われる方は無限遠位置を当初の純正状態に戻します。ご落札後の一番最初の取引ナビメッセージでご指示下さい。再びバラしてオリジナル状態に調整を戻すため別途再作業料2,000円を申し受けます(送料欄に加算してお支払下さいませ)。その場合マウントアダプタ装着使用は将来的にもお勧めできなくなります。
・内部パーツ(捻りバネ)が経年劣化で弱まっている為、近い将来的にはフィルムカメラ装着使用時に開閉アームがロックせずに「開放状態でのピント合わせができなくなる可能性が高い」ことを承知の上でご落札をご検討下さいませ。マウントアダプタ経由装着時は手動絞り(実絞り)なので関係はありません。

【外観の状態】(整備前後拘わらず経年相応の中古)
・距離環や絞り環、鏡胴には経年使用に伴う擦れやキズ、剥がれ、凹みなどありますが、経年のワリにオールドレンズとしては「超美品」の当方判定になっています (一部当方で着色箇所がありますが使用しているうちに剥がれてきます)。
・フィルター枠外回りに経年の使用痕(キズ)が僅かにあります。

↑完璧なオーバーホールが終わりました。例えばヤシカ製AUTO YASHINON 5cm/f2などを見ていると「ピン押しタイプのマウントアダプタで使う」ことを前提としてマウント面の「絞り連動ピン」を切削してしまった個体を時々見かけますし、ネット上でもそのような処置を施していることがあります。自分の所有物なのだから仕方ありませんが、その個体が再び市場に流れてくるのだとすると少々気になります。

無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。

今回のオーバーホールで調整した内容が以下になります。ネット上の解説や特にヤフオク! でドイツからオールドレンズを出品している出品者、或いはプロの販売店などでピン押しタイプのマウントアダプタ装着時「絞り連動ピンの問題で無限遠が出ない (合焦しない)」場合に以下の「FOTGA製マウントアダプタ (非ピン押しタイプ)」の使用を推奨しています。自分でバラしたこともなく「不具合の一面」だけを見ているから安直な結論に達し絞り連動ピンが押し込まれない「非ピン押しタイプのマウントアダプタならば問題無い」と勧めていますが、それは「原理原則」を理解していない考察の甘さを露呈しており笑っちゃいます(笑)

↑マウントアダプタにネジ込む際にマウント面の「絞り連動ピン」を強制的に押し込んでしまわない「非ピン押しタイプ」のFOTGA製M42→SONY Eマウントアダプタに実際に装着した 写真で、ご覧のとおりマウントアダプタと本体レンズマウント面との間に「隙間」が空きま せん (ピン押しタイプのマウントアダプタの場合絞り連動ピンが当たって必ず隙間が空く)。

中国製なのですが工作精度はそこそこです(笑) 左写真のとおり絞り連動ピンを押し込む「ピン押し底面」を備えていない絞り連動ピンがフリーのまま装着可能な唯一のマウントアダプタです。

逆に言えば市場流通数が圧倒的に多い「ピン押しタイプ」のマウントアダプタもM42マウントのネジ部は環 (リング/輪っか) でありサイドから3本のネジで締め付け固定しているだけです。従って「ピン押し底面のリング」を間に 挟んでピン押し底面を備えているだけなので内径を変えたリングを1枚附属品として用意するだけで「ピン押しタイプ/非ピン押しタイプ両用」マウントアダプタが実現できるワケで簡単なハズなのですが、日本人のように拘って利益を損ねるようなことは考えないのか両用タイプのマウントアダプタは出現しませんね(笑)

実はこのマウントアダプタ「FOTGA製M42→SONY Eマウントアダプタ」は商品全高が適正ではなくM42マウント規格としてみるとフランジバックが極僅かに超過しています。その影響からそのままオールドレンズを装着すると場合によっては無限遠合焦しないことになり甘い描写になります。

今回のオーバーホールではその問題点を改善させたワケであり距離環距離指標値で「約1目盛分」調整しています。同じことはヤシカ製AUTO YASHINON 5cm/f2や他のオートタクマーにも当てはまる話なのでこの系列モデルでマウントアダプタ経由使用できる環境が整っている事自体が大変珍しいと言わざるを得ません。もちろん当方所有のフィルムカメラ「ASAHI SPOTMATIC」に装着して無限遠位置も確認済であり僅かなオーバーインフ状態ですし半自動絞り機構もこの上なく確実に機能してくれます。

なお非ピン押しタイプのマウントアダプタ (FOTGA製) に装着使用時は「チャージレバー」は操作しません。理由は絞り環操作での絞り羽根開閉は手動絞り (実絞り) でありダイレクトに 絞り羽根が開閉しているからです。また距離環と絞り環とは互いが独立しているので距離環側でピント合わせした後に絞り環操作してもピント位置がズレることは一切ありません。従って開放状態のまま距離環でピント合わせした後に希望絞り値まで絞り環をクリックさせてボケ味を決めて撮影すれば良いのです (普通の撮影方法でそのまま良い)。
仮にこの時「チャージレバー」をスライドさせてしまったら絞り連動ピンの押し込み操作が 必須になるので (絞り羽根は開放状態を維持し続けるから) 一旦取り外して絞り連動ピンを指で押し込まなければイケマセン(笑)

つまり「チャージレバー」を操作する半自動絞り機能が必要な条件はフィルムカメラへの装着時のみと言う話です。

↑附属する汎用樹脂製前後キャップやmarumi製フィルターなどをセットした写真です。

↑当レンズによる最短撮影距離55cm付近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。

↑絞り環を回して設定絞り値「f2.8」で撮影しました。

↑さらに回してf値「f4」で撮っています。

↑f値は「f5.6」になりました。

↑f値「f8」での撮影です。

↑f値「f11」です。

↑最小絞り値「f16」での撮影です。