◎ Carl Zeiss (カールツァイス) Planar 50mm/f2(CONTAREX版)

(以下掲載の写真はクリックすると拡大写真をご覧頂けます)
写真を閉じる際は、写真の外 (グレー部分) をクリックすれば閉じます

pn502c1113%e3%83%ac%e3%83%b3%e3%82%b9%e3%82%99%e9%8a%98%e6%9d%bf

zeiss1950-1962100今回の掲載はオーバーホール/修理ご依頼分のオールドレンズに関する、ご依頼者様へのご案内ですのでヤフオク! に出品している商品ではありません。写真付の解説のほうが分かり易いこともありますが、今回に関しては当方での扱いが初めてのモデルでしたので、当方の記録としての意味合いもあり掲載しています (オーバーホール/修理の全工程の写真掲載/解説は有料です)。オールドレンズの製造番号部分は画像編集ソフトで加工し消しています。

遠路遙々いつもご利用頂いている方からのオーバーホール/修理ご依頼分です・・いつもありがとう御座います。1959年にZeiss Ikonから発売された「Bullseye (ブルズアイ)」・・建物の丸窓を表すコトバですが英単語としては蛇の目のイメージ・・の異名を持つフィルムカメラ「CONTAREX I」のセットレンズとして用意された標準レンズです。CONTAREXのことも、このオールドレンズのことも詳細を知りませんので省きますが今回バラしていて光学系で発見しました。

planar-502-contarex%e6%a7%8b%e6%88%90光学系はネット上の解説は4群6枚のダブルガウス型と案内されています。ところが今回バラしてみると後群の貼り合わせレンズ (2枚の光学硝子レンズを接着剤を使って貼り合わせてひとつにしたレンズ群) 部分は完全に分離しており貼り合わせになっていませんでした。光学硝子レンズ2枚の間には僅か0.5mm程の厚みがあるシム環 (スペーサーのような意味合い) が挟まっていました。もちろん各硝子レンズは表裏共にコーティングが施されていますので元々貼り合わせレンズだったモノを分離させたワケでもありません (そんなことをするとレンズ面反射で写真にも影響が出ます)・・製品として (設計として) 独立しているとしか考えられないので5群6枚の拡張ビオター型とでも言いましょうか?! 近似した光学系の設計を採っているモデルにはCarl Zeiss Jenaの「PANCOLAR auto 50mm/f1.8 MC」や「PANCOLAR auto 80mm/f1.8 MC」或いは「MACRO-PRAKTICAR 55mm/f2.8 MC」などもあります。

pn502c1113%e4%bb%95%e6%a7%98

pn502c1113%e3%83%ac%e3%83%b3%e3%82%b9%e3%82%99%e9%8a%98%e6%9d%bf

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

pn502c111311ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。部品点数自体が少なめで充分に考え抜かれた設計で作られているようで各構成パーツの造りもシッカリしています。しかし、唯一鏡筒の固定方法と使っているパーツだけは問題があります。

pn502c111312絞りユニットや光学系前群を格納する鏡筒です。上の写真は、いつもなら前玉方向から撮った写真を載せるのですが今回は後玉側から撮影しています。Meyer-Optik Görlitz製オールドレンズ同様に後玉側からしか絞り羽根を組み付けられない設計になっているからです。

pn502c111313今回の個体では9枚ある絞り羽根の全てに恐らく絞り羽根同士が噛んでしまった際に付いた痕跡だと推測できる「曲がり」「折れ」が生じていました。そして1枚の絞り羽根だけに幅の2/3の長さで「切れ」が生じています。上の写真では、その2/3の長さに切れが入っていた絞り羽根を切断しないように修復しています・・残って繋がっている長さは僅か1/3ですから放置していればいずれは切れてしまいます。

それは「絞り羽根開閉アーム」からプレッシングで一体成形で作られている「絞り羽根制御環」がほんの僅かに変形しているのが原因だったようです。絞り羽根を組み付けた後に絞り羽根制御環を回すと環が僅かに浮いたり沈んだりしていました。よ〜く観察すると、ちょうどアームの付け根部分で僅かにアームが盛り上がっており、その影響で直前の絞り羽根のキー (絞り羽根の表裏に1本ずつ打ち込まれている金属製の突起棒) が入る「開口部」自体が狭まっていました。結果、絞り羽根開閉アームを動かすと1枚〜2枚の絞り羽根だけが浮いたり僅かに引っ掛かったりしていたのです。

どうしてアームが変形してしまったのか??? さらにその原因となった部分が後ほど出てきますが、この問題の原因究明と修復 (問題なく駆動するよう変形箇所を修復) だけで数時間を要してしまいました (原因究明し改善させない限り再び同じことが発生するので)。

pn502c1113149枚の絞り羽根を組み付けて絞りユニットが完成した状態を撮っています (既に修復完了の状態)。

pn502c111315完成した鏡筒に光学系後群用の格納筒をセットして (実際には絞りユニットの固定環でもありメクラにもなっている) 横向きに撮影した写真です。問題の僅かに変形していた「絞り羽根開閉アーム」が写っています・・しかし、元々このアームは上の写真のように「斜め状」にカットされたカタチをしています。これには理由がありマウント部からの絞り羽根制御環自体に「斜め状の溝」が用意されているからです。恐らくフィルムカメラのボディ側にある噛み合わせ機構と連動して制御環が回り、それに伴って斜め状にスライドしていく仕組みなのではないでしょうか。

pn502c111316こちらは距離環やマウント部を組み付けるための基台です。両サイドに2本の板状が垂直に立っていますが「直進キー」と言う距離環を回す「回転するチカラ」を鏡筒が前後動する「直進するチカラ」に変換する役目のパーツになります。距離環を回す際に均等にチカラを入れない場合を想定して (つまり親指と中指でオールドレンズの距離環を保持して回す時に均等にチカラが加わらないから) ワザと片側の直進キーにだけ余分な力を相殺するための「切り欠き (開口部)」が入っています。

pn502c111317絞り羽根制御環をセットしました。この制御環にも垂直に板状にたっている部分が附随しますが、その中央を「斜め状」に溝が通っています。これが前述の「絞り羽根開閉アーム」が通る「道 (ガイド)」なので、開閉アーム自体も斜めのカタチをしているワケですね。

pn502c111318距離環 (ヘリコイド:メス側) を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。

pn502c111319ヘリコイド (オス側) を、やはり無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルには全部で10箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。

pn502c111320この時点でひっくり返して指標値環をセットします。

pn502c111321マウント部を組み付けます。この時に先の「絞り羽根制御環」とフィルムカメラのボディ側機構部を噛み合わせる役目の「噛み合わせアーム」を一緒に組み付けます。板バネになっておりシッカリと噛み合うように考えられているので斜めに迫り上がっています。

この後は完成した鏡筒を組み付けてから無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認をそれぞれ執り行い、最後にフィルター枠とレンズ銘板をセットすれば完成です。

 

DOHヘッダー

 

ここからはオーバーホールが完了したオールドレンズの写真になります。

pn502c11131上の写真で解説しているのが、そもそも今回の問題部分です。このモデルの前玉は少々奥まった位置に配置されているのですがレンズ銘板の直前にさらに「黒色の環」が締め付けられています。これが実は「鏡筒固定環」になっているのです。普通オールドレンズで多い設計はレンズ銘板自体が鏡筒固定環の役目を兼務している、或いはレンズ銘板の下に別に鏡筒固定環を配置させているモデルが多いのですが、このモデルでは一番最後に締め付けるようになっています (表に表出している)。

そして、問題だったのは絞り羽根の開閉幅 (開口部の大きさ/入射光量) の調整を「鏡筒の位置をズラし (鏡筒を僅かに回して) 調整する」ように設計されていることです。つまり鏡筒を適正な位置に決めた後に最後に「固定環」で締め付けてシッカリと固定する方法を採っていました。

ところが今回バラそうとした時に、この固定環が全く回りませんでした。固定環が外れなければ鏡筒を取り出せず、さらにヘリコイドも解体できません。過去のメンテナンス時には鏡筒〜フィルター枠 (鏡筒カバー) 〜固定環に至るまでの3つの構成部位を全て接着剤で接着していました。幾つかの工具を使ったり溶剤を流し込んだり、いろいろと手を代えてようやく数時間後に固定環が回りました。各構成パーツを調べると接着する必要が無い配慮がちゃんと成されている設計でした。それをどうして接着してしまったのか謎です。恐らく、このモデルの構造をよく知らずに組み上げて絞り操作をしてしまい絞り羽根が噛んでしまったのだと推測します。それで慌てて再度バラして接着してしまったのでしょう。使われていた接着剤は昔の2種混合エポキシ系接着剤でしたから相当な年数が経過していると思います。そして恐らくその際に絞り羽根の全てに折れ目が入ってしまい、且つ経年の使用から1枚 (アームに最も近い位置の絞り羽根) に切れが生じてしまったのだと推察します。

pn502c11132光学系内は、どう言うワケか前玉裏面の少々内側部分にリング状の汚れがあり清掃しても全く落ちませんでした。外周附近ならば経年の汚れなどが附着と納得できますが、だいぶ内側に真円状に二重線に汚れが付いていました。当方による「硝子研磨」にて90%程度ですが汚れを除去しました (一部まだ見えています)。これ以上研磨するとコーティング層が剥がれそうだったので止めています。

また第2群〜第5群までの硝子レンズには非常に薄いクモリに見えるカビが生じていたので完全除去しています。後玉には除去できない極微細な点キズが複数残っていますが撮影に影響が出るレベルではありません。

pn502c11139光学系内にも極微細な点キズや非常に薄いヘアラインキズなどが見られますが影響には至りません。キレイな光学系だと思いますし今回は透明度が上がりました。

pn502c11133問題の絞りユニットですが、1枚の絞り羽根が本当に残念です。上の写真ならば切れが生じている箇所が分かるかと思います。当初は捻れが生じていたので余り目立たなかった (当方も最初は気がつきませんでした) のですが叩き込んで他の絞り羽根に影響しないようにしています。

ここからは鏡胴の写真になります。経年の使用感が感じられる筐体ですが当方による「磨き」を梨地仕上げ部分も含めていれています。筐体は清掃時に指標値の黒色が全て脱色してしまいましたので当方にて再度着色しています。また鏡胴の一部に「黄褐色」に変色していた部分も磨きをいれたのでキレイになっています。

pn502c11134

pn502c11135

pn502c11136

pn502c11137塗布したヘリコイド・グリースは何度か塗り替えつつ最終的に「粘性:軽め+中程度」としました。別件モデルのトルク感に近い状態にしてほしいとのことでしたので可能な限り近いトルク感に仕上げています (下手すると僅かに軽めか?) ビミョ〜な相違ですが決して重くにはなっていないと思います。当初はグリース切れの症状が出ていたので実用面で考えれば非常に好感の持てるトルクに仕上がったと考えます。これ以上軽くするとスリップ現象が出ていましたし、逆に重くすると非常に重かったので現状に仕上げました (全てグリースを入れ替えて確認済)。

pn502c11138そもそも当方がCONTAREXのことを全く知らないので今まで余り関心がなかったモデルなのですが、今回試写してみて感激しました・・さすが長年の評価に違わぬ素晴らしい描写性です。問題部分が接着されていたのは閉口しましたが、それを割り引いても固定環自体がアルミ材なので、どう考えても他のパーツとの釣り合いがとれません (他のパーツは真鍮製)。固定環という肝心な役目なのにも拘わらず軟らかな材質のアルミ材を採用しているので過去のメンテナンス時にもネジ山が入らず苦労した痕跡がありました (一部ネジ山が削れている)・・これはパーツ材の登用ミスですね。

pn502c111310-2-0当レンズによる最短撮影距離30cm附近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に球部分にしか合焦してません。

pn502c111310-2-8絞り値は「f2.8」で撮っています。

pn502c111310-4F値「f4」にセットしました。

pn502c111310-5-6「は5.6」で撮っています。

pn502c111310-8絞り値が「f8」になりました。ピント面がだいぶ明確化してきています。

pn502c111310-11F値「f11」で撮りました。

pn502c111310-16「f16」になります。

pn502c111310-22最小絞り値「f22」での撮影です。