◎ Canon (キヤノン) New FD 24mm/f2.8《後期型》(FD)
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今回の掲載はオーバーホール/修理ご依頼分のオールドレンズに関する、ご依頼者様へのご案内ですのでヤフオク! に出品している商品ではありません。写真付の解説のほうが分かり易いこともありますが、今回に関しては当方での扱いが初めてのモデルでしたので、当方の記録としての意味合いもあり掲載しています (オーバーホール/修理の全工程の写真掲載/解説は有料です)。オールドレンズの製造番号部分は画像編集ソフトで加工し消しています。
(書くことが無いので自分の話をしてしまいます) 正直な話、CanonやNikonのオールドレンズのことはほとんど何も知りません。その理由は当方がCanonやNIkonのレンズに靡 (なび) かないからです・・と言うよりも、もっと正しく言えばCanonやNikonのカメラボディ (デジカメ一眼やミラーレス一眼) に興味関心がありません。実は一番最初に手に入れたカメラボディはNikon製でした。次がCanonですが自分の好みではありませんでした。そしてOLYMPUSのボディを手に入れて気がつきました。自分が好む色合いはドイツ系なのだと・・当時の製品でOLYMPUSの「E-300」でした。CCD撮像素子が放つ色合いに一喜一憂したものです。つまり優等生的な画造りに反応せず赤味が誇張的に出る色合いにも頷きません。アンバー寄りのコッテリした色合いでようやく反応した次第です。従ってPENTAXのような「あくまでも頑なに忠実」な画造りにも面白みを感じないのです。そこから徐々に偏執的な嗜好が顔を出しSONYに浮気しますが年齢を重ねるうちにコッテリも息苦しく感じるようになりました。ついにRICOHのGXRからFUJIFILMの「X-E2」に到達して答えを見出します・・フィルムシミュレーション・・これが探していた自分の好みでした。今はオールドレンズをいじる関係で仕方なくSONYの「α7II」を使っていますが、嗜好的にいずれはFUJIFILMに戻りたい気持ちがフツフツと煮えたぎっています。老眼が酷くなると同時に「人間の目で見たあるがままの描写性」に反応するようになり、そこに画造りとしての「何か」をプラスαで求めるようになった自分が居ました。それ故PENTAXではつまらないのです。自分の「画」に求める重要なファクターは「質感」「立体感」「リアル感」だけです。
今回オーバーホール/修理を承ったのは「距離環のガタつき」と言う内容で「New FD 24mm/f2.8」をお受けしました。届いた現物を確認すると確かに距離環にガタつきが生じています。また絞り羽根には油染みが発生しており光学系内も透明度が高い部類のハズですが、僅かにくすんでいるような・・。
【モデル・バリエーション】
※オレンジ色文字部分は最初に変更になった要素を示しています。
前期型:1971年発売
光学系:8群9枚
最小絞り値:f16
フィルター径:⌀55mm
中期型:1973年発売
光学系:8群9枚
最小絞り値:f16
フィルター径:⌀55mm
後期型:1979年発売
光学系:9群10枚
最小絞り値:f22
フィルター径:⌀52mm
光学系は9群10枚のレトロフォーカス型です。このモデルはダブルヘリコイド方式を採っておりフローティング機構を採用した鏡筒を装備しています。焦点距離が24mmなので「もしやフローティングか・・」と覚悟していたのが的中してしまいました。ただでさえダブルヘリコイドはネジ山が多くて厄介なのに、よりによってフローティングとは・・バラす前の時点から意気消沈です(笑)
オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。
ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。バラしてみたものの普段Canon製カメラを扱わないですし、Canon製オールドレンズも調達しませんから、このマウント部の構造に「???」の連続でした(笑) まだまだ修行が足りません・・恥ずかしい。
絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒ですが冒頭の説明のとおり「フローティング機構」を採用した鏡筒の制御を行っています。
上の写真は絞りユニットを単独で撮影していますがプラスティック製です。
単純に絞りユニットを鏡筒内にネジ止め固定するだけです。ちょっと呆気ない感じでつまらないのですが、ここからが問題 (難儀) ですから・・。
ちなみに鏡筒の裏側はこんな感じになっています。何と「カム」までプラスティック製です。不思議だったのは「絞り羽根開閉幅制御環」に用意されている「なだらかなカーブ」部分なのですが、一般的なオールドレンズでは「なだらかなカーブ」の麓部分が最小絞り値側です。ところがこのモデルでは、その麓部分からさらに平坦な部分が続いているので、このまま制御環を回すと何と絞り羽根が開き始めます。こんな制御環は初めてでした。Caon製のオールドレンズは全てこのような仕組みなのでしょうか???
さて、ダブルヘリコイドなので内ヘリコイドと外ヘリコイドが存在するのですがネジ山の距離が他社光学メーカーの焦点距離「24mm」と比べると短めです。外ヘリコイドの内側には内ヘリコイド用のメスネジが切られています。また外ヘリコイドの外側にはオスネジが用意されています・・つまりダブルヘリコイドですね。鏡筒は「フローティング機構」で保持されるのでネジ山の類が一切存在していません。コトバのとおり空転ネジ3本で支えられて「浮いている状態」です。
それぞれは上の写真の解説の順番で組み込まれていきます。最初に内ヘリコイドを外ヘリコイドにネジ込み、次に鏡筒を内ヘリコイドにセットします。コトバで表現すれば簡単なのですが実際に滑らかに動くのかどうかとなると一筋縄ではいかないのが「フローティング機構」です。
これでもか・・! と言うくらいに鏡筒の外回りを「磨き研磨」したのでフローティングは滑らかになりました。フローティングの仕組みは・・外ヘリコイドの内側が空洞 (溝) になっており、上の写真の「丸窓」から鏡筒を固定する「固定環 (ネジと円筒のセット)」を3箇所に入れます。すると鏡筒は3本の固定環が刺さった状態のままで外ヘリコイドの内側を空転する (浮いているようなイメージ) ワケですね。そして内ヘリコイドにネジ山が切られているので鏡筒は空転しながら直進動をするワケです・・つまりフローティング機構です。
上の写真は破砕した塩ビ製スリーブ (筒) の破片です。本当はもっと沢山破片があるハズなのですが、細かく破砕して内ヘリコイドのグリースの中に混ざってしまったようです。回収できた破片は上の写真だけになります・・指で擦り潰せるほどに柔らかく弱くなっています。
この塩ビ製スリーブ (筒) は、実は鏡筒を支えている3本の「ネジ+円筒」を覆っているカバーみたいな役目です。今回のご依頼内容である「距離環のガタつきが突然発生した」と言うのは、この塩ビ製スリーブ (筒) が破砕してしまったからです。他社光学メーカーでは同じ塩ビ製スリーブでも肉厚のある筒を使っているのですがCanonでは薄い厚みのスリーブなのが経年劣化に耐えられなかったようです。配慮が無さ過ぎますね・・。
今回の整備では適合する径の塩ビスリーブなどは手持ちがあるワケ無いですから、仕方なくシーリングテープを巻いて代用しました。結果、代用したのを忘れるほどに滑らかに鏡筒が空転して (浮いて) います。
こちらは距離環やマウント部を組み付けるための基台です。ダブルヘリコイドなので白色系グリースを塗布しました (黄褐色系グリースだと抵抗が多いため)。
後から組み付けることができないので、ここで先に距離環 (下部) を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。
ヘリコイド部 (ダブルヘリコイド部) を、やはり無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルでは全部で11箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。ちなみに内ヘリコイド側にはネジ込み位置が全部で3箇所ありました。
距離環のガタつきが生じていたのは前述のとおりスリーブの破砕による「スリーブ部分の厚み x 3個分」が隙間となってしまい、その分のガタつきが発生していたのが原因でした。ちなみに、距離環は「上部」と「下部」に分かれており、且つ「下部」はイモネジ (ネジ頭が無くネジ部にいきなりマイナスの切り込みを入れたネジ種) 3本を使って固定されています。このイモネジを締め付ける時に「上部」も同時に固定されるので、このイモネジ (3本) を外さない限り距離環は外れません。
この状態で基台をひっくり返して撮影しました。直進キーと言う距離環を回す「回転するチカラ」を鏡筒が前後動する「直進するチカラ」に変換する役目のパーツが上の写真奥に組み付けてあります (1箇所のみ)。また絞り環を回した際にカチカチとクリック感があるのは上の写真のブルーの部分「絞り値キー」と言う「溝」に鋼球ボールではなくシリンダー (金属製の円柱) が填り込んでクリック感を実現している仕組みです。この絞り値キーもプラスティック製でした。
マウント部のベース環をセットします・・この状態でようやく絞り環が固定されます。
マウント部 (シルバーのマウントの爪部分) と絞り連動ピンなどの機構部のユニットを同時に組み付けます。この後は光学系前群を組み付けてから無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認をそれぞれ執り行い、最後にフィルター枠とレンズ銘板、及び距離環のラバー製ローレット (滑り止め) をセットすれば完成です。
ここからはオーバーホールが完了したオールドレンズの写真になります。
バラす前の段階ではフローティング機構の調整に難航するのではないかと危惧していましたが問題なく調整が完了しました。
光学系内は透明度が大変高い個体なのですが、バラした時点で全ての光学硝子レンズに経年の揮発油成分がうっすらと膜のようになってこびりついていました。すべて清掃しキレイに除去できています。一部第2群と第3群の外周附近に菌糸状のカビが発生していたのでカビ除去を執り行っています。
光学系後群も大変透明度が高い個体でキレイになりました。僅かに微細なコーティングハガレが数点ありますが反射させなければ視認できないレベルです。後玉のカニ目溝に1箇所キズを付けてしまいました・・申し訳御座いません。
油染みが生じていた絞り羽根もキレイになり確実に駆動しています。
ここからは鏡胴の写真になります。経年の使用感があまり感じられない筐体ですが当方による「磨き」をいれたので落ち着いた美しい仕上がりになっています。
塗布したヘリコイド・グリースは「粘性:軽め」を塗っています。ダブルヘリコイドなので、これでも実際の距離環駆動時のトルクは「普通〜重め」になります。ネジ山が2セットあるので当方で使っているヘリコイド・グリースでは、このトルクが限界です。もしもご納得頂けなければご請求額より必要額を減額下さいませ。申し訳御座いません。
当方のレベルとしては完璧なオーバーホールが完了していると判断しています。もちろん距離環のガタつきは解消しています。距離環の回し始めが少々重く感じていたのも改善させています。
当レンズによる最短撮影距離30cm附近での開放実写です。今回のオーバーホール/修理ご依頼、誠にありがとう御座いました。