◎ P. ANGÈNIEUX PARIS (アンジェニュー) TYPE Y12 90mm/f2.5《後期型》(L39)

(以下掲載の写真はクリックすると拡大写真をご覧頂けます)
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※解説とオーバーホール工程で使っている写真は現在ヤフオク! 出品中商品の写真ではありません

オーバーホール/修理ご依頼分ですが、当方の記録用として掲載しており
ヤフオク! 出品商品ではありません (当方の判断で無料掲載しています)。
(オーバーホール/修理ご依頼分の当ブログ掲載は有料です)


今回初めての扱いになりますが、前回ここにアップした興和光機製Prominarに引き続き2本目のオーバーホール/修理ご依頼分です。

このように大変希少価値が高く、しかも高価なオールドレンズを何の惜しげもなく当方を信用してオーバーホール/修理をご依頼頂ける方が何人かいらっしゃいます。今までの10年間で、まさにこのような方々のご尽力とご厚情により当方の技術スキルが育まれてきたのだと,本当にいつもながら感謝しています・・ありがとう御座います!(涙)

何故ならまるッきし当方の資金力では、このような高額なオールドレンズを何本も手に入れられないワケで、しかも不具合の箇所をちょこっと修理するだけではなく「完全解体によるオーバーホール」をご指定の上でご依頼頂くのは、そのオールドレンズに対する特別な思い入れはもちろんの事、ひいては『製品寿命の延命』にその意義を見出して頂けると言う、まさに当方の価値観との共有が叶うワケで、これほど嬉しい話はありません!(涙)

その意味で当方がこだわる『DOH』は、単なるオールドレンズの修理作業だけではなく、まさに『製品寿命の延命』によりまた次の世代へと個体の価値観を残し継承していきたいとの強い想いから、その一つの手段として『本来あるべき姿に正す』ことを使命と捉えています。

哀しいかな、今後50年後にはいったいどれだけのオールドレンズ (の個体数) が生き残って いるのか、必ず最後にはそこに辿り着くワケでなかなか輝かしい将来の展望が期待できない 状況です(涙) 逆に言うなら、はたしてオールドレンズはさらに遡るクラシックレンズのように100年生き存えられるの否か、まるで『絶滅危惧種の如く』甚だ疑問なところです。

今の世の中、確かにスマホさえあればサクッと撮影ができて、しかも時代の主流は動画に移行しつつ、光学硝子レンズすら必要としない「平面レンズ」の時代 (つまり波長で捉えて記録する時代) へと移り変わっていくワケで、まるでエジソンが発明した電球の如く、当時はそれすら 異次元の別世界の話だったのに今はLED電球が当たり前の時代です(笑)

そのように考えると、いつの日にか「あぁ〜ガラスを使って撮影していた時代の話ね」などと遠くを見るような目で語られてしまうのかも知れません。然し一つだけ期待を寄せるなら、そのような時代でも必ず「自分の手で操作してジックリ撮影する醍醐味を愉しみたい」とこだわる人が現れるのだと、微かな期待を胸に抱き日々作業している次第です(笑)

きっとその時、似たように完全解体してオーバーホールにこだわる人まで現れ、バラしてみると「ウン100年前なのにずいぶん中がキレイだな」と不思議に思うかも知れませんね(笑) そんなちょっとしたトリック的な妄想に耽るのも、また楽しかったりします!(笑)

中に自分のサインでもマーキングしておくかなぁ〜?(笑)

  ●               

P. ANGÈNIEUX PARIS (アンジェニュー) はその名の如くフランス屈指の老舗光学メーカーです。今回扱うモデルのように一般民生向けの スチル撮影用オールドレンズとして開発/出荷されますが、主力は映画撮影用のシネレンズやズームレンズであり、現在は産業用高性能レンズや軍用レンズなどにも手を広げています。

1950年にはクィックリターンミラーボックスを装備する、当時ではまだ主流の座を獲得していなかった (当時はレンジファインダーカメラが主力の時代) 一眼レフ (フィルム) カメラ向けの、世界初となる広角レンズを開発し発売。また1958年にはこれも世界初となるズームレンズを 開発するなど、その着眼点と発想が素晴らしい光学メーカーの一つです。

従って今でこそオールドレンズでは当然のように語られている「RETROFOCUS (レトロフォーカス)」と言うコトバは、実はこのP. ANGÈNIEUX PARIS社がそもそも世界で初めて開発した 広角レンズの光学設計を指す登録商標だったのです (当時は広角レンズ専用光学系の設計がいまだ進んでいなかった)。

あまりにも世界的にこのコトバが広角レンズ域の代名詞的な光学設計として知れ渡ってしまったので,当時から商標権にこだわらずに/捕らわれずに融通を効かせています。

今回扱う中望遠レンズ『TYPE Y12 90mm/f2.5《後期型》(L39)は、世代で言うと第二世代「後期型」に当たります。

【モデルバリエーション】
オレンジ色文字部分は最初に変更になった諸元を示しています。

初期型:1941年発売〜1953年

光学系:4群4枚エルノスター型構成
タイプ:TYPE Y1
絞り羽根枚数:12枚
絞り値:f2.5〜f22
最短撮影距離:1.4m

前期型:1954年発売〜1960年 (?)

光学系:4群4枚エルノスター型構成
タイプ:TYPE Y12
絞り羽根枚数:10枚
絞り値:f2.5〜f22
最短撮影距離:1.06m

後期型:1956年発売〜1968年

光学系:4群4枚エルノスター型構成
タイプ:TYPE Y12
絞り羽根枚数:10枚
絞り値:f2.5〜f22
最短撮影距離:1.06m

ALPA ALFITARモデル

光学系:4群4枚エルノスター型構成
タイプ:TYPE Y12
絞り羽根枚数:10枚
絞り値:f2.5〜f22
最短撮影距離:1.06m

ALPA ALFITARモデル

光学系:4群4枚エルノスター型構成
タイプ:TYPE Y12
絞り羽根枚数:10枚
絞り値:f2.5〜f22
最短撮影距離:1.06m

対応マウントは戦前ドイツはZeiss Ikon製レンジファインダーカメラ「CONTAX I/IIa/IIIa」向けの他、M42マウントやexakta、Praktina、Rectaflex、ALPA、L39などあります。またALPA用モデルにはタイプ別にモデル銘が与えられており、今回のモデルは「ALFITAR (アル フィター)」と刻印されています。

なお、実装している光学系の設計に従いタイプが分かれて命名されており以下になります。

【タイプと光学系構成/設計の関係】

↑従って、例えば今回の中望遠レンズで焦点域90mmで見ると、3種類のタイプが用意されており、且つ同一開放f値「f2.5」で括ると同じ4群4枚エルノスター型光学系なのにタイプが 異なるのは「光学系の設計が違うから」です。結果、全てのモデルでタイプが個別になるので同じ設計の光学系は存在しないと考えて良いと思います (ビミョ〜に曲率やサイズ/厚みなどが異なる)。

今回扱った「後期型Y12モデルでみると、光学系構成は典型的な4群4枚のエルノスター型構成です。

 色部分の3群3枚トリプレット型構成が基本成分になるので、必然的にピント面の鋭さが確保されるのがよ〜く分かります。また焦点距離を稼ぐ為にその直前に1枚追加配置しているワケですね。

右構成図は今回のオーバーホールで完全解体した後、光学系を清掃する際に当方の手で逐一 デジタルノギスを使い計測したトレース図です。

一方こちら右図は当時のカタログなどからトレースした構成図になりほんの僅かですが相違が見られ、例えば第1群前玉は凸平レンズですが,現物は凸メニスカスで裏面側中心部分が僅かに凹んでいます。

また同様第4群後玉は表裏面で曲率がほぼ近似した両凸レンズですがこちらもやはり現物は違っており、特に絞り羽根側方向がより平坦に近い曲率の両凸レンズでした。

だいたいこのようにカタログや取扱説明書などに掲載される光学系構成図は、発売する目的で設計された量産品の光学設計を掲載せずに、おそらく当初の開発時点、ひいては特許申請時の構成図を載せているのではないかと当方はみています。

従って当方は今までに3,000本以上のオールドレンズを完全解体して光学硝子レンズを計測していますが、印刷された構成図面にピタリと合致したモデルがとても少ないように思います。

なお,右構成図が前述の「初期型Y1モデルに実装されている光学系構成図で、同じ4群4枚エルノスター型構成ながらも、3群3枚トリプレット型構成を基本成分としつつ第2群も含め収差の改善度合いがまだまだ進歩していなかった事が伺えます。それは実際に実写を見て比較するとY12モデルのほうがより収差の制御ができているように見えるからです (あくまでも個人の感想です)。



上の写真はFlickriverで、このモデルの特徴的な実写をピックアップしてみました。
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)
※各写真の著作権/肖像権がそれぞれの投稿者に帰属しています/上記掲載写真はその引用で あり転載ではありません。

一段目
左端からシャボン玉ボケが破綻して円形ボケへと変わっていく様をピックアップしています。ご覧のように光学系内に基本成分として3群3枚トリプレット型構成を包括する特徴から、基本的にピント面の鋭さが確保され、合わせてエッジの細さとそこからアウトフォーカス部に向かって自然に滲んでいく様が納得できます。

特にさすが映画向けのシネレンズが主体である分、背景の煩さなど全く感じないくらいにほんのりと違和感なくボケていくのでピント面の主役が自然に強調されている描写性に好感を持てます。

二段目
中望遠レンズ息の焦点距離なので左端写真のように大きめの円形ボケが溶けて写りますが、まさに映画のワンシ〜ンのような輪郭を相応に残しつつ/意識させつつも実はちゃんと溶けきっていて主体たるピント面を強調できているのが凄いです。またダイナミックレンジが意外にも広いので明暗部の耐性も高くこれを観るとAngenieuxの素晴らしさに納得です!

三段目
左端写真のようにコントラストがキツく出ずにあくまでもナチュラル的な印象の色付きがステキです。数多く人物写真を観てみましたが、おそらく人物を被写体としたポートレート撮影にはもしかしたら「初期型」のY1モデルのほうが適しているかも知れません。但しY1モデルは逆に背景の収差が制御しきれていないので、相応に撮影スキルが試されると覚悟したほうが良いと思います。

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。このモデルは鏡胴が「前部/後部」の二分割方式なので,一般的な同一方式のオールドレンズ同様鏡胴「前部」が鏡胴「後部」に対してネジ込み式です。

この二分割方式のネジ込み式モデルの場合に、鏡胴「前部」を外す際チカラいっぱい反時計の方向に回すと、下手すれば「絞り環と絞りユニットとを連結している僅か1ミリ程度の開閉キーが軸部分で破断する/折れる」危険性が非常に高くなります。

要はこの二分割方式モデルは最初の解体段階からして保持する箇所をミスると「パンッと音が聞こえてアッと言う間にジャンク品に堕ちる」ので恐怖の一瞬なのです(笑)

よく修理のご依頼で「絞り環が空転している」と言うお問い合わせが来ますが、まず以て修復できないので (何故なら開閉キーの軸が折れているから) 残念ながらお断りしている次第です。
そもそも筐体外装やベース環が解体できず、鏡筒まで到達しないので修復のしようがない (方法がない) と言わざるを得ません。

なお上の完全解体した時の全景写真を見ると分かりますが、中央の白紙の上に横一列に並べた光学系各群は「全ての群が格納筒にモールド一体成形」です。すると整備者ならこの写真を 見た時にチェックする場所が違っていて(笑)、各格納筒の縁部分が「階段状」なのに目が行くハズです (もしもチェックしなかった人は整備者には少々向いていない人)。

つまりこのモデルはロシアンレンズなどと同じように「光学系各群は落とし込みによる収容」だと悟り、光学系前後玉を締め付け固定する「締付環2個だけが描写性能の鋭さを確保する ポイント」だと認識します。

ところがそれは自らの思い込みであって、だいたい過去メンテナンス時にガッチガチに締付環を硬締めされている場合が多いですが(笑)、実は「その階段状部分の平滑性、ひいては格納筒と鏡筒内壁の平滑性が重要」なのであって、むしろ締付環による硬締めは普通のチカラで全然問題ないのです(笑)

従って当方がオーバーホールすると、たいていの場合で当初バラす前の実写チェックよりも 仕上がり後のほうが「極僅かにピント面の鋭さが改善する」のは、まさに「本来あるべき適切な光路長に戻ったから」なのであり、それこそが当方がこだわる『DOH』の成せる技なのだとも言い替えられます。それ故、必ずオーバーホール済でヤフオク! 出品する際は出品ページで「簡易検査具使い鋭いピント面に改善済」と謳っているワケです(笑)

これはなにもピント面の鋭さだけではなく,場合によっては「ピントの山のピーク感が極僅かに変化する」事もあり、それはまさに撮影時の操作性の良さにも繋がると考えています (よりピントの山が掴み易く改善されているから)。逆に言うならピントの山がバラす前よりも掴み 辛くなってしまうとしたら、それは光路長が適切ではないので仕上がった後でも実写チェックしているなら気が付くワケです (当然ながらヤリ直し!)(笑)

この辺が「納得尽くで組み立てているのか否か」が関わる話であって,何も考えずにただ単にバラした時と同じ手順で組み立てているだけの「整備者モドキ」が仕上げた個体は、その描写性の改善を期待するのは難しいワケです(笑)

↑絞りユニットや光学系前後群が格納される鏡筒です。ご覧のように相応に長い鏡筒ですが、既に「内壁は当方によって磨き研磨済」なので平滑性が担保されている状態です。この中に 光学系前群の3つのガラスの塊がストンと落とし込まれていくだけの格納方法です。

逆に言うなら3つもガラスの塊が入るワケで、それぞれの格納筒と鏡筒内壁の経年による酸化/腐食/錆びが「少しずつ抵抗/負荷/摩擦を増大させる」因果関係として蓄積され、その結果 最後に「締付環」で締め付け固定してもビミョ〜に甘いピント面だったりするワケです。

ところが適切な光路長確保の為に磨いて研磨するにも「磨きすぎると却って逆効果」であり,何でもかんでも磨けば良い話ではありません(笑)

要はその辺の判断と決断がこの10年間に3,000本以上のオールドレンズをオーバーホールしてきた経験値として培われたのだと言っても過言ではないくらいです。

もっと言うならこのフランスの老舗光学メーカーP. ANGÈNIEUX PARIS製オールドレンズや,他の旧西ドイツの光学メーカーが当時製産していたオールドレンズは「どういうワケかメッキ加工の成分が日本とは違う」ので,下手にいい調子になって磨くと痛い目に遭います(笑)
これはお国柄なのか当時の流行りなのか全く分かりませんが、とにかく「磨き研磨」していくとその研磨度合いが全く別モノなので「何処の国の製品なのか」も実は重要な要素だったり するのです (例えば1970年以前のロシアンレンズなど)(笑)

このようにひと言に「平滑性の担保」と言っても、その作業を行う前に考えるべき事は山ほどあるので(笑)、単純な作業の話ではありません。

絞り羽根には表裏に「キー」と言う金属製突起棒が打ち込まれており (オールドレンズの中にはキーではなく穴が空いている場合や羽根の場合もある) その「キー」に役目が備わっています (必ず2種類の役目がある)。製産時点でこの「キー」は垂直状態で打ち込まれています。

位置決めキー
位置決め環」に刺さり絞り羽根の格納位置 (軸として機能する位置) を決めている役目のキー

開閉キー
開閉環」に刺さり絞り環操作に連動して絞り羽根の角度を変化させる役目のキー

位置決め環
絞り羽根の格納位置を確定させる「位置決めキー」が刺さる環 (リング/輪っか)

開閉環
絞り羽根の開閉角度を制御するために絞り環操作と連動して同時に回転する環

なお,今回のモデルの絞り羽根は「梨地仕上げのメッキ加工」が施された立派な絞り羽根なので、そこいらのオールドレンズとはまるで別モノです(笑) 残念ながら当初バラした直後に確認すると極僅かに油染みしていた為、まるで真っ黒になっていましたが洗浄後は多少経年擦れ痕部分が白っぽく褪色しています (逆に言えば僅かに赤サビが洗浄で確認できた)。

↑これから絞りユニットを組み上げて鏡筒内にストンと落とし込む作業に入りますが、絞り ユニットには2種類の構成パーツが存在し「位置決め環/開閉環」ですが「開閉環が絞り環操作で回る」仕組みです。

ところがブルーの矢印で指し示したとおり,このモデルにもスリット/切り欠きが2つ備わる ので「その意味するところ」をちゃんと認識できていないと「仕上がった個体の絞り羽根開閉幅 (開口部の大きさ/カタチ/入射光量) が適合しなくなる」と言えます。これは検査具を使って各絞り値での滲み具合をチェックすればある程度確認できます (電子検査機械を使えばピピッと瞬時に数値化して検査できるが当方は買えないのであくまでも目視確認)(笑)

貧乏暇なし・・と言うヤツです(笑)
最小絞り値が「f22」まであると面倒くさいのなんのッて!(笑)

こういう検査作業と、合わせて当然ながらその検査結果から微調整のヤリ直しを実施するワケで、その結果が「一日に一本しか組み上げられない」と言う、まさに低レベルなスキルに繋がる次第です (プロなら一日数本仕上げている!)(笑)

当方はプロではないので一日一本が限界なのです・・(笑)

↑こんな感じで絞りユニットが組み上がり鏡筒内にストンと落とし込んで固定します (グリーンの矢印)。上の写真で絞り羽根の白っぽく写っている箇所が経年で赤サビが出ていた部分になりますから、ちゃんとサビ取りまで終わっています(笑)

↑絞りユニットを最深部にセットしたところです。この絞りユニットが光学系内の何処に配置されるのかで「入射光の収差制御も変わる」ワケで、よくネット上の解説を観ていると光学系構成の全体を捉えて (カタチだけで) 構成の種別を説明している場合がありますが,以前取材で工業用光学硝子レンズを設計生産している会社に伺った時、確認するとやはり絞りユニットの配置次第で収差の影響度合いも変化するので「当然ながら単に光学硝子の配置とカタチが似ているだけで結論づけできない」とお聞きしました。

要は設定絞り値に従い光学系の各群を透過してきた入射光の中から,どの光線を生かし、どれを捨てるのかの判断に繋がるワケで、必然的に絞りユニットの配置が強く関わるのがオールドレンズの場合ではないかと当方はみています。

↑完成した鏡筒を立てて撮影しました。写真上方向が前玉側方向になります。

↑絞り環を組み込んだところですが,どの位置でこの絞り環のネジ込みを止めるのかがポイントになります。なお下部にマーキングされている数値は当方が刻んだのではなく、おそらく 製産時にマーキングされたとみています (全ての主要構成パーツで数値が異なる)。

グリーンの矢印で指し示した位置に絞り環の刻印絞り値との整合性を保つ基準「」マーカーが見えますが、実はこのモデルのヘリコイド駆動は「回転式繰り出し方式」なので「絞り環 まで距離環と共にクルクル回ってしまう」動き方になります。

従って現在の設定絞り値が掴み辛いので絞り環には3箇所に絞り値が刻印され,且つ合わせて基準「」マーカーも3箇所存在するワケです。

もちろん前述の絞り環のネジ込み位置をミスると、或いはもっと前の工程である「2つのスリット/切り欠き」の意味を理解していないと、このようにピタリと合致しません。

↑これで鏡胴「前部」は完成したのでここからはヘリコイド (オスメス) 群が入る鏡胴「後部」の組み立て工程に移ります。

上の写真はマウント部ですが、真鍮 (黄銅) 製のヘリコイド (メス側) が備わり,且つネジ山が切削されています。ところが合わせて「右肩上がりの勾配が付いたスリット/切り欠き」も
備わるのが見えます (グリーンの矢印)。

↑アルミ合金材で造られているヘリコイド (オス側) を、やはり無限遠位置のアタリを付けた 正しいポジションでネジ込みます。このモデルでは全部で10箇所のネジ込み位置があるのでさすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。

さらにご覧のようにシリンダーネジという筒状の円筒形にネジ部が備わる「キー」がスリット/切り欠き部分に接触しながらヘリコイド (オス側) に刺さります (グリーンの矢印)。

↑さらに今度は「距離計連動ヘリコイド」がこの内側にネジ込まれるので、このモデルはライカ判ネジ込み式「L39マウント規格」なので、ダブルヘリコイド方式と言う話です。つまりヘリコイド (オスメス) 1セットが2種類ペアで存在し、それぞれが「内筒/外筒」を構成して距離環の回転と共に一気に両方のヘリコイドセット (オスメス) が同時に連係して回転していく動き方です。

なお上の写真解説のとおり「直進キー」とそれが刺さって上下方向に/前玉と後玉方向に直進動する為に備わる「垂直方向の溝/切り欠き」まで存在します (グリーンの矢印)。

↑こんな感じでダブルヘリコイドが組み込まれます。するとブルーの矢印①の距離環が回転することで同時に連動して「直進キーが直進キーガイドをスライドして (グリーンの矢印)」行ったり来たりと内筒が動くから (ブルーの矢印②)「結果として鏡筒が繰り出されたり/収納したり する仕組み」なのだと言えます。

↑正しい位置でダブルヘリコイド (オスメス) がセットできたので、これで鏡胴「後部」も完成です。この後は鏡胴「前部」に光学系前後群を組み込んでから無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行い、最後にフィルター枠とレンズ銘板をセットすれば完成です。

DOHヘッダー

ここからはオーバーホールが完了したオールドレンズの写真になります。

↑完璧なオーバーホールが終わりました。今回初めて扱いましたが、典型的な鏡胴二分割方式ながらも決して単純ではなく、相応にスキルが試される内部構造と駆動方式を採っていました。

↑本来のオーバーホール/修理ご依頼内容であった「後玉にカビ発生」は、まさにド真ん中に盛大で本格的なカビが繁殖し菌糸を広げていましたが、ご覧のとおり今となってはその痕跡すらLED光照射とても視認できず、むしろ逆に前玉表面側の経年の微細なキズがまるで「微細な埃/」のようにパッと見で見えてしまうくらいです(笑)

もちろん光に反射させて後玉をジックリご覧頂いても「カビ除去痕も皆無」なので、完全除去済と言えます。

↑大変貴重なライカ判ネジ込み式「L39マウント規格」の個体ですが、光学系はLED光照射でもコーティング層の経年劣化に伴う極薄いクモリすら皆無です。

↑絞り羽根の開閉幅 (開口部の大きさ/カタチ/入射光量) は、当初バラす前の設定よりも僅かに広めに微調整しました。当初バラす前の状態が「僅かに閉じすぎ」で、最小絞り値方向に閉じていくに従い「一段次の絞り値に近い設定」の滲み方だったので,微調整して適正化させています (簡易検査具による微調整)。また絞り羽根が閉じる際は「完璧に円形絞りを維持」したまま閉じていきます。

ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感が僅かに感じられるものの当方にて筐体外装の「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。「エイジング処理済」なのですぐに酸化/腐食/錆びが生じたりしません。

↑Angenieuxのオールドレンズと言うと、実際に現物を手にしたことがない人が抱く印象として「大きめの筐体サイズ」とよく言われますが,現物は意外にも相当小振りで(笑)、今回の この中望遠レンズも本当にコンパクトです。それでいてこの描写性ですから、確かに昔から「喉から手が出るほど欲しくなる」のが納得です (何しろ小さいので取り回しが楽)。

但し回転式ヘリコイド駆動なので,絞り環まで一緒に回っていく関係から「ピント合わせした後にボケ具合をイジるとその都度ピント位置がズレてしまう」ワケで、さすがに撮影に専念できる操作性とは言い切れません(泣)

特に今回の個体は当初バラす前のチェック時点で「既に塗布されていた古い黄褐色系グリースの経年劣化進行度合いが高くツルツル状態のトルク感」であり、とてもピント合わせ後に絞り環操作できる状況ではありませんでした。

また絞り羽根自体も前述のとおり梨地仕上げされていながら既に赤サビが出ていたので「一部の絞り羽根のキーが垂直を維持できていない」為に,敢えて絞り環操作をスカスカに軽くせず「相応なトルク感を与えて仕上げた」次第です。

おそらく過去の一時期に相応に油染みが粘性を帯びていた期間があり、その影響から (絞り羽根が互いに引き合い密着するので) 一部の絞り羽根は既に水平/平坦を維持していません。そのような状況も加味して絞り環操作時のトルク感を決定しています。

塗布したヘリコイドグリースは今回も同様「黄褐色系グリース」ですが、ご指示にあった「現状と同程度のトルク感」と言う当初バラス前のツルツルのトルク感には至っていません。

過去メンテナンス時もちゃんと「黄褐色系グリース」を塗っているので良かったのですが、正直なところ経年劣化しきった黄褐色系グリース相手に同じようなトルク感で仕上げるのは相当難しく,残念ながら極僅かに「今回の仕上がりのほうが当初バラす前より重め」です。

しかし実はその判定基準には前述の「ピント合わせ後の絞り環操作は厳禁 (ピント位置がズレる為)」を少しでも改善したかった思い、要は操作性の良さ/違和感のない撮影に専念できる 操作感に思いを馳せて仕上げた次第です。

現状、オーバーホール後はピント合わせ後に絞り環操作してボケ具合を調整しても「ピント面はズレにくい」くらいに絞り環と距離環の互いが程良いトルク感に落ち着いています。なお その関係でまだグリースが新しいので極僅かにトルクムラが出る場合がありますが,操作しているうちに解消します (つまり再現性が低い)。

↑そしてもちろん上から下まで,絞り環用基準「」マーカーから開放f値「f2.5」そして距離環の基準「」マーカーと∞刻印と (赤色矢印)、すべてがグリーンのラインのように縦一直線上に並んでいます。そしてこの状態で最もピント面が鋭い位置になるよう「要は最初の工程でセットした絞りユニットと鏡筒の状況がようやく最後に辻褄が合った」からこそ、このように (鋭いピント面のままで) 一直線上に並ぶのであって、それぞれの工程での微調整が適切だったことの証とも言えますね(笑)

無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。

もちろん光学系の光路長調整もキッチリ行ったので (簡易検査具によるチェックなので0.1mm単位や10倍の精度ではありません)、以下実写のとおり大変鋭いピント面を確保できました。電子検査機械を使ったチェックを期待される方は、是非ともプロのカメラ店様や修理専門会社様が手掛けたオールドレンズを手に入れて下さい当方の技術スキルは低いのでご期待には応えられません

↑当レンズによる最短撮影距離1m附近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。

各絞り値での「被写界深度の変化」をご確認頂く為に、ワザと故意にピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に電球部分に合わせています。決して「前ピン」で撮っているワケではありませんし、光学系光学硝子レンズの格納位置や向きを間違えたりしている結果の描写でもありません (そんな事は組み立て工程の中で当然ながら判明します/簡易検査具で確認もして います)。またフード未装着なので場合によってはフレア気味だったりします。

↑絞り環を回して設定絞り値「f4」で撮影しています。このピント面の鋭さが当初バラす前の実写チェック時よりもほんの僅かに鋭く改善しています (当方の技術スキルではその程度なのでスミマセン!)(笑) 然し、それでいて背景のビミョ〜に緩やかにボケている様が何ともシネマ風で本当に堪りません!(涙)

↑さらに絞り環を回してf値「f5.6」で撮っています。

↑f値は「f8」に上がっています。

↑f値「f11」になりました。もうだいぶ絞り羽根が閉じてきているのですが、まだまだピークを維持したままなのでもの凄い光学性能の中望遠レンズです。

ハッキリ言って今でこそ有名になった旧東ドイツの中望遠レンズ「Meyer-Optik Görlitz製Trioplan 100mm/f2.8 V」とは、やはりこの絞り値で比較してしまうともう太刀打ち できないのが分かります (Trioplanはこの絞り値では回折現象の影響が現れる)。

そもそも1950年代に登場した旧東ドイツのMeyer-Optik Görlitz製オールドレンズの中では、立体感まで備えるモデルが少なく、おそらく「Primoplan 58mm/f1.9 V」くらいではないかとの印象を当方は持っているので (多くのモデルで平面的で空気感/距離感が苦手な印象)、さすがに映画の世界で活躍できていた光学メーカーだけのことはあると溜息です・・(涙)

 回折現象
入射光は波動 (波長) なので光が直進する時に障害物 (ここでは絞り羽根) に遮られるとその背後に回り込む現象を指します。例えば、音が塀の向こう側に届くのも回折現象の影響です。
入射光が絞りユニットを通過する際、絞り羽根の背後 (裏面) に回り込んだ光が撮像素子まで届かなくなる為に解像度やコントラスト低下が発生し、眠い画質に堕ちてしまいます。この現象は、絞り径を小さくする(絞り値を大きくする)ほど顕著に表れる特性があります。

被写界深度
被写体にピントを合わせた部分の前後 (奥行き/手前方向) でギリギリ合焦しているように見える範囲 (ピントが鋭く感じる範囲) を指し、レンズの焦点距離と被写体との実距離、及び設定絞り値との関係で変化する。設定絞り値が小さい (少ない) ほど被写界深度は浅い (狭い) 範囲になり、大きくなるほど被写界深度は深く (広く) なる。

↑f値「f16」ですが、まだ解像度をギリギリ維持して耐え凌いでいます!(驚)

↑最小絞り値「f22」での撮影です。当初バラす前の実写チェック時点ではこの「f22」で中心部にコントラスト低下が現れていたので、やはり閉じすぎだったと思います。

大変長い期間に渡りお待たせし続けてしまい本当に申し訳御座いませんでした。本日前にアップしたProminar共々梱包して発送済です。届き次第ご確認下さいませ。

そして前にも記載した通りご納得頂けない要素に関してはご請求金額よりご納得頂ける分の金額を差し引き下さいませ。最大値は「ご請求金額まで/無償扱い」になり、大変申し訳御座いませんが当方による弁償などは対応できません (スミマセン)。

オーバーホール/修理のご依頼、誠にありがとう御座いました!(涙)