◎ YASHICA AUTO YASHINON DS-M 35mm/f2.8 (M42)
1968年にヤシカから発売されたフィルムカメラ「ヤシカTL」用の交換レンズとして発売された広角レンズなのでしょうか? 標準レンズの50mmのほうはそのような解説があるのですが広角レンズの35mmのほうはいつ頃発売されたのかも含めて調べてもまったく分かりませんでした。
標準レンズ「AUTO YASHINON DS-M 50mm/f1.7 (M42)」は何度かオーバーホールをしており、光学系や内部構造から使われているパーツまで含め「富岡光学製」であることが分かっています。モデルは異なりますがレンズ銘板に「TOMIOKA」銘の刻印がある「AUTO YASHINON」レンズのオーバーホールで共通項が確認できています。
この「AUTO YASHINON DS-M 35mm/f2.8 (M42)」はその写りの傾向から予測すると光学系は「富岡光学製」である可能性が高いですが、構造部や機構部の造りからはコシナ製よりも日東光学製を疑ったほうが良さそうです。日東光学製レンズに使われている機構部の「考え方」を採用している部分が存在しました。或いはヤシカ製なのかも知れませんが、いずれにしても確証がなく製造メーカーは分かりません。
「AUTO YASHINON」のシリーズでは初期の「AUTO YASHINON-DS」がモノコーティングのラインになり「AUTO YASHINON-DX」はその「DS」タイプを単に自動絞り化した(自動/手動の切り替えスイッチを装備)だけになりますが、この「AUTO YASHINON DS-M」はマルチコーティングを施したラインを指します。モデルによって、或いは発売時期によって自動/手動切替スイッチが装備されている場合と装備していない場合があるので、一概には言えないようです。他のモデル・ラインアップでは米国向けの輸出仕様モデルとしての「AUTO YASHINON DSB」や欧州向け輸出仕様モデルの「YUS」も存在しています。
当時富岡光学は1968年にはヤシカの完全子会社化が完了していますから、ヤシカ他チノンやコシナ、或いは日東光学、マミヤなど複数の光学メーカーとの関わりがあり、さらに今までにオーバーホールで解体してみた経験則から考慮すると1種類のレンズのすべてを100%丸ごと一社で生産するだけではなく、部分ごとに別の光学メーカーが関わっていたりすることが分かっています。レンズの製造メーカーを語るのに、その外観だけで判断したのではなかなか確証を持てませんが、バラして内部を確認すると意外な事実が判明したりします。多いのは光学系部分を富岡光学が設計製造しその他の構造部や機構部はまた別の光学メーカーが関わっているモデルがありますね。もちろんOEM生産というラインも考慮しなければなりませんから、それを考えると複数の光学メーカーとの関わりの中でお互いが持ち回り制とでも言うのでしょうか、得意分野なのか或いはコスト面での問題なのか、複雑に絡み合っているのが分かります。オーバーホールでバラしているとその辺の事柄が次第に明確になっていくのも愉しみのひとつの要素ですね。
写りについては画全体的な印象としてやはり繊細感が前面に出てきます。エッジの細いピント面はカリカリではなくバランスの良いまとまり方をした印象になり、発色性も大人しめですがコントラストは保っておりメリハリ感のある画造りで好感が持てます。ボケ味は富岡光学製の特徴でもありますが二線ボケ傾向が強くなりシーンによっては背景が煩くなり気を遣う必要があります。富岡光学製レンズでよく言われている開放時での俗に言う「癒やしレンズ」的な描写にはならずエッジに伴うハロは非常に極僅かです。従って描写の印象としてはとても端正な写りをするレンズで最短撮影距離30cmと言う寄れる広角レンズでもありますね。
当レンズは非常に珍しいモデルですが、大変残念ながら光学系の状態が良くありません。中玉にカビの発生が全面的に生じており、それを除去できていません(一部光学系の解体ができませんでした)。開放の写真をご覧頂ければ分かりますが、モワッとした写りになっていないので中玉の影響があったとしてもこれだけの画を残しますから、カビが生じていなければもっと期待できるのかも知れません。残念ですね。
個人的にはこの端正な写り方とコントラストを感じつつも大人しめの発色性が好みでもあり、手元に残すかどうか迷いましたが本数だけ増やしてもしょうがないので出品します(笑) ご活用頂ける方に是非ともご落札頂きたいです。
当レンズは自動/手動切替スイッチの位置が使い辛いポジションに設置されており、オート/マニュアルの切り替え操作が少々面倒です。これは仕様上のことなのでご留意下さいませ。
完全解体できず簡易整備止まりですので、以下完成品の出品症写真です。
絞り羽根の清掃は完了しています。