◎ Vivitar (ビビター) AUTO WIDE – ANGLE 35mm/f1.9《前期型》(MD)

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VV3519(0411)レンズ銘板

Vivitar-100②今回の掲載はオーバーホール/修理ご依頼分のオールドレンズに関する、ご依頼者様へのご案内ですのでヤフオク! に出品している商品ではありません。写真付の解説のほうが分かり易いこともありますが、今回に関しては当方での扱いが初めてのモデルでしたので、当方の記録としての意味合いもあり掲載しています (オーバーホール/修理の全工程の写真掲載/解説は有料です)。

アメリカの「Vivitar」と言うブランド銘の広角レンズです。Vivitarブランドは、そのほとんどを日本製レンズによるOEM製品で賄っています (僅かに韓国製やドイツ製のモデルも存在します)。

ウィキによると1974年に登場した今回のモデル「AUTO WIDE-ANGLE 35mm/f1.9」に関して、製造番号の先頭2桁が「28」で始まっているモデルは「コミネ製」と解説しています。今回のオーバーホールではこのモデルの「前期型」を整備しました。「前期型」は距離環が金属製のローレット (縦ストライプ・ジャギー) ですが「後期型」ではラバー製に変わります。

【製造番号の内訳】

VV2825製造番号②

製造番号は、当初8桁で始まり後には9桁に拡張されています。

  • 製造メーカー:
    (1969年〜1990年まで使用)
    6:オリンパス光学
    9:コシナ
    13:Schneider Optik
    22:キノ精密工業
    25:Ozone Optical
    28:コミネ
    32:マキナ光学
    33:浅沼
    37:トキナー
    42:Bauer
    44:Perkin Elmar (US)
    47:チノン
    51:東京貿易
    56:共栄商事
    75:HOYA光学
    81:Polar
  • 製造年度:製造年の下1桁目
  • 製造週:年間52週の製造週
  • 製造シリアル値:製造時のシリアル値

製造番号の先頭2桁「28」からコミネ製として当時の市場には供給されましたが、実際に生産していたのは「富岡光学」になり、内部の構造化から構成パーツに至るまで100%富岡光学製であることをバラして確認しました。従って、富岡光学によるOEM製品をコミネに納品し、コミネで組み立て工程を行っていたのか、或いはレンズ銘板だけを取り付けてアメリカ向けに輸出していたのか・・というイメージになるのではないでしょうか。

描写性は非常に優れており、開放からとてもシャープで鋭いエッジのピント面を構成します。富岡光学製ながらザワザワと煩い印象が少々大人しく抑えられており、階調の柔らかさが入ったボケ味です。大変キレイな「玉ボケ」を表出させる素晴らしい写真を残すこともでき (リングボケの場合には僅かに崩れ気味です)、長めの (重めの) 筐体ですがその価値が充分に見出せる端正な画造りに期待できます。

それもそのハズで、6群8枚の「レトロフォーカス型」光学系は、第2群 (つまり前玉の次) にいきなり貼り合わせレンズ (2枚の光学硝子レンズを接着剤を使って貼り合わせてひとつにしたレンズ群) を配置し、しかもその光学硝子材には「酸化トリウム」を含有させています。俗に言う「放射能レンズ (アトムレンズ)」なのですが、1970年代後半辺りからは経年に拠る「黄変化」から各光学メーカーが硝子材への酸化トリウム含有をやめています。その少し前の開発/発売なので使ってしまったのでしょうか・・屈折率をギリギリまで高めて諸収差の改善を狙い光学硝子材に「酸化トリウム」を含有しているワケですから、結果として歪曲なども充分に補正された諸収が改善された画がはき出されています。なかなか市場には出回らないレアなモデルですので、もしも見つけた時は迷わずゲットしたほうが良いです・・。

VV3519(0411)仕様

VV3519(0411)レンズ銘板

VV3519(0411)11こちらの写真は、当初バラした際の後玉を拡大撮影しています。後玉の固定環がガチガチに傷つけられています。恐らくペンチか何かを使ってムリに回したのだと思われます。

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。

すべて解体したパーツの全景写真です。

VV3519(0411)12ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。

構成パーツの中で「駆動系」や「連動系」のパーツ、或いはそれらのパーツが直接接する部分は、すでに当方にて「磨き研磨」を施しています (上の写真の一部構成パーツが光り輝いているのは「磨き研磨」を施したからです)。「磨き研磨」を施すことにより必用無い「グリースの塗布」を排除でき、同時に将来的な揮発油分による各処への「油染み」を防ぐことにもなります。また各部の連係は最低限の負荷で確実に駆動させることが実現でき、今後も含めて経年使用に於ける「摩耗」の進行も抑制できますね・・。

VV3519(0411)13絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒です。光学系がレトロフォーカス型なので相応に奥行きの長い (深い) 鏡筒サイズです。第2群を光学硝子を切削した「ガラスの塊」にせず、ワザワザ貼り合わせレンズににして、且つ酸化トリウムを含有させるという拘りようです。

VV3519(0411)146枚の絞り羽根を組み付けて絞りユニットを完成させます。絞り羽根の開口部のカタチは「六角形」ですが、シーンによっては大変キレイなほぼ真円に近い美しい「玉ボケ」を出してくれます。その意味では円形絞りにあまり拘り過ぎる必要もありませんね。

VV3519(0411)15距離環やマウント部を組み付けるための基台です。

VV3519(0411)16こちらはヘリコイド (メス側) なのですが、富岡光学製の特徴である「上下二段のネジ切り」仕様です。この当時の富岡光学製OEMモデルでは多く採用されている仕様でもあります。

VV3519(0411)17ヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込むと無限遠が出ません (合焦しません)。このモデルには「無限遠位置調整機能」が備わっているので、ここでのアタリ付けは大凡で構いません。

VV3519(0411)18ヘリコイド (オス側) をやはり無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルには全部で9箇所のネジ込み位置があるので、ここをミスるとさすがに最後で無限遠が出ず (合焦せず)、再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。

VV3519(0411)19こちらはマウント部内部を撮影しました。連動系・連係系パーツを取り外して既に当方による「磨き研磨」が終わっています。

VV3519(0411)20各連動系・連係系パーツを組み付けます。このモデルはマウントがミノルタの「MD」タイプなので、内部の仕組みも準じたパーツ構成になっています。

VV3519(0411)21距離環を仮止めして光学系前後群を組み付けた後は無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認をそれぞれ執り行い、最後にフィルター枠とレンズ銘板をセットすれば完成です。

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ここからはオーバーホールが完了したオールドレンズの写真になります。

VV3519(0411)1ワリと大玉の光学系と共に長い筐体サイズの「富岡光学製」モデルです。Vivitarブランドでアメリカ向けOEM輸出していたワケですが、その描写性能からは少々もったいない気持ちもしてしまいます・・もしかしたら、既に当時の日本ではこのような大柄なモデルは広角レンズとしてはあまり人気のないモデルになりつつあったのかも知れません。

VV3519(0411)2光学系は当初と比較すると透明度は上がりましたが (当初は全面の薄いクモリになっていました)、残念ながら中玉に少々大きめのカビ除去痕があります。薄いクモリが除去できてLED光照射でも透明度を確認しているので、むしろこの大きめのカビ除去痕は気にしなくても良いかも知れません。但し、シーンによっては何かしらの影響が出る懸念もゼロとは言えないですが、このモデルの魅力からすれば些細なコトでしかありません (上の写真のように目視では視認できないレベルです)。

VV3519(0411)9光学系後群もキレイになりました。

VV3519(0411)3この写真が「酸化トリウム」の含有を如実に表しているでしょうか・・第2群の「黄変化」なのですが、階調への影響にはならないレベルなのでカメラボディ側の「AWB」設定で発色性を改善させるだけで充分です。

ここからは鏡胴の写真になります。

VV3519(0411)4

VV3519(0411)5

VV3519(0411)6

VV3519(0411)7当初バラす前にあった「距離環のガタつき」は、距離環を固定している内部の固定ネジが原因でした。長方形の座金で四隅に爪があるタイプなので、少々珍しいのですがテキト〜に締め付けられていたために向きがアッチを向いていました。もちろん現在はガタつきも皆無でシッカリしています。

元々使われていたヘリコイド・グリースは「黄褐色系グリース」でしたので、ネジ山の状態は良く塗布したグリースは「粘性:中程度」を塗りましたが、それでも相応に軽い印象のトルク感に仕上がっています。

VV3519(0411)8前回の (過去の) メンテナンスが少々雑な整備だったようですが、その他特に問題なくオーバーホールは完了しています。

VV3519(0411)10当レンズによる最短撮影距離30cm附近での開放実写です。