◎ Vivitar (ビビター) AUTO WIDE – ANGLE 28mm/f2.5《前期型》(NF)
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前回「後期型」のこのモデルを出品しましたが、今回は「前期型」をオーバーホール済にて出品します。
アメリカの「Vivitar」と言うブランド銘の広角レンズです。Vivitarブランドは、そのほとんどを日本製レンズによるOEM製品で賄っています (僅かに韓国製やドイツ製のモデルも存在します)。
Wikipediaによると「AUTO WIDE-ANGLE 28mm/f2.5」に関しては、製造番号の先頭2桁が「22」で始まっているモデルは「キノ精密工業製」と解説しています。今回のオーバーホールではこのモデルの「前期型」を整備しましたが、実はもう1本「後期型」も以前組み立てをしています (こちらです)。
【モデル・バリエーション】
- 初期型:フィルター径:Ø 62mm、距離環ローレット:金属製、キノ精密工業製造
- 後期型:フィルター径:Ø 67mm、距離環ローレット:ラバー製、キノ精密工業製造
- 最終型:フィルター径:Ø 58mm、距離環ローレット:ラバー製、トキナー製造
また、製造メーカーに関しては、以下のような解説があります。
【製造番号の内訳】
製造番号は、当初8桁で始まり後には9桁に拡張されています。
- 製造メーカー:
(1969年〜1990年まで使用)
6:オリンパス光学
9:コシナ
13:Schneider Optik
22:キノ精密工業
25:Ozone Optical
28:コミネ
32:マキナ光学
33:浅沼
37:トキナー
42:Bauer
44:Perkin Elmar (US)
47:チノン
51:東京貿易
56:共栄商事
75:HOYA光学
81:Polar - 製造年度:製造年の下1桁目
- 製造週:年間52週の製造週
- 製造シリアル値:製造時のシリアル値
今回の個体の製造番号は「No.22xxxxxxx」なので「キノ精密工業製」と言うことになります。しかし、バラしてみると内部の構造化から使用されている構成パーツに至るまで、すべてが「富岡光学製」であることが確認できました。
従って、富岡光学によるOEM製品をキノ精密工業に納品し、キノ精密工業で組み立て工程を行っていたのか、或いはレンズ銘板を附加してアメリカ向け輸出していたのか・・というイメージになるのではないでしょうか。「富岡光学製」であることは、今回の「前期型」のみならず「後期型」でも全く同様でした。逆の言い方をすると、富岡光学製とは考えられない構造化や構成パーツが一切存在しないと言えます。
描写も富岡光学製モデルの写りと同じ傾向を感じます。被写体の素材感や材質感を写し込む質感表現能力の高さや、距離感や空気感までも感じる立体的な表現性、現場の緊迫感や臨場感までも漂わせるリアル感など、どれをとっても素晴らしい画造りです。今回の個体は「前期型」ですので僅かに後期型と比べて諸収差の改善度合いが劣っています (コーティングの色合いが異なります)、それでも逆光時には盛大なゴーストやハレ、玉ボケなどが出て開放では二線ボケ傾向があるなど、オールドレンズの愉しさを堪能できるモデルではないでしょうか・・ある意味ジャジャ馬的な性格の持ち主です。
オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。
今回は鏡筒と光学系前群がバラせなかったので一部を解体したパーツの全景写真です。
ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。鏡筒と光学系前群が解体できていません。
構成パーツの中で「駆動系」や「連動系」のパーツ、或いはそれらのパーツが直接接する部分は、すでに当方にて「磨き研磨」を施しています (上の写真の一部構成パーツが光り輝いているのは「磨き研磨」を施したからです)。「磨き研磨」を施すことにより必用無い「グリースの塗布」を排除でき、同時に将来的な揮発油分による各処への「油染み」を防ぐことにもなります。また各部の連係は最低限の負荷で確実に駆動させることが実現でき、今後も含めて経年使用に於ける「摩耗」の進行も抑制できますね・・。
瞬間接着剤で鏡筒の固定環を接着されているので、外せずにバラせませんでした。従って絞り羽根を含む絞りユニットなどが清掃できていませんが、ラッキーなことに油染みも無くキレイな状態でした。
この鏡筒を「固定環」を使って前玉側から締め付けて固定する方式を採っているのが富岡光学です。鏡筒自体をネジ止めすればたった3本のネジだけで済むのですが・・。
ヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。このモデルには「無限遠位置調整機能」が備わっているので、ここでのアタリ付けは大凡で構いません。
鏡筒 (ヘリコイド:オス側) をやはり無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルには全部で5箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。
こちらはマウント部内部の状態を撮影しました。既に当方にて連動系・連係系パーツを取り外しており「磨き研磨」が終わっています。このマウント部の材質が「真鍮製 (砲金)」なのでズシリと重みを感じます。
《 訂 正 》
材質について「砲金」と述べていますがその後専門の方からご指摘頂き考え方を改めました。「砲金」ではなく真鍮 (黄銅) 製です。ここに訂正してお詫び 申し上げます。大変申し訳御座いませんでした。
磨き研磨が終わった連動系・連係系パーツをセットしてマウント部内部を完成させます。このマウント部内部の真鍮製のパーツも富岡光学製のオールドレンズでよく使われているパーツで、形状もほぼ同じです。
マウント部を基台にセットしてから絞り環を入れ込みます。この段階では単純に絞り環を入れるだけです。絞り環の内側には各絞り値に見合った「溝」が刻まれており、そこに鋼球ボールが填ることでクリック感を実現しています。
指標値環を「Ι」マーカー位置を合致させながら組み付けます。この「Ι」マーカーがズレてしまうと絞り環の絞り指標値とは異なる場所でクリック感を感じたりするので適正ではなくなってしまいます。
この絞り環に「鋼球ボール+マイクロ・スプリング」をセットしない方式を採っているのも富岡光学です。ワザワザ指標値環やマウントのメクラ環などに「鋼球ボール+マイクロ・スプリング」を組み込むような構造にしてあり、もっと簡素化できたはずなのに調整を必要とする構造にしているのは「意味不明」ですね・・富岡光学製オールドレンズには時々このような「意味不明」な構造化があったりします。
距離環を仮止めして光学系前後群を組み付けてから、無限遠位置確認・光軸確認。絞り羽根開閉幅の確認を執り行い、フィルター枠とレンズ銘板をセットすれば完成です。
ここからはオーバーホールが完了した出品商品の写真になります。
フィルター枠に経年相応のキズがガチガチにあったので当方にて着色しています (下手クソなので汚いですが)。また光学系の前玉にも経年のコーティング剥がれや拭きキズなどがあります。
光学系は7群8枚のレトロフォーカス型ですが、後群の最初になる第4群は貼り合わせレンズ (2枚の光学硝子レンズを接着剤を使って貼り合わせてひとつにしたレンズ群) になっています。ラッキーなことにこの貼り合わせレンズにはバルサム切れ (貼り合わせレンズの接着剤/バルサムが経年劣化で剥離し始めて白濁化し薄いクモリ、或いは反射が生じている状態) が生じておらず、光学系内はとてもクリアで透明度の高い状態をキープしています。
上の写真 (3枚) は、光学系前群のキズの状態を拡大撮影しています。1枚目〜2枚目はコーティング層のハガレを撮っています。3枚目は拭きキズや点キズを撮りました。前玉なので、まずは写真への影響はほとんど心配する必要はありません。コーティング剥がれはコーティング層が剥離しているだけなので大きな問題にはなりませんし、拭きキズも深いキズではないので総じて写真への影響の懸念にはなりません。
光学系後群にも極微細な点キズやヘアラインキズなどがありますが概ねキレイなほうです。
漕ぐ微細な点キズを撮影しましたが、微細すぎて全ては写りませんでした。
【光学系の状態】(順光目視で様々な角度から確認)
・コーティング劣化/カビ除去痕等極微細な点キズ:
前群内:13点、目立つ点キズ:8点
後群内:16点、目立つ点キズ:10点
コーティング経年劣化:前後群あり
カビ除去痕:あり、カビ:なし
ヘアラインキズ:あり
・その他:バルサム切れなし。前玉に拭きキズやコーティング剥がれ/スポット、汚れなど複数あります。光学系内は微細なヘアラインキズや点キズも相応にありますが透明度は高いです。
・光学系内はLED光照射でようやく視認可能レベルの極微細な拭きキズや汚れ、クモリもありますがいずれもすべて写真への影響はありませんでした。
光学系の状態を撮影した写真は、そのキズなどの状態を分かり易くご覧頂くために、すべて光に反射させてワザと誇張的に撮影しています。実際の現物を順光目視すると、これらすべてのキズは容易にはなかなか発見できないレベルです。
これらの極微細な点キズは「塵や埃」と言っている方が非常に多いですが、実際にはカビが発生していた箇所の「芯」や「枝」だったり、或いはコーティングの劣 化で浮き上がっているコーティング層の点だったりします。当方の整備では、光学系はLED光照射の下で清掃しているので「塵や埃」の類はそれほど多くは残留していません (クリーンルームではないので皆無ではありませんが)。
光学系内については、何でもかんでも「カビや塵・埃、拭き残しと決めつける方」或いは「LED光照射した状態をクレームしてくる人」は、当方ではなくプロのカメラ店様や修理専門会社様などでオールドレンズのお買い求めをお勧めします。当方のヤフオク! 出品オールドレンズの入札/落札や、オールドレンズ/修理のご依頼などは、御遠慮頂くよう切にお願い申し上げます。
当方には光学系のガラス研磨設備やコーティング再蒸着設備が無く、キズやコーティングの劣化が全く無い状態に整備することは不可能です。
絞りユニットは今回解体できていませんが、この通りキレイな状態を維持しており確実に駆動しています。
ここからは鏡胴の写真になります。経年相応の使用感を感じる凹み・打痕・キズ・ハガレ・擦れなどがありますが、当方にて着色しています。
【操作系の状態】(所有マウントアダプタにて確認)
・ヘリコイドのグリースは「粘性:中程度」を塗布しています。距離環や絞り環の操作は大変滑らかになりました。
・距離環のトルク感は滑らかに感じほぼ均一です。
・極僅かな負荷を感じる箇所がありますが「グリス溜まり」なので操作しているうちに改善されます (グリス溜まりの位置は多少移動します)。
・ピント合わせの際は極軽いチカラで微妙な操作ができるので操作性は非常に高いです。
【外観の状態】(整備前後拘わらず経年相応の中古)
・距離環や絞り環、鏡胴には経年使用に伴う擦れやキズ、剥がれ、凹みなどありますが、経年のワリにオールドレンズとしては「実用品」の当方判定になっています (一部当方で着色箇所がありますが使用しているうちに剥がれてきます)。
・清掃時に指標値が褪色したため着色しています。
・フィルター枠に相当なキズがあるので着色していますが使用しているうちに剥がれてきます。
「磨き研磨」は極力グリースの類の塗布を少なくして、今後の経年使用に於いても「揮発油成分」が光学系まで回らないよう配慮した処置です。それは既に光学系、特にコーティングの劣化が相応に進行しており、さすがに硝子材だけはいくらメンテナンスと言えども、おいそれと何度も研磨することはできません (せいぜい当初生産時諸元値の1%以下程度までしか研磨できません)。それを考えるとグリースを塗ったくったり、或いは液化の早い滑らかな (粘性が軽めな) グリースばかりを好んで使うのもどうかと思いますが・・。
その意味では、使い倒すつもりならば整備する必要は無いでしょうし (スルスル回るのは既にグリースの限界が来て液化が始まっているからです)、少しでも長く使うならば整備したほうが良いコトになります (グリースを入れ替えるワケですから、トルクはそれなりに変化します)。その辺のリスクが分からない (気がつかない) 方が最近は多くなってきました・・当然ながら、当方のスキルレベルは低いですから、完璧な整備を望まれる方は「プロのカメラ店様/修理会社様」に整備をご依頼されるのが最善かと思います。ヤフオク! に出品しているオールドレンズの入札/落札も、このブログをご覧頂き「オールドレンズ/修理」のご依頼をされるのも、すべてスルーして頂くようお願い申し上げます。
それでもヤフオク! の当方評価に「非常に良い/良い」をお付け頂ける方がいらっしゃるのは、或いは「オーバーホール/修理」のご依頼を頂けるのは、市場に出回っているオールドレンズの状態を既にご存知だからです。問題なのは、このブログが検索でヒットして「オーバーホール/修理」のご依頼をされる方々の中で「認識」「感覚」が「プロのカメラ店様で販売しているオールドレンズしか知らない」と言う方々です。そのような方々からのご依頼では、トラブルになることが最近は多くなってきました・・ご勘弁下さいませ。何度も言いますが、当方の技術レベルは低いです・・。
Nikon Fマウントの「AUTO Vivitar WIDE-ANGLE 28mm/f2.5」です。あまり頻繁には市場に出回らない高速レンズ (広角レンズ) ですね・・富岡光学製のOEMレンズでキノ精密工業に出荷されたモノをさらに輸出していたようです。「前期型」のモデルなのでフィルター径Ø62mmのほうになり、距離環のローレット部は金属製です。