◆ АРСЕНАЛ (アルセナール工廠) ARSAT H 50mm/f1.4《中期型》(NF)

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※解説とオーバーホール工程で掲載の写真はヤフオク! 出品商品とは異なる場合があります。

今回完璧なオーバーホール/修理が終わりご案内するモデルは、
ウクライナのАРСЕНАЛ工廠製標準レンズ・・・・、
ARSAT H 50mm/f1.4《中期型》(NF)』です。


  ЯПОНІЯ З УКРАЇНОЮ!    Слава Україні!  Героям слава!  

上の文は「日本はウクライナと共に! ウクライナに栄光あれ! 英雄に栄光を!」の一文をウクライナ語で国旗色を配って表現した一文です。現地ウクライナでは民衆が「ウクライナに栄光あれ!」と自らの鼓舞を叫ぶとそれに応えて民衆が「英雄に栄光を!」と返すようです。

Slava UkrainieieGeroyam Slava

今回完璧なオーバーホール/修理が終わってご案内するモデルは、当方がオーバーホール作業を始めた13年前からの累計で、当時のロシアンレンズ「50mm/f1.4」の括りで捉えても、それらの中でNikon Fマウント規格の標準レンズでは僅か2本目です。

そもそも前回の扱いが2017年なので、凡そ7年ぶりと言うオーバーホール作業の状況になりますが、今回作業してみてやはりその微調整レベルは相当難度が高く、残念ながら『今回が最後の扱い』とせざるを得ません(涙)・・とても素晴らしいモデルであるが故に、本当に残念極まりない状況です。

先ずは冒頭で、このような大変希少なオールドレンズのオーバーホール/修理ご依頼を賜りました事、ご依頼者様に感謝とお礼を申し上げたいと思います・・ありがとう御座います!

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実際、今回扱った個体の製造年度は「1994年製」なのが製造番号から分かりますが、完全解体してみれはそれこそ1960年代の日本製オールドレンズのほうが明らかに数倍も造りが良く、ちゃんと細部まで面取り加工された経年に配慮した設計なのが一目瞭然です・・逆に
言うなら今回の個体が「1970年製」と言われても違和感を感じないほどに雑であるのは「ロシアンレンズ」の世界観では当たり前の話になりそうなくらいの勢いで、相変わらず何十年も同じ製造品質のまま造り続けているお国柄/国民性なのだと諦めるしかありません(笑)

冒頭て述べたように『今回の扱いで最後にする』その微調整の難しさとは・・詰まる処そのような意味合いを指しており、内部構造が難しいのではなく (構造面は至って簡素) 各部位の設計概念から切削や使用ネジ種に至るまで「何から何まで雑極まりない」が故の組み上げの難しさを意味しますから(涙)・・はたしてどれだけの整備者がこれら「ロシアンレンズ」を国産モデル並みにまで完成度高く組み上げられるのか「???」だったりします (当方にはムリ)(笑)

それでも唯一の救いだったのは、少なくとも1970年以前までの「ロシアンレンズ」と比較したら、明確に切削レベルは品質向上していると言えてしまうのが、何とも不思議な世界観であり、そこにアルミ合金材切削面での「特にココム違反してまで日本から輸出されたNC切削旋盤機械設備が脅威だった」一面が隠れているようにも感じましたね(笑)・・ロシアのお国柄ですから、一度手に入れた技術はアッという間にパクりまくり国内に拡散したのでしょう(笑)

今回の個体の整備にあたり最も頭を悩ませた問題は「ヘリコイドネジ山の摩耗」です・・バラしてみれば、確かに古いグリースたる「黄褐色系グリース」がカピカピに固まって端に追いやられていたものの、その上から過去メンテナンス時に新たに塗布された「白色系グリース」だけが、アルミ合金材のもう踏んで「濃いグレー状」に変質していました。

そうなのです・・カピカピに固まっていた古い「黄褐色系グリース」のほうは、ちゃんと褐色を維持したままだったのでアルミ合金材が摩耗していなかった事を表しています。

当初バラす前から掴んだ手の指が感じ取っていた「ザラザラ感」或いは「トルクムラ感」合わせて「ピント合わせ時の違和感」などは、凡そヘリコイドネジ山の摩耗がダイレクトに影響を及ぼしているように考えますが、プラスして組み込まれていた「直進キー」と言う板状パーツも、7年前に扱った個体同様やはり変形していました。

叩き込んで変形を直すにもトルクムラの改善度は微々たるレベルで、おそらく「直進キーガイドの溝」側が削れてしまったのではないかとみていますが、人の目で見て確認できるような話ではありません(泣)

・・今までの経験値から改善に臨んだものの、結果は低い改善レベルに留まっています(涙)

現ウクライナのキーウに (旧ソ連邦時代はキエフと呼称) 位置する「АРСЕНАЛ (アルセナール) 工廠」は、1764年に当時の帝政ロシアによりキエフ兵器庫として創設されたのが始まりで、旧ソビエト連邦時代も相変わらず兵器工場としての性格が強かった事からKMZ (クラスノゴルスク機械工廠) 同様、当方では『工廠』であるとの捉え方に一貫しています (一般的な工業製品に特化した専業工場との認識には至らない)。

現在はウクライナ側に位置しますが、先の大戦当時は旧ナチスドイツ軍の侵攻 (バルバロッサ作戦) の影響により、一時期1941年には現ロシア領内深くに退避していました。戦後からも一貫して軍需産業の根幹を成し続け、現ウクライナに於いても軍需産業を継続しています。

ちなみに日本語で有名な呼称は「アーセナル」ですが、現地ウクライナ語は「アルセナール」と呼称し、ロシア語では「アルスィナール」と発音します。

АРСЕНАЛ工廠で1979年に試作された「NikonFマウント規格」を採用した一眼 (レフ) フィルムカメラ「КИЕВ-17 (キエフ17)」向けセットレンズとして開発設計されたのが今回扱ったモデルのスタート地点になります。
(右写真はその後の量産タイプでГЕЛИОС-81Н 53mm/f2装着)

従ってそもそものスタート地点でのモデル呼称名が「ARSAT H (アルサット−N)」銘ではないので認識が複雑です(汗)・・モデル銘付随文字はロシア語キリル文字なので「Hはラテン語/英語のN」になり、マウント規格を表しています。

今回扱ったモデルARSAT H 50mm/f1.4 (NF)』のプロトタイプは同年1979年に試作された「МС ВОЛНА-4Н 53mm/f1.4 (NF)」ですが、量産型は左写真の「MC ВОЛНА-4 50mm/f1.4 (NF)」で、
生産工場のロゴマークが「ЛОМО (旧ГОМЗ/新LOMO)」とレニングラード光学機械工場製である事を明示しているので、これも複雑です(笑)
(ちなみに左写真の個体は1982年製造品なのが分かる)

その一方でАРСЕНАЛ工廠でも並行製産が続いていたので、確かに「アルセナール」のロゴマーク刻印が付随する「MC ВОЛНА-4 50mm/f1.4 (NF)」も1993年あたりまでは生産されていたようです。

さらに「МС ГЕЛИОС-123 50mm/f1.4 (NF)」も並行生産しており
ラテン語/英語にすると「MS HELIOS-123 50mm/f1.4 (NF)
」と
ヘリオス銘まで居たりしますから非常に複雑です(泣)

話はこれだけで終わらないのが「ロシアンレンズ」の世界観で(笑)、何と何とKMZクラスノゴルスク機械工廠」製造のモデル銘まで登場します。

左写真は現ZENITのサイトで紹介されている掲載写真からの引用ですが、モデル銘がМС ЗЕНИТАР-МА 50mm/f1.4 (M42)」なのが分かり、ラテン語/英語でMS ZENITAR-MA 50mm/f1.4 (M42)」とマウントが「M42マウント規格」です(驚)

今までに実際に手にして扱った経験がありませんが、明らかにKMZ製の「ヘリオス仕様」の筐体外装であるのが確認できます。

以上からプロトタイプが登場した1979年時点から本家「АРСЕНАЛ工廠」の他に「ЛОМО工場」或いは「KMZ工廠」と製造していたとなれば、さすが「ロシアンレンズ」とオドロキを隠せません(汗)

ここまでご紹介したモデル銘を見れば分かりますが、レンズ銘板の刻印はロシア語キリル文字なので「MC」刻印は、ラテン語/英語翻訳で「MS」になり、ロシア語キリル文字に於ける「МНОГОСЛОЙНОЕ」はマルチコーティングたる「多層」を意味しますから、ラテン語/英語の「MULTI COATING」を表す「MC」と混同しないよう注意が必要です(汗)・・何度も
言いますが、ロシア語キリル文字の「」はラテン語/英語で「」です(笑)

ところがどう言うワケか、何度何回ネット上を散々調べまくっても今回扱ったモデルARSAT H 50mm/f1.4《中期型》(NF)』の「ARSAT H」と「付随するHだけがロシア語キリル文字」なのが「???」なのです (ロシア語キリル文字のHはラテン語/英語のN)(泣)

それは「ロシアンレンズ」の多くのモデルで一貫したルールとしてモデル銘に付随する最後の表記は「マウント規格」を意味する事が多い為に、今回のモデルで言えば「HはNとなりNikon Fマウント規格」と理解できるからです。

逆に指摘するなら「ARSATをそのままロシア語キリル文字変換するとАРСАТ」となるルールなので「が変換される」ハズなのに、モデル銘だけがラテン語/英語刻印になっているのです(泣)・・何故なら、ロシア語キリル文字に「RとSは存在しない」からです。

つまり今回のレンズ銘板刻印がАРСАТ H 50mm/f1.4 (NF)」と刻まれていれば何の不都合もないのに、何故にラテン語/英語での表記なのでしょうか (それでいてHが最後尾に付随している)???(涙)

・・誰かこの根拠を解説して下さいませ! 消化不良で堪りません!(涙)

【 モデルバリエーション】

↑上の写真は今回扱ったモデルARSAT H 50mm/f1.4《中期型》(NF)』のモデルバリエー
ションとしてネット上の写真を探索し発見しました(笑)

それぞれでの違いは左端から順に「絞り環の刻印が変遷しているだけ」の話です(笑) 開放f値「f1.4」と最小絞り値「f16」との両側にさらに幅広面取りされているか、或いはローレット (滑り止め) のギザギザが刻まれているかの違いです・・左端が一番若い製造番号で刻印されていて、右端が1995年製個体であるのが分かり、且つ右端だけは「Ai-s爪が付随している」のも相違点です(驚)

但しこれら絞り環ローレット (滑り止め) の切削を見ていると、流れとしての一貫性がないようにも印象を残します (あくまでも製造番号のシリアル値側を基に調べると広がったり狭まったりと切削に一貫性が見られない)。一方距離環側のローレット (滑り止め) はいずれのタイプも全てラバー製を巻いています。

↑また上の写真は派生型を列挙していて、左端の2枚がВОРНА-4 53mm/f1.4 (NF)」と、おそらく距離環ローレット (滑り止め) が金属製の切削に見えます。さらに同じボルナ銘ですが
大変珍しいのは右端で、現在海外オークションebayで流通し続けているМС ВОРНА-8H 50mm/f1.2 (NF)」です!(驚)

焦点距離が53㎜の「f1.2」はネット上にも載っていますが、50㎜は初めて見ます!(驚)

上の写真を見る限り、左側2枚の写真からは距離環ローレット (滑り止め) が金属製の切削によるモノとの推測が適い、一方右端はラバー製ローレット (滑り止め) が巻かれていたであろう事も見えてきます。

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↑上の写真はFlickriverで、このオールドレンズの特徴的な実写をピックアップしてみました。
ピックアップした理由は撮影者/投稿者の撮影スキルの高さをリスペクトしているからです
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)
※各写真の著作権/肖像権がそれぞれの投稿者に帰属しています/上記掲載写真はその引用で
転載ではありません。

一段目
左端から円形ボケの状況を確認したくて実写をピックアップしていますが、そもそも光学系が6群7枚の拡張ダブルガウス型構成なので、真円の円形ボケ表出を維持できません(汗) さらにこのモデルの特徴とも言えそうですが「すぐにアウトフォーカス部が滲み始めてしまう性格」なので、ご覧のように背景がザワザワせずに滑らかに溶けていきます。

二段目
さらにこの段では人物描写をチェックしたくて実写を確認しました。なかなかのリアルな人肌感を表現してくれるものの、やはり本家国産Nikon製モデルと比べるとピント面のエッジ表現とともに鋭さ感が抜けているように見え、或る意味「Nikonほどに突き詰めたカリカリ感がなくて、人の瞳で見たがままの印象に近い表現性」と言う安心感と言うか、まさに「ロシアンレンズ」らしさの一面を見ているような気持ちになります・・個人的には或る意味こういう曖昧さが好きな処です(笑)

三段目
左側2枚の実写でグラデーションの滑らかさを確認しています。また右側では暗部の黒潰れ
状況に合わせて、逆光耐性も確認できます。

ロシアンレンズ」に共通項的に印象を残す要素が在りますが、エッジ表現が太めで明確に出てくる傾向が強く、どんなオールドレンズのモデルにもそれを感じ取れますが、今回扱ったモデルはその一方で「アウトフォーカスの滲み方がロシアンレンズの中では早い」印象を強く感じました。

光学系は6群7枚の拡張ダブルガウス型構成ですが、右構成図のように今回のオーバーホールで完全解体した際に光学系の清掃時、当方の手によりデジタルノギスを使い逐一全ての光学硝子レンズを計測したトレース図で明示すると、ネット上の掲載構成図とは大きく異なる
要素が分かります。

例えば光学系第2群と第3群の外形サイズが微妙に異なり (第3群のほうが極僅かに大きい)、或いは光学系後群側の第4群貼り合わせレンズは「構成5枚目が外側に突出している」設計を採り、且つ第6群と第7群はそれぞれアルミ合金材一体モールド成形ながらも、格納筒の中に落とし込み方式なので「積み重なるよう避ける意味で光学ガラス面が切削されている」のが
判明します。

ちなみに光学系内の第2群と第3群の間は「空気レンズ (つまり空気層)」であってゾナー型
光学系のような3枚の光学硝子レンズの貼り合わせではありません・・空気層を介在させる事で波長の屈折率の相違を利用して反射面を増やし「色消し効果の向上を狙っている光学設計」の意図が見受けられます。

↑上の写真は今回のオーバーホールに際し完全解体した際に取り出した光学系前群側の各硝子レンズを並べました。

例えばネット上に載っている構成図と比較すると、第1群前玉のコバ端厚みが第2群のコバ端よりも薄く掲載されていますが、実測するとご覧のようにほぼ同格です・・むしろ第2群のコバ端のほうが意外と薄めの印象です。

↑上の写真は光学系第3群のコバ端側を撮影していますが、赤色矢印で指し示しているように「第2群が上から被さる分を避けて光学硝子レンズが切削されている様子」が明白です (従って当方が計測したトレース図でもそのように作図しています)。

↑また上の写真はちょっと撮影が下手クソで分かりにくいのですが(汗)、赤色矢印で指し示している第1群前玉の裏面側蒸着コーティング層を確認すると、実は前玉の裏面側が放つ蒸着コーティング層の光彩は「ブルーグリーン色の光彩」なのです。

ところが上の写真のとおり「コバ端から順にマルチコーティングで多層に順番に蒸着しているのが判明する」次第です(笑)

一番最初がアンバーで次にパープルを蒸着し、最後に「グリーン色の光彩」を被せているのが一目瞭然です・・実は「ロシアンレンズ」だけに特に顕著に見られる要素で、例えば日本国内のオールドレンズや海外モデルでも、このように順番に被せているのが分かるコーティング層の蒸着はあまりありません(笑)

このような部分でも「ロシアンレンズ」の技術的な側面が垣間見えるような気がしますね(笑)

ちなみに光学系の蒸着コーティング層が放つ光彩は第1群前玉から順に表裏面で「前群/BG/」さらに「後群///」の光彩を放ちます・・なので、光に反射させて確認していくと明確にアンバーだけの光彩を放つ蒸着コーティング層は見えず
一方パープルが多い中にブルーグリーンが混ざっているのが分かります。

↑今度は光学系後群側の各群を並べています。右端の第6群が後玉の露出面にあたりますね(笑)

↑すると光学系第4群の貼り合わせレンズは、赤色矢印で指し示している構成の5枚目の光学硝子レンズコバ端が、極僅かに突出しているのが分かります・・実際に格納筒に格納させると、この部分で引っかかって格納位置を確定させている設計なのが判明しました。

↑上の写真も光学系後群側の第5群ですが、ご覧のようにアルミ合金材の格納筒にモールド一体成型で切削されています。すると赤色矢印で指し示している箇所が、上からさらに被さる第6群後玉の格納筒を避けるカタチで切削されているのが分かります。

またグリーン色の矢印で指し示している箇所のアルミ合金材は、当初バラした直後はこんなにピッカピカではない鈍いグレーに経年劣化進行に伴い酸化/腐食/錆びが進んでいました(泣)

↑すると他の群のアルミ合金材格納筒もご覧のとおりグリーン色の矢印で指し示している箇所のアルミ合金材を「磨き研磨」により平滑性を取り戻して、しっかりとちゃんと格納されるよう処置していますし、実は赤色矢印で指し示している箇所だけ、同じアルミ合金材だとしても「アルマイト処理仕上げ」に別の仕上がりで設計されており、詰まる処この位置で敢えてワザと抵抗/負荷/摩擦を増大させて格納位置を微調整させている設計概念なのが判明します(驚)

従ってこのモデルの光学硝子レンズは鏡筒格納筒の中にストンと落とし込みでセットされるものの、その格納位置を確実にする目的で「平滑性を高くしたアルミ合金材と抵抗/負荷/摩擦を増大させてあるアルマイト仕上げとに二分される設計」なのが判明します!(驚)

実はこの要素が過去メンテナンス時に適切に処置されておらず (おそらく製産後一度も平滑性を戻していない) バラす前の実写確認時点で「こんなに甘い印象の写り具合なのか???」と開放実写時に感じた次第です(汗)

前回扱った2017年時点は、いくら開放撮影でももう少し鋭いピント面にピント面を確認できた記憶が組み上がり後にはあったので、少々「???」な印象でした。

もちろんオーバーホール/修理完了後はこのブログページ一番最後の実写掲載のとおり「本来の鋭いピント面に戻った」ので嬉しい限りです!(涙)

ポイントは赤色矢印で指し示している箇所の「アルミ合金材アルマイト仕上げ処理」とグリーン色の矢印の「平滑仕上げ処理」とのメリハリをちゃんと仕上げるオーバーホール工程を執ったのか否かが問われる次第です(笑)

ちなみに上の写真を見ても分かるとおり、一部のアルミ合金材格納筒の側面に用意されている「アールの在る切削箇所」は「空気抜け用」で、鏡筒格納筒の中にそれぞれを落とし込んだ際「ちゃんと空気が抜ける」よう配慮した設計なのが分かります。

従ってこれら光学硝子レンズを締め付け固定する役目の「締付環」は第1群前玉用に1個と、第6群後玉用の1個、合計2つしか存在しない設計です・・するとそれら「落とし込み方式」の中でもちゃんと空気抜きを配慮して、然し乍ら「アルマイト仕上げに敢えてワザと抵抗/負荷/摩擦を増大」した群を用意するなど、光路長確保のために配慮を加えつつ設計していた事が判明します。

この点に於いても1970年代以前に設計されていた「ロシアンレンズ」の光学設計とは大きな進歩を見てとれます・・つまり1970年代以前の設計モデルには「空気抜き」や「アルマイト仕上げ」などの配慮が介在していません。

↑今回出品の個体を完全解体した時のパーツ全景写真です。オーバーホール工程やこのモデルの当時の背景など詳しい解説はARSAT H 50mm/f1.4《中期型》(NF)』のページをご参照下さいませ。

ここまで掲載したオーバーホール工程の写真は「全て過去扱い品/個体からの転載」です。オーバーホール済でヤフオク! 出品する際の個体写真とは一部に一致しない場合があります。

DOHヘッダー

ここからは完璧なオーバーホール/修理が完了したオールドレンズの写真になります。

↑完璧なオーバーホールが終わりましたが、残念ながらオーバーホール/修理ご依頼内容であった「距離環のトルクムラ」及び「絞り羽根が歪に閉じていく」については改善できませんでした・・申し訳ございません!(涙)

例えば距離環のトルクムラについては当初3回の組み直し工程で改善を期待しましたが不可能で、その後にヘリコイドオスメスのネジ山を逐一調べていくと摩耗している箇所が数か所見受けられ、その箇所について「さらに磨き研磨を強化」して仕上げましたが、それでも極僅かに改善できた程度です(泣)・・都合11回の組み直し回数に至っていますが、これ以上当方では不可能です(涙)

また絞り羽根が閉じる際に歪なカタチになるのも、そもそも7枚の絞り羽根に製産時点にプレッシングされている「キー」と言う黄鋼材の金属棒がバラバラの印象なので (正しく垂直状にプレッシングされているように見えない)、これも下手にイジってしまうと「キー脱落」の因果にもなり兼ねないので当方ではこれ以上不可能です(涙)

・・申し訳ございません!

この分については是非「ご請求金額からの減額」をご検討下さいませ。

絞り羽根には表裏に「キー」と言う金属製突起棒が打ち込まれており (オールドレンズの中にはキーではなく穴が空いている場合や羽根の場合もある) その「キー」に役目が備わっています (必ず2種類の役目がある)。製産時点でこの「キー」は垂直状態で打ち込まれています。

位置決めキー
位置決め環」に刺さり絞り羽根の格納位置 (軸として機能する位置) を決めている役目のキー

開閉キー
開閉環」に刺さり絞り環操作に連動して絞り羽根の角度を変化させる役目のキー

位置決め環
絞り羽根の格納位置を確定させる「位置決めキー」が刺さる環 (リング/輪っか)

開閉環
絞り羽根の開閉角度を制御するために絞り環操作と連動して同時に回転する環

絞り羽根開閉幅
絞り羽根が閉じていく時の開口部の大きさ/広さ/面積を指し、光学系後群側への入射光量を決定づけている

↑上の写真は絞り羽根の開閉制御を司る機構部を完全解体しています。赤色矢印で指し示しているとても薄い黄鋼材の環/リング/輪っか () の箇所に「⌀ 1㎜径のベアリング」がそれぞれ2個ずつ入り、合計で10個組み込まれます。

その一方でには、それぞれにグリーン色の矢印で指し示している箇所にアルミ合金材の切削面で「ベアリングが回転しながら回っていく道になる平滑面」が備わりますが、当初バラした直後にこの一部が削れて粗くなっていました(泣)

その原因は「10個のベアリングのうち1個だけが窪みから外れて中で勝手に回っていた」からです(泣)

その結果、当初バラす前のチェック時点でこの機構部の回転には「グリグリとベアリングが転がる感触が指に伝わってくる」始末で(泣)、とても平滑にクルクルと回転している状況とはかけ離れていました(泣)

おそらくこの影響も距離環の駆動時に常に受け続けてきたのだと推測しますが、実証はできません(泣)

今回のオーバーホール工程では、特にグリーン色の矢印で指し示している箇所のある耳の「平滑面」を全周に渡り確保し、組み上げた時点で指で回したらいつまでもちゃんと回転し続けるくらいの平滑性を担保しました。

↑こんな感じで回転する機構部が10個のベアリングで組み込まれて、赤色矢印で指し示している環/リング/輪っかがクルクルといつまでも回り続けるのが適正な状態です・・当初は指を離すとその瞬間にすぐ停止していたくらい、グリグリと感触が伝わってくる印象でした(涙)

鏡筒の繰り出し/収納時に常にこの機構部からのチカラが伝わるので、距離環を回した時のトルクムラの原因の一つに入ると推測できます(泣)

↑光学系内の透明度が非常に高い状態を維持している個体です。LED光照射でもコーティング層経年劣化に伴う極薄いクモリが皆無です。多少の薄く細い微細なヘアラインキズがコーティング層の線状ハガレとして残っています (物理的に削れている光学硝子面のキズではないのでLED光照射で視認できない)。

↑光学系後群もスカッとクリアになり極薄いクモリすら皆無です。前述のとおりアルミ合金材の格納筒の「平滑性」を取り戻したり、或いはアルマイト仕上げの格納筒をちゃんと仕上げたりしたので「ピント面の鋭さ感が増した印象」です。

↑前述の機構部の平滑性を取り戻したので、当初バラす前の確認時点で「ガチガチした印象の絞り環操作」は大変滑らかに小気味よいクリック感へと変わっています。

但し、そもそも設計段階で前後方向にガタつきがあるので、それはそのまま残っています。
(仕様なので改善できません)

絞り羽根が閉じる際のカタチもほんの僅かに改善できだけで「やはり歪なカタチに閉じていく」状況です(泣)

ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感が僅かに感じられるものの当方にて筐体外装の「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。「エイジング処理済」なのですぐに酸化/腐食/錆びが生じたりしません。

当方ではヤフオク! で流行っている「抗菌剤/除菌剤による清掃」などは絶対に実施しません。これをやると薬剤に含まれている成分の一部が金属の表層面に対して酸化/腐食/錆びを促す結果に至るので、早ければ1年、遅くとも数年でポツポツと錆が表れ始めます。

詳細は厚労省の「新型コロナウイルスの消毒・除菌方法について」が詳しく解説しています。

もっと言うなら「光沢剤/研磨剤/化学反応」の類も一切利用しないので、金属材表層面に影響を及ぼしてしまう処置は何一つ講じていません(笑) 特にヘリコイドのネジ山などを研磨剤にて処置すると、塗布するヘリコイドグリースの成分/配合によってはそれらの浸透を促してしまうので、ザリザリ感やスレ感が数年で増大し製品寿命の短命化を促す結果に到達しますから要注意です(泣)・・当方独自のヌメヌメ感を感じるシットリしたトルク感は、それら「光沢剤/研磨剤/化学反応」の類を一切利用しない磨き研磨により実現している特異なトルク感であり、巷で流行る「分解整備済」とは全く異なる完全解体を前提とした製品寿命の延命化が最終目的です(笑)

もちろんそれらの根拠として「当時製産時点に使っていたであろう成分/配合の分類に可能な限り近い黄褐色系グリースだけを使う」事をその前提と据えており、今ドキ流行っているシリコーン系「白色系グリースの何♯ (番)」などを謳って整備するのは以ての外で(泣)、そのような整備は「製品の延命処置」からはまさに逆行した所為と指摘せざるを得ません(涙)

実際それらシリコーン系「白色系グリース」が塗布されている個体を数多く確認していますが
距離環を回した時のトルク感は「ツルツルした感触」しか感じず、合わせてピントのピーク/山の前後微動に於いて、意識せずとも微動してしまう使いづらささえその印象として残るので、はたしてそれで撮影に没頭できる操作環境を真に提供できているのかとの疑念さえも湧いて
きます(笑)

その意味でも整備で塗布するグリースの問題は、製産時点/設計概念に配慮した内容だけに留まらず、組み上げられたオールドレンズの使用感にまで気配りした概念がそこには介在し、結果的に「製品寿命の延命化」に到達できていれば、なおさらに最高ではないかとのポリシ~が
根底にあったりするのが当方が施すDOHそのものなのです(笑)

↑塗布したヘリコイドグリースは「黄褐色系グリース」を使っています。当初バラした直後は「非常に固く固まっている黄褐色系グリースを避けるように白色系グリースが濃いグレー状に塗られていた」いわゆる「古いグリースの上から新たに塗布する手法」でした。

そもそもそれら古い固まっていた「黄褐色系グリース」が、ちゃんと褐色のまま残っていたのに対し、過去メンテナンス時に上から塗布されていた「白色系グリース」はアルミ合金材の摩耗粉により「濃いグレー状」に変質しており、ヘリコイドのネジ山をだいぶ摩耗していると推察します。

少しでもトルクムラを改善する為に逐一オスメスのネジ山を凝視しましたが、一部の摩耗や欠け/欠落を確認したものの、それらが影響してトルクムラに至っているのかどうかは駆動中の内部を直視できないので「???」です(涙)

トルクムラは「5m」の間と「0.6m0.45m」の2箇所、両端部分で急に重くなる感じが残っていますが、当初バラす前の状況に比べると極僅かに低減できている程度の改善度です。

↑無限遠位置は当初のオーバーインフ料から低減させて極僅かの位置に変更しています。

前述のとおり距離環を回した時のトルクムラと、合わせて絞り羽根が歪なカタチで閉じていく分について「減額処置」をお願い致します。

冒頭解説のとおり、さすがに「ロシアンレンズ」との括りで捉えても1970年代以前の切削レベルに比較すれば「明確に切削精度が上がっている」のを見てとれますが、そうは言っても当時の日本製はおろか、旧東ドイツ製オールドレンズと比較しても明確な切削レベルの相違が否めず、合わせて「ネジ種やネジ山の切削管理」或いは「金属材の成分配合管理」が全く以てダメダメで(笑)、その影響もあり破断や破壊は必然に起きており、一方でマチ幅が多すぎるキライが設計に見え隠れし「締め付け固定時のマチ幅の捉え方/仕上げ方」如何で組み上がりの完成度合いがガラッと変化してしまうと言う「ロシアンレンズに限定した特異な難しさ」が・・相変わらずのような気もします(笑)

それにプラスして冒頭解説のとおり、相変わらず戦後すぐからの生産工程と設計を延々と何十年間も続け「少しでも改善しよう」と言う気概など存在せず(笑)、工夫も意地もなく、淡々と決まった内容を熟すだけなのが国民性と言うか、民俗学的な要素すら感じずには居られないくらい異様に映ります(笑)

・・何から何まで恐るべし、ロシアンレンズ!(驚)

オーバーホール/修理ご依頼者様皆様に告知しているとおり、もしもお届けしたオールドレンズの仕上がり状況にご満足頂けない場合は、そのご納得頂けない要素に対して「ご納得頂ける分の金額をご請求金額より減額」下さいませ。
減額頂ける最大値/MAX額は「ご請求金額まで (つまり無償扱い)」とし、大変申し訳御座いませんが当方による弁償などは対応できません・・申し訳御座いません。

↑当レンズによる最短撮影距離45cm付近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。

各絞り値での「被写界深度の変化」をご確認頂く為に、ワザと故意にピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に電球部分に合わせています。決して「前ピン」で撮っているワケではありませんし、光学系光学硝子レンズの格納位置や向きを間違えたりしている結果の描写でもありません (そんな事は組み立て工程の中で当然ながら判明します/簡易検査具で確認もして います)。またフード未装着なので場合によってはフレア気味だったりします。

↑絞り環を回して設定絞り値「f2」で撮影しています。

↑さらに回してf値「f2.8」で撮りました。

↑f値は「f4」に上がっています。

↑f値「f5.6」での撮影です。

↑f値「f8」になりました。

↑f値「f11」です。

↑最小絞り値「f16」での撮影ですが、もうほとんど絞り羽根が閉じきっているものの「回折現象」の影響を全く感じない素晴らしい写りです!(驚)

 回折現象
入射光は波動 (波長) なので光が直進する時に障害物 (ここでは絞り羽根) に遮られるとその背後に回り込む現象を指します。例えば、音が塀の向こう側に届くのも回折現象の影響です。
入射光が絞りユニットを通過する際、絞り羽根の背後 (裏面) に回り込んだ光が撮像素子まで届かなくなる為に解像度やコントラスト低下が発生し、眠い画質に堕ちてしまいます。この現象は、絞り径を小さくする(絞り値を大きくする)ほど顕著に表れる特性があります。

被写界深度
被写体にピントを合わせた部分の前後 (奥行き/手前方向) でギリギリ合焦しているように見える範囲 (ピントが鋭く感じる範囲) を指し、レンズの焦点距離と被写体との実距離、及び設定絞り値との関係で変化する。設定絞り値が小さい (少ない) ほど被写界深度は浅い (狭い) 範囲になり、大きくなるほど被写界深度は深く (広く) なる。

焦点移動
光学硝子レンズの設計や硝子材に於ける収差、特に球面収差の影響によりピント面の合焦位置から絞り値の変動 (絞り値の増大) に従い位置がズレていく事を指す。

今回のオーバーホール/修理ご依頼、誠にありがとう御座いました。本日梱包し発送申し上げます。どうぞよろしくお願い申し上げます。