◎ Carl Zeiss (カールツァイス) Distagon 35mm/f2.8(QBM)

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DT3528レンズ銘板

RolleiZeissロゴ先日オーバーホール/修理のご依頼で「Distagon 25mm/f2.8 (PB)」を整備したのですが、その勢いで今回のモデルを調達してしまいました。そもそも旧西ドイツZeiss Ikonで生産されていた、この当時のCarl Zeiss製オールドレンズは、調整が面倒なので好きなワケではないのですが、あまりにもキレイな個体でしたのでやってしまいました・・しかし、残念なことに後玉にカビ除去痕が相当量あります。

もしかしたら発生していたカビが除去できるかも知れないと言う微かな期待と共にオーバーホールを行いました。作業自体は完了し完璧なオーバーホールが終わっています。それだけになおさら後玉の状態が悔やまれるので、試しに各絞り値での実写を執り行いました (このページの下のほうにまとめて写真掲載しています)。それを見る限りは普通に写っており問題なさそうですが、そうは言っても光源を含むシーンや逆光撮影時には、ハロやゴーストの出現率が上がる懸念が残っていますので、ご留意下さいませ。

1970年にRolleiから発売されたフィルムカメラ「SL35」用の交換レンズ群の中のひとつとして、当時の旧西ドイツZeiss Ikonから供給されていた「Carl Zeiss」ブランド銘のモデルになり「初期型」にあたります。

初期型」に関して、光学系が6群6枚を実装していると言う解説がネット上で散見されますが、正しくは5群5枚のレトロフォーカス型です。翌年の1971年にはマルチコーティング「HFT」を施したモデルが出てきますが、そのモデルから光学系の仕様が変わって6群6枚に変わっています。レンズ銘板は「Carl Zeiss」銘の刻印のままで出荷されていました。そして1972年からはシンガポール工場に移管され「Made by Rollei」をレンズ銘板に刻印するようになり、その後1975年にはVoigtländerから発売されたフィルムカメラ「VSL」用の交換レンズ群として「Color-Skoparex」「Color-Ultron」のブランド銘に変移していったようです。旧西ドイツ側のオールドレンズのことは、あまり詳しくありません。

DT3528仕様

DT3528レンズ銘板

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。

すべて解体したパーツの全景写真です。

DT3528(0225)11ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。

DT3528(0225)12絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒 (ヘリコイド:オス側) です。

DT3528(0225)13先日のオーバーホールではスッカリ忘れてしまいましたが、今回はちゃんと撮影しました。この当時のCarl Zeiss製オールドレンズで「絞り羽根の開閉不具合」が多いのですが、その原因のほとんどはこのパーツに集中しています。

上の写真は、鏡筒内の絞りユニットを構成するパーツのひとつで、絞り羽根の開閉を制御している「絞り羽根開閉幅制御環」です。その環 (輪っか) から飛び出ている2本のアームがあり、長いほうが「絞り羽根開閉アーム」としてマウント面にある「絞り連動ピン」との連係動作をしています。この環に直接絞り羽根が組み付けられます。

DT3528(0225)14この「絞り羽根開閉アーム」は単純に「プレスして曲げただけ」という方法で用意されており、それが現在の「絞り羽根開閉幅の異常」を来す主原因になっています。このアームは僅か3mmほどの幅しかない厚さ1mm弱のとても薄い「板状」です。

マウント面に飛び出ている「絞り連動ピン」が押し込まれることで、このアームが横方向に頻繁に押されることになり、その結果経年のうちにプレスして曲げた部分が弱くなり、変形してしまうのです。最悪の場合「破断 (つまり折れる)」している個体も今までにありました。

この「絞り羽根開閉アーム」が垂直をキープしておらず、変形していると正しく絞り羽根の開閉を制御できなくなります。それ故に、過去に施されたメンテナンスで、絞り羽根の開閉を適正に戻すためにこのアームを「ムリに曲げて」いる個体を、今までに数本扱いました。しかしも強制的に曲げられてしまったアームは、その後の経年の使用でアームの付け根部分が弱くなり、さらに変形を促してしまっています。そうなるともうどうにもなりません・・補強剤を用意して補修するしか手がありませんが、この部分の「空間」は限られており、非常に困難な修復作業になります。

その意味で「絞り羽根に不具合あり」「絞り羽根の戻りが遅い/鈍い」などと言う個体は、油染みが生じていたとしても、それに起因してこのアーム自体が変形している可能性も高く、なかなか手を出せません (怖くて調達できません)。単純に「絞り羽根の油染みを清掃すれば直る」などと考えていると、ガッカリすることになります。

旧東ドイツの「Carl Zeiss Jena」製オールドレンズの「樹脂製 (プラスティック製) パーツ」に纏わる不具合にしろ、この旧西ドイツ「Carl Zeiss」製オールドレンズの「アーム」にしろ、ろくな設計で作られていませんね・・。

DT3528(0225)156枚の絞り羽根を組み付けて絞りユニットを完成させます。

DT3528(0225)16こちらは距離環やマウント部を組み付けるための基台です。

DT3528(0225)17ヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。どんどんネジ込んでいくと、抜けてしまいます。つまり止まる場所が無いワケです。どの位置で止めれば良いのかがポイントになりますが、今回も一回目の組み上げではここのアタリ付けをミスってしまい、最後にまたバラしてここまで戻りました・・組み上げが終わって完成したのに、無限遠が出ない (合焦しない) と、イラッとしますね(笑)

DT3528(0225)18鏡筒 (ヘリコイド:オス側) を、やはり無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルには「無限遠位置調整機能」が備わっているので、大凡のアタリ付けで構いません。

DT3528(0225)19この状態でひっくり返して、ここで初めて鏡筒の裏側に連動系・連係系パーツをセットできます。何故ならば、鏡筒は前玉方向からしかネジ込めないので、これらの連動系・連係系パーツを鏡筒にセットしてしまうとネジ込めなくなるからです。

前述の鏡筒から飛び出ている「絞り羽根開閉アーム」が写真上のほうに写っています・・こんな感じで飛び出てくるワケです。そして2本ある「ねじりバネ」によってこのアームが引っ張られて「常時絞り羽根を開いているチカラ」が架かっています。

真鍮製の「絞り環連係アーム」は、そのまま絞り環と連係して動きます。絞り環を回して設定した絞り値に見合う「カーブ」の位置で、マウント面の絞り連動ピンが押し込まれていると「カム (絞り羽根開閉幅制御カム)」が絞り羽根開閉アームを押し込んで、設定した絞り値に絞り羽根が「閉じたり/開いたり」を行うワケです。

「直進キーガイド」は、距離環を回す「回転するチカラ」を鏡筒が前後動する「直進するチカラ」に変換する役目の「直進キー」と言うパーツがスライドして通る場所で、結果として距離環の回転と共に鏡筒が前後動します。

DT3528(0225)20絞り環をセットしたところです。絞り環の操作はクリック感を伴う操作性ですが、まだこの段階では鋼球ボール+マイクロ・スプリングは組み込めません。

DT3528(0225)21こちらはマウント部内部の状態を撮影しています。既に当方にて「磨き研磨」が終わっており、同時に連動系・連係系パーツも外してあります。マウント部内部の一部は経年に拠る「腐食」が生じていたので、キレイに磨いてあります。

DT3528(0225)22こちらの写真は「絞り連動ピン」のセットをしているところです。楊子を折って差し込んでいますが、こうしないと絞り連動ピンに入れてある「マイクロ・スプリング」のチカラで、絞り連動ピンが飛んで行ってしまうので止めているんです。指が滑って1回飛ばしてしまい探しまくりました・・飛距離1.2mくらいでした(笑)

上の写真の「ブルーの矢印」のように、絞り連動ピンが押し込まれると「連動アーム」が右方向へ移動します。上の写真はちょうど絞り連動ピンを「押し込んだ状態」を撮っていますから、既に「連動アーム」が右方向に動いた後の状態を撮っています。

さらに、このモデルには「自動/手動スイッチ」が備わっているので、「手動 (マニュアル)」に設定していた場合には、この「連動アーム」は常に右方向に押されっ放し・・つまりは「絞り羽根開閉アーム」も押されっ放しになるワケで、不具合の原因を作っているようなモノです。

DT3528(0225)23実際に組立工程を進めると、こんな感じで「マウントの爪」をセットして初めて絞り連動ピンが固定されます。逆に言えば、マウントの爪を不用意に外すと、スポンッと絞り連動ピンがスッ飛びます・・飛距離を測って下さい(笑)

DT3528(0225)24マウント部を基台にセットしました。

DT3528(0225)25ここがまた難関なのですが「自動/手動スイッチ」の機構部を組み付けます。このスイッチ自体は樹脂製 (プラスティック製) のパーツなのですが、反対側の絞り連動ピンの位置に「自動/手動の切替金具」をネジ止めします。ところが、その直ぐ下にマイクロ・スプリング+鋼球ボールがハメ込んであるので、素早く金具を固定しないと鋼球ボールが外れてしまい、自動/手動スイッチが正しく動かないのです・・意外と難関です。

12回ほど挑戦してようやくセットが完了して、上の写真を撮った次第です。

DT3528(0225)26距離環を仮止めしてから光学系前後群を組み付けます。その後は無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認をそれぞれ執り行い、最後に鏡筒カバー (フィルター枠) とレンズ銘板をセットして完成です。

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ここからはオーバーホールが完了した出品商品の写真になります。

DT3528(0225)1純正前後キャップが附属しています。今回はモノコーティングの「初期型」を敢えて扱ってみました。理由は、諸収差や描写性の改善を施した後の「HFT」よりも、収差を含んだオールドレンズらしい画にも魅力を感じたからです。それは光学系の構成が5群5枚と言う部分からも影響しています (後の「HFT」では6群6枚)。元々が基本性能の高いモデルですので、端正な描写性であることは間違いありません・・。

DT3528(0225)2光学系内の透明度は非常に高く、LED光照射でもコーティング劣化などに拠る薄いクモリなどがほぼ確認できないくらいです。それだけに後玉のカビ除去痕が何とも残念でなりません。

DT3528(0225)2-1

DT3528(0225)2-2

DT3528(0225)2-3上の写真 (3枚) は、光学系前群のキズの状態を拡大撮影した写真です。1枚目〜3枚目すべての写真で極微細な点キズを撮っていますが、同時に「コーティングのムラ状」に見えているもわっとした感じのカビ除去痕も撮影しています。

DT3528(0225)9問題の光学系後群です。2/3の領域に渡ってカビ除去痕が生じており、カビ自体は除去できたのですがコーティング層への浸食だったためにその痕跡が残ってしまっています (コーティングの剥がれや消失)。このコーティング層が消失してしまっている部分は、結果的に素の光学硝子面が表出していると考えれば分かり易いでしょうか・・カビそのモノではありません。それ故に、たいした写真への影響は来さないという判断で整備しました。

DT3528(0225)9-1後玉のカビ除去痕の状態を拡大撮影しました。当初はカビの芯がありましたが、すべて除去できていると思います。後玉なので撮影のシーンによっては光源を含んでいたり、逆光撮影などの場合にハロやゴーストの出現率が上がる懸念があります。

【光学系の状態】(順光目視で様々な角度から確認)
・コーティング劣化/カビ除去痕等極微細な点キズ:
前群内:13点、目立つ点キズ:8点
後群内:20点以上、目立つ点キズ:20点以上
コーティング経年劣化:前後群あり
カビ除去痕:あり、カビ:なし
ヘアラインキズ:あり
・その他:バルサム切れなし。順光目視で前玉と後玉にカビ除去痕が複数あり、特に後玉は相当量のカビ除去痕があります。また第4群の外周にも1箇所小さなカビ除去痕があります。
・光学系内はLED光照射でようやく視認可能レベルの極微細な拭きキズや汚れ、クモリもありますがいずれもすべて写真への影響はありませんでした。但し、光源を含むシーンや逆光撮影時にはハロやゴーストの出現率が上がる懸念は残ります。

ここからは鏡胴の写真になります。経年の使用感がほぼ感じられないほどの非常にキレイな状態を維持した個体です。距離環や絞り環の縁にある「銀枠飾り環」のクロームメッキ部分も「光沢研磨」を施したので、とても艶めかしい輝きが復活しています。

DT3528(0225)4

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DT3528(0225)7【操作系の状態】(所有マウントアダプタにて確認)
・ヘリコイドのグリースは「粘性:中程度」を使用。
距離環や絞り環の操作は大変滑らかになりました。
・距離環のトルク感は滑らかに感じ完璧に均一です。トルクは少々重めの感触になります。

【外観の状態】(整備前後拘わらず経年相応の中古)
・距離環や絞り環、鏡胴には経年使用に伴う擦れやキズ、剥がれ、凹みなどありますが、経年のワリにオールドレンズとしては「超美品」の当方判定になっています (一部当方で着色箇所がありますが使用しているうちに剥がれてきます)。

なお、当初あった絞り環やマウント部のガタつきなども改善させており、一切ガタつきはありません。自動/手動スイッチが軽い感触だったのも改善しており、確実な操作性に戻っています。元もとピントの山が掴み易いモデルなので (つまり合焦するタイミングが狭い)、ヘリコイド・グリースの粘性を考慮してワザと「重め」のトルク感になるようにしています。

筐体外装は「磨き」を入れたので、落ち着いた鈍い光沢のブラックとしてキレイに仕上がっています。

「磨き研磨」は極力グリースの類の塗布を少なくして、今後の経年使用に於いても「揮発油成分」が光学系まで回らないよう配慮した処置です。それは既に光学系、特にコーティングの劣化が相応に進行しており、さすがに硝子材だけはいくらメンテナンスと言えども、おいそれと何度も研磨することはできません (せいぜい当初生産時諸元値の1%以下程度までしか研磨できません)。それを考えるとグリースを塗ったくったり、或いは液化の早い滑らかな (粘性が軽めな) グリースばかりを好んで使うのもどうかと思いますが・・。

その意味では、使い倒すつもりならば整備する必要は無いでしょうし (スルスル回るのは既にグリースの限界が来て液化が始まっているからです)、少しでも長く使うならば整備したほうが良いコトになります (グリースを入れ替えるワケですから、トルクはそれなりに変化します)。その辺のリスクが分からない (気がつかない) 方が最近は多くなってきました・・当然ながら、当方のスキルレベルは低いですから、完璧な整備を望まれる方は「プロのカメラ店様/修理会社様」に整備をご依頼されるのが最善かと思いますヤフオク! に出品しているオールドレンズの入札/落札も、このブログをご覧頂き「オールドレンズ/修理」のご依頼をされるのも、すべてスルーして頂くようお願い申し上げます。

それでもヤフオク! の当方評価に「非常に良い/良い」をお付け頂ける方がいらっしゃるのは、或いは「オーバーホール/修理」のご依頼を頂けるのは、市場に出回っているオールドレンズの状態を既にご存知だからです。問題なのは、このブログが検索でヒットして「オーバーホール/修理」のご依頼をされる方々の中で「認識」「感覚」が「プロのカメラ店様で販売しているオールドレンズしか知らない」と言う方々です。そのような方々からのご依頼では、トラブルになることが最近は多くなってきました・・ご勘弁下さいませ。何度も言いますが、当方の技術レベルは低いです・・。

DT3528(0225)8市場では、この「初期型」の流通量は極端に少ないようですが、今回はその描写性に魅力を感じて敢えて扱ってみました。完璧なオーバーホールが完了しているので、その操作性は非常に高いレベルですが、それだけに余計後玉の状態が悔やまれますね・・これで後玉にカビ除去痕が無ければ2万円台後半の価格で出品するつもりだったのですが、1万円減額です。その意味ではオーバーホール済と言えども普通の市場価格に近いので、お探しだった方には狙い目かも知れませんよ・・。

DT3528(0225)10ここからは後玉のカビ除去痕を考慮して、各絞り値での実写確認をしたので写真を掲載していきます。まずは最短撮影距離40cm附近での開放F値「f2.8」の実写です。ピントはミニカー手前のヘッドライトに合わせています。ピントの山が掴み易いので、とてもピント合わせが楽です。

画の周辺域が僅かに流れているのは「この光学系の特性」なので、後玉のカビ除去痕の影響ではありません。歪曲率は元もと優れたモデルですので水平垂直キレイに整っています。

DT3528(0225)10-1絞り環を回して設定絞り値を「f4」にして撮っています。この絞り値でもボケ味は階調豊かで滑らかですね・・。

DT3528(0225)10-2F値を「f5.6」にして撮影しました。

DT3528(0225)10-3F値は「f8」になります。立体感が凄いですね・・。

DT3528(0225)10-4F値を「f11」にして撮影しています。

DT3528(0225)10-5F値「f16」で撮りました。回折現象により少々エッジが甘くなってきています (カビ除去痕のせいではありません)。

DT3528(0225)10-6最小絞り値の「f22」になります。特にコントラストの低下もなく普通の描写なので問題なさそうです。