〓 P.Angenieux Paris (アンジェニュー) RETROFOCUS TYPE R1 35mm/f2.5《前期型》(exakta)

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※解説とオーバーホール工程で掲載の写真はヤフオク! 出品商品とは異なる場合があります。

今回完璧なオーバーホール/修理が終わってご案内するモデルは、フランスは
P.Angenieux Paris製広角レンズ・・・・、
RETROFOCUS TYPE R1 35mm/f2.5《前期型》(exakta)』です。


  ЯПОНІЯ З УКРАЇНОЮ!    Слава Україні!  Героям слава!  

上の文は「日本はウクライナと共に! ウクライナに栄光あれ! 英雄に栄光を!」の一文をウクライナ語で国旗色を配って表現した一文です。現地ウクライナでは民衆が「ウクライナに栄光あれ!」と自らの鼓舞を叫ぶとそれに応えて民衆が「英雄に栄光を!」と返すようです。

Slava UkrainieieGeroyam Slava

今回完璧なオーバーホール/修理が終わってご案内するモデルは、当方がオーバーホール作業を始めた12年前からの累計でP.Angenieux Paris製広角レンズ「35mm/f2.5」の括りで捉えると累計で17本目にあたりますが、今回扱ったモデルの「前期型」だけでカウントすると9本目です・・つい先日「後期型−II」についてオーバーホール/修理を承ったばかりです (こちらのページ『RETROFOCUS TYPE R1 35mm/f2.5《後期型−II》(exakta)』で解説しています)。

戦中〜戦後共に当時の一眼 (フィルム) カメラ主流はレンジファインダーカメラでしたから、装着しているレンズ端からフィルム印画紙までのバックフォーカスが短かった為、標準レンズ域の光学構成を延伸させて充分に広角レンズ域までカバーできていました (つまり広角レンズ域専用の光学設計開発の必要性が薄かった)。

ところが戦後になって本格的に量産型として登場し主流になってきた「クィックリターンミラーボックスをフィルム印画紙の直前に持つ一眼レフ (フィルム) カメラ」では、バックフォーカスが長くなり、従前の標準レンズ域の光学設計を延伸させた広角レンズ域までの対応にムリが生じました。

そこで広角レンズ域専用の光学設計が危急の課題となっていました。そんな中、フランシス屈指の老舗光学メーカーP.Angenieux Paris社より、1953年に今回扱うRETROFOCUS TYPE R1 35mm/f2.5《前期型》(exakta)』が発売され、世界初「広角レンズ域専用光学設計としてレトロフォーカス型構成が開発された」次第です。

当初「RETROFOCUS (レトロフォーカス)」はP.Angenieux Paris社の登録商標でありブランドでもあったのですが、世界規模で流行ってしまい、現在に至るまで各光学メーカーでの商標権使用を黙認しているようです。

ちなみに「レトロフォーカス型光学系」との言葉尻から「レトロ調で甘い写り」とか「フレアが多いオールドレンズライクな写り」などと揶揄されますが、実際は右構成図のとおり「 色着色の3群4枚テッサー型構成が基本成分」なので、決して甘いピント面などに堕ちず、充分に鋭さを保ったピント面で写真を構成してくれます。

RETRO (後退)」+「FOCUS (焦点)」=「RETROFOCUS」の造語として命名された登録商標なので、決して甘い印象の写りを指すものではなく、単に右構成図のとおり基本成分の直前に配置した 色で着色の2つの光学硝子レンズにより、バックフォーカスを稼いで結像点を後に持ってきただけの話です。

右構成図は今回のオーバーホールで完全解体した際に光学系の清掃時、当方の手によりデジタルノギスを使い逐一全ての群の光学硝子レンズを計測したトレース図です。

【モデルバリエーション】
オレンジ色文字部分は最初に変更になった諸元を示しています。

前期型1950年発売
ローレット (滑り止め) :
ホワイトシルバー梨地仕上げ (細かいジャギー)
絞り環:左回り
絞り方式:実絞り

後期型−I1953年発売 (?)
ローレット (滑り止め) :
シルバー光沢仕上げ (幅が広いジャギー)
絞り環:右回り
絞り方式:実絞り

後期型−II1956年発売 (?)
ローレット (滑り止め) :
シルバー光沢仕上げ (幅が広いジャギー)
絞り環:右回り
絞り方式:プリセット絞り

↑完全解体した時の内部構成パーツ全景写真です。オーバーホール工程やこのモデルの当時の背景など詳しい解説はRETROFOCUS TYPE R1 35mm/f2.5《前期型》(exakta)』のページをご参照下さいませ。

ここまで掲載したオーバーホール工程の写真は「全て過去扱い品/個体からの転載」です。オーバーホール済でヤフオク! 出品する際の個体写真とは一部に一致しない場合があります。

DOHヘッダー

ここからは完璧なオーバーホール/修理が完了したオールドレンズの写真になります。

↑つい先日もこのモデルの「後期型−II」をオーバーホールしたばかりですが、先日同様今回も相当厄介で大変な作業になってしまい、最近Angenieux製オールドレンズとの相性が悪く「調ハードで高難度な整備作業を強いられてしまう」状況が続いています(笑)・・ッて言うか、そもそも当方の技術スキルが低すぎるから拙いだけの話なのですが (どうか皆様も重々ご承知おき下さいませ)(笑)

《当初バラす前のチェック時に気になっていた内容》
絞り環の刻印絞り値が大幅にズレている (今回のご依頼内容)。
距離環を回すトルクはツルツル状態で少々軽すぎの印象。
 開放時に極僅かに絞り羽根が顔出ししている。
最小絞り値f22の時絞り環が停止してしまい正しくf22に合致していない。
相当オーバーインフ量が多い位置でセットされていて無限遠合焦は3メモリ弱分手前位置。

《バラした後に新たに確認できた内容》
光学系内にカビが発生している (特に第1群前玉裏面側/第2群裏面側)。
過去メンテナンス時のイモネジ締付固定位置が多すぎる。
部位別にニコイチサンコイチの懸念が残る。
絞りユニット内の開閉環停止位置が全く適合していない。
鏡胴「前部」の固定手法がこのモデルの設計とは違っている。

・・とまぁ〜、バラしてみると不適切な与件がいくらでも出てくるみたいな話になり、結果的になかなかハードな作業になってしまいました(涙)

↑上の写真は当初バラし始めている途中で撮影していますが、ご覧のように赤色矢印で指し示している基準「|」マーカーからだいぶ手前位置まで開放f値の刻印「f2.5」が回ってしまいます・・もちろんちゃんと基準「|」マーカーに合致させる事ができますが、ピタリと合っていません。

・・今回のオーバーホール/修理ご依頼内容はこの点についての不具合をご指摘頂きました。

ちなみに上の写真は、前玉を写真下側方向にひっくり返った状態にして撮影しています。

↑同じように鏡胴「前部」を撮影していますが、今度は前玉が写真上方向を向いた位置で撮っています。最小絞り値「f22」が基準「|」マーカーにギリギリのところで到達していませんし、絞り環を操作してみると「詰まった感じで停止している」印象です。

↑光学系第1群前玉を取り外して単独で撮影していますが、ひっくり返して裏面側を写真上方向に向けています。

赤色矢印で指し示しているのが製産時点の「前玉固定位置 (イモネジによる締め付け固定)」なので、ちゃんと切削したイモネジ用の下穴が用意されています。

ところが今回の個体はグリーンの矢印で指し示した位置で前玉を締め付け固定していました。イモネジによる締め付け痕がネジ山自体に残っているので「証拠」になっています。

イモネジ
ネジ頭が存在せずネジ部にいきなりマイスの切り込みが入っているネジ種 (左写真)

イモネジの有効性
締め付け固定する際に対象となるパーツの固定位置を容易に変更/ズラして固定できる
(但し別の用途で敢えて使う場合もあるので必ずしも微調整を伴うとは限らない)

またブルーの矢印で複数箇所を指し示していますが前玉裏面側の外周は全周に渡り、及び一部裏面内側にまでカビが発生していました・・当然ながらブルーの矢印で指し示した箇所はカビを除去した後にコーティング層が剥がれてしまい「カビ除去痕」として明確に残ってしまう懸念が高いです(涙)

↑ショッキングな写真を載せてしまい・・申し訳御座いません(涙) 今回の個体は光学系前群、及び鏡筒がニコイチされています。過去メンテナンス時に「772」を打ち消して今回の個体の製造番号である「749」を刻み込んでいました(涙)

本来、当方のブログでは製造番号にあたる数値は可能な限り伏せているのですが、今回の個体、及びその整備作業については大変申し訳御座いませんが「製造番号が違う事実」を以てして「内部の使用パーツが一部違っている」点をご案内しない限り「当方の整備作業が適切ではない!」との憶測が生まれかねないので、敢えて伏せずに表示させて頂きました。

・・大変申し訳御座いません!(涙)

上の写真は「光学系前群格納筒鏡筒」の状態写真です。この「前群格納筒」の上に (写真上のほうにさらに) 前出の第1群前玉がネジ込まれるワケです (赤色矢印)。

さらにその下に同様赤色矢印で指し示しているとおり「鏡筒」がネジ込まれています。また鏡筒には下部に「光学系後群格納筒が附随する」設計です。

上の写真から「光学系前群丸ごと、及び鏡筒までを別個体からニコイチして転用している事実の証拠」に至っています(涙)

なおブルーの矢印で指し示しているイモネジ用の穴は「鏡筒とその内部にセットされている絞りユニットの両方を貫通して締め付け固定する目的で備わるイモネジ用のネジ穴」です。

同様グリーンの矢印で指し示しているネジ穴も「光学系第2群+第3群をイモネジにより締め付け固定するネジ穴」として用意されているので、これらの事柄から「光学系各群の締め付け固定位置をズラせない」或いは「鏡筒をネジ込んだ後に鏡筒の締め付け固定位置もズラせない」設計になっています (それぞれの固定用イモネジは各1本ずつしか用意されていない)。

この事から/設計からニコイチして転用しようとした場合「丸ごと転用しない限り光路長が狂ってしまう仕上がりに至る」事を表し、それを熟知している過去メンテナンス時の整備者である事が明白になりました (もちろん当方も熟知していますが)。

・・逆に言えば丸ごと転用した理由/根拠がそう言うお話しなのです(涙)

↑上の写真は鏡筒最深部にセットされるべき「絞りユニット」を取り出した状態で撮影しています (写真上方向が前玉側方向)。赤色矢印で指し示しているとおり、絞り環と連結するために必要になる「開閉キー」と言うシリンダーネジが入るネジ穴が備わっています (絞りユニット内の開閉環にネジ穴が空いている)。

さらに当方が今回バラしている最中にマーキングしたのですが「この絞りユニットが固定されていた位置を縦線でマーキングした (赤色矢印)」次第です・・つまり絞りユニット内部の「開閉環」が途中で突き当たって停止するように処置されていた事を、当方が組み立てしている時に分かるようマーキングしています (つまりこの固定位置が正しいのか否か確認する為にマーキングした)。

なお、グリーンの矢印で指し示していますが、過去メンテナンス時にこの絞りユニットをイモネジで締め付け固定していた時の締め付け痕 (点状) をグリーンの矢印で指し示しています。

↑同じ絞りユニットを上が前玉方向になるよう置いて撮影していますが、今度は反対側を撮っています。

すると無数にグリーンの矢印で指し示している「イモネジの締め付け痕」が残っており、全部で9箇所残っているので、全周に渡りたったの1箇所/1本のイモネジだけで締め付け固定する設計ですから「8箇所分は製産時点とは異なる位置で締め付けていた証拠」だと言いたいのです(涙)

これを示す為に前のほうで鏡胴「前部」を丸ごとニコイチして転用した証拠写真を掲載し、且つブルーの矢印で指し示したイモネジが1本だけですが、これらグリーンの矢印で指し示した締め付け痕のどれか一つだけ「製産時点の正しい締め付け痕」なのだと指摘したいのです(涙)

・・何を言いたいのか???

つまり今回のこの個体は過去のメンテナンスでさんざん固定位置が変更されまくっていた事がこれで判明してしまい「何一つ信用にならない!」個体なのが残念ながら確実になってしまいました(涙)

・・今回の作業が超ハードに至った理由は「全てゼロから調べ尽くす」だからなのです(涙)

↑ここで、当初絞り環の停止していた位置が「原理原則」から見て明らかに異常である点を証明していきます。上の写真は前出の絞りユニットそのままであり (これが鏡筒最深部に組み込まれる) 同一なのですが、別の解説をしていきます。

絞りユニットは「開閉環と位置決め環に絞り羽根が挟まれている状態でセットされる」ワケです (赤色矢印)。外側の円形状のケースが位置決め環になり、内側に入っている黄銅製が開閉環でクルクルと絞り環と連動して回転します (赤色矢印)。

ところが「開閉環」には2箇所に開閉キーの下穴が用意されています。一つが赤色矢印①で2つ目がグリーンの矢印②です。

絞り環との連結は「1本の開閉キーだけで繋がる」ので2つも必要になりません・・(泣)

↑この状態で「開閉環だけを取り外して」格納されている絞り羽根12枚を丸見えにしました(笑) 右横に置いた「開閉環」には前述のとおりの2つのネジ穴が用意されているのが分かります。また開閉キーが貫通して絞り環に刺さる際に「行ったり来たり左右に回る時の切り欠き部分/スリットが位置決め環に用意されている」のも見えていますね(笑)

上の写真では「絞り羽根が完全開放状態の時」を撮影しているので「絞り羽根の重なりの嵩高は最も薄い状態」なのを示しています。

↑今度は最小絞り値「f22」まで絞り羽根を閉じた時の状態をそのまま撮影しました (開閉環が絞りユニットに入っている状態)。

↑そのままの状態で「開閉環だけを再び取り出して」内部の絞り羽根を見えるように撮影しました。

このように「最小絞り値まで絞り羽根が閉じている時が最も各絞り羽根の重なりで嵩高が高い
/厚みが増大する状態
」なのを示しています。赤色矢印で指し示している箇所のキーの位置を、一つ前の写真と比較すれば、極僅かに上方向に (螺旋状に) 上がっているのが分かるハズです。

絞り羽根の実装枚数は決して変化しないまま最小絞り値まで閉じていくだけなので「皆様多くの方々が絞り羽根の重なり具合で変化が起きていない」とお考えですが、違います・・現実にはご覧のように「最小絞り値に閉じた時が一番絞り羽根の嵩高が膨らみ、絞り羽根が盛り上がっている状態に至る」ので、もしもこの時「絞り羽根に油じみが起きている」と表面張力の原理が働いてしまい、同時に「界面原理」から膨れあがる抵抗/負荷/摩擦がさらに増大する結果に至ります。

・・絞り羽根にプレッシングされている「キーが垂直状を維持できなくなる原理」です!

プレッシングされているキーが垂直状態を維持できなくなり、膨れあがった時のカタチで斜め状に曲がってしまうと「絞り羽根が閉じていく時の開口部が歪なカタチに変化してしまう」原理なのです(泣)

そう言うと今度は「全ての絞り羽根のキーが垂直状を維持できなくなるのだから、斜め状になるのはほとんど全てで一部ではないハズ!」と反論が着信しますが(笑)、肝心な事を見失っています(笑)・・絞り環との連結は「1箇所だけが主流でライカなど一部だけが両サイドの2箇所」なので、絞り環を回した時のチカラが一番最初に及ぶのと同時に、その応力分で反対側の絞り羽根のキーに架かる抵抗/負荷/摩擦は互いに別の種類のチカラです。つまり全てが同じように斜め状には変形しないので「やがて歪なカタチで絞り羽根が閉じるように変わる」のが経年での原理です(笑)

なお、現実面では多くのオールドレンズで最小絞り値の際は「絞り羽根が盛り上がって/膨れあがって開閉環が上方向にズレないように、C型環や光学系前群格納筒などを使い開閉環を押さえ込んでいるから外れて脱落しない」設計を採っているワケですが、然し「絞り羽根の特に両端に在る金属製の棒状キーには最小絞り値の時に最も負荷が及んでいる事実/原理」だけは、決して忘れてはイケナイと申し上げている次第です・・何故なら「僅かな油染みも絞り羽根が閉じるならそれでヨシとしていれば、いずれ斜め状に傾き、最後はキーが脱落してしまうから」との懸念を事前に知らしめておきます(笑)

その意味合いもあって「絞り羽根の僅かな油染みも放置プレイせずに、ちゃんと完全解体して洗浄しなさい!」と、このブログで執拗にこだわって述べている次第です(笑)

それはオールドレンズの設計に係る問題点の一つでもあり、今回のモデルのように絞り羽根の両端にプレッシングされている金属製棒状キーが「しっかり打ち込まれている」なら耐用年数も長いですが、中にはプレッシングが甘い、或いは絞り羽根の厚み自体が非常に薄いオールドレンズも数多く顕在するので「それら設計のオールドレンズにしてみれば、極僅かな絞り羽根の油染み放置も、結果的に製品寿命の短命化には意外にも致命傷になったりするのだ」と執拗に言っているのです(怖)

誰でも皆さん同じだと思いますが、人情として「絞り羽根が粘っている/動きが緩慢」なオールドレンズ個体、或いは「絞り羽根が閉じないので開放でしか使えない」などの問題を抱えた個体などは、できれば手にしたくないと考えるでしょう(笑) その結果、そのような不具合が起きているオールドレンズの個体は、オークションでも落札されにくくなり、やがて製品寿命へと突き進んでいく事になります・・その行き着く先は「50年後に世界で残っているオールドレンズの個体数はおそらく半減する」と申し上げている次第です。それに輪を掛けて光学系の状態まで勘案していけば「手に入れたくない個体だけがどんどん増えていくだけ」なのが市場原理と言う次第です(涙)

まさに今現在の温暖化対策と同じような話で「氷床が解けて海面が4mも上がってしまった時になって初めて国土が減る!」と大騒ぎするのですが、もうその時点では打つ手がありません(怖) オールドレンズも「絶滅危惧種の一つなのだ!」との認識に立って、是非とも適切な整備に心掛けて頂きたいものです(笑)

・・このモデルの絞り羽根は厚みがあるからまだ大丈夫!と考えるなら仕方ありませんが(笑)

それでは今回の個体で「絞り環停止位置が異常だ」と当方が判定を下した根拠を解説します。

このように最小絞り値側で各絞り羽根が最も嵩高を増している時「キーに対する抵抗/負荷/摩擦が最も高くなっている時」なので (原理です)、設計者は「最小絞り値側で基準「|」マーカーに合わせない」のが一般的です (但し他の理由から最小絞り値側で合致させる場合もある)。

つまり今回のモデルでは円形絞り方式なので「開放側が基準「|」マーカー合致して最小絞り値側がズレる」のが最も絞り羽根に対する抵抗/負荷/摩擦が少ない状況を維持できる事を説明しています。

開放側で基準「|」マーカーに合致させるのが適切なのか、最小絞り値側が正しいのか、その判定は「絞り羽根のカタチとその制御方法」を捉えれば、自ずと明確になってしまうのです(笑)

↑今度は黄銅製の「開閉環」を拡大撮影しています (写真上方向が前玉側方向にあたります)。赤色矢印で指し示しているのが「開閉キー用のネジ穴」で、ここに「開閉キー」がネジ込まれ絞り環と繋がる事で/連結する事で絞り環を回した設定絞り値の分だけ「開閉環が回って絞り羽根の角度が変化して閉じる」原理ですね(笑)

↑もう一方の同じネジ穴を撮影しました。グリーンの矢印で指し示していますが、よ〜く観察すると「ネジ穴を開けた位置がだいぶ下のほうになっている」のが分かります。

一つ前の写真と見比べてみて下さいませ。明らかに縦方向でのネジ穴を開けた位置が違っています・・実はこれが大きく影響し、このグリーンの矢印で指し示している下側に空いているネジ穴を使うと「絞り羽根が固まってしまい動かなくなる (下過ぎて位置決め環の縁に干渉してしまうから)」事が判明しました。

↑こちらの写真は今回の個体ではなくて、以前扱った同じ「前期型」個体のオーバーホール工程で撮影した写真からの転載です。すると見れば一目瞭然ですが「開閉環は同じ黄銅材で造られていてネジ穴は一つだけ、しかも下側ではない」のが明白です。

これらの事実から今回の個体がニコイチされたと当方は判定を下したのです(泣)・・決して当方が実施した整備作業が拙いから「それをごまかす為に逃げ口上を言っている」ワケではないのです(笑)

某有名処サイトやSNSなどで、そのように当方は批判対象になっていて、誹謗中傷の嵐らしいので(笑)、それらの証拠写真と共に解説を試みました(泣)

↑上の写真は再び今回の個体の「開閉環」ですが、実は本来ならグリーンのラインで示しているのほうのネジ穴 (下過ぎて使えないヤツ) のほうが、隣接する絞り羽根にプレッシングされている「開閉キー」が刺さるのに適している事が判明しました。

しかし今回の個体で組み込みできるのは赤色矢印で指し示しているのほうのネジ穴です(涙)
・・こちらのネジ穴だと隣接絞り羽根との距離が極僅かですが空いている為に「このまま組み込むとどうしても基準「|」マーカーにf2.5を合致できない」事か判明したのです(涙)

・・従ってこれもニコイチの証拠/根拠と指摘できます(涙)

↑上の写真は今回の個体のオーバーホール工程作業を進めている処を撮影しました。赤色矢印で指し示した位置にマーキングしてありますが、前出の「位置決め環の側面に当方がマーキングしたのとはまた別」です・・上の写真は「鏡筒」ですから!

つまり赤色矢印の位置で開閉キーが停止してくれれば「ピタリとf2.5に合致して止まる」事の目安としてマーキングした次第です。

一方最小絞り値側は残念ながらこのニコイチされてしまった鏡筒の開口部/切り欠き/スリット端では最小絞り値「f22」まで到達してくれません(泣)

そこでグリーンの矢印で指し示したように「ちゃんとf22まで到達するよう/停止するよう当方の手で切削した」ワケで(泣)、詰まる処ブルーの矢印の分の範囲が「絞り環の回転動作時に必要である」事を突き止め、且つ切削処理して対応した写真です。

たったこれだけの調査と切削処理だけで「何と6時間を要した」と言う、まさに当方の「低すぎる技術スキル丸出し状態」と言い替えられます(笑)

↑ようやく工程を進められます(涙) 光学系前群格納筒に前玉をネジ込みました。赤色矢印で基準「|」マーカー (絞り環用の基準マーカー) を指し示していますが、グリーンの矢印のマーキングは当方がバラし始めた時に基準「|」マーカーと一致していた位置を刻んでいます。

つまりブルーの矢印で指し示したイモネジによる締め付け固定で前玉を固定する位置がズレていた (イモネジ痕が2つあったから) 事が判明し、合わせてネジ込み量が変化していると言う事は「光路長もビミョ〜にズレていた」話に繋がります(涙)

光学系第1群〜第3群までを清掃した後 (各群全てを4工程経て清掃するのでカビも完全除去済) ネジ込んでいます。

↑今度は光学系前群格納筒の反対側を撮影していますが、赤色矢印で指し示したように、ここに鏡筒がネジ込まれ「鏡筒のネジ穴を貫通してイモネジがネジ込まれる」のを解説しています。

↑こちらは鏡筒を撮影していますが (写真上方向が前玉側方向)、鏡筒固定用ネジ穴が赤色矢印で、さらに絞りユニットの固定用ネジ穴がグリーンの矢印をそれぞれ指し示しています。

要はこのモデルは「光学系前群も鏡筒も絞りユニットも、何もかも固定する位置は決してズラせない設計」なのを指摘しているのです(泣) 逆に言うなら、これら固定位置を変更したら「即、光学系の光路長がビミョ〜に狂う」話に至るのは、ここまでの解説でご理解頂けると思います。

・・だからこそニコイチされた/転用された個体だったと指摘しているのです(涙)

残念な話で・・申し訳御座いません(涙) 過去メンテナンス時のいつのタイミングでニコイチ/転用されたのかは全く不明ですが、少なくとも丸ごとを転用しニコイチしているので「相当詳しい整備者」だった事は間違いありません。

↑最後に汚いパーツを撮影しましたが(笑)、自作した「開放時の絞り環が停止すべき位置を決めるパーツ」を用意して、これを絞りユニットに組み込み仕上げました (自分でももう少しキレイに作れないの?と思いますが)(汗)・・不器用なので申し訳御座いません(汗)

↑完璧なオーバーホール/修理が終わった後のオールドレンズをここからは撮影していきます。LED光照射でも蒸着されているコーティング層が経年劣化で変質し、極薄いクモリを帯びたりしていない、とても光学系内の透明度が高い状態を維持した個体です。特に光学系第2群〜第3群の蒸着コーティング層が経年劣化により薄クモリしてしまう個体が多い中で、本当に素晴らしいです!(驚)

赤色矢印で指し締めている点状がカビ除去痕です。またグリーンの矢印で指し示した箇所は冒頭で説明した同じく前玉外周のカビ除去痕ですが、ちゃんと「反射防止黒色塗料」で着色しています。

↑光学系後群側も前群同様LED光照射でもコーティング層経年劣化に伴う極薄いクモリが皆無です・・総じて光学系内はスカッとクリアです!

↑上の写真は以前扱った同じ「前期型」からの完全解体した全景写真を転載しています。赤色矢印で指し示しているのが「正しい鏡胴前部の締付固定環」なのですが、今回の個体は全く別モノです(涙)

↑こちらの写真は今回扱った個体の完全解体全景写真ですが、赤色矢印で指し示しているのが同じく「鏡胴前部の締付固定環」です。そもそも後玉周りをご覧頂ければ全く別モノなのが一目瞭然だと思います。

残念ながら、このパーツは本来このモデルで使っていない「締付固定環」なので締め付けている際のネジ山は「僅か2周だけ」しか回っていません(涙)・・外れないとは思いますが、万一脱落していたら気をつけて下さいませ (鏡胴前部はネジ込まれているので落下はしません)。

↑12枚の絞り羽根もキレイになり絞り環共々確実に駆動しています。絞り環もトルクを与えて使い易く、且つ違和感に至らない素晴らしい操作性に仕上げています。

なお、絞り環の最小絞り値「f22」でもピタリと合致して停止するように処置したので (切削しているのでそれが限界) f22を越えて停止しませんから、ムリに回そうとしないようご留意下さいませ・・一般的な同型モデルでは最小絞り値「f22」の先まで回るのが普通なので、絞り羽根が閉じきっている時の写真を載せると、もっと閉じているハズです。

・・つまりf2.5とf22と両端で基準「|」マーカーとピタリ一致させ停止させた。

これは今回の個体特有の話で、今まで解説してきたとおり「鏡筒がニコイチ/転用されている」為に、内部の最深部に組み込まれるべき「絞りユニット」が異なる (おそらく今回の個体で使っていたであろう本当のオリジナルな絞りユニット) と、絞り環をセットすると「位置がズレて最小絞り値側が対応できない」ので、このように仕上げるしか手がなかったからです・・申し訳御座いません(泣)

但し、いったいどの構成パーツをニコイチ/転用してきたのかまでは、残念ながら近似した仕様なので確実に指摘する事ができません(泣)

ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感が僅かに感じられるものの当方にて筐体外装の「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。「エイジング処理済」なのですぐに酸化/腐食/錆びが生じたりしません。

当方ではヤフオク! で流行っている「抗菌剤/除菌剤による清掃」などは絶対に実施しません。これをやると薬剤に含まれている成分の一部が金属の表層面に対して酸化/腐食/錆びを促す結果に至るので、早ければ1年、遅くとも数年でポツポツと錆が表れ始めます。

 

詳細は厚労省の「新型コロナウイルスの消毒・除菌方法について」が詳しく解説しています。

↑塗布したヘリコイドグリースは「黄褐色系グリース」を使い、当方独特なヌメヌメッとしたシットリ感漂うトルクに仕上げてあります。

当初バラす前のチェック時には「距離環のトルクがツルツル状態」との印象を受け、違和感に感じたので「むしろトルクを与えてシッカリした操作性」に仕上げました。

但し、そうは言ってもこのモデルのピントのピーク/山はまだかまだかと少しずつ迎えるのに、ピントが合うとアッと言う間に越えてしまいます(汗) 従って掴んでいる指の腹に極僅かにチカラを伝達するだけで「ピント面の前後微動が叶う」よう、そう言う軽い操作性に仕上げてあるので大丈夫です(笑)

なお、筐体外装も磨き入れしましたが「シルバーの刻印文字も着色」し、合わせて「赤色指標値」も明確にすると共に「ローレット (滑り止め) も可能な限り経年の汚れを除去」したので、少しは垢抜けして気持ち良くご使用頂けるでしょうか?(笑)

↑ご依頼内容の「絞り環のズレ」は上の写真のとおりグリーンのラインで示したように縦方向に一直線に並ぶよう仕上げてあります。もちろん絞り環の基準「|」マーカーにもf2.5、及びf22両方とも合致するよう (汚い自作パーツですが)(笑)、仕上げてあります(笑)

赤色矢印で指し示しているのは、当初バラす前の実写チェック時に無限遠合焦していた位置なので「相当なオーバーインフ状態」だったと思います (3目盛弱のズレ)。その因果関係は前述の「鏡胴前部締付固定環が別モノだから」ですが、それも僅かなオーバーインフになるようちゃんと調整して仕上げてあります(笑)

・・いろいろ超長文で申し訳御座いません! バッチリ仕上がったと思います!(涙)

オーバーホール/修理ご依頼者様皆様に告知しているとおり、もしもお届けしたオールドレンズの仕上がり状況にご満足頂けない場合は、そのご納得頂けない要素に対して「ご納得頂ける分の金額をご請求金額より減額」下さいませ。
減額頂ける最大値/MAX額は「ご請求金額まで (つまり無償扱い)」とし、大変申し訳御座いませんが当方による弁償などは対応できません・・申し訳御座いません。

無限遠位置 (当初バラす前の位置から訂正/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。

もちろん光学系の光路長調整もキッチリ行ったので (簡易検査具によるチェックなので0.1mm単位や10倍の精度ではありません)、以下実写のとおり大変鋭いピント面を確保できました。電子検査機械を使ったチェックを期待される方は、是非ともプロのカメラ店様や修理専門会社様が手掛けたオールドレンズを手に入れて下さい当方の技術スキルは低いのでご期待には応えられません

↑当レンズによる最短撮影距離80cm附近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。

各絞り値での「被写界深度の変化」をご確認頂く為に、ワザと故意にピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に電球部分に合わせています。決して「前ピン」で撮っているワケではありませんし、光学系光学硝子レンズの格納位置や向きを間違えたりしている結果の描写でもありません (そんな事は組み立て工程の中で当然ながら判明します/簡易検査具で確認もして います)。またフード未装着なので場合によってはフレア気味だったりします。

↑絞り環を回して設定絞り値「f4」で撮影しています。

↑さらに回してf値「f5.6」で撮りました。

↑f値は「f8」に上がっています。さすが基本成分がテッサー型なので鋭いピント面です!(涙)

↑f値は「f11」になりました。

↑f値「f16」です。極僅かですが、もうほとんど絞り羽根が閉じてきているのでそろそろ「回折現象」の影響が現れ始めています。

 回折現象
入射光は波動 (波長) なので光が直進する時に障害物 (ここでは絞り羽根) に遮られるとその背後に回り込む現象を指します。例えば、音が塀の向こう側に届くのも回折現象の影響です。
入射光が絞りユニットを通過する際、絞り羽根の背後 (裏面) に回り込んだ光が撮像素子まで届かなくなる為に解像度やコントラスト低下が発生し、眠い画質に堕ちてしまいます。この現象は、絞り径を小さくする(絞り値を大きくする)ほど顕著に表れる特性があります。

被写界深度
被写体にピントを合わせた部分の前後 (奥行き/手前方向) でギリギリ合焦しているように見える範囲 (ピントが鋭く感じる範囲) を指し、レンズの焦点距離と被写体との実距離、及び設定絞り値との関係で変化する。設定絞り値が小さい (少ない) ほど被写界深度は浅い (狭い) 範囲になり、大きくなるほど被写界深度は深く (広く) なる。

焦点移動
光学硝子レンズの設計や硝子材に於ける収差、特に球面収差の影響によりピント面の合焦位置から絞り値の変動 (絞り値の増大) に従い位置がズレていく事を指す。

↑最小絞り値「f22」での撮影です。今回のオーバーホール/修理ご依頼、誠にありがとう御座いました。引き続き次の3本目の作業に入ります。どうぞよろしくお願い申し上げます。