◎ P. ANGÈNIEUX PARIS (アンジェニュー) RETROFOCUS TYPE R1 35mm/f2.5《後期型−II》(exakta)

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※解説とオーバーホール工程で掲載の写真はヤフオク! 出品商品とは異なる場合があります。

今回オーバーホール/修理が終わってご案内するモデルは、フランスは
P.Angenieux Paris製広角レンズ・・・・、
RETROFOCUS TYPE R1 35mm/f2.5《後期型−II》(exakta)』です。


  ЯПОНІЯ З УКРАЇНОЮ!    Слава Україні!  Героям слава!  

上の文は「日本はウクライナと共に! ウクライナに栄光あれ! 英雄に栄光を!」の一文をウクライナ語で国旗色を配って表現した一文です。現地ウクライナでは民衆が「ウクライナに栄光あれ!」と自らの鼓舞を叫ぶとそれに応えて民衆が「英雄に栄光を!」と返すようです。

Slava UkrainieieGeroyam Slava

今回オーバーホール/修理が終わってご案内するモデルは、当方がオーバーホール作業を始めた12年前からの累計でP.Angenieux Paris製広角レンズ「35mm/f2.5」の括りで捉えると累計で16本目にあたりますが、今回扱ったモデルの「後期型−II」だけでカウントすると初めての扱いです。

ッて言うか、12年もオールドレンズの整備作業をやっていながら今日の今日まで全く気づかなかったと言う何とも恥ずかしい醜態です!(恥) 某有名処で「ウソや思い込みが酷く信憑性に値しない」とボロクソに言われている・・まさにその通りの醜態を曝け出している始末で、全く以て反論できる余地がありません!(恥)

このモデルに「プリセット絞り機構を採用したタイプが顕在する事を今の今まで全く知らなかった!」のです(恥) 12年もオールドレンズを扱っていながらこのザマですから、これが恥ずかしくない話であるハズがありません・・(泣)

【モデルバリエーション】
オレンジ色文字部分は最初に変更になった諸元を示しています。

前期型1950年発売
ローレット (滑り止め) :
ホワイトシルバー梨地仕上げ (細かいジャギー)
絞り環:左回り
絞り方式:実絞り

後期型−I1953年発売 (?)
ローレット (滑り止め) :
シルバー光沢仕上げ (幅が広いジャギー)
絞り環:右回り
絞り方式:実絞り

後期型−II1956年発売 (?)
ローレット (滑り止め) :
シルバー光沢仕上げ (幅が広いジャギー)
絞り環:右回り
絞り方式:プリセット絞り

そこで現在ネット上で確認できる個体の写真を使い、サンプル数50本を調査し製造番号との関係性で、いったいいつ頃からプリセット絞り機構を採用したのかを調べてみました。

すると「製造番号445xxx以降」にて絞り環の仕様/設計が変わっており「プリセット絞り値用の基準●マーカー刻印が絞り環に在る」事が分かりました。1958年には設定絞り値がダイヤル式に変わった新設計タイプに引き継がれるので「後期型−II」の登場は2年前だったのではないかとみていますが、正確なところは不明です。

パッと見で後期型になると幅広のジャギーを伴うローレット (滑り止め) に変わっただけとばかり「思い込んでいた」次第です(恥) 前回この「後期型」を扱ったのが2018年だったので、だいぶ時間が経ってしまいましたが今回の個体を扱う機会を得てモデルバリエーションを更新する事になりました・・この場を借りて今回のオーバーホール/修理ご依頼者様にお礼を申し上げます。ありがとう御座います!(涙)

・・しかし、それにしても本当に恥ずかしい話でしかない!(汗)

なお焦点距離28mmのほうも同様「後期型−II」でプリセット絞り機構を実装してきています。

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↑上の写真はFlickriverで、このオールドレンズの特徴的な実写をピックアップしてみました。
ピックアップした理由は撮影者/投稿者の撮影スキルの高さをリスペクトしているからです
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)
※各写真の著作権/肖像権がそれぞれの投稿者に帰属しています/上記掲載写真はその引用で
転載ではありません。

一段目
左端からシャボン玉ボケにまで明確になりきれないままの円形ボケが、次第に破綻して滲んでいく様をピックアップしています。円形ボケの境界が滲んで溶けていくもののトッロトロボケにまで至らず、その前に収差ボケが顕著に表れ始めます。

二段目
円形ボケが破綻していくと次第に収差の影響を色濃く受けた収差ボケへと汚く滲んでいきます。二線ボケの傾向も否めず、シ〜ンによっては背景ボケが煩く感じる場合もありそうです。

三段目
左側の2枚で赤色の発色性を観ていますが、特に厳島神社の「朱色」のビミョ〜な発色性がちゃんと残っているように見えてさすがだと感じました。そして右側2枚の実写では「空気感」の存在を確認しています・・このモデルの描写としてネット上の評価をみると「滲み方に独特な表現性がある」との評価を数多く見かけますが、当方は滲み方よりもむしろ「光の留め方」のほうに特徴があるように感じています。明部に限らず暗部についても独特な写し込みができるオールドレンズのような印象を強く抱きます。

四段目
その印象を強く抱いたのがこの左側2枚の実写です。雨降りのシ〜ンにしても蒸気機関車の蒸気にしても、水に濡れているコンクリートや蒸気に煙る金属質の表現性が素晴らしいと感じます。

すると暗部に対する耐性と言うか、明部との境界に独特な光の留め方をするクセのようなモノを感じ、それは右側2枚の写真のようなとてもリアル感が強い実車に到達していると感じました。広角レンズのクセに人物撮影でここまでポートレートレンズ並に迫力のある実車を残せるのが凄いと思います。

五段目
この段では光源を含むシ〜ンの実車をピックアップしてみました。ネット上での評価をみると光源に対する滲み方を特徴付けているように見えますが、当方はそのように受け取りません・・光源が滲んで写っているのは「あくまでもその個体の光学系の状態が悪いから」であり、特に光学系第2群〜第3群の2枚の光学硝子レンズに少しでもクモリがあると、画全体の滲み方が極端に変わる傾向があると思います。従ってクモリが介在しない個体の場合には (今回扱った個体のように) 下手な滲み方に墜ちないシッカリした描写性をちゃんと発揮するモデルではないかと思いました。それらの確認にこのような光源を含む実写をピックアップしてみた次第です。

光学系は典型的な5群6枚のレトロフォーカス型構成です。右構成図は今回のオーバーホールで完全解体した際に光学系の清掃時、当方の手によりデジタルノギスを使い逐一全ての群の光学硝子レンズを計測したトレース図です。

 色で着色した光学系第3群〜第5群までが「3群4枚のテッサー型構成」と言う基本構成なので、このモデルの描写性で「甘い写り方になる」ハズがありません。但しそうは言っても前述のとおり光学系前群の要素たる第2群〜第3群の光学硝子レンズにクモリが生じてしまうと、画全体への滲み方が大きく変わってしまい設計上の「テッサー型の鋭さを明確に残せなくなる」ように思います。

それは時代背景的に戦前〜戦中の中心的存在がレンジファインダーカメラだった事からも、戦後に登場したミラーボックスをフィルム印画紙の直前に配した一眼レフ (フィルム) カメラの登場により「レンジファインダーカメラで中心的光学設計として使い続けられていた標準レンズ域の光学系構成のままで広角レンズ域まで延伸させる光学設計が採れない」事から、それに対応させた広角レンズ域の新たな設計が急務だったのが「そもそものレトロフォーカス型構成の登場」だったと言えます。

1950年にフランスのP.Angenieux Paris社が世界に先駆けて設計してきた「レトロフォーカス型光学設計」は「フォーカス (焦点)」を「レトロ (後退)」させて一眼レフ (フィルム) カメラの広角レンズ域に対応させた「逆望遠型光学設計」だったワケで、決してコトバどおりの「レトロな感覚の甘い写り方/滲みの多い写り方」との受け取り方に集約させてしまうのは違うと思っています。

従って上の構成図で 色に着色した光学系第1群前玉と第2群の2枚の配置により、バックフォーカスを稼いで設計されたのが「レトロフォーカス型光学系」だと理解されるべきであり、このモデルの基本成分はピント面を鋭く表現できる「3群4枚のテッサー型構成」と受け取るべきです。

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。本当に恥ずかしい話で顔が熱くなりましたが(恥)、今回扱った個体が初めての扱いになった「後期型−II」のプリセット絞り機構を装備した設計だった事から、以下オーバーホール工程について解説していきます(笑)

但し、今回の個体は当方での扱いが初めてなのに以下のような問題点が当初バラす前のチェック時点から発生していました。

《当初バラす前のチェック時に気になっていた内容》
無限遠位置の時にアンダーインフ状態で全くピントが合焦していない。
さらに無限遠位置の時、ピント面と思しき箇所のエッジに色ズレ発生。
 光学系内にクモリ/汚れがあるとのご依頼者様からのご指摘。
プリセット絞り操作が全く以てデタラメ。

《バラした後に新たに確認できた内容》
ヘリコイドグリースは白色系グリースが塗布されている。
ヘリコイドオスメスのネジ込み位置がデタラメ。
プリセット絞り機構部の組み上げが完璧にデタラメ。
光学系第3群固定位置が違っている。
おそらく過去メンテナンス時にニコイチしている。

・・こんな感じです。初めての扱いなのに過去メンテナンス時の「組み立てがデタラメ」と言う個体で、しかも無限遠位置が完璧にアンダーインフ状態なので、そもそもピント合焦していません(泣)

このモデルのプリセット絞り機構部の設計が独特なのと、合わせてヘリコイドオスメスの組み込みが特殊なタイプなので、先ず以てシロウト整備でどうにかなるようなモデルではありません(泣)

従って過去メンテナンス時の扱いは相応にスキルを有する整備会社での組み立てなのが間違いありませんが、よくもまぁ〜ここまでデタラメに組み立てるものだと笑ってしまいます(笑)

上の完全解体全景写真を観るとパッと見で簡素な構造に見えますが、前述のとおり「プリセット絞り機構の設計が特殊 (何でこんな難しい設計にしたのか?)」なのと合わせてヘリコイドオスメスの駆動が正反対なので、ヘリコイドメス側が収納されるとオス側が繰り出しになる「真逆の動き方」ですから、先ず以てシロウト整備でちゃんと無限遠位置をピタリと適合させられる人は非常に少ないと思います(笑)

↑フィルター枠が「⌀ 51.5mm」と特殊サイズで厄介ですが、それだけの大きな前玉を実装していながらも、肝心な「鏡筒」は上の写真の如く小っちゃなサイズです (レトロフォーカス型光学系だから仕方ない話だが)(笑)

絞り羽根には表裏に「キー」と言う金属製突起棒が打ち込まれており (オールドレンズの中にはキーではなく穴が空いている場合や羽根の場合もある) その「キー」に役目が備わっています (必ず2種類の役目がある)。製産時点でこの「キー」は垂直状態で打ち込まれています。

位置決めキー
位置決め環」に刺さり絞り羽根の格納位置 (軸として機能する位置) を決めている役目のキー

開閉キー
開閉環」に刺さり絞り環操作に連動して絞り羽根の角度を変化させる役目のキー

位置決め環
絞り羽根の格納位置を確定させる「位置決めキー」が刺さる環 (リング/輪っか)

開閉環
絞り羽根の開閉角度を制御するために絞り環操作と連動して同時に回転する環

絞り羽根開閉幅
絞り羽根が閉じていく時の開口部の大きさ/広さ/面積を指し、光学系後群側への入射光量を決定づけている

↑上の写真は鏡筒最深部にセットされるべき「絞りユニット」の構成パーツを並べて撮影しています。「位置決め環 (左)」と「開閉環 (右)」ですが (赤色文字)、「開閉環」側はコトバどおり絞り羽根の開閉の際に回転している環/リング/輪っかです。

一方左側の「位置決め環」は絞り羽根の軸部分 (のキー) が刺さる環/リング/輪っかですから一切回転せずに鏡筒内部で固定されます。その固定する際に使う「締付ネジの下穴」がグリーンの矢印で指し示している穴になり、この下穴は「イモネジ用」です。

  イモネジ
ネジ頭が存在せずネジ部にいきなりマイスの切り込みが入っているネジ種でネジ先端が尖っているタイプと平坦なタイプの2種類が存在

さらにこのイモネジは大きく2種類の役目に分かれ、締め付け固定位置を微調整する役目を兼ねる場合、或いは純粋に締め付け固定する
だけの場合がある。

冒頭で今回扱ったこの個体が「過去にニコイチされている」と指摘している根拠が、実はこのグリーンの矢印で指し示しているイモネジ用の下穴です・・この位置決め環の全周に全部で3箇所均等配置でイモネジ用の下穴が備わりますが、3箇所しか締め付けた痕跡が残っていないので「製産時点から一度も外されていない (つまり過去メンテナンス時はこの位置決め環を外さずに整備していた)」のが判明します。

すると実はこの位置決め環の固定位置によって「プリセット絞り機構部の操作が限定される」設計を採っている為 (だから特殊だと述べている)、このイモネジ用の下穴の位置のままではプリセット絞り機構部が組み上がらないのです。

つまり実絞りタイプの「後期型-I」から転用した絞りユニットか、或いは「後期型−II」としても別個体からの転用なのがこれだけで確定してしまいます(泣)

それはオレンジ色矢印で指し示している切り込み/スリットの長さが必要以上に空いている事からもその根拠として補強されます。一方「開閉環」側にブルーの矢印で指し示しているネジ穴は「開閉キー」と言うパーツがネジ込まれる箇所で1つしかありません (これは正しい)。

↑絞りユニットを適切な位置で締め付け固定して組み込むと上の写真のようになり、ちゃんと最小絞り値「f22」まで絞り羽根が閉じきっています。12枚の絞り羽根は閉じていくとこれ以上閉じないので最小絞り値「f22」の時の閉じ具合なのが推測できます (まだ確定ではない)。

・・何しろ初めての扱いなのにいろいろデタラメな状態の為「原理原則」で詰めるしかない。

↑完成した鏡筒を立てて撮影しました。写真上側が前玉側方向にあたります。この鏡筒を観ると均等配置で側面に4箇所ネジ穴が備わりますが、なんとこのネジ穴が「プリセット絞り機構部の動き方を限定しているネジ穴」になっています・・しかしどうして4箇所も用意したのでしょうか?(笑)

↑光学系前群用の格納筒と第3群を並べて撮影しています。光学系第1群の前玉はちょうど「前群格納筒」と欠いてある場所辺りにセットされます。

ご依頼者様のご指摘でクモリや汚れがあるとのお話しでしたが、クモリや汚れではなく「光学系第2群に生じていたカビ」によりそのように見えていたのが判明しました。ちゃんと薬剤を使って洗浄しているのでご覧のようにカビ除去痕すら残らないレベルでキレイに戻っています(笑)

ネット上を観るとカビキラーなど使って清掃している整備者が居ますが、飛んでもありません(笑) 当方では以前取材させて頂いた工業用光学硝子レンズ製造会社様のご担当者様からお分け頂いた (仕入れ先の) 薬剤を使用しているので、将来に渡り光学硝子レンズ面に影響を来す事がありません(笑)

従って光学系内はスカッとクリアに戻っていますが、残念ながら前玉の外周附近に多くの残っている経年の拭きキズなどは当然ながら何ら処置できていません・・申し訳御座いません (クモリと言うレベルではないので光源が含まれている写真でも一切影響なし)。

↑光学系第3群をネジ込んだところです。赤色矢印で指し示している箇所にあるイモネジは「光学系第1群前玉の固定位置」を決めているのでズレて固定したりするとダメですね(笑)

またグリーンの矢印で指し示している箇所のネジ山に「イモネジで締め付けられた痕が残っている」のですが、そこに過去メンテナンス時にマーキングで刻まれています。ところがその位置が「1mm弱ほどズレている」ので当方で新たなマーキングを入れて示しています。

なおブルーの矢印で刻まれている番号「180」は製造番号に含まれている数値ではありません。

↑鏡筒をネジ込んだところです。ブルーの矢印で指し示している箇所のイモネジ痕がズレていたので正しい位置で固定しています (レ点を入れたほうが正しい固定位置)。

実はその正しい位置を判定できるのは「最後まで組み上げて無限遠位置を確認してからの話」なので(笑)、上の写真は解説用に再びバラしていることになります (面倒くさいですが)(笑)・・しかし当初バラす前の実写チェック時に「色ズレ」していたのがここの「僅か1mm弱のズレ」だったのが判明したので、ホッと一安心です(笑)

なおグリーンの矢印で指し示しているネジ穴は「開閉キー用のネジ穴」なので、絞り羽根を開閉させている「開閉環にあるネジ穴」ですね。その一方で赤色矢印で指し示している箇所が問題になってきます。

↑その箇所をさらに拡大撮影しました(笑) ブルーの矢印のズレが本当に微々たるものなのが分かります(泣) さらに赤色矢印で指し示している箇所が前述した「位置決め環にある切り欠き/スリット部分 (オレンジ色矢印で説明した処)」の縁であるのが分かります・・空いていた切り欠き/スリットの凡そ半分近くが全く必要ないのが分かるでしょうか?(笑)

これはこの個体でのプリセット絞り機構が正しく機能する位置で前述の「位置決め環」を締め付け固定すると、切り欠き/スリットの縁が赤色矢印の位置に来て、半分近くの切り欠き/スリットが意味ない状況です (つまりこの個体のプリセット絞り機構の設計と合致していないからこれだけでもニコイチ品と判定できる)(笑)

逆に言うなら、冒頭で解説した「位置決め環のイモネジ用の下穴の位置で締め付け固定している限りプリセット絞り機構に対応した操作性でゼッタイに組み立てられない」ので、一度も別の位置で締め付け固定した痕跡が無い時点で「プリセット絞り機構用の絞りユニットではない」と明言できると言い替えられます。

従って今回のオーバーホール工程では用意されていた下穴とは全く異なる位置で位置決め環を締め付け固定したので、ちゃんと正しくプリセット絞り機構が機能するように変わった/組み立てられた次第です (だからこそニコイチ品との結論に到達した)。それが上の写真で赤色矢印のようにズレている理由です。

・・こういう事柄一つずつを潰しながら「原理原則」から詰めていくと判明していきます。

↑問題のプリセット絞り機構部の構成パーツを並べて撮影しています。これらパーツの組み合わせてが全く以てデタラメだったワケです(笑)

↑ちゃんと「原理原則」から導いた正しい固定位置で組み立てていくと、ご覧のようにキレイに組み上がります (当たり前の話ですが)(笑) 後でこのモデルのプリセット絞り機構の操作方法を解説しますが、ちゃんと理に適っている動き方を各部がするのは当然です(笑)

↑このモデルは鏡胴が「前部/後部」の二分割タイプなので、ここまでの工程で鏡胴「前部」が完成したため、ここからは鏡胴「後部」の組み立て工程に移ります。

【鏡胴後部の構成パーツ】
マウント部
距離環ローレット (滑り止め)
指標値環
ヘリコイドメス側 (黄銅材)
ヘリコイドオス側 (アルミ合金材)

↑ヘリコイドオスメスですが、メス側にはネジ穴が2つ備わります (グリーンの矢印)。このネジ穴は「制限キー」と言うネジが刺さる場所であり「2つのうちのどちらか」がこのモデルでは正しい固定箇所になります。ちゃんとよ〜く観察すると「同じ手法でネジ穴を開けている」のが分かるので、このネジ穴は2つとも「製産時点に開けられているネジ穴」と推察できます。

するとヘリコイドメス側の話なので、その駆動域が変化するとなれば「マウント規格の相違」に対応したネジ穴位置と考えられます・・要はフランジバック計算から捉えれば明白で「M42マウントとexaktaマウント用の2つが用意されていると指摘できる」ワケです。

・・ちゃんと「観察と考察」すれば自ずといろいろ見えてきますね(笑)

従って必然的にフランジバックが異なるのでヘリコイドオス側の駆動域も変化するのでブルーの矢印で指し示したネジ穴「直進キー用の固定用ネジ穴」が2つ備わるのも納得できるワケです(笑)

・・ではこれらヘリコイドのネジ山位置はいったい幾つ存在しているのか?

ただ単に純粋に数えれば良いだけです(笑)・・黄銅材のヘリコイドメス側は「1箇所のみ」に対してアルミ合金材のヘリコイドオス側は「全部で4箇所のネジ込み位置」があるのが分かります。

しかし前述したとおり、左側の黄銅材のヘリコイドメス側が格納している方向でネジ込んでいる時に「右側のアルミ合金材のヘリコイドオス側は逆に繰り出し方向に回転している」と言う互いに反対方向のネジ山が切られています。

一般的には「無限遠位置は最も鏡筒が奥まで格納/収納した時の合焦」なので、右側のアルミ合金材のヘリコイドオス側が格納位置/収納位置となれば「左側の黄銅材のヘリコイドメス側が最大限繰り出している状態の時」と言う原理になります。

これが一般の方々には大変難しい原理になってしまうようで(泣)、特にグリーンの矢印で指し示している「駆動域を決定づけるネジ穴の位置」と合わせて「ブルーの矢印の直進キー用のネジ穴の位置」も大変悩ましい存在のハズです(笑)

何故なら、距離環を回す回転するチカラを鏡筒が直進動するチカラに変換している役目なのが「直進キー」だからです(笑) 要は黄銅材のヘリコイドメス側が回転しつつ「ブルーの矢印で指し示している直進キーのせいで」ヘリコイドオス側は回転しつつも反対の動きをするのが難しいワケです(笑)

ちなみに整備している人が見れば一目瞭然ですが、左側黄銅材のヘリコイドメス側の下穴2個の距離に対して、右側アルミ合金材のヘリコイドオス側直進キーが刺さる位置の2つの間の間隔が等しくならない時点で「マウント規格の相違だ」と気づける次第です (回転と直進動の変換だから一致しない)(笑)

↑マウント部の写真ですが、前述の黄銅材のヘリコイドメス側に備わる2つあるネジ穴の「制限キー用の穴」は、上の写真の「制限壁」と言う突出の両端「無限遠位置側 (右端) と最短撮影距離位置側 (左端)」の2箇所でカチンと突き当て停止する原理ですね。その際アルミ合金材のヘリコイドオス側を上下に直進動させているのが上の写真グリーンの矢印で指し示している「直進キーガイド」なので、前述のとおり「ちゃんと直進動になるよう切り欠き/スリットが空いている」からこそ、回転するチカラを直進動のチカラに変換しているとの解説になります。

特に今回のこのモデルは繰り出しと格納/収納が反対方向なので、合わせてそれぞれネジ穴が2つ用意されているとなれば (2つのマウント規格に対応しているから) 過去メンテナンス時の整備者すら「???」だったのでしょう(笑)

例えデタラメでも組み上げられる時点でシロウト整備ではないのは間違いありません(笑) この後は完成している鏡胴「前部」をセットして無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行えば完成です。

DOHヘッダー

ここからはオーバーホール/修理が完了したオールドレンズの写真になります。

↑完璧なオーバーホール/修理が終わっています。ご報告する瑕疵内容は一つも在りませんが、当方所有マウントアダプタ (exakta → SONY Eマウントアダプタ) と附属頂いたマウントアダプタとでは半メモリ分ほどですがオーバーインフ量が違っています。同じK&F CONCEPT製マウントアダプタですが、個体差なのか、或いは変換リング経由が影響しているのかよく分かりません。

但しいずれにしても1メモリ半程度のオーバーインフ状態なので、ピントのピーク/山が今か今かと迎える合焦の仕方な分、むしろ楽だと思います。もちろん当初バラす前のアンダーインフ状態も色ズレも全て解消できています。

↑光学系内の透明度が非常に高い状態を維持した個体です。LED光照射でもコーティング層経年劣化に伴う極薄いクモリが皆無です。スカッとクリアですが、前述のとおり前玉外周附近に集中的に残っている経年の拭きキズなどはそのままです。光学系第2群のカビ除去痕も残っていません (カビはキレイサッパリ除去できています)。

↑後玉も経年の拭きキズがそのまま残っています (どのようなシ〜ンだとしても写真には一切影響しません)。

↑12枚の絞り羽根もキレイになりプリセット絞り環や絞りユニット環ともども確実に駆動しています。絞り羽根が閉じる際は「完璧に円形絞りを維持」したまま閉じていきます。

当初バラす前のデタラメなプリセット絞り機構部の操作も完璧に正しい状態に戻してあります。

ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感が僅かに感じられるものの当方にて筐体外装の「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。「エイジング処理済」なのですぐに酸化/腐食/錆びが生じたりしません。

当方ではヤフオク! で流行っている「抗菌剤/除菌剤による清掃」などは絶対に実施しません。これをやると薬剤に含まれている成分の一部が金属の表層面に対して酸化/腐食/錆びを促す結果に至るので、早ければ1年、遅くとも数年でポツポツと錆が表れ始めます。

詳細は厚労省の「新型コロナウイルスの消毒・除菌方法について」が詳しく解説しています。

↑塗布したヘリコイドグリースは「黄褐色系グリース」を使い、当方独特なヌメヌメッとシットリ感漂うトルク感に仕上げてあります。ピントのピーク/山がまだかまだかとゆっくり合焦していくモデルなので、当初バラす前に比べると気持ち軽めのトルクに仕上げてありますが、当方の感覚では「普通」程度のトルクです (軽めではない)。

筐体外装は「紺色を基本成分としたメッキ塗色」で黒色鏡胴になっていますが、ちゃんと「光沢磨き」を施したので、ピッカピカです(笑) もちろん刻印指標値などもシルバーで着色してあるのでキレイに浮き出ています(笑)

↑特にご報告する瑕疵内容は御座いません・・完璧な状態に仕上がっています。

↑ここからはこのモデルのプリセット絞り機構の操作方法を解説していきます (当初がデタラメだったので)(笑) 多くの場合でネット上で解説が間違っていますが(笑)「プリセット絞り環と絞り環の認識」は上の写真解説のようになります。プリセット絞り環が上で絞り環は下側の環/リング/輪っかです。これを逆に捉えているプロの写真家が居るので困ったものです(笑)

基準になるのはグリーンの矢印で指し示している基準「●」マーカーです。現状開放f値「f2.5」にプリセット絞りが設定されていて「f2.5の位置から絞り環もプリセット絞り環も両方とも動かない」状態です。

ここから仮に「プリセット絞り値をf5.6に設定して撮影する場合」を説明していきます。絞り環側を指で保持してブルーの矢印❶ブルーの矢印❷ブルーの矢印❸の順で操作して基準「●」マーカーを移動させます。

↑プリセット絞り値を「f5.6」にセットした状態です (グリーンの矢印)。赤色矢印の基準「▽」マーカーは現在の絞り羽根の状態を顕すので、絞り環を回してプリセット絞り値を「f5.6」に設定したものの、今現在はまだ「開放f値f2.5のままで絞り羽根は完全開放したまま」なのが分かります (いちいち光学系内を覗き込まずとも間違いありません)(笑)

プリセット絞り値をセットできたのでこの状態で距離環を回して開放f値のままでピント合わせを行います。ピントが合ったらシャッターボタンを押し下げるので、その前に設定絞り値まで絞り環を回して「f5.6に絞り羽根を閉じる」ワケです (ブルーの矢印❹)。

↑絞り環を回したので赤色矢印の位置に「f5.6」が来て絞り羽根が閉じています。ちゃんとプリセット絞り値の基準「●」マーカーも合致していますね (グリーンの矢印)(笑) もちろん光学系内を覗き込んでもちゃんとf5.6まで閉じています。

これで撮影が終わったので、再び開放f値「f2.5」に戻します。ブルーの矢印❺の方向に絞り環を回して絞り羽根を開きます。

↑プリセット絞り値が「f5.6」だったので、それを開放f値「f2.5」に戻します。ブルーの矢印❻ブルーの矢印❼ブルーの矢印❽の順で絞り環操作してプリセット絞り値を「f2.5」の赤色矢印に合わせます。グリーンの矢印で指し示しているプリセット絞り値の基準「●」マーカーが「f2.5」に合致します。

↑何の事はなく単に最初の状態に戻っただけの話ですが(笑)、絞り環もプリセット絞り環も両方とも開放f値「f2.5」から一切動きません。当然ながら絞り羽根は完全開放したままです。

プリセット絞り値を設定してピント合わせを行いシャッターボタンを押し下げる前に絞り環を回して絞り羽根を閉じて→撮影が終わったらまた開放状態に戻すという「一連の操作は撮影時のカラダの動き方に合っており何一つ不自然さが無い」ので、プリセット絞り環と絞り環がどちらなのかを正しく認識すれば何も難しい話ではありませんね(笑)

それを順番が逆だとか、プリセット絞りは操作方法を覚える必要があるとかワケの分からない説明をしているプロの写真家が居るので笑ってしまいます(笑)・・撮影の手順そのままです。

オーバーホール/修理ご依頼者様皆様に告知しているとおり、もしもお届けしたオールドレンズの仕上がり状況にご満足頂けない場合は、そのご納得頂けない要素に対して「ご納得頂ける分の金額をご請求金額より減額」下さいませ。
減額頂ける最大値/MAX額は「ご請求金額まで (つまり無償扱い)」とし、大変申し訳御座いませんが当方による弁償などは対応できません・・申し訳御座いません。

無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。

もちろん光学系の光路長調整もキッチリ行ったので (簡易検査具によるチェックなので0.1mm単位や10倍の精度ではありません)、以下実写のとおり大変鋭いピント面を確保できました。電子検査機械を使ったチェックを期待される方は、是非ともプロのカメラ店様や修理専門会社様が手掛けたオールドレンズを手に入れて下さい当方の技術スキルは低いのでご期待には応えられません

各絞り値での「被写界深度の変化」をご確認頂く為に、ワザと故意にピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に電球部分に合わせています。決して「前ピン」で撮っているワケではありませんし、光学系光学硝子レンズの格納位置や向きを間違えたりしている結果の描写でもありません (そんな事は組み立て工程の中で当然ながら判明します/簡易検査具で確認もして います)。またフード未装着なので場合によってはフレア気味だったりします。

↑当レンズによる最短撮影距離80cm附近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。

各絞り値での「被写界深度の変化」をご確認頂く為に、ワザと故意にピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に電球部分に合わせています。決して「前ピン」で撮っているワケではありませんし、光学系光学硝子レンズの格納位置や向きを間違えたりしている結果の描写でもありません (そんな事は組み立て工程の中で当然ながら判明します/簡易検査具で確認もして います)。またフード未装着なので場合によってはフレア気味だったりします。

↑絞り環を回して設定絞り値「f4」で撮影しています。冒頭解説の通り、光学系構成の基本成分が3群4枚のテッサー型なので、ご覧のように鋭いピント面に仕上がるのは当然の話です(笑)

↑さらに回してf値「f5.6」で撮っています。

↑f値「f8」に上がりました。

↑f値「f11」です。

↑f値「f16」での撮影です。もうだいぶ絞り羽根が閉じてきているので、そろそろ「回折現象」の影響が現れ始めています。

 回折現象
入射光は波動 (波長) なので光が直進する時に障害物 (ここでは絞り羽根) に遮られるとその背後に回り込む現象を指します。例えば、音が塀の向こう側に届くのも回折現象の影響です。
入射光が絞りユニットを通過する際、絞り羽根の背後 (裏面) に回り込んだ光が撮像素子まで届かなくなる為に解像度やコントラスト低下が発生し、眠い画質に堕ちてしまいます。この現象は、絞り径を小さくする(絞り値を大きくする)ほど顕著に表れる特性があります。

被写界深度
被写体にピントを合わせた部分の前後 (奥行き/手前方向) でギリギリ合焦しているように見える範囲 (ピントが鋭く感じる範囲) を指し、レンズの焦点距離と被写体との実距離、及び設定絞り値との関係で変化する。設定絞り値が小さい (少ない) ほど被写界深度は浅い (狭い) 範囲になり、大きくなるほど被写界深度は深く (広く) なる。

焦点移動
光学硝子レンズの設計や硝子材に於ける収差、特に球面収差の影響によりピント面の合焦位置から絞り値の変動 (絞り値の増大) に従い位置がズレていく事を指す。

↑最小絞り値「f22」での撮影です。今回のオーバーホール/修理ご依頼、誠にありがとう御座いました。引き続き3本目の作業入ります。どうぞよろしくお願い申し上げます。