〓 Carl Zeiss Jena (カールツァイス・イエナ) Biotar 58mm/f2 T (silver)《前期型−II》(M42)

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※解説とオーバーホール工程で掲載の写真はヤフオク! 出品商品とは異なる場合があります。

今回完璧なオーバーホール/修理が終わってご案内するモデルは、旧東ドイツは
Carl Zeiss Jena製標準レンズ・・・・、
Biotar 58mm/f2 T (silver)《前期型−II》(M42)』です。


  ЯПОНІЯ З УКРАЇНОЮ!    Слава Україні!  Героям слава!  

上の文は「日本はウクライナと共に! ウクライナに栄光あれ! 英雄に栄光を!」の一文をウクライナ語で国旗色を配って表現した一文です。現地ウクライナでは民衆が「ウクライナに栄光あれ!」と自らの鼓舞を叫ぶとそれに応えて民衆が「英雄に栄光を!」と返すようです。

Slava UkrainieieGeroyam Slava

今回はオーバーホール/修理ご依頼分の個体を仕上げたご報告になりますが、当方がオーバーホール作業を始めた12年前からの累計で、当時の旧東ドイツはCarl Zeiss Jena製標準レンズ「58mm/f2」の括りで捉えると累計で73本目にあたり、且つ今回扱った個体の「前期型」だけでカウントすると20本目です。

実はこの「Biotar 58mm/f2シリーズ」は「シルバー鏡胴モデルを最後に消滅してしまった標準レンズの一つ」であり (但し筐体外装のブラックバージョンモデルが一部に存在していた)、その後のゼブラ柄モデルが世界規模で流行った時期には発売されなかったシリーズでもあります。特に標準レンズの括りで捉えた際に「さすが戦前から繋がるCarl Zeiss Jenaの写り」として、鋭いピント面を構成する中にも繊細な表現性が残っていた要素に於いて、12年前から積極的に好んで取り扱ってきた次第です。

ところが当方がオーバーホール済でヤフオク! 出品すると、どういうワケか人気が無くなかなか落札されない状況に鑑み、スッカリ意気消沈してしまい2022年を最後に当方での扱いを終了してしまいました。

・・従って昨年来、当モデルは「オーバーホール/修理ご依頼分のみ」扱いを続けています。

然しながら今回のご依頼者様も仰っていましたが、現状国内市場に出回る多くの個体は状態が悪く、特にモデルバリエーションで言う処の「前期型−I前期型−III」に於いて光学系が「スカッとクリア」なままを維持した個体を手に入れるのは至難の業です。

そこで海外オークションebayから手に入れられ、当方宛オーバーホール/修理ご依頼を賜った次第です。

特に前述のとおり戦前のCarl Zeiss Jenaから受け継ぐ標準レンズの描写を期待するなら、モデルバリエーションの「後期型」・・実装絞り羽根が10枚に減じられ最短撮影距離60cmに後退してしまった半自動絞り方式のタイプ・・を手に入れても光学設計が異なるので、願わくばご依頼者様の目論みどおり「前期型−I前期型−III」を手に入れるのが「zeissの」刻印をレンズ銘板に伴うモノコーティング狙いの中では最善の策と受け取っています。

写り具合の相違はそれら光学系の実装方法からして「初期型前期型」と「中期型後期型」では全く別モノに設計変更してしまっているので、描写性の変化はある意味必然的な要因と受け取っている次第です (絞り羽根の実装方法まで勘案すれば前期型しか残らないから)。それは恣意的に見るなら「白黒写真撮影」で捉えると写りの違いが如実に表れるので、やはり時代として白黒写真が主流だった「初期型前期型」はカラー写真の撮影時でも繊細さが見出せている点で、光学設計の違いに拠るところが大きいのではないかと考察しています。

ある意味戦前から継承してきたハズの「Biotarシリーズ」消滅の遠因には、そのような要素も含まれるのかも知れませんね(涙)・・実際その後に登場する「Pancolarシリーズ」の写りには戦前の繊細感はだいぶ薄れてしまったように感じます (コントラスト強調傾向)。

↑完全解体した時の内部構成パーツ全景写真です。オーバーホール工程やこのモデルの当時の背景など詳しい解説はBiotar 5.8cm/f2 (black)《前期型−III》(M42)』或いはBiotar 5.8cm/f2 T silver《前期型−II》(M42)』のページをご参照下さいませ。

ここまで掲載したオーバーホール工程の写真は「全て過去扱い品/個体からの転載」です。オーバーホール済でヤフオク! 出品する際の個体写真とは一部に一致しない場合があります。

DOHヘッダー

ここからはオーバーホール/修理が完了したオールドレンズの写真になります。

↑完璧なオーバーホール/修理が終わっています。パッと見でオーバーホール/修理の前後で何ら変化がないようにしか見えませんが、実は操作してみると明らかにオーバーホール/修理する前の個体の状態とは全く別モノなのが分かると思います (ご依頼者様お一人様だけの話ですが)。

↑順番が逆転しますが、上の写真は当初バラした直後に「溶剤で洗浄する前に敢えて撮影した写真」です。当初バラす前のチェック時点でご依頼者様が仰るとおり「光学系内の状態がとても良い」と感心を抱くと同時に、実は「距離環を回すトルク感も少々重めながら充分素晴らしい」との印象でした。

ところがバラしてみるとご覧のとおりです(笑) そもそもバラす前のチェック時点で「距離環に塗布されているグリースの匂いを嗅いでみた」のではなから分かっていましたが「微かな芳香を含むグリース」が塗布されていたので、この個体の整備を直近で実施したのは「海外の整備者」です(笑)

・・これが日本国内の整備者だと塗布するグリースに「香水」を混ぜたりしません(笑)

さらに直前の整備で塗布されていたヘリコイドグリースは「白色系グリース」であり、合わせてなんと「潤滑油」まで注入してあったので、確かに手元に届いた現時点はとても状態の良いトルク感としての印象を抱くものの、来年の同じ時期になれば「相当重いトルク感に変化」し遅くとも再来年にはヘリコイドの固着に至っていたと容易に推測できます (つまり残り2年で製品寿命に至っていたとの懸念が高い)(怖)

するとそもそも「白色系グリース」を塗布した整備自体はさらに前のタイミングと考えられ「むしろ直近では潤滑油を注入されてしまった」との憶測のほうがよりリアルな現実感を増します(泣)・・当方も含め同じ穴の狢たる転売屋/転売ヤーの常套手段です(笑)

おそらくこの状況からして「白色系グリース」を塗布した整備は数年内に施されたと推察しますが、その際の整備内容がどうしようもありません(笑) 上の写真を見れば「まさにその証拠が露わ」なワケですが(笑)、古い「黄褐色系グリース」を除去せずに、その上から「白色系グリース」を塗ったくっています(笑)

これは日本国内でもいまだに横行している整備の一つで「そのような処置を平気でヤリ続けている整備者曰くグリースの補充」だそうです(笑) 潤滑性を取り戻す目的なのだからグリースなら成分や添加剤などお構いなしに塗ったくれば良いとの何とも浅はかな思考回路です(笑)

塗布した時は「白色系グリース」ですから白色なのですが、操作している最中にすぐ「濃いグレー状」にアルミ合金材が摩耗します。一方古い「黄褐色系グリース」のほうがむしろ褐色を維持したまま残っているくらいなので(笑)、どんだけ「白色系グリース」が悪影響を来しているのかその違いが分かると思います(笑)・・当方が考えるに、製産されていた時代に塗布されていたのは「黄褐色系グリース」であり、且つそれを塗布する想定の下で設計されていたハズとの考察です。

さらにブルーの矢印で指し示しましたが、過去メンテナンスが何回か施され、そのたびに全く異なる位置で距離環が固定されていた痕跡が幾つも残っています (過去のごまかしの整備はバラしてしまえばこのように逐一白日の下に曝されます)(笑) 中にはグリーンの矢印で指し示したように「距離環を締め付け固定しているイモネジ3本を外さずにチカラを目一杯入れて外そうと回してしまった所為」すら露わになります (その際イモネジが擦って削れてしまった部分が銀色の線状に残っている)(笑)

・・結局これら6箇所のイモネジ締め付けの痕跡の中で製産時点の正しい痕は1箇所だけ(笑)

このように完全解体する事でその個体の過去メンテナンス時の状況が走馬灯の如く露わになりますから、するとどうして今現在の問題点が発生してしまったのかなどの推測も適う場合があります (そこから一つずつ因果関係を潰していけば適切に微調整が適い仕上げられるワケ)。

・・当方のオーバーホール/修理で個体別に執っている作業はそのような話です(笑)

従って一部の方々が仰るような「高レベルな技術スキルを伴う整備」など何一つありませんから(笑)、このブログをご覧の皆様も重々ご承知おき下さいませ・・当方の技術スキルは相当低いレベルに留まります(笑)

↑上の写真はオーバーホール/修理の工程を進めている最中に撮影した鏡筒です。「絞り環用のベース環」を適切な位置までネジ込んだところです (最後までネジ込んでしまうと絞り環操作が適切でなくなる)。

ご覧のように全部で3箇所分のイモネジ用の下穴が備わりますが、この中で当然ながら製産時点に切削されていたイモネジ用の下穴は1つだけですね (他の2つは過去メンテナンス時にワザワザドリルを使って開けられている)(笑)

この3つの下穴のうちいったいどれがホンモノなのでしょうか?(笑) それは無限遠位置を適切に仕上げていけば自ずと明白になるので (基準位置が明確になるので)、アッチコッチ穴を開けずとも「たったの一つだけ」しか残りませんね・・それが原理原則です(笑)

↑光学系内の透明度が非常に良い状態を維持した個体です。LED光照射でもコーティング層経年劣化に伴う極薄いクモリが皆無です。「気泡」は少々多めですが光学系内は「ひたすらにスカッとクリア」です(笑)

気泡
光学硝子材精製時に、適正な高温度帯に一定時間到達し続け維持していたことを示す「」と捉えていたので、当時の光学メーカーは正常品として「気泡」を含む個体を出荷していました (写真に影響なし)。

↑後群側もご覧のとおり極薄いクモリが皆無で「スカッとクリア」です。しかし当初バラす前の実写チェック時点で「このモデルにしてはピント面の鋭さが僅かに足りない印象」だったので、バラしながらその因果関係をチェックしていくと明白になりました。

光学系内の締め付け環や特に貼り合わせレンズの一部を厚塗りで執拗に「反射防止黒色塗料」を着色していたために「特に後群側の光路長が延伸してしまいピント面の鋭さが極僅かに低下していた」のが判明しました。

従ってオーバーホール/修理の工程内では「徹底的に締め付け環や光学硝子レンズのコバ端、或いは格納筒内壁などの反射防止黒色塗料を溶剤で完全除去」した次第です。

・・従って仕上がり後の描写は「鋭いピント面」に復帰したのでご報告申し上げます。

これは特に無限遠位置などでピント面をご確認頂ければその鋭さが分かると思います。

↑17枚の絞り羽根もキレイになり絞り環共々確実に駆動しています。当初バラす前のチェック時点で「絞り環の操作がとても重い」印象を受けました。完全解体しながらその因果関係を調べていくと「何と絞りユニット内の開閉環にグリースを塗っていた」のが判明した次第です。

さすがに絞りユニット内にグリースを塗布するのはロシアンレンズだけの世界です (ロシアンレンズは金属凍結防止の為にグリースを塗っていたから)(笑) 従って当然ながら今回のオーバーホール/修理作業ではそもそも鏡筒内にグリースなど塗布しません(笑)

なお、17枚の絞り羽根はとてもキレイになりましたが (一部は赤サビを除去) 過去の整備で絞り羽根を閉じすぎてしまったようで「17枚の絞り羽根が互いに咬んでしまった痕跡」が絞り羽根の中央付近に残っています。

ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感が僅かに感じられるものの当方にて筐体外装の「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。「エイジング処理済」なのですぐに酸化/腐食/錆びが生じたりしません。

当方ではヤフオク! で流行っている「抗菌剤/除菌剤による清掃」などは絶対に実施しません。これをやると薬剤に含まれている成分の一部が金属の表層面に対して酸化/腐食/錆びを促す結果に至るので、早ければ1年、遅くとも数年でポツポツと錆が表れ始めます。

詳細は厚労省の「新型コロナウイルスの消毒・除菌方法について」が詳しく解説しています。

↑塗布したヘリコイドグリースはいつもの通り「黄褐色系グリース」を塗り、当方独特な「ヌメヌメッとしたシットリ感漂う軽いトルク感」に仕上げてあるので、特にピント面の前後ではビミョ〜なピントの山を掴んでいる指の腹に極僅かにチカラを伝えただけで前後微動が適いますから、素晴らしいトルク感と操作性に仕上げてあります。

特にこのモデルのピントのピーク/山は「アッと言う間」なので、そのようなトルク感の微調整が意外と嬉しかったりします(笑) それは当初バラす前の実写チェック時に抱いた「甘いピント面」の印象の際「少々ゆっくりめにピントのピークを迎えていた」のとは明らかに変化しているので分かると思います (ちゃんと鋭いピント面を迎えます)(笑)

・・こういう細かな事柄がオーバーホールで仕上げた時の醍醐味や喜びでもありますね(笑)

それらの内容はソックリそのまま「所有者の所有欲を充たす内容へと繋がる」のが、まさにオールドレンズの有難味の一つです(泣)

↑筐体外装までピッカピカに磨き上げてあるので特に瑕疵内容がありませんが(笑)、ひいて指摘するなら「徹底的に光学系内の反射防止黒色塗料を除去しまくった」ので (その結果適切な光路長に達したので) いわゆる「迷光騒ぎ」に繋がる真っ黒な処置は敢えて光学系内に施していません。この点ご納得頂けない場合は以下の通りご請求額から減額下さいませ。

オーバーホール/修理ご依頼者様皆様に告知しているとおり、もしもお届けしたオールドレンズの仕上がり状況にご満足頂けない場合は、そのご納得頂けない要素に対して「ご納得頂ける分の金額をご請求金額より減額」下さいませ。
減額頂ける最大値/MAX額は「ご請求金額まで (つまり無償扱い)」とし、大変申し訳御座いませんが当方による弁償などは対応できません・・申し訳御座いません。

無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。

もちろん光学系の光路長調整もキッチリ行ったので (簡易検査具によるチェックなので0.1mm単位や10倍の精度ではありません)、以下実写のとおり大変鋭いピント面を確保できました。電子検査機械を使ったチェックを期待される方は、是非ともプロのカメラ店様や修理専門会社様が手掛けたオールドレンズを手に入れて下さい当方の技術スキルは低いのでご期待には応えられません

↑当レンズによる最短撮影距離90cm附近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。

各絞り値での「被写界深度の変化」をご確認頂く為に、ワザと故意にピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に電球部分に合わせています。決して「前ピン」で撮っているワケではありませんし、光学系光学硝子レンズの格納位置や向きを間違えたりしている結果の描写でもありません (そんな事は組み立て工程の中で当然ながら判明します/簡易検査具で確認もして います)。またフード未装着なので場合によってはフレア気味だったりします。

↑絞り環を回して設定絞り値「f2.8」で撮影しています。

↑さらに回してf値「f4」で撮影しました。

↑f値は「f5.6」に上がっています。

↑f値「f8」での撮影です。

↑f値「f11」になりました。

↑f値「f16」です。極僅かですが「回折現象」の影響が現れ始めています。

 回折現象
入射光は波動 (波長) なので光が直進する時に障害物 (ここでは絞り羽根) に遮られるとその背後に回り込む現象を指します。例えば、音が塀の向こう側に届くのも回折現象の影響です。
入射光が絞りユニットを通過する際、絞り羽根の背後 (裏面) に回り込んだ光が撮像素子まで届かなくなる為に解像度やコントラスト低下が発生し、眠い画質に堕ちてしまいます。この現象は、絞り径を小さくする(絞り値を大きくする)ほど顕著に表れる特性があります。

被写界深度
被写体にピントを合わせた部分の前後 (奥行き/手前方向) でギリギリ合焦しているように見える範囲 (ピントが鋭く感じる範囲) を指し、レンズの焦点距離と被写体との実距離、及び設定絞り値との関係で変化する。設定絞り値が小さい (少ない) ほど被写界深度は浅い (狭い) 範囲になり、大きくなるほど被写界深度は深く (広く) なる。

焦点移動
光学硝子レンズの設計や硝子材に於ける収差、特に球面収差の影響によりピント面の合焦位置から絞り値の変動 (絞り値の増大) に従い位置がズレていく事を指す。

↑最小絞り値「f22」での撮影です。今回のオーバーホール/修理ご依頼、誠にありがとう御座いました。

ご依頼頂いた3本の次の2本目に作業を移ります。どうぞよろしくお願い申し上げます。