◎ Kern-AARAU (ケルン・アーラウ) KERN-MACRO-SWITAR 50mm/f1.8 AR《中期型−I》(ALPA)

(以下掲載の写真はクリックすると拡大写真をご覧頂けます)
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※解説とオーバーホール工程で掲載の写真はヤフオク! 出品商品とは異なる場合があります。

今回オーバーホール/修理が終わってご案内するモデルは、スイスは
Kern-AARAU製標準レンズ・・・・、
KERN-MACRO-SWITAR 50mm/f1.8 AR《中期型−I》(ALPA)』です。


  ЯПОНІЯ З УКРАЇНОЮ!    Слава Україні!  Героям слава!  

上の文は「日本はウクライナと共に! ウクライナに栄光あれ! 英雄に栄光を!」の一文をウクライナ語で国旗色を配って表現した一文です。現地ウクライナでは民衆が「ウクライナに栄光あれ!」と自らの鼓舞を叫ぶとそれに応えて民衆が「英雄に栄光を!」と返すようです。

Slava UkrainieieGeroyam Slava

今回オーバーホール/修理が終わってご案内する個体は、当方がオーバーホール作業を始めた
12年前からの累計で当時のKern-AARAU製標準レンズ「SWITARシリーズ」の括りで捉えると、累計で7本目なのですが今回扱った個体「中期型」だけでカウントすると6本目です・・ちなみに「前期型」は1本だけのままですし「後期型」はまだ扱いがありません。

2017年と2018年に集中的に扱った後、その「超高難度なレベル」に懲りてしまい暫く扱いをやめて敬遠していました (オーバーホール/修理ご依頼が来てもご辞退していました)。その後の2021年に呼吸困難で倒れた後、退院してから突然1本だけオーバーホール/修理
ご依頼を賜りましたが、やはりあまりにも難しすぎると懲りてしまい(泣)、ず〜ッと敬遠していた次第です。

今回このモデルのオーバーホール/修理ご依頼を賜る前に、実は事前にご依頼者様より「これから手に入れるのだが購入後に是非オーバーホール/修理を依頼したい」とご相談頂きました。

このモデルは市場流通品も含めいろいろトラブルを抱えている事が多いのですが、ご依頼者様はそれをご存知でお店に足を運んで手に入れられるとの内容でした。そこで手に入れる個体を探す際に何を最優先すべきかとのご相談があったので「何はともあれ光学系の状態が最優先」とご返答しました。

その次に「できれば絞り羽根の開閉異常が起きていない個体が良い」と申しましたが、ハッキリ言ってこのモデルで「絞り羽根開閉異常」或いは「A/M切替スイッチとの連係不良」の2点について、手放しで問題無し (つまり全くの正常品) と判定を下せる個体に巡り会えた試しが
ありません (つまり今まで扱った個体全てが何某かトラブルを抱えていた)(泣)

光学系を最優先とアドバイスした理由がちゃんとあり、この後に写真掲載しますがこのモデルの光学系は「貼り合わせレンズがモールド一体成形」なので、万一バルサム切れなどが起きていた場合どうにも改善できません (つまり一旦剥がして再接着ができない)。

・・その上「超高難度モデル」の為、凡そまともに微調整できた事が過去ありません!(涙)

そのような当方自身の事情があり、合わせて2021年の扱い時にやはり懲りてしまっていた事も大きく影響しご依頼者様には「申し訳御座いませんがプロの整備会社にご依頼下さい」とお願いしました・・某有名処 (当方が国内で唯一信頼を置けると受け取っている整備会社様) をご案内した次第です。

結局光学系を最優先で個体を手に入れられ、その後すぐに某有名処に整備の依頼をご相談なさったようですが、何とその返答は「絞り羽根周りの問題が難しい」との事で断られてしまいました(汗)

その某有名何処の整備会社でさえ対処できないとなれば (ちゃんと電子検査機械設備がある
老舗の整備会社
)、おそらく国内でこのモデルの整備をまともに仕上げられるスキルを持つ整備会社は存在しないと申し上げるしかありません (但しあくまでも完全解体レベルでのオーバーホールの範疇での話)(泣)

まさか断られるとは思っていなかったので、ご依頼のメールが着信した時は「え゙?!(汗)」と冷や汗を通り越して背筋がイヤ〜な感覚に感じられたのを覚えています(笑)

何しろ今でも高額なオールドレンズなので、それを完全解体してオーバーホールなど「何回
トライしてみても全く100%自信が無い!
」と正直に申し上げてしまったくらいです(笑)

結局「死なば諸共だからいいです・・」と言われてしまい、断り切れずに受けてしまったのが今回のオーバーホール/修理ご依頼の経緯で御座います(笑)

・・ありがとう御座います!(涙)

  ●               

スイスのBallaigues (バレーグ) に1918年創業の時計部品メーカーPegnons S.A. (ピニオン) 社が1952年に発売した一眼レフ (フィルム) カメラ「ALPA ALNEA Model 4」から採用した、スピゴット式の マウント「ALPAマウント」用交換レンズとして、同じくスイスのシネレンズで有名なKern-AARAU社から1951年に発売された標準レンズ「Kern Aarau SWITAR 50mm/f1.8 AR (ALPA)」が初代のモデル「前期型−I」です (右写真はModel 6)。

【モデルバリエーション】
オレンジ色文字部分は最初に変更になった諸元を示しています。

前期型−I1951年発売
製造番号:1xxxxx〜5xxxxx
モデル銘:Kern Aarau SWITAR 50mm/f1.8 AR
光学系:5群7枚アポクロマート
絞り羽根枚数:9枚 (自動絞り)
最短撮影距離:55cm
フィルター:専用タイプ

前期型−II1951年発売 (不明)
製造番号:4xxxxx〜10xxxxx
モデル銘:KERN-SWITAR 50mm/f1.8 AR
光学系:5群7枚アポクロマート
絞り羽根枚数:9枚 (自動絞り)
最短撮影距離:55cm
フィルター:専用タイプ

中期型−I1958年発売
製造番号:6xxxxx〜11xxxxx
モデル銘:KERN-MACRO-SWITAR 50mm/f1.8 AR
光学系:5群7枚アポクロマート
絞り羽根枚数:9枚 (自動絞り)
最短撮影距離:28cm
フィルター:専用タイプ

中期型−I1958年発売 ※ブラックバージョン
製造番号:6xxxxx〜11xxxxx
モデル銘:KERN-MACRO-SWITAR 50mm/f1.8 AR
光学系:5群7枚アポクロマート
絞り羽根枚数:9枚 (自動絞り)
最短撮影距離:28cm
フィルター:専用タイプ

中期型−II1958年発売 (不明)
製造番号:6xxxxx〜11xxxxx (?)
モデル銘:KERN-MACRO-SWITAR 50mm/f1.8 AR
光学系:5群8枚アポクロマート
絞り羽根枚数:9枚 (自動絞り)
最短撮影距離:28cm
フィルター:専用タイプ

後期型1968年発売
製造番号:109xxxx〜11xxxxx
モデル銘:KERN-MACRO-SWITAR 50mm/f1.9 AR
光学系:5群8枚アポクロマート (再設計)
絞り羽根枚数:9枚 (自動絞り)
最短撮影距離:28cm
フィルター:専用タイプ

派生型1982年発売
製造番号:112xxxx〜
モデル銘:KERN MACRO-SWITAR 50mm/f1.9 AR
光学系:5群8枚アポクロマート
絞り羽根枚数:6枚 (自動絞り)
最短撮影距離:27cm
フィルター:専用タイプ

原 型1976年発売 (発売元:CHINON)
モデル銘:AUTO-ALPA 50mm/f1.7 FOR ALPA SWISS MULTI-COATED
光学系:5群6枚拡張ダブルガウス型
絞り羽根枚数:6枚 (自動絞り)
最短撮影距離:27cm
フィルター:⌀ 52mm

OEM
モデル銘:PORST COLOR-REFLEX MC 50mm/f1.7 MACRO
光学系:5群6枚拡張ダブルガウス型
絞り羽根枚数:6枚 (自動絞り)
最短撮影距離:27cm
フィルター:⌀ 52mm

こんな感じですが、「SWITAR銘」で展開したのは上のモデルバリエーションでいうところの「派生型」までの話で、開放f値「f1.7」モデルのほうは「SWITARシリーズ」とは一切関係がありません。

また当時のCHINONがALPA用に供給していますが、当方の認識/考察では当時のチノンには8mm用の光学硝子溶融解設備が整っていただけで、一眼レフ (フィルム) カメラ向けの本格的な光学硝子レンズ精製設備は、例えば当時既にヤシカに吸収されていた富岡光学と比べても 同一レベルに達するまで用意できていなかったとみています (チノンの沿革より)。

従ってこれらCHINONが供給したALPA向けモデルは、当時のコシナ製とみており、逆に言うなら内部構造や構成パーツ、或いは特に距離環駆動方式の設計をとっても富岡光学製モデルではない事が明白です (この当時富岡光学製モデルでマウント面に締付ネジを用意していたのはRICOHやCONTAX向け製品が多いハズ)。

↑上のカットモデル図面は、左側がモデルバリエーションで言うところの「前期型」で右側が「中期型」です。

また一番右端の一覧表は当時の「ALPA ALNEA Model 5」の取扱説明書に印刷されていた表で、中腹辺りに「SWITAR」として標準レンズの項目があり「最短撮影距離55cm」である事がちゃんと記載されています。また距離環に刻印されている最短撮影距離の指標値は「1/151/121/101/9」が倍率の意味で距離ではない事が分かります (距離指標値は∞〜1mまでが刻印されている)。特異な表示方式なのでちょっと面食らいます(笑)

光学系は5群7枚の変則的な拡張ダブルガウス型構成で、4群6枚の典型的なダブルガウス型構成のトップに第1群 (前玉) として1枚追加配置と言う設計です (前期型−II)。

右図は過去のオーバーホール時に完全解体して光学系清掃した時に
当方の手でデジタルノギスを使って逐一計測してトレースした構成
図です。

前述のカット図構成図と比較すると例えば第1群 (前玉) の両凸レンズの曲率が全く違うことが明白です。

さらに「中期型−I」の構成図も同様で、やはり第1群 (前玉) の表裏面での曲率が異なっていて裏面側がより平坦に近くなっています。

また後群側の貼り合わせレンズ第4群のカタチも違っていて、最短撮影距離が28cmに短縮化した「MACRO-SWITAR」銘モデルなので、必然的に光学系は再設計してきたとみられます。

こちらは「中期型−II」の構成図で、5群8枚に再設計されると同時に「絞りユニットの配置を変更」してきた事が明白です。

残念ながら現在のネット上ではこの「中期型−II」を発見できませんが、以前バラして確認している以上ウソではありません(笑)

最後に「後期型」の光学系構成図ですが、開放f値が「f1.9」に変わったことからまたまた再設計されている事が分かりました。

そもそも製産台数が少ないので非常に高価な (今でも高い) 製品である以上、十分に光学系を都度設計し直す余裕があったのでしょうが、はたして何にこだわってここまで頻繁に設計変更したのかが不明です。

特に右構成図を見た時に「中期型−IIからの絞りユニット位置まで変更してしまったモデルの
描写性は如何に?
」との疑念が心の中でわだかまりとなって残っており、何とも消化不良的で悩ましいオールドレンズです(泣)

  ●               

↑上の写真は今回扱った個体の写真ですが、バラしている途中で撮影しています。既に光学系の前群格納筒を取り外して「絞りユニットを露わにした状態で前玉側方向からの撮影」です。
黒く写っているのは絞りユニット内の「開閉環」です。

さらにこの時、右横に飛び出ている「シャッターボタン」に附随する「A/M切替スイッチ」のツマミは「手動」にセットしてあります。絞り環操作で開放f値「f1.8」にセットしてあるのでご覧のように完全開放しているのが分かります。

ちなみに光学系内/絞りユニット内に「シルバーな縁部分が存在しハレーションの懸念が高い状況」なのも分かります。

↑こちらの写真は一つ前の状態から「A/M切替スイッチを操作して開放f値f1.8のまま自動に切り替えた状態」で絞り羽根の状況を撮影しています。

するとご覧のように僅かですが絞り羽根が顔出ししているのが分かります (特に一つ前の写真と比較するとよく分かる)。完全開放のf1.8に絞り環をセットしたまま単純にA/M切替スイッチを自動設定に切り替えただけですから「シャッターボタン押し下げまで一つ前の写真と同じように完全開放しているのが正常だった場合の状況」なのは、他の一般的なシャッターボタンを有するオールドレンズと同一です。

当初のバラしている途中での撮影なので、まだ整備作業を一切始めていない時の写真ですから既に「A/M切替スイッチとの連係動作に不具合が発生している個体」である事をご案内している次第です。

↑今度はそのままの状態で立てて撮影したので鏡胴が見えています。冒頭解説のとおり「光学系前群格納筒を既に取り外している」ので絞り環の上からフィルター枠までが存在しません。

この時、前述のとおり「A/M切替スイッチは自動に切り替えた」のを (赤色矢印) 解説していますが、ここでのポイントは「グリーンの矢印で囲ったシャッターボタンそのものの飛び出し量」が問題なのです (次の写真で解説します)。

ちなみにブルーの矢印で絞り環の設定絞り値が開放f値「f1.8」である事を指し示していますがよ〜く観るとビミョ〜に基準「」マーカーのラインからズレているのが分かります。

↑こちらの写真は一つ前と同じ位置で撮影していますが「A/M切替スイッチを手動にセットしたところ」を撮影しています (赤色矢印)。このように「A/M切替スイッチ」のツマミには矢印が刻印されているので「 (上向き):自動」になり「 (右向き):手動」になります。

今回この2つの写真でチェックしたのは「A/Mの切替時にシャッターボタンの突出量がビミョ〜に変化している点」を問題視しています。何故なら、このシャッターボタンの飛び出し量が変化すると「それに連動して絞り羽根へのチカラの伝達が変わるから」であり、実は単純に絞りユニットや絞り環との関係性で「絞り羽根開閉異常」が起きるのではなく「A/M切替スイッチとシャッターボタンとの関係性でも不具合を招いている」のを言いたかったのです。

残念ながら、この点にちゃんと注目して整備できている過去メンテナンス時の整備者が今のところ一人も居ません (当方が今までに扱った個体6本全てに共通して明言できる事実)。

シャッターボタンを使う (つまりフィルムカメラに装着して使うと言う意味) かどうかが問題なのではなく「さらにシャッターボタンの機能が必要なのかどうかでもなく、シャッターボタンの飛び出し量そのモノをチェックする必要があるのに誰もそれをやらない!」のが問題なのです。この問題で絞り羽根の顔出しや適正な設定絞り値まで絞り羽根が閉じないなどの不具合を招いているのに・・それを改善しようとしません(笑)

↑冒頭のほうで説明した「開放f値f1.8が基準マーカーからズレている」点についてブルーの矢印で指し示しています。

実は開放f値「f1.8」に絞り環をセットしようと回すと「詰まった感触でクリック感も感じないまま停止してしまう」点が問題なのです。その一方で「f2〜f22まではちゃんとクリック感を感じる」のですが、その感触も少々ぎこちないと言うか「ガチガチした印象」です(泣)

↑最小絞り値「f22」に絞り環をセットすると/回すと、ご覧のように下部の「ボールが飛んできて弾む軌跡のようなイメージの如く開いている丸穴がオレンジ色に変わる」仕様です・・・なかなかオシャレな仕組みでこのギミック感だけでもウットリ観てしまいます(笑)・・ちゃんとf22でクリック感も感じられ、位置もキレイにピタリと合致しています。

↑ちなみに「A/M切替スイッチを自動にセット」すると、本来なら「シャコンと音が聞こえて完全開放状態まで絞り羽根が開く」のが正常ですが、ご覧のように「f8」くらいまで絞り羽根が顔出ししている状態にしかなりません (つまり自動時は完全開放してくれない)。

・・こういう不具合が市場流通品でも極度に多い現象の一つです。

↑こちらの写真も当初バラしている途中で撮影しています。シャッターボタンに附随する「A/M切替スイッチを自動にセット」している時に内部にある「制御キーがどのような向きになっているのか?」を解説しています (赤色矢印)。

なお、この「制御キーの向きを絞りユニットまで伝える役目が伝達アーム」です (赤色矢印)。

ここで問題なのは「制御キーと伝達アームが垂直状になっていない」点です。僅かに右方向に傾いているのが問題なのです。

ちなみにその「制御キーの真上に縦線状のマーキングが施されている」のは当方が今回の作業時にマーキングしたのではありません (そもそも上の写真はまだ作業スタートする前に撮っているし)(笑)

このマーキングにより過去メンテナンスが最低でも1回は実施されている事を確認できました。もっと言うなら製産時点にこのようなマーキングなど必要ないからです(笑)

分かり易く先に結論から言ってしまえば、この伝達アームが上の写真の下方向に向かって伸びている先には「絞りユニット」の位置決め環と言う環/リング/輪っかが在り、そこに連結しています。

するとその「位置決め環」の固定位置が上の写真で言う処の「右方向にズレてしまったから垂直を維持できなくなっている」のが根本的な原因です。

↑次にこちらの写真は、今度は前述同様シャッターボタンに附随する「A/M切替スイッチを手動にセット」すると、その時に内部にある「制御キーの向きはどのように変化するのか?」を解説しています (赤色矢印)。

制御キーと伝達アームが右方向に傾く」のをブルーの矢印で表しています。従ってこの2つの写真でお伝えしたい内容は「自動に設定されている時、そもそも絞り羽根が顔出しする向きにチカラが伝達されてしまっている」ことが問題なワケです。

伝達アームが「右方向に傾くと絞り羽根は閉じ始める仕組みの設計」だからです(泣) だから
こそ「シャッターボタンの飛び出し量を問題視していた」ワケです(泣)

・・もぉ〜ここで既に整備者でさえも問題意識を見失っている!(笑)

たいていの整備者がここまでの解説で「問題なのは/ワルイのはA/M切替スイッチのほう!」と決め込んでしまいますが、そもそも絞り羽根を閉じさせようとするチカラを生じさせている根本の原理が問題なのであって、そこを見誤るからちゃんと微調整して仕上げる事ができていません(笑)

・・つまりここでの最大の問題が「制御キーの傾き度合い」なのにそれに気づかない!(笑)

↑こちらの写真も当初バラしている最中に撮っていますが「絞り環の中に入っているボールの軌跡のような穴が空いている環」です。赤色矢印で指し示しているとおり既に相当な赤サビが出ていて、盛り上がっています。

おそらくどうやってもバラせないので仕方なく「潤滑油」を注入しまくっていたのだと思います・・って言うか、当方も今までに扱った個体6本でバラせていないので、潤滑油を注入しないものの同じ部類です(笑)

これが絞り環操作している時に操作性を悪くしていた因果関係です。おそらく過去メンテナンス時に何回も「潤滑油」を注入されてしまっていたのだと推測できます (潤滑油のせいでサビがどんどん酷くなってしまった)。ちなみにこの環/リング/輪っかは黄銅製なので、一部には「緑青」まで生じています(泣)

いろいろバラしながら整備作業に入る前段階での問題点などを解説してきましたが、最終的な結論として今回のこの個体は「絞り羽根開閉異常を引き起こしているのは経年劣化などではなく、過去メンテナンス時の整備者の所為に起因」と判定しました。

それは鏡筒内絞りユニットの「位置決め環ががっちり機械締めでネジ込まれているのをおそらく回したのではないか?」とみています。それは今回の整備で何回も絞り羽根の開閉スタート位置を少しずつズラして調べたのに、しかもそのズラしは「開く方向と閉じる方向の両方でトライしてみた」のに、いずれの方向でも「自動絞りの時に制御キーが垂直状にならない」のを確認したからです。

すると制御キーが必ず閉じる方向に僅かですが向いてしまっているので、絞りユニット内開閉環が被さる位置をどちらの方向にズラしても微調整が効かないと言うことは「元の位置決め環固定位置がそもそもズレているから!」としか判定しようがないのです。

逆に言うなら、今まで扱った個体6本全てに於いて「開閉環の被さる位置のズラしだけで絞り羽根開閉異常の微調整が適っていた」次第で、今までに扱った個体6本は「位置決め環の固定位置が過去メンテナンス時にズラされていなかったから」とも指摘できます。

ではどうして今まで扱った個体6本全てでちゃんと絞り羽根開閉異常を改善解決できなかったのかと問われれば、それはそれぞれの解説ページを観れば分かりますが「長大なスプリングの一部が経年で伸びていたり過去メンテナンス時に伸ばされたり短く切られたりして本来の状態を維持していなかったから」適正な状態に戻すことがそもそもできなかったのです。スプリングの長さが変化してしまったら、制御キーの傾きによる適切な絞り羽根開閉動作は決して伝達されません!(泣)

ところが今回の個体はその長大なスプリングがおそらくは製産時点を維持していた初めての個体であり・・という事は各部位を適切な状態に戻すだけで絞り羽根開閉異常が解消できる・・話に至ります。従って今回のオーバーホール作業はそれ「本来あるべき姿に各部位の微調整を戻す作業」をひたすらに執り行った次第です。

実際それらオーバーホール作業を当初の一日目に行いキッチリ最後まで仕上げましたが、各部位がまさに適切な状況に改善したものの「相変わらず自動にセットすると制御キーは垂直状態に戻らない」ワケで、すると自動にセットした時に制御キーが引っぱられて僅かに傾いてしまう「チカラが逆に位置決め環側から加わっているから傾いてしまう」と考える以外に因果関係を理解できません!(涙)

・・それ故、この個体の位置決め環は僅かにズレていると判定した次第です。

従って「絞り環の操作性が改善しキッチリf1.8に到達する」シャッターボタンの飛び出し量が正しくなる、或いはヘリコイド駆動の位置が適正に戻ったので「オーバーインフ量が減り僅かなオーバーインフ状態に戻った」と、凡そ各部位で問題視していた点が全てクリアしたのに「相変わらず自動設定時の絞り羽根の開閉異常は改善できなかった」次第です・・残念です!

なお、当初より絞り羽根が閉じすぎていた問題も極僅かに改善しましたが、この点については手動時も自動時も変わらず改善が微々たるレベル止まりです・・申し訳御座いません!(涙)
(後で解説しますが最小絞り値まで閉じた時の絞り羽根外周に現れる「隙間」が当初より適正な面積までちゃんと減ったのに絞り羽根が閉じすぎてしまうのは前述の制御キーが引っぱられてしまう話です)

↑完全解体した時の内部構成パーツ全景写真です。オーバーホール工程やこのモデルの当時の背景など詳しい解説はKERN-MACRO-SWITAR 50mm/f1.8 AR《中期型−I》(ALPA)』のページをご参照下さいませ。

ここまで掲載したオーバーホール工程の写真は「全て過去扱い品/個体からの転載」です。オーバーホール済でヤフオク! 出品する際の個体写真とは一部に一致しない場合があります。

DOHヘッダー

ここからはオーバーホール/修理が完了したオールドレンズの写真になりますが、再び解説の為に途中経過の写真を載せていきます。

↑光学系の第2群格納筒 (左端) に第3群格納筒 (中央) と第4群格納筒 (右端) を並べています。この中で「第2群と第4群にそれぞれ前玉と後玉がさらに格納される」ので全部で5群7枚の拡張ダブルガウス型光学系構成と言う話になります。

ここでは当方がオーバーホールのために完全解体して写真掲載すると「何でもかんでもピッカピカに磨いてしまう」と批判される点を解説しています(笑)

第2群格納筒 (左端) と第3群格納筒 (中央) は黄銅製ですが、当方が「磨き研磨」を施したので確かにご覧のようにピッカピカです(笑) その一方で右端の第4群格納筒も「磨き研磨」が終わっているのにちょっと輝きが違います。

この第4群格納筒 (右端) も同じ黄銅製なのですが、実はちゃんと製産時点で黒色艶ありにメッキ加工されています (光学ガラスレンズのコバ部分だけ艶消し)。どうしてメッキ加工されていると明言できるのかと言えば「溶剤で一切溶けないから」と指摘できます (硝子レンズコバ端まで溶剤で溶けない)・・要は設計時点でちゃんと配慮されていることが明白です。

逆に言えば設計時点で、或いは製産時点の製産ライン上では「まるで上の写真状態」だったのが復元できたと言うお話です (製産時点もピッカピカだった)(笑) もちろん当初バラした直後はグリーンの矢印ブルーの矢印の部分は黄銅材ながら経年の酸化/腐食/錆びで「ほぼ黒に近い焦茶色」だったワケです(泣)

するとここでのポイントはグリーンの矢印で指し示している階段状のカタチとブルーの矢印の斜め状、その一方で前述した第4群格納筒のメッキ部分です (オレンジ色矢印)。

↑光学系の清掃も同時進行なので清掃が終わり次第このように重ねています/ネジ込んでいます。第2群格納筒の上に第3群格納筒がネジ込まれて合体したところです。合わせて左端に「絞りユニット内の開閉環」を並べて撮影しました。

実は過去メンテナンス時に黄銅材内部が「反射防止黒色塗料」で着色されており、且つ第3群の蓋部分にまで塗られていた為に「その肉厚分:凡そ0.02mmくらいか?」だけ光路長がズレてしまい、その分が影響してピント面の鋭さが違っていたと推察できます (現状オーバーホール作業が終わって仕上がった実写すると明らかにピント面が当初より鋭く変わっているから)。

そうなのです。どうして第2群格納筒や第3群格納筒のカタチが違うのか? 合わせてどうして「ピッカピカに磨き研磨しているのか?」を解説しているのです。

↑絞りユニット内にセットされるべき「開閉環」がスッポリと光学系第2群格納筒第3群格納筒に被さったところを撮影しました。

絞りユニット内の開閉環」はこのように被さってしまうので「むしろ光学系第2群格納筒と第3群格納筒との接触面に経年劣化による酸化/腐食/錆びが介在すると、開閉環と干渉してしまい絞り羽根開閉動作に大きく影響を来す」からピッカピカに磨きまくっているワケです(笑)

もっと言えば、その結果長大なスプリングは経年劣化が進行し (何故なら経年の酸化/腐食/錆びの分だけ抵抗/負荷/摩擦が増大するので力が必要なったまま何十年間も駆動し続けるから) 弱っていく原理がご理解頂けると思います。

・・要は過去メンテナンス時に黄銅材格納筒をピッカピカに磨いていてくれれば良かった。

巷では内部パーツをピッカピカに磨いても外から見えないのにバカな整備者と誹謗中傷の嵐のようですが(笑)、実はこのようにちゃんと理由があって処置しているのです(笑)

もっと言うなら、そもそもこのモデルでは冒頭解説のとおり「絞り羽根の開閉異常がとても多い」からこそ、徹底的に絞り羽根開閉を阻害する要因を取り除こうと努力しているところを撮影しているのです(笑)・・バカだ何だと貶すのは自由ですが、その根拠や理由を知らずして (考えもせずに) 言いたい放題なのも如何なものなのでしょうかね(笑)

ちなみに上の写真のとおり、結局ピッカピカだ何だと大騒ぎしていてもご覧のように光学系内は後群側 (第4群格納筒のこと) まで含め「迷光の要素になり得る要因がそもそも設計時点で存在していない」のがこの写真を観ただけでも分かると思います。

むしろ下手すれば「メタリックな輝きの絞り羽根のほうこそ迷光の因果関係としてその一因になっている」とも言いたくなりますョね?(笑)

迷光
光学系内で必要外の反射により適正な入射光に対して悪影響を及ぼす乱れた反射光

・・このように思い込みだけで当方を貶しまくっているのが現実の話です(笑)

↑こちらの写真もオーバーホールの途中で撮影しています (既に磨き研磨が終わっています)。鏡筒内の絞りユニットからとても長いスプリングが飛び出ています (赤色矢印)。また下部のヘリコイド (オス側) の切り欠き部分からは「伝達アーム」が飛び出ています (赤色矢印)。

↑こちらの写真は前玉側方向から絞りユニット内部を撮っていますが「写っているのは位置決め環」です。

するとその位置決め環の周りをグルッとやはりスプリングが左右に分かれて回っています (赤色矢印)。その途中グリーンの矢印の箇所で位置決め環の周囲を巻いていたスプリングが結合しています。

↑今度は後玉側方向から撮影しています。同じく位置決め環の周囲をグルッと巻いている長いスプリングが一つ前の写真とは反対の位置で「伝達アームと連結している」のをグリーンの矢印で指し示しています。さらにその連結箇所から「伝達アームが飛び出ている」のをブルーの矢印で示しています。

このように位置決め環の周囲をグルッと全周に渡りスプリングで巻いて、且つそれらを1箇所で結合させ「伝達アーム1本の傾きだけで絞りユニット内の位置決め環と開閉環の両方が回転する方向を指示する仕組み」として設計しているのがこのモデルの「高難度の要素」なのです。

絞り羽根には表裏に「キー」と言う金属製突起棒が打ち込まれており (オールドレンズの中にはキーではなく穴が空いている場合や羽根の場合もある) その「キー」に役目が備わっています (必ず2種類の役目がある)。製産時点でこの「キー」は垂直状態で打ち込まれています。

位置決めキー
位置決め環」に刺さり絞り羽根の格納位置 (軸として機能する位置) を決めている役目のキー

開閉キー
開閉環」に刺さり絞り環操作に連動して絞り羽根の角度を変化させる役目のキー

位置決め環
絞り羽根の格納位置を確定させる「位置決めキー」が刺さる環 (リング/輪っか)

開閉環
絞り羽根の開閉角度を制御するために絞り環操作と連動して同時に回転する環

普通、一般的なオールドレンズの絞りユニットは「位置決め環側が固定」なので、開閉環が回ることで位置決め環に刺さっている絞り羽根のキーを軸として絞り羽根が閉じたり開いたりする原理です。

ところがこのモデルは「位置決め環も開閉環も両方とも回ってしまう」ので、それぞれがどれだけ回転すれば「適切な絞り羽根の閉じ具合に制御できるのか?」がとても難しい原理なのです。

しかも「自動と手動の違いで互いに位置決め環と開閉環が反対方向に回る動きまで伝達アームに指示している」が故に、このような位置決め環の周囲をグルッと巻くスプリングによる制御駆動方式を採っているワケです (自動の設定でシャッターボタンが押される前の時だけ位置決め環と開閉環は同じ方向に回転する必要がある)・・実はここがこのモデルを整備する上での最大のポイントで、位置決め環と開閉環の重なり方、ひいては回転方向の相違、或いは移動量について「こうならなければイケナイ!」と明確に自分自身で指摘できるレベルに到達できているのかが、これらの話でハッキリしてくるのです (SWITARをバラせるか否かの分かれ目だったりする)。

逆に言うなら、単に開閉環を回したいだけなら「開閉環にスプリングを1本だけ備え付けてそれを引っぱれば絞り羽根が閉じる」動きをするのは、誰が考えても簡単に思い付く話です(笑)

ところがそう設計しなかったのがこのモデルの「合理的な絞り羽根の制御方法」であり、他の自動絞り方式を採っていた当時の世界中のオールドレンズが「相応に複雑な連携で構成パーツ点数を増やしていた」のに対し、このモデルは至極シンプルで簡素な構成パーツだけで仕上がっている次第です

これがこのモデルの真髄であり、構造上の最大の難関部分・・原理・・である事を理解しないままに整備しても、適切には仕上げられないのです(笑)

ハッキリ言って、このモデルを考案した設計者は相当IQが高い賢い人だったことが、ここまでの解説で充分伺えると思います。長大なスプリング数本と、シャッターボタンに附随する「制御キーの向き/傾き量」だけで絞りユニット内の位置決め環と開閉環の制御、しかも同時に「手動/自動での回転方向の
違い」
まで含め、一括制御する手法を開発してしまったと言うまさに前代未聞な設計だったワケです(驚)

・・こういう事柄を考えるだけでもオールドレンズに対するロマンは募るばかりです!(涙)

↑こちらもオーバーホール工程の途中を撮っていますが、冒頭解説のとおり「シャッターボタンの飛び出し量が自動/手動の切り替えで僅かに異なる」点が問題なので、完全解体して直しているところです(笑)

↑各構成パーツも「磨き研磨」が終わり適切に組み込んでシャッターボタン機構部を仕上げました。すると内側に「制御キー」と言う前述の絞り羽根の開閉制御を司るキーが飛び出ますがそれに附随してグリーンの矢印で指し示した箇所に「捻りバネ」が1本組み込まれています。

この状態で特に問題なく「正常な組み込みで捻りバネがセットされている」ワケですが、実はシャッターボタンの飛び出し量が自動/手動で変化してしまう最大の因果関係が「経年劣化による捻りバネの弱り」なのが突き止められたので、ここで改善処置を講じている次第です(笑)

↑さらに実は合わせてこの黒色の環状部分には「黄銅製の空転ヘリコイドがセットされる」場所でもあるのですが、そこに捻りバネが顔出ししている始末です(泣)

従ってシャッターボタンをちゃんと自動/手動の別なくキッチリ復帰させる (持ち上げる) チカラを与えるために「捻りバネの飛び出しを引っ込めた」次第です。

・・これによりシャッターボタンの感触がまるで新品状態の如く気持ち良い操作性に改善!

要は各部位別に考え得る適切な状態/製産時点に仕上がっていたであろう状態に戻そうと努めているところです(泣)

↑上の写真の環/リング/輪っかは左側の「締付環❶」が絞り環の内部で「絞り環に関わる機構部全てを締め付ける環/リング/輪っか」になり、一方右側の「締付環❷」が空転ヘリコイドを封入する役目の締付環です。

ところがこの2つの環/リング/輪っかは「僅か2〜3mmの肉厚」しかなく、しかもアルミ合金製なのが問題なのです。そもそも肉厚が薄いので現状手に入る「カニ目レンチ (工具)」では一切作業が適わず、今回のオーバーホール/修理に際し「専用の治具を仕方なく作成」した次第です。

逆に言うなら、これらの環/リング/輪っかを取り外して、絞り環や空転ヘリコイドまで完全解体できたのは・・今回が初めて!・・なのです(泣)

とにかくアルミ合金材なので、下手にチカラを入れすぎて回したりすると簡単にネジ山が潰れてしまい「使いモノにならなくなる」からとんでもなく怖い存在なのです(怖)

正直、絞り環の組み込みについては左側の締付環を「数十回」何度も何度もネジ込みに挑戦して、ようやく組み込み完了した次第です・・それほど神経質に作業をしないとアッと言う間にネジ山を潰してしまうから!(怖)

ワザワザ専用の治具を製作して外せたのだから、締め付け固定して封入する時も簡単にネジ山が咬み合うハズ・・と考えるのが普通なのですが(笑)、実はこのように薄い肉厚の (しかもアルミ合金材) の締付環の場合、ネジ山が咬み合うように横方向から眺めつつ感触を確かめつつ作業できるなら簡単な話です。

ところが今回のモデルの場合「絞り環機構部は複数のパーツで筒状に設計されている」為に、締め付ける際には単に専用治具でネジ山に咬み合う感触が伝わるのを確認するしかありません・・横方向から見えないので締付環が水平を維持せずなかなかネジ山が咬み合わないので何十回もやり直していた次第です (それほどネジ山が咬んだ確信を以て初めて締め付けをスタートすると言う超神経質なネジ込み/締め付け作業)(泣)

従って絞り環の組み上げだけで4時間を要しており(笑)、全く以て「どんだけ技術スキルが低いのか?!」まさにそれを物語る話と言えますョね?(恥)・・本当に恥ずかしいです (4時間も同じ作業を延々とひたすらに続けているバカなヤツです)(汗)

↑結局、今まで扱った6本については凡そ数日間を費やして仕上げていた次第ですが、今回の個体は2日掛かりで何とか仕上げられました。

しかし何回オーバーホールしてもこのモデルは「やはり二度と触りたくない」モデルです!(涙)

とにかく絞り羽根の開閉制御がハンパなく難しく、それを長大なスプリングだけでヤルなど、マジッで脅威の世界です!(涙)

結論から言えば、大変申し訳御座いませんが今回の個体も「完璧に改善できていない」状況です・・申し訳御座いません!(涙)

なお上の写真のとおりフィルター枠に入っている「チャック機構」を実現している「棒ばね」も真っ赤に錆びていたので、キレイに磨き入れして仕上げており、現状附属のフィルターや前キャップの着脱がすんなりと自然な印象でスムーズに操作できています。

・・どうでもいいことですが(笑)

当方などは神経質なタチなので(笑)、そういう部分にも拘ってしまい、このように細かく仕上がっているだけで「所有欲がより充たされる」とキャッキャ、キャッキャ喜んでしまう性格です (恥ずかしい)(笑)

↑手に入れられる際に光学系の状態を最優先して頂いた分、光学系内の透明度が非常に高い状態を維持した個体です。LED光照射でもコーティング層経年劣化に伴う極薄いクモリが皆無です。

冒頭解説のとおり、何しろ貼り合わせレンズがモールド一体成形なので、もしもバルサム切れなど起きていたらどうにもなりません!(怖)

ちなみに冒頭で指摘したように光学系内のシルバーな要素がちゃんと消えており「迷光の心配に及ばない」仕上がりに至っています(笑)

上の写真を観れば分かりますが、光学系内に着色されていた「反射防止黒色塗料」を完全除去したので、本来の製産時点のメッキ塗色に環/リング/輪っかが光り輝いているのが分かります
・・僅かに茶褐色の色合いの黒色メッキ塗色でしょうか。当方などはこのように見えただけで「おぉ〜垢抜けして本来の姿に戻ったじゃないかぁ〜」とニマニマ状態です(笑)

貼り合わせレンズ
2枚〜複数枚の光学硝子レンズを接着剤 (バルサム剤) を使って貼り合わせて一つにしたレンズ群を指す

バルサム切れ
貼り合わせレンズの接着剤/バルサムが経年劣化で剥離し始めて白濁化し薄いクモリ、或いは反射が生じている状態

ニュートンリング/ニュートン環
貼り合わせレンズの接着剤/バルサム剤が完全剥離して浮いてしまい虹色に同心円が視認できる状態

フリンジ
光学系の格納が適切でない場合に光軸ズレを招き同じ位置で放射状ではない色ズレ (ブルーパープルなど) が現れてエッジに纏わり付く

コーティングハガレ
蒸着コーティング層が剥がれた場合光に翳して見る角度によりキズ状に見えるが光学系内を透過して確かめると物理的な光学硝子面のキズではない為に視認できない

ハレーション
光源からの強い入射光が光学系内に直接透過し画の一部分がボヤけて透けているような結像に至る事を指す

フレア
光源からの強い入射光が光学系内で反射し乱反射に至り画の一部や画全体のコントラストが 全体的に低下し「霧の中での撮影」のように一枚ベールがかったような写り方を指す

↑光学系後群側もスカッとクリアで薄いクモリが皆無です!(驚)

↑問題の絞り羽根開閉動作です。当初バラす前のチェック時点で「絞り羽根が閉じすぎている」状況を簡易検査具で確認していますが、最終的に「極僅かしか改善できなかった」次第です(泣)

絞りユニット内の「位置決め環」と「開閉環」の位置決め・・重なり合う位置・・を何回も少しずつ変更しながら最後まで組み上げていちいち絞り環操作で絞り値との整合性を簡易検査具を使いつつ調べ上げました。

結論から言えば、残念ながらそれら位置合わせの組み合わせを全てチェックしても一切改善できませんでした。今まで扱った個体6本ではそれら位置合わせの微調整により相当なレベルで改善が見込めたものの (但し100%改善できた個体は今までに無し)、今回の個体ほど改善度合いが低かったこともありません(涙)

何しろ考え得る全ての組み合わせで位置決め環と開閉環の重ね合わせ位置を変更して都度組み上げて調べたのに、全ての組み合わせで改善度合いが大きく変わらなかったので「???」となりましたが、その因果関係はたった一つしかありません!(涙)

それは過去メンテナンス時に「絞りユニットをムリヤリ回して外そうと試みた」のだと思います。このモデルの絞りユニットは位置決め環が回転する鋼球ボールが入っている筒状なのですが、その絞りユニット (位置決め環) はガッチリと鏡筒のアルミ合金材にネジ込まれています。

これは製産時点に機械締めでネジ込まれているので、残念ながら当方の手のチカラではどうにもなりません(涙)

従って、当初の閉じ具合からほんの僅かだけ開口部の大きさ/カタチ/入射光量を改善させた程度でほとんど同じレベルのままです。

そもそも位置決め環周りの長大なスプリングの長さが均一なので (過去メンテナンス時に短く切って引張力を強くしたりしていない)、スプリングが適正とすると考えられるのは位置決め環のネジ込み位置が変化したとしか考えられません。

こればかりは反対側に回せずどうにもできません・・(涙)

↑上の写真は当初バラしている途中での撮影ですが、ご覧のように絞り羽根が閉じすぎているので外周部の隙間が増えてしまい本格的に入射光を透過させてしまう状況です。赤色矢印で指し示している箇所の各絞り羽根との間で生じる「三角形様の隙間」の面積が今まで扱った個体6本の中で最も気持ち分広がっているように見えます。

一つ前の写真と比較すれば分かりますが、外周部の隙間を僅かですが低減させて「ほぼ適切な状態まで戻した」のが今回の整備では精一杯と言う意味なのです (一つ前の写真が整備後の状況)。

↑距離環の駆動も最大限トルクを軽めに仕上げましたが、それでも当方の感覚からすれば「普通」人により「重め」程度のトルクです。また極僅かにヘリコイドネジ山の何処かにトルクムラの因果が残っているようで、一部にトルクムラが起きます。

但しそれも当初バラす前の時点から比較するとだいぶ改善できていますし軽めに仕上げているものの「当方の感覚ではちょっと重め」と微妙な印象です(泣) ちなみに当初のオーバーインフ量からは極僅かにオーバーインフ量を減らせています。

↑絞り環の操作性は冒頭解説の「内部の赤サビを完全除去」したので軽い操作性に仕上がっています。また当初詰まった印象でクリック感がなかった「開放f値f1.8」もちゃんとクリック感を感じるように改善でき、ピタリと「f1.8」に到達するよう仕上げました。

A/M切り替えスイッチと絞り羽根の開閉動作については、残念ながら「手動時のみに限定して絞り羽根開閉動作」します。逆に自動設定時は必ず絞り羽根が閉じていくので、どの絞り値に設定していても完全開放しません (当初の状態と同じか少し悪化しています)。

これは認知した上でそのように仕上げました・・申し訳御座いません。

あくまでも「手動時の絞り羽根開閉動作を確実に行う」ことを優先し、自動設定時を犠牲にしています。この辺の微調整はシャッターボタンの感触 (捻りバネの改善) も含め影響していますが、全ては手動時の絞り羽根開閉動作を確実にするが為です。

要は各部位の微調整を考え得る適正な状況にセットする事で、最も長大なスプリングに影響を及ぼさないよう仕上げたにもかかわらず「相変わらず位置決め環の位置がズレている」から絞り羽根が自動設定時に閉じていくのを確認できたとも言い替えられます。

なお、このように「悪化しています」と告知すると、また誹謗中傷メールが着信します(笑) 散々過去メンテナンス時の整備者を貶しまくるのに、イザッ自分がミスったり改善できていなかったりすると全く触れようとしない・・と他のサイトなどで貶されます(笑)

・・違います(笑) 今回のオーバーホールに関しては全く反対の意味合いです。

当初よりも自動設定時の絞り羽根顔出し量が増大してしまったのは、確かに当初バラす前のチェック時点からすれば「悪化した話なのは間違いない」ワケですが、その一方でそこにはちゃんとした根拠が残っており、だからこそ「認知して仕上げた」と明確に述べています。

つまりこう言う事です。各部位を可能な限り適正な状態まで微調整を進めたので、例えば前述の光学系での黄銅製硝子レンズ格納筒をピッカピカに磨き上げたが故に、経年の酸化/腐食/錆びによる抵抗/負荷/摩擦が低減され「被さった開閉環含め長大なスプリングに伝わったチカラが素直に伝達されるように変化した」からこそ「制御キーの僅かな傾きがそのまま伝達されるから自動設定時に絞り羽根が閉じる量が増大した」次第です (当初バラす前の今までは経年劣化による酸化/腐食/錆びによる抵抗/負荷/摩擦で長大なスプリングに正しいチカラが伝達されていなかったから絞り羽根の顔出し量がむしろ少なかった)。

するとそこには「長大なスプリング達の今後の経年劣化進行を可能な限り食い止められた」と言う「個体の延命処置が適った」証とも言えるワケです。

従って単に自動設定時の絞り羽根顔出し量が増えてしまった点だけに固執するなら「間違いなく改悪」ですが、当方はそのように認知しておらず、被さっている開閉環の平滑性も取り戻せ且つ長大なスプリングへの負荷も低減し、シャッターボタン機構部の反応も自動/手動で同一に戻り「残るは制御キーが自動設定時に垂直状にならない」問題だけと分かったので、オーバーホール作業が全て完了しそれらを認知した次第です。

・・要は診ている視点の角度が全く別次元の話です!(笑)

貶したければ貶せばいいですが(笑)、ヤッている内容は歴然としており、少なくとも今回の
オーバーホール/修理ご依頼者様お一人様だけは「ここに列記した事柄を逐一明確に確かめられる」ワケで、決してウソでも誇張でもなく明確な事実でしかありません(笑)

・・貶すならもう少し次元を高めてモノを言うべきですねぇ〜 (あまりにも低俗すぎる)(笑)

↑距離環が無限遠位置に来ている時、ご覧のように後玉からマウントアダプタ内部に至るまで「ハレーションを増大させる要因は少ない」ですが、鏡筒を繰り出し始めると状況が一変します。

↑鏡筒を繰り出して最短撮影距離位置方向まで繰り出した時の後玉からマウントアダプタ方向の内部を撮影しました。

ご覧のようにこのモデルは黄銅材のヘリコイドネジ山が露出状態になるので「シ〜ンによってはハレーションの度合いが増す」ため、特に最短撮影距離側方向でハレ切りが必要になってきます。これは今回の個体に限らず全ての「SWITARシリーズ」で同じ話です(笑)

《当初バラす前のチェック時に気になっていた内容》
A/M切替スイッチで自動時に絞り羽根が顔出しする/完全開放しない。
絞り羽根が閉じすぎている (特にf8以降閉じすぎ)。
 絞り環がf1.8で詰まって停止しクリック感を感じない/擦れ感も多い。
シャッターボタンの飛び出し量がA/M切替スイッチで同じにならない。
 極僅かにピント面が甘い印象。
 距離環を回すとトルクムラを感じる。
 オーバーインフが僅かに多めの印象。

《バラした後に新たに確認できた内容》
絞り環機構部内部に潤滑油注入により赤サビ発生。
制御キーの戻りが緩慢 (捻りバネが弱っている)。
 絞りユニット内位置決め環と開閉環の位置がズレている。

上記問題点についての改善内容を以下に列記します。

《当初バラす前のチェック時に気になっていた内容→改善点》
位置決め環のネジ込み位置が変わっている為改善できず → 手動のみ優先して微調整
同様位置決め環のネジ込み位置が違う為、改善できず。
 赤サビを完全除去し軽い操作性に改善 → クリック感感じつつf1.8まで到達して停止。
捻りバネの飛び出しを収めて経年劣化を相殺 → シャッターボタン飛び出し量改善。
 光学系内の反射防止黒色塗料を除去して光路長を適正化し鋭く改善。
 極僅かにトルクムラを感じるものの当初より大幅に改善。
 オーバーインフを僅かに改善しほぼ適正値に戻した。

《バラした後に新たに確認できた内容》
絞り環機構部内部に潤滑油注入により赤サビ発生 → 完全除去済。
制御キーの戻りが緩慢 (捻りバネが弱っている) → 改善済。
 絞りユニット内位置決め環と開閉環の位置がズレている → 改善不可能

オーバーホール/修理ご依頼者様皆様に告知しているとおり、もしもお届けしたオールドレンズの仕上がり状況にご満足頂けない場合は、そのご納得頂けない要素に対して「ご納得頂ける分の金額をご請求金額より減額」下さいませ。
減額頂ける最大値/MAX額は「ご請求金額まで (つまり無償扱い)」とし、大変申し訳御座いませんが当方による弁償などは対応できません・・申し訳御座いません。

無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。

もちろん光学系の光路長調整もキッチリ行ったので (簡易検査具によるチェックなので0.1mm単位や10倍の精度ではありません)、以下実写のとおり大変鋭いピント面を確保できました。電子検査機械を使ったチェックを期待される方は、是非ともプロのカメラ店様や修理専門会社様が手掛けたオールドレンズを手に入れて下さい当方の技術スキルは低いのでご期待には応えられません

↑当レンズによる1m附近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。

各絞り値での「被写界深度の変化」をご確認頂く為に、ワザと故意にピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に電球部分に合わせています。決して「前ピン」で撮っているワケではありませんし、光学系光学硝子レンズの格納位置や向きを間違えたりしている結果の描写でもありません (そんな事は組み立て工程の中で当然ながら判明します/簡易検査具で確認もして います)。またフード未装着なので場合によってはフレア気味だったりします。

↑絞り環を回して設定絞り値「f2」で撮影しています。

↑さらに回してf値「f2.8」で撮っています。

↑f値は「f4」に上がっています。

↑f値「f5.6」での撮影です。

↑f値「f8」です。

↑f値「f11」になりました。

↑f値「f16」です。そろそろ絞り羽根が閉じきっているので「回折現象」の影響が現れています。

 回折現象
入射光は波動 (波長) なので光が直進する時に障害物 (ここでは絞り羽根) に遮られるとその背後に回り込む現象を指します。例えば、音が塀の向こう側に届くのも回折現象の影響です。
入射光が絞りユニットを通過する際、絞り羽根の背後 (裏面) に回り込んだ光が撮像素子まで届かなくなる為に解像度やコントラスト低下が発生し、眠い画質に堕ちてしまいます。この現象は、絞り径を小さくする(絞り値を大きくする)ほど顕著に表れる特性があります。

被写界深度
被写体にピントを合わせた部分の前後 (奥行き/手前方向) でギリギリ合焦しているように見える範囲 (ピントが鋭く感じる範囲) を指し、レンズの焦点距離と被写体との実距離、及び設定絞り値との関係で変化する。設定絞り値が小さい (少ない) ほど被写界深度は浅い (狭い) 範囲になり、大きくなるほど被写界深度は深く (広く) なる。

焦点移動
光学硝子レンズの設計や硝子材に於ける収差、特に球面収差の影響によりピント面の合焦位置から絞り値の変動 (絞り値の増大) に従い位置がズレていく事を指す。

↑最小絞り値「f22」での撮影です。今回のオーバーホール/修理ご依頼、誠にありがとう御座いました。引き続き次のオールドレンズの作業に移ります。