◎ MINOLTA (ミノルタ) MD ROKKOR 45mm/f2(MD)

(掲載の写真はクリックすると拡大写真をご覧頂けます)


minolta-logo(old2)しばらくオーバーホール/修理のご依頼分オールドレンズを整備し続けていましたが、今回はヤフオク! への出品用レンズをオーバーホール済にて出品致します。

今回のモデルはMINOLTAが1978年にいきなり発売した「MD」シリーズの中の準標準レンズ域にあたる「MD ROKKOR 45mm/f2」です。筐体はその全高30.5mmながらも、俗に呼ばれている「パンケーキ」レンズに分類されるモデルとしていまだに人気が絶えません。

今回バラしてみると「前期型」にあたる個体であることが判明しました。ネット上には国内は元より英語圏のページを検索しても、このモデルに「前期型」と「後期型」が存在することを解説しているページはヒットしません。それもそのはずで、外観からはなかなか判断しにくい内部構成パーツの相違なので、少々判断は難しいかも知れません。

「パンケーキ」レンズでは多くは3群4枚のテッサー型構成のモデルが多いのですが、KONICAの「HEXANON AR 40mm/f1.8」同様、5群6枚の変形ダブルガウス型構成を採っており、拘りのある光学系設計であることが伺えます。

描写性としては、非常にカリカリのピント面を構成するのでピント面のエッジがワリと骨太であることさえも気になりません。さらにアウトフォーカス部がすぐに滲み始めるために鋭いピント面がより強調され、メリハリのあるコントラストと発色性の良さが相まり、とても端正でスッキリした印象の画作りをしています。他のMDタイプ同様どちらかと言うと誇張過ぎたコントラストの嫌いがありますが、ギリギリのところで「アクロマチックコーティング (AC)」を効かせた効果が出ているのでしょうか・・。

画の隅々まで緻密で情報量の多さを如実に感じ、さらに被写体の素材感や材質感までも写し込む質感表現能力に優れ、その独特なボケ味からより明確になった空気感や距離感までも感じさせる立体的な画は、なかなかこの大きさの筐体から吐き出された画とは思いもよらない描写性です。歴代の「ROKKOR」レンズからすると「人間の目で見た自然さ」を大切にしていた画造りとは真逆の、如何にも当時の流れに沿った画造りとして用意されたモデルのように感じます・・。

絞り環と距離環、或いは光学系前後群を格納する鏡筒まで含めて、相応に構成パーツの中には「樹脂製 (プラスティック製)」パーツが配置されており、外観からも「チープ感」が否めませんが、それだけに終わるオールドレンズではない、とても素晴らしい個性と魅力を持ったMINOLTAのレンズだと言う印象です・・むしろ、このモデルがMONILTAから発売されたコト自体がひとつのオドロキでもあります。

ちなみに、光学系前後群はすべて硬質樹脂製 (硬質プラスティック製) の格納筒に一体成形されているので、光学系の状態が良い個体を入手するのはなかなか難しいのが現実です (光学系内の清掃ができません)。今回の個体の透明度は非常に高いので、お探しだった方には、距離環と絞り環の回転のトルク感 (とても滑らか〜) と相まって・・お勧めですよ。


オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。

すべて解体したパーツの全景写真です。

MD452(0206)11ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。

構成パーツの中で「駆動系」や「連動系」のパーツ、或いはそれらのパーツが直接接する部分は、すでに当方にて「磨き研磨」を施しています (上の写真の一部構成パーツが光り輝いているのは「磨き研磨」を施したからです)。「磨き研磨」を施すことにより必用無い「グリースの塗布」を排除でき、同時に将来的な揮発油分による各処への「油染み」を防ぐことにもなります。また各部の連係は最低限の負荷で確実に駆動させることが実現でき、今後も含めて経年使用に於ける「摩耗」の進行も抑制できますね・・。

MD452(0206)12絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒 (ヘリコイド:オス側) です。写真では判りにくいですが「硬質樹脂製 (硬質プラスティック製)」で作られています・・プラスティック製と聞いただけで耐久性を不安視してそっぽを向いてしまう方もいらっしゃいますが、そう言う偏見は一旦横に置いて、冷静にこのモデルの描写性と付き合ってみるのもいいのではないでしょうか???

鏡筒には光学系前群や後群を固定する「ネジ穴」が用意されていますが、そのネジ穴の「ネジ切り」の強度は、下手なアルミ合金材削り出しの質の悪い個体よりも「相当強化された耐久性」を持っています。少なくとも当方にて目一杯キッチリとネジを締め付けても、ネジ山が削れてしまうことは一切ありませんでした。相当な強度を持っています・・!

それ故にヘリコイド (オス側) のネジ山まで切って用意しているワケですから、プラスティック製だからと言ってバカにはできません。表層面の平滑性 (凹凸の少なさ/緻密さ) は相当なモノです。アルミ合金材削り出しで質の悪い面取り加工をしてヘリコイドのネジ山がギタギタになっている鏡筒のモデルに比べたら、非常に信頼性は高いレベルです。

まずは「偏見」を捨てたほうがいいと思いますね・・。

MD452(0206)135枚の絞り羽根を組み付けて絞りユニットを完成させます。さすがにコスト削減のひとつなのか、上の写真でネジ止めされている金属環と、その内側のプラスティック製の絞り羽根固定環は「接着」でくっついていました(笑) この辺の作り方などはKONICAの「HEXANON AR 40mm/f1.8」と全く同様です。

MD452(0206)14距離環や絞り環、或いはマウント部を組み付けるための基台で金属製です。

MD452(0206)15ヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込んでいきます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。このモデルには「無限遠位置調整機能」が「13mm」ほどですが用意されているので、この時点では大凡のアタリで構いません。

このヘリコイド (メス側) はアルミ合金材のパーツです。ヘリコイド (オス側) が硬質プラスティック製なので、同じ材質を使うとダメですね・・ちゃんと考えられています。

MD452(0206)16鏡筒 (ヘリコイド:オス側) にフィルター枠を仮止めしてからヘリコイドを無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルには全部で5箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) に、再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。

フィルター枠を仮止めしているのは、鏡筒のヘリコイド (オス側) のネジ切りが端までギリギリネジ切りされているので、グリースが指に付いてしまうのを避けるためです。

MD452(0206)17この状態でひっくり返して撮影しました。上の写真で指標値の上に位置している「縦方向の細い溝」は、絞り環を操作した際にクリック感が伴う、鋼球ボールがカチカチとハマり込むための「溝」で、各絞り値に見合った位置に刻まれています。横方向に白色の破線があるのは、鋼球ボールがあたって削れた部分です。

MD452(0206)18同じく「硬質樹脂製 (硬質プラスティック製)」の絞り環に、僅か「1mm径の鋼球ボール+スプリング」を組み込んでから基台にセットします。この「1mm径」の鋼球ボールとスプリングを使って作っていたのが「LEICA/LEITZ」になり、鋼球ボールのみならずスプリングの径 (1mm) と巻数までも同一です・・どうしてなのでしょうね???(笑)

MD452(0206)19こちらはマウント部内部を撮影しました。既に連動系・連係系パーツを外してあり、当方による「磨き研磨」が終わっています。

わざわざ「磨き研磨」をしているのは、このマウント部内部にグリースをあまり塗布したくないからです。何故ならば、光学系後群は元より絞りユニットが格納されている鏡筒がすぐ近くまで沈降してくる場所にあたるワケで、絞りユニットを経由して光学系内に揮発油成分が侵入するのをなるべく防ぎたいからです。

オールドレンズは、バラして整備すればどうにか復活して再生可能ですが、光学系の硝子レンズ自体はそう何度も研磨できません。せいぜい生産時諸元値の1%以内しか削れませんから、コーティング劣化が酷くなってしまった場合には、研磨してコーティングを剥がし、再蒸着を行うチャンスは1回限りと考えたほうが良さそうです。そう考えると、これから先の将来的なグリースに拠る揮発油成分の影響は可能な限り抑えたほうが良いコトになります・・それが当方が「磨き研磨」に拘る最終的な理由であり、滑らかにするための目的だけで執り行っている工程ではありません。いつの日にか状態の良いオールドレンズが消えてしまう時代が到来することを見越してのコトですが、そんな先のコトなどどうでも良いではないかと考えている方が多いのも事実ですね(笑)

MD452(0206)20意外と簡素な内容ですが、やはり「磨き研磨」を終わらせた連動系・連係系パーツをセットします。

MD452(0206)21さて、ようやくここに辿り着きました・・このモデルに「前期型」と「後期型」が存在する写真と解説を進めていきます。上の写真は完成したマウント部を基台にセットするだけの状態にしてあります。今回の個体は「前期型」です。

MD452(0206)22こちらの写真は、当方所有の「後期型」から同じマウント部を取り外して並べて撮影しました。この距離の撮影ではなかなか違いが分かりません。

MD452(0206)23相違箇所を拡大撮影した写真です。上の写真の解説の通り、マウント部の「縁」に「囲い (枠)」が存在しているモデルが「後期型」になり、平坦なモデルが「前期型」です。このマウント部を入れ替えてセットしても、正しくネジ止めしてマウント部を固定できません。

MD452(0206)24こちらの写真も、同じく当方所有「後期型」モデルから「絞り環 (硬質樹脂製/硬質プラスティック製)」を外して並べた写真です。

MD452(0206)25やはり拡大撮影で相違箇所を写しました。「前期型」の枠は「厚みがある枠」ですが、「後期型」の枠は「薄い枠」なのです。この絞り環も入れ替えて組み付けても一切回ってくれません (マウント部の締め付けで固着してしまいます)。

MD452(0206)26こちらは今回出品する個体「前期型」の絞り環とマウント部をセットした状態での写真です。こうなるとなかなか相違が判りにくいと思います・・それ故、ネット上の解説ではバラして観察していないので国内も英語圏も該当するページが存在していないのだと思います。ちなみに、「後期型」の「絞り環+マウント部」をセットにして「前期型」に組み付けてもダメです・・フランジバックに相違が生じてしまいビミョ〜に無限遠位置がズレてしまいます。その逆も然りですね。

これがこのモデルでの「前期型」と「後期型」の相違点です。

MD452(0206)27マウント部を基台にセットした状態の写真です。

MD452(0206)28マウントの「爪プレート」をネジ止めしてマウント部も完成させます。

MD452(0206)29ず〜ッとフィルター枠を仮止めしたまま作業を進めてきましたが、ここで一旦外して距離環を仮止めしてから無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認をそれぞれ執り行い、最後にフィルター枠を取り付けてレンズ銘板をセットすれば完成間近です。

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ここからはオーバーホールが完了した出品商品の写真になります。

MD452(0206)1確かに、外観はレンズ銘板〜距離環〜絞り環と硬質樹脂製 (硬質プラスティック製) なのでチープ感があるのは否めません。しかし裏腹にその描写性能は大変優れており、今までのMINOLTAのレンズ群と比較しても個性的な画造りを愉しめる逸品に仕上がっているモデルではないかと考えています。むしろMINOLTAの中にあってこそ、このモデルの魅力は倍増されるのではないでしょうか?

MD452(0206)2光学系内は第4群の貼り合わせレンズ (2枚のレンズを接着したレンズ群) にもバルサム切れ (貼り合わせレンズの接着剤/バルサムが経年劣化で剥離し始めて白濁化し薄いクモリ、或いは反射が生じている状態) の進行が無く、コーティングの経年劣化も極僅かで非常に透明度の高い個体です。

特に、このモデルでは光学系の前群と後群はそれぞれが「モールド成形」による一体型なので、光学系内を清掃したいと思ってもいじれません (解体できません)。恐らく熱を与えて膨張させた状態で光学系を引き抜くのだと推測しますが、さすがにプラスティック製だと加熱温度と時間が分からない限り、おいそれとは手を出せません。プラスティック製である以上、いくら硬質だとしても膨張しすぎてしまえば元には戻りませんから・・。

MD452(0206)2-1

MD452(0206)2-2上の写真 (2枚) は、光学系前群のキズの状態を拡大撮影しています。1枚目は中央付近の極微細な点キズを撮っています。2枚目は極微細な擦りキズの部分を撮っていますが、キズが薄すぎてとても判りにくいです。

【光学系の状態】(順光目視で様々な角度から確認)
・コーティング劣化/カビ除去痕等極微細な点キズ:
前群内:10点、目立つ点キズ:6点
後群内:9点、目立つ点キズ:4点
コーティング経年劣化:前後群あり
カビ除去痕:あり、カビ:なし
ヘアラインキズ:あり
・その他:バルサム切れなし。後玉の中央付近にはLED光照射にて浮かび上がる大きめのカビ除去痕があります。前玉は中央付近に極微細な薄い擦りキズもあります。光学系内はコーティング劣化に拠る薄クモリは無く、光学系内の透明度は非常に高いレベルです。
・光学系内はLED光照射でようやく視認可能レベルの極微細な拭きキズや汚れ、クモリもありますがいずれもすべて写真への影響はありませんでした。

MD452(0206)9光学系後群です。

MD452(0206)9-1後群にも極微細な点キズが見受けられますが、微細すぎてすべて写っていません。中央付近にはLED光照射でようやく視認できるレベルのカビ除去痕が少し残っています。

MD452(0206)3絞り羽根もキレイになり確実に駆動しています。

ここからは鏡胴の写真になります。経年の使用感があまり感じられないとてもキレイな状態をキープした個体です。

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MD452(0206)7塗布したヘリコイド・グリースは「粘性:重め」を使っています。ところが、当初バラした時点で入っていた古いヘリコイド・グリースが「黄褐色系グリース」だったために、ヘリコイドのネジ山には摩耗粉が一切無く、大変滑らかな状態でした。そこで「粘性:重め」のグリースを塗りましたが、結果的にそれでもなお「軽い」トルク感で動いています。ヘリコイドのネジ山の状態が良いとこんなに滑らかなのですね・・改めて「摩耗」の度合いを左右するヘリコイド・グリースの重要性を認識した次第です (もちろん当方にて「磨き研磨」を施しています)。そして硬質プラスティック製の鏡筒 (ヘリコイド:オス側) の違和感などは全く無くて、むしろ適しているのではないかと感じたくらいです・・オーバーホールが仕上がったこのトルク感が総てを物語っています。バカにはできませんね(笑)

【操作系の状態】(所有マウントアダプタにて確認)
・ヘリコイドのグリースは「粘性:重め」を使用。距離環や絞り環の操作は大変滑らかになりました。
・距離環のトルク感は滑らかに感じ完璧に均一です。
・ピント合わせの際は極軽いチカラで微妙な操作ができるので操作性は非常に高いです。

【外観の状態】(整備前後拘わらず経年相応の中古)
・距離環や絞り環、鏡胴には経年使用に伴う擦れやキズ、剥がれ、凹みなどありますが、経年のワリにオールドレンズとしては「超美品」の当方判定になっています (一部当方で着色箇所がありますが使用しているうちに剥がれてきます)。

MD452(0206)8しょせんは「パンケーキ」だからと侮ると、吐き出す画にオドロキますよ・・(笑) 正直、お散歩レンズとしては充分すぎるくらいの描写性能を持っているオールドレンズです。ギラギラした感じや誇張感だけに終わってしまう面白みのない描写性ではなく、それでいて緻密感や情報量の多さは諸収差の改善を伴ったキッチリした画で残してくれます。その画を見てもやはりMINOLTAだからこその「アクロマチックコーティング (AC)」の効果を感じ取れます。「人間の目で見た自然さ」プラス「コントラストの良さ」を追求した、今までのMINOLTAのレンズ群には無かったひとつの個性を持っていると感心しました。

それをパンケーキでやってしまうところが、拘りを持ったMINOLTAらしさのようにも・・感じましたねぇ。1本は揃えておきたい銘玉の一つだと思いましたが、貴方の印象は如何ですか?

MD452(0206)10当レンズによる最短撮影距離60cm附近での開放実写です。


この後は、日本製オールドレンズ (RICOH/YASHICA/FUICA/Asahi/Canonなど) のオーバーホール作業に入ります。もちろんヤフオク! への出品用として整備を進めて参りますので、どうぞお楽しみに・・ドイツ製オールドレンズをお待ちの方は、また月末〜来月初め頃になるかと思います。