◎ MINOLTA (ミノルタ) New MD 24mm/f2.8(MD)

minolta-logo(old2)今回の掲載はヤフオク! 出品用ではなく、オーバーホール/修理ご依頼を承ったオールドレンズの掲載になります (有料にて掲載しています)。ヤフオク! には出品していませんので、ご注意下さいませ。

(掲載の写真はクリックすると拡大写真をご覧頂けます)

当レンズは、1973年に発売された「MC W・ROKKOR 24mm/f2.8」の後継モデルに当たり、1981年発売の「New MD」シリーズ群の中のひとつであり最終モデルでもあります。当初発売された「MC W・ROKKOR 24mm/f2.8」については当ブログの「こちらのページ」でオーバーホールの写真と解説を掲載しています。

初代のモデルがLeitz「ELMARIT-R 24mm/f2.8」の原型である (或いは兄弟レンズ) との解説がネット上でも多く語られていますが、当方にてLeitzのモデルも、MINOLTAのモデルも共にバラしたところでは、ビミョ〜に光学系の設計が異なっており、「原型」とは言っても光学系の設計思想そのものが根本から異なるような印象を受けています・・その意味では単なるOEMモデルなどとのイメージには程遠く、例えばLeitzのモデルの光学硝子レンズ格納筒の仕様でさえも、MINOLTAのモデルとは全く異なるので「兄弟レンズ」と言うニュアンスも当てはまらないと思います。純粋にLeitzのモデルをMINOLTAが生産していた「だけ」と言う認識のほうがより近いように感じますが・・あまりLeitzのモデルとの関連付けで大騒ぎしないほうがいいように考えます。

今回のモデル「New MD 24mm/f2.8」は当方での扱いが初めてになります。バラしてみたところ「フローティング機構」が採用されており、鏡筒の内部にもうひとつ「内筒 (光学系前群格納筒)」が格納されており、エレベーター機能で上下動するようになっていました。とてもコンバクトな筐体とは裏腹に、なかなか考え尽くされた構造化が成されている印象を受けました・・。

光学系に関しても、当初1971年登場の「MC W・ROKKOR 24mm/f2.8」が10群8枚のレトロフォーカス型構成だったのに対し、1973年に発売された量産タイプ、及び1977年と1978年の「MD」タイプでは9群7枚、さらに1981年発売の最終型である「New MD」では8群8枚と、大きく光学系の仕様の変更をその都度行っています。筐体の大きさも徐々に小型化が進み、今回の最終型では大変コンパクトなサイズに落ち着いています。

描写性に関しては、前述のLeitzの「ELMARIT-R 24mm/f2.8」との兼ね合いからネット上でも当初のモデル「MC W・ROKKOR 24mm/f2.8」がベタ褒め状態ですが(笑) むしろ今回の「New MD」のほうが当時の時代に合った「集大成」的な画造りではないかと言う印象を受けました・・上手く改善すべき諸問題をキッチリと改善させているように感じます。


オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。

すべて解体したパーツの全景写真です。

MD2428(0201)11ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。

構成パーツの中で「駆動系」や「連動系」のパーツ、或いはそれらのパーツが直接接する部分は、すでに当方にて「磨き研磨」を施しています (上の写真の一部構成パーツが光り輝いているのは「磨き研磨」を施したからです)。「磨き研磨」を施すことにより必用無い「グリースの塗布」を排除でき、同時に将来的な揮発油分による各処への「油染み」を防ぐことにもなります。また各部の連係は最低限の負荷で確実に駆動させることが実現でき、今後も含めて経年使用に於ける「摩耗」の進行も抑制できますね・・。

MD2428(0201)12絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒 (ヘリコイド:オス側) なのですが、冒頭の説明の通り、この鏡筒の内部にもうひとつ「内筒」が格納され、それが光学系前群の「格納筒」になっています。

MD2428(0201)136枚の絞り羽根を組み付けて絞りユニットを完成させます。上の写真の通り、鏡筒の内壁には絞りユニット側と前玉側の2箇所に「内筒が接する部分」を用意しています。

今回の個体は、当初バラす前の段階で距離環の駆動が少々重く感じました。バラしたところ、その原因はこの鏡筒内の内筒が接触する部分に「腐食」が僅かに進行していたからです。例によってヘリコイド・グリースには「白色系グリース」が使われており、既に液化が進行していたために揮発油成分がレンズ内に廻っている状態でした。

しかし、前回の (過去の) メンテナンスでは、この鏡筒内部の内筒周りは解体しておらず、単純にヘリコイドのグリース入れ替えだけを執り行ったようです。従って、それが仇となり内筒が接する部分の「腐食」を促してしまっています (前回のメンテナンスで内筒周りもシッカリとグリースアップしていれば良かったのですが・・)。

MD2428(0201)14鏡筒をひっくり返して裏側 (つまりマウント側) を撮影しました。とても簡素な構造です。「棒バネ」で「絞り羽根開閉幅制御環」から突出している「制御アーム」を戻しているだけです。バネのチカラで絞り羽根が「開放」をキープさせるよう棒バネを使っています。従って、マウント面の「絞り連動ピン」からのチカラの掛かり方はこの逆になり、絞り羽根を絞り環で設定した絞り値まで「閉じさせようとするチカラ」が加わります。結果、この「棒バネ」と絞り連動ピンのバネ (マウント部内部にあります)との「チカラ関係」がキッチリ適合していなければ「絞り羽根開閉幅の異常」を来します。「棒バネ」のチカラが強すぎてもダメですし、その逆も然りです。この辺りの「原理原則」を理解していないと、なかなかグリースに頼った整備しかできないと思います・・そういうメンテナンスをされてしまった個体が多いですが、余分なグリースの塗布は「光学系のコーティング劣化」を促してしまうだけですから、あまり良いコトにはなりません。

MD2428(0201)15こちらの写真が「内筒」です。鏡筒の内部に格納されます。内筒にも上下位置にアルミ材削り出しの露出した部分が用意されています。鏡筒内部の同じ位置と互いに接しているワケですね・・この部分が今回の個体では僅かに腐食していました。既に当方による「磨き研磨」が終わっているので、表層面の「平滑性」を取り戻しています。

MD2428(0201)16鏡筒の内部に「内筒」を組み込みました。鏡筒には「横方向」に開口部が2箇所用意されており、内筒から突出した金属棒がその2箇所を貫通しています。つまり内筒はこの貫通している金属棒「だけで」保持されていることになり全くのフリーの状態です。さらに、鏡筒の横方向の開口部には「傾斜」が付けられており、上の写真では右端の「∞側」が一番下がった位置になっており、そこから少しずつ上り坂の傾斜が付けられていて、左端の「ワイド側」に到達します。その落差「僅か1mm弱」程度です。これが「光学系前群」を繰り出したり引っ込んだりの「前後動」を行っているエレベーター機能であり「フローティング機構」になっています。従って、内筒はこの∞側〜ワイド側の間をグルグルと回転しながら駆動するので、先ほどの鏡筒と内筒が「接する部分」に平滑性が必要になってくるワケです・・当初バラす前の距離環が重かった原因がこの部分になりますね。

ちなみに、上の写真で内筒から飛び出ている金属棒 (上の写真では∞側の赤字の処) は、距離環に刺さるようになっており、距離環の回転に伴い内筒が前後動する仕組みです・・と言うことは、ヘリコイド (オスメス) の負荷と共にこの内筒を前後動させる負荷も掛かってくるワケで、その辺を考慮したメンテナンスが必要になってくるのですが、残念ながら前回の (過去の) メンテナンスでは、ヘリコイドのグリースしか手を付けられていませんでした。いい加減な整備をするとロクな結果になりません・・。

MD2428(0201)17こちらは距離環やマウント部を組み付けるための基台です。

MD2428(0201)18ヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。このモデルには「無限遠位置調整機能」が装備されているので、ここでは大凡のアタリで構いません。

MD2428(0201)19鏡筒 (ヘリコイド:オス側) を無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルには全部で8箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず)、再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。

MD2428(0201)20距離環 (下側) をここで先にセットして仮止めしておきます。

MD2428(0201)21基台をひっくり返して「1mm」のマイクロ・鋼球ボールとマイクロ・スプリングを共にセットして絞り環を組み付けます。この「1mm径」のマイクロ・鋼球ボールを採用している光学メーカーは「MINOLTA」と「LEICA/LEITZ」それに「東京光学」しかありません。但し、当方がまだCanonとNikonのモデルに疎いので、この2社のモデルの中にもあるかも知れませんが・・。

MD2428(0201)22こちらはマウント部の内部を撮影しました。既に当方による「磨き研磨」が終わっています。今回は残念ながら絞り連動ピンのアーム部分が固定ネジの固着のために外すことができませんでしたが、接する部分は可能な限り磨いて平滑性を保持させています。

MD2428(0201)23内部の構成パーツは少なめですが、この「ねじりバネ」のチカラの強さをキッチリ合わせておかなければ「絞り羽根開閉幅の異常」に陥ります。

MD2428(0201)24マウント部をセットします。マウントの「爪」自体はプレート状になっているので、光学系後群を組み付けてからネジ止めします。

MD2428(0201)25こんな感じで光学系後群をセットしてから「爪プレート」を固定します。

MD2428(0201)26光学系後群は組付けが完了したので、光学系前群をセットするのですが、せっかくなので「中玉」と言われている部分を撮影してみました。とても美しい「エメラルドグリーン」の光彩を放っています。

よくネット上の解説でも「緑のロッコール」などと俗に言われている「AUTO ROKKOR」や「MC ROKKOR」のモデルの解説を見かけますが、その「緑色」に見えているのは「アクロマチックコーティング (AC)」の色合いであり、当時MINOLTAが世界に先駆けて開発した複層コーティングになります。しかし、この「New MD」や「MD」のモデルに対してはあまり「緑のロッコール」とは解説していないようです。マルチコーティングが施され外見上の「緑色」に輝く光学系の色合いが変わってしまったために、そのような印象があるのだと思いますが、実はちゃんとこのように中玉には「アクロマチックコーティング (AC)」が施されており、しかもマルチコーティングとしてシッカリと保護されています。ライカのレンズや「AUTO ROKKOR」「MC ROKKOR」のモデルでは、同じ「アクロマチックコーティング (AC)」でも当時の複層コーティングのままですから、蒸着レベルが弱く経年劣化に拠る浮きが激しいのが難点です。その意味ではこの「New MD」や「MD」モデルではマルチコーティングとして守られているので経年劣化の心配もさほど必要ありませんね。

MINOLTAのレンズの、どことなく落ち着いて自然な (人間の目で見たままの) 印象を受ける描写性に非常に貢献しているのが、この「アクロマチックコーティング (AC)」ですね。

MD2428(0201)27光学系前群を鏡筒の内部にある「内筒」にセットしました。

MD2428(0201)28距離環は上下に二分割されており、上の写真のように粘着テープで固定されています。ネジでは互いに固定されておらず少々心許ない感じがしますね・・無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認をそれぞれ行い、距離環の固定ネジを本締めしてからテープで止めて、最後にラバー製ローレットを被せてフィルター枠とレンズ銘板を組み付ければ完成間近です。

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ここからはオーバーホールが完了したオールドレンズの写真になります。

MD2428(0201)1このモデルは「絞り環」と「レンズ銘板」だけが樹脂製 (硬質プラスティック製) なのですが、見た目でのチープ感は全く無く、むしろ意匠として重厚感さえ感じるほどではないかと思います。レンズ銘板に「ROKKOR」銘が消えてしまったのは少々寂しい気がしますが、集大成としての画造りをその描写性に感じます。

MD2428(0201)2LED光照射では前玉の裏面に非常に薄いクモリが確認できるので、極僅かにコーティングの劣化が進行しているようですが、光学系内の透明度は高くとてもクリアです。中玉外周附近に極微細なコーティング・スポット1点と、光学系後群には後玉も含めて極微細な点キズが数点見受けられますが、いずれも写真への影響はありません。

MD2428(0201)36枚の絞り羽根も極僅かに油染みしていましたが、キレイになり確実に駆動しています。絞り羽根開閉幅の調整も合わせていますので完了しています。

ここからは鏡胴の写真になります。今回も当方での「外装の磨き研磨」を施しましたが、それ以外の着色などは一切行っていません。

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MD2428(0201)7 塗布したヘリコイド・グリースは「粘性:重め」「粘性:中程度」「粘性:軽め」をそれぞれ「基台」「ヘリコイド (オスメス)」「内筒/鏡筒接触部分」に塗布して、トルク感の調整を施しています。特に距離環の駆動範囲が狭いので、相応のトルク感をワザと付けてありますので (ピント合わせし辛くならないように)、今までオーバーホールしたモデルと比較すると少々重く感じます。しかし、当初の「重い」トルク感と比べると僅かに軽くなっています (内筒/鏡筒接触部分を磨き研磨したため)。

バラす前の段階で、この「フローティング機構」と「内筒/鏡筒接触部分」の腐食とが、少々イヤな予感がしてましたが的中してしまい、塗布するグリースの粘性を変更しつつも内筒/鏡筒接触部分の磨き研磨をその都度行いようやく滑らかに動くようになりました。ちょっと厄介でしたか・・本当にいい加減なメンテナンス (前回/過去のメンテナンス) は勘弁してほしいですね。

MD2428(0201)8「New MD」なかなか良く考え尽くされて造られているモデルだと感じました。コンパクトな筐体ながらもギュッと凝縮した技術の集大成をその内部からも感じます。絞り環をワザワザ「樹脂製 (硬質プラスティック製)」にしているのが、何とももったいない気がしますが、この程度の変更でコストの調整ができたのでしょうか・・??? どうせなら総金属製でも良かったのではないかと思います。

MD2428(0201)9光学系後群も、角度によっては後玉の周辺に「アクロマチックコーティング (AC)」の色合いが写り込んでいます。

MD2428(0201)10当レンズによる最短撮影距離25cm附近での開放実写です。なかなか落ち着いた印象を受け、それでいてピント面も鋭く収差も少ないとても素晴らしい描写性です。少々AWBの設定をミスってしまったのか、色合いがブレておりコントラストも高めの写りになってしまいました。周辺部の光量落ちも見受けられます・・。