◎ SIGMA (シグマ) FILTERMATIC WIDE YS 24mm/f2.8(M42)
今回の掲載はヤフオク! 出品用ではなく、オーバーホール/修理ご依頼を承ったオールドレンズの掲載になります (有料にて掲載しています)。ヤフオク! には出品していませんので、ご注意下さいませ。この掲載はご依頼者様へのご案内も兼ねています。
今回初めて扱うモデルなのですが、久しぶりに作業がイヤになったくらい次から次へと問題が起こる個体でした。3色のフィルターを内蔵した「ターレット型」モデルです。以前に一度だけKONICAのモデルのターレット部分のみを修理した経験はありますが、完全なオーバーホールは全く今回が初めての経験になります。
当初お預かりした時点で既に顕在していた不具合は以下の通りです。
- 距離環にガタつきがあり1mmほど浮いている。
- ターレット内で部品が外れてカチャカチャ音がしている。
- フィルターの位置が適正ではなく光学レンズを遮っている。
- 鏡胴の一部にもやはりガタつきがある。
- マウントアダプタに装着すると絞り羽根がF値「f4」以降に閉じない。
- 絞り羽根の動きが緩慢。
- フィルターや光学系内部に汚れがある。
ざっと挙げただけでもこれだけ不具合が見受けられました。
今回、バラしてみて絞り連動ピンからの「絞り連動ピン連動パーツ」の機構部が、純正のSIGMA製を拝見できたので、過去の何処の光学メーカーのOEM品なのかが不明だったオールドレンズの目安が着きました。ありがとう御座います!
さすがに違う会社がワザワザSIGMA製のパーツとそっくりの仕様で設計して生産することはあり得ませんから、SIGMAのOEM製品と言うことが判りました (ネット上の解説ではトキナー製と説明されていることが多いモデルでした)。
オーバーホールの為解体した後、組み立てていく工程写真に解説を交え掲載していきます。
一部を解体したパーツの全景写真です。
ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。
構成パーツの中で「駆動系」や「連動系」のパーツ、或いはそれらのパーツが直接接する部分は、すでに当方にて「磨き研磨」を施しています (上の写真の一部構成パーツが光り輝いているのは「磨き研磨」を施したからです)。「磨き研磨」を施すことにより必用無い「グリースの塗布」を排除でき、同時に将来的な揮発油分による各処への「油染み」を防ぐことにもなります。また各部の連係は最低限の負荷で確実に駆動させることが実現でき、今後も含めて経年使用に於ける「摩耗」の進行も抑制できますね・・。
絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒なのですが、残念ながら今回の個体は光学系前群の一部を格納するレンズ筒のひとつが固着しており全く外せませんでした。
従って、その次の本来の鏡筒内に組み込まれている「絞りユニット」自体もバラせませんでした・・このことが後ほど不具合の根本原因になっていきます。
鏡筒を立てて撮影しました。光学系前群の一部を格納するレンズ格納筒 (上の写真では上側の部分)が鏡筒から外れるハズなのですが、溶解剤を何度入れても全く微動だにしません。当方の専用工具で一番強力な工具を使っても、ダメでした。
誠に申し訳御座いませんが、今回はこの部位の解体は諦めました。人の手のチカラだけではダメなのか、専用の工具が必要なのか、分かりませんが、SIGMA製のオールドレンズは以前の整備でも解体できない部分がありました。
上の写真で下側の部分の中腹に「窓」が2箇所開いていますが、向かって左側が絞り環の設定絞り値で絞り羽根の開閉幅を制御している「絞り羽根開閉幅制御環」、そして右側が絞り連動ピンの押し下げに連動してダイレクトに絞り羽根の開閉を行っている「絞り羽根開閉環」であり、それぞれの環に連係アームやカムが入り込むために開口しています。
従って、今回は絞りユニットを解体できておらず、絞り羽根の清掃も行っていません (一応油染みも無くキレイな状態です)。
こちらは距離環や絞り環、或いはマウント部を組み付けていく基台です。
ヘリコイド (メス側) を組み付けます。このモデルでは「ヘリコイド (メス側)」は、ネジ込み式ではなく「フリー」になっており、スルスルといつまでも回る状態になっています。従って、ここのヘリコイド・グリースの粘性をミスると距離環の駆動が重くなってしまいます (フリーの場合には要注意なのです)。
先に距離環を仮止めしてしまいます。鏡筒 (ヘリコイド:オス側) をネジ込むのに、ヘリコイド (メス側) がフリーなので、無限遠位置が確定していないために距離環が必要になるからです。
無事に無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みが完了しました。無限遠位置まで距離環を回すと上の写真の鏡筒の飛び出ている部分は中に引っ込んでしまいます。
さて、ここでまず最初の難関にブチ当たりました。普通、オールドレンズで鏡筒を繰り出したりする直進動を行う「直進キー (距離環を回す「回転するチカラ」を鏡筒が前後動する「直進するチカラ」に変換する役目)」は「板状のパーツ」なのですが、このモデルでは「真鍮製の円柱」だったのです。しかも、その片方が削れたり変形したりしていました。まっすぐに直してから鏡筒 (ヘリコイド:オス側) をネジ込んだつもりだったのですが、距離環を回すと70cm辺りから最短撮影距離20cmまでが非常に重くなってしまいます。
そもそもこの直進キー「真鍮製の円柱」は両サイドに2本あるのですが、片側には「マイナスの切り込み」が入れられていました。これは距離環を回す時のチカラが掛かった時に、ねじれを逃がす目的で切り込みが入れてあるのですが、何と (恐らく) 過去のメンテナンスでマイナスのドライバーか何かで外そうとしてしまったようです。そのために片側だけが変形したり削れたりしています。
その結果、距離環の前後動に対してその切り込みがある直進キーが原因で負荷が掛かってしまい、とても重くなっているワケです。この部分の調整を施すのに、磨き研磨してはグリースを塗って、距離環を回してはまたバラして清掃後に磨きを入れて・・これを何度も繰り返し、優に2時間を費やしました。上の写真を撮った時点では、とても滑らかなトルク感で距離環が駆動できるように改善されています (つまり2時間後の写真です)。
鏡筒をひっくり返して撮影しました。鏡筒の一部が広く扇状に開いています。また鏡筒の内部には小さな小部屋が用意されており「空間」になっています。ここにフィルターが4枚セットされているターレットが入り込みます。
さて、そもそも今回の修理ご依頼内容だった「ターレット内部の破損/部品落ち」の犯人は上の写真の2つのパーツでした。フィルター4枚がセットされているターレットを固定し、同時にクルクルと回転させるための「座金」と「固定ネジ」です。
当初バラした直後は、こんなキレイな色合いではなく、両方とも同じ色で「黒色」でした(笑) 経年に拠る腐食が生じていたのです。その腐食に拠り表層面の摩擦から、少しずつ緩み始めてついには外れてしまったようです。
従って、今回はキレイに「磨き研磨」を施し再び外れないようにしました (通常当方では、このようなネジや座金/ワッシャーなどは磨き研磨しません)。
固定ネジと座金を使ってターレット保持パーツに固定しました。この状態でターレットがスルスルと回ります。上の写真では、既に各フィルターの清掃も終わっていますが、残念ながらこのターレットが当初バラした時に内部で斜めになってガッチリと填ってしまっており、且つターレット制御環を回していたためにパーツが当たったりなどで、各フィルターには僅かにキズが付いています。
上の写真では各フィルターの「間」に切り込みが入っていますが、この部分も既に削れなどが一部にはあり、それが後ほど影響してきます。
先にターレット制御環 (カラーフィルターの設定環) をセットします。
ようやくターレット環がネジ止めされて固定完了です。このターレットを指で弾くと勢いよく回転します(笑)
ターレット環にある切り込みに、順番に金属製のシリンダー (ターレット制御キー) が入っていくと、ターレットがクルクルと回って次のカラーフィルターに切り替わります。
動きは、そんな感じだと判っているのですが、実際にはこのシリンダーキーがターレットの切り込みの入口や角に当たってしまい (干渉してしまい)、ちゃんと動いてくれません。観察するとビミョ〜にシリンダーが接触しています。仕方なく、各フィルターの切り込み部分を「磨き研磨」しました (もちろん再びバラしてです)。磨いたり、極僅かに削ったりしながら、取り付けてターレット制御環を回してシリンダーの当たり具合を確認し、再びまたバラして磨いて・・またもやこれの繰り返しです。ここで1時間以上は掛かっていると思います。
無事に各カラーフィルターが「カチカチ」と小気味良くスムーズに切り替えできるようになりました(笑) ターレット制御環の固定環をセットして締め付けます。
この次に「絞り環」を組み付けるのですが、その前にまた問題発生です。マウント面の「絞り連動ピン」の押し込みに連動して、この「絞り連動ピン連動機構部」が同時に動いて、鏡筒の絞り羽根の制御を行います。しかし、既に変形しており、このまま組み付けても絞り羽根が正しく開いたり閉じたりしてくれませんでした (鏡筒の開口部のひとつに上の写真のレバーが入ります)。
こちらの写真は「絞り連動ピン連動機構部」をセットした状態での、レンズの内部の写真です。
絞り連動ピンが押し込まれると、レバーが (上の写真では) 左側に動き、鏡筒内部の「絞り羽根開閉環」を押します。すると絞り羽根が設定した絞り値まで「閉じる」ワケです。
片や、鏡筒のもう一つの開口部にある「絞り羽根制御環」からは上の写真のような金属製の突起棒出ています。ここに絞り環のアームが噛み合い、絞り環操作で希望する絞り値に設定できるワケです。しかし、絞り連動ピンが押されると全くこの「絞り羽根制御環」が動いてくれません。
レバーの角度を変えたり、変形を変えたり・・いろいろと試しましたが、結果はすべて同一。絞り羽根が正しく開閉してくれません。「絞り羽根制御環」が重くて動かないので、「絞り連動ピン連動機構部」はセットされている「ねじりバネ」が自動的に働き、掛かっている「チカラ」を逃がしてしまいます・・結果、絞り羽根は途中で止まってしまいF値「f4」以降には閉じてくれません。
一旦、絞り連動ピンを基に戻すと (つまり押し込みをやめると) 正しい絞り値に絞り羽根が閉じてくれます。「絞り連動ピン」を押し込んだままにすると、ダメなのです。
これは構造的な問題なのか、つまりは当時は「絞り連動ピン」が押し込まれたままの状態を想定していなかったので、あくまでもフィルムカメラに装着して、シャッターが押された瞬間にだけ「絞り連動ピンが押される」と言う想定での仕様なのかも知れません。
掛かったチカラを「ねじりバネ」が逃がしてしまうので、どうしようもありません。ねじりバネ自体を外してしまっても、やはり絞り羽根の制御はできなくなります。
仕方なく、ここで諦めました。フィルムカメラでの使用時には正常に機能する状態で組み上げました。
ここからはオーバーホールが完了したオールドレンズの写真になります。
なかなかハードな作業でした・・正直、もうイヤになってましたね(笑)
光学系内も点キズやヘアラインキズ、或いはコーティング劣化などなど・・経年相応な状態です。
上の写真 (2枚) は、光学系前群のキズの状態を撮影しています。1枚目は第2群以降のキズの状態で、2枚目は前玉の状態です。
こちらの写真は光学系後群の状態を撮っています。1枚目が後玉を含めた後群内のヘアラインキズや点キズの状態です。そして2枚目・・残念ながら「バルサム切れ (貼り合わせレンズの接着剤/バルサムが経年劣化で剥離し始めて白濁化し薄いクモリ、或いは反射が生じている状態) 」が生じています。また写真には写りませんでしたが、外周部にもバルサム切れの進行で剥離が進んでいます。
外周部のバルサム切れはともかく、この空気溜まりのようなバルサム切れ部分は写真への影響が懸念されます (後群なので)。
絞り連動ピンを一度だけ押すならば、正しく絞り羽根は閉じてくれます。絞り環の設定した絞り値で開閉します。
ここからは鏡胴の写真です。
使用したヘリコイド・グリースは、ヘリコイド (メス側) がフリーのタイプだったので、今回は「粘性:中程度」を塗布しています。当初「粘性:重め」を塗りましたが、先の直進キーの問題などもあり替えています。現状、距離環のトルク感はとても滑らかで、僅かに重みを感じますが支障ないレベルだと思います。またトルクムラも改善させたので全くありません。ターレット制御環も問題なく滑らかに動き、絞り環共々クリック感も確実です。特に各フィルターが切り替わった際に、光学レンズ内でズレていたりの心配があると思いますが、それもちゃんと改善させました。キッチリとはみ出さずにピタリと適合しています (つまり光学レンズを遮っていません)。
ひとつだけ、当方の記憶には傷を付けた記憶が無いのですが、当初バラす前の確認時には指標値環に「引っ掻きキズ」が無かったと思うのですが、組み上げが完了した時点では、上の写真のような引っ掻きキズがありました。もしかしたら、当方が作業中に付けてしまったのかも知れません・・お詫び申し上げます。ご請求代金より必要な金額を減額して下さいませ。誠に申し訳御座いません。
なお、当初距離環がガタついていたのは、基台とターレット環の固定環とをシッカリとネジ止めしていなかったのが原因です。3本のネジで締め付けるのですが、ワザと3本とも同じくらいのネジ込み位置で締め付けを止めていました。恐らく距離環のトルクが重かったので調整する目的でそのようにしたのだと思いますが、全然違う処置です (トルク改善にはなりません)。ですので、キッチリ締め付けてガタつきは当然ながら無くなっています。
このモデルに関しては、誠に申し訳御座いませんが「再整備」は無しでお願い申し上げます。ちょっともぅ懲りてしまいました。
M42マウントの変換アダプタを装着した状態の写真です。このアダプタも当時の規格で作られているので、現在のM42用マウントアダプタともキッチリ適合していないように感じます。
ちなみに、各カラーフィルターに切り替えた状態の光学系内写真を撮りました。斜め方向からの撮影なので、光学系内の写りが「真円」にはなっていませんが、真正面から見ればフィルターが邪魔していたりなどしていませんので、大丈夫です。
当レンズによる最短撮影距離20cm附近での開放実写です。背景にグルグルボケが出ています。
こちらは「ENNA München Ennalyt 95mm/f2.8 (zebra)」での最短撮影距離1m附近による開放実写です。その他無限遠位置での実写などしてみましたが、特に問題なく光学系の配置は正常だと思われます。Ennaなので、発色性にシアンの傾向が強めに出るのは特性だと思います。