◆ Carl Zeiss Jena (カールツァイス・イエナ) Pancolar 50mm/f1.8 zebra《初期型》(M42)

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※解説とオーバーホール工程で使っている写真は現在ヤフオク! 出品中商品の写真ではありません

オーバーホール/修理ご依頼分ですが、当方の記録用として掲載しており
ヤフオク! 出品商品ではありません (当方の判断で無料掲載しています)。
(オーバーホール/修理ご依頼分の当ブログ掲載は有料です)


旧東ドイツはCarl Zeiss Jena製の標準レンズ『Pancolar 50mm/f1.8』シリーズに括って考えると、10年間での扱い本数は今回の個体が累計で103本目にあたり、その中でゼブラ柄のモデルは33本目、さらに「初期型」だけでカウントすると24本目になります。

本来今回扱う「初期型」は珍しい稀少品に入るモデルなので、市場に出回る率が少ないのですが、当方が積極的に扱っている為にこのような累計カウントになっています。

この「初期型」モデルはいわゆる俗に「アトムレンズ (放射線レンズ)」と呼ばれる、光学系の光学硝子材に「酸化トリウム」を含有させたオールドレンズであり「酸化トリウム」が放射性物質なので、その半減期が長い事からいまだに放射線を放出し続けている事から由来する呼称とも言えます。

但しもちろん当時フィルムカメラに装着して撮影する際、フィルム印画紙への影響度合いが 極めて低い事からも、或いは人体に対する被曝線量から鑑みても何ら安全性を損ねる商品ではありません。また光学硝子材に「酸化トリウム」を含有させた目的は屈折率を稼ぐ為であり、最大で20%向上させる事により解像度を上げようとした狙いがあったようです。他にも 「ランタン材」を光学硝子材に含有させる事もあり、やはり狙いは屈折率を10%台まで向上させる目的とする事が多そうです。

ところが経年で光学硝子レンズが「赤褐色化」に変色する「ブラウニング現象」が発生する為それを嫌う意味から、或いはさらに屈折率を稼ぐ光学硝子材が開発された事などから1970年代に入ると含有をやめる光学メーカーが世界規模で多くなり廃れていった経緯があります。
(現在では含有する事が工業用を除くと非常に少ない)

ネット上の解説などを見ていてもこれら「黄色く変色する事」を指して「黄変化」と呼び解説しているサイトが非常に多いですが、その代表例としてこの「酸化トリウム含有アトムレンズ (放射線レンズ)」を挙げている例が多いように見えます。

一方、この当時のオールドレンズの中には光学硝子材に蒸着したモノコーティング (一部マルチコーティング) の経年に伴う変質の一つとして「コーティング焼け」と言う現象があり、光学系内を覗き込んだ時に無色透明に見えるハズが「黄色みを帯びて見える」或いは白っぽい面にオールドレンズを乗せた状態で光学系内を覗くと「光学硝子が黄色っぽく見える」などを指して「黄変化」と呼び、それらの多くは「コーティング焼け」だったりします (光学硝子レンズを清掃しても除去できない)。

要は蒸着したコーティング層成分が経年で変質し色付いてしまったので「コーティング焼け」と呼ばれるのであって、当然ながら一旦剥離してから再びコーティング層を蒸着しない限り その改善は期待できません。

従って当方ではそれらをちゃんと区別する意味から「アトムレンズ (放射線レンズ)」の「赤褐色化」いわゆる「ブラウニング現象」まで含めて「黄変化」と記載しないよう努めています。

逆に言うならこれらを一緒くたにして把握してしまうと光学系内の「黄変化」改善の期待値が上がってしまう悪影響を来すので、特に注意が必要です。まさに今回の例が当てはまるので、このブログに今一度「注意喚起」として載せる事にしました。

そもそも光学系内の光学硝子材の色付き方を指すコトバ「黄変化」なので、その色合いを以て判断するにも少々難しい面があったりしますから、できればこのブログを参考に考えて頂ければ幸いです。

↑上の写真は今回のモデルと同じ「初期型」の光学系内を撮影した写真で、後玉の背後に白紙のコピー用紙を置いて撮った解説用写真です (過去の解説から転用した写真)。それぞれの個体でいつか使うかも知れないと考え解説用に撮影しておいた写真を流用しています。

一番左端は確かに「初期型」なのですが「赤褐色化のブラウニング現象」が大変少なくUV光の照射でほぼ無色化できた時の個体写真なので、既にオーバーホールが終わった状態で撮っています。

中央写真は故意にワザと当初バラす前の状態で撮ったまさに「赤褐色化のブラウニング現象」真っ直中という個体の写真です。そして右端は同じ「初期型」ながらも、ご依頼者様からは「黄変化改善」として届いた個体の当初バラす前の状態を撮っていますが、これは「コーティング焼け」の部類であり「酸化トリウムのブラウニング現象とは異なる」場合です。

つまりUV光照射で光学硝子材に含有している「酸化トリウムのブラウニング現象低減を図る」場合は中央の色合いである事が確認事項になります。右端はコーティング焼けなので、UV光の照射を施してもおそらくほとんど改善を期待できません (もちろん無色透明に近い左端の状態ならやはり変化しない)。

何でもかんでも「黄変化」とネット上で解説してしまうから、右端の「コーティング焼け」の色合いなのにUV光の照射で改善できると期待してしまうワケです (もちろん改善できる場合もありますが初期型の場合は無色透明にはなりません)。

少々極端な例の写真を挙げて解説しましたが「赤褐色化と黄変化の違い」について少しでも ご理解頂けると、認識違いによってUV光の照射で改善できると期待してしまいガッカリする事は減るのではないかと考えます。

そもそも酸化トリウム材の変質を指して「ブラウニング現象」と実際に研究していた方が過去に居るワケなので、根拠がないままに現象結果を命名していないと当方は考えます。

逆に言うなら「コーティング焼けはレモンイエロー」くらいの気持ちで光学系内を覗き込んだほうが良いかも知れません(笑) そうしないとそろそろ製造後の年数として限界値に到達しているオールドレンズが多いので、黄色っぽい色合いを指して「え?これもアトムレンズ???」みたいな気持ちになってしまいますョね(笑)

↑今回扱った個体を完全解体した時のパーツ全景写真です。オーバーホール工程やこのモデルの当時の背景など詳しい解説はPancolar 50mm/f1.8 zebra《初期型》(M42)』のページをご参照下さいませ。

ここまで掲載したオーバーホール工程の写真は「全て過去扱い品/個体からの転載」です。オーバーホール済でヤフオク! 出品する際の個体写真とは一部に一致しない場合があります。

DOHヘッダー

ここからはオーバーホールが完了したオールドレンズの写真になります。

↑完璧なオーバーホールが終わりました。実は今回扱ったこの個体は同じ「初期型」モデルたる『Pancolar 50mm/f1.8 zebra《初期型》(M42)』の中でもさらに市場流通個体数が極めて 少ない「本当に初めの頃に生産されていた個体」だったのです!(驚)

製造番号から調べるとおそらく1967年に生産された個体ですが、以下一覧表の如く製造番号は「805xxxx〜」スタートです。

今まで10年間で当方が扱った個体の製造番号は「853xxxx〜854xxxx」に集中しており
(冒頭説明のとおり23本全てがこのシリアル値範囲内)、今回の個体の製造番号「84xxxxx」と言う「84番台」は初めてだったのです (累計では24本目)!(驚)

↑上の一覧表は以前にネット上の掲載写真から標準レンズ「Pancolar 50mm/f1.8」の括り として「初期型後期型」までを調査した時に作った製造番号を基にした表です。

すると各モデルバリエーションの「初期型/前期型/後期型」の製産時切替は一斉に始まったのではなく「各シリアル値の中に混在して出現してくる」事から、当時「並行生産していた」事が掴めます。

さらにこれらモデルバリエーション中の内部構造や使われている構成パーツなどをチェックすると「物理的に異なるカタチ/駆動方法」を採った設計の個体も混在している為、その並行生産していた工場は「別の工場が存在した」とみています。

この根拠はここで明示できませんが、旧東ドイツや旧ソ連の産業工業を専門に研究をしていらっしゃる諸先生方の論文を、以前読み漁った際に知り得た「産業工業5カ年計画に基づく増産体制」概念とその実際を把握しました。

要はことオールドレンズに絞れば、旧東ドイツにおいて最大手だったCarl Zeiss Jenaは「ベルリンの壁崩壊事件」が発生した1989年11月時点で唯一の存在に近かった事が掴めたからです (もちろん当時他にも光学メーカーは存在するが規模が匹敵する大手は存在しない)。

逆に言うなら長きに渡り配下に従えてきた「PENTACON (ペンタコン)」すら、1981年時点で吸収してしまったので、1989年時点のCarl Zeiss Jena従業員数は「44,000人規模」にまで 膨れあがっており、同じ規模に匹敵する同業者 (VEBのほう) は存在しなかったとみています。

するとそれら吸収合併していった様々な光学メーカーの製産設備や工場はそのまま温存して、実はCarl Zeiss Jena製品を造らせていた事が判明しています (良い例が同じく旧東ドイツのMeyer-Optik Görlitz)。Meyer-Optik Görlitzはそもそも敗戦時に光学精密機械VEBに含まれずに運が悪い事に軍需機械VEBに含まれてしまったため、自社工場を競合のCarl Zeiss Jenaに売却する事で光学精密機械VEBへの編入を叶えています。

このような事情があった為に配下のPENTACONへのオールドレンズ供給が優先され、結果的にMeyer-Optik Görlitz製オールドレンズの各モデルは次第にPENTACONブランドへとレンズの銘板を替えて消えていったのが分かりますね(涙)

さらに今回の個体のレンズ銘板をご覧頂くと「1st Quarity」など一級品を表すロゴマーク
になっており、本来Carl Zeiss Jena製品に多く刻印されていたハズのではありません。この当時の旧東ドイツCarl Zeiss Jena製やMeyer-Optik Görlitz製のオールドレンズを見ていくと「1st Quarity」は前者がで、後者がなので、時期として1967年となるとMeyer-Optik Görlitzが吸収合併する前年の話であり、もしかしたら既にMeyer-Optik Görlitzに造らせていたのかも知れませんね・・(笑)

ロマンが広がっていきます・・(笑)

↑光学系内の透明度が非常に高い状態を維持した個体です。LED光照射でもコーティング層経年劣化に伴う極薄いクモリが皆無です。

↑上の写真は今回扱った個体の光学系第1群 (前玉) 〜第4群 (後玉) をそれぞれ並べて撮った写真ですが、左側が当初バラした直後で「UV光の照射する前」です。一方右側が「24時間のUV光照射後」の写真です。

そもそもが「レモンイエロー」だったので、残念ながらUV光の照射を試みても1/3程度しか除去できずほとんど改善できていません。

申し訳御座いません・・。

従ってオーバーホール後の組み上がり時点でも相変わらず光学系内は「黄変化」したままで あり、極僅かに色合いの濃さが減ったかなと言うレベルです。この件、ご納得頂けない場合はご請求金額よりご納得頂ける分の金額を減額下さいませ。

申し訳御座いません・・。

↑光学系後群もスカッとクリアでLED光照射でも極薄いクモリが皆無です。

今回の個体は光学系の各群に使われている「締付環」が経年のメンテナンスで何度も反射防止黒色塗料が厚塗りされていたので、全て溶剤で除去しました。と言うのも次の写真で出てきますが、当初バラす前の最小絞り値「f22」の閉じ具合が「開きすぎ」で、実測したところ「f22に到達せず」だった為、その原因を探ったところ絞りユニットの固定環を最後まで締め付けていませんでした。

結果光学系前群も本来の正しい位置で格納されておらず、極僅かですが (1/2周程度) 締付を強くしてピント面の鋭さを確保しています。またその関係で合わせてヘリコイド (オスメス) のネジ込み位置も変更していたようで (おそらくよく理解している整備者の仕業)、適切な光路長から捉えたヘリコイドのネジ込み位置を「1つ分ネジ山をズラしていた」ので、これも適正化しました。

↑8枚の絞り羽根もキレイになり絞り環共々確実に駆動しています。絞り羽根が閉じる際は残念ながらご覧のように「歪なカタチ」で閉じていきますが、絞り値「f8」辺りまではそれほど酷くありません。

左写真は今回のこの個体をバラして始めた時に撮影しておいた「最初の最小絞り値f22の状態」ですが、バラす前の段階でここまで閉じきっていませんでした (もう少し開口部が大きめ/広め)。

またご覧のように「絞り羽根2枚分のキーが変形しており長方形に 閉じていく状態」でした。

オーバーホールの工程の中でその該当する2枚の絞り羽根を発見し「位置決めキー」の変形を正そうと試みましたが、残念ながら1枚分しか発見できず、もう1枚がどれなのか掴めません。もしかしたら絞り羽根のキーの変形ではなく「位置決め環側の穴の摩耗が原因」で絞り羽根が閉じていく時の傾きが変化しているのかしも知れません。

と言うのも再現性が低いので、位置決め環側の穴の摩耗のほうが因果関係としては強そうです。いずれにしてもハッキリしておらず、且つ完璧に改善できませんでした。

申し訳御座いません・・。

ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感が僅かに感じられるものの当方にて筐体外装の「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。「エイジング処理済」なのですぐに酸化/腐食/錆びが生じたりしません。

↑塗布したヘリコイドグリースは「黄褐色系グリース」を使っていますが、前述のとおりヘリコイドのネジ込み位置を1山分変更しています。その結果極僅かですがトルクムラが起きているようです。

と言うのも、これも再現性が低く何かが擦れている感触を感じてトルクが変わるので「一度再びバラして磨き研磨とグリース塗布をやり直した」のですが、やはり同じ現象が起きます。仕方なく「直進キーと直進キーガイド」のほうも同様「磨き研磨し直し」たのですが、変化がありません。

鏡筒にネジ込まれている「直進キー」のネジ山が僅かにバカになっていて硬締めできない状態になっているので (過去メンテナンス時に外した痕跡が残っています)、唯一考えられるのは「直進キー」のズレだと考えられますが対処できません。

申し訳御座いません・・。

この点もご納得頂けない場合はご納得頂ける分の金額をご請求額より減額下さいませ。スミマセン・・。

↑ご依頼内容であった「光学系内の黄変化改善」はままならず、さらに当初発生していなかった「距離環のトルクムラ」も起きてしまい、本当に大変申し訳御座いません。減額頂ける金額のMAXはご請求金額までなので「無償扱い」が最大になり、大変申し訳御座いませんが弁償などは対応できません。申し訳御座いません・・。

但し当初にバラす前に比べると「ピントの山のピークがより明確になった」と思うので、やはり半周分ですが光学系前群の格納位置が足りていなかったのが改善できたと思います。

無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。

もちろん光学系の光路長調整もキッチリ行ったので (簡易検査具によるチェックなので0.1mm単位や10倍の精度ではありません)、以下実写のとおり大変鋭いピント面を確保できました。電子検査機械を使ったチェックを期待される方は、是非ともプロのカメラ店様や修理専門会社様が手掛けたオールドレンズを手に入れて下さい当方の技術スキルは低いのでご期待には応えられません

↑当レンズによる最短撮影距離35cm附近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。

各絞り値での「被写界深度の変化」をご確認頂く為に、ワザと故意にピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に電球部分に合わせています。決して「前ピン」で撮っているワケではありませんし、光学系光学硝子レンズの格納位置や向きを間違えたりしている結果の描写でもありません (そんな事は組み立て工程の中で当然ながら判明します/簡易検査具で確認もして います)。またフード未装着なので場合によってはハレーション気味だったりします。

↑絞り環を回して設定絞り値「f2.8」で撮影しています。

↑さらに回してf値「f4」で撮りました。

↑f値は「f5.6」に上がっています。

↑f値「f8」になりました。

↑f値「f11」です。

↑f値「f16」ですが、極僅かに背景に「回折現象」の影響が現れ始めています。

 回折現象
入射光は波動 (波長) なので光が直進する時に障害物 (ここでは絞り羽根) に遮られるとその背後に回り込む現象を指します。例えば、音が塀の向こう側に届くのも回折現象の影響です。
入射光が絞りユニットを通過する際、絞り羽根の背後 (裏面) に回り込んだ光が撮像素子まで届かなくなる為に解像度やコントラスト低下が発生し、眠い画質に堕ちてしまいます。この現象は、絞り径を小さくする(絞り値を大きくする)ほど顕著に表れる特性があります。

被写界深度
被写体にピントを合わせた部分の前後 (奥行き/手前方向) でギリギリ合焦しているように見える範囲 (ピントが鋭く感じる範囲) を指し、レンズの焦点距離と被写体との実距離、及び設定絞り値との関係で変化する。設定絞り値が小さい (少ない) ほど被写界深度は浅い (狭い) 範囲になり、大きくなるほど被写界深度は深く (広く) なる。

↑最小絞り値「f22」での撮影です。大変長い期間に渡りお待たせし続けてしまい、本当に申し訳御座いませんでした。今回のオーバーホール/修理ご依頼、誠にありがとう御座いました。