◎ FUJI PHOTO FILM CO. (富士フイルム) EBC FUJINON・T 135mm/f3.5(M42)《爪有り》
こちらの個体にはレンズマウント面の「開放測光用の爪」が残っている状態のままでオーバーホールを施しています。この爪があるままで整備されて出品されることは非常に稀だと思いますので、お探しだった方は是非ともご検討下さいませ。
当時FUJICA (フジカ) の「FUJINON・T 135mm/f3.5」として発売されたモデル・バリエーションは、全部で3種類存在し「初期型」「前期型」「後期型」となり、当レンズはその中でマルチコーティングが施されて発売された「前期型」にあたります。
【モデル・バリエーション】「FUJINON・T 135mm/f3.5」
※爪はマウント面の開放測光用爪の有無
- 初期型:モノコーティング、爪「無」、総金属製
- 前期型:
マルチコーティング「EBC」、爪「有」、金属製銘板、金属製鏡胴、ビニル製ローレット - 後期型:
マルチコーティング「EBC」、爪「有」、樹脂製銘板、金属製鏡胴、ラバー製ローレット
別に同時にオーバーホールを施した個体を掲載しています (こちらのページ) が、このモデル「前期型」の距離環ローレットはラバー製ではなく「ビニル製」でした。
この「FUJINON・T 135mm/f3.5」には4群4枚のErnostar (エルノスター) 型構成の光学系が採用されています。従って非常にシャープなピント面を構成するのがこのErnostar型の特徴なのですが、今回のモデルでは11層にも及ぶマルチコーティング「EBC (Electron Beam Coating)」が施され、元気のよいメリハリ感のある発色性とコントラストが魅力です。ボケ味は決してトロトロとまではいきませんが、むしろアウトフォーカス部の滲み方が大人しめなので、誇張的にならない自然なボケ味の印象を受けます。Ernostar型モデルのファンの方にはよく知られた特徴でしょうか・・。
今回の個体はマウント面に有る「開放測光用の爪」を切削せずに残したままにしています。この「開放測光用の爪」は当時のフジカのフィルムカメラ専用に用意された「1mmほどの出っ張り (長さ4mmほど)」なのですが、この爪が有るまま現在のミラーレス一眼用M42マウントアダプタなどに装着してしまうと、ネジ込んでいった際の最後に1mmほどの隙間が空いてしまい無限遠が出ません (合焦しません)。さらにマウントアダプタにネジ込んだ際には、マウントアダプタのレンズマウント側の面に「引っ掻きキズ」が付いてしまう懸念もありますので、ご注意下さいませ。
ミラーレス一眼にマウントアダプタ経由装着される方は、別に出品している同型モデル (開放測光用の爪を切削した個体) をご検討下さいませ。フジカのフィルムカメラに装着されたい方には、オーバーホールも完了しており、一番適している個体だと思います。
オーバーホールのために解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載しています。
すべて解体したパーツの全景写真です。
ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。
構成パーツの中で「駆動系」や「連動系」のパーツ、或いはそれらのパーツが直接接する部分は、すでに当方にて「磨き研磨」を施しています (上の写真の一部構成パーツが光り輝いているのは「磨き研磨」を施したからです)。「磨き研磨」を施すことにより必用無い「グリースの塗布」を排除でき、同時に将来的な揮発油分による各処への「油染み」を防ぐことにもなります。また各部の連係は最低限の負荷で確実に駆動させることが実現でき、今後も含めて経年使用に於ける「摩耗」の進行も抑制できますね・・。
絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒 (ヘリコイド:オス側) です。光学系の硝子レンズは、たったの4枚しか装備していませんがErnostar型なので鏡筒自体はとても奥が深いです。
真鍮製のヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。無限遠が出なくなるので (合焦しなくなるので) 最後までネジ込んではイケマセン。このモデルには「無限遠位置調整機能」が装備されているので大凡のアタリで構いません。
鏡筒 (ヘリコイド:オス側) をやはり無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルには全部で11箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。
こちらはマウント部内部を撮影しています。既に内部の連動系・連係系パーツをすべて取り外して、当方による「磨き研磨」が完了しています。光学系がErnostar型なので、第3群と最後の第4群 (つまり後玉) との距離が長いので、このような奧の深いマウント部になっています。
マウント部内部にやはり個別に「磨き研磨」を施した連動系・連係系パーツを組み付けます。この部位でのグリースの塗布は絞り環の連係カム部分にしか極微量のグリースを塗っていません。当初はその他のパーツにも相応なグリースが塗られていました・・磨き研磨によりグリースに頼ることなく確実で負荷の掛からない連動・連係が再現されています (つまり生産時の状態に近づいたことになります)。
「磨き研磨」は極力グリースの類の塗布を少なくして、今後の経年使用に於いても「揮発油成分」が光学系まで回らないよう配慮した処置です。それは既に光学系、特にコーティングの劣化が相応に進行しており、さすがに硝子材だけはいくらメンテナンスと言えども、おいそれと何度も研磨することはできません (せいぜい当初生産時諸元値の1%以下程度までしか研磨できません)。それを考えるとグリースを塗ったくったり、或いは液化の早い滑らかな (粘性が軽めな) グリースばかりを好んで使うのもどうかと思います・・。
自分が使い倒してそれで終わりでいい・・と考えるならば仕方ありませんが、いつの日にか状態の良いオールドレンズ自体が入手困難な時代もやってくるでしょう。その時には、古いオールドレンズに替わって、最新の技術と設計思想で作られたマニュアルフォーカスの新たなレンズ (復刻版など) が全盛時代になるのでしょうか (オートフォーカスはまた別のお話として)・・しかし、その描写性は如何にも最新の画造りだけの世界にも感じ、古き良き時代の「個性」としての描写性は、 オールドレンズのひとつの魅力ではないかとも考えます。
マウント部に絞り環をセットしてマウント面側から「絞り環固定環」をネジ込んで固定します。上の写真では、鏡筒の裏側に飛び出ている2本の「アーム」に連結するための「コの字型パーツ」が2つ写っています・・絞り環操作と絞り連動ピンの押し込みによって、これらの2つのコの字型パーツが互いに動いて最終的に絞り羽根が閉じたり開いたりする仕組みです。
鏡筒から飛び出ている2本のアームです。奥側が絞り環で設定した絞り値で絞り羽根の開閉を制御する「絞り羽根制御アーム」で、手前側が直接絞り羽根の開閉を司る「絞り羽根開閉アーム」です。
上の写真 (3枚) は光学系前群のキズの状態を拡大撮影した写真です。1枚目は前玉の極微細な点キズを拡大撮影していますが、微細すぎてほとんど写っていません。2枚目は第2群の凸レンズ表面にある少々大きめの点キズです。3枚目は同じ第2群の極微細な点キズをピント位置をズラして撮りました。前玉からはこのキズは見えにくい状態です。
【光学系の状態】(順光目視で様々な角度から確認)
・コーティング劣化/カビ除去痕等極微細な点キズ:
前群内:20点以上、目立つ点キズ:10点
後群内:10点、目立つ点キズ:6点
コーティング経年劣化:前後群あり
カビ除去痕:あり、カビ:なし
ヘアラインキズ:あり
・その他:バルサム切れなし。前後群はLED光照射で視認できるコーティング劣化に拠る薄いクモリが第2群にあります。後玉にはコーティング層のカビ除去痕が複数あります。
・光学系内はLED光照射でようやく視認可能レベルの極微細な拭きキズや汚れ、クモリもありますがいずれもすべて写真への影響はありませんでした。
こちらは光学系後群 (このモデルでは後玉1枚しか存在しません) の状態を撮っています。極微細な点キズがありますが、それ以外に順光目視でも視認できるレベルのカビ除去痕が複数浮かび上がっています。全面ではないので写真への影響の懸念は無いと思います。
光学系の状態を撮影した写真は、そのキズなどの状態を分かり易くご覧頂くために、すべて光に反射させてワザと誇張的に撮影しています。実際の現物を順光目視すると、これらすべてのキズは容易にはなかなか発見できないレベルです。
これらの極微細な点キズは「塵や埃」と言っている方が非常に多いですが、実際にはカビが発生していた箇所の「芯」や「枝」だったり、或いはコーティングの劣 化で浮き上がっているコーティング層の点だったりします。当方の整備では、光学系はLED光照射の下で清掃しているので「塵や埃」の類はそれほど多くは残留していません (クリーンルームではないので皆無ではありませんが)。
光学系内については、何でもかんでも「カビや塵・埃、拭き残しと決めつける方」或いは「LED光照射した状態をクレームしてくる人」は、当方ではなくプロのカメラ店様や修理専門会社様などでオールドレンズのお買い求めをお勧めします。当方のヤフオク! 出品オールドレンズの入札/落札や、オールドレンズ/修理のご依頼などは、御遠慮頂くよう切にお願い申し上げます。
当方には光学系のガラス研磨設備やコーティング再蒸着設備が無く、キズやコーティングの劣化が全く無い状態に整備することは不可能です。
光学系前後群が組み付けられたので、距離環を仮止めして無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認をそれぞれ行えば完成間近です。
ここからはオーバーホールが完了した出品商品の写真になります。
オーバーホール済ではあまり出回らないモデルではないでしょうか・・市場価格が安めなので誰も整備などはしないのでしょうね。
光学系内は大変クリアなのですが、LED光照射では第2群の凸レンズにコーティング劣化に拠る薄いクモリが全面に渡って視認できます。普段撮影する写真への影響はこのページの最後に実写を掲載しているので、それでご確認頂けますが問題ないレベルです。
このモデルの「絞り羽根開閉幅制御環」の造り自体がお粗末なので、このモデルには「絞り羽根の開閉異常」を来した個体が最近は多くなってきています。絞り羽根もキレイになり確実に駆動しています。
ここからは鏡胴の写真になります。経年の使用感が多少感じられますが、当方の判定では「美品」としています。
【操作系の状態】(所有マウントアダプタにて確認)
・ヘリコイドのグリースは「粘性:中程度」を使用。距離環や絞り環の操作は大変滑らかになりました。
・距離環のトルク感は滑らかに感じ完璧に均一です。
・ピント合わせの際は極軽いチカラで微妙な操作ができるので操作性は非常に高いです。
【外観の状態】(整備前後拘わらず経年相応の中古)
・距離環や絞り環、鏡胴には経年使用に伴う擦れやキズ、剥がれ、凹みなどありますが、経年のワリにオールドレンズとしては「美 品」の当方判定になっています (一部当方で着色箇所がありますが使用しているうちに剥がれてきます)。
当方でもあまり扱わない焦点距離の「EBC FUJINON・T 135mm/f3.5」の「前期型」です。
このモデルのマウントは「M42 (プラクチカ・スクリュー)」なのですが、マウント面に1箇所当時のフジカのフィルムカメラ「ST801」以降に装着した際に連動する「開放測光用の爪」があります (上の写真で10時の位置)。長さ4mm高さ約0.8mm奥行1mmのこの「爪」が突出していると、ミラーレス一眼でマウントアダプタにネジ込んだ際にスキマが空いてしまい無限遠が出ません (合焦しない)。
今回出品のこの個体ではその「爪」を切削せずに残したままにしています。フジカのフィルムカメラに装着した場合には「開放測光機能」が正常に働きますのでそのままご使用下さいませ。
逆にミラーレス一眼にマウントアダプタ経由装着される場合には無限遠が出ない (合焦しない) ばかりか、マウントアダプタのレンズマウント面の側にネジ込んだ際の「引っ掻きキズ」などが付いてしまいますので、ご注意下さいませ。
当レンズによる最短撮影距離1.5m附近での開放実写です。後玉のカビ除去痕の影響も、或いは第2群のコーティング劣化に拠る薄いクモリ状の影響も、全く見受けられません。