◎ Canon Camera Co. (キヤノン) SERENAR 35mm/f3.2(L39)

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オーバーホール/修理ご依頼分ですが、当方の記録用として掲載しており
ヤフオク! 出品商品ではありません (当方の判断で無料掲載しています)。
(オーバーホール/修理ご依頼分の当ブログ掲載は有料です)


今回初めて扱うモデルですが、オーバーホールではなく光学系の清掃のみ承ったので完全解体しません。昨年11月の最後のオーバーホール/修理ご依頼受付で承った分の最後になります。半年以上もかかってしまい本当に申し訳御座いません。

本来は今月初めに即作業に取り掛かるつもりで準備していたのですが、緊急入院してしまい さらに遅れてしまいました。申し訳御座いません・・。

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1951年に発売されたライカ判ネジ込み式マウント「L39」に準拠したマウント規格で設計された準広角レンズ「SERENAR 35mm/f3.2 (L39)」です。仕様などはキヤノンのサイト (こちら) に掲載されているので、ご確認下さいませ。

モデルバリエーションとしては開放f値が「f2.8/f3.2/f3.5」と3種類も用意されているので、相応にこだわりがあったのでしょぅか。またモデルブランドである「SERENAR」は1953年からは「Canon Lens」にチェンジし、バリエーションも追加で「f2/f1.8/f1.5」とさらに拡充しているのでオドロキです(笑)

光学系は典型的な4群6枚のダブルガウス型構成です。他のモデル バリエーションもf3.5を除いて同じ4群6枚のダブルガウス型構成で設計してきているので、開放f値が明るくなっていく分4群6枚で
収めてしまった光学設計には、ただただ脱帽です。

右構成図は今回解体して光学系を清掃した際に、当方の手でデジタルノギスを使って逐一計測してトレースした構成図ですので、ネット上に案内されている構成図とは細かい部分でビミョ〜に異なります(笑)

当方が計測したトレース図なので信憑性が低いですから(笑)、ネット上の掲載図をご参考下さいませ。



上の写真はFlickriverで、このモデルの特徴的な実写をピックアップしてみました。
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)
※各写真の著作権/肖像権がそれぞれの投稿者に帰属しています/上記掲載写真はその引用で あり転載ではありません。

一段目
左端から円形ボケが破綻して滲んで背景ボケへと変わっていく様をピックアップしています。円形ボケは収差の影響を強く受けるので真円になりにくく歪ですが、エッジが破綻していく際は汚く滲まずに素直に溶けていくのでそれほど醜い印象になりません。ある意味よく制御された円形ボケの滲み方なのでは無いかと好印象です。

また開放f値「f3.2」と決して明るいモデルではありませんが、意外にも被写界深度は狭い印象です。

二段目
ここでのピックアップ写真がこのモデルの (光学系の) 特徴のような気がしますが、階調幅が相応に細かいのでグラデーションがとても滑らかな印象です。左側2枚の写真を観ても微妙なトーンの違いをちゃんと表現できているところがさすがです。特に右側2枚の写真を観ると分かりますが、明部のダイナミックレンジ耐性が高いので白飛びがギリギリまで耐え凌ぎ、ちゃんと階調を表現できているのがオドロキです。

他方、暗部の黒潰れがこのモデルの光学設計ではネックになっており、コントラストを維持しながらも表現できている明部とは打って変わってストンと黒潰れに堕ちてしまうのが難点です。

三段目
その健康は白黒写真に至っても同じ傾向を示し、やはり明部の耐性が高く細かい階調表現を維持しつつ白飛びを耐えますが、暗部は相当弱く特にコントラスト幅の高いシ〜ンでは何だか分からない写真になってしまいます。左から2枚目の写真を観ると分かりますが、写真に写っている天井や背景の壁面などのビミョ〜なト〜ンの違いを確実に表現できており、とてもリアルな写真として残っているのが相当なレベルです。

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。一部を解体したパーツの全景写真です。

↑オーバーホールのご依頼を受けていないので一部を解体しただけでの全景写真です。絞り環、及び絞りユニットやその機構部、或いはヘリコイド (オスメス) など、凡そ駆動系は特に問題なくそのままご使用頂けます。

DOHヘッダー

ここからは作業が完了したオールドレンズの写真になります。

↑筐体外装や内部構成パーツのほとんどが真鍮 (黄銅) 製なので、コンパクトな筐体サイズながらズッシリと重みを感じる印象です。

個人的にはこのまま「SERENAR」ブランドを続けて、何もかも「Canon Lens」に統一してしまわないほうが良かったのではないかと少々残念です。但し、そうは言っても1950年代の レベルでよくもこれだけ精度の高い製品をちゃんと設計して製産できたものだと、本当にオドロキです。戦後僅かまだ5年しか経っていない状況ですから、まだまだ何処も彼処も都市部は爆撃による焼け野原の面影が残っていた頃だと思います。

実際当方の子どもの頃の記憶にはまだ軍帽を被っていた戦病者の募金活動 (要は乞食) が街中で見られた時代です。子どもなら5円硬貨を出せば何処までもバスに乗れ(笑)、しかもバスにはちゃんと車掌さんが同乗していた時代です (いわゆる前にボンネットがあるバスの時代)(笑)

やがてすぐに車掌が居なくなって、さらにボンネットバスも引退し新しいカタチのワンマン バスへと変わっていきました。引退したボンネット付バスはそのまま廃車で潰されたのかと 思いきや、何と台湾やフィリピン、シンガポールなどの今で言うASEAN諸国に中古品ながらもちゃんと輸出され、その後数十年に渡って活躍していたのだと言うからオドロキです (日野 自動車などのバス)。

いわゆる「高度経済成長」真っ直中だった時代なのでしょうが、戦後僅かの時間しか経って いないのに何だか今よりも社会には活気が溢れていたような記憶があります(笑)

それはそうですョ! 何よりも命の心配をしなくていいワケですから、それだけでも活気が 溢れるのは当然な話です。当方の父などはアメリカ軍の戦闘機による機銃掃射で友達と一緒に逃げていて友達だけ撃たれて即死したワケで、もうあと数年早く生まれていればおそらく学徒出陣で参戦して何処ぞの戦地で戦死していたやも知れません (もちろんそうすれば当方は存在 しませんが)。

戦闘機による機銃掃射と言っても、おそらくグラマンか何かですから20mm機銃ともなれば、その銃弾が当たった時は即死するのは当たり前で、とても20mmの弾丸そのままの大きさではなく10cm以上もの大きな穴となってしまうから、それで生きていられるはずがありません。

目の前の人々がバタバタと血飛沫を放って倒れていっても何の違和感も無く、逃げ回るので 精一杯だったと話を聞いた記憶があります。また叔父は招集され (赤紙) 大日本帝国陸軍に入り当時のビルマ戦線で負傷して、一足先に復員できたから良かったです。しかし自分が在籍していた部隊は全滅してしまった為、多くを語ってくれませんでした。

そんな苦難の時代を生き抜き、且つ戦後の大変な時期にちゃんと真面目に正直に仕事に励み、みんなで一致団結して目標に臨んで達成していった先達の熱き情熱と信念には、本当に頭が 上がりませんね(涙)

今の世の中のように、いくら自分の人生と言えどもどうにでも逃げようと思えば逃げ道がある時代とは全く違います。食べていくだけでも大変で、そんな中でも目標に向かって真っ直ぐ 突き進む気概が「昭和一桁世代」まではあったのではないでしょうか。まさに「真の日本人」とはその世代で終わりを告げてしまったのかも知れませんね(泣)

この頃の日本製オールドレンズを触ると、そんな感慨深い想いが込み上げてきます・・(涙)

↑光学系内の透明度が非常に高い状態を維持した個体です。今回の修理依頼の目的であった光学系内の清掃は無事終わりましたが、残念ながら光学系後群の第3群貼り合わせレンズにはバルサム切れが生じており、ご指摘の油汚れは「バルサム剤の白濁」なので、清掃では一切除去できません。

また上の写真のように硝子レンズの外周部分に白っぽい箇所がグルッとありますが、これは硝子レンズコバ端の塗膜の浮きなので、これも当方では対処できません (一旦剥がして再焼き付けが必要)。

↑この後群側の貼り合わせレンズに白濁箇所が残っています。申し訳御座いません・・。

↑鏡胴「前部」も「後部」も解体していないのでそのままです。絞り羽根には油じみがありません。

↑多少経年の汚れや手垢などは中性洗剤で拭いましたが、やはり解体していないのでそのままです。ご指摘の通りヘリコイド (オスメス) のトルク感も適切な印象なので手を入れていません。

↑光学系だけバラして清掃し再び組み戻しましたが、無限遠位置などは当初位置のままで変更していません。

無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。

もちろん光学系の光路長調整もキッチリ行ったので (簡易検査具によるチェックなので0.1mm単位や10倍の精度ではありません)、以下実写のとおり大変鋭いピント面を確保できました。電子検査機械を使ったチェックを期待される方は、是非ともプロのカメラ店様や修理専門会社様が手掛けたオールドレンズを手に入れて下さい当方の技術スキルは低いのでご期待には応えられません

↑当レンズによる最短撮影距離1m附近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。

各絞り値での「被写界深度の変化」をご確認頂く為に、ワザと故意にピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に電球部分に合わせています。決して「前ピン」で撮っているワケではありませんし、光学系光学硝子レンズの格納位置や向きを間違えたりしている結果の描写でもありません (そんな事は組み立て工程の中で当然ながら判明します/簡易検査具で確認もして います)。またフード未装着なので場合によってはフレア気味だったりします。

↑絞り環を回して設定絞り値「f4」で撮影しています。

↑さらに回してf値「f5.6」で撮りました。

↑f値は「f8」に上がっています。

↑f値「f11」です。

↑f値「f16」での撮影ですが、ピント位置が当初の手前側ヘッドライトから後ろ方向へズレ始めています。いわゆる「焦点移動」が起きているようです。また「回折現象」の影響も現れ始めています。

 回折現象
入射光は波動 (波長) なので光が直進する時に障害物 (ここでは絞り羽根) に遮られるとその背後に回り込む現象を指します。例えば、音が塀の向こう側に届くのも回折現象の影響です。
入射光が絞りユニットを通過する際、絞り羽根の背後 (裏面) に回り込んだ光が撮像素子まで届かなくなる為に解像度やコントラスト低下が発生し、眠い画質に堕ちてしまいます。この現象は、絞り径を小さくする(絞り値を大きくする)ほど顕著に表れる特性があります。

被写界深度
被写体にピントを合わせた部分の前後 (奥行き/手前方向) でギリギリ合焦しているように見える範囲 (ピントが鋭く感じる範囲) を指し、レンズの焦点距離と被写体との実距離、及び設定絞り値との関係で変化する。設定絞り値が小さい (少ない) ほど被写界深度は浅い (狭い) 範囲になり、大きくなるほど被写界深度は深く (広く) なる。

↑最小絞り値「f22」での撮影です。大変長い期間に渡りお待たせし続けてしまい本当に申し訳御座いませんでした。お詫び申し上げます。

この後は2本目のElmarの作業に入ります。