◎ CARL ZEISS JENA (カールツァイス・イエナ) PRAKTICAR 80mm/f1.8 MC(PB)
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この当時のCARL ZEISS JENA製ポートレートレンズと言えば有名なのは「PANCOLAR auto 80mm/f1.8 MC (M42)」ですが、このモデルには設計時の配慮の無さから経年でトラブルに陥る問題箇所が幾つかあります。その結果市場に出回っている非常に多くの個体で「絞り羽根開閉異常」或いは「距離環のトルクムラ」が発生しています。
さらに厄介なのがそれら不具合を改善させるにも、設計の問題から来ている経年摩耗などによりどうにも改善できないことが多く、特にオーバーホール/修理のお問い合わせを頂くと躊躇される方が多いのが現実です (概算見積額が割高になるから)。
ポートレートレンズPancolarがM42マウントなのに対して、今回扱う『PRAKTICAR 80mm
/f1.8 MC (PB)』は初めての扱いになりますが、PRAKTICAバヨネットマウントなので必然的に内部構造も全く別モノと容易に推測できます。
オーバーホール/修理のご依頼内容は「絞り羽根が閉じない/開放状態のまま」で基本的に正常な個体との事でしたが、作業に入ると残念ながらとても正常とは判定できない状況であり、 正直なところ仮に当方で判定するなら「ジャンク扱い」になるような個体でした。
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モデルとしてはレンズ銘板部分にCARL ZEISS JENA銘が刻んである為CARL ZEISS JENA製オールドレンズで間違いないのですが、実はこの当時のカタログを見ると必ず「PENTACON」のロゴが附随しています。左は当時のPRAKTICAバヨネットマウントのレンズカタログですが、右横にロゴが印刷されています。
さらにカタログの最後のページには上記のような「VEB PENTACON」のロゴと共にドイツ語で記載されています。つまりそもそもPRAKTICAバヨネットマウントのシステム自体がPENTACONの一眼レフ (フィルム) カメラシステムとして登場しているので、必然的にCARL ZEISS JENAから供給されていたPENTACON用の交換レンズ群と言えます。
しかしここで詳しい方はすぐに気がつきます。当時PENTACON製のオールドレンズも数多く 既に発売されていましたから、どうしてワザワザCARL ZEISS JENAから敢えて供給を受けなければイケナイのか、疑問が湧いてきます。
そうですね、旧東ドイツの「VEB PENTACON」は既に1970年代に入ると経営難に陥っており、ついには1981年の「第6次5カ年計画」の時点で上位格であるCARL ZEISS JENAに吸収合併し消滅してしまいます (旧東ドイツは旧ソ連による共産主義体制を執っており、産業工業は全て国家一元管理され5カ年計画に基づく計画経済体制を戦後から進めていた)。
従ってPRAKTICAバヨネットマウントシステムの多くのモデルがCARL ZEISS JENAからの供給に頼らざるを得ない状況だったことが覗えます。
ネット上の解説などを見るとたいていの場合でCARL ZEISS JENA製「PANCOLAR auto 80mm/f1.8 MC (M42)」のPRAKTICAバヨネットマウント版が今回のモデル『PRAKTICAR 80mm/f1.8 MC (PB)』と案内されています。
確かに光学系の構成自体は互いに近似しているのですが、そもそも
諸元値が違います。
Pancolarのほうは最短撮影距離:83cmに対し、PRAKTICARは最短撮影距離:65cmですし、無限遠位置「∞」からの距離指標値刻印も僅かに異なるので、自ずと光学系の設計自体が異なると結論できます。
光学系は5群6枚のパンコラー型構成で、右図はネット上でよく見かける構成図からトレースしたものです。
PANCOLAR auto 80mm/f1.8 MC (M42)のほうは、今までに扱いがあるものの光学系を計測していないので現物からトレースした構成図がありません。
一方今回のモデル『PRAKTICAR 80mm/f1.8 MC (PB)』の構成図が
右図です。
一見すると同一のように見えますが、実は第1群 (前玉) からして厚み/曲率が全く違っており、一番の相違点は第5群 (後玉) がネットでは凸平レンズとして案内されていますが、現物は両凸レンズで内側の曲率が多く外側はほぼ平坦に近いながらも凸レンズでした。
上の写真はFlickriverで、このモデルの特徴的な実写をピックアップしてみました。
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)
※各写真の著作権/肖像権がそれぞれの投稿者に帰属しています。
◉ 一段目
左端からシャボン玉ボケが破綻して円形ボケへと変わっていく様をピックアップしていますが、そもそも明確なエッジを残したままシャボン玉ボケを表出させることが非常に難しいようで、且つ収差の影響や経口食から歪んだ円形ボケに至ります。
◉ 二段目
左側2枚は収差ボケとしてピント面していますが、アウトフォーカス部の滲み方が急に汚く崩れるので、背景には多少気を遣う必要があるかも知れません。特に2枚目の写真を見ると円形ボケが「玉ねぎボケ」状態に二重になって見苦しく写っています。ダイナミックレンジが相当広いので明暗部がギリギリまで堪え凌いでくれます (右側2枚)。
◉ 三段目
焦点距離がポートレートレンズ域ですから当然ながら人物撮影が得意なのですが、そもそも描写の質として同じCarl Zeiss Jena製でもPancolarとは全く異なる画造りに仕上がっています。Pancolarのほうが無難に (優等生的に) 繊細感を漂わせつつもキレイにまとめ上げていくのに対し、PRAKTICARのほうは他の焦点距離同様に独特なカラーリングの傾向が掴めます。いわゆる「旧東ドイツ製オールドレンズの色/味」とでも言いたくなるような一種独特な画造りなのがまた大きな魅力です。
オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真ですと言いたいところですが、残念ながら完全解体できませんでした。
↑上の写真は一部解体の全景写真ですが、鏡胴「前部」の「ヘリコイド (オス側)」→「絞り
ユニット」→「光学系前群」→「フィルター枠」に至るまでが全く解体できていません。
冒頭でご案内したとおり、今回のオーバーホール/修理ご依頼は「絞り羽根が閉じない/開放状態のまま」との事でしたが、バラす前に現物をチェックすると以下の事柄が確認できました。
【当初バラす前のチェック内容】
① 距離環の無限遠位置が実際は7目盛分ほどオーバーインフ状態 (2m手前で無限遠合焦)。
② 距離環を回した時トルクムラがある。
③ フィルター枠から続く鏡筒カバーが外れない。
④ 絞り羽根に油じみがある。
⑤ 絞り羽根が開放状態のまま閉じていかない (絞り連動レバー操作で閉じる)。
⑥ 完全開放状態の時に絞り羽根が顔出ししている (開ききらない)。
⑦ 最小絞り値「f16」時に完全に閉じきってしまう (入射光がほとんど入らない)。
【バラした後に確認できた内容】
⑧ 鏡胴「前部」からネジ (小) が1本落ちてきた。
⑨ 「開閉アーム」が外れている。
⑩ 「直進キー」が僅かに変形している。
⑪ 光学系第2群のバルサムがハミ出ている。
⑫ ヘリコイド (オス側) が外れている。
・・とこれだけ問題点が出てきたので、当方ではこの状態を「正常」とは判定していません。少なくとも「絞り羽根の開閉異常」が発生しており、特に最小絞り値「f16」時に完全に閉じきっている状態が、全く絞り羽根を制御できていない証です (正しい諸元値としてここまで
閉じきってしまうモデルはあまり多くない)。
また一般的にオールドレンズはオーバーインフの設定で (過去メンテナンス時に) 仕上げられていることが多いですが、今回の個体はさすがに「7目盛分」も無限遠位置が手前側にズレていると、最短撮影距離:65cmがさらにもっと短くなると同時に本来の描写性を逸脱した収差の影響を受けた画に堕ちてしまっていると考えられます。
従って当方ではこのような場合「ジャンク扱い」として受け取っています。
↑ヘリコイド (オス側) から続く鏡胴「前部」ですが、フィルター枠を兼ねる「鏡筒カバー」には1箇所イモネジが締め付けられています (グリーンの矢印)。しかし今回の個体を見るとそのネジ穴にイモネジが入っていません。
また「ヘリコイド (オス側)」が浮いており、強く回すと回ってしまう状況ですから距離環を回して操作しているうちにどんどん無限遠位置がズレてしまいオーバーインフ量が多くなるか
下手すれば逆にアンダーインフ状態に陥ります。
「鏡筒」から「開閉アーム」が飛び出ていますが、その隙間から小さなネジが1本落ちてきました。その結果「開閉アームが外れている」状態になっています。おそらく解体する前の状態でそのネジが挟まっていたので「開閉アーム」がマウント面の「絞り連動レバー」を操作することで絞り羽根を閉じさせることができていたようです (現状絞り羽根は制御不可能な状態)。
↑実際にその落下した小さなネジを添えて撮影しました (グリーンの矢印)。さらにヘリコイド (オス側) の一部には、おそらく「エポキシ系接着剤」で接着している箇所があります (ブルーの矢印)。
このモデルが製産されていた1981年当時には、まだエポキシ系接着剤は出回っていなかったハズなので、この接着は過去メンテナンス時に施されたものと推測できます。
結局、これ以上解体することができないので「絞り羽根の油染み」清掃もできず、且つ絞り羽根の開閉自体が「開閉アーム」が外れてしまったので一切制御できません。
ここから解体できない原因は、フィルター枠を兼ねる「鏡筒カバー」が回していくと途中で固くなってしまい外せないからです。「鏡筒カバー」を外さなければ光学系第1群〜第2群の格納筒を外せませんし、且つ絞りユニットを取り出すことができません。もちろん、ヘリコイド (オス側) の固定もできません。
つまりこのモデルは「鏡筒カバー」が外せないと何も処置できません・・(涙)
↑ということで悶々としながら4時間ほどあ〜だこ〜だいろいろ試して何とか「鏡筒カバー」を外そうとしましたが全くダメです。
4時間後に諦めて、絞り羽根の油染みを綿棒で拭う方法で清掃を行い、ヘリコイド (オス側) は過去メンテナンス時と同じ手法でエポキシ系接着剤で再接着するしか方法がありません。
フィルター枠を兼ねる「鏡筒カバー」を回せるだけ回して隙間を作り、そこにエポキシ系接着剤を流し込んでヘリコイド (オス側) を固定させようと試していたところ気がつきました!(笑)
「鏡筒カバー」は「鏡筒」にネジ込まれているのですが、回していくと途中で「グリグリ感」を感じる箇所が2箇所ありました。それでハッと気がつきました!(笑)
ネジ山が内部で削れていて「鏡筒カバー」を外す為に回していく途中の「グリグリ」の箇所でネジ山が一つズレてしまうので固くなって止まってしまう・・と推測しました。
(グリグリ感は手で掴んだまま回していく途中でグリグリと膨れあがるような感触)
つまりその膨れあがる箇所で強制的にネジ山をもとのネジ山にハメ込んだまま回せば、きっと外れると推測しその作業を行いました。
キ〜キ〜音を伴いながら目一杯のチカラを入れてグリグリ箇所で1cmずつズラしていきます (人力でできるギリギリの固さなので1cmしか動かない)。2時間ほど頑張って回したところいきなりスルスルと回り始めてついに外れました!(涙)
「鏡筒カバー」さえ外れればこっちのものです。光学系第1群〜第2群の格納筒を取り出して絞りユニットを外して解体しました。
上の写真は絞りユニット内部で使う「開閉環と開閉アーム」です。グリーンの矢印で指し示した箇所にエポキシ系接着剤がビッチリ残っています。
実際には、これら「開閉環/開閉アーム」だけではなく、他にヘリコイド (オス側) の一部にもエポキシ系接着剤が塗布され接着されていました。
剥がしたそのエポキシ系接着剤のカスを撮影したのが左写真です。このような乳白色の (半透明な) 塊になるのはエポキシ系接着剤の特徴だと考えます。
結局、過去メンテナンス時に「開閉環」に「開閉アーム」を固定する際、2箇所締め付け用の穴が用意されているのに、使った締付ネジは「1本だけ」だったことがこれで判明します。つまりエポキシ系接着剤で互いに接着した上でネジ1本で締め付け固定したのではないでしょうか。
ところが、その1本のネジはネジ山が適合しておらず締め付けできないのです (実際に締め付けを試しましたが締め付けできません)。
つまりこれらの事柄から、過去メンテナンス時に「締付ネジ (2本)」を紛失したのではないかと推察しています。それゆえ替えのネジを用意したもののネジ径が適合しておらず欠落してしまったのではないでしょうか。そしてそれを知っていたからこそ過去メンテナンス者はエポキシ系接着剤で接着したのだと考えられます。
何と浅はかな「ごまかしの整備」をしているのでしょうか・・(怒)
↑さらに上の写真は光学系第2群の貼り合わせレンズを撮っていますが、赤色矢印で指し示した硝子レンズコバ端に「バルサム剤」が相当量はみ出しており、格納筒から外れませんでした。
この貼り合わせレンズを外したいと考えた理由は、覗き込んだ時に格納筒の中で隙間 (0.3mm前後) があるように見えたので、紙を差し込んだところ入っていった為に「第2群が浮いたままになっている」と考えたからです。
しかし、締付環を外しても第2群はビクとも動かず、まるで接着されているようだったのでその原因が上の写真です。おそらく過去メンテナンス時にバルサム切れの処置を施したのではないでしょうか (つまり一旦剥がしてから再接着)。
当方ではバルサム切れの処置はできないので、このコバ端からはみ出しているバルサム剤を
キレイに除去してから組み込みました。
ちなみに、バラした時点で過去メンテナンス時に塗布していたヘリコイドグリースは「白色系グリース」であり、既に経年劣化進行から「濃いグレー状」に変質していました。前述のようにバルサム切れの対処ができる点も考え合わせると、過去メンテナンス者はシロウトではなく「プロの仕業」と推測できます。
オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。
↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒です。このモデルはヘリコイド (オス側) が別に存在するので独立しています。
絞り羽根には表裏に「キー」と言う金属製突起棒が打ち込まれており (オールドレンズの中にはキーではなく穴が空いている場合や羽根の場合もある) その「キー」に役目が備わっています (必ず2種類の役目がある)。製産時点でこの「キー」は垂直状態で打ち込まれています。
◉ 位置決めキー
「位置決め環」に刺さり絞り羽根の格納位置 (軸として機能する位置) を決めている役目のキー
◉ 開閉キー
「開閉環」に刺さり絞り環操作に連動して絞り羽根の角度を変化させる役目のキー
◉ 位置決め環
絞り羽根の格納位置を確定させる「位置決めキー」が刺さる環 (リング/輪っか)
◉ 開閉環
絞り羽根の開閉角度を制御するために絞り環操作と連動して同時に回転する環
↑絞りユニットの構成パーツを順番に並べて撮影しています。「絞りユニット」と「位置決め環」で「開閉環」をサンドイッチして締め付け固定するので、結果的に「開閉環だけが回る」仕組みです (だから絞り羽根が角度を変えて開閉する)。
↑前出のエポキシ系接着剤でガチガチに接着されていた接着剤をマイナスドライバーで削ぎ落としてから(泣)、当方による「磨き研磨」を行い代用の (ちゃんとネジ径が適合する) 締付ネジを2本用意して「開閉アーム」を「開閉環」に締め付け固定しました (グリーンの矢印)。
↑こんな感じで6枚の絞り羽根が絞りユニットにセットされます。当初バラす前のチェック時点で、最小絞り値「f16」では上の写真よりももっと閉じきっていたので「異常」だと考えます。
↑鏡筒の周囲にはヘリコイド (オス側) が締め付け固定されるので、その順番で撮影しました。「鏡筒」には両サイドに「直進キーガイド」なる溝が用意されており、そこを板状パーツである「直進キー」が行ったり来たりスライドするので、距離環を回すと鏡筒が繰り出されたり/収納したりする仕組みです (グリーンの矢印)。
◉ 直進キー
距離環を回す「回転するチカラ」を鏡筒が前後動する「直進するチカラ」に変換する役目
↑ヘリコイド (オス側) を締め付け固定したところですが、グリーンの矢印で指し示した箇所のネジ山が削れています。このネジ山が削れている為にフィルター枠を兼ねる「鏡筒カバー」が外れなかったワケです。
↑距離環を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。
当初バラした直後は、この距離環のネジ込みが適正ではなくミスっていたので過去メンテナンス時に間違えていると思います。仮に今回の問題点⑫のヘリコイド (オス側) が外れている現象が無かったとしても、ここの工程でミスっていたので僅かに無限遠位置に到達していないアンダーインフ状態だったことが推察できます (つまり無限遠の写りが甘いピントの状態)。
なお、距離環の裏側が上から下まで全て「ヘリコイド (メス側) のネジ山」なので、この当時の他のCARL ZEISS JENA製オールドレンズと同様経年使用で落下やぶつけたりしていると (そのような痕跡/打痕が距離環に残っていると) ヘリコイド (メス側) が真円を維持していないことになるので、必然的に「トルクムラ」に至ります。
従って、この当時のCARL ZEISS JENA製オールドレンズを手に入れる際はキレイな鏡胴の個体を入手しないとトルクムラが生じていた場合、メンテナンスしても改善しません。ヘリコイド (メス側) のネジ山が真円を維持していなかった場合、どんなに軽めの粘性のヘリコイドグリースを塗布してもトルクムラが解消するとは言えません。
↑こんな感じでヘリコイド (オス側) がネジ込まれて、且つ「直進キー」もグリーンの矢印のようにヘリコイド (オス側) に対して刺さります (両サイドに1本ずつ刺さる)。
↑距離環を回して最短撮影距離:65cmまで鏡筒を繰り出した時のヘリコイド (メス側)、つまりは距離環の裏側 (内部) の状態を撮影しました。最短撮影距離の位置で (鏡筒を最大限に繰り出した状態で)、ちゃんと距離環がカツンと突き当て停止する為、それを良いことにカツンカツンと停止させつつ操作してしまいますが(笑)、実は内部はこんな状態になっています。
ご覧のように「直進キーの先端部分」だけで辛うじてヘリコイド (オス側) が引っ掛かって停止しているだけなので (グリーンの矢印)、この状態でフィルター枠を強く回すとアッと言う間に「直進キーが変形」してしまいます。
特にフィルターを固く締め付け過ぎた為にチカラを入れて外そうなどとすると、アッと言う間に壊しますね(怖)
従って、無限遠位置側「∞」でカツンと停止させるのは問題ありませんが、最短撮影距離位置側でいい調子になって停止させているとトルクムラに至ることがありますから、特にこの当時のCARL ZEISS JENA製オールドレンズのモデルの場合には、多少なりとも気配りしつつ操作して頂いたほうが安心です。
↑絞り環には「制御環」が附随し、その「制御環」の途中に用意されている「なだらかなカーブ」にマウント部内部にある「カム」が突き当たることで、設定絞り値が決まる仕組みです。
「なだらかなカーブ」の麓部分が最小絞り値側になり、勾配 (坂) を登り切った頂上が開放側になります (ブルーの矢印)。ここの「なだらかなカーブ」部分のパーツを「開閉幅制御キー」と呼んでいますが、過去メンテナンス時の微調整自体がやはりミスっており、絞り羽根の開閉角度が違っていました (今回のオーバーホールで適正な位置で締め付け個体しています)。
↑こんな感じで絞り環はマウント部内部に用意されている「カム」に連係し (ブルーの矢印)
且つ「絞り連動レバー」が動く仕組みです。
↑こんな感じでマウント部と絞り環がセットで完成します。スプリングが組み込まれているので「絞り連動レバー」は戻るチカラが附随します。
↑完成したマウント部を組み込んで、この後は光学系前後群を組み付けてから無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行えば完成です。
ここからはオーバーホールが完了したオールドレンズの写真になります。
↑当初バラした際は4時間がかりで挑戦したものの「鏡筒カバー」が全く外れなかったので諦めましたが「観察と考察」により因果関係を突きとめられ、バラすことが叶いました (バラせばこっちのものです)(笑)
↑ほんの微かに浮いていた (隙間があった) 光学系第2群も確実に最後までキッチリ格納し、ピント面もより鋭くなりました (ピントの山がスパッと来ます)。光学系内の透明度が非常に高い状態を維持した個体です。LED光照射でもコーティング層経年劣化に伴う極薄いクモリすら皆無です。
↑光学系後群側も透明度が高く、やはり極薄いクモリが皆無です。
↑ようやく絞り環操作に連動して絞り羽根が開閉するようになりました。当初閉じきっていた不正な絞り羽根制御は、キッチリ改善させて本来の正しい絞り値で絞り羽根が開閉するよう調整しました。
ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感が僅かに感じられるものの当方にて筐体外装の「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。「エイジング処理済」なのですぐに酸化/腐食/錆びが生じたりしません。
↑当初バラした直後は、過去メンテナンス時に塗布されていた「白色系グリース」が経年劣化に拠り「濃いグレー状」に変質しており、ヘリコイド (オスメス) のネジ山には微細な摩耗粉が混じっていました (透明な溶剤に垂らすと微細な金属粉が底に溜まる)。
実際は「直進キー (2本)」も極僅かに変形しており (捻れ現象) その影響が残っている為、距離環を回すと極僅かにトルクムラを伴います。
今回のオーバーホールで塗布したヘリコイドグリースは「黄褐色系グリース」を使い「粘性:中程度+軽め」を使い分けて塗っているので、距離環を回すした時のトルクは「普通」人により「重め」です。一部にトルクムラが出ますが「ほぼ全域に渡り均一に近いトルク感」になるよう、何度も何度も組み直してトルク調整しました。
もちろん極軽いチカラだけでピント合わせできるので操作性がだいぶ良くなっています。特にこのモデルは鋭いピントの山がアッと言う間で一瞬です。さらにスパッとピントが決まるようなイメージの合焦なので、ピント合わせが気持ち良く楽しめるようなトルク感に仕上げています(笑)
↑結局、ヘリコイド (オス側) がズレてしまった為に無限遠位置が7目盛分もオーバーインフ状態に陥り、且つ過去メンテナンス時にヘリコイド (メス側) のネジ込み位置までミスっていたことから無限遠位置が全くずれたままの個体でした。
そもそも過去メンテナンス時に「鏡筒カバー」のイモネジを取り外さずに思いっきり回したので、前述のとおり鏡筒のネジ山が削れてしまい「鏡筒カバー」が外せない因果関係に至りました。代用のネジもネジ径が違いますし、あまり真剣に整備しているメンテナンスではなかったのかも知れませんね。
おかげでその尻ぬぐいをさせられるハメに陥り、しかも2回分のオーバーホールをしてしまったので (当初は一部解体状態からの組み上げ)、時間のムダと共にタダ働きでした(笑)
無限遠位置まで探すハメになりだいぶ時間ばかり掛かってしまいました・・(泣)
無限遠位置 (適正位置を調査/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。
もちろん光学系の光路長調整もキッチリ行ったので (簡易検査具によるチェックなので0.1mm単位や10倍の精度ではありません)、以下実写のとおり大変鋭いピント面を確保できました。電子検査機械を使ったチェックを期待される方は、是非ともプロのカメラ店様や修理専門会社様が手掛けたオールドレンズを手に入れて下さい。当方の技術スキルは低いのでご期待には応えられません。
↑なお、上の写真のとおり今度は組み上げの際に「鏡筒カバー」が最後までネジ込めません。グリーンのラインで指し示した「約5mm」ほどの空間が光学系第1群〜第2群の格納筒との間に隙間として残っています (本来はフィルター枠が前玉の締付環にピタリと接触する位置までネジ込まれるのが正しい)。
申し訳御座いませんが、これ以上ネジ込もうとチカラを加えると、再び「直進キーの変形」或いは絞り羽根開閉動作の不具合などに至ってしまうのでこのままで終わりとしました。現状「鏡筒カバー」は固まっている状態なので回りません。ご使用に際し何も問題になる要素はありませんが、前述のとおり「フィルター着脱」の時だけは硬く締め付けたりしないようご留意下さいませ。
↑当レンズによる最短撮影距離65cm付近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。
この実写はミニスタジオで撮影していますが上方と右側方向からライティングしています。その関係でフードを装着していない為に絞り値の設定によりハレ切りが不完全なまま撮影しています。一応手を翳していますがハレの影響から一部にコントラスト低下が出てしまうことがあります (簡易検査具による光学系検査を実施済で偏心まで含め光軸確認は適正/正常)。
↑最小絞り値「f16」での撮影です。極僅かに「回折現象」の影響が出始めています。
◉ 回折現象
入射光は波動 (波長) なので光が直進する時に障害物 (ここでは絞り羽根) に遮られるとその背後に回り込む現象を指します。例えば、音が塀の向こう側に届くのも回折現象の影響です。
入射光が絞りユニットを通過する際、絞り羽根の背後 (裏面) に回り込んだ光が撮像素子まで届かなくなる為に解像度やコントラスト低下が発生し、眠い画質に堕ちてしまいます。この現象は、絞り径を小さくする(絞り値を大きくする)ほど顕著に表れる特性があります。
大変長い期間に渡りお待たせし続けてしまい、本当に申し訳御座いませんでした。今回のオーバーホール/修理ご依頼、誠にありがとう御座いました。