CANADA LEITZ (ライカ) LEITZ SUMMICRON – R 50mm/f2(LR)写真

Leitz-logoヤフオクでのライカレンズ出品は今回が初めてになります。少ない資金でやり繰りしているので、なかなか手が出させません。それでも、ありがたいことに、今までに数本レベルですが「オーバーホール/修理」のご依頼でライカのレンズを扱っています。今回も同じでしたが、さすがライカのレンズは「造り」「構造化」「質」ともに考え方から拘り方まで、すべてに於いて違いますね・・。そしてその違いは描写性にも明確に現れており、やはり高額品であることに納得でき違和感すら感じません。

今回扱ったカナダライツの製品は当方では初めてになります。そもそもライカのカメラもレンズも当方にとっては「高嶺の花」でしたので、下手に見てしまうと目に毒ですから写真すら (意識的に) 見ようとはしませんでした・・。スタンダートと言われている「SUMMICRON-R 50mm/f2」ですが、その描写性には本当に脱帽です。そして何しろピントの山がとても掴み易く大変扱い易いレンズですね。初めてのライカレンズとしては、やはりスタンダードなのでしょう・・素晴らしいです。

今回出品のモデルは「Rカム (3カムのみ)」になり、製造番号「344xxxx」の1987年に1,400本生産された中のひとつになります。バラしてみると随所に他のライカレンズに共通する「拘り」や「質」を感じ取れる要素が散りばめられていました・・。しかし、このモデルに関しては「無限遠位置」の調整は非常に考えられた方式を採っており、ヘリコイドのネジ込み位置のアタリつけから距離環の調整まで一貫した思想を感じさせる構造化が成されていました。感心してしまいます・・。

実際に手に取り、バラして整備を施し、組み立てが終わり実際に撮影してみると・・確かにライカなのだと感じ入ってしまいました。


オーバーホールのために解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載しています。

すべて解体したパーツの全景写真です。

SMR502(1010)11ここからは解体したパーツを使って、実際に組み上げていく工程に入ります。

構成パーツの中で「駆動系」や「連動系」のパーツ、或いはそれらのパーツが直接接する部分は、すでに当方にて「磨き研磨」を施しています (上の写真の一部構成パーツが光り輝いているのは「磨き研磨」を施したからです)。「磨き研磨」を施すことにより必用無い「グリースの塗布」を排除でき、同時に将来的な揮発油分による各処への「油染み」を防ぐことにもなります。また各部の連係は最低限の負荷で確実に駆動させることが実現でき、今後も含めて経年使用に於ける「摩耗」の進行も抑制できますね・・。

SMR502(1010)12まずは絞りユニットや光学系前後群を収納する鏡筒です。このモデルではヘリコイド (オス側) は独立しており、別に存在しています。
絞りユニットは「鋼球ボール」と「弧を描いた金属棒」を絞りユニットの外周にビッシリ配置させて駆動させる方式を採っていました。バラした途端に「5本の金属棒」と「25個」の直径1mmにも満たないマイクロ鋼球ボールがバラバラと拡散して出てきました。
組み立てとなると、この場合の「コツ」を知らなければ相当な時間を要すると思います。金属棒や鋼球ボールが落下しないようにタイトなスキマにして入れ込むと、反対側のスキマが広くなっており、逆に反対側にそのまま入れるとすぐに落下してしまいますから隙間を狭くします。すると既に入れ込んでいた鋼球ボールと金属棒が落下してしまいます。「常に均等な隙間」での作業を強いられる構造です。

SMR502(1010)13絞り羽根の枚数は6枚で普通ですが、絞り羽根の表裏に打ち込まれている「キー (金属製の突起)」は経年の使用に於いても容易に脱落しないよう「確実な打ち込み」が成されているのが一目瞭然です。さらに絞りユニットを固定する「固定環 (輪っか)」も絞りユニットと「接する面」にはワザワザ「マット仕上げ (微細な凹凸のある加工)」が施されており、やはり経年の使用に於いてレンズ内の揮発油成分などで環が緩まないよう対策が講じられています。それは絞りユニットの固定環だけの話ではなく、構成パーツの中の「環」はすべてが接触面に「マット仕上げ」が施してある念の入りようです。このような考え方は、そもそもレンズの使用が数十年ではなく半世紀以上「100年使える」レンズであることを見越しているかの如く各所には行き届いた思想を感じます・・。

SMR502(1010)14距離環やマウント部が組み付けられる基台になります。一般的な基台ですが、しかし「無限遠位置」のアタリを付けることを最大限に考慮した素晴らしい設計が成されていました。

SMR502(1010)15バラした当初は「濃い黄褐色」に表層面の腐食が進行していましたが、当方にて「磨き研磨」を施しピカピカになった (生産時の環境に近づいた) 真鍮製のヘリコイド (オス側)を無限遠位置のアタリを付けた位置までネジ込みます。後でいくらでも「無限遠位置調整」ができるような設計が成されており、この時点では大凡のネジ込みで構いません。

SMR502(1010)16全部で11箇所あるネジ込み位置を、やはり無限遠位置のアタリを付けたポジションでネジ込みますが、ここも同様後でいくらでも調整が利くので大凡で構いません。その工夫のひとつは「直進キー」と言う、距離環を回す「回転するチカラ」を鏡筒が前後動する「直進するチカラ」に変換する構成パーツが、後でも自在に位置調整できるよう配慮されているのが最大のポイントです。個体による微妙な「差」を確実に解消できるような配慮が成されており、それが一品一品の「質」に結びつくよう具現化されているのが理解できます。

SMR502(1010)22ここで先に光学系前後群を組み付けます。まずは光学系前群です。上の写真ではやや右端寄りに「白いキズ状」が1点写っていますが、これは部屋の照明光の写り込みなのでキズではありません。今回の個体は「キズ」と言えるようなキズが発見できないほどの非常にクリアでキレイな光学系を維持しています。

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SMR502(1010)24上の写真 (2枚) は1枚目が前玉中央付近の極微細な点キズ状に見える部分を撮影したつもりでしたが、あまりにも微細すぎて全く写っていません。2枚目はようやく撮影できた中央の極微細な点キズです。目視では恐らく発見できないでしょう・・。

【光学系の状態】(順光目視で様々な角度から確認)
・カビ除去痕としての極微細な点キズ:
前群内:6点、目立つ点キズ:0点
後群内:5点、目立つ点キズ:1点
コーティング経年劣化:前後群なし
カビ除去痕:なし、カビ:なし
ヘアラインキズ:後群内に極微細数本あり。
・その他:バルサム切れ無し。
・光学系内はLED光照射でようやく視認可能レベルの極微細な拭きキズや汚れ、クモリもありますがいずれもすべて写真への影響はありませんでした。

SMR502(1010)25こちらは光学系後群です。後群には目視できる極微細なキズが数点レベルですがあります。

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SMR502(1010)28上の写真 (3枚) はそれらキズの状態を拡大撮影しています。1枚目は後玉外周附近の極微細な点キズと中央付近の極微細な薄いヘアラインキズ数本を撮っています。2枚目も後玉のやや外周寄りの極微細な点キズです。3枚目は後群内の「目立つ点キズ1点」を撮影しました。

光学系の状態を撮影した写真は、そのキズなどの状態を分かり易くご覧頂くために、すべて光に反射させてワザと誇張的に撮影しています。実際の現物を順光目視すると、これらすべてのキズは容易にはなかなか発見できないレベルです。

これらの極微細な点キズは「塵や埃」と言っている方が非常に多いですが、実際にはカビが発生していた箇所の「芯」や「枝」だったり、或いはコーティングの劣化で浮き上がっているコーティング層の点だったりします。当方の整備では、光学系はLED光照射の下で清掃しているので「塵や埃」の類はそれほど多くは残留していません (クリーンルームではないので皆無ではありませんが)

ここからは組み上げが完成した出品商品の写真になります。

SMR502(1010)29距離環や絞り環には無為年の使用感として極微細な「ハガレ」が僅かにあります。当方の着色は下手なので今回は敢えてこの部分に関しては着色していません。

SMR502(1010)30この個体での「唯一」と言っても良い「引っ掻きキズ」が絞り環に1箇所だけあります。

SMR502(1010)31内蔵されているフードを出した状態で撮影してみました。当初フードの出し入れは「緩い」状態でしたが、調整を施しシッカリとした操作性に戻してあります (勝手にフードが出てきたり動いたりしません)。

SMR502(1010)1純正の樹脂製専用前後キャップが附属しています。前後キャップの経年の使用感はほとんど感じられないとてもキレイな状態です。カナダライツのこのモデルではコーティングの輝きは「アンバー色」が多いようなのですが、極一部にこの「パープル色」の輝きを放つ個体があるようです。出荷数自体は少ないのでしょうか・・?

SMR502(1010)2光学系内は非常にクリアな状態を維持しています。光学系が4群6枚のダブルガウス型ですから第2群〜第3群に貼り合わせレンズが位置していますが、バルサム切れ (貼り合わせレンズの接着剤/バルサムが経年劣化で剥離し始めて白濁化し薄いクモリ、或いは反射が生じている状態) の進行も無く、素晴らしい個体です。

SMR502(1010)36枚の絞り羽根のキレイになり確実に駆動しています。

ここからは鏡胴の写真になります。

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SMR502(1010)7経年の使用感をあまり感じさせないとてもキレイな状態を維持した個体です。
ヘリコイドも含め内部の構成パーツはすべてを当方にて「磨き研磨」していますので、ほぼ生産時の環境に近づいた状態に戻っています。使用したヘリコイドグリースは、距離環を回す際は「僅かに重め」なのにピント合わせをする時は「とても軽いチカラ」でス〜ッと吸いつくように微妙なピント合わせができることを最優先した粘性を選択しています。過去に落札されたオールドレンズやオーバーホール/修理を承ったオールドレンズなど、その後「このトルク感がクセになる」「ピント合わせを意識させないシットリした動き」などとお褒めを頂き、ありがたいことに「リピーター」になって頂いている方々も最近は多く、感謝の念に堪えません・・ありがとう御座います。
絞り環の操作時には当初「空音」が大きかったので調整して、小気味良く確実にクリックできるようにしました。

【操作系の状態】(所有マウントアダプタにて確認)
距離環や絞り環の操作は大変滑らかになりました。距離環のトルク感は滑らかに感じ完璧に均一です。ピント合わせの際は極軽いチカラで微妙な操作ができるので操作性は非常に高いです。

【外観の状態】(整備前後拘わらず経年相応中古品)
・距離環や絞り環、鏡胴には経年使用に伴う擦れやキズ、剥がれ、凹みなどありますが、経年のワリにオールドレンズとしては「超美品」の当方判定になっています (一部当方で着色箇所がありますが使用しているうちに剥がれてきます)。

SMR502(1010)8今回初めて整備をした「LEITZ SUMMICRON-R 50mm/f2」ですが、その手応えを充分に感じました。本当に良く考えられ、拘って作られた逸品だと思います。

SMR502(1010)9マウント部も「磨き研磨」を施してあります・・ピカピカです。この個体は「Rカム (3カムのみ)」になり「Type II」と呼ばれているようです。

SMR502(1010)10当レンズによる最短撮影距離50cm附近での開放実写です。もう何も申し上げません・・まさにズミクロンです。

さすがに高価なモデルですので、当方ではおいそれと手を出せません (調達できません)。次に整備を施して出品できるのは・・いつになるやら(笑) 整備済に魅力を感じられる方は、是非ご検討下さいませ。