◎ Steinheil München Auto – Quinaron 35mm/f2.8 silver(exakta)

オーバーホールのために解体した後、組み立てていく工程を掲載しています。

普段はここで「解体したパーツの全景写真」を掲載するのですが、バラしてみたら各環すべてが個別に「イモネジ (ネジ頭の無いネジ種)」で締め付けられており、且つそれらネジの長さも異なっており、とても位置をズラしたら覚えきれない状況だったので、今回はワザと撮影をしていません。

ここからは解体したパーツを実際に組み立てていく工程を撮影しています。

まずは絞りユニットや光学系前群が収納される鏡筒です。

AQ3528s(0319)12実際に絞り羽根 (7枚) を組み付けて絞りユニットを完成させます。

AQ3528s(0319)13このモデルでは鏡筒とヘリコイド(オス側)が独立しているので、ヘリコイド筒 (真鍮 (黄銅) 製) の中に鏡筒を収納します。

AQ3528s(0319)14ヘリコイドを立てて撮影してみました。

AQ3528s(0319)15この状態に「絞り連動ユニット」を組み付けます。「絞り連動ユニット」はそれ自体が「ギヤ (歯車)」を兼ねており、ユニットの外周部がそのまま歯車状になっています。

AQ3528s(0319)16距離環用のベース(ヘリコイド:メス側)をネジ込みます。

AQ3528s(0319)17この状態にマウント部を組み付けるための基台をセットします。普通のレンズの丁度逆の手順で組み立てています。

本来ならば完全に解体する前に「無限遠位置」のマークを刻み込んでいれば、普通の手順で組み立てできるのですが、この個体は既に過去にメンテナンスされている痕跡があり、またバラす前の確認では微妙に無限遠が出ていませんでした (合焦しない)。従って当初の組付けでは無限遠位置が合わないので、敢えて逆の手順で組み立てています。

AQ3528s(0319)18距離環用の固定環(駆動域を決めているストッパー/キーが用意されている環)をセットします。

AQ3528s(0319)19この距離環用の固定環への距離環の組付けは、やはり「イモネジ」で締め付けるのですが、既にこの固定環にイモネジが入る「場所」が用意されています・・と言うコトは、組み上がってからの無限遠位置調整が「できない」ことになるので、その辺を考慮しながら組み立てていかなければ最後にまたバラすハメに陥りかねません。指標値板をセットします。

AQ3528s(0319)20さて、ここからが難関でした。下の写真はマウント部と自動絞り機構部 (シャッターボタン付) のユニットです。

AQ3528s(0319)21なかなかの凝った構造をしています。写真右端のレバーを手前方向にスライドさせるとカメラ本体の「シャッター」が押されると同時に「ギヤ」で絞り連動ユニットのギヤを強制的に回転させて、セットされている絞り値に絞り羽根を制御します。レバーの押し下げ速度よりも「速く」ギヤが回転しなければ絞り羽根の制御途中で撮影されてしまい、希望した絞り値で正しく撮ることができません・・。そのために写真右のレバーがすぐに「円筒形」のパーツに直結して且つ、その円筒形のパーツから「扇状」のカムが左側のギヤに対して伸びています。この「円筒形」のパーツ内部には大型の「バネ」がセットされており、レバーの押し下げ速度よりも速くカムを駆動するような仕組みです。

AQ3528s(0319)22この部位がこの個体での最大の問題点でした・・。「円筒形」パーツの内部の「バネ」が経年劣化で緩慢になっていると同時に、複数噛み合っているギヤ自体にも経年摩耗が生じており、お互いに「負荷 (抵抗)」がかかってしまう状態に陥っていました。結果・・レバーの押し下げでカムが「動いたり動かなかったり」と言う状態になっていて、とても「カシャン」と小気味良く動く状況ではありませんでした。

最初はこの部分もすべて解体しようかどうか考えましたが・・フィルムカメラでの撮影は今回はパスした状態で組み上げるコトに決めました。つまりはさすがにこのようなギミックな構造だと、組み上げられる自信がなかったのです(笑) 何しろ経年劣化が生じていますから、その調整をしながらの組み上げ作業になり、当方の技術レベルでは相当な時間を要します(笑)

AQ3528s(0319)23次の写真はこのマウント部を基台にセットした状態です。実は、この時点で既に「手動絞り (実絞り)」のみ機能するように「工夫」を施してあります。「自動/手動スイッチ」の操作に拘わらずすべて「手動絞り (実絞り)」で内部が制御されるようにしてあります。フィルムカメラにてご使用される場合には「自動絞り」は機能しませんのでご留意下さいませ。デジカメ一眼にマウントアダプタ経由装着される場合には、すべては「手動絞り (実絞り)」しか使えないので、特に問題にはなりません (正常に機能する個体だとしても、自動絞りに設定してのシャッター連動が成されないため)。

AQ3528s(0319)24距離環を組み付けて、光学系をセット後に無限遠確認や光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認を行えば完成間近です。「手動絞り (実絞り)」のみ機能するように施した「工夫」自体は、後々に解除もできるよう配慮してあるので、将来的には安心ですね。

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光学系前群を組み上げます。残念ながらこの個体は前玉のコーティングが劣化しており、コーティング剥がれが生じています。下の写真はその「ハガレ」の状態を確認し易くするために、ワザと光加減を考慮して撮っており曇っているように見えますが、実際のレンズ部分は透明でクリアですのでご安心下さいませ。

AQ3528s(0319)26こちらは光学系後群です。やはりコーティング劣化が生じているのと同時に擦りキズも見受けられます。

AQ3528s(0319)27「自動/手動スイッチ」部には一部にハガレがあります。

AQ3528s(0319)37また鏡胴のアルミ材削り出し部分には腐食も複数あります。梨地仕上げなので光沢研磨を施すことができません。

AQ3528s(0319)39 AQ3528s(0319)40 AQ3528s(0319)41次の写真は距離環に装備している「ガイドナンバー環 (グリーンの環)」にある凹みや擦れを撮っています。

AQ3528s(0319)38またフィルター枠附近にも長めのキズやハガレ、凹みなどが複数あります。

AQ3528s(0319)42下の写真は「自動/手動スイッチ」部の拡大撮影です。このスイッチ部のツマミが「自動」「手動」のどの位置になっていても、或いはレバーを操作したとしても、絞り羽根の制御は「手動絞り (実絞り)」しか動かないようにしてあります

AQ3528s(0319)41 AQ3528s(0319)43ここからは組み上げが完成した出品商品の写真になります。

あまり市場にも出回らない前期型の「Auto-Quinaron 35mm/f2.8 silver」・・距離環に配された「エメラルドグリーンの環」がアクセントになっていて、ちょうどこのレンズの描写性を表すかの如く、スッキリしたイメージの意匠デザインです。AQ3528s(0319)1光学系は前後玉のコーティング劣化や拭きキズなどがありますが、中玉など貼り合わせレンズのバルサム切れ (貼り合わせ時の接着剤が経年劣化で剥離し始めている状態) もなく状態は決して悪くはないレベルです。

AQ3528s(0319)2絞り羽根のキレイになり確実に駆動しています。当レンズは「手動絞り (実絞り)」のみ機能するよう処置を施してありますのでご注意下さいませ。

AQ3528s(0319)3ここからは鏡胴の写真です。経年の使用感が少々ありますが、なかなかキレイな部類に含まれる状態を維持しています。

AQ3528s(0319)4 AQ3528s(0319)5 AQ3528s(0319)6 AQ3528s(0319)7「自動/手動スイッチ」部やシャッターボタンなどは「単なるお飾り」としてその機能を「無効化」していますが、ギミック感はなかなかです。距離環に配された「エメラルドグリーンの環」は当時の主流ISO40のフィルムに対するストロボ撮影時のガイドナンバー指標環ですから、現在のISO100基準の使用では役に立ちませんが、アクセントになっており好感が持てます。少々硬いですがこの「エメラルドグリーンの環」は回転させることができるようになっています。

距離環や絞り環の駆動はとても滑らかになりました。

AQ3528s(0319)8光学系後群もヘアラインキズやコーティング劣化がありますが、中玉がキレイなので極度な逆光撮影ではない限り影響はでないと思います。

AQ3528s(0319)9前後玉のコーティング劣化がありましたので、ここからは当レンズによる各絞り値での撮影を行いました。

まずは絞り開放「f2.8」です。被写界深度が浅いです。ピントは手前のヘッドライトに合わせています。

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次はF値「f4」での撮影です。

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F値「f5.6」になります。なかなか雰囲気のある画です。

AQ3528s(0319)46次はF値「f8」です。

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F値は「f11」になりますが、絞り環の指標値「f11」と「f16」に「f22」がほぼ同じ場所なので混み合っています。

次はF値「f11」です。

AQ3528s(0319)48F値は「f16」になります。

AQ3528s(0319)49最後のF値「f22」です。

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