◎ P. ANGÈNIEUX PARIS (アンジェニュー) ALPA ALFITAR 90mm/f2.5 (silver)《前期型》(alpa)

(以下掲載の写真はクリックすると拡大写真をご覧頂けます)
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※解説とオーバーホール工程で掲載の写真はヤフオク! 出品商品とは異なる場合があります。

こんかいかんぺき今回完璧なオーバーホール/修理が終わりご案内するモデルは、フランスは
P. ANGENIEUX PARIS社製中望遠レンズ・・・・、
ALPA ALFITAR 90mm/f2.5 (silver)《前期型》(alpa)』です。


  ЯПОНІЯ З УКРАЇНОЮ!    Слава Україні!  Героям слава!  

上の文は「日本はウクライナと共に! ウクライナに栄光あれ! 英雄に栄光を!」の一文をウクライナ語で国旗色を配って表現した一文です。現地ウクライナでは民衆が「ウクライナに栄光あれ!」と自らの鼓舞を叫ぶとそれに応えて民衆が「英雄に栄光を!」と返すようです。

Slava UkrainieieGeroyam Slava

今回オーバーホール/修理が終わってご案内するモデルは、当方がオーバーホール作業を始めた12年前からの累計でも初めての扱いです。先ずはこの場を借りて今回オーバーホール/修理を賜ったご依頼者様にお礼申し上げます・・ありがとう御座います!(涙)
このような機会を得たことにとても感謝しています。

・・と手放しで喜びたいところですが(笑)、実は当方の技術スキルから言って「とても敵う相手ではない」と観念したので(泣)、このモデルについては今回の扱いが最初で最後にしたいと思います。

ッて言うか、取り敢えず気になっていた問題点とその因果関係を突き止められ、且つ一部は改善できなかったものの、ほぼ自分自身で納得できる改善レベルには到達したので、その意味では何とか「本当に何とか・・」組み上げられたとの感想です(泣)

・・でも、もう二度と扱いたくないから、今回が最初で最後なんです!(涙)

逆に言うなら当時のP. ANGENIEUX PARIS社製中望遠レンズで最後期に登場した「当時最新の設計だったハズ」のこのモデルで、どうしてこんなに難しくてひたすらに厄介極まりない設計で造ってしまったのか・・「???」との想いが尽きません。

当時の世界中のオールドレンズの設計をみれば、どれだけ合理化に血眼になって努力していたのかが分かるであろう時期、タイミングに於いて、どうしてその真逆の方向に進んでるかのような設計に固執したのか、全く以て理解できません(泣)

・・そのくらい文句を垂れたいほどにとんでもない構造でした!(涙)

  ●               

【モデルバリエーション】
オレンジ色文字部分は最初に変更になった諸元を示しています。

初期型:1941年発売〜1953年

光学系:4群4枚エルノスター型構成
タイプ:TYPE Y1
絞り羽根枚数:12枚
絞り値:f2.5〜f22
最短撮影距離:1.4m

前期型:1954年発売〜1960年 (?)

光学系:4群4枚エルノスター型構成
タイプ:TYPE Y12
絞り羽根枚数:10枚
絞り値:f2.5〜f22
最短撮影距離:1.06m

後期型:1956年発売〜1968年

光学系:4群4枚エルノスター型構成
タイプ:TYPE Y12
絞り羽根枚数:10枚
絞り値:f2.5〜f22
最短撮影距離:1.06m

ALPA ALFITARモデル《前期型

光学系:4群4枚エルノスター型構成
タイプ:TYPE Y12
絞り羽根枚数:12枚
絞り値:f2.5〜f22
最短撮影距離:1.06m

ALPA ALFITARモデル《後期型

光学系:4群4枚エルノスター型構成
タイプ:TYPE Y12
絞り羽根枚数:12枚
絞り値:f2.5〜f22
最短撮影距離:1.06m

対応マウントは戦前ドイツはZeiss Ikon製レンジファインダーカメラ「CONTAX I/IIa/IIIa」向けの他、M42マウントやexakta、Praktina、Rectaflex、ALPA、L39などあります。またALPA用モデルにはタイプ別にモデル銘が与えられており、今回のモデルは「ALFITAR (アル フィター)」と刻印されています。

スッカリ意気消沈状態なので(笑)、このモデルが登場した当時の時代背景や面倒くさい説明は今回省いてしまいます(笑)

光学系は当初一番最初に登場した「初期型」タイプが右構成図になりますが、光学設計としては4群4枚のエルノスター型構成です。

最短撮影距離が1.4mと長いので、この後に登場するモデルとは光学設計が別モノです。右構成図はネット上の案内されている構成図からトレースしました。

今回扱ったALPA ALFITAR 90mm/f2.5 (silver)《前期型》(alpa)』の光学系構成も同じ4群4枚のエルノスター型構成です。今までに扱ったTYPE Y12の「前期型」や「後期型」と同じ設計である事を確認しています。

右構成図は今回のオーバーホールで完全解体した際に光学系の清掃時、当方の手によりデジタルノギスを使い逐一全ての群の光学硝子レンズを計測したトレース図です。

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。

実は当初今回のオーバーホール/修理ご依頼を賜った際に、当方自身が勘違いして「TYPE Y12のほうのモデル」と勝手に思い込んでいました。荷物が届いて箱から取り出した途端に「・・・」目が点になりました!(笑)

そもそもちゃんとご依頼者様が「ALFITAR」と文面の中で仰っていたので、それを見落としていた当方が全く以てワルイのです(笑)・・と言うのも、何しろこのモデルに於いて「何で絞り環操作するのに回転式ツマミを設計してくるのョ?!」と非常に強く不満を抱いていたので、事前にちゃんと文面を認識してこのモデルと分かっていたら「いの一番にご辞退」していたハズだったのです・・(泣)

バラさずともヘリコイド駆動が回転しながら直進動する中で「その途中に飛び出ている回転式の絞り環ツマミ」の存在が頭の中で「???」であり、どうやって鏡筒内部の絞りユニットと連係させているのか「知りたいのを通り越しゼッタイに触りたくないんだから!」と決めていたモデルだったのです(笑)

それはそれで届いてしまったのだから仕方ないにしても、ならば「完全解体しなければいいのにヤッてしまうからどうしようもない!」ワケで(泣)、イヤだイヤだと言いながらも「どんな構造になってんの?」とその反対側で問い正している自分の分身がもう1人居たのを知っています(笑)

・・結局、興味津々で完全解体してしまっているのだからどうしようもない!(笑)

↑焦点距離が90mmなのに鏡筒の繰り出し/収納量が意外にも多めなのでご覧のようにとても深い鏡筒サイズです。この中に絞りユニットがセットされます。

↑上の写真はその鏡筒最深部にセットされる「絞りユニット」を構成しているパーツです。確かに製品としては「自動絞り方式」を採用した設計ではありますが、絞りユニットを単純で簡素な設計です。

しかし、当初バラす前のチェック時点で「自動に設定すると絞り羽根の動きが緩慢」或いは「自動に設定するとシャッターボタン押し下げ後に完全開放まで戻らない」或いは「距離環を回すとククッと引っ掛かりを感じる抵抗感在るトルク感」と、この3つを把握しただけでも「スミマセン・・今回パスしま〜す!」とご依頼者様にメールしていれば良かったんです(泣)

それをスケベ根性丸出しでバラしてしまうから煮ても焼いても食えない・・。

上の写真でグリーンの矢印で指し示している箇所が互いに接触する面なのですが、当初バラして取り出した時に「回してみただけで抵抗/負荷/摩擦を感じた」ので、分解後に「磨き研磨」を処置したところです。

とにかく「絞り羽根の動きが緩慢」或いは「完全開放しない」となれば間違いなく絞り羽根を開閉している箇所の経年劣化に伴う酸化/腐食/錆びの影響が大きいので・・当たり前の処置を講じただけです(笑)

絞り羽根には表裏に「キー」と言う金属製突起棒が打ち込まれており (オールドレンズの中にはキーではなく穴が空いている場合や羽根の場合もある) その「キー」に役目が備わっています (必ず2種類の役目がある)。製産時点でこの「キー」は垂直状態で打ち込まれています。

位置決めキー
位置決め環」に刺さり絞り羽根の格納位置 (軸として機能する位置) を決めている役目のキー

開閉キー
開閉環」に刺さり絞り環操作に連動して絞り羽根の角度を変化させる役目のキー

位置決め環
絞り羽根の格納位置を確定させる「位置決めキー」が刺さる環 (リング/輪っか)

開閉環
絞り羽根の開閉角度を制御するために絞り環操作と連動して同時に回転する環

絞り羽根開閉幅
絞り羽根が閉じていく時の開口部の大きさ/広さ/面積を指し、光学系後群側への入射光量を決定づけている

↑前述の「絞りユニット」構成パーツを組み上げたところです。このように互いが接触しながら回転するので「位置決め環」も「開閉環」も共に平滑性を取り戻す必要があります (赤色矢印)。

↑実際に鏡筒最深部にセットするとこんな感じです。この一番奥に12枚の絞り羽根を組み込んでいきます。

↑実際に12枚の絞り羽根を組み込んだところを撮影しました・・しかしなんでこのモデルの絞り羽根は「こんなにもキュート」なんでしょうか?!(驚) こんなこぢんまりした小っちゃな絞り羽根を観たのは初めてです!(驚) この12枚の絞り羽根を暫し開いたり閉じたりして遊んでしまいました (だって可愛すぎ!)(笑)・・いわゆる「キモ可愛い!」ってヤツです(笑)

各絞り羽根に白っぽい痕跡が残っているのは、互いが重なり合って経年で擦れていた部分に「酸化/腐食/錆び」が生じていたので、その箇所が白っぽくなっています・・要はカーボン仕上げなので、そのカーボンがハゲてしまったからですね(泣)

今回の個体はヘリコイド (メス側) に残っていた痕跡から「過去に実施されたメンテナンスは1回だけ」なのが判明しています。するとおそらくその1度限りのメンテナンスを除いて「それ以外の整備時点では絞りユニットは解体されずにそのままの状態で洗浄されていた」ので、このようにカーボン仕上げで互いに接触して擦れていた箇所だけが剥がれています (ちゃんとその都度バラして12枚を取りだし1枚ずつ清掃していればこんなにスレが酷くならなかったハズ)。

・・完全解体していくと、そういう事柄まで見えてきますね(泣)

↑一つ前の状態のままでは鏡筒をひっくり返したら12枚の絞り羽根がバラバラと落ちてきますからメクラ環で塞いだところです。

今回の個体は本当に最近では珍しいと言うか「直近の6年間で初めての個体」とも言い替えられますが「鏡筒内部も光学系内にも何処にも反射防止黒色塗料が一切着色されていなかった」その一点に於いて、非常に貴重な個体です!!!(驚)

上の写真は絞りユニットが完成した状態ですから、この上に「光学系前群格納筒が入る」ので、一般的な多くのオールドレンズで必ず「鏡筒内壁を反射防止黒色塗料で塗りまくり」するのが常です・・それをしていない個体がちゃんと存在する事の「証拠みたいな話」です!(驚)

皆さんが本当に執拗に「迷光迷光・・」と気にしまくるので反射防止黒色塗料を着色するのが100%当たり前みたいな話になっていますが、工場出荷時点でこのように「ピッカピカ状態」だったのが明白になりました(笑)

・・こんな話は以前取材した工業用光学硝子製造会社で既に聞いて知っていた内容です(笑)

光学設計者が迷光を無視しているワケではないのに、シロウトレベルが「迷光迷光・・」と騒いでいるだけとの事です(笑)・・至極ご尤もなお話でした(笑)

↑完成した鏡筒を立てて撮影しました。上の写真下側方向が前玉側にあたります。鏡筒外壁はビッシリと相当長い距離で「ヘリコイドオス側」のネジ山が切削されています。後玉の周囲には「開閉アーム」の他「直進キー」や「操作アーム」などが備わっています (赤色矢印)。

ここでのポイントは「これらのアーム類が全て絞りユニット内の開閉環に接続する」点です。これが「原理原則」なので。自ずと開閉環の平滑性を最優先で担保するのが必須作業と言う話になりますね(笑)

↑そして極めつけがこちらの写真です。一つ前の写真から同じ鏡筒の反対側を撮影しました (同様写真下側方向が前玉方向)。すると「開閉環にチカラを及ぼしているのは棒ばね1本だけ」なのが分かります (赤色矢印)。これがポイントで「棒ばねのチカラが弱ってしまったらこの個体は製品寿命を迎える」次第です・・何故なら、この棒ばねはブルーの矢印のように「常に絞り羽根を閉じるチカラを及ぼす役目」だからです。

つまりこの棒ばねが経年で弱っただけで「絞り羽根が設定絞り値まで閉じなくなる」致命的な状況に陥るので「製品寿命」を迎えると言っているのです。

・・ならば替えが効くスプリングにどうしてしなかったのか?

確かにそのように設計していればまだ逃げが効くところですが、フランス屈指の老舗光学メーカーP.Angenieux Paris社は「棒ばねで設計してきた」次第です(笑) 棒ばねの代替品を探すのは相当な至難の業なので、誰が考えてもスプリングのほうがまだマシだと気づくと思いますが・・ヤラないのですねぇ〜(笑)

↑鏡筒はこれで完成してしまったので、ここからは鏡胴側の組み立て工程に移ります。距離環やマウント部を組み付ける為の基台ですが、ご覧のようにとても深さのある長い筒状です・・実はこの基台は一見すると他の筐体外装パーツと同じアルミ合金材削り出しに見えますが、実は真鍮 (黄銅) 製/ブラス製です (ズッシリと重みがある)(驚) それぞれ「絞り環用の穴」と「シャッターボタン用の穴」が切削されていますし、その反対側には「A/M切替スイッチ用のスリット」も用意されています (赤色矢印)。

↑基台の内側を覗き込むとこんな感じです。後で写真が出てきますが、筐体外装の表層面は「非常に微細なマットな凹凸を伴う梨地メッキ加工仕上げ」であるのに対し、この基台の内側も同じレベルで「マットで微細な凹凸を伴う梨地メッキ加工仕上げ」です (赤色矢印)。

つまり「グリースを必要としない中に平滑性を担保する工夫」としてそのような仕上げ方が成されている点に気づく必要があります・・それが「原理原則」です。意味も無くマットで微細な凹凸を伴う梨地メッキ加工仕上げなど処置しません(笑)

さらに厄介な設計だったのがグリーンの矢印で指し示している「直進キーガイドの存在」です(泣) 前に出てきた鏡筒の外壁を上から下までビッシリ埋め尽くしている「ヘリコイドオス側のネジ山」の長さ分だけ繰り出し/収納する駆動に「たったの1箇所の直進キーガイドだけで済ませている設計」なのが何の配慮も無い設計だと言っています。

これが日本の光学メーカー・・例えばNikonやCanon、或いはOLYMPUSヤMINOLTAなどならもう少し「トルク管理に配慮した設計」を採るものの、フランス屈指の老舗光学メーカーP.Angenieux Parisはヤラないのですねぇ〜(笑)

実はこの「直進キーガイドの溝部分」には過去メンテナンス時にグリースが塗られていた痕跡がありませんでした!(驚) いつも執拗に何度も何度もグリースは必要ないと当方がこのブログで述べていますが(笑)、まさにその概念に100%沿った工程で組み立てていた整備者が存在した事の「証拠」です!(驚)

つまり「直進キーがグリースのチカラを借りてガイドの溝を行ったり来たり繰り出し/収納しているならトルクは必ず重くなる」のが「原理原則」だからです。

その概念が分かっている整備者だけがここにグリースを塗りません (もちろん当方も今回のオーバーホールで塗りませんが)(笑)

ヘリコイドオスメスを回して「回転するチカラ」が直進キーを経由して「直進動するチカラに即座に変換される」からこそグリースが必要ありません。もしもグリースのチカラに頼ったりしていれば「一旦回転するチカラがここに蓄えられていた証になるから」です (そういう場合には確かにグリースのチカラが必要になる)。

そうではありません。ヘリコイドを回した回転するチカラが直進キーの部位に一切蓄えられずに「即座にそのまま直進動するチカラとして (変換されて) 伝わっていってしまう」からこそ軽いトルク感で距離環を仕上げられるのです(笑)

この「原理原則」を全く理解できていない整備者があまりにも多すぎます(笑) 今回のオーバーホール作業で当方がヤッている作業は、むしろ距離環を回すトルクが軽すぎたので「逆にトルクを与えているくらい」ですから、どんだけ軽い操作性でオーバーホール工程を経ているのかが明白です(笑)

・・当方はトルクを軽くするのではなく、逆にトルクを与えている作業を行っている!

そうする事で「ヌメヌメッとシットリ感漂うピント合わせで指の腹にほんの僅かなチカラを伝えるだけで前後動できる軽い操作性」を実現できているのです(笑)

今回のこのオーバーホール作業が終わった個体を手にされるご依頼者様お一人様だけが、ここで申し上げている内容を身を以て確認できます(笑) 「トルクを与えている」と言うのがどういう操作性を指す話なのか、ご依頼者様お一人様だけがご理解頂けると思います(笑)

だからこそ「直進キー」と「直進キーガイド ()」には決してグリースを塗らないのです(笑)・・が然し、そのような整備を有言実行しているのは本当に微々たる人達だけですねぇ〜(笑)

なお、上の写真でブルーの矢印で指し示している箇所のスリット/切り欠きが前述のA/M切替スイッチのツマミが入る場所です。

↑当初バラす前のチェック時点で絞り羽根の動きが緩慢だったり、完全開放状態に戻らなかったりの不具合を把握しましたが、その一方でそれらの不具合が起きている最中に「実はシャッターボタンの戻り具合も緩慢だったりした」ので、要はシャコンシャコンと小気味良くシャッターボタンが戻ってくれなかったのです(笑)

そこで上の写真のようにシャッターボタン機構部を完全解体した上で、赤色矢印の箇所に残っていた「経年の酸化/腐食/錆び」を完全除去しました・・何故なら、上の写真に移っている圧縮コイル (スプリング) のチカラだけでシャッターボタンの復帰が適っているので、少しでも「製品寿命」の延命処置から「磨き研磨」を施した次第です。

たいていの場合で整備者がヤル事と言えば、この圧縮コイルをワザと故意に引き延ばしてチカラを強めて組み込んでしまいます(笑)・・が然し、その処置を講じる事でこの圧縮コイルの劣化はさらに進行してしまい、結果的に「製品寿命を短くしている所為」だからです(泣)

・・いったい何の為に整備するのか?(笑)

↑実際に圧縮コイルを入れ込んでスプリングの反発力をチェックしているところを撮影しました(笑) こんな感じでちゃんと細かくチェックしながら組み立て工程を進めています (当たり前の話です)(笑)

↑組み込んだシャッターボタン機構部に連係させて今度は「シャッターボタン連係アーム」の機構部をセットします。シャッターボタンが押し込まれると (ブルーの矢印❶) それに連動して勢い良く「連係アームが左右に振られる」次第です (ブルーの矢印❷)。

この動きで絞り羽根が瞬時に設定絞り値まで閉じるので、ここの連係動作は意外と重要だったりします(笑) だからこそシャッターボタンの戻りが遅かったり、緩慢だったり、途中でのろくなっていてはダメなのですね(笑)

↑しかし今回の個体の因果関係は別の箇所にありました・・(泣) 上の写真は前述の「シャッターボタン連係アーム機構部」を取り外したところです。

さんざん何回も組み込んでシャッターボタンとの連係動作をチェックするものの正しく機能してくれません。そこでよ〜く観察すると「固定用ネジのマイナス切り込み部分が削れている」のが分かります。

実はこの固定ネジはネジ込み式ですが、反対側は打ち込みされていて取り外したりできなくなっています。つまりこの締付ネジを強く締めたり緩めたりしたらダメなのですね(泣)

それなのに過去メンテナンス時にイジってしまったようです (マイナス切り込みが既に削れているから緩めようと挑戦していて削れてしまったのが分かる)。当然ながら反対側で打ち込んでいるのでチカラを目一杯入れて緩めようとしてもご覧のようにどんどん削れていってしまうだけです(泣)

↑実はこの「シャッターボタン連係アームの首振り方」が最終的に絞り羽根の動きに影響を大きく与えているのが判明したので、それを解説しています。上の写真でブルーの矢印の領域では大変平滑に軽く首振り動作するのに赤色矢印の領域になると途端に首振りの動きに抵抗/負荷/摩擦が増大して重くなります。

おそらく過去メンテナンス時に (1回だけ実施された本格的なメンテナンスではなくそれとは別に一部の整備作業時に) このアームが変形した可能性があります。その結果「おそらく固定用ネジの軸が極僅かに曲がった」為にこのような抵抗/負荷/摩擦が増大する領域が現れてしまったとみていますが、この固定ネジは外せないので「???」なままです。

そもそも当初バラしている途中の時点で基台内部にまだ固定されている時、この長大なアームが首振りした際、赤色矢印領域の最後のほうでは「基台の内壁に擦っている状況」だったので、本来最後まで傾倒しなければならない角度までアームが到達していなかったと推測できます (もちろんそれを確かめる方法はない)。さらに附属している引張式スプリングも一方の側で既に伸びてしまっています (スプリングの巻き部分に隙間が多くなっている箇所がある)。これらの事柄からこのアームの首振り運動を適切な状態にまで復帰させる事は不可能と考え (下手にチカラを加えて変形を正そうとすれば軸の重なり部分でさらに抵抗/負荷/摩擦が増大する懸念が高いから)、イジらないほうが良いとの判定に至りました・・下手にイジって締付ネジが緩んだりすれば再び締め付けができないので (反対側で打ち込まれているから) 緩んでしまってもアウトなのです!(怖)

以上から残念ながらこの首振り動作は赤色矢印の領域で重くなってしまうので「自動設定時に絞り羽根の動きが緩慢に至る」次第です(泣)

・・改善不可能なのでご請求額からご納得頂ける分の金額を減額下さいませ(泣) スミマセン。

↑基台の内側に必要な全ての制御系パーツを組み込んだところです。前述の「連係アーム機構部」がシャッターボタンと連係し、A/M切替スイッチもセットされたので自動/手動操作が適います (ブルーの矢印)。またその際に絞り値用の回転式ツマミを回して設定された絞り値まで絞り羽根を閉じる「伝達板」も組み込まれており、これら制御系パーツが互いに連係し合って絞りユニットに対して必要となるチカラを及ぼします (ブルーの矢印)。

↑ようやくそれらしくなってきました(笑) このモデルは絞り環を有さないので「回転式ツマミ」を回すことでクリック感を伴いつつ設定絞り値をセットできる仕組みです。

↑さて、今回当方がもぉ〜イヤだ!と観念しきってしまった最大の難関たる「ヘリコイド群の組み込み工程」に移ります。先に写真撮影していたのでまだ基台に制御系パーツが女性も入っていないままで撮っています (一番右端に基台がある)。

左氏から「制御環」に「黄銅製のヘリコイドメス側」さらに「距離環」と「基台」です (赤色矢印)。するとこの中で最大の難関たる所以が一番左端の「制限環」に備わるグリーンの矢印で指し示した「制限壁」と言う突出部分です。

何とこの「制限環」にはイモネジ用の穴が3箇所だけ開いていて「その穴は距離環の穴と一致する必要がある (距離環にもイモネジ用の同じ径の穴が3箇所用意されているから)」ワケです。

これが相当難題で、制限壁と言う出っ張りがあって距離環がまわる駆動域を制限しているのに、その一方で距離環の固定は同一箇所になると言う「相反する制御方法」で設計してきたのです(涙)

・・これがどんだけ難しい話になるのかは整備者しか分からない!(涙)

普通一般的なオールドレンズなら、距離環を回す領域を制限する制限環と距離環とは別の固定方法を採ってくるので、ちゃんと距離環が回る範囲を設定してから距離環を被せれば「無限遠位置と最短撮影距離位置は両端でピタリと合致する」のに・・このモデルは「互いの固定位置はあくまでも同一で一つしか存在しない」次第です。

つまり無限遠位置を変更すると制限壁の位置までズレるので距離環に刻印されている「∞マークの位置がズレてしまう」話に到達します!(涙)

・・これがどんだけ厄介なのか?!(涙)

結局、このモデルは「ヘリコイドオスメスのネジ込み位置の変更だけで無限遠位置を微調整機能している」設計なのが判明しました(泣) つまりは製産工程で専用の治具がちゃんと用意されていて「正しい無限遠位置でのヘリコイドオスメスネジ込みはここ!」と一発で分かるように工程が備わっていたと推察できます。

そう考えなければ全部で13箇所あるヘリコイドネジ山のネジ込み位置全てを試していく中で、その都度組み上げて/仕上げて無限遠位置をチェックする必要が起きてしまい、とんでもなく効率が悪い話になります。

・・当方にはそんな治具は無いので最後まで組み上げて無限遠位置チェックしかない(涙)

↑黄銅製のヘリコイドメス側を観察するとご覧のように距離環を固定すべきイモネジ用の下穴が2箇所ずつ相手居るのが分かります・・つまり製産時点は全周に均等配置で3箇所しかイモネジ用の穴が無かったのに、過去メンテナンス時に1箇所ずつズラして下穴を切削していたのがバレます (グリーンの矢印)(笑)

しかもよ〜く観ると互いの下穴の位置がビミョ〜に水平方向で上下二段差があったりします(笑) つまりこれかせ意味するのは「ヘリコイドのネジ込み位置で変更する設計なのにそれをしていなかった」事がこれだけでバレバレですね (ドリルで下穴を開けてごまかした)(笑)

↑鏡筒 (ヘリコイドオス側) を無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルは全部で13箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。

↑さんざん何回も何回も組み直して無限遠位置をチェックしている中で、やはりどうしても自動設定時の絞り羽根の動きが影響しますし、その影響は「手動設定時にも一部で現れる/動きが緩慢に戻ってしまう」為に、別の箇所 (前述のシャッターボタンとの連係機構部のアームの問題) にもその因果関係があると判定を下して調査している時の写真です (再び完全解体して組み直し作業をしているとこです)。

すると赤色矢印で指し示しているイモネジ用の穴の問題がやはりピックアップされました。鏡筒の周囲下部にご覧のようなイモネジ用の穴が3箇所備わっているのですが、当初バラした時から上の写真赤色矢印の箇所だけ「既にネジ山がバカになっていてイモネジがスルスル状態」だったのです。

仕方ないので他の2箇所で締付固定していましたが、これが大きく絞り羽根の動き方に影響しているのが判明したのです(泣)

↑さらに拡大撮影しました。赤色矢印のイモネジのネジ山が既に削れているのは同じですが、実はグリーンの矢印で指し示した箇所の「絞りユニット内の位置決め環の固定位置が上方向に浮き上がっている」のが拙いのです!(泣)

これに気づくのにいったい何回組み直し作業をしていたのか・・!!!(泣)

グリーンの矢印で指し示した箇所は位置決め環が鏡筒の縁部分と面一で写真のように浮き上がって見えていてはダメなのです(泣) 従ってこの影響で開閉環の動きに抵抗/負荷/摩擦が増大してしまい、且つ前述の「シャッターボタン連係アームの機構部の問題」と相まり、距離環を回していくと途中から絞り羽根の動きが変わってしまう不具合に至っていた事を突き止めました(涙) 棒ばねのチカラが及んだ時点で浮き上がっている為、他の2箇所のイモネジだけで締め付け固定しようとすると「強めに締め付けるしか方法が無い」ので、そのようにイモネジの締め付けを行うと、今度は絞りユニットの「開閉環」が黄銅材で作られている為に、そのイモネジ2本を強く締めつけた応力分が影響してしまい「全く別の絞り羽根開閉異常」を来します(涙)

まるでアッチ良ければこっちダメみたいな話で、結局他の2本のイモネジを強めに締め付けるのも断念・・(泣) 仕方ないので全く別の方法 (他の2本のイモネジはそのまま普通に締め付けて応力の影響が現れないように作業して) で位置決め環の浮きを改善させました(涙)

・・もぉ〜マジッでこういう設計大キライです!!!(涙)

結局、過去メンテナンス時のいつのタイミングなのかは不明ですが、ここのイモネジのネジ山をバカにしてしまったのが最終的に絞り羽根の開閉動作が緩慢になる因果関係に結びついていました(涙)

・・とんでもないです!!!(涙)

結局この後はこの浮き上がっている位置決め環を面一で鏡筒の縁と同じ位置で固定し直して、再び何度目なのかもう忘れましたが組み直して(笑)、最後にようやく光学系前後群を組み込んで無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行い完成した次第です(泣)

こういう細かい部分で「当時の日本の光学メーカーの設計の素晴らしさ」を改めて感じ入った次第です。内部の構造面だけに限らず材や成分の選定から配合まで配慮が行き届いた商品、そしてさらには「将来的なサービスレベルにまで配慮していた企業努力」そのような妥協を許さない姿勢・・今ドキの光学メーカーも今一度回帰すべき内容とも思いますが・・そういう違いを今回のP. ANGENIEUX PARIS社製オールドレンズの造りから強く感じましたね。

DOHヘッダー

ここからはオーバーホールが完了したオールドレンズの写真になります。

↑マジッでこの写真が恨めしいですね・・(涙) もう二度とこのモデルは触りたくないです(泣) 今回の扱いが最初で最後です。

↑当初バラした時から同じですが、光学系内には一切「反射防止黒色塗料」が着色されていなかったので、変わらずのままです(笑)

↑ 光学系後群側含め光学系内の透明度が非常に高い状態を維持した個体です。LED光照射でもコーティング層経年劣化に伴う極薄いクモリが皆無です。

↑最終的に「A/M切替スイッチを手動時のみ絞り羽根が全域で正しく開閉動作」します(泣) その因果関係は前述してきた内容です。

実際は距離環が「2m無限遠位置」の区間のみA/M切替スイッチが自動設定でもちゃんと絞り羽根が正しく開閉機能します。しかし距離環が「2m最短撮影距離1mまでの間」ではA/M切替スイッチが自動設定時は絞り羽根の開閉に異常が起き、シャッターボタン押し下げ後も/解除後も共に絞り羽根が完全開放に復帰しません (動きが緩慢という話ではなく完全開放に戻らないと言う意味)。

その際は絞り値の回転式ツマミを一旦開放位置まで回せば絞り羽根は完全開放して停止しますが、いちいちその操作をしないと完全開放に復帰しません (回転式のツマミを回して強制的に完全開放させるようなイメージ)。

逆にA/M切替スイッチが手動設定時は、距離環をどの距離位置まで回していても「絞り羽根は設定絞り値まで正常に開閉動作する」よう仕上げています・・つまり手動設定でお使い頂ければ絞り羽根開閉異常に巻き込まれる事はありません。この点についても当初バラす前の時点のチェックでは距離環の繰り出し位置によっては例え手動設定時でも絞り羽根の戻りが緩慢だったので (ゆっくり開いていく印象) その問題については改善できたと思います。

この件もご納得頂けない場合はご請求金額よりご納得頂ける分の金額を減額下さいませ。減額の最大値は「ご請求金額まで (つまり無償扱い)」として、大変申し訳御座いませんが当方による弁償などは対応できません・・申し訳御座いません(涙)

ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感が僅かに感じられるものの当方にて筐体外装の「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。「エイジング処理済」なのですぐに酸化/腐食/錆びが生じたりしません。

当方ではヤフオク! で流行っている「抗菌剤/除菌剤による清掃」などは絶対に実施しません。これをやると薬剤に含まれている成分の一部が金属の表層面に対して酸化/腐食/錆びを促す結果に至るので、早ければ1年、遅くとも数年でポツポツと錆が表れ始めます。

詳細は厚労省の「新型コロナウイルスの消毒・除菌方法について」が詳しく解説しています。

↑当初バラす前のチェック時点では「距離環を回していくと何回もククッと抵抗/負荷/摩擦を感じていた」次第ですが、このモデルのピントの山は「スパッと瞬時にピークを迎えてアッと言う間に越えてしまう」と言うピントの合い方なので、当初のようなトルク感では操作し辛くて仕方ありません(泣)

そこでこれでもかと言うくらいに軽くトルク調整しつつも、いつものとおり「ヌメヌメッとしたシットリ感」は維持できているので(笑)、ピントのピークでほんの僅かに掴んでいる指の腹にチカラを伝達するだけでピタッとピント合わせが適います!(笑)

・・当たり前の話ですが(笑)

↑このモデルの筐体外装は本当に微細でマットな凹凸を伴う梨地メッキ加工仕上げなので、例えば上のオーバーホール工程の途中でも溶剤で吹いた場所すら浮き上がるくらいに微細な凹凸です。「いわゆる燻し銀」として捉えても相当高品質な筐体外装のメッキ加工が施されているので、本当に素晴らしいモデルです!(涙)・・溜息が出ますね。

↑A/M切替スイッチをこのように操作すると「赤色の帯が現れて手動設定」になります。

↑反対にセットすれば今度は「黒色の帯が現れて自動設定」に変わり、これらの操作時はちゃんとクリック感を伴います。

当初バラす前のチェック時点では「無限遠位置が極僅かにアンダーインフ状態」でピント面の鋭さが足りない印象でした。オーバーホール後はキッチリ鋭いピント面に仕上げてあります。

無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。

もちろん光学系の光路長調整もキッチリ行ったので (簡易検査具によるチェックなので0.1mm単位や10倍の精度ではありません)、以下実写のとおり大変鋭いピント面を確保できました。電子検査機械を使ったチェックを期待される方は、是非ともプロのカメラ店様や修理専門会社様が手掛けたオールドレンズを手に入れて下さい当方の技術スキルは低いのでご期待には応えられません

↑当レンズによる最短撮影距離1.06m附近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。

各絞り値での「被写界深度の変化」をご確認頂く為に、ワザと故意にピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に電球部分に合わせています。決して「前ピン」で撮っているワケではありませんし、光学系光学硝子レンズの格納位置や向きを間違えたりしている結果の描写でもありません (そんな事は組み立て工程の中で当然ながら判明します/簡易検査具で確認もして います)。またフード未装着なので場合によってはフレア気味だったりします。

当初バラす前の時点からこう言う写り方をするので、このモデルの特徴なのか否かよく分かりませんが、ピント面はちゃんとヘッドライトの本当に球部分にだけしかガシッとピント合焦していません(笑)

最短撮影距離の1.06mではなく遠景で撮影するともっとシッカリした写り具合になるので、なかなかです(笑)

↑回転式絞りツマミを回して設定絞り値「f2.8」で撮影しています。

↑さらに回してf値「f4」で撮影しています。

↑f値は「f5.6」に上がっています。

↑f値「f8」になりました。

↑f値「f11」です。

↑f値「f16」での撮影です。

↑最小絞り値「f22」です。今回のオーバーホール/修理ご依頼、誠にありがとう御座いました。引き続き3本目のオーバーホール作業に移ります。